NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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綱手の判断

「さぁ……」

 

 綱手に近づく大蛇丸をジッと見つめる目。

 塀の上に降り立ったカブトの姿がそこにあった。

 

 ──お前……私を止めたいなら……今、サスケくんを殺すしかないわよ。

 

 頭の中に浮かぶのは、かつて、大蛇丸から掛けられた言葉だった。

 

 ──お前じゃ私を殺せないでしょ。強いと言ってもカカシと同じ程度じゃねェ……。

 

「……」

 

 無言で向かい合う二人を見つめるカブトもまた、無言だった。

 綱手のチャクラが両手に灯り、そして、大蛇丸の傷ついた両手に近づく。

 

 触れるまで指二本分。

 その瞬間、カブトの腕が動く。

 

 鋭く放たれたクナイだったが、流石は歴戦の猛者と言うべきか。

 綱手と大蛇丸は殺気を感じさせることもなかったクナイの投擲を避け、距離を取る。

 

 二人の間にあるのは距離。そして、無音。

 張り詰めた糸のような緊張感が場を支配する。

 

 ズキンと大蛇丸の腕に痛みがはしる。

 

「どういうことなの……ここにきて……私を裏切るなんて……」

 

 指二本分。

 あと少しで、あとほんの少しで痛みから解放されると大蛇丸は考えていた。

 

 自らの後ろに着地したカブトを振り返ることもなく、大蛇丸は血走った目を目の前のくノ一へと向ける。

 

「綱手ェ……!」

 

 苦虫を噛み潰した表情、いや、それもまだ甘い表現だ。苦汁を煮詰めて、喉奥に無理矢理、流し込まれ、その後、雑巾の絞り汁を頭から掛けられたかのような、屈辱と苦しみが大蛇丸を襲う。

 大蛇丸が浮かべる今の表情は一種の能面にも似ていた。表情が一つの感情だけで構成されているかのようだ。

 が、彼の目だけは侮蔑と怒りをない交ぜにした視線を綱手に送り続けている。

 

「どうしたら、そういう答えになるのかしら、綱手姫? 私を殺そうとするなんて……」

「……」

「ハァ……」

 

 無言を貫く綱手に埒が開かないと感じたのだろう。息を吐き、大蛇丸はカブトへ言葉を掛けた。

 

「にしても……心底、信頼するわ、カブト。お前の私に対しての忠誠と綱手の攻撃を見抜いた、その眼力をね」

「ええ……同じ医療班出身ですからね。チャクラに殺気がみなぎってました」

 

 大蛇丸は頭を振る。

 話を切り替えるためか、腕の痛みのせいで出た脂汗により額に貼り付いた髪を払うためか。

 クリアになった目線の先の綱手に、大蛇丸は失望した声をかけた。

 

「綱手。私は本当に二人を生き返らせるつもりでいたのよ。それに、木ノ葉を潰さないという約束までしたのに」

「……フフ」

 

 大蛇丸は眉をひそめる。

 苛立ちが募ってきた。が、まだ手は出さない。

 綱手の言い分を聞いてやろうという分別は、まだあった。

 

「大蛇丸。お前が里に手を出さないことがウソだってことぐらい……分かってる。分かってるのに……私は……二人に……もう一度だけでいい。もう一度でいいから会いたかった。もう一度でいいから触れたかった。もう一度でいいから……」

 

 俯く綱手の顔は隠れて見えない。

 

「笑った……あの顔を……でも……」

 

 大蛇丸は目を細める。

 綱手の今の表情は大蛇丸が目にしたことのない表情だった。

 

「本当に縄樹とダンにもうすぐ会える。そう肌で感じた瞬間に……気付いちまった」

 

 堪えきれない涙が零れている。

 だが、その顔には確かに愛があった。悲しみだけではなく、慈しむ愛がそこには在った。

 

「自分がどうしようもないバカヤローだってな……」

 

 最愛の二人の笑顔が(よぎ)る。

 

「二人の……あの顔を思い出すだけで……こんなにも目が見えなくなっちまう。大好きだった。本当に愛していたから! だから、会って、抱きしめたかった! でも、出来なかった……」

 

 最愛の二人の言葉と、そして、もう一人の漢の言葉が過る。

 

「アイツのせいで……二人の夢を思い出しちまったから……忘れようとしてたのに……!」

 

 ──火影はオレ()の……。

 

「二人の命を懸けた大切な夢。その夢が叶うことが私の想いでもあった」

 

 叶わなかった自分の願い。

 

「『形あるものはいずれ朽ちる』……お前は言ったな。でも……」

 

 ──……夢だから。

 

「やっぱり、この想いだけは……朽ちてくれないんだよ……」

 

 ハラハラと涙を流す綱手の姿を見て、心の中で大蛇丸は『下らない』と吐き捨てる。

 愛? 想い? 

 形のないものに、力のないものに何の価値がある? そんなものに世界を変えることができる? 

 そのような訳はない。唾棄すべき、蒙昧無知な感情だ。廃棄すべき、無味乾燥な感情だ。

 形ある“完璧な生命”、力がある“究極の忍術”。それが大蛇丸が求めるもの。全ての人間が求めるべきもの。

 

 それと相反する“愛”や“想い”を、何の恥じらいもなく口にする馬鹿な女に対する手段は一つだけ。

 

「交渉決裂ね。仕方ない……こうなったら力ずくでお願いするしかないわね」

 

 袖で涙を拭った綱手は大蛇丸を睨み、一足飛びに距離を詰める。

 

「!」

「!?」

 

 大蛇丸とカブトが身を翻した瞬間、綱手の踵落としが地面に当たり、大きく陥没させた。

 その破壊力は中忍試験の折りに見た、ナルトの拳の一撃と同等。何十年も現場を離れた忍が出せるような攻撃ではない。

 

 ──腐っても、三忍ね。

 

「やるわよ、カブト」

「だから言ったでしょ。良薬といっても苦い程度じゃ済まされないって」

「……来い! 大蛇丸!」

 

 +++

 

 ズガンと大砲を撃ったかのような音が響き、砂煙が立ち上がる。

 

 綱手の攻撃は破壊に特化している。

 並大抵の相手は、いや、遥か格上の相手だとしても当たれば、まず、命はない。

 

「オラァ!」

 

 綱手の拳が塀に当たり、それを弾き飛ばす。綱手の拳を中心に半径1~2mほどの穴が塀に開く。

 

「ここは距離をとって戦うには少々、窮屈です。場所を移動しましょう」

「そうね」

 

 綱手の攻撃を避け続けた大蛇丸とカブトの足元には、塀の瓦礫が散らばっている。綱手の破壊の跡だ。

 それに足を取られるようなことは、万が一にもないとは言い切れない。忍の中でも最上位に近い実力を持つ大蛇丸とカブトではあるが、今の大蛇丸の体調は(すこぶ)る悪い。

 もはや、筋肉痛で例えることなど無謀であるレベルの痛みが両腕に走り続けている状態。そして、睡眠も痛みのせいで取ることが出来ておらず、強靭な意思で意識を繋げ続けている。

 

 コンディションは最低最悪。

 一瞬の判断遅れが、即、死に繋がる状況で、足元の悪さに気を配るなどというリスクを取ってまで、ここで戦い続ける意味はなかった。

 

「待て!」

 

 一転し、城跡から去る大蛇丸とカブト。

 誘われていると理解しながらも、向かう先は蛇の巣の中だと理解しながらも、綱手は追うことを止めない。

 自分の手で仕留めなければならない。かつての班員としての責務があった。

 

「ろくでもねーお前らは、ここで潰す!」

「やってごらんなさい、綱手!」

 

 薄ら笑いを浮かべる大蛇丸に向かって、綱手は拳を繰り出すが、先ほどの焼き直しのように大蛇丸は避ける。

 

 ──チィ。見晴らしのいい場所に……。

 

 遮蔽物がほとんどない荒地に誘い込まれた。綱手にとっては不利だ。

 

 そもそも、一対二の状況は避けるのが戦闘の鉄則。敵より必ず人数有利な状況、または、策を持って有利な状況を整えた後に攻撃を行うというのが、戦闘における“機”と呼ばれるものである。

 

 五以上の味方で一の敵を攻撃する上、変形合体巨大ロボを使い有利な状況を整えるというのが分かり易い例だろう。

 

 今の綱手の状況を整理しよう。

 味方がいない。敵は大蛇丸とカブトの二人。二人とも綱手の攻撃を避け続けることができるほどの回避能力を持つ忍。

 元々、相手を嵌めるような策を弄するのが苦手な綱手だ。作戦と呼べるようなものは『ガンガン行こうぜ!』ぐらいの単純なもの。

 

 つまり、圧倒的に不利。

 先ほどの城跡であれば、遮蔽物を使い、大蛇丸とカブトを上手く分断できれば、各個撃破できていた可能性は僅かとはいえ、あった。

 

 だが、今いる荒野にあるのは正面への目隠しにしかならない岩のみ。両側から挟み込まれてしまえば、苦戦は間違いない。

 

 ──どうするか。いや……。

 

 綱手はすぅと息を吸い、拳を握りしめる。

 

「潰す!」

 

 人数不利? 作戦皆無? 

『知るか!』と言わんばかりに綱手は前に出る。戦闘IQなどいらない、力さえあればいいという考えの元、チャクラを右腕に回す。

 

 応じて、大蛇丸を庇うようにカブトは前に出る。

 彼をターゲットに定め、綱手は最上段に振りかぶった拳をカブトの頭に振り下ろした。

 

 ズドンという音と共に地面にめり込むカブトの体。しかし、綱手はすぐに後ろに振り向く。

 そこには、地面に打ち据えたカブトの姿があるハズだった。

 

 地面にはカブトの代わりに丸太がめり込んでいた。初歩の忍術、変わり身の術だ。

 

「お前……嘗めてるな」

「いえ、そのようなこと……」

 

 綱手は再びカブトに向かって接近し、拳を振るう。が、当たらない。

 

 カブトも暗部を超えるレベルの忍。

 大蛇丸からはカカシ“程度”の実力と評されているが、カカシ以上の実力の忍は、それこそ各隠れ里のトップクラスの忍、数名ほどというレベルであろう。

 

 そして、カブトはまだ発展途上。

 成長途中の忍だ。

 

 始めは大きく綱手の拳を避けていたカブトだったが、段々と綱手の拳がカブトの服を掠り始める。

 

 ──このガキ……! 

 

 ギリギリで綱手の拳を避けていく。空を切る音が何度もする。そして、カブトは柔和な笑みを浮かべたまま。

 つまりは、綱手を煽っているのだ。『あなたの攻撃なんて、ギリギリで避けることができますよ』という意思表示。

 

 ──嘗めやがって……! 

 

「ハァッ!」

 

 綱手は足を振り上げる。

 それをまたもギリギリで避けるカブトだったが、振り下ろす足はカブトを捕えていた。地面から煙が上がる。

 綱手が拳を地面に突き刺した。今まで以上に大きな破壊音が周囲に響き渡る。大きく地面を陥没させた場所から黒い影が跳び出す。傷一つないカブトの姿だった。

 

「伝説の三忍……この程度ですか?」

「あァ?」

「パワー偏重型。スピードはなく、見切り易い予備動作まで隠すこともしていない。その上、先ほどの踵落としも、ボクが地面に身を伏せるスピードよりも遅い。その時間に土遁の印を組む時間までありました」

「……」

「綱手様。あなた……判断が遅いですね」

「なんだと、コラ!」

「戦闘だけではありません。大蛇丸の腕を治すか治さないかの判断も、です」

「!?」

「そして、あなたの判断は間違っている」

「なに……を……?」

「大蛇丸様は約束を破りません。木ノ葉を襲わない。改めて、お約束します。そして、あなたの大切な二人を甦らせる。これも間違いなく、約束しましょう。そして、二人を甦らせるための生け贄を用意するのが、お嫌であれば……ボクが用意します。自来也様とナルトくんの代わりに、ね」

「なッ!?」

 

 今朝、カブトは短冊街へと大蛇丸の命で足を運んでいた。その命令は交渉に邪魔になるであろうシズネを排除すること。

 だが、そこで見たのは、体調が悪そうな様子の自来也とシズネ。そして、ボロボロのナルトの姿だった。

 三人とも満足に動ける状態ではないことに、一目見て気がついたカブトは、考えを一瞬で纏めあげた。

 

 カブトの結論。

 綱手は昨夜から今朝の時点では、生け贄として自来也とナルトを使おうとしていた。流石に、長年、連れ添った付き人よりも、昔の同期と初対面の下忍。生け贄に使わないのは、間違いなく付き人だという確信があった。

 で、あるならば、先ほどまで綱手の考えは、大蛇丸の腕を治す方に傾いていたと推測できる。そうでなくては、自来也に薬を盛る意味などない。大蛇丸を排除するために、万全の状態の自来也と共闘すれば、いいだけの話だからだ。

 

「話を戻しましょう。生け贄は簡単には用意できません。ですので、綱手様。アジトに来ていただけますか? そして、あなたは大蛇丸様の腕を治す。それだけでいい。それだけで、あなたは木ノ葉も、そして、会いたい二人も手に入れることができる。どうです? 悪い条件ではないでしょう? あなたにとっては、いい条件しかないハズ」

「……」

「ああ、そういえば先ほどの『判断が間違っている』というボクの発言は間違いでした。ボクらから更にいい条件を引き出そうとしたのですね? 全てが解りました。綱手様、完敗です。どうやら、ボクは早とちりをしていたようです。綱手様の掌の上で踊らされていたとは。流石は大蛇丸様と同じ伝説の三忍の紅一点。医療忍術の第一人者」

「なにが……言いたい?」

 

 カブトは光を反射した眼鏡の奥でスッと目を細める。

 

「綱手様。大蛇丸様の腕の処置を、どうかお願いします。後は全てボクがあなたにとって、最善になるよう動きます」

「……」

「綱手様」

「……」

「二人が待っていらっしゃいますよ」

 

 カブトの言葉で綱手の目が大きく開かれた。

 

「そう……だな……」

 

 小さく頷いた綱手に向かってカブトは微笑む。

 それは決して、親愛の情を出した訳ではない。自分の思い通りに事が運んだことに対する愉悦の笑みだ。

 

 カブトの目的は大蛇丸の腕を綱手に直させること。

 そのための交渉の筋が切れていないことは綱手の様子からして明らか。二人を甦らせることを諦めたように見せていた綱手だが、心の奥底では望んでいる。諦めきれていない。

 ならば、心理的ブレーキである木ノ葉の安全と、知り合いを生け贄として使うという二項目を取り払えばいいとカブトは考えた。

 

 幸いなことに、穢土転生の復活に用いる生け贄は四肢が欠損していたとしても呪符により補填され、対象の生前の姿を完璧に再現することができる。

 すなわち、新術の開発で使い物にならなくなった実験体でも、生きてさえいれば生け贄として利用は可能。そして、そのような実験体はアジトにごまんといる。

 さらに、そのことを理由に綱手をアジトに連れていけば、結界術のエキスパートである音隠れ四人衆を使い、結界術・封印術による監禁も可能。

 

 とにもかくにも、綱手をアジトに連れてこなければ始まらない。

 そのための交渉だ。

 

「二人が待っている」

「ええ」

「なら、私が逝った時に……二人に顔向けできるようにお前たちを潰さなくちゃいけない」

「……そう来ましたか」

 

 舌打ちをするカブトに向かって、綱手は猛然と走り寄る。

 溜め息をついたカブトは目を伏せるが、それは一瞬のこと。顔を上げたカブトの目には、何の色も映していなかった。

 

 今のカブトはただの刃。大蛇丸の懐刀だ。

 

 すでに言葉による交渉は終わった。そうであるならば、ここからは力による交渉。

 こちらとあちらの立場を明確にし、そして、こちらの言い分を押し通すこと。

 

「らァ!」

 

 自らに向かって繰り出される綱手の拳を、先ほどと同じように軽々と避けたカブトは、軽く綱手の腕に触れ、距離を取った。

 

()ッ!」

 

 瞬間、綱手の腕に激痛が走る。

 

 ──こいつ……筋肉を……。

 

「上腕二頭筋を少しばかり切断しました。これで、アナタの右腕は使い物にならない」

「……チャクラの解剖刀(メス)か。なぜ、動脈を狙わない?」

「たしかに、この解剖刀(メス)なら外傷なく、体の中の血管や筋肉を切断できますが、戦闘中じゃあ、動脈や心筋まで届くような長く繊細なチャクラ解剖刀(メス)は、さすがに作れませんから」

 

 笑みを浮かべたカブトは綱手までの距離を詰めるために駆け出す。

 

「まあ、それでも相手の首を狙えば全然、問題ないんですがね!」

 

 迫るカブト。

 綱手は動き難い右腕を犠牲に、人体の急所である首を守ることを選択した。

 

 だが、綱手の考えはお見通しだと言わんばかりに、カブトはチャクラ解剖刀(メス)を纏わせた右手を綱手の胸に差し入れる。

 

「ぐっ!」

 

 思わず、地面に膝をつく綱手を嘲笑いながら、カブトは見下ろす。

 

 ──コイツ……並みの医療忍者じゃない。術のセンスと切れ味は私の全盛期すら越える……。

 

「アナタには、まだ死なれたら困りますからね。首は狙いませんよ。けれど、これでもうアナタは動けません」

 

 カブトを見上げ、睨み付ける綱手の脳裏に一週間前の記憶が過った。

 

『こいつ……うずまきナルトは四代目火影以上のものを持っておる』

『なんだ?』

 

 ダンッと地面を打ち鳴らす音が荒地に響く。

 チャクラを体中に流していたにも関わらず、ミシリと肋骨が軋んだ音が骨伝導でカブトの脳に伝わる。

 吹き飛ぶ体を認識した。そして、背中に衝撃。

 自分が地面に横たわっているのだと、カブトが気がついた。

 

「クソガキ! よく覚えておきな! 筋肉だけの下忍に負ける“三忍”じゃないんだよ!」

「そうですか。……ナルトくんですね?」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら、カブトはクナイを取り出す。

 

 ボクが切ったのは右の上腕二頭筋だけ。足も、左手も動かないようにはしていない。先ほどの攻撃は単純に左手でボクを殴っただけですね。ですが、ボクはそのことも見越して、チャクラを体の隅々に流し込んでいた。チャクラで身体能力の底上げを施したにも関わらず、これほどのダメージなのは見込みが甘かったと言うほかないですね。さらに、声が出ていることから、すでに先ほどの攻撃で切断した肋間筋の治療も終わっている、と。流石は伝説の三忍の一角。そして……。

 

 カブトの目が血走る。

 

 ……ナルトくん。君が綱手様にも影響を与えていたのは、予想外でした。

 

「アンタ、血が怖いんだろ! 今から見せてやるよ! 死なない程度にアンタの血を撒き散らす!」

 

 早く終わらせなければ、と意識が急く。

 ナルトの影響により、綱手が恋人と弟への想いを絶ち切り、未来に目を向けるようになってしまったとカブトは見切った。それは自分たちにとって都合の悪いこと。

 もう、時間はない。そう考えたからこその強行手段だ。裂傷を負わせ、失血させ、とにもかくにも、意識を奪う。

 

 クナイを綱手に向かって振り上げるカブト。

 

「!?」

 

 が、目の前が煙に妨げられる。

 

「伝うは涙、伝えるは絆。想いを伝える弾丸走者」

 

 そして、朗々と声が響く。

 

「高みを目指し、なりふり構わず。夢追う己に地図は不要」

「うぇろろろ」

(まなこ)を開け! 真を知れ! 失うものがあろうとも、歩き続けるが己が先!」

「うっぷ……」

「全てを巻き込み、高みに連れていく! 倒れ伏し、涙に塗れようが! 貴殿は立てる!」

「うぇええ」

「さあ、手を掴め! 傍にいる者を忘れることなかれ!」

 

 煙が段々と晴れていく中、四つの影がカブトと大蛇丸の目に映る。

 一つは大きく、二つは蹲り、一つはどうやら口に手を当てている。

 

「貴殿の傍には己が! うずまきナルトが傍にいる!」


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