艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第十五話 フロイライン・ユウバリ、卿等はどこに行ったのか?

時折、鴎が鳴く声が夕暮れの空にひびき、波しぶきがザアッ!と音を立てて砂浜に打ち寄せる。

 

それ以外の音は何一つとしてしなかった。既に敵は引き揚げた後らしく、一匹たりとも深海棲艦はいなかったのである。

 

ラインハルトたちの目の前にあるラバウル鎮守府は、すでに黒煙と炎の中に包まれてその残骸を積み上げているだけであった。木っ端みじんに破壊された高射砲陣地、滑走路には大穴がいくつも空いて、吹っ飛ばされて墜落した飛行機の残骸が頭から木のように地面に生えている。司令部があった建物は集中攻撃を受けて、がれきの山と化しており、メディカル施設、工廠、ドックも軒並みダメージを受けて損傷度合いすらも図れなかった。

 

無事だったドックから上陸した赤城、そして短艇で上陸したラインハルトたちは昨日に引き続き、二度目の廃墟を目の当たりにすることとなったのである。

 

ラインハルトは何も言わず、何も叫び声も挙げなかったが、ただ握りしめられた拳だけがかすかに震えていた。ビッテンフェルトは全身を硬直させ、憤怒で今にも叫び声をあげそうだったのだが、上官の姿を見て、ぐっとそれをこらえていた。艦娘たちも同様だった。大なり小なりの怒りを浮かべている者、悲しみに沈んでいる者、泣き出しそうな者など様々だったが、誰一人としてラインハルトを責める者はいなかったのである。責めたとしてもそれは自分たちの不甲斐なさであったろう。

「フロイライン・アカギ。」

ラインハルトは体を赤城に向けた。ザッ!と砂音がたった。

「フロイライン・ユウバリ、フロイライン・フミヅキ、フロイライン・サツキ,

フロイライン・アケボノ、フロイライン・ウシオをまずは全力を挙げて捜索するぞ。」

ラインハルトはその心情はともかく、声は指揮官のそれをしっかりと保っていた。

「はい。」

うなずいた赤城は艦娘たちを「誰々はどこへ。誰々はここを捜索してください。」とテキパキと役割を伝えた。それが済むと皆は散開してラバウル鎮守府を探し回った。ラインハルトとビッテンフェルトも声を上げながら懸命にラバウル鎮守府内部を探し回ったのである。

 

 

だが――。

 

 

ラバウル鎮守府には誰も何もいなかった。まるで消え去ったようにである。ひとしきり探し回った一行は司令部のあった建物の残骸前に戻ってきた。誰も彼もが同じようなことを、すなわち生存者も死体も確認できなかったことを報告したのだった。ここに来ると、今の状況が絶望感というよりも奇妙な謎である、という表現をする方が正しいように一同には思われた。

「どういうことでしょうか?生存者はおろか、死体もないというのは少々妙ですね。」

と、赤城が首をかしげる。ラインハルトはそれに同意を示しながら、

「これだけの襲撃だ。死体の一つもないというのは妙だな。これは想像だが、フロイライン・ユウバリはいち早く退避したのではなかろうか。私はそういう指令をフロイラインに下している。」

と答えた。

 

応戦しきれぬほどの襲来があれば、卿はいち早く味方と共にラバウルを捨てて退避せよ。

 

というのがラインハルトが出立前に夕張に下した指令だった。夕張はそれを聞いてだいぶ渋った。何しろポートモレズビー襲来の記憶が彼女を責めさいなんでいるからだ。

だが「私に必要なのは卿らであって、ラバウルそのものではない。卿らが生きていてくれるからこそ、百度の再起は可能ではないか。そしてこの留守を任せられるのはフロイライン・ユウバリ、卿でしかないのだ。」とラインハルトに言われ、最後には承諾をしたのだった。

 

「夕張が提督の指令を無視するなんてありえないデ~ス!きっとどこかに潜んでそのうちに出てくるネ。」

と、金剛。

「だとしたら、のろしか何かを上げたほうがいいっぽい?」

「おいおい、そんなことをすれば敵に見つかっちまうじゃねえか。あぁ、でもあれか、敵はこっちを破壊するだけ破壊して満足して帰っちまったんだから、上げても大丈夫なのか。」

「でもそんなことをして万が一敵がひっかえしてきたらどうするのよ?」

「山城、それはそうかもしれんけれど、でも、夕張たちが怪我しとるかもしれへんよ。早く見つけ出してやらんと・・・。」

艦娘たちが口々に話す中、ラインハルトはまだ戻ってこない白露の行方を案じていた。つい5分ほど前に戻るという旨の連絡が通信機からあったが、まだ彼女は戻ってきていない。

「後はフロイライン・シラツユの報告次第だな。」

ラインハルトはビッテンフェルトに話しかけた。

「御意。そこで何か情報がつかめればよいのですが。」

ビッテンフェルトは先ほどから何か考え込んでいたようだったが、ラインハルトに「卿は何か考え込んでいるようだな。」と促されて口を開いた。

「閣下、どうも小官には敵の狙いがはっきりとはわかりかねます。小官であれば根拠地もろとも敵を粉砕してやるのですが、彼奴等のやり口を見ると中途半端に思えます。根拠地を叩いても敵がまだ存在しているのであれば、やがては別の根拠地に集結するのは目に見えておるではありませんか。」

「私もそれを考えていた。」

ラインハルトはうなずきを返した。

「だが、敵の狙いはこちらを無力化すること、その一点にあるのではないか。」

「無力化と言いますと?」

「拠点を壊滅させ、補給線を分断し、各司令部を孤立させさえすれば、たとえ兵員は生存したとしても武器弾薬がなければ戦えぬ。彼奴等はそのように考えているのではないか。」

「なるほど、生かさず殺さずというわけですか。しかしそれを何の為にするのでしょうか。」

ラインハルトとしてもビッテンフェルトの疑問が当然の事であるように思えた。彼自身にしても深海棲艦共の戦略目的がまだはっきりとわかりかねているのである。それについて回答しようとした時、聞きなれた呼び声が彼の耳に入った。

「提督さ~ん!!」

「白露ちゃんっぽい!!」

夕立が叫び、一同は声のする方角に視線を向けた。白露は海岸の砂浜をこっちに向かって走ってくる。だが、一同が驚いたことに白露は一人ではなかった。もう一人、此方に向かって走ってくる人間が見える。それを目にしたラインハルトの顔色が変わった。目が大きく見開き、信じられないという顔をして硬直しきっている。

「提督!!!」

不意に赤城が叫んだ。赤城だけではない。艦娘たちも口々に「あれは何なの!?」と叫んでいる。白露の姿を追って何気なく沖合に視線を移した瞬間にそれが目に飛び込んできたのだった。もう夕闇に包まれようというさ中であってもそれははっきりと目にわかるほどのものだった。

「これは・・・一体どういうことなのだ?!」

ビッテンフェルトが叫んだ。ここまで自制してきた彼も目の前で起こる立て続けの事象に自制心が耐えきれなくなったのである。

 


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