NARUTO筋肉伝   作:クロム・ウェルハーツ

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おいかけっこしましょ

 肌をチリチリと焼く緊張感の中、ナルトは悟った。

 

 ──余りにも強い。

 

 相対してからまだ5分も経っていない。それにも関わらず、ナルトは敵対者と自分の力が隔絶していることを理解した。

 

 ナルトは常に全ての攻撃を全力で行っている。然れども、繰り出した攻撃は全て阻まれた。しかも、ただ阻まれているだけではなく、敵はナルトの全力を防いで尚、十二分に余裕が感じられる様子だ。

 

「……」

 

 ナルトは、自分の拳が大蛇丸へと届くイメージができなかった。

 いや、仮に拳が届いたとしよう。それでも、ナルトの拳が敵に与えるダメージは微々たるものだと気づいてしまった。変わり身の術は使わせずにクリーンヒットしたとしても、今の大蛇丸相手に如何ほどのダメージがあろうか? 動きを数秒止めることができるのが関の山だ。

 

 思えば、ナルトが戦った中で最も強い忍であった再不斬。再不斬と戦った時でさえ、拳が当たれば勝てるイメージがあったというにも関わらず、大蛇丸には拳が当たらない、それどころか、拳が当たっても意味がない。そのような想像をナルトはさせられていたのだ。

 

 再不斬よりも忍として上のステージに立つ大蛇丸。

 敗色は濃厚。進めば死、退けども死。厳しい修行(筋トレ)を積んできたナルトと言えども尻込みしてしまいそうになる。

 

 ──だからと言って、止まることができようか?

 

 ナルトは肩幅に足を開き、丹田に力を籠める。

 

「喝!」

 

 100デシベルを優に超えるほどの音量がナルトの腹、喉、そして、口へと流れて外に吐き出される。大声と共に恐怖もまた、ナルトの体から吐き出された。

 急速に湧き上がってくる勇気とチャクラ。

 常人ならば気が狂うほどの殺気、上忍でも呼吸困難に陥らされ、自らの首が飛ぶイメージをしてしまうほどの殺気を受けながらもナルトは大蛇丸を果敢に正面から見つめる。

 

「フフフ……良いわね」

 

 目を見開き、自分に睨みを利かせるナルトを意に介さず大蛇丸は頭の中で気づいたことを纏めていく。先のナルトと羅生門の対決、そして、前にいるナルトの様子から得られたデータを整理し終わった大蛇丸は結論を下す。

 

 ──あのチャクラ……間違いないわ。

 

 観察する時間は十二分にあった。ナルトのチャクラを細かく感知した大蛇丸が気づいたのは、ナルトから漏れ出している強大なチャクラだ。

 

 ──九尾のチャクラ……!

 

 ナルトから出されているチャクラに大蛇丸は覚えがあった。というより、忘れられないチャクラだ。かつて、自分が在籍していた非合法組織の目的の一つが九尾のチャクラであったのだから。

 

『それはどうでもいいことね』と頭を振って大蛇丸は目の前に佇むナルトへと意識を切り替える。だが、それがいけなかった。

 

「!」

 

 ナルト以外の下忍は既に意識の外にあった。実力はもちろん、自分に挑んでくる蛮勇すら備えていない弱い者だと捨て置いてしまったのだ。上から降ってきた手裏剣が自分の髪を切るほどに迫るまで、大蛇丸は上の雛鳥たちを脅威として見ることができなかったのだ。

 しかしながら、大蛇丸は歴戦の猛者である。上から投げられた手裏剣に気づくことが非常に遅れたとはいえ、彼はなんとか反応した。体を手裏剣の動線上からずらすことで被害を最小限に留める。

 

 ──やるわね、サスケくん。

 

 ハラリと落ちる黒髪。そして、地面に当たり弾ける血の玉。

 手裏剣は上より自分に飛来してきた。自身の丁度真後ろから放たれ、角度は78度。ナルトに警戒しつつ、大蛇丸は警戒の範囲を拡げる。

 

 ──サスケくんじゃない!?

 

 チャクラ感知で見つけたチャクラは大蛇丸に驚きを与えた。

 自分に向かって手裏剣を投げたと思われる位置にあったチャクラはサクラの物だったことに大蛇丸は気がついた。

 

 ナルトならば、そして、サスケならば理解できる。だが、そこにいたのは紛れもなく、大蛇丸が下らない人材と切り捨てたサクラだったのだ。

 惨たらしく喰い殺される程度の者でしかなかったハズだ。安全性が保障されていない実験の検体にする程度の価値しかなかったハズだ。

 それにも関わらず、何故、彼女は自分の頬を深く傷つけることが出来たというのか? 自らの命を投げ打つほどの覚悟がなければ、才能のない下忍は大蛇丸へと攻撃できない。それほど、大蛇丸が与える恐怖は大きかった。

 

 ──私も耄碌したかしら?

 

 サクラをサスケと誤認したことで、大蛇丸はサスケを見逃してしまっていた。いや、そもそも、天才であるサスケと言えども、大蛇丸に攻撃を加えるほどの精神力はなかった。巻物を渡してでも、生き残ることに考えが向いていたサスケが自分に攻撃を加えることができるとは大蛇丸は考えられなかった。

 

 だが、実際はどうだ? サクラは手裏剣で自分を傷つけたし、サスケはチャクラを練り上げているではないか。

 

「火遁 豪火球の術!」

 

 彼が見誤っていたのは、ナルトの存在であった。他者に勇気を与えることができるナルトの生き様と筋肉。そのどちらも理解できなかった大蛇丸が、勇気を取り戻したサスケの術によって焼かれるのは当然のことであった。

 

 ──倒した。

 

 火に包まれ煙を上げる大蛇丸の姿を見て、サクラは胸を撫で下ろした。焼死は残酷であるが、もし、手を抜いていれば自分たちの命はなかった。

 火達磨になりながら地面に伏す大蛇丸を見て、サクラは終わったと思い、地面の方にいるナルトへ目を向け、そして、座り込むサスケの方へと目を向ける。

 そこで、妙だなとサクラは気づいた。ナルトならば、疲れたように座り込んでいるサスケへと『大丈夫か』というように声を掛けるハズ。だが、特に動くことのないナルトの姿。

 

 感じた嫌な予感に従い、サクラは辺りを注意深く観察する。まずサクラの視線が向いたのは、焼け続けている大蛇丸の体がある場所だ。赤く燃える火に照らされて見えるのは黒い穴。サスケの位置からは燃える火に阻まれて穴は見えない。

 

 サクラの背筋を冷たいものが駆け上がる。

 

「サスケくん!」

 

 緊迫した声を上げるサクラだったが、もう遅かった。

 突如、サスケの後ろから地面を割り人影が現れる。それは顔の皮膚が焼け爛れた大蛇丸だった。

 

 ──サスケくんの豪火球を受けながらナルトに幻術を掛けたっていうの?

 

 動かないナルトの原因。それは幻術によるものと判断したサクラは大蛇丸の忍として完成された所作に慄く。

 攻撃を加えられながら、微細なチャクラコントロールが必要とされる幻術を使うなど人としての枠から逸脱している。自らの身を省みることなく、攻撃に転じるなど正気の沙汰ではない。

 

 だが、目の前では大蛇丸が土遁の術を使って、サスケの後ろへと姿を現している。迫る大蛇丸の魔手。

 サスケは自らに迫る危機を感じたのか薄く……嗤う。

 

「ラァ!」

 

 サスケは座った体勢から重心を前に落とす。前傾姿勢のまま、前に飛び出した彼の左手にはワイヤーの端が握られていた。

 

「あら?」

 

 サスケが離れると同時に、地面から大蛇丸を巻き取るようにワイヤーが現れた。豪火球によって視界が隠された時に仕込みをしていたのは大蛇丸だけではなかった。

 炎により、大蛇丸の視界から逃れたサスケは、自分のすぐ後ろの地面にワイヤーを円状に配置していた。

 サスケはその眼で見抜いていたのだ。自分の豪火球の術が大蛇丸の変わり身の術により無効化されることを。彼の写輪眼はチャクラを色で見抜く。一種のサーモグラフィーの役割すらある写輪眼は地面に身を潜めた大蛇丸を見抜くことができた。

 

 ワイヤーに絡めとられ絶体絶命の状況の中、大蛇丸は薄く……嗤う。

 まさか、あの状況でトラップを仕掛けることなど下忍程度では到底、不可能だと大蛇丸は考えていた。だが、サスケは自分の予想を軽々超えていく。

 

「火遁 龍火の術!」

 

 口にワイヤーの端を含み、サスケは術を発動させる。サスケが使う火遁 龍火の術はワイヤーを導火線として、ワイヤーの先にいる敵にピンポイントで火傷を負わせる術だ。攻撃範囲の設定が容易な術として、中忍以上の火遁使いの忍に好まれる術だ。別の使い方としては、ワイヤーが敵に巻き付けば全身に火傷を負わせることも出来る使い勝手のいい術。

 

 尤も、巻き付けば、だが。

 

「!?」

 

 サスケの表情が驚愕の色に染まる。

 大蛇丸の体に線がいくつも入ったかと思うと、大蛇丸の体がバラけた。多数の蛇に変化した大蛇丸の体。口寄せで呼び寄せた数多の蛇を人型に押し込め、チャクラで以って術者と同じ姿にする変わり身の術だ。

 

「サクラ!」

 

 一斉に自分へと向かってくる蛇の群れを前に、サスケは叫んだ。

 

「ナルトの幻術は解いたわ!」

「ナルトォ!」

「承知!」

 

 打てば響くナルトの声。サクラにより幻術を解かれたナルトが再始動する。

 サスケは間髪入れずにクナイを投げる。それに追随するナルトが征くは蛇の群れ。大の大人の腕ほどの太さの蛇の群れだ。常人ならば、脱兎の如く逃げる光景に違いない。蜷局を解き、戦闘態勢に移っている毒蛇の群れに飛び込むことは虎口に入るよりも勇気が必要となるだろう。

 

 そして、その勇気をナルトは持ち合わせていた。自分に飛び掛かってくる蛇たちを、その巨体とスピードを活かしたタックルで鎧袖一触と言わんばかりに吹き飛ばしながらナルトは駆ける。ナルトが進む先はサスケがクナイで指し示した一匹の蛇だ。

 

 サスケが投げたクナイが蛇に刺さり、蛇の動きを止めた。と、ナルトの拳が動きを止められた蛇を打ち据えた。轟音と共に土煙が上がる。

 

「何ッ!?」

 

 だが、そこには何もいなかった。

 変わり身の術と同時に大蛇丸は蛇に変化して、蛇の群れの中に潜んでいた。そのことをサスケの写輪眼は見抜いており、大蛇丸が変化した蛇を示しナルトへ攻撃の指示を下した。だが、そこには何もいなかったのだ。本来ならば、そこにはナルトの拳に打ち据えられ、変化が解けた大蛇丸がいるハズだというのに。

 

 ナルトとサスケ、そして、サクラまで蛇が倒される光景に注目していたために、大蛇丸の次の攻撃を防ぐことは叶わなかった。

 

「ッ!?」

 

 出来上がっていない少年の身では、命が懸かったギリギリの戦闘を長時間続けることは非常に難しかった。すでにサスケの集中力は途切れていた。その隙を逃す捕食者ではない。

 

「サスケェ!」

 

 サスケが思わず漏らした声に振り向いたナルト。彼の目には仲間の首筋に噛みつく捕食者の姿が映っていた。

 

「その歳で、ここまで写輪眼を使いこなせるとはね。影分身は見切れなかったけど、それでも十分、凄いわ。流石は“うちは”の名を継ぐ男ね」

「あ……ああ」

 

 もう用は終えたとばかりに捕食者たる大蛇丸はサスケの首元から唇を離し、後ろへ大きく飛び擦る。

 木の上から第七班の三人を見下ろす大蛇丸は全身の皮膚が焼け爛れていた。だが、彼はそれを意に介すこともなく、嬉しそうにサスケが苦しみ跪く様子を見ていた。

 

「やっぱり、私は君が欲しい」

 

 ぐらつくサスケの体を瞬身の術で傍に寄ったサクラが受け止める。二人を庇うように前に出て、その体で以って二人の姿を隠すナルト。

 焦燥に駆られる三人を見つめながら、大蛇丸は口を開く。

 

「改めて、自己紹介をさせて貰うわ。私の名は大蛇丸。もし、君が私に再び出会いたいと思うなら、この試験を死に物狂いで駆け上がっておいで」

 

 それはサスケへの言葉だった。

 

「“ボク”の配下である音忍三人衆を破ってね」

 

 木に体を沈めていく大蛇丸。

 

「待ちなさい!」

 

 サクラの言葉に聞く耳を持たないようだ。大蛇丸の体は木の中へと消えていく。

 

「ぐわぁ!!」

「サスケくん!」

 

 苦しむサスケ。震えるサスケの指にサクラは自分の指を絡める。心が少しでも落ち着くようにというサクラなりのサスケへの配慮だ。だが、効果はないようでサスケの体温が上がるのと比例してサスケの体の震えは激しくなる。

 彼を抱き締めながらサクラは一度、目を閉じてナルトを見上げる

 

「ナルト……お願い。サスケくんは任せて」

「承知!」

 

 それは、短い言葉。

 だが、ナルトはサクラの意図を読み取ることができずとも、サクラが求めている行動を取った。つまり、木に沈んでいく大蛇丸へと拳を振り上げたのだ。

 

「はい?」

 

 思わず、呆けたような声を出す大蛇丸。

 確かに、ナルトのスピードを読み切った大蛇丸ならば、彼が一瞬にして距離を詰めることができるということは分かる。だが、問題はそのタイミングだ。

 

 ──あの流れだと、普通は私を見逃すでしょ? そうでしょう?

 

 体を潜めかけていた木がチップ状に粉砕され、宙に飛び出しながら大蛇丸は唇を噛み締める。それは、自分のキャラに合った場面のメイキングができなかったことに起因するのかもしれない。戦闘に対する美学というものを理解していないナルトに対して憤りを感じながら、大蛇丸は森の中、奥深くへと入っていく。

 

 今、壮絶なる追いかけっこが始まった。

 

 +++

 

 陽が沈み、暗くなっていく死の森の中を駆ける一つの影があった。ロングコートを着た女性だ。それは、試験開始前に第二の試験の説明をした女性だった。

 

 みたらしアンコ。第二の試験の試験官だ。

 

 彼女は焦っていた。

 第二の試験が開始されてから、お汁粉を片手に団子を頬張り一息ついていたアンコの元に一人の中忍が現れた。その中忍がアンコに報告した内容は、変死体が木ノ葉の里の片隅で見つかったということ。そして、その変死体の持ち物から中忍試験へエントリーされていることが分かったことから中忍はアンコに報告したという流れだった。

 これだけならば、どこかの受験生がルール違反も気にせずに受験生を殺したというだけだとも取れる。試験官の許可がない戦闘行為は認められていないため、犯行に及んだ者を厳重に注意しなければならない。

 面倒臭いことになったと内心思いつつも、アンコは中忍の死体が“妙”だという言葉に引っ掛かりを覚え、変死体の元へと案内をさせた。

 

 その死体を見た瞬間、アンコの頭の中から全てが吹き飛んだ。変死体は正しく変だった。顔が溶かされたように無くなっている。そして、アンコはこのような死体を作ることができる術を知っていた。その術者を知っていた。そして、その人物の実力も。

 

 中忍に暗部2部隊以上の出動を要請させ、自分は一人で森の中を駆けるアンコは奥歯を噛み締める。

 

 ──早く見つけないと……完全な暗闇になれば、こっちが益々、不利になる。

 

 目に力を入れ、彼女は森の中を突き進む。

 と、アンコは目を細め、木の枝の上から身を翻す。

 

「どきなさい!」

「む!? 試験官殿?」

 

 アンコが降り立った先はナルトの前だ。

 

「そいつを殺すのは私の役目よ」

「無理よ」

 

 アンコが追っていた人物、大蛇丸は不敵に笑う。サスケが全身に負わせていた火傷はいつの間にか治っているが、顔だけは治せなかったのかベロリと皮膚が剝がれかかっていた。

 その顔を見つめたアンコの脳裏に変死体が持っていた身分証明書の写真が過る。焼け爛れて判断することは難しかったが、その特徴は変死体の身分証明書の写真と一致していた。

 

 ──やっぱり、あの術はコイツが……。

 

 アンコは大蛇丸から目を離すことなくナルトへ呼びかける。

 

「アンタはここから離れなさい!」

「しかし……」

「早くしなさい! じゃないと、死ぬわよ!」

 

 戦闘態勢に移ったアンコはナルトに離れるように指示するが、ナルトはその場から離れる様子はない。痺れを切らしたアンコは一つ舌打ちをして、気持ちを切り替える。

 ナルトを無視して、大蛇丸へと飛び出したアンコは瞬身の術で彼の懐に飛び込んだ。あまりにも、あっさりと大蛇丸の手を掴むことに成功したアンコだったが、その不自然さに疑問を抱くことなくアンコはクナイで以って、大蛇丸の後ろにあった木へと自分と大蛇丸の手を縫い付けた。

 冷静に事を運んでいれば、おかしいということに気が付けた。だが、アンコは一種の興奮状態にある。大蛇丸は彼女の師だった人物だ。かつて、彼女を教え導き、そして、彼女からの尊敬の念を一身に受けていた者だった。だが、彼は裏切った。彼女だけではなく、木ノ葉隠れの里をも。かつての師を前にして、冷静でいられようか? 少なくともアンコは冷静でいられなかったために、自分の命をも犠牲にする心中忍術を発動させようとしていた。

 

「忍法 双蛇相殺の……」

「フフ……自殺するつもり?」

 

 後ろから声がした。

 

「影分身よ」

 

 ボンと音を立て、アンコが捕まえていた大蛇丸の姿が煙となり消える。

 

「む!?」

 

 声がした方向にアンコと共にナルトも顔を向ける。木の枝の上に大蛇丸が優雅に足を伸ばして座っていた。いつの間に影分身と入れ替わっていたのだろうかという疑問を大蛇丸に問い掛けることも許されず、状況はナルトの目の前で目まぐるしく変わっていく。

 大蛇丸が印を組んだ瞬間、アンコが崩れ落ちた。首元を押さえ、跪くアンコの傍へとナルトは駆け寄る。

 苦しむ子女を見過ごすなどということは、到底、彼に出来ることではなかった。

 

 自分に対する攻撃はないと判断したのだろう。

 大蛇丸は顔に手を当て、焼け爛れた皮膚を剥がしていく。出てきた綺麗な顔は蛇を人間に変えたら、こうなるだろうと人に思わせるような、どこか爬虫類めいた顔だった。

 素顔を晒した大蛇丸はアンコへと声を掛ける。

 

「久しぶりの再会だというのに、えらく冷たいのね……アンコ」

「フン……」

 

 心底、嫌そうな表情を浮かべたアンコだったが、彼女も忍。特別上忍という地位にいる忍だ。少しでも情報を大蛇丸から引き出そうとする。

 

「まさか、火影様を暗殺でもしに来たっていうの?」

「いーや……いや、違うのよ! だから、少し話をさせて頂戴、ナルトくん!」

 

 頭のすぐ上を切るナルトの拳を避け、木の上を移動しながら大蛇丸はナルトに止まるようにいう。大蛇丸の話に聞く耳を持たないと言わんばかりのナルトの行動を止めたのはアンコの苦しむ声だった。

 すぐさま、アンコの元に駆け寄るナルトを見て、話が再会できそうだと考えた大蛇丸は再び口を開く。

 

「三代目の暗殺のためには、まだ部下が足りそうにないのよ。それで、この里の優秀なのに唾を付けておこうと思ってね」

 

 大蛇丸は目を細め、アンコの首筋に視線を注ぐ。

 

「さっき、それと同じ呪印をプレゼントして来た所なのよ。……欲しい子がいてね」

「くっ……勝手ね。まず死ぬわよ、その子」

「待ちなさい! 死なないから、サスケくんは死なないの! だから、話をさせて頂戴、ナルトくん!」

 

 先ほどの焼き直しのように、大蛇丸の頭のすぐ上をナルトの拳が切ったが、今度のナルトは大蛇丸の声で止まった。殴りつけて情報を話させるより、サスケに何をしたのかという情報を自ら話して貰う方が良いと考えたのだろう。

 再びアンコの元に戻り、彼女を支えるナルトの姿を確認して大蛇丸は再び口を開く。

 

「生き残るのは10に1つの確率だけど、私は確信しているわ。サスケくんは間違いなく呪印と適合する」

「……えらく、気に入ってるのね、その子」

「嫉妬しているの? お前を使い捨てにしたこと、まだ根に持ってるんだ、アハ」

「くっ!」

「お前と違って優秀そうな子でね……なんせ、うちは一族の血を引く少年だから。容姿も美しいし、私の世継ぎになれる器ね」

 

 やおら、大蛇丸は立ち上がる。

 

「くれぐれも、この試験、中断させないでね。ウチの里も三人ほど、お世話になっている。愉しませて貰うわ。もし、私の愉しみを奪うようなことがあれば、木ノ葉の里は終わりだと思いなさい」

 

 膝を曲げ、追撃の準備をするナルトの耳に呻く声が届いた。

 一瞬の逡巡。敵を排除するか、苦しむ女性を助けるか。ナルトは後者を選んだ。大蛇丸が居た場所へと目を向ける。そこには、既に大蛇丸の姿はなかった。残された白い煙を見たナルトから表情がなくなる。

 

 一転、表情を優し気なものに変えたナルトはアンコへと尋ねた。

 

「大丈夫か?」

「……ありがとう」

「礼には及ばぬ」

 

 ──己はまだまだだな。

 

 倒すことと助けることを天秤に掛けてしまった。一瞬の迷いもなく、助けるために動かねばならなかった。

 それに、力が及ばない。

 

 精進あるべし。

 ナルトは自らにそう誓うのであった。

 

 +++

 

 木の根が地上に出て空洞を作っている。その中心に寝かされているのは、意識のないサスケだ。隣にはサクラの姿もある。

 

 段々、呼吸は整ってきたけど……でも、まだ凄い熱。

 

 サスケの頭に水で濡らした布を乗せながらサクラは決意を固める。

 

 ──私がサスケくんを守らなきゃ。

 

 その決意を嘲笑うように、サクラたちを見つめる三対の目があった。

 

「フフ……見つけた」

 

 サクラを窺っていたのは音隠れの額当てを着けた三つの影。

 

「大蛇丸様の命令通り、夜明けと同時にやるよ。あくまでも、ターゲットは“うちはサスケ”」

「邪魔するようなら、あの女も殺していーんだな?」

「勿論」

「あの筋肉はどうする?」

「どうもしないさ。ただ、彼が戻ってきた時、そこには首と体が別れた仲間がいるだけって話さ」

 

 狩人は時を待つ。

 敬愛する里長に捧げる生贄を、どう調理しようかと考えを巡らせながら。

 


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