艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第四話 戦術というものはこう実現するものだ。

 

赤城たち6人の艦娘は白波を蹴立ててドックから出撃していった。まだ初夏の陽光があたりの青空から降り注ぎ、波しぶきを光で彩っている。それに呼応して吹き寄せてくる熱をはらんで風が艦娘たちの闘志を掻き立てていった。いつの間にか恐怖は消え去り、全身のあらゆる筋肉は目の前の深海棲艦たちを撃滅すべくいつでも対応できるように熱をはらんでいる。

 久しぶりの戦闘という事もあったが、もう一つの要因が彼女たちの気持ちを高揚させていた。

『フロイライン・アカギ。』

ラインハルトの声が赤城の耳元の通信機から聞こえる。赤城は聞こえていますというように強くうなずいていた。

『艦載機を発艦。目標12時方向の敵戦艦2隻。そのほかの敵には目をくれるな。フロイラインの精鋭をもってあの敵戦艦を沈めよ。』

「了解です。」

『フロイライン・コンゴウ。』

「hey!!テイト・・・う~ん、違いましたネ。ラインハルト!なんですカ?」

『全艦隊の要はフロイラインの主砲にある。フロイライン・アカギの艦載機が敵戦艦を攻撃しだい、それに呼応して側面から主砲斉射。これを粉砕せよ。』

「了解ネ!任しておいて!」

『フロイライン・テンリュウ!』

「おう!俺は何をすればいい!?」

『フロイライン・ユウダチ、フロイライン・ウシオ、フロイライン・アケボノを率いて相対4時方向から10時方向に全速航行突撃。敵の中枢を突っ切れ!フロイライン・アカギの艦載機が敵を攻撃する直前にだ!』

「なんだって!?敵の弾幕の中を突っ切れってか!?お前、何を考えていやがる!?」

『うろたえるな!資料によれば敵艦隊の速度は20ノット弱、対するにフロイラインらの速度は30ノットを超える!10ノット以上の速度差であれば、敵の練度における諸元固定にかかる時間を計算してもなお余裕があるではないか。速度に勝る軽快な水雷戦隊であれば、敵の砲撃などおそるるに足らない!』

そう言われると、天龍たち4人はあっと言う声を出した。速度で勝るこちらならば敵が諸元を入力する前に全速航行でつっきり、その合間に攻撃を撃ち込めばいいだけだ。

 

 だが、ラインハルトの指示はその予測を超えたものだった。

 

『敵を分断せしめたのち、フロイライン・テンリュウらは全力を挙げて敵重巡以下を引き離しにかかれ!!』

というものだった。要するに陽動艦隊になれと言うのだ。

「なんでだよ!?俺たちにも戦わせろよ!」

天龍の怒声に引き続き、曙も、我慢ならないように叫んだ。

「このクソ提・・・じゃなかった!どうしてそうなるのよ!私たちだけ囮なの!?」

『慌てるな。五分以上の敵と正面からやりあおうというのか?』

4人は顔を見合わせた。言われてみるまでもなく、このメンツで重巡戦隊を相手取るのはいささか無理がある。

『私が司令室で見た資料によると、司令基地西側海域には機雷が敷設してあるそうだな。』

「そうか!わかった!」

天龍が叫んだ。他の3人もすぐに理解したらしい。

「任せろよ!敵がしっかり食らいついて離さないほどに挑発してやるぜ!」

うなずき合った4人は赤城を見た。彼女も信じられないような顔をしていたが、ラインハルト・フォン・ローエングラムの提案してきた案は大胆かつ今までにないものだった。各個撃破。ただそれだけなのだが、それぞれがそれぞれの役目を今の状況下で最大に引き出せるように配慮してくれていると赤城は思った。

「わかりました。やりましょう!皆さん!」

『応ッ!』

他の5人も高らかに応え返し、天龍たち水雷戦隊は猛速度で白波を蹴立てて敵に接近し始めた。敵の注意が彼女らに集中する。その時には赤城は艦載機を虚空に次々と放っていた。姿を変えた九七艦攻と九九艦爆はそれぞれ二手に分かれて敵戦艦を挟撃するように向かおうとする。

『フロイライン・アカギ、慌てるな!何のための囮か!?フロイライン・テンリュウらが敵の注意を引き付けてくれているではないか!!死角から突撃させろ!!』

ラインハルトの叱責が飛ぶ。赤城はうろたえながらも艦載機隊に指示を下し、何とかラインハルトの指示する攻撃位置につかしめることができた。

『今だ!!卿ら、全速突撃だ!!』

ラインハルトの号令に天龍たちは全速力で敵の前面に突進した。これには敵も驚いたらしい。金属質な悲鳴のような叫びをあげると、全艦隊が全砲門をこちらに指向してきた。

「あの金髪の言った通りだ!おっせえんだよ!!」

天龍が叫び、彼女らは敵の正面を間切るようにして突っ切った。敵が発砲し、大小の水柱が沸き立ったが、彼女らの勢いは止まることなく、反対に曙、夕立が放った砲撃が重巡と駆逐艦それぞれ1隻の鼻っ先に落下して水柱を上げた。命中ではなかったが、これに怒った敵は猛然と彼女らを追って走り始めたのである。

『フロイライン・アカギ!!』

「全艦載機隊、攻撃開始!!!」

赤城の叫びと共に九七艦攻が魚雷を発射し、九九艦爆が猛然と爆弾を投下した。戦艦2隻はこれには驚いたらしい。水雷戦隊に注意が向いたすきに敵に懐に入りこまれたのだ。

 

轟然と火柱、水柱が上がり、敵戦艦一隻が轟沈し、一隻も被害を受けて大破した。その時には金剛が敵戦艦の真横、絶妙な砲撃位置にぴたりとつけていたのである。

『フロイライン・コンゴウ!!』

「イエ~ス!!私のジツリョク、見せてあげるネ!!」

金剛が左手を振りぬくと同時に轟然と発射された35,6センチ砲弾が敵戦艦を貫き、大爆発を巻き起こした。

「やった!!」

思わず赤城と金剛がハイタッチのようなしぐさをする。こんな勝利はいつ以来の事だろう。今まで叩かれっぱなしの印象があったラバウル鎮守府が久方ぶりにその活気を取り戻した瞬間であった。

『フロイライン・アカギ、フロイライン・コンゴウ。フロイライン・テンリュウら水雷戦隊を掩護せよ。いかに機雷群の力があろうと、追撃戦というものは敵に勢いを与えるものだ。敵がその勢いを得る前に挟撃してこれを撃滅せよ。』

「はい!」

うなずいた赤城は金剛と共に天龍らの救援に向かったのだった。

 


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