幻想郷の怖い話   作:ごぼう大臣

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二周目・二話目―レミリア・スカーレット

「はじめまして皆、レミリア・スカーレットよ。といっても知ってる顔のが多いかな。

さて、私は二話目かぁ・・・。あら、一話目で結構時間が過ぎちゃっているじゃない。これは七話となると遅くなっちゃいそうだわ。阿求は大丈夫?・・・そう。退屈はさせないから安心して。まあ、私の話しか保障出来ないけど。

皆も頼むわよ。私は退屈が大っ嫌いなの。三分でも暇だと一時間耐えた気分になるわ。私の人生の時間は貴重なの。

 

さて、時間ね・・・。怖い話、身内に聞いた事を話しましょうか。」

 

 

 

 

「私の館には、メイドが沢山いるわ。でもほとんどが妖精で、仕事も出勤も滅茶苦茶。ハッキリいって従業員としては赤点ね。

で、仕事はどうしているかというと、メイドをまとめる長がやりくりしているの。

その子の名は"十六夜 咲夜"。人間なんだけど、真面目で手際が良くってね、私も重宝しているの。"元"人間でもなしにそんな立場に就かせるの、後にも先にもあの子だけだと思うわ。

ただ、仕事の能力もさる事ながら、あの子を気に入る理由は他にもあるわ。

 

それが、"時を止める程度の能力"。

 

嘘みたいでしょ?でもあの子には出来るのよ。あの子は小さな懐中時計を持っていてね、スイッチを押すと時間が止まる・・・らしいわ。いや私も見たことは無いんだけど、なんでも自分以外の全てが静止した世界で動けるんですって。

それを活用すれば、十分間に一人だけ二十分間分の仕事が出来るのよ。これがあの子が人並み外れた仕事を出来る理由。周りでボンヤリしてすぐ辞めていく妖精メイドには、その分愚痴を溢していたけれど。

 

―でも以前ね、その咲夜に一人だけ、なついた妖精メイドがいたのよ。普通は滅多に無いんだけど、その妖精は気に入られたくて、仕事を一生懸命覚える殊勝な子だったわ。

まあ妖精の頭だしたかが知れたものだったけど、一ヶ月、二ヶ月・・・半年も続ければおのずと周りより仕事は出来るようになる。普通はそこまで続かないしね。でもその子は顔を覚えられた頃から更に奮起した。

お陰で信用もされて、仕事も任されるようになったある日の事だった。

咲夜が例の妖精に、自分と同じ型の懐中時計をプレゼントした事があった。初めて聞いた時は驚いたわ。あの子が一介のメイドを気にかけるだけでも珍しいのに、贈り物をするだなんて。それも香霖堂で一個だけ置いてあったんですって。

まあ、単に贈り物って何にしたらいいか分からなかったのかもしれないけど、とにかく贈られたメイドの方は大喜びでね。周りの同僚から私にまで見せびらかして、仕事中も誇らしげに、周りに見えるように着けていたわ。懐中時計なんだからしまっておきなさいっての。

 

そうしてしばらく経った、ある日の事。

咲夜がいつも通り時間を止めて仕事をしていた時、遠くから呼ぶ声がしたの。

 

『咲夜さーん!』

 

最初は空耳かと思ったわ。だって今まで、時を止めた世界で声を出せた者なんていなかったもの。けど今度は足音がパタパタと近づいてくる。確実に誰かが活動して、それも接近して来ている。万が一敵意があれば一大事、一体何者だ。と咲夜は振り返った。ところが。

 

そこにいたのは、見慣れた顔だった。そう、あの妖精だったのよ。

さぞかし目を丸くしたでしょうね。今まで誰にも破られた事の無い能力を平然とした顔で無視して、更にその相手が妖精と来たんだから。

呆気にとられている咲夜に妖精は駆け寄って、プレゼントされた時計を満面の笑みで掲げた。

 

『咲夜さん!私、時間を止められるようになりました!咲夜さんとお仕事出来ますよ!』

 

咲夜はすぐには信じられなかったわ。今まで同じ力を持つ、それも後から妖精が獲得するなんて考えもしなかったでしょうね。でも周りを改めて見渡せば、相変わらず誰も彼もピクリともしない。自分と、妖精の二人を除いてね。

考えてみれば、自分と長く一緒にいた事、そして同じ型の時計を持っていた事。他の連中とは違う要因はない訳じゃなかった。

あの子は物分かりも良くてね、そういう事なら、それでいいと。じゃあ今までに増してよろしくね、なんつって仕事の毎日に戻ったわ。何しろ咲夜自身、その能力には前例が無いことが分かっていたから、原因の見当がつく以上気にしても仕方なかったんでしょう。事実それからしばらくは、咲夜も楽になって問題なくやっていたそうよ。

 

・・・ただ、咲夜の経験則しか当てにならないとなると、あれは予想がつかなかったんでしょう。

あんな形で新たな発見があるとはね」

 

 

 

 

「・・・ある日、その日は特別忙しく、二人で時間を止めて駆けずり回っていたそうよ。そんな時、廊下で走っていた二人がぶつかりそうになった。

 

何しろ館の住人はほぼ全員固まっているからね。廊下は走らないなんて律儀に意識してなかったんでしょう。

 

『ご、ごめんなさい!』

 

妖精は、咲夜に怪我をさせては大変と、強引に脇に寄って走り抜けた。お陰で咲夜はなんともなかったけど、代わりに妖精の方が、盛大によろけてしまった。

 

『わったた・・・!』

 

悪いことに、妖精の進んだ側には階段があってね、妖精はなすすべもなく階段から転げ落ちていった。叫び声とドスンという鈍い音、そして最後に何かが砕けたような金属音が響き渡った。

 

『大丈夫!?』

 

『は、はい・・・』

 

妖精だから、体の方は問題なかった。妖精はゆっくり起き上がって、懐を探ったわ。でも探していた物は、傍らの踊り場に転がっていた。・・・そう。あの時計よ。無惨にもネジが飛び出してボロボロになっていたわ。

その時、妖精がどんな顔をしたかは想像に難くないわね。ずっと持っていた自分だけのプレゼントを、よりによって贈った本人の前で台無しにしたんだもの。予想通り時計の残骸を拾い上げて、その子はみるみる泣きそうになっていった。

これには流石に咲夜も弱ってね。時間停止どころじゃないと、能力を解いてとりあえず慰めようとしたの。

でも、まだ悲劇は終わっていなかった。

 

咲夜が、解除の為に時計のスイッチを押した、その瞬間。

 

目の前の妖精の姿が、フッと消えた。

 

一瞬目を疑ったわ。どこか解除を失敗したか、と狼狽えたけど、背中の向こうからは他のメイドの話し声が聞こえるし、窓の外では小鳥が飛んでいる。間違いなく元の世界だったわ。目の前にいた筈の妖精を除いて。

咲夜は、もしやと思い再度時を止めた。すると目の前に、しくしく泣いている妖精が、元通り動いていた。

何度か時間停止と解除を繰り返した。でも、何度やっても例の妖精だけは時間を止めた時にしか見えなかった。もうワンワン泣き出して抱きついてきているのに、時間が動くと消え失せて、泣き声もなく、すれ違う他のメイドも気づく様子は無かったらしいわ。それどころか咲夜本人も、さっきまで触れていた感触まで嘘みたいになくなった。

 

・・・分かるかしら?時間が動いた瞬間、存在を確かめられるものが何一つ無くなるの。」

 

 

 

 

「・・・それから、妖精とは時間を止めた間だけ、咲夜だけは触れ合えるんですって。

あれから妖精もあちこちを歩き回ったけど、誰も気づいてはくれなかった。触れもしない。周りは、世界は滞りなく回っているのに、まるで時間を止めたあの時のように自分だけの別世界があった。

解決策も見つからないままよ。さっきも言ったけど能力には分からないことが多すぎる。そもそも騒ぎにすらならないわ。妖精の出入りなんて皆把握していないもの。

・・・かくして、気にかけているのは咲夜だけ。仕事の合間合間に、なるべく話しかけているらしいわ。

 

・・・このケースが咲夜にも起こりうるかは分からない。ただね、最近例の型の懐中時計を探して、予備に渡そうと思っているの。

 

・・・何しろ、ここ数日は咲夜を見るなり時計を叩き壊そうとしてくるんですって。

その時の様子は秘密にされたけど・・・話している時の咲夜の形相よりも、きっと酷いんでしょう。

 

・・・私の話は終わり。時間は短く済んだかしら?」


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