NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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助力

 朝靄を飛ばすように一陣の爽やかな風がサクラの髪を揺らした。

 目の前に立つ少年は爽やかとは言い難い。どちらかと言えば熱血、爽やかのちょうど反対側に立つような人間だ。

 だが、彼は自分が傷つくかもしれない戦場に割って入ることのできる益荒男であった。一陣の風であった。

 

 サクラはその後ろ姿を翡翠色の目に映す。リスを肩から降ろすリーへとサクラは尋ねられずにはいられなかった。

 

「何で……?」

 

 同じ里の出身とは言え、リーは違う班員。そして、彼と会ったのは、一次試験前のいざこざだけ。彼には自分を助ける理由がないとサクラは考えていた。

 

「ボクはアナタがピンチの時はいつでも現れますよ」

 

 その声に漲るは信念。曲がることなき心の強さだ。

 

「サクラさん。ボクは前に一度、アナタにこう言いました」

 

 ──死ぬまでアナタを守るって。

 

 背中をサクラに向けたまま、リーは自分の想いを口にする。その言葉はサクラの胸に響いた。忍としての実力だけではない。リーは心も強かった。そのことに気が付いたサクラは目を丸くする。

 僅か一歳、たった一年。それだけの時間で、彼が口にした言葉を裏切らないほどに強くなっていたのか、それとも、彼は元々、この強さを持って産まれていたのか。

 そのようなことは関係ないとサクラは思う。ただ、目の前に立つ人物は強い。ナルトのように他者を圧倒する筋肉もない、サスケのように常に冷静で忍というものを理解しているでもない。

 

 だが、三人とも同じ強さを持っている。自分を曲げる事がない心の強さだ。サクラは拳を握り締める。

 私だってナルトやサスケくんと一緒に任務をしてきた。カカシ先生にも修行をつけて貰った。それなのに……。

 

 サクラの拳から力が抜けた。サクラはリーの隣へと並ぶ。

 

 ──リーさんだけに戦わせ、自分は見守るだけだなんて、したくない。

 

 弱くとも、それが、サクラの答えだった。

 

「リーさん、ありがとう。でも、危なくなったら、私を置いてサスケくんをお願い」

「サクラさん、大丈夫です。ボクがアナタを守りますから」

 

 その遣り取りをじっと見つめるドスは懐から巻物を取り出した。

 

「仕方ないなあ。ザク、サスケくんは君にあげるよ」

 

 次いで、ドスは巻物をザクへと投げ渡す。

 

「こいつらはボクが殺す」

 

 目に力を入れたドスは次いで、足に力を籠めた。音隠れの下忍として中忍試験への参加を抜擢されただけのことはある。素早い身の熟しでリーへと近づいたドスは右腕をリーへと振り下ろした。だが、リーはその上を行く。地面に右腕を差し込み、一気に引き上げると、大木の根が引き摺り出されてドスの攻撃を防いだ。

 ドスの特殊な攻撃により、防御した木の根が破砕されて舞う中、リーはドスを油断なく見つめる。

 

「君の攻撃には何かネタがあるんだろ? そうじゃなきゃ、サクラさんの仕掛けたトラップがあんな壊れ方をするハズがありませんからね」

 

 ──とはいえ、一対三は分が悪い。賭けに出るしかないな。一人ずつ……全力で潰す!

 

 リーのやるべきことは決まった。

 ドスへと照準を合わせたリーは腕に巻く包帯を解いていく。

 

 ──ガイ先生。では、心置きなく、あの技をやります。なぜなら、今がその……大切な人を守る時!

 

 恩師へ心の中で宣言したリーは体の門をこじ開ける。八門遁甲という体内門が八つ、人間には備わっている。これは、必要以上の力を抑制するストッパーのようなものだ。この体内門をチャクラで無理矢理にこじ開けることで、チャクラの流れを増大させ、身体能力の向上を促すのが八門遁甲の陣と呼ばれる技だ。

 

 第一の門、開門を開いたリーの動きはもはや、下忍の体術ではない。

 

「!?」

 

 ドスの目の前からリーの姿が掻き消えたかと思うと、下から上へとドスの顎に突き抜けるような衝撃が奔った。

 上へと吹き飛ばされるドスの背中に影舞葉でリーがピッタリとついていく。

 

 ──甘いですよ。

 

 一瞬にして上空へと運んだリーの体術に顔を引き攣らせながらも、ドスは反撃をしようと右腕に意識を集中させる。

 

「!?」

 

 だが、甘いのはドスの方だった。いつの間にか、自分の体は包帯に巻かれていた。

 先ほど、リーが解いた腕の包帯は自分の動きを拘束するためにあったのだとドスが悟った瞬間、重力がドスの体を襲う。

 常ならば、受け身を取ることも出来ただろう。だが、今は包帯に絡めとられ指一つ動かせない状況だ。反転する景色の中、ドスは血走った目で背中のリーを見ようとすることしかできなかった。

 

「あれじゃ、受け身もとれねェ! ヤ……ヤバイ!」

「させない!」

「クッ! ザク!」

 

 そう言って、行動に移したのはザクとサクラ、そして、キンだった。地上では、地面に手を入れ、何かしらの術を行使しようとしていたザクを牽制するために、サクラが何本ものクナイをザクに向かって投げていた。それを、キンが注視したと同時にリーが叫ぶ。

 

「喰らえ! 表蓮華!」

 

 ドスを拘束したリーは回転を伴って地面へと落下していく。そして、ドスの体が地面へと突き刺さった。

 

 無言が空間を支配する。

 

 濛々と立ち込める土煙の中、一番に声を発したのはザクだった。

 

「間に合ったぜ」

「!?」

 

 ザクの声に反応するように、地面に頭を減り込ませていたドスが動き始める。

 

「恐ろしい技ですね。土のスポンジの上に落ちたのに、これだけ効くなんて。……次はボクの番だ」

 

 左目を嗜虐の色に染め、ドスは再び駆け出した。それは確信を伴った走り。つまり、リーが反撃することが出来ないと確信をしていた走りだった。

 そして、ドスの予測は当たっていた。一時的に身体能力を上げる八門遁甲であるが、強力な術にデメリットがないハズがない。発動後にスタミナの急激な低下が第一の門、開門を開いた後の反動だ。

 

 動きに精彩を欠いたリーではあるが、ドスの右腕からの攻撃を紙一重で躱すことができた。ただ、それは物理的な攻撃のみ。

 

「!!」

「君の技が高速なら……」

 

 歪む視界の中、リーは平衡感覚を失った。

 

「……ボクたちの技は音速だ。どうにもならない絶望というものを教えてあげるよ」

 

 膝をつくリーの目の中には、醜く嗤うドスの姿が映っていた。次いで、リーを襲うのは猛烈な吐き気。堪え切れずに、リーは胃の内容物を戻す。

 

「リーさん!」

 

 リーへと駆け寄るサクラはリーの左耳から血が流れていることに気が付いた。

 

「ちょっとした仕掛けがあってね。躱してもダメなんだよ。ボクの攻撃はね」

「一体、何を……?」

「フフフ……音だよ」

 

 右腕を挙げながら、ドスは到底、武器として使うことが出来なさそうな“音”について説明を始める。

 

「拳は躱しても音が君を攻撃したのさ。……音ってのは、そもそも何なのか知ってますか?」

「……振動」

「御名答。音が聞こえるということは、つまり、空気が揺れているのを耳の鼓膜がキャッチするということ」

 

 サクラの答えに頷くドスは自分の耳を指し示す。

 

「そして、人間の鼓膜は150ホンを超える音で破れる。また、更に奥深くにある三半規管に衝撃を与えることで平衡感覚(バランス)を失う」

 

 ドスの言う通り平衡感覚が狂い、立つことすらできないリーを見て、ドスはまた嗤う。

 

「フフ……君は当分、満足に体を動かすこともできないよ」

「オレたちに古臭ェー体術なんて通じねーんだよ。まあ、途中までは良かったが、オレの術まで披露したんだ。そう上手くはいかねーよ」

 

 そう言って、ザクは両手を地面から抜く。

 

「オレは超音波と空気圧を自由に操り、岩ですら破砕する力を持つ。土に空気を送り込んでクッションに変えることも思いのままだ。お前の下らねー技とは違うんだよ」

「ザクの動きを止めようとしたのは評価できる。けど、私を忘れてザクに攻撃できる訳がないのよ」

 

 ザクの前に立ち、サクラのクナイを全て受け止めたくノ一、キンが冷たい目でサクラを見遣る。

 

「私は暗器使いのキン。アンタが咄嗟に投げたクナイ程度の威力じゃ私が着込んでいる鎖帷子を貫けない」

「まあ、ボクらのことが少し分かったかい?」

 

 キンの言葉を受け取るようにドスが再び話し始めた。

 

「分かった所で……君たちには死んで貰う!」

 

 リーからサクラへと狙いを移したドスは右腕を振りかぶる。だが、彼は甘かった。

 平衡感覚が狂わせた程度で、諦めるような軟弱者ではない。リーは前に出た。

 

「木ノ葉旋風!」

 

 しかしながら、リーは攻撃を繰り出す。それで、精一杯だった。リーの蹴りは確かにドスの体に当たったものの、ドスへとダメージを与えることができなかった。

 

「少々驚かされましたがアッ!?」

 

 だが、ドスはサクラからリーへと注意を移してしまったのだ。より動くことのできるサクラから目を離し、リーに注目してしまった。

 顔に受ける衝撃はドスを後ろへと吹き飛ばした。リーへとドスが注意を逸らした一瞬の隙。その隙を見逃さず、サクラはドスの顔へと右の拳を叩き込んだ。

 地面を転がるドスを気に掛けることもなく、サクラはポーチから手裏剣を取り出して、ザクへと投擲する。先ほどの牽制よりも威力は上。より明確な『倒す』という気持ちを乗せたサクラの手裏剣だったが、ザクが咄嗟に発動させた術により全ての手裏剣が空気圧で跳ね返される。

 

 ──リーさんを……。

 

 すぐ近くにいるリーを押し倒し、サクラは自分ごとリーを手裏剣の軌道から逃れさせる。だが、地面に倒れ込むという大きな隙を見逃すほど、音の忍は甘くなかった。

 

「キャッ!」

 

 頭頂部に奔る痛み。

 髪を引っ張られ、無理矢理に身を起こさせられたサクラは隣に立つ忍へと滲む目を向けた。

 

「私より、いい艶してんじゃない、コレ。フン……忍の癖に色気付きやがって」

 

 サクラの髪を掴んでいたのはキンだ。

 

「髪に気を使う暇があったら修行しろ、メスブタが!」

「痛い!」

 

 声を上げるサクラを愉しそうに見つめるキンはゆっくりと立ち上がるドスへと視線を移した。

 

「ねぇ、いいこと思いついたんだけど」

「何だい、キン? ボクがその子を痛めつけるよりもいいことなら聞いてあげるよ」

「ザク。この男好きの目の前で、そのサスケとか言う奴を殺しなよ。こいつにちょっとした余興を見してやろーよ」

「!!」

 

 サクラはキンの声色から危険な物を感じ取った。忍同士の戦いだ。戦いで命を落とすこともあることはサクラも重々承知していた。だが、キンの提案は違う。ただ殺すのではなく、嬲るようにして痛めつけることで最終的に死に至らしめる提案だとサクラは勘付いた。

 

「お! いいねー! ドス、どうする? オレはキンに乗るぜ」

「それはダメだ、ザク」

「は? どうしてだよ?」

「サスケくんだけじゃボクの気持ちは収まらない。なにせ、二度も彼女に殴られたからね。だから、さ」

 

 ドスはこれまで以上に血走った目でリーを見る。

 

「そのゲジマユくんも殺そう」

「了解」

 

 ザクは軽く手を挙げるとリーへと足を向ける。キンに髪を掴まれ、動きを止められたサクラはその様子を見る事しか許されなかった。

 

 ///

 

 サクラ、顔を上げるのだ。

 え?

 貴殿はもっと自信を持つべきだ。そう、己のように筋肉を付けるべきだ。

 え?

 サクラを筋肉の道に引き込むのは止めなさい。ってか、アンタ、なんでくノ一クラスに来てんのよ。

 森での修行から帰る途中で迷ってな。今し方、帰ってきた所だ。

 森ってアンタ、子どもは入っちゃダメって言われているとこじゃない。

 しかし、己が読んだ書物には森で修行すると精神も鍛えられ一石二鳥だと書いてあった。

 はあ、アンタねぇ……ん? どうしたの、サクラ?

 いのちゃん、えっと、この人は?

 サクラは同じクラスになったことないっけ?

 己は!

 ナルト、アンタの自己紹介は長いから少し黙って。

 む!?

 こいつは、うずまきナルト。何でか知らないけど私の幼馴染と仲良くてさ、それで、私とも話すようになった訳。まあ、見た目は少しおっかないけどいい奴よ。

 へえ……あ、よろしくね、ナルトくん。

 別に『くん』とか付けなくてもいいわよ。ナルトは私たちと同じ学年なんだし。

 え? そうなの?

 然り。

 あ、えっと、よろしく、ナルト。

 うむ。よろしく頼む、サクラ。

 そうそう、サクラ。ナルトが言ってたように自信持ちなさい。アンタの髪はキレーな色、してるんだから。

 

 ///

 

 あの時から私の髪は私の誇りだった。だけど、今は誇りを捨ててでも勝ち取らなくちゃいけないものがあるってことを分かっている。だから、動きなさい、春野サクラ。アナタはナルトとサスケくんと同じ班なのだから、勇気はあるでしょ?

 

 サクラは目を見開いた。

 サクラの体は淀みなく動き、ポーチからクナイを取り出す。だが、武器を取り出したサクラをキンはせせら笑った。

 

「無駄よ。私にそんなものは効かない」

「そう。なら、私の拳はどう?」

「え?」

 

 ザクリという音が森の中に響いた。それは、絹を裂くような音。そして、その音と共にサクラの髪はハラリと落ち、サクラの拳がキンの顎に入った。

 全く予期しない動きからの殴打がキンの意識を刈り取る。攻撃が来ると分かっていれば、キンも意識を保っていられただろう。だが、キンはサクラが自分の髪をクナイで切り、自分の拘束から逃れることを予想できなかった。その上、クナイを持つ手に作った拳で間髪入れずに殴ってくるとは予想できなかった。更に、体を半回転させながら人体の急所である顎を寸分違わず狙ってくるとは予想できなかった。

 

 自分よりも格下。反撃してきたとしても、クナイで刺してきて自分が着ている鎖帷子に阻まれるのが関の山だろうというキンの予想は的外れであった。

 

「キン!」

 

 リーへと近づいていたザクは後ろに向かって倒れていくキンを見て、思わず叫んだ。そして、やはり下忍というべきか戦闘の心構えが全くなっていなかった。

 いついかなる時でも気を巡らせ、敵をいち早く把握することこそが戦闘の心得の一つだ。だが、それは下忍にとって荷が重い。

 ザク、そして、ドスもキンが地面に沈んでいく様子を見つめてしまっていた。仲間が戦闘不能に陥れば動揺する。その隙は格下が金星をあげるための一因となるのだ。

 

「!?」

 

 ザクは衝撃と共に自分の体が傾いたことに気が付いた。サクラの身当てだ。

 

「ウッ!」

 

 少女と言えども、体重が30kg以上ある忍の行うタックルは、それなりの威力を持つ。それが、意識の外から行われた攻撃ならば猶更だ。しかして、ザクは地面に押し倒された。

 

 重みを腹に感じていることから、サクラにマウントポジションを取られているのだろう。思わず目を閉じてしまったザクだったが、すぐに目を開ける。

 ザクの予想通り、サクラが自分の腹の上に乗っていた。だが、問題はない。

 

 ──斬空破で吹き飛ばしてやる。

 

 ザクは両手に意識を集中させる。両手の孔からチャクラを放出することで、自分の上に生意気にも馬乗りになっているサクラを吹き飛ばそうという魂胆だ。

 ところが、それは実行に移せなかった。

 

 ザクが行動する前にサクラはザクの行動を封じていたのだ。

 サクラはザクの掌に指を絡ませていた。

 

「テメェ……!」

 

 ニヤリと笑うサクラを見て、ザクは全てサクラの作戦通りだということを悟った。

 ザクの斬空破は腕からチャクラを放出する術だ。そして、その放出孔は両手の掌にある。そして、今、その放出孔はサクラの掌で覆われていた。つまり、ここで、無理に斬空破を発動させれば暴発する。そうなれば、ザクもただでは済まないだろう。

 

 自分にこれと言った忍術はないものの、敵の技をよく見て分析したサクラ。

 破壊力抜群の忍術を持ったことにより驕り、敵を碌に見る事もなかったザク。

 

「しゃーんなろぉー!」

 

 軍配はサクラに上がった。

 手は使えずとも頭がある。サクラの強烈な頭突きによって、ザクの意識は落ちた。

 

 瞬く間に二人の仲間で沈められた様子を見て、残されたドスは慄く。この状況を作り出したのが、ターゲットであるサスケならば、見た目からして力強いことが分かるナルトならば、まだドスは理解できただろう。

 だが、現実は自分たちが歯牙にもかけなかった弱々しい少女によって作られた燦々たる光景が広がっていた。

 

 ──あり得ない。

 

 目を大きく見開くドスは、ゆっくりと、それはゆっくりと立ち上がるサクラを見つめることしかできなかった。

 ザクへ頭突きをした時に額が切れたのだろう。額から渾々と溢れ出る血がサクラの顔を赤く染める。

 

 ──悪魔だ。

 

 血化粧の奥から豹のように爛々と輝く翡翠色の目を見てドスは息を呑む。

 

 ──ここは一時退却を……。

 

 そう思ったドスだったが、何やらサクラの様子がおかしいことに気が付いた。

 と、ドスは包帯の奥で唇を歪める。

 

 ふらつくサクラの体。

 それもそうだろう。大蛇丸との邂逅、徹夜でのサスケの看病、自分たちとの戦闘。サクラの体力は限界だった。そして、助っ人であるリーは自分の術で動くことが難しい状況。根性はそう続かないと判断したドスは慎重に、ゆっくりと、時間をかけてサクラとリーを甚振ることに決めた。

 

 満身創痍の二人だ。ならば、遠くから手裏剣を当て続けることで勝てる。遠距離ならば、相手からの攻撃は弱くなり不意打ちも出来ない。そして、自分はサクラとリーの二人よりも高威力の遠距離攻撃が出来る。

 

 そう考えたドスは距離を取り、手裏剣を何枚か取り出した。

 

 ──防がなきゃ。それに、リーさんを守らないと……。

 

 ふらつく体を細い意識の糸で繋ぐサクラにはリーとの数mが遠かった。そして、ドスが投げる手裏剣を防ぐ手段はなかった。

 

 瞬間、サクラの体が宙に浮く。痛みはなかった。姉のような腕に包まれ、安全な場所へと移されたサクラは自分を抱きかかえて移動させた人物の顔を認識した。

 今にも途切れそうな意識を繋ぎ止めながら、サクラは唇を動かす。

 

「いの……」

「サクラ……アンタには負けないって約束したでしょ?」

 

 そこに居たのは、かつて、サクラに自信を与えた人物の一人、山中いのであった。

 


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