1984年、学園艦の旅 作:OTK
と思って書いてみました。
今回も今回とてガルパン世界の住民になったつもりでどうぞ‼︎
改定版の再投稿です。
スクール・シップ・ホッパー:その1
さて、読者諸君はスクールシップホッパーといえば何を思い出すだろうか。
大抵の田舎艦出身者は季節になり、飛行航路上に学園艦が到達すると挙って出かけたモノだろう。
私の出身校である大洗は大抵の年、冬がそのシーズンで、土日となればコンチネンタル・ミクロネシアのチャーター機でアンツィオ高校へと出かけたものだ。
海上の周辺校がチャーターした便だけあって、我が出身校を含め、雑多な学園艦に各駅停車して、人を積み込んでは吐き出す。
海上にあって他校との交流が比較的少ない学園艦に於いてはこの鈍行便が数少ない生徒交流の場であった読者も多い事だろう。
旅の常であろうか、こういった時の出会いに限って縁は長続きするものだ。
翌朝、かなり早いうちに起きた私は荷支度を済ませ宿を出る。
今回も今回とて、旅費節約の素泊まりだけあって飯を探しつつ空港へ向かう。
国民宿舎周辺は木に囲まれた立地もあって静かだ。
林越しに見える海はオレンジ色に染まり、周りの空を見事に染めあげている。
半分寝ている街は夏の熱気に半分程包まれているが、その静けさと海風が涼しさを演出し然程気にならない。
この風というのも、本土ほど街が過密でない学園艦だからこそ吹くものであろうか。
広い通りを一直線に突き抜ける潮風、学生時代には意識もしなかったものに新鮮さを感じる。
一見すると微睡みに包まれているこの艦だが、当番後の船舶科の気晴らしやら一般学生の眠気覚ましの運動、果ては戦車道の演習だったりと案外喧騒もあるものである。
なぜだろうか、懐かしいエンジン音を感じ、ふと後ろの林を見ると隊列を組んだ戦車が進む。
大会を前にした早朝演習だろうか、夏の終わりの始まりが来たことを感させる。
街を進むとランニングする生徒の足音に、徹夜明けの船舶科の生徒だろうか、ベンチに腰掛けプルタブ缶を開ける音、このつくづく健康的な朝はなんとも心地いいと感じるものだ。
学生時代、朝は寝ると決め込んでいただけあって、この早朝は卒業後数年経った今始めて経験する新鮮さがあった。
空港に近づくにつれ街は開け、クリアゾーンであろう防音林へと突き当たった。
そこを左折し、空港へと向かう。右に市街地左は空港、ここまではっきりと別れているのも学園艦以外じゃ離島くらいだろう。
通りに沿って歩くと旅行者向けであろう店舗が立ち並ぶ。
大洗の様な田舎艦は空港内は充実していないだけあって、周りにある店々の存在はありがたい。
しかし、その店々であっても今の時間帯に空いているといえばレストランか早朝営業の喫茶店くらいだろう。かといってここは天下の大洗、まごう事無き田舎艦だ。その喫茶店やレストランでさえ1店舗ずつほどしか開いていない。
私といえばOBの身でありながら早朝の作法は存じていない。
少なくとも私以上に作法を存じている友人に聞いて見ると、こういう時は喫茶店が良いそうだ。
カランカランと音を立てた扉の中はクーラーも程々で心地良いい。
友人に倣って頼んだメニューはサンドイッチ。
程よい焦げ目の付いたパンとシャキシャキのレタス、なんの変哲もないハムがなんとも言えず食欲をそそるものだ。
窓の外を見ると、林の向こうで紫の空をバックに駐機するヒコーキが見える。
今の心境を彼の曲の開始直前の台詞を引用しつつ書くならばこうだろうか、
そう 空港近くの喫茶店
でも私はデリケートなオンナだから
コーヒーミルの湯気のせいで
今日の日程を忘れるかもしれないね
こんな茶番が出来るのも早起きした甲斐あってだろうか、コーヒーで一服した頃には空は青く、日常が始まっていた。
さて、店を出ると前述した通りの青空が広がり、日光が私を照りつける時間が始まる訳だが、日光のつくづく偉大な力は潮風の恩恵を殆ど消し去る。
あと1時間もしないで機内の極楽、そう現実逃避しつつ私は空港横の林の木蔭を縫う様に進んだ。
道路の反対側にはコンクリートの林が聳え、夏の熱気が見て取れる様にわかる。
歩くこと数分で空港玄関に到達し、手短なチェックインを済ませ十数分後に迫る登場開始を待つ。
狭い待合室はエプロン側と市街地側双方が見え、大きい窓からはこれでもかと日光が照りつける。
本当の話、クーラーの効いた空港内はむしろ涼しいくらいなものだが、日差しのせいか搭乗機を確認する気力すら減衰させるものだ。
古人の言葉を借りるならば『家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。』といったところだろうか、
学生時代の冬場なんぞは例の鈍行便が来るのを、よくもまぁ飽きずにデッキから眺めていたものだ。
結局のところ冬場は厚着でどうにかなるが、夏はどうにもない。時は流れても摂理までは変わらないということらしい。
ぐだりながら時間を浪費するうちに搭乗時刻が来たようで、私を含め一同はドアの向こうにある陽炎へと吸い込まれていった。
コンクリートの地面はどうにも暑いが、それもあと数分もないと考えると足取りも軽くなる。
まだ駐機数も少ない中で乗る機体は昨日と同じDC-9-30-COD、尾翼の日陰は正しく極楽の始まりである。
機内の涼しさの中で第一目的地の千波単学園学園艦を目指す。一部の読者諸君にはわかるだろうが、今の季節は千波単学園が鈍行便の終着駅なのだ。
やがて機体はトラクターに引かれカタパルトへ向かう。今頃になって3点式シートベルトの有り難さを再確認するときが来た。来てしまったのだ。
反射板が上がる音が響いてからほんの数秒後に、カタパルトの射出音が機内に響く。
ゴとガの中間のような鈍い音を奏でながら感じる衝撃はかつての
街並みが斜め後方へと消え去り、青い世界に挟まれる中を飛んでゆく。
サーブされた紅茶で一服し、雑誌で時間を潰していると今年の12月公開の映画の項に目が行ってしまう。数年ぶりに復活したシリーズの最新作で、内容的にも文字通りの復活らしい。
その雑誌すら飽きて外を眺めていた頃、青い世界に再び疎らな島々が現れた。
窓の外に三原山が聳える頃にふと思い出したのだが、この山は件の映画の舞台である。
予告編を見るに、あの山はかの大怪獣復活の地に間違いないだろう。
伊豆大島の主たるその山の威容は、あの大怪獣の復活を匂わせるにふさわしいものだ。
それから少しして、飛行機は着陸態勢に入った。
海洋にいると余り気付かないことだが、陸と比べるとその舟の巨大さに圧倒される。
漁村一体を覆うほどの大きな影を落とし、凸凹に見えるその境界線は多く聳え立つ住宅地をかたどっている。まるで、東京の一部が抜け出てきたかのようだ。
2、3キロはある漁村の比ではない程の巨大さきさは、現代日本の繁栄の象徴と言って差し支えないだろう。
大洗よりも高い乾舷と他の学校とは一線を画す位置の艦橋、第一目的地の千波単学園に間違いない。
着陸の為に旋回すると、大洗と明らかに違う滑走路に目が行く。
その長大な滑走路は現代的な学園艦を象徴させるようなもので、まさにこの学園都市の玄関口であることを覚えさせるに相応しい。
空港横の街並みはある種、香港は
ドスン、と安定感のある音で陸地同様に着陸し誘導路を引かれて行くと、そこには羽田と遜色ないような数の垂直尾翼が並んでいる。
1時間未満の旅でここまでの違いが味わえるのだ。
これから先の旅路もまたそうに違いないだろう、楽しみであることこの上ない。