NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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語られることのない戦い

 森の中、木の枝を蹴って進むサクラとシカマル、そして、パックンは出来うる限りの全速力でサスケを追っていた。

 最悪の結末から逃れるためにも、一刻も早くサスケと合流し、そして、この森から退避しなければならないとシカマルは考えていたが、サスケのスピードは想定以上。中々、追い付かない。

 

 最悪の結末。

 我愛羅たち砂の忍たちと音の忍の追跡による挟撃。それが最悪だとシカマルは考えていた。

 チャクラが切れかけている自分とサクラ、そして、戦力にならないと自ら語っていたパックン。サスケと合流できたとしても、最低でも砂の一小隊と音の一小隊、合わせて二小隊を相手取るには非常に厳しい状態だ。

 

「む!?」

「どうしたの?」

 

 パックンの焦った声にサクラが反応する。

 大方、自分の最悪の予想があたったのだろうとシカマルは頭を振る。

 

「追っ手じゃ。……ひぃ、ふぅ、みぃ……マズいぞ! 14人の匂いがする!」

「14!?」

 

 最悪の結末がやってきた。それも予想したよりも遥かに悪く、だ。

 ふぅと溜め息を吐いて空を見上げる。

 こんなハズではなかった。

 

 テキトーに忍者やってテキトーに稼いで、美人でもブスでもない普通の女と結婚して、子供は二人。最初が女の子で、次が男の子。

 そんで、ナルトが火影になるのを応援する。

 それがシカマルの夢だった。

 

 まだ下忍になって間もない時に、このように危険な任務を言い渡されるとは思ってもみなかった。その上、直属の班長(アスマ)ではなく別の班の班長(カカシ)に。

 

 ついてねーな。けど、まァ……。

 

 空を見つめるシカマルの目に高く旋回している鳥の姿が映る。

 力が抜けたようにシカマルは立ち止まる。

 

「シカマル?」

「先に行け」

「でも!」

「いいから。サスケが耳を貸しそーなのはオレよりも同じ班のお前だ、サクラ」

「けど!」

「それに、オレの方が足止めは合ってる。上手くやるよ」

 

 シカマルはサクラに背を向ける。

 

「それでも!」

「任せろって。オレも一応、木ノ葉の忍だ。仲間は守る。守り合うのが木ノ葉流だ」

「……」

「サスケは任せた」

「……うん! シカマル、武運を!」

「お前もな、サクラ」

 

 シカマルに頷いたサクラはパックンを伴って、森の奥に駆けていく。

 気配が遠ざかっていくのを感じながらシカマルは木の枝を数本、折っていく。

 

 が、もう無駄だと理解したのだろう。枝を投げ捨てる。

 

「犬の足跡を作って騙そうとしたけど……はえーな、アンタら」

 

 ザンッとシカマルの前に姿を現したのは8人の忍。音符の意匠を凝らした額当てを輝かせた音の忍たちだ。

 

「随分と悪知恵が働くガキだ。だが、この人数差。どうしようもないだろう?」

「そいつぁどうかな?」

「見栄っ張りな奴だ。我々は中忍試験も見ている。貴様のチャクラが底を尽きかけているのも分かっている。無駄な時間稼ぎはよせ」

「そりゃ、参ったな」

「大人しくしていろ。我々とて鬼ではない。大人しくしていたら、痛みもなくあの世に送ってやる」

「んー、それはなぁ……」

「それは?」

 

 シカマルは膝を曲げ、屈伸運動をする。それを見て、音の忍は嗤う。

 

「言わなかったか? 我々は貴様の中忍試験を見ていた。我々に影真似の術をかけて柔軟体操をさせようとしているのだろうが、既に我らは貴様の術のスピードを見切っている。我ら相手に影真似の術を掛けることができたとしても、捕まえられるのはせいぜい一人。貴様がその一人と柔軟体操をしている間に我らの内の7人が……」

「8人だろ? フォーマンセル、二小隊に予備人員として一人の合計9人がお前らの正確な人数だ」

「……そうか、犬か。追う我らの人数を匂いで正確に把握したという訳だな。下忍とはいえ、流石は大国、火の国、木ノ葉隠れの里。貴様はここで殺しておかねば、後々、厄介なことになりそうだ」

「鬼になってでも、か?」

「ああ。鬼ではないと言った先ほどの発言を翻すようで悪いが……貴様はここで必ず殺す!」

「んじゃ、鬼ごっこスタートだ」

「は?」

 

 タンッと軽く木を蹴り、音の忍たちの頭上を越えたシカマルは着地しながら前方に転がり、すぐに立ち上がり走り出す。パルクールでいうロールという技術だ。

 見事なものだなと思う音の忍だったが、すぐにシカマルの意図に気がついた。

 

「逃げるなや!」

「テメェエエエ!」

「待ちやがれ!」

「ざっけんな!」

「クソボケがァ!」

「かえせ! もどせ! この腐れ儒者が!」

「逃げるな卑怯者! 逃げるなァ!」

「今と明日からは逃げんじゃねぇよ!」

「……オレの登場シーン(魅せ場)を潰すな!」

 

 声の限りに叫ぶ音の忍たち。

 怒濤の勢いでシカマルを追うが、シカマルは速かった。しかし、音の忍たちもさるもの。大蛇丸にしごかれ、命を繋いだ者たちだ。徐々にではあるが、その距離を縮めていく。その距離、50、40、30、20……そこでシカマルは足を止めた。

 

 ──諦めたか。

 

 音の忍は覆面の下で唇を歪ませる。

 クナイを取り出し、一息にシカマルの喉を掻き切ろうと地面を大きく蹴る。

 

「アンタらにも教えてやるよ」

 

 シカマルがゆっくりと振り向いた。

 

「木ノ葉の忍は守り合うもんだってことをよ」

「なッ!?」

「肉弾戦車!」

 

 9人纏めて吹き飛ばされた。

 何かが、何か大きなモノがシカマルの後ろから現れ、吹き飛ばされた。シカマルを追うことで一列に並んでしまっており、トップスピードに乗っていた音の忍たちに、その巨大な何かを避ける術はなかった。

 

「やっぱお前らはサイコーだぜ。チョウジ、いの」

「でしょ?」

「全く……心配したんだから」

 

 心転身の術で鳥に憑依し、上空からシカマルを見つけたいの。それに気づき、味方のもとへ走りながら敵を引き付けたシカマル。それを一網打尽にする突破力を持ったチョウジ。

 

 隊は組んでいてもチームワークを発揮できていなかった音の忍たち。そして、バラバラになっていようとも、少ない情報から戦術を組み立て、チームワークを発揮したシカマルたち。それが勝負の明暗を分けた。

 

 互いに守り合うこと。それが木ノ葉隠れの里の流儀だ。

 

「まあ、次はこう上手くはいかねーか」

「うん」

「そうね」

 

 勝って兜の緒を締め直す第十班の面々。

 彼らの前に三人の音の忍が追い付いた。

 

「よお……」

「死の森での続きになりますね」

「もう油断はしない」

 

 一月前よりも洗練されている。

 そのことが一目で分かった。だが、それはこちらも同じこと。

 

「改めて名乗ってやる。音隠れ下忍……ザク・アブミ」

「右に同じ。ドス・キヌタ」

「キン・ツチ」

 

 応じる。

 

「木ノ葉隠れ下忍、奈良シカマル」

「秋道チョウジ」

「紅一点、山中いの」

 

 全員が一斉に大きく息を吸い込んだ。

 

『行くぞ!』

 

 音が木の葉を揺らし、木の葉が音を遮る。

 他と比べ、大勢を決する戦いではない。三代目火影と大蛇丸の戦いに比べれば、児戯に等しい戦いだ。

 しかしながら、この戦いには熱がある。

 

 汚名を灌ぐための戦い。横槍を入れられ決着をつけることができなかった戦いの続き。そして、何より守るための戦いだ。

 

 自身の名誉を守る。仲間の安全を守る。

 ともすれば、一方が下に見られることもあるが、それは違う。

 どちらも守ることができなかった場合、自身のプライドが壊れる。プライドが壊れた場合、行き着く先は泥濘だ。這い上がろうとも、体に纏わりつき、決して落ちることのない染みとなる。

 

 引くことなどしたくない。引くことなどできはしない。

 だからこそ、戦うのだ。

 

 語られることのない戦いが始まった。


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