「忍たる者、基本は気配を消し隠れるべし」
辺りを見渡したカカシは一つ頷く。
カカシの合図と共に、彼が受け持つ予定の部下候補たちは、それぞれ身を隠すべくカカシから刹那の内に離れた。
隠れ潜み、カカシが隙を見せた瞬間、彼に襲い掛かる算段なのだろう。それは忍者学校で習う忍の基本だ。
「で、なんで、お前は隠れないのかな。ナルト?」
「このような機会を己は心待ちにしていた……いざ、尋常に勝負!」
「あのさァ、お前、ちっとズレとるのォ……」
格上の
彼は静かに闘志を燃やしながらカカシを見つめた。
「己は自らを今日まで鍛え上げてきた自負がある。この闘いは己の力を測るためには絶好の機会。カカシ先生、真剣に闘いをしようではないか」
随分と嘗められたな。
カカシは呆れたようにナルトを半眼で見る。下忍程度の修行がなんだというのだ。確かに筋肉は子どもとは思えないほどに凄い。が、鍛えた肉体、それだけでオレの実力を測れると思われるのは心外だ。
ほんの僅かな間、カカシの感情は苛立ちに揺れた。しかし、彼は上忍の中でも随一の実力を持つ者。かつて、暗部という里の優秀な忍のみを集めた部隊長を勤めていた彼は動じた心を一瞬で平静へと戻す。
いつものように感情を非常に悟り難い目付きをしたカカシは腰のポーチへと左手を忍ばせる。
「忍戦術の心得その一、体術……を教えてやる」
カカシがポーチから取り出したものを見たナルトは困惑に包まれた。
「どうした? 早くかかって来いって」
動かないナルトに首を傾げるカカシ。
思わず、ナルトは唇を噛み締める。
「カカシ先生。己と闘おうとする時に、何故そのような物を取り出すのか聞いてもよろしいか?」
ナルトが指し示した物はカカシの左手に開かれた一冊の本だった。
「なんでって……本の続きが気になってたからだよ。別に気にすんな。お前らとじゃ本読んでても関係ないからな」
そう言って、カカシは取り出した愛読書、“イチャイチャパラダイス 中巻”に目線を落とす。
完全にナルトを挑発する態度。
それは、カカシとしては完璧にナルトの実力を見切った上での行動だった。数々の任務で他里の忍との戦闘、そして、隊長として自里の忍を率いてきた経験。その経験に裏打ちされた自分の人を見る目は優れている。その目が、イチャイチャパラダイスを読んでいたとしても、ナルトに勝てると答えを出していた。
オレは下忍程度には負けないよ。
そう……カカシは今日、この時まで、心の底より思っていた。
「無礼を承知で言わせて頂く」
「ッ!?」
本へと目線を落としていながらも、カカシは警戒を緩めていなかった。正確には、彼は常人が警戒しているということができるレベルで周りの様子を常日頃から確認している。それが、上忍、そして、暗部を生き抜いた勇名を他国にまで響かせる忍の所作だ。
そして、本に目を向けている今も彼は常と同じように自らの周りに気を配っていた。
視覚でナルトの姿を捉えることが出来ずとも、彼には優れた聴覚、そして、特筆すべき嗅覚がある。忍犬使いのカカシの嗅覚は、自らの鼻にチャクラを注ぎ入れることで周りの景色を正確に判断することができる。それこそ、視覚で捉えると同様に。
つまり、本を取り出したカカシの狙いは、自ら大きな隙を見せることで考えなしに挑んできたナルトにカウンターをするというもの。そして、彼はカウンターの準備として、いつでも攻撃ができるように体全体にチャクラを漲らせていた。
「己はカカシ先生と全力で闘いたい。本を読むのは止めて頂きたい」
見ていた本に差していた太陽の光が陰る。カカシはあり得ない出来事に言葉を失った。
──何故だ。
その言葉で頭の中が一杯になったカカシは致命的な隙を作っていた。しかし、彼はその隙を突くこともなく、カカシが手に持つ本に手を伸ばし、それを閉じさせた。
何故、ナルトがオレの目の前にいる?
顔をゆっくりと上げるカカシ。あり得ないこと、何かの間違いだと心の中で自分に言い聞かせるカカシであったが、現実は彼の考えを遥かに超えるものだった。
カカシは自らの前に立つ人物を見上げる。
日の光を遮るようにして立つはナルト。
先ほどまでカカシの前方8mに立っていたハズのナルトだ。術を使った形跡も何かしらのトリックを使った形跡も全くない。
目を大きく開いたカカシを見下ろしながらナルトは口を開く。
「己を認め、勝負して欲しい」
鈴を取ることもなく、オレに攻撃を加えることもなく、ただ立っていたのは闘いたいという闘争本能に従った結果か。
ナルトのあり得ない所作に納得がいったカカシはナルトから距離を取るべく数歩、後ろに下がる。イチャイチャパラダイスをポーチの中へと戻したカカシは真剣な表情を作る。
「ナルト、忍者学校で忍組手は習った?」
左手の人差し指と中指を立て、片手に印を作り出したカカシは構えてナルトに印を見せる。
“対立の印”。
今、カカシが組んでいる印はそう呼ばれる。両手印で術を発動する所作の半分を相手に示すことで、これから闘うという意志を示す。
『無論』とカカシに返したナルトはカカシと同じように右手で対立の印を組む。
お互いに準備は整った。
瞬間、空気が変わった。
彼らの闘気が針となって肌に刺さるような感覚。藪の中から演習場の広場を覗き窺うサスケは思わず、生唾を飲み込んだ。
「うずまきナルト……推して参るッ!」
自らに喝を入れたナルトは足を大きく踏み出す。と、ナルトの姿が掻き消えた。
──前ッ!
ナルトが動くと同時にカカシもまた動いていた。
自らに迫るナルトの丸太のような右腕、それをカカシはチャクラで強化した左の掌で押してナルトの拳の軌道を変えると共に、自らの体を左方向へと動かした。
ナルトの拳は虚しく宙を切る。だが、自らの攻撃が空振ったというのにも関わらず、ナルトは犬歯を見せつけるような笑みを浮かべていた。
タンッと地面を蹴り、ナルトとの距離を取ったカカシはナルトを注意深く観察する。
予想していたとはいえ、オレがなんとか捉えきれるほどの速さ……大した奴だ。
並の上忍はもちろん、オレと同程度の力を持つ忍でも油断している時ならば対応はできないだろう。
ナルトの実力を測り直したカカシは自らの左目に意識を向ける。
──使うか?
カカシは心の中で自らの頭を過った疑問を拒否した。“左目”を使うのは下忍相手に大人気ない。その上、自ら『体術……を教えてやる』と語っていた。それにも関わらず、体術に含まれない技術を使うことは先ほどの自らの発言を翻すようでカカシは忌避感があった。
──どうするか?
奇しくも、カカシの考えた言葉とナルトが考えた言葉は同じものだった。
ナルトは動きが止まったカカシを注意深く観察する。一見、隙があるように見えるカカシの所作。だらんと両腕を下し、体からは力が抜けている。
だが、それは自分を謀るためのフェイクだとナルトは勘付いていた。
カカシから放たれている闘気は対立の印を向け合った時から変わらず濃密なまま。無策で出れば、一瞬で勝負は決まるだろう。
己の敗北という結果で。
だがしかし、己にはこれしかない。
ナルトは拳を固める。攻めて攻めて攻めること、これこそ至上。漢の生き様、闘い方だ。
そして、ナルトは考えることを止めた。
ナルトは膝を曲げ下腿三頭筋、
人体の全ての筋肉の中で、最も力強い筋肉。それが、大腿四頭筋だ。そして、ナルトの大腿四頭筋は常人のそれよりも遥かに強靭だ。
盛り上がる太腿は樹齢千年を超える古木の如し。ナルトが着ている服がいくらストレッチ性に優れた素材と言えども、彼の大腿四頭筋の盛り上がりで限界まで引き伸ばされている。今まさに張り裂けんばかりに悲鳴を上げているオレンジ色のストレッチパンツ。繊維が伸ばされ、切れていく音が断続的に続く。
頭を上げたナルトは前に立つカカシはキッと見つめる。
ナルトは下半身の服の声を意に介さず、ただ前を、立ち塞がる壁を、カカシを眼光鋭く見つめた。
──倒す。
シンプルな答えしか今のナルトは持ち得ていなかったのだ。
瞬間、ミチミチと耳障りな音が止んだ。
大腿四頭筋が収縮し、ナルトの膝が伸びた。
それと共に、ナルトの眼前の景色が歪む。視界は一点に狭まり、その注視点の周りは円状にボヤけ、後ろへと伸びていく。
高速で移動して歪む視界の中、カカシの姿は鮮明にナルトの目に映っていた。
一足飛びでカカシへと近づいたナルトは先ほどの焼き直しのように右腕の拳をカカシに向かって振るう。だが、それは当たらない。空を切った自らの拳を見たナルトは再び笑みを浮かべる。
前回浮かべた笑みは難敵に対峙する興奮から浮かべた笑み。だが、今回浮かべた笑みは自らの術中に難敵が嵌ったことから浮かべた笑みだ。
僅かな時間も許さず、ナルトは伸びた右腕を渾身の力で引く。目にも止まらぬ速さで引かれたことで右の拳から生まれたエネルギーはナルトの筋肉を伝播し、やがて、左腕へと力を伝える。体の流れるエネルギーに身を任せ、ナルトは左手に予め作っていた拳が前方へと出ることを感じていた。
「クッ!?」
ナルトがカカシに繰り出した攻撃はただの正拳突き。それを途轍もない速さで繰り出しただけのこと。
シンプルに速さを追い求めた拳。シンプル故に、そこには知恵が介在する余地はなく、繰り出された後に対処することは不可能だった。
──勝ったッ!
今度こそ捉えた。
ナルトが自分の勝利を確信した、その瞬間、カカシの腹にナルトの左の拳が突き刺さる。だが、結果はナルトの予想を遥かに超えたものだった。
「なッ!?」
──手応えがない。
ナルトは慄く。
脳内の記憶領域を浚って出てきた記憶と、今、殴りつけた物の記憶が合致する。
木だ。修行用として殴り続けている木と同じ感触だ。
そこで、ナルトは気が付いた。
変わり身の術。攻撃が自分に当たる瞬間、動物や植物と体を入れ替える忍術。相手に攻撃を受けたかのように錯覚させ、その隙を突く術だ。
変わり身の術により噴出した白煙の中、ナルトはカカシを探すが既にカカシの姿は目に見える範囲にはなかった。
文字通り煙に包まれたまま、ナルトは周りの気配を探るがカカシは見つからない。
それもそのはず、暗部に務めて暗殺などを実行してきたカカシは隠遁術に優れている。いくらナルトの勘が優れていようが、本気で気配を消したカカシの姿を捉えることはできない。
焦るナルトは忙しなく目線を周囲へと向けた。林、いない。木の上、いない。川、いない。岩陰、いない。
思いつく限り探してみるが、カカシの尻尾は捉えることはできない。
ここで、話は少し変わるが、何事に置いても当人たちより部外者の方がよく見えるもの。俯瞰的な視点で見れば、カカシの姿は容易に捉えることができる。
茂みから演習場の広場を見つめるは翡翠色。
カカシを見つけたサクラの目が大きく開かれた。
──あの手の構えって“虎の印”!?
「ナルトーッ! 早く逃げて! 死ぬわよ!」
思わず、サクラはあらん限りの声を絞り出す。隠れていた茂みの中から自分の姿が晒されるというにも関わらずに。
彼女が自ら見つかる可能性が高い愚を犯してまで、声を上げた理由。
サクラが危惧するのはカカシが使う“忍術”だ。それは火、風、雷、土、水の五大属性に大きく分別される。その忍術を使うために必要なのが“印”だ。いくつかの印を引き金に、そして、適量のチャクラを弾丸として放つ忍術は、そのほとんどが攻撃のために使われる。
そして、その威力は刀や槍で行う攻撃の比ではない。
岩を砕き、地を割り、林を切り刻む。卓越した忍が扱う忍術は個人に対して使うには過ぎた代物となる。下手をすれば、塵一つ残さないほどの威力だ。
そして、カカシは今、ナルトの後ろ、しかも足元という反撃をするには難しい位置に陣取っていた。前と横を見て、後ろや下を見なかったのはナルトの戦闘経験の薄さが原因だ。対忍の戦闘経験があれば、上忍であるカカシが己の死角から攻撃を加えることを予想することができ、最終的にはカカシの姿を見つけられた可能性もあった。
だが、全ては後の祭り。
準備を完全に終えたカカシの指は虎の印を組んでいた。それは火をコントロールして攻撃に転化する火遁のための印。例外はあるものの、火遁の術のほとんどは虎の印で終わるために、サクラはカカシが今から放とうとしているのは火遁だと考えた。
当たったら、まず、間違いなく死んじゃう。だから、逃げてナルト!
サクラの祈りは届かなかった。
「む?」
「遅い」
やっと、自分の後ろにカカシがいることに気が付いたナルトにカカシは引導を渡すべく動き始めた。
カカシの右目がギランと怪しく光る。次いで、ギュオオオとカカシの指が風を切る音がした。
「木ノ葉隠れ 秘伝体術奥義 千年殺しッ!?」
両手の人差し指と中指を合わせ、その他の指を交差させる虎の印。その手の形のまま、曲げた膝を伸ばすことで千年殺しは完成する。体をバネとして使い、相手の
とどのつまり、物凄いカンチョーである。
確かに、体を鍛えているナルトとはいえ、喰らえば唯では済まない。直腸から内臓へと駆け抜ける衝撃は想像を絶するほどの痛みだろう。
だが、カカシの動きが止まった。人差し指の第一関節まで入った所で、カカシの動きが止まったのだ。本来なら、人差し指の奥まで挿入した後で相手を空中に突き飛ばすことで完成する千年殺し。
これはつまり、失敗だ。
「お前……一体、どうやって?」
「己は全ての筋肉を鍛え上げている。外肛門括約筋もまた然り!」
肛門括約筋を鍛えた所で使い道ないじゃん。
ナルトの発言に白目を向くカカシ。肛門括約筋は鍛えた方が色々な面で確実にいいのだが、こと戦闘には使わない。使うとしても千年殺し封じのみというニッチな使い方だ。
全身の筋肉を一部の隙もなく鍛えるというナルトの生活が千年殺しを封じた。
塞翁が馬の出来事ではあるが、結果としてはナルトに闘いの流れが変わったのだ。
肛門括約筋を締め上げることでカカシの指を己の菊門から抜けなくした上で反撃をする。ナルトの勝利は目前だった。
カカシに攻撃を加えようとして、ナルトはふと気が付いた。
──動けぬ。
肛門括約筋を締める際、それまでに積んできたトレーニングの動きが思わず出てしまっていた。
トレーニングは肛門を2秒ほどの間隔で強く締め付ける運動を続けることと、肛門を締め付ける動きを10秒から15秒ほどし続けることを交互に行う。
そして、肛門を締め付ける動きを長く行っている方が問題となる。この時、動きがなく詰まらないと感じていたナルトはダブルバイセプスのポーズを鏡の前で取り、体の筋肉と同時に肛門括約筋にも力を入れることと、脱力することを繰り返していた。
残念ながら、ナルトは今、この癖が出てしまっていた。
ダブルバイセプス、両腕を曲げた状態で上に上げているポーズだ。そのポーズをしながら、全身に力を入れて動かないナルトの菊門にカカシの指が挿入されている。
「ウスラトンカチが2人……フン」
動かないナルトのダブルバイセプスと動かないカカシの指の挿入。
それを木の上から見ながら、サスケは心底軽蔑したように吐き捨てた。
サスケの見立てとは違い、ナルトとカカシは水面下で熾烈な争いをしている。
全身に力を入れることでカカシの指の侵入を防ぐナルトと、指に力を籠めてナルトの菊門に指を侵入させようとするカカシ。
──引けば、負ける。
二人には確信があった。
ナルトは力を抜けば千年殺しを喰らう羽目になり、カカシは指を引いて体勢を立て直そうとした瞬間にナルトからの攻撃を喰らう羽目になる。絶対に負けられない闘いが、確かにそこにあった。
だが、このまま膠着状態が続くのは、両人とも望むことではない。
先に動いたのは、やはりと言うべきか、忍としての経験が豊富なカカシだった。
ナルトの菊門から指を抜き、後ろへ地面を蹴ったカカシは己へと猛然と襲い掛かるナルトの姿を目に映した。それは一瞬か永遠か。狂った時間感覚の中、カカシは笑うのだった。
ナルトの背筋に冷たいものが奔る。だが、進むしかない。何か企んでいようとも、己の拳で打ち砕くのみ。
引かぬ気持ちがナルトの拳を前へと進ませる。だが、その拳はカカシの鼻先を掠ることが限界だった。
ナルトの視界が反転する。
天地が逆となった視界の中、ナルトは自らの体に起こった出来事を把握した。
「不覚」
木に宙吊りにされている。
自らの両足に縄が絡みつき、捕縛している様子を見てナルトは目の前に立つカカシへと話し掛けた。
「まだだ」
「ホントに? 忍具はこっちだけど?」
いつの間に、取り外したのだろうか? カカシはナルトがいつも腰に付けている忍具を入れるポーチを彼が手の届かない場所に置く。
まだ、手刀で縄を切ることはできない。刃物がなければ、この吊るされた状態のままだろう。
「己の負けだ」
ナルトは素直に負けを認める。次いで、彼は疑問を口にした。
「カカシ先生。いつの間に罠を仕掛けたか聞かせて貰ってもよろしいか?」
「膝を曲げた一瞬、オレから目を離しただろ?」
「まさか……」
「そ! 仕掛けたのは、その時だ」
カカシは肩を竦める。と、一転して真面目な顔付きとなったカカシはナルトを見つめた。
「忍者は裏の裏を読め。正直に行動すると、それを逆手に取られるぞ」
「……善処する」
「あんま分かってなさそーだね、こりゃ」
正直はコイツの美徳だけど、忍としてはダメだな。
結論を出したカカシは吊り下げられているナルトに指を立てた左手を差し出す。
「ほら、和解の印」
「承知」
木に逆さ吊りにされているナルトへと伸ばした左手は闘いを始める前に組んだ対立の印と同一のものだ。カカシが組んだ片手印を見て、ナルトもまた右手の人差し指と中指を立てる。
対立の印を構えた忍同士が、その印、つまり、立てた人差し指と中指を絡ませることで和解の印は完成する。これにより、闘いの作法は終了するのだ。
対立の印で忍組手を初め、和解の印で忍組手を終わらせる。この一連の流れで仲間であることを示し遺憾をなくす。これが木ノ葉の里に長年受け継がれてきた伝統だ。
和解の印を解いたカカシはナルトに背を向けて歩き出す。
──危いな。
敵と正々堂々とぶつかり合う。それは、実に立派なことと言えるが、こと、忍に関しては致命的だ。上へと上がれば上がるほど、暗殺などの世に悟られてはならない任務が増える。正面から堂々と暗殺するような者がどこにいるというのか?
また、不用意に顔を晒すことは狙われることに繋がる。強い忍の肉体は研究材料として、喉から手が出るほどに欲しい輩がいるのが忍界だ。大抵、そのような者はタガが外れており、手段を選ばずに外道とも言える行為をすることがほとんどだ。
そのような輩に狙われ、賞金を懸けられるとすると
しかし、今はそれに思考を割く暇はない、か。
ナルトの他にも自分が受け持つ予定、あくまでも予定だが、の下忍は他に二人いる。彼らを見極めなければならない。
カカシは目線を前の林へと向けると、一瞬で姿を消すのだった。
+++
「表情が優れてないけど、お腹空いてるんじゃない?」
12時。
制限時間となり、カカシから鈴を奪うことができなかった下忍の三人、ナルト、サスケ、サクラは丸太の前に集められていた。ナルトは朝食としてスムージーを取っていたが、サスケとサクラはカカシの言う通りに朝食を抜いて来ている。
腹が減るのも仕方のないことだろう。
「ところで、この演習についてだが……」
話を本題に戻したカカシは一息置いて言葉を繋げる。
「……ま! お前らは忍者学校に戻る必要もないな」
「つまり……合格?」
サクラの問いにカカシは笑顔を浮かべる。それを見て、サクラもまた笑顔を浮かべた。
まだカカシが答えを口に出していないにも関わらず、サクラは自らの合格を信じ切っていたのだ。
「そう、三人とも……忍者を辞めろ!」
無情の宣告。
それは三人を完全に拒絶したカカシの言葉だった。