艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。 作:アレグレット
■ ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将
俺はあれから随分と眠っていたらしい。気が付くと夕日が窓の外に沈んでいくのが見えた。その窓の外にはオレンジ色水平線が広がっている。あれが噂に聞く海という奴なのだろう。こうして初めて見るとなかなか良い眺めだと思った。
だが、そんなことはどうでもいい!キルヒアイスは?!アイツはどこに行ってしまったんだ!?それにここはどこなんだ!?あの女はラバウルとかいっていたが、そんな地名は聞いたことがない。俺はどうなったんだ?アスターテ星域会戦でヤン・ウェンリーの術策にはまり、旗艦ごと吹き飛ばされたところまでは覚えているのだが、そこから先の記憶がない。もしかすると、どこかの惑星に不時着してしまったのか?とすると、ここは自由惑星同盟!?つまり、敵地のど真ん中に俺はいるのか!?
助けてくれ、キルヒアイス!!いや、いかんな、キルヒアイスに頼るようでは俺も駄目だ。俺は今一人なのだから・・・・・。
* * * * *
ドアがガチャリと静かに空き、昼間見たあの黒い長い髪の女性が入ってきた。銀のトレイに何か皿のような物を乗せて両手に持っている。
「気が付きましたか。窓を閉めましょうか?」
「いや、いい。」
カチャリと静かにベッドわきのテーブルにトレイを置くと、その女性はラインハルトの顔を覗き込むようにして言った。
「お腹、空いていませんか?ミルク粥を持ってきました。」
「いや、それよりも教えてほしい。ここはどこだ?どの惑星なのだ?さきほどラバウルだと・・・・フロイラインは言ったが?」
「フロイライン?」
その女性は初めて聞く単語だというように首をかしげ、こんな当たり前の質問をする人見たことないわ、という表情を一瞬したが、それを声に出すようなことはしなかった。
「あの、ここは地球です。そしてその地球の赤道上に近い南洋諸島にある根拠地の一つがラバウル鎮守府なのです。」
「地球だと!?」
ラインハルトの声が上がった。
「バカな!?地球は西暦2700年頃に壊滅したはずで、現在では海も大気も汚染されて地表にも人が住めないというではないか。」
「壊滅?2700年?何をおっしゃって・・・・いるのですか?」
ラインハルトはしばらく声が出なかった。
「・・・・すまないが、今何年だ?」
「2016年ですけれど・・・・。」
ラインハルトの瞳が信じられないというように見開かれる。
「俺は・・・・過去に来てしまったというのか・・・?アスターテ星域会戦で何らかの非常ワープシステムが作動して時空の次元断層にでも引っかかって落ちてきてしまったのか・・・・それともこれは夢なのか・・・・?」
「あの・・・・何を先ほどからおっしゃっているのですか?」
ラインハルトは顔を上げた。目の前の女性は心配そうに顔を見ている。その顔を見ているうちにラインハルトの頬が上気してきた。
「すまなかった。どうも自分の置かれた状況がまだ理解できなくてな。」
目の前の女性は少なくとも不思議そうな顔はしなかった。そのことがラインハルトをほっとさせていた。
「無理もありません。何やら知らない軍服を着ていらっしゃったのですし。どうやらあなたはどこか私たちの知らないところからいらっしゃったようですね。あれは、どこの調達品ですか?各鎮守府提督たちもああいった服は着ていらっしゃらなかったのですが。」
「それは・・・・。」
ラインハルトは言いかけて、口を閉ざした。何しろそれを話すと説明することが山ほどあって仕方がない。
「それはおいおい話そうと思う。さしあたりフロイライン。あなたを何と呼べばよろしいか?」
「赤城、です。」
アカギ、とラインハルトはその名前をゆっくりと口にのぼせ、不意にかすかに笑いかけた。少年めいた純粋な瞳だな、と赤城は思った。
「良い名前だ。フロイライン・アカギ。」
「あの・・・私は赤城なのですが・・・・。」
と、いいさした赤城はふと黙り込んだ。何故かは分らないが、フロイライン・アカギというその響きがじんわりと響くような気がしたのだった。
「私はフォン・ローエングラム。ラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将だ。」
上級大将?と赤城は不思議そうな顔をした。不思議だと思ったこと、これで何度目だろう。ラインハルトと名乗る少年めいた青年の階級は赤城にはなじみのないものだった。近いものと言ったら大将かはたまた元帥であるが、それだって誰にでもなれるわけがない。ましてこの若き青年がそれになっているとはにわかには信じがたい話である。
不意に、ぐぎゅるるるるるるる~~~~~~~~~~!!という盛大な音が響いた。
「これは・・・失礼。」
ラインハルトが顔を赤くし、赤城も我が事のように頬を染めている。
「まずはこれを召し上がってください。そしてゆっくりお休みになってくださいね。」
ラインハルトは差し出された皿を見て最初はためらっていたが、不意にそれを勢いよく赤城の手から奪い取ると一心不乱に食べだした。
赤城はそれを穏やかなまなざしで優しく見守っていた。