艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第十三話 卿らは仲間を信じられぬと言うのか!?

 

クルーザーに乗ったラインハルトとビッテンフェルトを輪形陣形で守るようにして、艦娘たちは払暁と共に全速航行でラバウル鎮守府に向けて走り始めていた。

「急げ急げ急げッ!!」

天龍が叫び、ともすれば前に前に出ようとするので、ラインハルトはその都度それを押さえつけなくてはならなかった。

「フロイライン・テンリュウ!!まだ行程は長い!!そのような全速航行では卿の体力が持たない。深海棲艦共と交戦することになった場合、そのような事では万全の戦いなどできはしない。艦列に戻れ!!」

「そんなことを言っている場合じゃねえだろ!肺が破れようが足が挫けようがラバウルに急がなくちゃならねえだろ!今急がなくていつ急ぐんだ!」

「これ以上速度を上げれば、フロイライン・ヤマシロが遅れてしまう。艦隊作戦には卿ら全軍の協力が不可欠である。戦力分散の愚策を卿は犯すというのか!?」

「でもよぉ・・・。」

「命令だ!!!フロイライン・テンリュウ。速やかに艦列に戻れ!!!!」

ラインハルトの叱責が天龍の通信機を爆散させる勢いで放たれた。天龍は不服顔であったが、黙って艦列に戻った。

「フロイライン・ヤマシロ。大丈夫か?」

ラインハルトは今度は山城に声をかけた。

「だ、大丈夫・・・です。」

山城は顔を赤くしながら切れ切れに応えた。息が上がっているのか、それともラインハルトに声を掛けられてうれしかったのか、周りの艦娘たちは判別できなかった。

「閣下。」

傍らに立つビッテンフェルトがラインハルトに話しかけた。

「小官に一つ提案があります。フロイライン・アカギ、フロイライン・リュウジョウの航空隊を発艦させ、先発してラバウルに向かわせてはいかがですか?」

「なるほど・・・・。」

ラインハルトは数秒間黙っていたが、すぐにうなずいた。

「卿の進言は良し。フロイライン・アカギ、フロイライン・リュウジョウ。」

「ローエングラム提督、ビッテンフェルト提督の提案の件、私たちも賛成です。すぐに艦載機を発艦させ、向かわせましょう。龍驤さん!」

「ビッテンもええ提案するやないか!よぉし!やったるでぇ!!」

赤城と龍驤が次々と艦載機を発艦させ、ラバウル鎮守府に向けて向かわせた。むろんこの艦隊の上空には直援機を上げ、また、少なからずこちらの戦闘用に艦載機を温存してはいたのだった。

艦娘たちはラバウル鎮守府に向けて飛び立った艦載機隊に祈りを込めて手を振り続けたのである。

「どう思いますか、閣下。小官としては敵が各個撃破を狙っていることはもはや揺るぎがたい事実であると考えておりますが。」

ビッテンフェルトはクルーザーの艦橋で腕を組むラインハルトに問いかけた。ラインハルトの前の机の上にはこのあたりの海図がある。

「ポートモレズビー、マダン。いずれもラバウルの外縁部に位置する。それらが陥落した以上は、ラバウルに向けてさらなる圧力がかかるだろう。それも、そう遠くないうちにだ。」

「では――。」

ラインハルトは拳を打ち合わせた。

「その通りだ。まんまとしてやられたというわけだ。私は今まで思っていた。本土とやらの奴らは無能だ、これほどの襲撃を受けて、増援艦隊の一隻も送らないどころか、各根拠地に身勝手な権限を与え続けているのはどういう腹積もりなのだ、と。」

「・・・・・・・。」

「卿は知らぬだろうが、この北方にあるパラオ泊地とやらから、我々に指揮下に入るように伝達があった。だが、本土はそれについて何も言ってこない。前線の事は前線でやれと言わんばかりの態度だ。だが・・・。」

ラインハルトはここで言葉を切った。

「それが敵の通信封鎖の結果だとしたらどうだ?偶々パラオ泊地からの無線は傍受できたが、本土からの通信がことごとく電波妨害で聞き取れなかったとしたら、これまでの事はつじつまはある程度は合う。」

「ですが、閣下。かといって本土とやらの奴らが責任を免れるわけではありますまい。通信妨害に陥っているのであれば、捜索隊などを派遣するのが当然のことではありませんか。それをしないとは、本土の奴らは何をしているのか!?」

「落ち着け、ビッテンフェルト。」

ラインハルトは今度は苦笑めいた笑みを浮かべ、ビッテンフェルトをなだめた。

「卿までもが思慮を失うことはあるまい。まずは目前の事態に対しての対処だ。フロイライン・アカギ、フロイライン・リュウジョウの艦載機隊がラバウルを死守することを期待しようではないか。」

「はっ!」

ビッテンフェルトがうなずいたときだ。

 

『敵です!!!』

 

艦娘が、妖精が叫び、そしてラインハルトとビッテンフェルトがほぼ同時にその影に気が付いた。前方に当間隔を置いて遊弋しているのは、まさしく深海棲艦である。こちらに対して正対左から右に航行している。敵はいち早くこちらに気が付いた様子で、戦闘行動に入りつつあったのだった。まだ敵の正確な陣容は判明しないが、レーダー反応のクラスからすると敵には戦艦、そして空母が混じっている可能性が高かった。その部隊を見た時、ラバウル組の脳裏にはある可能性が浮上し始めていた。

「まさか、先日の機動部隊なのかよ・・・・。」

天龍のつぶやきが、無線を通して一種異様なものとなって艦娘とラインハルトたちの耳に届いた。先日接触しかけたこの機動部隊がもしやラバウル鎮守府を殲滅させるために向かっていたのだとすれば?だからこそ敵は艦載機だけを差し向けて接触しようと思わなかったのでは?

 

そうであるならば、この部隊が立ちはだかっているということはラバウル鎮守府は壊滅したのではないか?

 

 

どす黒い予感が艦娘たちの胸に湧き出し始めていた。

 

 

「もしかしたら――。」

「もう、ラバウルは――。」

「なくなっちゃったぽい・・・・。」

皆が暗い顔になりかけた時だ。

 

「うろたえるな!!!」

 

ラインハルトの血から強い叱責が艦娘たちの耳に届いた。

「卿らは勘違いをしているのではないか?仮に機動部隊がラバウル鎮守府を壊滅させたのであれば、奴らは正面から来るはずではないか?それをわが方の相対左側、すなわち北方から来たという事であれば、そのような可能性はないはずだ!!」

「でも・・・・・。」

「そうはいっても、もしもってこともあるし・・・・。」

白露と夕立がしょげた顔をしている。その反応を見たラインハルトの声がさらに高まった。

「卿らは信じられないというのか!?いや、私の言葉などではない!この瞬間にも、フロイライン・ユウバリたちは我々を待ってくれているはずだ!!仮に深海棲艦共の襲撃を受けたとしても、決してあきらめることのない鋼鉄の意志で戦っているはずだ!!そうではないか!?卿等の仲間とやらはそのようなものではなかったのか!?」

「・・・・・!!」

艦娘たちの顔に衝撃が走った。それは改めてラバウルに残ってこちらを待ち続けている仲間がいること、その仲間が必死に頑張っていてくれるであろうことを悟った顔である。

「仮に、ラバウル鎮守府などが壊滅しようとも、私は何一つ失うものなどない!!卿らが生きている限り、我々は一度、二度、三度、いや!!百度で有ろうとも立ち上がることができる!!そうではないのか!?」

「・・・・・・・。」

「我々はラバウル鎮守府を救いに戻るのではない!フロイライン・ユウバリら、卿らの仲間を救いに行くのだ!!!」

ラインハルトの言葉を乗せた無線は深海棲艦の電波妨害などものともせずに、その意図するところを正確に艦娘たちに届けていた。全艦娘は雷にうたれたかのように固まっていた。そうさせていたのはどんな感情によるものなのか、それは個々人によって異なるだろうが、少なくとも恐怖や萎縮という感情とは程遠いものであったことは確実である。

「卿らは運がいいぞ!!」

通信機を離したラインハルトに代わって、ビッテンフェルトが別の通信機をとって声を上げた。

「ローエングラム閣下は、常勝の天才だ。その指揮ぶりによって数え上げた勝利は数えきれないほどだ。閣下の指揮下にある限り、我々は絶対に負けることなどあり得ん!!奮起せよ!!奴らを叩き沈め、帰る道をなくしてやろうではないか!!」

 

 

 

ラインハルトとビッテンフェルトの言葉が終わったとき、艦娘たちの顔は再び上がっていた。どの顔にも覇気と高揚感、そして使命感が満ち溢れていた。

 

 

 

「ローエングラム提督、どうされますか?」

赤城が髪を風になびかせながらクルーザーを見た。覚悟はできたという顔、闘志に満ち溢れた顔である。

「敵はこちらを扼すようにして展開している。逃亡も回避もできまい。ならば一戦してこれを突破するのみだ。」

艦娘たちは一斉にうなずいた。

「ビッテンフェルト!」

「はっ!」

「卿に艦娘たちの一部隊の指揮をゆだねる。フロイライン・テンリュウ、フロイライン・ユウダチ、フロイライン・シラツユ、フロイライン・ヤマシロを指揮せよ。卿の才幹と技量に期待すること大である。」

「はっ!承知いたしました!小癪な深海棲艦共、一匹たりとも残さずに海の藻屑としてやります!」

ビッテンフェルトが敬礼する。

「卿ら、それでいいか?」

ラインハルトの問いかけに、艦娘たちは戸惑ったが、すぐにうなずいた。事に天龍や夕立は初めてのビッテンフェルトの指揮下で戦うことに不安を覚えていたが、白露、山城がビッテンフェルトの指揮下ならば絶対に大丈夫だと言ったので、二人は覚悟を決めた様にうなずいたのである。

「卿ら、よく聞いてほしい!」

ラインハルトは通信機を取った。

「卿らの実力をもってすれば前面の敵などおそるるに足らぬ!速やかにこれを撃破し、フロイライン・ユウバリらがいるラバウル鎮守府に向かうのだ!!」

応ッという高らかな声がこだました。ラインハルトとビッテンフェルトはそれぞれの指揮下の部隊との通信回路を設定し、同時に通信機をつかんだ。

「フロイライン・アカギ、フロイライン・リュウジョウ、フロイライン・コンゴウ。」

「フロイライン・ヤマシロ!!フロイライン・テンリュウ!!フロイライン・ユウダチ!!フロイライン・シラツユ!!」

「艦載機発艦だ!!戦線における制空権を確保し、もってビッテンフェルトらを掩護せよ!!フロイライン・コンゴウは中央にあって長距離砲撃で敵をけん制、敵の勢いを削げ!!」

「左側面から全速で突撃だ!!敵の左端には艦列に隙間があり、かつ駆逐艦などの弱小部隊である。真っ先にそれを叩き、主力の背中に食らいついてやれ!!」

二人がそれぞれの色合いをもってそれぞれの艦娘に指示を飛ばし始めたのだった。

 

 


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