艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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今度のクラシック音楽の使用舞台は、さて、どこでしょうか?


第十四話 俺は指揮官としての心得を教えてもらったのだな。

「さぁ、仕切るで!!攻撃隊、発進!!」

「艦載機の皆さん、用意はいい!?」

赤城と龍驤の2人から発艦した艦載機隊はハイドン交響曲102番第四楽章の大音響の音階と共に深海棲艦の陣形に吶喊していった。敵の中央を徹底的に叩き、まずは敵を分断するのだ。

「いってみよう!!」

龍驤の号令と共に投下された魚雷が正確な真っ直ぐな、だがかすかに見えるか見えないかの雷跡をひきながら、敵艦隊に向かっていく。敵艦隊は龍驤の攻撃隊に対して発砲を開始した。だが、その時には赤城の艦載機隊が絶妙な位置から迫っていたのである。

「全艦爆隊、直上、急降下!!」

赤城が右腕を一気に振り下ろし、上空から突撃した九九艦爆は敵の対空砲火にも屈せず、次々と爆弾を深海棲艦の頭上に投下していった。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

断末魔の敵の叫び声が響き渡った。魚雷をどでっぱらに受け、赤城の艦爆隊の攻撃を同時に食らったル級の哀れな鳴き声であった。

「フロイライン・コンゴウ!今だ!!右2時方向敵の前方嚮導艦に集中砲撃を仕掛けろ!!」

「OK!!任せといてネ!」

金剛が右手を一息に振りぬいた。

「fire!!」

35,6センチ連装砲が火を噴き、続けざまに敵の嚮導艦ル級を襲う。

 

こうしてみると、ラインハルト側が勢いに乗っている風に見えるかもしれないが、敵の反撃も猛烈だった。ヲ級から放たれた艦載機隊は赤城・龍驤の戦闘機隊と激しく交戦し、隙あらばラインハルト、ビッテンフェルトの座乗するクルーザーめがけて爆弾を投下してくる。それを妖精たちが必死に対空機銃と回避運動で撃ち落とし、回避する。クルーザーの周りには無数の水柱が林立したが、ラインハルトもビッテンフェルトもこれしきの事でいささかも動揺をしなかった。

「突撃だ!!深海棲艦共を一匹も生きて帰すな!!」

ビッテンフェルトが敵の左側、すなわち10時方向からの突撃地点を天龍に指令する。了解した天龍はビッテンフェルトの大声を通信機越しに聞き続けながら、闘志全開で敵に襲い掛かっていった。それに負けじと、白露、夕立そして山城が続く。

深海棲艦たちは小癪なこの艦隊に向けて一斉に砲撃を開始した。それを鮮やかにかわした前衛3人は滑るようにして深海棲艦の真正面を横切りながら、至近距離から砲撃を叩き込んだのである。これには深海棲艦も驚いたように声をあげ、立ちすくんだ。まさか艦娘たちがこうまで弾雨を犯して接近してくるとは思わなかったのである。

その動揺のためか、ヲ級が一瞬無防備になったのをビッテンフェルトは見逃さなかった。

「フロイライン・ヤマシロ!!!今だぞ!!空母だ、空母を叩け!!!」

「扶桑型だからって・・・扶桑型だからって・・・・!私だって戦艦なんだから!!扶桑姉様に負けない働きを見せてあげる!」

山城が、決意をにじませながら主砲を斉射した。弧を描いて飛んだ主砲弾は山城、そしてビッテンフェルトの気迫がこもっているかのようにヲ級に続けざまに命中したのである。反転した天龍、白露、夕立も反対側から今度は駆逐艦、巡洋艦を狙ってこれに続く。

「敵はどうも無印ばっかりだな。そうでなきゃT字不利でこんなに戦えるわけがねえ。」

天龍がそうつぶやいたが、彼女の推測は当たっていた。敵の練度は低く、だからこそ大した損害がないのに、敵を圧倒できているのである。

 

金剛は中央にあって、的確に支援砲撃を行い、終始敵に反撃の機会を与えなかった。役割としては山城を中央のけん制とし、金剛は彼女の速力をもって前衛艦隊としうるのが上策なのであろうが、ラインハルトはなれたビッテンフェルトの指揮下にいた方が良いだろうと思っての事だった。それに、意気消沈した山城に少しでも覇気と高揚感を持ってほしいと思っていたのである。それは龍驤、白露に対しても同じであった。だからこそ龍驤は主要攻撃を担当し、赤城はそれを支援。白露も前衛艦隊の一員として突撃することで駆逐艦一隻を撃沈するという武勲を上げたのである。

 

ラインハルトもビッテンフェルトも絶妙な指揮ぶりを終始展開して、敵を圧倒し続けたのだった。T字不利を跳ね返し、同航戦闘に持ち込み、最後には包囲殲滅して敵を壊滅に追い落としたのである。

 

交戦わずか1時間足らずで深海棲艦たちは海の藻屑と化したのであった。艦娘たちは煤まみれの顔のまま集まってきたが、その眼はキラキラと輝いていた。

「卿ら、よくやった。」

ラインハルトが褒めると、艦娘たちは一様に敬礼を二人に施した。

「疲れているだろうが、20分ほどの小休止の後、急ぐぞ。ここでの交戦時間を少しでも取り戻したい。」

「いいえ、提督、私たちならば大丈夫です。このまま急ぎましょう。」

赤城が言った。その顔にも声にもいささかの疲れは見えない。

「だが、卿らは――。」

「ありがとうな、ローエングラム提督、うちらのことを気遣ってくれて。」

龍驤がラインハルトの言葉を遮った。

「でも大丈夫や。うちらはそんないヤワやない。それにあと2時間もすればラバウル鎮守府に着くところまで来とるんやもの。早く仲間の無事な顔を見たいんや。」

敵と全速航行で戦闘を行ううち、ラインハルトたちはかなりの距離を稼ぐことに成功していたのだった。龍驤の言葉はこれを指していたのだったが、彼女の顔にも、そして天龍、白露、夕立、山城、金剛の顔にも疲れは見えない。一刻も早く仲間のところに駆けつけたいという思いが満ち溢れている。

 

ラインハルトとビッテンフェルトは顔を見合わせた。互いに何も言わなかったが、艦娘たちの強い仲間意識に強い感動を受けていたのである。

「よし、ならば急ぐぞ。一刻も早くラバウルにいかなくてはならない。」

ラインハルトの言葉に、艦娘たちは強い決意と共にうなずいたのだった。

 

 

だが――。

 

ラバウル鎮守府の方向から何やら黒い黒煙のような物が数条立ち上っているのを発見した時の赤城の顔はこわばっていた。それを同時に発見した艦娘たち、そしてラインハルトとビッテンフェルトの顔も表情が消し飛んでしまったようだった。

 

見間違いであってほしいと思った。薄暮の中の薄雲がそう錯覚させたのではないか、と。あるいはこちらに戻ってくる予定の自分たちのために夕張たちが慰労会を企図し、なにか炊煙か何かを盛んに行っているためではないか、と。

 

そのささやかな願いと希望は次第にはっきりしてくる黒煙を見ることによって無残に打ち砕かれてしまった。ラバウル鎮守府からは黒煙が立ち上っている。そしてそれは艦載機隊の爆撃によるものであることが明白だった。既に敵艦載機隊の姿もなく、応戦している気配も感じられない。

「ラバウルが・・・・。嘘だろ・・・・!?」

天龍のうめく声が全艦娘とラインハルトとビッテンフェルトの心情を代弁していた。

「まだ距離がある。交戦中かもしれない。とにかく急ぐぞ。フロイライン・アカギ、フロイライン・リュウジョウ、艦載機隊を発艦。上空の警備に備えろ。先発した艦載機隊からの連絡はどうした?」

赤城が暗い顔で、通信は途絶したままです、というと、ラインハルトの顔が険しくなった。通信が途絶したという事は、交戦中で手が離せないのか。だが赤城の艦載機隊はそれほどヤワではない。希望的観測であるが、無線機が故障したか。あるいは・・・もっとも現実味のある回答として、全滅したことを意味しているのではないか。

「閣下。」

ビッテンフェルトがラインハルトに話しかけた。

「もしや先ほどの機動部隊は別働隊であり、我々の足止めになったものではありますまいか?」

ラインハルトは険しい顔のままうなずいた。

「私もそれを考えていた。うかつだった。機動部隊は一つではなかったのかもしれない。フロイライン・アカギらの艦載機隊はめったなことでは後れを取るものではない。その艦載機隊からの通信がないという事は、敵はさらなる強力な艦隊を擁しているのやもしれん。」

ラインハルトの顔には暗い影のような物がよぎり始めていた。

「やはり、機動部隊など捨て置いて強引に突破しておけばよかったか・・・。そうしていれば、あるいは間に合ったのかもしれん・・・・・。」

「まだわかりませんよ。」

声がした。二人が艦橋の外を見ると赤城が同航しながらこちらを見ている。薄暮の中、海風に長い髪をなびかせている彼女の顔には先ほどの暗さはなかった。

「まだわかりません。ラバウルは持ちこたえていてくれるはずです。夕張さんたちが何とかしてくれているはずです。そう信じろとおっしゃられたのは、提督ではありませんでしたか?」

少し距離があったが、ラインハルトには赤城がかすかに微笑みさえしたような気がした。ラインハルトは自分の眼が信じられなかった。だが、次の瞬間理解した。そうだ、彼女は、フロイライン・アカギはこの艦娘たちを統括する立場なのだ。いわば俺と同じ立場、指揮官なのだ。その指揮官が意気阻喪している姿などを見せてどうする。俺は何をやっているのだ。

「そうだ。赤城の言う通りだ。夕張たちを信じろ。提督、お前がそう言ったんだろ。みんなそれを信じてここまで来たんだ。」

天龍が通信機越しに話しかけてきた。

「ヘ~イ!提督ゥ!!しょげてちゃ駄目デ~ス!そんなの提督らしくないネ!!」

「そうっぽい!!みんな提督さんたちを頼りにしているっぽい!!」

「うちらのローエングラム提督ならこんなところでしょげてちゃあかんで!!」

「提督・・・・まだ勝機はあります!!あきらめては駄目です。」

「そうだよ~!頑張ろうよ!!」

7人の艦娘一人一人が通信機越しに声をかけてくる。一番つらいのは、そして不安がっているのは彼女らのはずなのだ。それなのに――。

 

機動部隊を相手取れという自分の指令に対して非難の言葉一つ浴びせてこない。いや、彼女たちは信じているのだ。仲間を。そして提督(ラインハルト)を。

 

 

ラインハルトは顔を上げた。後悔をしている暇などない。そのような時間があれば、一分一秒たりともおしんではならない。そして、そのように期待をかけてくれている艦娘たちを裏切ることはできない。

 

 

「閣下、フロイラインらの言う通りです。ここで意気消沈するよりも、全速航行で突撃し、彼奴等の度肝を抜いてやりましょう!!」

ビッテンフェルトが叫んだ。それに大きくうなずき返したラインハルトは通信機を取った。

「よし!!卿等、全速前進だ!!ラバウルに突撃し、フロイライン・ユウバリたちを救いに行くぞ!!!」

艦娘たちは一斉にうなずいたのだった。

 


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