NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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サバイバル演習開始!
ビタミン、ミネラル、酵素


 忍。

 

 それは、子守りから暗殺まで多岐に渡る任務を全て達成することのできる全能者の職業だ。だが、様々な技術を持ち、様々な依頼に応えることができる忍と言えども、誰しも新人の頃がある。まだ技術が拙く、任務失敗を続けてしまった時期が。その時期を通り過ぎて皆は忍となっていくのだ。自分の身の丈に合った任務を数多く熟し、経験を得て一歩一歩成長していくことが肝要だ。

 そのことを理解している者は少ない。尤も、ナルトが今いる教室にいる忍者に成り切れていない少年少女、下忍になったばかりの者たちの話ではあるが。

 

 ザワザワと落ち着かない音が忍者学校の一つの教室に響く。その教室の中、一際大きな姿があった。ナルトだ。腕組みをし、自らの上腕三頭筋にそれぞれの掌を置くナルトの姿は巌の如し。

 普通の少年の腕を三本集めたほどに太いナルトの腕。例え、彼が小鳥を愛でる優しさを持ち得ると知っていても、彼の腕の筋肉、そして、彼の姿は見る者に恐怖を与える。子どもなら猶更だ。

 そのような理由で、ナルトに近寄る者はいなかった。

 

 だが、畏れは同時に憧れの対象とも成り得る。かつて、世界を震撼させた伝説の忍、うちはマダラの如く、ナルトの筋肉もまた一人の少年にとって憧れの対象だった。

 ある少年は自分よりも三倍ほど大きいナルトへと畏敬の念を持って近づく。少年はナルトと同じクラスメイト。ナルトが忍者学校の卒業試験に落第したことも聞いていた。だからこそ、この少年は忍者学校の卒業生の説明会に出席しているナルトに話し掛けたのだ。

 

「ナルトさん。なんで、あなたがここに?」

「己も合格した。補欠合格ということで説明会に参加するように案内されたのだ」

 

 自らに話し掛けてきた少年に言葉を返すナルトは額に着けている木ノ葉の額当てを示す。自らが所属する里の証明となる額当ては同時に、その所有者が忍であることを示す。とはいえ、職業としての忍を示すものであり、戦闘能力や心構えを示すものではない。

 例え、“忍”というものを理解していなくとも、ある程度の実力さえ示せば身に着けることだけは許される。

 

「そうなんですか! よかった……と、これからもよろしくお願いします」

「無論」

 

 そう、ある程度の技術さえあれば彼らのような年端もいかない少年少女であろうとも、だ。

 

「ごめんね。そこの席、通してくれる?」

 

 女の子の声がした。

 ナルトと彼に話し掛けた少年は後ろから聞こえてきた鈴を鳴らすような声に反応して振り向く。そこには、桜色の髪を背中の大菱形筋ほどの辺りまで伸ばした少女がいた。

 

 春野サクラ。

 桜色の長い髪の他に大きな翡翠色の瞳が特徴的な少女だ。

 

「無論」

「ありがとう、ナルト」

「礼には及ばぬ」

 

 椅子から立ち上がり、サクラを通すナルトに頭を一度下げたサクラはお目当ての少年へと話し掛ける。

 

「サスケくぅん、隣いい?」

「……」

 

 指を顔の前で組み、周りのことは気にしないという風貌の少年は一度、サクラをチラと見た後に視線を再び窓の外へと戻す。それを肯定と受け取ったのかサクラは少年へと身を寄せる。

 

 サクラが想いを寄せる少年の名はうちはサスケ。

 黒髪と鋭い目付きが特徴の少年だ。そして、彼は忍者学校を主席で卒業している。忍としての技能はルーキーたちの中では一番高いと言えるだろう。

 事実、彼が使う忍術は忍者学校を卒業したばかりの子とは思えないほどに卓越している。下忍から一つランクが上がる中忍レベルの忍術を使える麒麟児だ。ちなみに、彼らの教師であるイルカは中忍。このことから、サスケがどれほどの偉才か推し量ることができるだろう。

 

 横に長い椅子に座るナルトとサクラ、そして、サスケ。偶然か運命か、今日この時から彼らの道は交差したのだ。

 

 +++

 

「今日から君たちはめでたく一人前の忍者になった訳だが……しかし、まだまだ新米の下忍。本当に大変なのは、これからだ!」

 

 壇上に立つのはイルカだ。下忍説明会の担当として新米下忍たちに、これからのことを彼が伝えることができる権限内で伝えていく。

 

「えー、これからの君たちには里から任務が与えられる訳だが、今後は三人一組(スリーマンセル)の班を作り……班ごとに一人ずつ上忍の先生が付き、その先生の指導の元、任務をこなしていくことになる」

 

 イルカは手に持つ書類を掲げる。イルカが持つ書類には、この場にいる全ての下忍の名前が記されていた。

 

「班は力のバランスが均等になるようにこっちで決めた」

 

『えー!!』と教室内に響く声。仲の良い者と組むことを期待していたのだろう。がっかりした顔付きの子どもたちが多く見られる中、ナルトの表情は変わらない。特に思う所もないようだ。隣のサクラとは対照的だ。

 サクラの顔は獲物を狙うかの如くギラギラとした目付きだ。お目当てのサスケと同じ班になれるように祈っているのだろう。尤も、あらゆることでトップの成績を修め、更にクールな雰囲気を醸し出す顔付きのサスケを狙うのはサクラだけではなかった。教室内の女子数名が今のサクラと同じ目付きをしている。

 そして、その隣のサスケはイルカの三人一組(スリーマンセル)という言葉に眉を顰めるだけだった。

 

 ──足手纏いが増えるだけだな。

 

 サスケの表情は彼の心の内を雄弁に語っていた。

 そのようなサスケの心の内を知ってか知らずか、粛々と班の発表が進む。

 

「じゃ、次。七班。春野サクラ、うずまきナルト」

 

 読み上げられる自らの名前。サクラは祈る。

 

 ──神様、お願いします。どうか、どうか、どうか……。

 

「それと、うちはサスケ」

 

 サクラの願いが通じたのかイルカから読み上げられた最後の班員の名前は彼女が祈っていた名前と同一のものであった。

 思わず、サクラは『しゃーんなろー!』と叫び、大きく手を上げる。

 

 次々と班が決められていく。そうして、全ての班が読み上げられた後、イルカは新しく木ノ葉の忍となった教え子たちに向けて笑顔を浮かべた。

 

「じゃ、皆。午後から上忍の先生たちを紹介するから、それまで解散」

 

 イルカが教室を出ていくと、新米の下忍たちは同じ班となった者たちと親睦を深めるべく取り出した弁当を持ち寄り、これからの忍としての活動について実に楽しそうに話し始めた。

 その様子を見たナルトは人知れず頷いた。

 

 なるほど、共に食事を摂れば親睦が深まると聞く。己もサクラとサスケを誘って食事を摂るとしよう。

 

 鞄から弁当を取り出したナルトは、サクラとサスケに声を掛けようと横を見る。だが、そこには二人の姿はもうなかった。

 自ら声を掛ける、というより単純な言葉を出すことも必要に迫られなければしないナルトだ。同じ班員となった二人にどう声を掛けようかと考えている間に、その二人は教室から出て行ってしまっていた。

 

 周りの人間からは分からないほどに小さな表情の変化がナルトに起きていた。彼の表情は親しい者、イルカが見れば分かっただろうが、既にイルカは退室している。で、あるからして、この教室内に居る者は一人を除いて、ナルトが寂しいと感じているとは気づくことはなかった。

 そして、唯一、ナルトの変化に気が付いた少女も、彼に話し掛ける勇気がなかったために、ナルトは昼食を一人で摂ることになったのだ。

 

 +++

 

「来ないわね……先生」

 

 サクラが呟く声は教室の壁に吸い込まれた。サクラの言葉に頷くナルト。大きな反応は見せないものの顔の前で組んだ指が微かに上下に動いていることから、サスケもサクラやナルトと同じ気持ちであることが察せられる。

 

 ──遅い。

 

 第七班の気持ちは思いがけない所で一つになったのだ。

 同期の者たちは皆、担当上忍に連れられて三々五々に教室を出て行った。一班、また一班と上忍に連れられていく同期たちを見送りながら、次は自分たちの番かと心待ちにする第七班の三人。しかしながら、彼らの担当上忍は中々、教室へと入って来ない。そうこうしている間に、教室にはナルト、サクラ、そして、サスケの三人のみが残された。

 

「暇ね」

 

 無言で頷くナルトと動かないサスケ。サクラは焦る。

 

 気まずい……っていうか、なんで二人とも喋らないのよ。私だけが喋ってるなんて、私、バカみたいじゃない。

 

 心の中でサクラは声を上げる。

 内なるサクラの叫びは寡黙な男たちには届くことはなかった。

 

 ──ホント……本当に早く来てよ、もう!

 

 鞄の中からダンベルを取り出しトレーニングを始めたナルト、そして、窓の外を見続けるサスケを見ながらサクラは思う。二人とも無言でいることが嫌じゃなくていいなぁ、と。

 

 それから待つこと数十分。

 

 ガラリという音でサクラは目を開けた。

 余りに多い待ち時間の中、サスケのことを恋い焦がれるようになったきっかけを思い返し、さらに、ナルトにビクつかず話せるようになった出来事を思い返し、そして、今日の晩御飯はダイエットのために抜かなければならないことを思い返して、気分が落ち込んでしまうまでに彼女の思考は羽を広げていた。そんな彼女が今晩の食べることのできないデザートに思いを馳せながら、自分の脂肪を呪い、思わず目を閉じた時に教室の中へと一人の男性が入ってきたのだった。

 

 目を開けたサクラは教室の中へと入ってきた男へと目を向ける。

 3/4ほどマスクと額当てに隠れた男の顔から見えるのは右目と周りの部分だけ。その右目は眠たげな様子で教室の中の三人を見つめていた。

 

「どーも。お前らの担当上忍だ。第七班の三人……であってる?」

「あ、はい」

 

 頷くサクラを見た上忍は自身の親指で廊下を指す。

 

「それじゃあ、オレについて来て」

 

 +++

 

 日が燦々と差し込む屋上庭園は昼食時に人気のスポットだ。暖かい春の日差しを身に受けながら食べる弁当は格別である。

 しかし、今は昼下がりの午後。皆、食事を終えて各々の仕事に戻った時間だ。今、屋上庭園にはナルトたち第七班の人員だけしかいない。

 

 落下防止の柵に腰掛けたナルトたちの担当上忍は改めて彼らを見回す。

 

 ──なんていうか、一人だけ画風が違うなァ……。

 

 ナルトを見た上忍の感想はそれだった。彼は自身のメタフィクションな考えを脳の隅へと追いやる。

 気を取り直して、上忍は言葉を発した。

 

「そうだな……まずは自己紹介して貰おう」

「どんなこと言えばいいの?」

 

 サクラの疑問に上忍は両手を広げて答えた。

 

「そりゃあ、好きな物、嫌いな物。将来の夢とか趣味とか……ま! そんなのだ」

「先生、その前に先生のことを教えてください。見た目ちょっと怪しいし」

 

『最近の子は物怖じしないなァ』と感じながら、上忍は自らのことを説明するべく口を開く。

 

「あ……オレか? オレは“はたけカカシ”って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない! 将来の夢……って言われてもなァ……ま! 趣味は色々だ」

「ねェ……結局、分かったの名前だけじゃない?」

「シャイな方なのだろう」

 

 自分の意見にナルトは納得する。カカシを恥ずかしがり屋だと断定する情報。それは、顔がほとんど見えない彼の服装が言葉はなくとも十二分に語っていた。

 

「じゃ、次はお前らだ。右から順に頼む」

「承知!」

 

 カカシから見て一番右にいたナルトが声を上げた。

 

「威風堂々! 不撓不屈! 堅忍不抜!」

 

 ナルトは立ち上がる。

 

「鍛え上げし肉体に宿るは熱い血潮! 弱きを助けッ! 強きを挫くッ! 正義を以って悪を倒すは己が道ッ!」

 

 ナルトは拳を握る。

 

「ラーメンを啜り、気力は十全! 筋肉に力を充填! 許さざるは己の怠惰! 目指すは火影! 忍の頂きッ!」

 

 ナルトは叫ぶ。己の夢を。

 

「漢の花道、此処に有り! いずれ世界に知らしめるッ! 己の名は……“うずまきナルト”!」

 

 ナルトの口上が終わると、パチパチと気の抜けた音がした。

 

「それじゃあ、次」

 

 カカシはナルトの熱い想いは受け止めなかったらしい。カカシという人間は熱血とは反対の場所にいるが故に、彼の口上をさらりと流す技術に長けていた。

 華麗にナルトの自己紹介を聞き流した彼はサスケへと目を向ける。

 

「名は“うちはサスケ”。嫌いな物ならたくさんあるが、好きな物は別にない。それから……夢なんて言葉で終わらす気はないが……」

 

 一度、言葉を切り、サスケは静かに空気を吸い込む。

 

「……野望はある! 一族の復興とある男を必ず……殺すことだ」

 

 ──やはり、な。

 

 カカシの目が細くなる。

 サスケの事情を知っているが故にカカシは何も言うことはなかった。

 

 カカシは最後に残ったサクラへと目を向ける。

 

「よし。じゃ、最後、女の子」

「私は春野サクラ。好きなものはぁ……ってゆーかあ……好きな人は……えーとぉ……将来の夢も言っちゃおうかなぁ……キャー!」

 

 ──この年頃の女の子は……忍術より恋愛だな。

 

 サクラの自己紹介が終わると、カカシは一つ頷いて話を次へと進める。

 

「よし、自己紹介はそこまでだ。明日から任務やるぞ」

「承知」

「はい!」

「ああ」

 

 三人の返事を聞いたカカシの目は退屈だと語るように濁っていた。

 

「明日の任務。まずは、この四人だけであることをやる」

「ある……こと?」

「そう。サバイバル演習だ」

「なんで任務で演習やんのよ? 演習なら忍者学校で散々やったわよ!」

「……相手はオレだが、ただの演習じゃない」

 

 カカシへと疑問を投げかけてきたサクラはカカシが出してきた更なる疑問に困惑する。

 

「ククク……」

「ちょっと! 何がおかしいのよ、先生?」

 

 馬鹿にされたと感じたのだろう。

 突然、含み笑いをしたカカシにサクラは苛立つような目線を向ける。

 

「いや、ま! ただな……オレがこれ言ったら、お前ら絶対引くから」

「どういうこと?」

 

 叫ぶサクラを冷たい目で見ながら、カカシは彼女らに絶望を突き付けた。

 

「卒業生27名中、下忍と認められるものは僅か9名。残り18名は再び忍者学校へ戻される。この演習は脱落率66%以上の超難関試験(テスト)だ!」

 

 三人の顔から血の気が失せる。

 

「ハハハ……ホラ、引いた」

「ちょっと待って! それなら、卒業試験の意味なんてないじゃない」

「ああ、あれか。下忍になる可能性のある者を選抜するだけだから」

 

『とにかく……』とカカシは話を戻す。

 

「明日は演習場でお前らの合否を判断する。忍道具、一式持って来い。それと、朝飯は抜いてこい。吐くぞ」

「看過できぬ」

 

 それまで押し黙っていたナルトが突然、口を開いた。

 

 カカシはナルトの様子に納得する。

 せっかく卒業できたと思ったのに、またテストがあるなんて(たち)の悪い悪夢みたいなものだしな。

 カカシは柵から降りて、ナルトの前に立ち、彼を見下ろした。

 

「忍の世界は厳しいものだぞ」

「それは理解している。だが、己は吐くことはないという自信がある」

「そ! 頼もしいね」

「だから、朝食はきちんと摂らせて貰う」

「……はい?」

「最高の筋肉は日々の食事から作られるもの。己は毎日の朝食はスムージーと決めている。しかして、朝食を抜くのは認められぬ」

「んー。まさか……まさかとは思うけど、認められないっていうのはオレが言った朝食を抜いて来いってことだけ?」

「然り」

 

 ナルトの発言を聞いた後、カカシは一度、目を閉じる。

 

「……サクラ! サスケ! 集合!」

 

 カッと目を開いたかと思うと、カカシはサクラとサスケの二人に手招きをする。声を潜めたカカシは自分の近くに来た二人に尋ねた。

 

「ねぇ、スムージーって何?」

「ミキサーで野菜や果物をミックスした飲み物です。ダイエットに使われることもあるわよ」

「つまり、野菜ジュースということか?」

「サスケくんの言う通りよ」

「……なあ、スムージーって朝食に入ると思うか?」

「オレは、朝食は和食派だ」

「そうなんだ! なら、私も明日からパンから和食に変える」

「ちなみに、今朝の献立は?」

「白米に味噌汁、それから目玉焼きだ」

「トーストにサラダ。それから、ヨーグルト」

「お前らのは普通の朝食だが……若者の中では朝食はスムージーだけっていう人が増えているの?」

「聞いたことはないです」

「オレもだ」

「……」

 

 眉尻を下げたカカシ。スムージーは朝食ではないと判断する。

 

「ナルト。スムージーなら吐いてもキツクなさそうだし、それなら大丈夫ってことにしとこうか」

「感謝する」

 

 頭を下げたナルトを見てカカシは思った。

 

 ──なんかドッと疲れた。

 

 カカシは説明を終わらせようとプリントを取り出す。

 

「詳しいことはプリントに書いといたから。明日、遅れて来ないよーに!」

 

 カカシが三人に渡したプリントには翌日の詳細に、場所や日時といった細々としたことについて書かれていた。

 

 ──やっとだ。

 

 ナルトは凄惨な笑みを浮かべる。だが、それに気が付いたのはカカシだけ。そして、そのカカシも下忍にしてはいい顔をするじゃないのという楽観的な考えを浮かべただけだ。

 

 これまで鍛えてきた成果が、やっと分かる。

 ナルトの顔は猛禽類の如く凄まじい覇気を放っていた。

 

 ──おもしろい。

 

 カカシは思う。明日が少し楽しみになってきた、と。

 

 +++

 

 次の日。

 試験会場である第三演習場にカカシの声が響く。

 

「やー、諸君。おはよう!」

「おっそーい!」

 

 プリントに書かれていた時刻から大幅に遅れ、現在は午前10時に近い時間だ。サクラが声を上げるのも当然のことだろう。

 だが、そんなサクラの様子を意に介していないカカシは着々と準備を進める。

 

「よし! 12時セットOK!」

 

 第三演習場に備え付けられている丸太。普段はこれを的として扱い、手裏剣術などの修行に用いるものであるが、今回のカカシの使い方は違った。

 丸太の上に正午に鳴るようセットしたカカシの私物の目覚まし時計を置く。続いて、三人の方へと体を向けたカカシは小さな鈴を彼らに見せた。大体3cmほどであろうか。キーホルダーとして使われていそうな鈴がチリンと音を鳴らす。

 

「ここに鈴が二つある。これを、オレから昼までに奪い取ることが課題だ。もし、昼までにオレから鈴を奪えなかった奴は昼飯抜き!」

 

 カカシは丸太を指で指す。

 

「あの丸太に縛りつけた上に、目の前でオレが弁当を食うから」

 

 朝飯抜いて来いって……こういうことだったのね

 カカシの意図を理解したサクラの顔はげんなりと言った様子だ。

 

「鈴は一人一つでいい。二つしかないから、必然的に一人、丸太行きになる」

 

 と、カカシはチャリンと鈴を鳴らした。

 

「……で! 鈴を取れない奴は任務失敗ってことで失格だ! つまり、この中で最低でも一人は学校へ戻って貰うことになる訳だ」

 

 表情を変えないまま、カカシは淡々と説明する。

 

「手裏剣も使っていいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」

「でも! 危ないわよ、先生!」

「大丈夫。オレはお前らみたいなひよっ子に負けるほど弱くないから。オレが『よーい、スタート』っていうから、それが合図で開始ね」

 

 ひよっ子。

 その言葉が琴線に触れたのだろう。サスケは髪を揺らし、カカシを正面から見る。

 

「フ……言ってくれるじゃねェか」

「いい殺気だ、サスケ。やっとオレを認めてくれたかな? ククク……なんだかな。やっと、お前らを好きになれそうだ」

 

 一瞬で笑いを引っ込めたカカシはいつものように何を考えているのか判断が難しい顔を彼らに見せた後、宣言した。

 

「じゃ、始めるぞ! よーい……スタート!」

 


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