幻想郷の怖い話   作:ごぼう大臣

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五周目・二話目-東風谷 早苗 B

 「二話目、ですか。東風谷 早苗です。よろしくお願いいたします。

 まだ人間の若輩者ですので、どうかお手柔らかに。

 

 皆さん、地底の地獄跡をご存じですか?危ない場所なので、行ったことのない方もいるでしょうが・・・

 

 私の神社は少々あの場所と繋がりがありましてね。妖怪の山の地下に位置する焦熱地獄、そこで働く霊烏路 空(れいうじ うつほ)さんとは、特に深い関わりがあるんです。

 もう随分と前の事になりますが、私の神社の神奈子様が『幻想郷独自のエネルギー源を』と企んで、焦熱地獄の住人に力を与えた事がありました。その結果生まれたのが今のお空さんです。

 色々と大騒ぎにはなりましたが、最終的には地底にポンと強力な妖怪が増えた、というだけで済み、今は平和にやっています。

 ただ、本人はともかくその周り・・・私も含めてちょっと珍事がありまして。その話をしたいと思います。

 

 

 

 

 ある日、私がいつものように空を飛んで神社に帰る途中、切っ掛けの出来事がありました。

 空中なんて障害物がある訳でもなく、偶然誰かとかち合わないかだけ注意していました。スペルカードが普及して以来、身を潜められる地上ならともかく、空の上で手加減もなしに不意打ちしてくる輩なんてのはそうそういないものですから。

 だから、油断もしていたんですかね。急に、バシィッ、と頭に殴られたような衝撃が走りました。

 えっ、と思って辺りを見渡すと、視界の端に黒いものが映りました。一瞬でよく分かりませんでしたが、鳥のような・・・

 

 それが何だろう、と考える間もなく、後頭部に生暖かい感触がありました。咄嗟に手を当てると、ベットリとした液体がくっつきます。気味が悪くなって慌てて手を確かめると、同時に後頭部に鋭い痛みが走りました。

 

 ・・・あの殴られたような感覚のあった場所からは、ダラダラと血が流れていました。一度撫でただけなのに手のひらが真っ赤になるほどで、呆然としている間にも頬にツゥーッと液体が伝い、鉄臭い匂いが鼻をついてきます。

 

 急にさあっと背筋が寒くなって、とって返して永遠亭にいきました。幸い包帯を巻くだけで済みましたが、怪我は何かの爪痕、それも偶然ぶつかった等ではなく明らかに悪意があって引っ掻く、もとい抉ったものだと言われました。

 何処かで恨みでも買ったのかと言われましたが、そんな事はありません。ましてや心当たりは途中で見た鳥くらいしか無かったものですから、頑として首を横に振りました。診ていただいた方も深くは疑わず、とりあえず空を飛んで帰るのは止しなさい、と手伝いの人、ウドンゲさんを付けてくれました。

 永遠亭はご存じの通り迷いの竹林の中にあるものですから、ウドンゲさんの後をついて歩くのですが、そのウドンゲさんがまたどういう訳か、歩いている間中チラチラと上を見ては顔をしかめています。

 それがあんまり何度も続くので、流石に私も気になって『どうしたんですか?』と尋ねました。すると彼女は険しい顔で振り向き、こう言うのです。

 

『・・・念のため神社まで付いていくわ』

 

『え?どうしたんですか?』

 

『いいから』

 

 ウドンゲさんは言うなり私の手を掴み、引き摺らんばかりの勢いで駆け出しました。私は訳も分からず引っ張られるままに竹林を抜け、街道を突っ切って、幻想郷の中でほぼ正反対の位置にある妖怪の山のてっぺんの神社まで、二人で走り続けました。

 神社の見える場所に来てようやく止まったウドンゲさんは、はあはあと肩で息をしながら振り返って、未だ事態を飲み込めない私にこう言いました。

 

『しばらく一人きりで行動しない方が良いわ』

 

『どういう事です?』

 

私が尋ねると、ウドンゲさんはまた上を睨んで、

 

『奴らが狙っている』

 

 私がその方向を見ると、丁度夕暮れの赤く染まった空に、カラスが一羽、大きな黒い翼を広げてガアガア鳴いていました。

 

 

 

 

 神社に帰ると神奈子様は、私の頭に巻かれた包帯に大層驚いて、何があったのかと詰め寄ってきました。私はその時は人伝の推測が殆どだったのですが、

 

・カラスらしき鳥がぶつかってきた事。

 

・どうもそれは故意で、何らかの意図が感じられる事。

 

・ウドンゲさん曰く、カラスが自分を、特に一人きりの時を狙っているらしい事。

 

 ・・・等を話しました。神奈子様はカラスと聞いて山の天狗の仲間だと直感し、『どういうつもりか知らんが明日問い詰めてやる!』と息巻いて、ついでに今後出歩く時は私に伝えろと言ってくれました。

 

 そして翌日、私は大事を取って家で休んでいました。神奈子様は朝から天狗の集会所まで出向いて、昼頃に帰ってきたのですが、その顔色はどうにも浮かないものでした。曰く、

 

『天狗たちが集まっている場所で聞いてみたが、一斉にざわつくばかりで、誰も彼も覚えがないという面だった』との事。

 

 何も大勢の前で堂々と聞かなくとも、責任のある立場の人に警戒を促すとか出来なかったのか。家族ながら少々軽率に思いましたが、そこは性格と諦めました。

 とりあえずはこれで犯人が萎縮でもしてくれたら儲けもの。しばらく神奈子様が行動を共にしてくれる間に、天狗たちの方で身内の不届きものをあぶり出してくれたら、万事解決だ。その時は神奈子様とお二人でそう思う事にしました。

 それから、人里や霊夢さんの神社に行く時には神奈子様が逐一ついて来てくれました。ウドンゲさんの忠告通りカラスは二人でいると襲っては来ず、時々木の枝に止まったヤツがジッと睨んでくるのが目につく程度で、相変わらず災難の影はチラつくにせよしばらくは何事もなく過ごすことが出来ました。

 

 しかし、そんな状況が一ヶ月続き、頭の傷もすっかり痕が消えた頃、今度は天狗たちから不満が出始めました。

 なんでも、例の神奈子様の訪問からこっち、怪しい者がいないか調査をしたが、一向にそれらしき者は見当たらない、らしかったです。それだけなら誤解で済むのですが、連日、山を含めてあちこちを神奈子様が同行していましたから、わざわざあんな大物をいちいち動かすのはどういう事だと、天狗の一部が騒ぎだしたそうです。

 悪いことに、神奈子様の訪問と、犯人が見つからないこと、そして私が神奈子様に守ってもらっていた事が合わさって、天狗たちの警戒心を煽る結果になってしまいました。

 

 あまりその声が大きくなってくると、神社のお二人もむやみに山での立場を悪くはしたくないと、頭を悩ませるようになりました。

 私はといえば、未だカラスがどこかで見ているような気がしていましたが、神奈子様と諏訪子様にこれ以上迷惑をかけるのも気が引けて、つい、『もう一人で出歩けますよ』と言ってしまいました。

 お二人は揃って反対しましたが、私はもうずっとカラスは現れないし、そう何日も顔を覚えている訳ない、と押し切り、次の日からいつもの生活に戻ると決めました。

 

 そしてその翌日、私はいつもの人里の布教に出かけました。一人で行くのはま

だ少し怖かったですが、自分で言った手前それを表面に出さないようにして飛んで山を降りました。

 期間にしてみればちょっとの筈なのですが、一人で行くのは随分と久々な気がして、訳もなく辺りをチラチラと、何度も見渡しながらの飛行でした。何しろ以前のあの一撃は一瞬でした。バサリ、と羽音が聞こえた次の瞬間には、小さい獲物なら容易に殺せる蹴爪が食い込み、すぐに飛び去って行ってしまうのです。

 

 ただの向かい風程度でさえ、体がひゅっと冷えて肩がすくみました。下をふと見ると豆粒ほどの人と遥か遠くの地面が見えます。

 ただの一撃でも貰って、もし一瞬でも飛ぶのを忘れてしまったら・・・私の体など呆気なく潰れてしまうでしょう。そう思った途端、今度は首筋に嫌な気配を感じました。咄嗟に振り向くと、二つの視線がぶつかりました。

 カラスがいつの間にか、背後をついて飛んでいたのです。私は慌てて反射的に、そのカラスから目を離さないまま下に降りました。殆ど落ちるような勢いで、前も見えてやしませんが、気にしてはいられません。ただひたすら、そのカラスが私めがけて突っ込んでくるのではないか。その時はそれだけで頭が一杯でした。

 すぅーっ、と近づいてきた瞬間、思わず目をつぶっていました。・・・一拍して薄目を開けると、カラスが横を旋回して飛び去っていきます。

 ただの思い過ごしでした。ほっとして前に向き直ると、目の前にはもう地面が。慌てて体勢を直し、足を着けるとその拍子に地面を転がってしまいました。

 

 そこはちょうど里の入り口で、何人かがこちらを見てクスクス笑っていました。さっきまで怖がっていたのが途端に恥ずかしくなり、土を払って里に駆け込みました。

 

 それからしばらくは何事もなく里を回っていました。往来を沢山の人が行き来し、平和に挨拶を交わす中では襲いかかる者などいやしません。

 それでも、心の中では恐れていました。一旦いつもの調子に戻っても、長屋の屋根に一羽でもカラスがいたら表情が固まり、作り笑いで誤魔化して逃げる。そんな事が何度も続いたのです。里の外に出れば奴等が追いかけて来るのではないか、そんな恐怖にかられて私はいつまで経っても里の中を歩き回っていました。

 

 そんな事をしているうちに一時間経ち、二時間経ち、とうとう夕方になってしまいました。遠くを見渡すと、オレンジ色の空を飛び回る沢山のカラスが。

 なんて事ない筈の風景ですが、私は不安で胸がスッと冷たくなるような気分でした。カアァ、カアァ、とよく通る鳴き声がどうにも耳障りで、それでも山まで帰らなければいけないと、沈んだ気持ちは晴れる事はありません。いつまでもぐずぐずしていたら日が暮れてしまいます。

 

 しかし、いざ帰るという段になって、来るまでの事を思い出しました。空を飛んでいる最中にもし、襲われて落ちてしまったら・・・・・・

 これからの時間、視界はまず暗くなりますし、あの時より数も増えるかもしれない。そう考えて、時間はかかるけれど山道を走って帰る事にしたんです。

 

 出来るだけ早く帰りたくて、不安にせき立てられるように里からの道を走りました。しかし太陽は容赦なく沈み、さっきまで茜色に眩しく照らされていた景色がみるみる藍色に染まっていきます。

 ようやく山の麓に辿り着き、山中に足を踏み入れた所で、よりによって周りはスッポリ暗くなってしまいました。樹も、茂みも暗い色に溶けて、歩くだけでも難儀する程です。

 

 それでもまだ普通に通れる場所では見張りの白狼天狗の方々がいたりして、まだ安心出来ました。しかしこれが少々奥まった道になったりするとそうは行きません。周りに誰もおらず目の前は何があるかもろくに見えない。おまけに足下は整地などされていないボコボコの道で、所々木の根が張り出しています。鍛えた妖怪なら勝手は違うのでしょうが、私はそうもいきません。

 幾度も躓き、足を滑らせました。気づけば靴は泥だらけで、足首にも擦り傷が。たまらず傍らの樹に手をついて、ほう、と一つ息を吐きました。

 その時です。

 がさり、と背後の頭上で木の葉の擦れる音がしました。反射的に振り返りますが、樹に生い茂った葉の、その中に紛れた何かなんて夜の闇の中では分かりません。

 しかしどうしても見られている感覚は消えず、ぎこちなく回って辺りの樹を見渡しました。

 山の狭い道だと木の葉に上から覆われているような格好で、その時も真っ黒な樹の影の隙間から、辛うじて細長い夜空が見えただけです。それらを見上げているうちに、何だか樹にぐるりと取り囲まれているような錯覚がしました。更にはその取り巻く樹の枝という枝に、カラスたちがびっしりと停まってこちらを見下ろしているような気さえしてきたのです。

 

 体が強張り、冷たい汗が流れました。

その瞬間、見上げてばかりいたせいでつい、クラリとよろけてしまいました。あ、と気づいた時には、私は呆気なく山道に転がりました。

 その時狙いすましたかのように、カラスがバサバサと群れになって向かってくるのが仰向けの視界一杯に映りました。咄嗟に顔を庇い縮こまると、全身を刺されるような痛みが襲いました。

 目は腕で覆うのが精一杯で、クチバシでつつかれているのか蹴爪で引っ掻かれているのか分かりません。耳には羽ばたく音や煩い鳴き声がわんわん響き、蟲にでも集られたようです。

 動く事すらままならず、ただ目をぎゅっとつぶり、ここで死ぬかもしれないとさえ考えました。

 しかしその時、急に遠くから誰かの大声が響きました。

 

『こらーっ!!!』

 

 その途端、カラスはバタバタと遠くに散り、私は傷だらけの所で解放されました。誰が助けてくれたんだろうとボンヤリ思っていると、声の方向から足音が近づいてきて、私は恐る恐る、その方向に目を向けました。

 

『大丈夫?』

 

 上から屈んで声をかけてくる誰か。体を包み込めそうな大きさの翼を持ち、胸元に赤い眼のアクセサリーをつけた女の子。霊烏路 空さんでした。

 

『立てる?早苗』

 

 差し出された手を取り体を起こすと、ズキズキと痛みが走りました。さっきまで恐怖で気づきませんでしたが、腕から血が流れ、服もズタズタです。

 樹を背にしてお空さんと並んで座りました。しばらくは安心感に浸ったままはぁはぁ息を交換していましたが、お空さんが黙ってこちらを見ているので、ふと気になりました。

 

『お空さん、そういえば何故こんな場所に?』

 

 いつもは地底にいる彼女が、地上の、それも日の暮れた山の中を出歩くのは珍しい事です。何か用でもあったのかと尋ねると、お空さんはふっと眉を下げ、目を伏せました。

 そして、声を潜めてこう言うのです。

 

『早苗、さっきカラスに襲われてたでしょ?』

 

『ええ、助かりました』

 

『あれね、地獄にいるカラスなんだ』

 

 え、と洩らした後、ああそうか、とふと気づきました。

 カラスといえば山の連中を見慣れていましたが、地底の地獄にも別種のカラスが住んでいたのです。地底の皆に話を聞かなかったのは盲点でした。

 

 しかし、何故私が地底のカラスに狙われているのでしょう。そう聞くと、お空さんは苦々しそうにこう切り返しました。

 

『私、元はただのカラスだったのが、力を貰って強くなったでしょ?』

 

『はい』

 

『でもね、それから他のカラスの皆に嫉妬されるようになっちゃったんだ。お前だけずるいーって』

 

 地底のカラスは通常、地獄に放り込まれた死体などを喰らって強くなるのですが、それではイッパシの妖怪になるまで長い年月が必要です。お空さんはそれよりは遥かに短い期間で飛躍的に力を伸ばしたのですから、他のカラスからのやっかみも頷ける事でした。

 更に彼女はこう続けます。

 

『そこで、早苗が狙われたの』

 

『どういう事です?』

 

『早苗、現人神でしょ?』

 

 ・・・私は人間の体ですが、諏訪子様の子孫で、神様でもあります。信仰が集まれば死後は本当に心身ともに超越した存在になるかもしれないとか言われますが、それはいつ死んでも良いわけでは決してありません。

 今は少なくとも死ねばそれっきりです。

 

『アイツラ、早苗の死体が目当てなんだ。人間の体でも、いやだからこそ今の内に食べて、一気に強くなるつもりなんだよ』

 

 お空さんが唇を噛み、腹立たしげに首を振りました。

 その横で私は、全身の傷を見ながら今までの事を思い返し、震え上がっていました。本気で彼らは殺す気だった。少しでも間違えば私は今頃、そしてこれからだって・・・

 

 生唾を呑み自分の体を抱いていると、心配そうに覗き込むお空さんと目が合いました。あ、と慌てて愛想笑いをすると、お空さんはしょげた顔で一言『ごめんね』と呟きました。

 

『え?』

 

『だって、元はといえば私が強くなって、こんな事に・・・・・・』

 

 お空さんはどうやら責任を感じていらっしゃるようでした。しかし勿論そんな必要はないと否定します。そんな事を言い出せば発端は力を与えた神奈子様ということになってしまいますから。

 でも、彼女は浮かない顔のままです。心配してくれているのでしょうか。確認するようにポツポツと、こんな事を聞いてきました。

 

『早苗は、私と同じように強くなれないの?』

 

『多分無理でしょうね、体の方が耐えきれません』

 

『人間の魂は・・・無理か』

 

『消化器官がないです』

 

 私が強くなって心配せずに済むよう、色々と考えてくれているようでしたが、どれも妖怪ならではの方法で参考にはなりません。

 気持ちだけで十分ですよ、そう言おうとした時。

 

『あ、そうだ!』

 

 お空さんが急に思い立ったように立ち上がり、空に飛び立ちました。慌てて追いかけようとしましたが、彼女はチラリと振り向き、『早苗はここで待ってて!』と叫んで行ってしまいました。

 

 しかし、私はその通りに出来ませんでした。既に真っ暗な山の中に、またいつカラスが襲ってくるかも知れない中で一人きりではいられません。とうに闇の中に消えてしまったお空さんを追いかけようと、身を乗り出しました。

 

 でも、傷だらけでさっきまで座り込んでいた体は、思い通りに動いてはくれませんでした。

 斜面に足がもつれ、よろよろと横によろめき、私は道を外れて身を乗り出していました。

 

 その時の光景は、スローモーションで覚えています。捕まる物もなく、所々岩肌の剥き出しになった急な斜面が眼下に広がり、どんどん視界の遠くにあったものが近づいてくるのです。

 叫ぶ間もなく、強い衝撃を受けて斜面を転がり、頭にガツンという音を聞いて私は意識を失いました。

 

 

 

 

 ・・・次に目覚めた所は、永遠亭のベッドの上でした。

 両脇には諏訪子様と神奈子様がおり、『あんまり遅いから探しにいったら、山の中腹に倒れていたんだ』と聞かされました。まさか山を歩いて帰ると思っていなかったから大慌てだったそうです。

 ともあれ幸い命に別状はなく、二人とも良かったと胸を撫で下ろしていました。

 しかし、私は一つ気になる事がありました。

 

『あの、お空さんがいませんでしたか?』

 

『へ?知らんぞ。なんでアイツがいるんだ?』

 

 お二人はきょとんとしていました。あの時『待ってて』と言ったまま、結局は戻って来なかったようです。

 しかし、あんなに突然何をしに行ったのか・・・見当もつかず首をひねっていると、部屋にパタパタと入ってくる足音がしました。

 同時に諏訪子様と神奈子様が『う』となにやら呻きます。

 

『やっと見つけた~』

 

 お空さんでした。よほど急いでいたのか息を切らし、ズルズルと大きな荷物を引きずっています。

 

『・・・・・・・・・』

 

 私が何も言わずにいると、お空さんは私と諏訪子様たちにペコリと頭をさげました。

 

『ごめんなさい。私が思い付きで動いて、早苗を置いてっちゃって』

 

『い、いえ良いんですよ。謝らないでください』

 

 彼女に何かされた訳ではありませんし、お空さんがどこか間の抜けた思考をしているのは知っていたので、そこは気にしませんでした。しかし、それよりもずっと気になる事が、一つ・・・・・・

 

『お空さん、その格好は・・・』

 

 彼女は血塗れでした。引きずっていた荷物、縄で封をした麻袋は二抱え以上の大きさがあり、中から滲んで溢れた血が運んできた路に合わせて赤い筋をつくっています。

 一目見て言葉を失うには十分すぎました。

 

『あ、これね。待ってて、今開けるから!』

 

 お空さんは私の内心を知ってか知らずか、意気揚々と袋を開けはじめました。縄をほどいた瞬間、鉄臭い臭いが漂っています。

 

『ちょっと手間取ったけど、腐ってはいないはずだよ』

 

 そして、袋の口を広げ、こちらに見せてきた瞬間・・・!

 

『きゃっ!』

 

 危うくまた気を失う所でした。袋の中には、血だるまになった死体が一杯に詰め込まれていたのです。驚いて目を離せずにいると、死体の頭に小さく角が見えました。恐らく地獄の住人です。

 

 お空さんが手にかけたのでしょうか。そう思って彼女を見ると、お空さんがニッコリ笑ってこう言いました。

 

『妖怪のお肉なら食べられるでしょ?そうしたらきっと体も変わるよ!ほらどうぞ!』・・・って。

 

 

 

 

 ・・・それから、地霊殿に手を回してカラスの件は何とかなりました。

 しかし、価値観の違いとは恐ろしいものですね。お空さんやお燐さんが以前やってきた事と、立場を変えれば大差ない筈なのに・・・・・・

 

 彼女は純粋といえば純粋なのでしょうか。なんだか人間やめて神になるのが怖くなってきましたよ。

 

 私の話は終了です。ありがとうございます」

 


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