NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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熱い想いで燃える山風

 どっどど どどうど どどうどどどう

 

「ナル……ト……?」

 

 青い風が吹き飛ばす。

 

 どっどど どどうど どどうどどどう

 

「なん……で……」

 

 酸っぱい敗北を吹き飛ばす。

 

 どっどど どどうど どどうどどどう

 

「サスケ、貴殿の光が己をここに導いた。礼を言う」

 

 限界だった。

 サスケの膝が地面に突く。サスケの前に近づいた漢は片膝を突き、目線をサスケに合わせた。

 

「そして、謝罪を。貴殿の闘いに割って入ってしまった。済まぬ、サスケ」

 

 ──ナルトだ。

 

 安堵からサスケは大きく息を吐いた。

 やおら、立ち上がり、サスケが命掛けで守ったサクラに向かって手を伸ばすナルトを見て、自分の知っている漢であると確信したからだ。

 

「ふんッ!」

「!?」

 

 一息にサクラを拘束していた砂の手を剥ぎ取ったナルトの姿に驚愕している我愛羅。彼の前に砂の手を投げたナルトの体からは赤いチャクラが立ち上っていた。

 それは波の国での再不斬との戦いで見せたものと同一のもの。そして、中忍試験で見た我愛羅の砂の殻から覗く視線と似た感覚を(もたら)(おぞ)ましきもの。

 

 強く、猛々しく、そして、冷たい。

 サスケの前でナルトが見せたことのない力だ。

 

 だが、その力の冷たさとは裏腹に、砂から解放したサクラを優しく抱き止めるナルトの所作はサスケがよく知っているナルトのものだった。だからこそ、サスケは安心した。安心してしまっていた。

 

 そのことに気づき、サスケは唇を噛み締める。

 

「ナルト! サクラを連れて逃げろ! こいつはオレが止める!」

 

 精一杯の虚勢。

 足止めも今の自分では何秒持つか分からない。

 それでも。それでも、サスケはナルトに逃げるように叫んだ。その理由は至極単純なもの。

 

 愛だ。

 

 過去、一族全てを失ったサスケにとって、新たに得ることができた掛け替えのない絆。それが、自分が所属している第七班。木ノ葉の同期であるシカマルたちが所属する第十班、シノたちが所属する第八班。一つ年上のリーたち。

 皆、サスケが失いたくないものだ。

 

 そして、最も大切な絆。

 それが、サクラ、カカシ、そして、ナルト。

 

 守らなければという意思。それだけが先行する。自分が犠牲になっても構わない。むしろ、自分が犠牲となり、仲間を守れるのならば、喜んでこの身を差し出すだろう。

 

 だが、ナルトは首を横に振る。

 

「ナルト!」

「サスケよ」

 

 ゆっくりと諭すようにナルトは言葉を紡ぐ。

 

「己は誓ったのだ」

「誓い……?」

 

 ナルトは首を縦に振り、サスケにぐったりとしたサクラを抱えさせた。

 

「我愛羅は必ず己が救う、と。そう誓ったのだ」

 

 ゆっくりと、ゆっくりとサスケの心にナルトの言葉が沁みていく。

 

 ──こいつは敵までも……。

 

 ふっとサスケの表情が軽くなった。

 

「……ナルト」

「うむ」

「サクラは任せろ。その代わり……」

 

 立ち上がり、我愛羅と向き直るナルトの背に向かってサスケは言葉を掛ける。

 

「……あいつを救え」

「無論!」

 

 熱く、爽やかな風が吹いた。秋の訪れを知らせるような、だが、夏の暑さを忘れさせないような、そのような風が。

 

 大きく足を踏み出すナルト。

 

「カンクロウ!」

「……え? オレ?」

 

 突如、ナルトに声を掛けられたカンクロウは困惑の色を浮かべる。

 

「然り。貴殿もテマリを連れ、すぐにこの場から離れよ。ここより先は己と我愛羅だけが好ましい」

「……」

「我愛羅は己に任せろ」

 

 カンクロウは口を噤む。

 ややあって、意を決したカンクロウは一つ、頷いた。

 

「頼む」

 

 筋違いの願い。他里の、それに、下忍の敵に願うようなことではない。本来ならば、砂隠れの里の、兄である自分が願われるのが筋。

 一抹の悔しさを抑え、カンクロウは頭を下げた。

 

 だが、この漢ならば、きっと……。

 

 そう思わせるほどの言葉にならない力がナルトの言葉にはあった。

 

 抱えたテマリと共にこの場を離脱したカンクロウに頷いたナルトは更に歩を進める。

 

「我愛羅よ」

「ッ!」

 

 名前を呼ばれたことに反応した我愛羅の様子は人に慣れない野性動物の如し。それも人間に傷つけられた野性動物のようだった。

 だが、その野性動物は獰猛だ。

 

 牙を剥き出し、ナルトを威嚇する。

 

「貴殿の全て。己はそれを己の全てを以て受け止めよう」

 

 そうして、ナルトは大きく息を吸い込んだ。

 

「来い! そして、征くぞ! 我愛羅!」

 

 風が吹いた。

 それが闘いの合図だった。

 

 我愛羅が右腕をナルトに向けると、その腕の形が変わった。

 殺傷能力を高めた何本もの砂のトゲがナルトに襲いかかる。それを迎え撃つナルトは両手を腰だめに構える。

 

「うずまきナルト連弾」

 

 静かに、されど、はっきりとナルトが呟くと、砂のトゲが霧散した。

 

「!?」

 

 我愛羅の驚愕はいかほどか。

 チャクラを練り込み、強度を上げた砂のトゲは鉄と同等。それを事も無げに拳で打ち払われた。

 

 ──人間風情が。

 

「ガアァアアア!」

 

 怒りのままに、さらに砂のトゲをナルトに向かって繰り出すが、暖簾に腕押し。何百発もの拳戟が全てを無為に帰せさせる。

 

「ハッ!」

 

 ナルトの大喝と共に、我愛羅が出した砂は全て払われた。

 そして、ナルトのハムストリングが唸りを上げる。

 

「くっ!?」

 

 この短い間にどれほどの驚愕をこの大男は自分に与えるというのか? 

 

 まばたきの間に距離を詰められた。そして、目の前にいる大男は既に攻撃体勢に移行している。

 だが、我愛羅もさるもの。瞬時に迎撃のために左手の砂爪を敵に向ける。

 

 が。

 

「う!」

 

 爪が、砂で作った左腕が破壊された。

 ならば、と右腕を振るう。

 一歩、後退させられた。

 

「ず!」

 

 右腕も、砂の強度を高めた右腕も破壊された。

 また、一歩、後退させられた。

 

「ま!」

 

 防げない。

 腹に大男の右の拳が入った。くの字に曲げてしまった体。体の先にある頭を差し出すような無様な格好。

 さらに、一歩、大きく後退させられた。

 

「き!」

 

 頭に大男の左の拳が入る。

 頭を覆う狸の顔を模した砂が弾け飛んだ。地面に叩きつけられる。

 

「ナルトォ!」

 

 地面をバウンドしながらも、我愛羅はなんとか防御体勢を取る。体を守るため、クロスさせた両腕に大男の右の拳が振るわれた。

 猛烈な勢いで後方へと弾き飛ばされる。

 

「連弾!」

 

 飛ばされる中、気がついた尻尾。それで大男の左の拳を防ごうとしたが、先の砂のトゲと同様、無駄となった。

 大男の拳は砂の尻尾を簡単に圧し折った。

 もう……もう何も、何も防ぐものはない。

 

「琉!」

 

 大男は今までとは違う動きをした。

 右手を我愛羅の額に、左手を我愛羅の鳩尾(みぞおち)に狙いを向けた後、左足で地面に踏み込む。その勢いのまま繰り出された両の拳は防がれることなく、我愛羅に吸い込まれるように当たった。

 

 再度、後方に吹き飛ばされる我愛羅。そして、大男が踏み込んだせいで彼の左足を中心に地面が大きく陥没する。

 受け身も取れぬまま地に落下し、されど、勢いを殺せず地面に溝を作る我愛羅を前に、大男──ナルト──は残心していた。

 

 うずまきナルト連弾・琉。

 中忍試験でザジより名付けられた超連打、うずまきナルト連弾。それを更に発展させ、一撃の重さを重視した流れるような七連撃が“うずまきナルト連弾・琉”だ。

 

 連撃で飛ばされた我愛羅の砂が太陽の光をキラキラと反射して白く光る。

 その白い光の中のナルトの軌跡は、龍を想起させる。両腕を突き出し、残心したままのナルトは、なるほど、龍の(あぎと)と見ることができるだろう。

 

 風の龍が砂の狸を噛み砕いた。

 勝敗は決したかに見えた。

 

 地に横たわる我愛羅の心臓がドクンと強く拍動する。

 怒りが燃え上がる。頭痛は消えた。怒りで痛みが塗りつぶされた。

 

「む!?」

 

 チャクラが、強大なチャクラが小さな体から吹き出る。砂体が真の体を作り上げていく。

 

「オォォオオオオオォオオオ!」

 

 真昼の月に吠える。

 眩い太陽を握り潰す。

 

 大地を纏うバケモノは声を荒げる。

 

 太古より恐れられる砂狸のバケモノが現出した。

 それは巨大であった。山と見間違えるほどの巨躯を揺らし、完全なバケモノの体となった我愛羅は天高くから眼下に視線を遣る。

 

「終わりだ! うずまきナルトォ!」

 

 宣言。

 

「貴様の! 貴様が大切に思っている全ての者を!」

 

 それは虐殺宣言だ。

 

 我儘に。

 愛のままに。

 修羅のままに。

 感情の赴くままに、我愛羅は叫ぶ。

 

「殺し尽くしてやる!」

 

 +++

 

 何枚もの手裏剣が宙を舞い、互いに当たり、甲高い音色を奏でる。

 一枚の手裏剣が増え、相手に襲いかかる手裏剣影分身の術だ。双方向より放たれたその術は互いに拮抗している。両者ともに実力は伯仲しているように見える。

 だが、一方はまだ余裕があるらしい。

 

「万蛇羅の陣」

 

 口から吐き出した何十匹もの蛇。それが小柄な老人に一斉に襲いかかる。噛み付き、締め付け、命を奪おうとする蛇の絨毯。

 

「火遁 火龍炎弾!」

 

 業火が蛇たちを焼き尽くす。しかし、それだけでは終わらない。

 数多の蛇を繰り出した術者にも炎は襲いかかる。が、その術者は超常の者。

 

「水遁 水陣壁」

 

 先の戦い。二代目火影が繰り出した術と全く同じ術。水場がない場所では水遁の術の効果は薄くなる。だが、その常識を嘲笑うかのように超常の術者は事も無げに業火を防いでみせた。

 

「あら……弱くなったんじゃないかしら? ねぇ、猿飛先生……?」

 

 ねっとりと纏わりつくような声色を出すのは、先ほど繰り出した蛇を思い起こさせる顔つきをした忍。大蛇丸だ。

 

「それは貴様もじゃろう? 大蛇丸」

「あらあら……」

 

 飄々とした態度を崩さない大蛇丸をキッと睨み付けるは三代目火影、猿飛ヒルゼン。並みのものならば、寿命が幾分か縮むであろう彼の一睨みを大蛇丸は真っ向から受け流す。

 

「互いに歳を取った。かつてほどのキレはないようじゃのう」

「それは違うわ。これは小手調べ。アナタがどれほど弱くなったのか確かめるための、ね」

「言いよるわ」

「言いたくもなるわ。なぜなら……」

 

 やおら、大蛇丸は右手を自身の額に当てる。

 

「私は“あの術”を完成させたのだから」

「貴様ッ!?」

 

 大蛇丸はおもむろに、べろりと顔の皮を剥いだ。

 そこにあったのは綺麗な顔。かつての大蛇丸とは似ても似つかない女の顔だった。娘などではない。姪などではない。血縁関係が全く感じ取れないほどに大蛇丸とは違う顔。だが、その人間が醸す雰囲気、そして、チャクラはかつての大蛇丸と同じく冷たく邪悪なもの。

 視覚では違う。が、第六感では目の前の人物が大蛇丸だと告げていた。

 そして、大蛇丸が言う“あの術”に三代目は心当たりがあった。

 

「禁術 不屍転生。他者の体に私の精神を入れて体を頂く術よ。木ノ葉を抜けた時は完成していなかったこの術も、私の探求によって完全な術となった。アナタに理解できるかしら?」

「……そのために何人を犠牲にした? 答えよ! 大蛇丸!」

「ふふ。言ったでしょ? この術は完全な術になった、と。この体で二人目ですよ、猿飛先生ェ……」

「違う!」

 

 大蛇丸は眉を潜める。

 三代目が何故、自分の言葉の何を否定したのか心底、理解できないという顔だ。

 

「貴様がその術を完成させるために、何人の人間を実験体として使い潰したのか聞いておるのだ!」

「さぁ? そもそも、そんな意味のない数字、数える意味がありますか?」

 

 三代目と大蛇丸の戦いを邪魔しないように離れた場所で見る再不斬と白の目線が冷たくなった。

 

「外道が」

「屑ですね」

 

 後ろの二人の言葉を聞き流し、大蛇丸は肩を竦める。

 

「とはいえ、実験体たちには感謝してますよ。我が野望の礎になった彼らには賛辞の言葉を聞かせてあげたいほどにね」

 

 どこまでも上から目線、どこまでも傲慢。

 名前どころか顔も、そして、その人数も知らないと語りながらの感謝など、どのような意味があろうか? 

 

「私は常に、若く力強く、そして、永遠に存在できる。それに比べ、アナタはただ老いて死んでいくだけ。弱くなり、やがて、木から落ちるしかない猿のようなアナタには私の崇高な術理は理解できない。だから……里を危機に陥れて死んでいくのですよ、先生。そのことを理解させるためにも……」

 

 大蛇丸は剥がした皮を元のように戻す。

 

「……やはり、この顔の方がいいですよねェ」

「もういい……」

 

 三代目は親指を噛む。

 

「口寄せの術!」

 

 白い煙がもうもうと立った。

 そこから現れたのは森の支配者。大柄で派手な戦装束に身を包んだ猿だった。

 三代目火影が信を置く口寄せ生物、猿猴王・猿魔だ。現役の頃より数多くの闘いをヒルゼンと共に戦ってきた相棒である。

 猿魔は大蛇丸を一瞥した後、ヒルゼンを叱咤する。

 

「やはりこうなったか。猿飛! お前のせいだぞ!」

「……分かっておる」

 

 猿魔の叱咤が効いたのだろう。ヒルゼンは声を落とした。

 

「やはり……あの日に貴様を殺しておくべきじゃった」

「できなかったことを今さら言っても無駄よ」

「あの日、できなかったことをこれからやり遂げる。力を貸せ、猿魔!」

 

 ボンッと猿魔が白い煙に包まれる。

 

「ククク……。今さら金剛如意ですか。思いの外、重いのでは?」

「……」

 

 大蛇丸の言葉は当たっていた。

 現役の頃と比べ、猿魔が変化した丸太のように太い棒──金剛如意──に重さを感じる。いささか取り回しに不便さを感じるであろうことは容易に想像できた。

 

 だが、それは引く理由にはならない。

 口から鈍い光を放つ磨き込まれた刀を取り出した大蛇丸を前に、現役の頃とは違うという理由は引く理由にはならない。

 

 彼は三代目“火影”、猿飛ヒルゼン。

 木ノ葉隠れの里、最高の忍である火影なのだ。そして、悪に墜ちてしまった、いや、元々あった悪の素養を()めることができなかった大蛇丸の師なのだから、引くことなどは重ねてできはしない。

 

 ダンッと瓦から音を立て、大蛇丸に向かって走るヒルゼン。

 遅い。実に遅い。自分の体に歯噛みをしながら、金剛如意を大蛇丸に向かって振るう。

 

 それは、予定調和の如く、実に容易く大蛇丸の振るう刀──草薙の剣──によって振り払われた。

 思わず体勢を崩してしまうヒルゼンに向かって大蛇丸は袈裟懸けで草薙の剣を振るう。が、金剛如意がさらに変化し、端から飛び出た猿魔の腕がヒルゼンの足元の屋根瓦を弾いた。そのままの勢いで、再度、金剛如意を振るう。

 大蛇丸と言えども、此度の攻撃は避けきれず、金剛如意の攻撃を腰に喰らう。そして、大蛇丸の腰が別たれた。

 

「!?」

 

 驚くのはまだ早いと言わんばかりに、大蛇丸の常軌を逸した攻撃は続く。別たれた上半身と下半身。その中から何匹もの蛇がヒルゼンに向かって飛び出し、彼を襲う。

 バックステップで回避したヒルゼンだったが、視線を蛇たちに向けてしまっていた。それを見逃す大蛇丸ではない。

 

 蛇を使った変わり身の術でヒルゼンの注意を引いている間に、跳躍していた大蛇丸は上からヒルゼンに向かって刀を振り下ろす。

 タイミングは完璧。

 

 大蛇丸の唇が弧を描く。

 

 指二本。それだけで、届かない。

 

 ヒルゼンが行ったことは、真剣白刃取りと同じ。それを両手ではなく、指二本で行っただけのこと。

 指とそれを支える筋肉にだけにチャクラを注ぎ込むことで、消費するチャクラを限りなく節約した。

 最小のコストで最大の効果を発揮させたヒルゼンに大蛇丸は感心する。

 

 現役時代ほどのチャクラはない。

 それを経験で敵の動きを予期し、最小の動きで彼の動きを止めることでカバーする。年の功のなせる技だ。

 

 ──面白いじゃない。

 

 腕に力を込め、草薙の剣を無理矢理、引き戻した大蛇丸は幾度も刀を振るう。それをヒルゼンは金剛如意で幾度も防ぐ。

 

 両者ともに引かず、何合も打ち合う。

 ただただ打ち合う。

 

 だが、何事にも終わりが来るもの。

 ヒルゼンの腕が少し、ほんの少し、下がった。

 やはり現役時代とは違う。両者共にそう考える。

 

 ──好機! 

 

 チャクラを最大に籠め、大蛇丸は逆袈裟懸けに草薙の剣を振り上げる。

 金剛如意で草薙の剣を防いだものの、万歳の形に腕を持ち上げられたヒルゼンには、次いで繰り出された大蛇丸の蹴りを防ぐ手段はなかった。

 

「ぐはッ!」

 

 何枚もの瓦を壊しながら屋根を転がるヒルゼンに大蛇丸は冷たい目を向ける。

 

「終わりよ、アナタも。そして、この里も」

「……終わるものか」

「何がよ」

 

 苛つきを隠さないまま、大蛇丸は膝を突くヒルゼンに向かって言葉を吐き捨てる。

 思っていた以上に弱くなっていた、かつての師の姿。思っていた以上に変わらない、かつての師の考え。

 それが大蛇丸の癇に障った。

 

「今を見なさい! アナタは私に負ける。そして、アナタを失えば、この里も……!」

「終わらぬ」

「だから!」

「終わらぬよ、大蛇丸。ワシは死ぬ訳にはいかぬ。仮にワシが死んだとて、ワシの意思……火の意思を継ぐ者らが、この里を守る」

 

 ヒルゼンはゆっくりと立ち上がる。

 

「それに、の。お主は最後まで分からぬようじゃったから、改めて教えよう」

 

 ヒルゼンは視線を大蛇丸から下の戦場へと移す。

 

「行け、ザジ! 奴の飛び道具はオレが何とかする!」

「はい!」

「……面倒ですね」

 

 そこにはカブトを相手に奮闘するザジ、そして、彼をサポートしているゲンマの姿があった。

 

「やるじゃないの、ガイ」

「当たり前だ! カカシよ。オレは25人倒したぞ」

「そ。オレは26人」

「何ッ!?」

 

 カブトの術で眠りに落ちてしまっていた観客たちを守るカカシとガイの姿があった。

 

「紅、行くぞ」

「アスマ。背中は任せたわ」

 

 砂の忍と戦うアスマと紅の姿があった。

 

「ヒナタ! 後ろだ!」

「え?」

 

 目の前の敵に注意を向けていたヒナタに別方向から迫る音の忍のクナイ。

 

「ヒナタ様!」

「ネジ兄さん!?」

 

 クナイを構え、ヒナタの前に飛び出したネジがヒナタに向かって放たれたクナイを弾く。

 

 中忍試験での傷を手当てした後の包帯姿が痛々しいネジ。チャクラもほとんど回復していない状態だ。

 外の騒ぎを聞きつけ、すぐに病室を飛び出したのだろう。忍としての身分証を兼ねる額当てすら着けていない。

 

「大切なものを守る……」

 

 だが、それがどうしたと言わんばかりにネジは胸を張る。

 

「そのために、この呪印を刻んだ。その“心”が! オレにはある!」

 

 ──そうだろう? ナルト。

 

「ヒナタ様に手は出させん!」

 

 チャクラが少なく、白眼が使えなくともネジは前に出る。

 その声を聞きつけたのか、会場にいたネジの班員も駆けつけた。

 

「ネジ! 無事だったんですね! ……すみません、ボクは……」

「リー……」

「しゃきっとする!」

 

 ギプスで固められた自身の左腕と左足に目を落としたリーの背中をテンテンが叩いた。

 

「今は私たちに任せなさい。その代わり、未来では私たちを守ってよね、リー」

「テンテン……。はい! もちろんです!」

 

 笑顔を浮かべたリーは一歩下がる。

 

「リー。今のオレはチャクラを使いきっている。白眼も使えない。オレが敵を見逃した時、お前が教えてくれ」

「はい! わかりました!」

 

 ネジたちの様子を見たキバは頷き、前に出る。

 

「おし! それじゃ、敵さんたちに見せてやろうぜ。木ノ葉の忍の力をよォ!」

 

 ところ変わって森の中。

 

「部分倍化の術!」

「斬空破!」

 

 巨大になった手と空気砲。

 

「手裏剣影分身!」

「起爆花!」

 

 何枚にも増えた手裏剣とクナイに着けた起爆札。

 

「いの! チョウジ! フォーメーションAだ!」

「ザク、9時方向に行け! キンはそのまま迎撃!」

 

 そして、頭脳と頭脳。

 

 お互いの持てる札を使う第十班と音忍三人衆。

 実力は拮抗している。互いに一歩も引かない。シカマルたちが先ほど倒した音忍たちと比べ、この三人の下忍は連携がとれており、それを崩す方法はシカマルの頭脳と言えど、導き出すことは難しい。その上、中忍試験でチャクラを大量に使ったため、自分の術はここぞという時にしか使えない。

 そして、第十班に敵対するドスもまた、シカマルと同じように中忍試験でのサクラとの闘いでチャクラは使ってしまっている。音を使う忍術はもう使えないものの、まだ彼には優れた聴覚がある。それを十全に扱い、一手先の状況を読むことで第十班の猛攻から何とか凌いでいる状態だ。

 

 だが。

 

「今だ! ザク!」

「斬空極破」

 

 ──もう負けられない。

 

 強い意思が彼を、彼らを突き動かす。

 

「チョウジ、いの」

「まだまだァ!」

「へばってんじゃないわよ! 二人とも!」

 

 音忍三人衆の熱い想いは第十班にも伝播した。

 

 そして、その熱い想いは余人が持つものだ。

 

「八卦掌 回天!」

「心乱身の術!」

「影縫いの術」

「超張り手!」

「通牙!」

 

 森の中もそう。そして、里の中もそう。

 熱い想いを持って、互いを守り合う多くの木ノ葉の忍の姿が里の中にはあった。

 その頂点に立つ忍が、その想いを持たないなど有り得るだろうか? そのようなことは断じてない。

 

 視線を再び大蛇丸へと向けた三代目火影は強い眼差しで彼を見つめる。

 

「木ノ葉の忍は……」

 

 三代目火影の視線の奥、その先の先のさらに先。

 我愛羅の虐殺宣言を聞いたナルトもまた強い眼差しを我愛羅に向けていた。

 

「己の友は……」

 

 三代目火影の、火影を目指す少年の。

 

『強い!』

 

 別々の場所、別々の立場の漢たちの言葉は同じであった。




今回出てきた、うずまきナルト連弾・琉という技なのですが、仮面ライダービルドのエピソード21ハザードは止まらない で出てきたビルドとクローズの戦闘シーンを参考にしています。イチオシのエピソードなので、未視聴の方には見て頂くのがオススメです。ヤベーイ

ちなみに、さらなる発展系として、うずまきナルト連弾・廻も第二部終盤で登場予定です。
こちらの技は相手を6回殴って上空に殴り飛ばした後、空を渦状に飛びながら相手の上に移動した後、相手を殴り付けて地面に叩きつけるという技になります。

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