NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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さあ、次へ

 チョウジは怒っていた。

 その怒りの矛先は自分。何もできなかった自分だ。

 

「では、最終第十回戦。両者、前へお願いします!」

 

 彼の前に立つのは音隠れのドス。因縁は第二の試験で出会った死の森でのこと。チョウジと同じ里のサクラを三人がかりでドスたち音隠れの三人の忍が追い込んでいたことだ。

 それだけならば、チョウジが自分を責める必要はない。忍の世界は弱肉強食。強きが弱きを喰らうのは自然の摂理にも似た現象だ。そして、チョウジはそのことを人並み以上に理解していた。サクラが倒されたという話を後から聞いたのならば、チョウジはそれも仕方ない、けど、悲しいことだと項垂れたが、怒りを持つことはなかっただろう。

 

 しかし、今、チョウジが怒りを覚えているのは、サクラが音隠れの三人に追い詰められている現場を一番に発見したのが自分だという事実だ。

 

 ──情けない。

 

 もちろん、他人は言うだろう。『君は悪くない』と。

 もちろん、同じ班のシカマルは言うだろう。『お前の判断は正しかった』と。

 もちろん、同じ班のいのは言うだろう。『アンタが呼んでくれたからサクラを助けることができた』と。

 

 もちろん、サクラは言うだろう。『助けてくれて、ありがとう』と。

 

 ──違う!

 

 結果として、サクラを助けられた。だが、それは問題にはならない。チョウジの心に鋭い針として刺さるのは自分への嫌悪。自分の理想とは逆方向だった自分の本質。

 彼の理想を体現した存在が自分の立場だったならば、血を流すサクラを見た瞬間、彼女の元に駆けつけて敵を一瞬にして屠ったであろう。

 

 だが、自分が一番初めに行ったのは、周りに意見を仰ぐというもの。

 あの時、満身創痍のサクラを隣にいたシカマルといのの二人よりも早く見つけたチョウジは、まず初めに二人を呼んだ。本来ならば、非道な行いを見つけた瞬間、飛び出すのが筋だというのに。

 自己の保身。責任逃れ。

 それは呪いのように彼を責め続ける。苛み続ける。

 

 そのことは、彼の大事な思い出さえも汚すものであった。

 

 ///

 

 忍者学校(アカデミー)生の時分だ。

 ある時、シカマルとナルトが喧嘩をした。その発端は筋肉トレーニングの仕方の議論だ。シカマルは効率的なトレーニングが重要だと説いた。しかし、ナルトは限界を超えるトレーニングをするべきだと言って譲らない。

 初めは二人とも冷静に意見を交わしていたのだが、白熱する議論は冷静さを二人から奪い去った。喧々諤々と議論。このままでは二人が袂を別つことにもなりかねないと感じたチョウジは懐から取り出したポテトチップスを差し出す。

 その様子にナルトとシカマルは口を噤んだ。それほどまでに、チョウジが自らの菓子を他人に渡すということが考えられないことなのだ。

 二人が目を丸くしている中、チョウジは震えた声を絞り出す。

 

「もう、うすしお味しかないけど……これで仲直りできないっていうならボクはもう知らないよ!」

「貴殿は優しいな、チョウジ。それは貴殿の美徳だ。己も貴殿を見習わなくてはならぬな。しかし、ポテトチップスは……いや、済まぬ。貴殿の心配りだ。ありがたく頂こう」

 

 ──貴殿は優しいな──

 

 その言葉はチョウジの心を温かくした。

 

 ///

 

 その言葉は誇りだった。

 常に前を歩くヒーローのような存在から、自分は優れていると認められたのだ。だが、どうだ? 今の自分は彼に顔向けできるか? いや、できない。自分は小心者だ、臆病者だ。決して、優しい訳じゃない。

 現実を突きつけられたチョウジは、そのような自分を覆さなくてはならないと心に決めていた。正々堂々、闘ってこびり付いた汚れを落とし誇りを取り戻す。

 

 ──だからこそ、闘わなくてはならない。

 

 それがチョウジの闘う理由であった。

 

 対して、チョウジの前に立つドスは冷たい雰囲気を醸し出していた。例えるのなら、周り全てを傷つけるジャックナイフという所か。しかし、その冷酷さは、さらしに巻かれたかのように隠されている。

 今、ドスが思うのは自分たちの長である“彼”の言。

 

『でも、あんな必死な姿を見たら気が変わったわ。頑張りなさい』

 

 ──元より……そのつもりです。

 

 そして、“彼”に自分の力を認めさせる。それがドスの目的だ。

 事実、“彼”はドスの班員たちを認めている。自分の限界を超えたザクとキン。結果だけを見れば、確かに敗北。しかし、それは次に繋がる敗北だ。彼らは復帰した後、すぐに修行に打ち込むだろう。敗れたザクとキンの力を出し切り、どこか満足げに医務室へと運ばれていった顔を見れば、それは明らかだ。

 

 だが、自分はそれで満足できるか?

 答えは否。あくまで、ドスが目指すのは完全無欠の勝利。徹底的且つ完全無敵な勝利だ。伝聞でしか知りえなかったが、そこで聞いた“彼”の戦い方がドスの理想だ。相手を完膚なきまでに叩きのめし、戦場で立つ“彼”には伝説と謳われる“彼”の班員ですら並び立てなかったと聞く。

 その話を聞いたドスは“彼”を冷酷なカリスマと感じたのだ。そして、“彼”の指示通りに中忍試験でうちはサスケを襲撃したら、先回りしていた“彼”がサスケに呪印を付けた後だった。なるほど、冷酷だ。

 部下である自分たちを噛ませ犬にしてサスケの力を計る。そこに人らしい感情は一切なかった。実験動物を観察する研究者の視点だ。なるほど、冷酷だ。

 ならば、とドスは包帯の奥で歯をきつく噛み締める。

 

 ──犬は犬なりに吠えてみせましょう……大蛇丸様。

 

 “彼”へと心の中で呟いたドスは意識を前に戻す。そこにいるのはチョウジだ。

 双方とも、ヒリヒリと肌を焼くような雰囲気を発していた。

 

 心構えはできたのだろう。

 そう判断した試験官、ハヤテは右手を上げる。説明は既に終えた。電光掲示板に両者の名が表示された時点で、名前が表示されることがなかった薬師カブトが繰り上がりで本線へと出場する旨を伝えたハヤテには説明することは、現時点では一つもない。

 果たすべき役割としては、この試合を見守ることのみ。

 

「では、第十回戦開始です!」

 

 右手を振り下ろしたハヤテにいち早く答えたのはチョウジだ。

 素早く印を組んだチョウジはチャクラを全身に回す。

 

「倍加の術!」

 

 チョウジの体が膨れ上がった。彼が使った術は『忍法 倍加の術』。彼が属する秋道一族固有の秘伝忍術だ。その術の効果は単純明快。チャクラにより自身の体格を大きくするというもの。

 荒事を嫌う傾向のある者が多い秋道一族に、このような戦闘向きの術を授ける天の采配は冷たく映るかもしれない。しかし、逆にこう考えることもできるだろう。不要な力を使わないと信ずることができる秋道一族にこそ、天は力を与えたのだと。

 

 そして、チョウジは秋道一族の次期当主でもある。一族を体現した存在だ。なればこそ、彼の振るう力が強力なことも頷ける。秋道一族は自分のためではなく、友を守る時にこそ、その力が発揮されるのだから。

 (サクラ)を傷つけた(音の忍)(ナルト)との思い出を汚した(自分)

 どちらも倒すためにチョウジが選んだのは最も残酷な方法だった。

 

「肉弾戦車!」

 

 その方法とは特攻である。

 自らの身の安全を省みずに敵を押しつぶす。チョウジが使った肉弾戦車という技は、そのような業を背負っていた。

 肥大した体を回転させ、敵へと巨大な岩石のように転がる肉弾戦車。

 

 自分へと向かってくる回転するチョウジの体を見てドスは目を細める。

 

 手裏剣の投擲。回転に阻まれて弾かれることが予想される。

 音波での攻撃。耳は肥大した体に埋まっており、音は届かないと予想される。

 体術での迎撃。不可能。瞬時に潰されるのがオチだ。

 

 打つ手がないとは、このことだとドスは嗤う。しかし、その嗤いは勝負を諦めた者が浮かべるようなものではなかった。

 

 タンッとドスは地面を蹴り、空中へと舞い上がる。回転を続けるチョウジをギリギリまで引き付けたドスは軽やかに地面に降り立ち、チョウジへと向かう。次の瞬間、ドスンという音と共にチョウジが壁へと突き刺さった。

 その隙を逃すドスではない。彼には勝利への道筋が見えていた。

 

 ドスは音波を放つ小手を付けた右腕をチョウジの体へと減り込ませた。

 

「耳栓してるからムダだよ」

「イヤ……終わりだよ」

 

 ドスは小手を左の人差し指で弾く。小手により増幅された音波は反響し、甲高い音を立ててチョウジの体へと伝播する。その音はドスのチャクラにより統制され、チョウジの鼓膜へと伝わった。

 

「うわあああ!」

 

 倍加の術が解かれたチョウジの体が白煙を上げる。煙が流された後には元のサイズに戻ったチョウジが残されていた。

 

 人体の70%以上は“音”を伝導する水分で構成されている。つまり、肉の壁に衝撃音を伝える事くらい容易なんですよ。一番厄介なキミの回転さえ止まれば、鼓膜の大体の位置は狙えるしね……。

 

 そう言葉を頭の中で文章化したドスは……再び飛び上がった。

 

「思っていた通りだ」

 

 それまで、ドスが居た場所を巨大な拳が通り過ぎる様子を上から眺めながらドスは嗤う。拳の上に左足で着地しながら、ドスは右足を大きく後ろに引いた。

 

「せめてもの情けです」

 

 それだけ言うと、ドスは目の前の相手の顔面へと蹴りを繰り出した。それは阻まれることなく、チョウジの顔に吸い込まれるようにして入った。

 今度こそ沈黙するチョウジの体。それを見て試験官であるハヤテが声を上げた。

 

「勝者! ドス・キヌタ!」

 

 地面に横たわるチョウジを見下ろしながら、ドスは心の中で独白する。

 

 ──木ノ葉のくノ一を見ていなければ、油断したボクはキミにやられていただろうね。

 

 木ノ葉の忍が持つガッツをドスは警戒していた。普通なら諦めるような攻撃を受けて尚、立ち上がり立ち向かってきた少女、サクラを見ていたドスは対戦者である少年もまた、半端な攻撃では立ち上がってくることを予想していた。

 そうであるならば、半端な攻撃──それでも勝利を十分狙える威力ではあるが──をした後、立ち上がってきた相手へ本命の攻撃を与えるというもの。そもそも、音により平衡感覚を一時的に失わされた状態だ。そこへ頭部の衝撃が加わることで、立ち上がれない状態になることをドスはこれまでの経験から理解していた。

 

 二人の明暗を分けたのは情報。相手の情報を知り、自分の情報を知り、そして、情報に沿って戦い方を組み上げていく。気力や体力だけでは埋められない差が、そこには確かにあったのだ。

 

 +++

 

「えー。では、これにて“第三の試験”予選……全て終わります!」

 

 “木ノ葉”うちはサスケ。

 “木ノ葉”油女シノ。

 “砂”カンクロウ。

 “木ノ葉”春野サクラ。

 “砂”テマリ。

 “木ノ葉”奈良シカマル。

 “木ノ葉”うずまきナルト。

 “木ノ葉”日向ネジ。

 “砂”我愛羅。

 “音”ドス・キヌタ。

 “木ノ葉”薬師カブト。

 

 中忍選抜試験、本選出場者が出揃った。

 三代目火影の前に並ぶ11人の下忍たち。彼らを眺め、三代目は頼もしそうに笑顔を浮かべる。

 

「えー。では火影様……どうぞ」

「うむ。では、これから……“本選”の説明を始める」

 

 三代目は大きく口を開けた。

 

「以前も話したように、本選は諸君の戦いを皆の前で晒すことになる。各々は各国の代表戦力として、それぞれの力を遺憾なく発揮し見せつけて欲しい。よって、本選は一か月後に開始される!」

「む?」

「これは相応の準備期間という奴じゃ」

「つまり……どういうことだ?」

「つまりじゃ……各国の大名や忍頭に“予選”の終了を告げると共に“本選”への招集をかけるための準備期間。そして、これは……お前たち受験生のための準備期間でもある」

「……鍛えるための時間、か」

「うむ、その通りじゃ。予選で知り得た敵の情報を分析し、勝算をつけるための期間。これまでの戦いは実戦さながら、“見えない敵”と戦う事を想定して行われてきた」

 

 ナルトへと頷いた三代目だったが、すぐに視線を他の受験者たちへと向けた。

 

「しかし、“本選”はそうではない。宿敵(ライバル)たちの目の前で全てを明かしてしまった者もおるだろう。相対的な強者と当たり、傷付き過ぎた者もおるじゃろうて」

 

 三代目の目線がサスケの首筋に一瞬だけ向けられた。しかし、すぐになんともなかったかのように言葉を続ける。

 

「公正公平を期すため、一か月間は各々、更に精進し励むが良い。もちろん、体を休めるも良し!」

 

 懐からパイプを取り出した三代目は、それに火をつけると煙を吐き出した。

 

「と、ここでワシからの説明は以上じゃ。では、ここからの説明は“本選”解説者にしてもらう。……来るのじゃ」

 

 三代目の声にどこからともなく影が現れ出る。三代目の傍に控えた忍はまだ年若い。ナルトたちとそう変わらない歳である風貌だ。しかし、彼は木ノ葉の中忍以上しか着用を認められていないベストを身に着けている。

 おそらく、本選の試験官か、それに準ずる者だろうと受験者たちは一様に現れた忍に視線を注ぐ。

 ややあって、三代目が重々しく口を開いた。

 

「紹介しよう。ザジじゃ」

「いぇえええええええい! ご紹介に預かりました中忍(エリート)ザジです! よろしくぅううううう!」

 

 ──また濃っゆい人が出てきたわね。

 

 サクラの何とも言えない表情を尻目にザジと呼ばれた忍は声を張り上げる。

 

「オレはザジ! ここ最近で一番の出世株のザジだ! 歳は15! 彼女は現在募集中! 本選での君たちの戦い振りを観客に分かり易くするために解説するから、よろしくな! ああ、心配するな。君たちのことはずっと確認していた。ついでに言うと、君らの担当上忍たちにも頭を下げて君たちのプロフィールを教えてもらったから、君たちについての情報は結構知っている。だから、本選の解説はすっげーいい感じになるから安心しろ」

「ザジよ」

「しかし、いいね。君ら、無茶苦茶いい。第一回戦のサスケェ! 一発でヨロイを沈めたパンチ、最高だぜ! 第二回戦のシノォ! ザクに決めたプロレス技が光ってた! ホントにシャィィィインって感じだぜ! 第三回戦のカンクロウゥ! まさか、傀儡を囮に使うなんて……信じられねー神業だぜ! 第四回戦のサクラァ! もう最高! ナイスガッツ! 第五回戦のテマリィ! 本選でも華麗な風の舞いを見せてくれ!」

「のォ……ザジ?」

「第六回戦のシカマルゥ! ナイスマッスル! 熱いビートがこっちにまで伝わってきたぜ! 第七回戦のナルト……あなたの筋トレをする姿を見て、オレは心を動かされた。そして、あなたが中忍試験に出場するって話を聞いた瞬間、オレの体は勝手に動いていた。そう、火影執務室へ、だ。オレは解説をしたいと三代目様に直談判して、その座を勝ち取った。だから、あなたも勝ってくれ。いや、オレたちを熱狂の渦に巻き込んでくれ!」

「了解した」

「流石はナルト! 淀みない返事、かっけーぜ! では、続きまして第八回戦のネジィ! 冷酷無比! しかし、その強さに魅かれる! 本選でも期待してるぜ! 第九回戦の我愛羅! 下馬評では堂々の優勝候補第一位! 砂を操るなんて、あの三代目風影を思わせるじゃねぇか! 将来は風影か? その栄光のロードを間近で見られるなんて最高だ! 第十回戦のドス! 音を使うたぁ燻し銀な攻撃だ! 派手さは他に比べて少ないが、着実に相手を攻める攻撃には期待しているぜ! そして、ダークホース、カブト! あんたは……」

「ザジ!」

「うぃっす! すいません! すぐに説明を再開します」

「それでよい」

「おっし。残念だがカブトの応援はまた今度だ。“本選”の説明に入らせて貰う。それじゃあ、アンコさん!」

「はいはい。この中に紙が入っているから一枚ずつ取ってね」

 

 ザジの声に合わせてアンコが前に出る。その手には箱があった。くじ引きで使われる抽選箱だ。その中へとドスから手を入れて紙を引いていく。紙の大きさは大体、掌に丁度収まる程度。二つに折られた紙を開くと、そこには数字が書かれていた。

 

「引き終わったな! ドスから順に紙に書かれている番号を教えてくれ」

「9」

「ナルト」

「1」

「テマリ」

「7」

「カンクロウ」

「5」

「我愛羅」

「3」

「シカマル」

「8」

「ネジ」

「2」

「シノ」

「6」

「サスケ」

「4」

「サクラ」

「10」

「聞かなくても分かるが……まあ、いいや。カブト、教えてくれ」

「11」

「ということで、本選のトーナメントの組み合わせがこれだ」

 

 ザジは隣でボードに書き込んでいたイビキを示す。

 それにピンと来たのだろう。シカマルが声を上げた。

 

「そのためのくじ引きだったのか!」

「その通りだ、シカマルくん。そうそう、予選でも不戦勝で抜けて本選でもシードとはカブトの運がすっごいと思ったかい?」

 

 シカマルは眉を顰める。

 

「え? そりゃ、思ったけど……ああ、そういうことか」

「シカマルよ。つまり……どういうことだ?」

「このトーナメントはただのトーナメントじゃねェってことだ。ザジって解説者の言い様からすると、闘う回数が少ないほど不利になるトーナメントなんだろうな」

「闘う回数が少ないと楽しむことが少なくなってしまう。闘う回数が少ないほど不利になるというのは当然だろう?」

 

 サスケが大きく息を吐く。

 

「このウスラトンカチが。自分を基準で考えるんじゃねェ」

「サスケの言う通りだな。普通の奴ならトーナメントの優勝を狙うためになるべく闘う回数が少ないシードを狙う。けど、ザジって解説者の『予選でも不戦勝で抜けて本選でもシードとはカブトの運がすっごいと思ったかい?』って言葉の裏にはシードであることが不利だと語っている」

「けど、シードで不利になるって状況……私には思いつかないんだけど」

「そこで、火影様が言ってた大名とか忍頭が出てくるって訳だ。シードになれば、闘う回数が減るってことは大名たちに自分をアピール出来る回数が少なくなる。中忍の適性判断はトーナメント戦の結果じゃなくて、内容、つまり、闘い方を評価されるってことだろう? 解説者さん?」

「……うん。ご苦労様。解散」

「ちょっと待つじゃん!」

「何?」

 

 シカマルの意見を聞き、一瞬にして10ほど年を取ったかのような疲れた顔を見せたザジにカンクロウが詰め寄る。

 

「いきなり『解散』じゃなくて! 説明はどうした? 何もアンタの口から聞いてない!」

「だって、シカマルに全部説明されたし」

「そんなことで説明を放棄するな!」

 

 嫌そうな表情を浮かべながらザジはやれやれと溜息を吐く。

 

「まあ、簡単に言えば、予選と変わらない形式のトーナメントを行って、そこでの戦い方で上役が絶対評価をつけるって感じ」

「投げやりにも程があるじゃん」

 

『せっかく説明を考えてきたのに……』と呟くザジを横目に三代目が咳払いをする。

 

「では、ご苦労じゃった。一月後まで解散じゃ!」

 

 三代目の言葉で三々五々、試験会場を後にする受験者たち。ナルトもサスケとサクラを伴って会場を後にしようとした。ところが、歩く彼らの前に影が差す。

 

「よっ! お疲れ様」

「カカシ先生!」

「早速だけど、サクラ。それとナルトに会わせたい人がいるからついてきて」

「会わせたい人物?」

「そ! んー、まあ、こういう場合はアレかな。師匠って呼べばいいのかな?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ナルトの顔は笑みを浮かべた。

 

「つまり……修行ということだな」

 

 彼は、それはそれは楽しそうに笑ったのだ。

 


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