艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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 ファーレンハイト艦隊等と横須賀鎮守府艦隊の間に艦娘の重複があったので前の話の一部を修正しております。


第三十三話 卿等、私を信じろ。

横須賀港湾部――。

 

サーチライトが後進するブリュンヒルトを執拗にとらえ、沿岸に展開する砲門から打ち出された砲弾がブリュンヒルトの前後に着水、あるいは被弾する。

「シールドの状況はどうか?」

ラインハルトが震動する艦橋で夕張に尋ねる。艦内のシステム整備を担当する夕張は自分の席を回転させてラインハルトに向き直った。

「シールド稼働率1パーセント。港湾棲姫の砲撃に比べればまったく問題ありません。さすがは最新鋭艦ですね。」

「初速、弾頭の破壊力は我が帝国及び反乱軍のミサイル、量子魚雷に遠く及ばない。当然の事だな。だが、どうやら自尊心と狭量さに関してはどの世代の軍人に共通するものがあるらしい。」

ラインハルトの奥歯が一瞬ぎりっという音をたてた。

「仮にブリュンヒルトの全武装システムが作動できれば、あの港湾ごと奴らを焼き払ってやりたいが・・・・いや、そのような事はしませんよ、姉上。」

不安そうにラインハルトを見つめ上げるアンネローゼにそっくりな謎の女性の視線を感じ取り、穏やかな声でそう言った。

「ローエングラム提督!」

レーダー席に座っている赤城がラインハルトを見た。

「港湾部より新たな反応がありました。これは・・・・!!」

赤城の目が見開かれる。信じられないというように体が硬直している。

「小型艦艇でもイージス艦でもない・・・・!?」

「やはり追ってきたか。」

ラインハルトは静かにうなずいた。

「イージス艦とやらでは、いや、人間が操作する艦艇ではどうしても発進に数分を要してしまう。その数分さえあれば我々は港湾を脱出できる。」

また艦橋がひと揺れする。今や全員が追っ手の正体を知って立ち上がっていた。サーチライトの光を対閃光ウィンドウが遮断して、追っ手の姿をはっきりと映し出していた。

「長門級大戦艦2、高雄級重巡2、川内級軽巡2、千歳型航空母艦2、大鳳型航空母艦1、駆逐艦多数!!いえ、まだ艦影が!!これは・・・・!!」

赤城が次々と映し出される艦影を報告し、途中で言葉が途切れた。

「後方に大和級超戦艦1!!む、武蔵・・・・!!」

艦娘たちの後方に一人の、それでいて見るものをして威圧せしめる姿があった。腕組みをし、威風堂々進んでくるのがはっきりと見える。

「面白いではないか。」

ラインハルトの声が艦橋に満ちた。一同が振り返ると、こちらも腕組みをして不敵な笑みを浮かべている。

「閣下・・・・。」

赤城の喉が鳴る。艦娘同士が相打つことになる。一言で言えばそういうことなのだが、一同の顔は暗い。赤城だけではない。艦娘たちは激しく動揺していた。

「フロイライン・アカギ。こうなることは予測していた。卿自身もな。」

「・・・・・・・。」

「責任は卿等にはない。すべては私の存在が端を発している。」

いいえそんな!何をおっしゃっているのですか!そんなことを言うたらあかん!提督は悪くありません!などという声がとんだ。

「閣下、私たち艦娘同士が戦う事、動揺しないと言えば嘘になります。誰一人として互いを討ちたい者などここにはいません。」

「わかっている。」

ラインハルトはうなずいた。その思いを知ったうえで、その思いを組み取ったうえで、その思いを受け止めたうえで、自分は命令を下す。その無言の言葉がラインハルトのアイスブルーの瞳にきらめきとなって表れた。

「ですが、あなたを差し出してまで上層部に許しを乞うことを欲している者はここにはいません。」

「卿等。」

私を信じろ。その思いを込めてラインハルトは皆を見回した。艦娘たちの瞳はひたっとラインハルトに注がれている。誰一人として目を背けるものはいなかった。皆の思い、志は一つだった。

「全艦隊、戦闘配備。」

艦娘たちは敬礼をささげると、部署に駆け出していった。

 

 

長門は各戦隊に包囲体形を取らせつつ、自身は砲撃を準備していた。

『ブリュンヒルト、依然として後退中。このままでは後10分で港湾を出ます。』

先陣を切る川内から通信が入った。

「停船の警告を発しろ。応答がなければ、威嚇射撃を行う。」

長門はそう指示を下した。ほどなくして川内、そして神通が停船をするように繰り返し声を張り上げたがブリュンヒルトの行足はいっこうにとまらない。

『・・・停船せず。』

吐息交じりの声が通信で入ってきた。

「・・・やむを得んな。全艦隊、砲撃開始。ただし最初は当てるなよ。威嚇射撃だ。」

『無駄だ。』

不意に波しぶきの音を割って、長門の通信に声が割り込んできた。武蔵だった。

「武蔵、艦隊の指揮は私がとることになっていることを忘れたか!?」

『忘れはしないさ。ただ、威嚇射撃のような生ぬるい手であの艦が止まると思ったら大間違いだ。あの男はそのような手法では止まらない。武人なら武人らしく、実力をもって相対しろと言うだろう。』

「なるほど・・・・。」

長門は夜の海風に髪をなびかせながら少し顔を俯かせる。それは臆したのではなく武蔵の言葉を吟味しているからだった。武蔵の言う「あの男。」というのはラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将に他ならない。

「確かにその通りかもしれんな。いいだろう。貴艦(おまえ)の意見を採用する。」

長門の手が振られた。

「全艦砲撃用意!」

艦娘たちの艤装が作動し、次々と砲がブリュンヒルトに向けられた。川内、神通ら軽巡戦隊を左翼に、高雄、愛宕の重巡戦隊を右翼に展開させ、足の速い駆逐艦をブリュンヒルトの前方に展開させている。そして長門たち戦艦は後方から足を進め、そのさらに背後には武蔵と共に大鳳、千歳、千代田が艦載機を発進待機させている。

「艦載機隊、発艦せよ!」

長門が指示を下した。大鳳、千歳、千代田が一斉に艦載機を打ち出してブリュンヒルトに差し向けた。

 

 

 

ブリュンヒルトでは全艦隊が戦闘配備についていた。刻一刻と展開するFEIND の文字が明滅し、徐々にブリュンヒルトを取り囲むように動いているのがわかる。そして後方のWEIBLICH の反応体から無数の艦載機反応が確認されたのを乗員はかたずをのんで、ラインハルトは腕組みをして見守っていた。

(やはり敵は威嚇射撃という生ぬるい手段ではなく、実力をもって挑んできたか。)

「ビッテンフェルト。」

腕組みをしてディスプレイを見つめていたラインハルトはその手を解いてビッテンフェルトを見た。

「卿はフロイライン・テンリュウ、フロイライン・ヤマシロ、フロイライン・アケボノ、フロイライン・ウシオ、フロイライン・リュウジョウを指揮せよ。」

「はっ!」

夕張のほかには曙、天龍、潮、夕立、赤城、加賀、金剛、榛名、山城、龍驤、白露、そしてマリアナ泊地所属の鳳翔が今のラインハルトの麾下としてブリュンヒルトに乗艦している。ファーレンハイト艦隊の麾下で臨時にここに乗り込んでいるのは飛龍だけである。

「飛龍。」

ファーレンハイトが彼女に尋ねる。

「アースグリムと連絡が取れるか?」

「はい!」

うなずいた飛龍がすぐさまアースグリムと通信を取り始める。アースグリムはザンデルス、そして蒼龍が指揮を執って横須賀からほど近い東京湾に待機しているはずだった。

 その斜め上、艦長席ではラインハルトが適宜艦娘たちに指示を下している。

「敵は艦載機を放ってきたか。フロイライン・アカギ。」

この時、赤城、そして加賀は出撃ハッチ付近に待機していた。

『第一航空戦隊、赤城、加賀、発進準備完了しています。』

「卿とフロイライン・カガは艦載機を発艦、敵を撃破する必要性はない。あくまで足止めに徹し、ブリュンヒルトを防衛することに専念せよ。なお、護衛についてはフロイライン・シラツユ、フロイライン・ユウダチを指名する。」

『はい!』

4人はうなずき、足元に満ちてきた水を蹴って、一斉に外に飛び出した。港湾での戦い、それも夜戦という戦は赤城たちは経験したことがない。それでいてどこか安心できるのはやはり指揮官が盤石な存在だからだろう。

「フロイライン・コンゴウ、フロイライン・ハルナ。」

ラインハルトは別のハッチで待機している一隊に呼びかけた。

「ブリュンヒルトの正面に展開し、追撃艦隊と相対せよ。私の合図があるまでは砲撃はするな。」

この通信を受け取った出撃ハッチでは、金剛、そして榛名が準備を完了していた。

「合図をしたら、砲撃をするネ?」

金剛の声が心なしか硬くなっている。その指令が下された瞬間、夜の海は互いに殺しあう凄惨な場と化してしまうのではないか。それは金剛、そして榛名も望まない事だった。だが、このまま追撃を受けてローエングラム提督が捕虜となり、殺されてしまう事もまた彼女たちの望まないところだった。どちらの願いを実現したいというのはわがままなのだろうか。ふと、金剛が横を見ると、榛名は両手を組んで祈り始めている。

ラインハルトから返答が返ってくるまでわずか3秒だったが、その3秒が二人には30秒にも感じられた。

『フロイライン・コンゴウ。フロイライン・ハルナ。』

ラインハルトの声が二人にしっかりと届く。

『私を信じろ。』

同時に、出撃を知らせるアラートが鳴り響き、ハッチが音を立てて開いた。

「榛名。」

金剛は妹に呼びかけた。祈りをささげていた妹は眼を開けて姉を見る。

「行くヨ。」

ただその一言を、ただそれだけを、静かに、けれど力を込めて妹に言う。うなずきを返した榛名を促し、金剛はブリュンヒルト艦橋に元気よく通信を送る。

「金剛、榛名、出撃デ~ス!!」

二人は白波を蹴立ててハッチを飛び出した。とたんに陸地から打ち出される砲弾が至近距離に着水し、サーチライトの光が夜を切り裂いて二人の周辺の海を淡い青色に染め上げる。金剛、そして榛名はブリュンヒルトの眼前に展開すると、追撃者たちと相対しながら後進を開始した。

「金剛先輩、榛名先輩。」

サーチライトの光が背後にあってその顔はわからないが、声は聞き覚えがあった。

「どうか停船して降伏してください。私たちはあなたとは戦いたくはない。」

川内だった。川内だけでなく、神通、そして周りにいる艦娘たちは照準をピタリと二人に向けていた。

「私たちもネ。でも川内、私たちが降伏したらローエングラム提督を見逃してくれるデ~ス?」

「それは・・・・。」

川内の顔が一瞬下を向いたのがわかった。

「無理ネ。 So do I私たちも同じ答えデ~ス。」

金剛が砲を構えた。その隣で榛名も、

「あなたたちが攻撃するのなら、私たちもローエングラム提督を守り抜きます。」

と、静かな決意を声に秘めて追撃者たちを見まわしながら発した。

「くっ・・・・・。」

思わず川内がうめいたとき、後方から指令がきた。長門からだ。

『川内。』

「・・・・・・。」

『もう、話し合いは終わりだ。これ以上話し合っていると外洋に取り逃がしてしまう。その前にケリをつけるぞ。』

「ですが・・・・!」

『撃ち方始め!!』

この指令は追撃者たち全員に届いたはずだった。だが、全員が電気ショックを受けたかのように身を震わせただけであった。

「長門先輩・・・・!!」

『命令だ。』

おっかぶせる様な声がした。問答無用というわけか、と川内は今度こそ歯を食いしばりながら叫びたい気分だった。どうしてこうなるのだろう?どうして私たちが戦わなくてはならないのだろう?

 

・・・・・・どうして?どうして?・・・・どうして!?

 

「姉さん。」

神通が話しかけてくる。どうしたらよいかわからないという、すがるような眼をしている。それを振り切るように川内は片手を振り、主砲を構えた。

「全艦隊、撃ち方、用意!!!」

サーチライトの光を背後にして、はっきりと姿が見えていた。ブリュンヒルトを守るようにその前に立ちはだかっている艦娘が。海風にはためく衣装を着て、身構えている金剛、そして榛名の姿が。

「目標・・・・金剛及び榛名!!」

全員の主砲、そして魚雷発射管が構えられる。

「金剛と榛名を撃破した後、速やかにブリュンヒルトに攻撃を加え、これを撃破する!!」

川内はそう指示した後、自らの迷いを、気持ちを吹き飛ばさんばかりに、割れんばかりの声を発した。

「テ~~~~~~~~~~~ッ!!!!」

ここに艦娘どうしの戦いという未だかつてない悲惨な戦いが始まった。

 


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