1984年、学園艦の旅   作:OTK

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今回も今回とて機内誌にありがちな紀行文風です。
ガルパン世界の住人になった気分で、どうぞ


大洗女子に沈む夕日

日本の学園艦には、ある種、物好きが惹きつけられるスポットが存在する。

少々大袈裟に書いてしまったが、それは神社なのだ。

戦前日本の国家神道政策によって、学園艦に於ける神棚はその規模からか神社程のサイズを得るに至っている。

艦を建て替えるに至っても神社一帯のブロックは、聖別された所とされ取り壊される事なく、先代艦の面影を残しているのだ。

八百万の神々が居座る我が国にあって祭神は様々であるが、大抵の場合は学校の地元の祭神が祀られている事が常である。

本校もその例に漏れず、大洗磯前神社より勧請された大己貴命と少彦名命が祭神である。

また、明治以降に学園艦が整備された我が国にとって、これらの神社が一切合祀されていないのも学園艦史を辿る上で重要なポイントの一つだろう。

学校の本拠地や母校によって異なる建築様式を持ち、各地方の風土を感じさせる神社は学園艦巡りをする上でも外せないスポットであるのだ。

 

 

空港を出た後、散歩がてらに昼食処を探しに彷徨った。

何といっても学園艦は名の通り学生による学生の為の都市である。通学路の沿線には安くて旨い店がいくつかあるものだ。

大洗といえば、あんこう踊りに代表されるように鮟鱇が名物となっているが、現在は8月下旬であり旬からは見事に外れている。

この季節は少々旬からはずれているが、シラスが美味い時期でもある。

学生向けの東京香る小洒落た店が立ち並んではいるものの、此処は旅先であり名物を食べぬ事には始まらない。

 

住民用の店舗だろうか壁側にはカレーライスからラーメンまで様々なメニューが所狭しと並んでいるが、中でも『期間限定 シラス丼: 500円』の文字が中央に鎮座している。期間限定とまで書かれていて、それを注文しないテはない。

私は時を跨がず注文し、やがて辺りの喧騒が聞こえるようになった。

気温自体は南国そのものであるが、時折窓越しに吹いてくる涼しい潮風がなんともいえずに心地良い。

熱い飯の上で光る生のシラスが、わざとらしいまでに美味さを自己主張している。

口に含むと薬味の風味とシラスの味が口に広がり、なんともいえず旨い。

生姜の風味が時折生臭さを掻き消して、全体的にさっぱりとした味は飯との相性も最高だ。

本当に美味しいものを食らうと人は自然と黙るものである。思わず無言になるがこれもまたオツなものだろう。10数年後の未来の言葉を借りるならば、この名台詞が当てはまるだろう。

「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず

  自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ …」

 

行楽シーズンの学園艦となると学生の帰省ばかりがクローズアップされるが、その逆も案外多かったりする。

停泊地の風土やら観光地やらから単なる観光まで生徒の親族が学園感を訪れることはよくあるものなのだ。この需要よって国民宿舎や第三セクターのホテルやらが整備されている訳で、今回の宿泊先はこの恩恵を享受した形になる。

官営の国民宿舎は料金も比較的安い為、我々の心強い味方なのだ。

観光的要素が少ない大洗は行楽シーズンを除いて満室はあり得ない為に、今回も楽に予約出来たのだが観光地と化した学園艦に於いてはそう簡単にいかない。

例えば、アンツィオ高校を例にするとその観光的需要からスクールシップ・ホッパーも出ている程に学園間の移動が盛んで、楯無高校やBC学園やら自由学園といった学園艦からアイランド・ホッピングの要領で各学園艦を結び、終着地である清水・アンツィオ空港からは連日多くの学生が吐き出されている。

私らや学生のような旅行者は予算の都合から知り合いでもいない限りは、挙って国民宿舎を利用する為に常に空室が少ないのだ。

幸いにも今回は行楽シーズンから外れていた為、比較的楽に予約をとる事ができたのであるがそれについては割愛したい。

 

さて、読者諸君も存じている事だが、この夏季休暇の中でも学園内には賑わいをみせるモノがある。

例えば、戦車道履修者は秋の大会へ向けての練習が佳境を迎える為に艦を離れる事はできない。船舶科は言わずもがなそう簡単に離れる事は出来ない。その為かその鬱憤を晴らすべくこの時期には決まって夏祭りが開催されるものだ。

一言に夏祭りとあっても、学校主催だけあって色々と制約がある。

例えば戦車道学科の為に開催は午後からであるし、船舶学科が一時的に操舵を自動操縦装置へ任せる関係で大洋に移動する事から正確な日付も流動的で、正確な日程が決まるのは開催の一週間前だ。

しかし、この流動的な日時こそがこの祭りの醍醐味といって良いだろう。

学生時代そうであったように居残り組の学生は1カ月以上前からコツコツと準備をし、今か今かと待ちわびる。

何処の学校にもこの季節と南国の混ざりあった恐ろしく怠惰な雰囲気を吹き飛ばす熱気があるものだろう。

 

我々第一の目当てであり大洗女学園の目的地は大磯神社から太平洋へと沈む夕日にある

現在、艦の西に位置する神社は、大洗磯前神社の分社であるがゆえか、他の学園艦程ではないにせよレプリカに近いものになっている。

この時間、鳥居の中、一直線に降りてくる夕日は隠れた絶景である。

嘗ての学園艦では一般的であった艦内神社もめっきり数は減り、旧来の戦後型を象徴するこの景色を見る事が出来るのはあと数10校も無いだろう。

筆者の世代ともなるとこの景色こそが我が青春を象徴する景色なのだ。

 

ふと、神社手前で買った炭酸飲料を口にする。無果汁のチープな味と共に広がる甘味は、ふと我が青春を思い出させる風味があった。




実の所、私が今作の舞台を80年代に設定したのは、私にとってエアライン的にも機材的にも最高であるからです。
機材が兎に角豊富なんです、DC-8にDC-9、クラシックジャンボもバリバリの現役ですし767-200やA300だって飛んでいる。最高ですね。
その上エアラインといえばパンナムが空の王者とあって、筆者の心が撃ち抜かれました

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