艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第十二話 卿は今までどこにいたのだ?

ラインハルトは半ば信じられない思いで、半ば呆然と、目の前にいる人間を見つめていた。

 

 

見間違えようはずもなかった。葉っぱがところどころついていたが黒を基調とした銀色の襞襟と肩線の軍服は、ラインハルト自身が着ているものと同じである軍服であり、ただ階級による些細な違いがあるだけだった。そして、ラインハルトは葉っぱがところどころついたオレンジ色のオールバックの頭髪の頭を見た時に、一目で誰なのかわかったのである。

 

 

「ビッテンフェルトではないか!?」

 

 

ビッテンフェルトは「ガバッ!!」と顔を上げ、目の前の人物が誰であるかをコンマ0,01秒で悟ったのだった。

「ロ、ローエングラム閣下!?閣下ではありませんか!!!」

おお!!と全身に喜色を浮かべたビッテンフェルト。次の瞬間皆が驚いたことに彼は感極まったのか、正座したままで拳を目に当てたのである。

「か、閣下・・・よく・・・よくご無事でいらっしゃいましたな!!あのアスターテ会戦のさなか、小官の不手際のせいで旗艦に被弾した姿をケーニス・ティーゲルの艦橋から見たあの時、小官は自分で自分の頭をぶち抜きたくなったのです。ですが、今、閣下の無事なお姿を拝見し――。」

「よせ、ビッテンフェルト。私はこうしてここに立っている。」

ラインハルトはアスターテでの部下の肩を叩いて慰めた。そして彼を助け起こして立たせながら言葉を継いだ。

「私も卿には迷惑をかけた。だが、お互い無事な姿を確認できたのだ。それでよいではないか。」

ビッテンフェルトはゴシゴシと顔を拳で拭いながらうなずいた。

「しかし卿もここに来ていたとは意外だったぞ。どういうことだ?」

「はっ!小官も未だそれについてははっきりとわかりかねます。小官もケーニス・ティーゲルに被弾し、宙を吹き飛ばされたところまでは覚えておりますが・・・・。気が付けば、こちらのフロイラインたちに助けられ、ここで世話になっておったのです。」

ラインハルトは艦娘たちの方を見た。3人とも憔悴しきってよろめいていたが、大きな怪我をしていないのには安心した。ビッテンフェルトも弱っているようだったが、怪我をしていない。不幸中の幸いだろう。

「卿ら、ビッテンフェルトが世話になったな。礼を言う。」

3人の中で独特の帽子をかぶり、赤い上着を着た艦娘が、弱っているが案外元気な声で答えた。

「礼なんてかまへんかまへん。あんたがうちのビッテンの話しとったローエングラム閣下?いやぁ、ホンマにイケメンやなぁ。」

うちのビッテンだと!?ラインハルトは驚いた顔をしてビッテンフェルトとその艦娘とを見比べる。仮にもビッテンフェルトは帝国軍少将である。アスターテ星域会戦が帝国軍の勝利に終わった暁には中将にもなりうる器である。それを「うちのビッテン」だとは。奴はどういう扱いを受けていたのだ?

 

 

ラインハルトの視線を感じたビッテンフェルトは少し居心地悪そうに咳払いをした。

 

 

「ちょっと、龍驤。ローエングラムさんにも、ビッテンフェルトさんにも失礼だわよ。」

「なんや山城。素直やないなぁ。ローエングラム閣下の話しとった時には、あんたの扶桑姉様への態度と同じくらい顔赤くしとってからに。」

「龍驤ったら!!」

「喧嘩はよくないですよぉ。」

駆逐艦娘が何とか二人をなだめようとしている。その顔を見た夕立がぱあっと顔を明るくした。

「白露ちゃん!」

白露が夕立を見た。彼女の顔もぱあっと明るくなり、期せずして二人は手を取り合ったのである。

「龍驤さん、山城さん、白露さん。よく・・・よく無事で生きていてくれました。」

赤城が感極まったように胸を詰まらせると、龍驤も山城も白露も顔を一瞬歪ませて泣き出しそうな顔つきになった。それでも涙を流さなかったのはさすが艦娘だとラインハルトはひそかに思っていた。

「ローエングラム提督。」

赤城が万感の思いのこもった瞳でラインハルトを見つめた。

「提督のご決断に感謝します。あのまま引き返していたらこうして会うこともできなかった仲間と巡り会うことができました。閣下のおかげです。」

「それはこちらの言葉だ。互いに積もる話もあるだろう。私もビッテンフェルトと出会うことができた。これも卿等のおかげかもしれんな。感謝する。」

二人の言葉に皆が何度もうなずき合った。

「そう言えば、ローエングラム提督。」

赤城が夜の微風に髪をなびかせながら不思議そうな顔をしていた。

「その方、ビッテンフェルト提督のことですが、シュワルツランツェンレイターを率いた勇猛果敢な提督だと存じております。ですが、ビッテンフェルト提督もアスターテ星域会戦に参加していらっしゃったとは存じ上げませんでした。それにケーニス・ティーゲルなどの専用旗艦は大将になってから受領するのではなかったのですか?」

赤城たちの知っているアスターテ星域会戦は、ラインハルト麾下の提督たちがことごとく遠ざけられていた中での戦いだったのだが、今目の前にいるラインハルトの経験してきたアスターテ星域会戦は少し様相が違っているらしい。

「どうやら卿らの知っている我々の世界と、我々が実際にいた世界とは微妙に違っているようだな。まぁいい。フロイライン・アカギ、それは後で話す。それよりも今は目下の状況の分析だ。ビッテンフェルト。」

「はっ!」

ビッテンフェルト少将は敬礼をラインハルトに施した。

「私のクルーザーに来るとよい。そこのフロイラインたちも一緒にだ。こんなところよりもクルーザーの方が居心地はよいだろう。それに、卿もフロイラインたちもろくなものを食べていない顔つきをしているぞ。」

そうラインハルトが言った直後、ぎゅるるるるる~~~!!!という盛大なお腹の音が夜空にひびいた。一行は顔を見合わせた後、今度は盛大な笑い声を立てた。深海棲艦に聞かれようと構いはしない。ラインハルトはかつての部下の一人を、艦娘たちは自分たちの仲間を、それぞれ見出すことができたのだから。

「それはそうと、まだ妖精たちなどはいるのか?負傷者はクルーザーに運び込み、手当てをしなくてはならないだろう。」

ラインハルトの言葉に皆が我に返り、顔を引き締めてうなずいたのだった。

 

* * * * *

 

カパパパパパパパ!!ガチャン!!ムシャムシャ!!ゴクンゴクン!!プハァ!!という音がクルーザー内の狭い食堂に響き渡っている。赤城が用意した手料理をビッテンフェルト、山城、龍驤、白露が平らげていく音だ。山城は戦艦だと聞かされていたからその食べっぷりには驚かないラインハルトも、ビッテンフェルトの食べっぷりには驚いた。艦娘とほとんど遜色ない勢いではないか。

 

だが、さすがに食べる量は差があった。ビッテンフェルトが早々に満足してコーヒーを飲み干してからも、龍驤や山城、白露は食べる手を休めなかった。何日も断食していたのであれば、最初はおかゆからよい。その方が胃に負担をかけないのだが、聞けば半日何も食べていなかったのだそうだ。そのくらいならば大丈夫だろうと、赤城は普段通りに料理をしたのである。

 

なお、妖精たちは仲間の妖精たちから手当てを受けて、別室で食事を取ったり、仮眠を取ったり、治療を受けたりしている。幸い犠牲になった者はごくわずかであったが、龍驤、山城、そして赤城たちは死者のことを聞くと胸を暗くした。埋葬は水葬という事で小さな棺桶が別室に設けられた安置所に横たわっている。ラインハルトたちはここに来るまでにそこに立ち寄って黙とうをしてきたのだった。

 

『ご馳走様でした!!』

「うまかった!!」

艦娘たちとビッテンフェルトの満足げな声が、食堂に満ちた。

 

食後のコーヒーを皆で飲みながら、ビッテンフェルトと艦娘たちの話を聞く。聞けばビッテンフェルトもここ数日の間にこちらに来たらしく、その時にはマダン根拠地の司令部は内地に引き揚げていて、艦娘たちと彼一人がここに取り残されていたのだそうだ。ビッテンフェルトの指揮のもと、何度か襲来する深海棲艦を撃退できたので、龍驤、山城、そして白露は彼を提督として迎え入れていたのだった。

「せやけど、ちょうど今朝になって、深海棲艦の艦載機隊がぎょうさんやってきおったんや。うちらは皆総出で応戦したんやけれど、数が多すぎてアカンかったんや・・・。」

龍驤が暗い顔でつぶやき、我慢できなくなったように両手で顔を覆った。山城が、赤城が、艦娘たちみんなが彼女を慰め始めた。龍驤は聞けばマダン根拠地の秘書官だったのだそうだ。海軍司令部に捨てられた形になってからも、持ち前の明るさで山城と白露を引っ張ってきたという。

「閣下。」

ビッテンフェルトがラインハルトに顔を向けた。真剣な顔だ。

「どうか小官たちを閣下の鎮守府とやらの麾下に加えていただきたい。ここはもう駄目なのです。」

「むろんのことだ。我々はそのためにやってきた。」

ラインハルトはしっかりとうなずき返しながら、皆を見た。

「しかし、このマダン根拠地とやらまでも攻撃を受けるとは。深海棲艦は徐々に攻勢を強めつつあるようだ。できればマダン根拠地以外にも近くに友軍がいれば、合流して帰りたい。」

「そ、それは・・・アカン、かもしれないわ。」

龍驤が泣くのをやめて、赤城から渡されたタオルで顔をぬぐった。

「ごめんな。こんな弱い艦娘で。」

「気にするな。フロイライン・リュウジョウ。司令部不在の中、卿はよくやった。十分すぎるほどだ。だが、その後悔をそのままにするな。卿の闘志に変え、深海棲艦共にぶつけるといい。」

龍驤は一瞬目を見張ったが、口にタオルを当てて目を腫らしたまま、何度も何度もうなずいていた。

「龍驤さん。『駄目かもしれない』というのはどういうことですか?」

赤城が尋ねる。龍驤は一つ息を吸って落ち着きを取り戻してから、傍らに立つ赤城を見上げた。

「ここ最近無線が全然通じんようになってしもうたんや。だからそっちの状況もわからんかったのや。何度かこっちからも通信を送ったりしたんやけれどな。もしかしたら他のところも同じようになってるんやないかって――。」

ラインハルトとビッテンフェルトが顔色を変えた。

「閣下!」

「間違いないな。敵は通信を妨害してこちらを各個撃破にかかっている。各根拠地から通信が返ってこなかったのはそういうわけだ。うかつだった。なまじこちらが『捨てられた』状況だという事を決めてかかっていたせいだ。こうなれば、ラバウル鎮守府もどうなるかわからんぞ。」

電波妨害は銀河英雄伝説において会戦前の常套手段である。この世界の戦い方と全く同じというわけにはいかないのだが、二人の脳裏にはすぐに同じ結論――各個撃破――がうかんだのである。ラインハルトは皆を見た。艦娘たちの顔色をも変わっている。主力艦隊の留守中に健全な根拠地であるラバウルまでもが襲われたならば、絶望的な状況下に叩き込まれることを理解したからだ。

「すぐに引き返す、と言いたいところだが、卿等も疲れていることだろう。今日はすぐに休み、明日明朝にここを立つ。」

「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!もしも敵が襲ってきていたらどうなるんだ?」

「フロイライン・テンリュウ。今から出立したとして、向こうに帰還できるのには半日以上かかる。今この時に深海棲艦共が襲っていたとするならば、どのみち手は出せない。」

「しかしよう――。」

「卿らを疲弊させたまま戦場に赴くことは私はしたくはないのだ。疲弊しきった将兵を率いて戦って勝った例など稀有である。卿等を死なせるようなことを、私は二度としたくはない。」

ラインハルトの最期の言葉はうめくようだった。あのアスターテ星域会戦での敗戦を彼はまだ引きずっていたのだ。3方向に分散した敵の配置をレーダーで確認した瞬間に、ダゴン星域同様の兵力分散と確信し、兵を進めたところに、敵の逆撃を受けた。意識が飛ぶ寸前まで、麾下の大勢の兵を失いつつあった。あんな戦いは二度と繰り返したくはない。

彼の姿を見た天龍はそれ以上かける言葉を失ったようだった。

「卿ら、異存はないな?」

ラインハルトは確認するように、皆を見まわした。誰も異存はなかった。

「よし、では明朝500にここを立つ。それまで休息を取って明日に備えるように。」

艦娘と、ビッテンフェルトは敬礼を施し、ラインハルトは答礼を返した。

 




ビッテンフェルトは原作のアスターテ星域会戦には出ていないのですが、都合上話の中に入れておいたのです。

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