幻想郷の怖い話   作:ごぼう大臣

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始めまして。ごぼう大臣と申します。

お読みいただく前にいくつか注意点を記しておきたいと思います。

※以下の要素が含まれます。

一 東方project二次創作

二 ホラー

三 SFCソフト『学校であった怖い話』

なお、三についてはご存じでない方も楽しんでいただく事は出来ると思います。

よろしければどうぞ。


プロローグ

 

幻想郷の"七不思議"。

 

秋も深まってきた頃、そんな噂を耳にした。

阿礼の時代から脈々と記憶を受け継いで九代目になる私でさえ、そんなものは初耳だった。というより調べる必要が無かったのだろう。人妖を取り巻く状況も、互いの著名な者の頭数も目まぐるしく変化する故に、そんな真偽の怪しい噂話にかまける暇など無かったに違いない。

しかし、今は状況が違う。幻想郷が出来た当時と比べれば随分と平和になり、人と妖怪を隔てる壁を意識する事は少なくなった。そうなると下らなさを感じさせつつ興味深い件の噂、聞いてみたいというモノである。

 

とまあ、そんな訳で屋敷の者に滅多に無い駄々をこねてみた所、思わぬ具合に話が進み、人、妖怪を七人集めて話を聞かせて貰える、という事になった。私は屋敷に籠りっぱなしの所に従者から聞かされた為に寝耳に水だったのだが、そこは幻想郷、何処かの天才妖怪が気まぐれで手を回してくれたのだろう。

 

そして今夜、ついにその時がやってきた。メモに纏めたら小鈴にも見せてあげよう。

 

 

 

 

・・・ざく、ざく、と土を踏む音がヤケにハッキリ響く。夜道というのは音一つとっても神秘的、そして不気味だ。

実は、皆が集まるのは私の家、つまり稗田邸では無かった。なんでも、人里の中にある私の家に外から七人も居座れば不穏に感じる者は少なく無いだろう、との考えである。そこで「皆が知っている場所」という事で博麗神社に集まる事になった。霊夢さんが苦言を言うと思われたが、説得かはたまた買収でもしたのか快く(某天才妖怪談)貸して頂けるらしい。

ともあれ、私は夜の博麗神社への道を急いでいるという訳である。

 

・・・もう既に月は高く上っている。満月らしく円い光がぽっかりと闇の中に浮かんでいる。ただ、薄い雲でもかかっているのか輝きがどこか鈍って見える。そう思ったせいだろうか、ひゅう、と吹いた風がふと生温く感じた。もう秋だというのに湿り気を帯びた空気が頬を撫でる。白紙の帳面を持つ手が何時の間にか汗ばんでいた。

 

「・・・見えてきた。」

 

小高い丘の上に、ポツンと明かりが漏れている。それがうっすらと鳥居を浮かび上がらせていた。

とす、とす、と階段を一段登る度に乾いた石を砂が滑る音がする。明かりがついているからにはもう誰かいるだろうに、話し声一つ聞こえて来ない。

やっと階段を登りきり足早に玄関に近づき戸を叩く。

 

・・・出ない。もう一度叩いて待ってみたが、やはり誰も出なかった。皆縁側の戸からでも入ったんだろうか。それとも私を待ちくたびれて痺れを切らしているのか。時間には遅れていない筈だが。

 

そっと戸を開け、土間に草履を揃えて廊下に上がる。するとすぐ右手にある部屋の障子から灯りが漏れている。なんだ、すぐ近くに居るんじゃないか。

 

「失礼します」

 

一つ断って戸を開ける。すると既にいたらしいメンバー達が一斉に私を見た。記録上全員は知っていたが、中には面識すらない人もいる。少し緊張したが、会釈して後ろを閉め空いた場所に座ると、すぐに視線を戻し、無言になってしまった。私もなんだか言葉を発するのが躊躇われ、正座したまま時折視線を泳がせる事しかしなかった。

 

・・・どの位そうしていただろうか。畳に掛け軸以外に目立つものは壁に掛けられた時計のみ。それがカチカチと時を刻む無機質な音が、延々と響く。気まずくなって俯いたまま目だけでグルリと辺りを見渡す。すると、ある事に気付いた。一、二・・・六人しかいない。おかしいな、話では来るのは七人の筈・・・

 

「・・・貴女が、七人目の人?」

 

伏し目がちだった一人がチラリと目を向け訊ねてくる。一瞬ドキリとしたが、努めて平静を装い答える。

 

「いえ、私は聞き役で来ました。稗田阿求です」

 

「そう・・・」

 

その人はコクリと頷くと、また元に戻ってしまった。いくら私が皆と面識が少ないからって、あんまりな扱いだ。七人目は未だに来る気配は無いけど、このままじゃ埒が開かない。

私は皆を見渡すと、意を決して話し出す。

 

「あの・・・メンバーが一人足りませんが、そろそろ始めませんか?」

 

こくん、と自分で唾を呑み込む音を聞いた。皆はジロリと顔を見合わせ、無言で頷く。最後の一人が面倒臭そうに頷くのを見てから、気を取り直して言った。

 

「それでは、始めましょうか。」


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