艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第十一話 私は勝算のない戦闘をしない。

ラインハルトはすぐさま妖精に指令を下してレーダーをフル稼働させ、状況を確認し続けた。赤城が索敵を具申したが、ラインハルトは却下した。今近くに機動部隊がいるのだから、艦載機を飛ばすのはむしろ危険なのである。レーダーによって半径数キロがカヴァーできるのであれば、その方が良いと判断したのだ。

「卿らよく聞いてくれ。」

ラインハルトは艦橋にあって、艦娘たちに無線機で連絡した。

「敵は空母3隻、重巡2隻、軽巡3隻、駆逐艦6隻からなる空母機動部隊だ。幸い戦艦らしい艦影は未だレーダーにはない。敵はわが方の2時方向から4時方向に向けて約15ノットほどの速力で航行中だ。敵進路、速力からするに、今のところ我々は発見されていないとみていい。そこで――。」

「先制パンチだな!!」

天龍が腕を撫しながら、声を上げた。

「早まるな!その逆だ。こちらは敵が気が付かないうちに全速航行でこの海域を離脱する!」

「なんだって!?せっかく敵に気づかれないうちに攻撃できるチャンスなんだぞ!!」

「フロイライン・テンリュウ!!」

ラインハルトの叱責が天龍をして思わず無線機から耳を離させた。

「卿は我々の目的を理解しているのか!?目標は敵機動部隊ではない。そんなものを撃破するためにここまで来たのではない。あくまでマダン根拠地とやらにいる艦娘と合流するために来ているのだ。それを忘れるな!!」

「でもよぉ・・・。ちぇっ!!わかったよ!!」

天龍は面白くなさそうにそっぽを向いたが、かといって艦列から離れようとはしなかった。

「天龍さん、まだ機会は過ぎ去ったわけではありません。マダン根拠地の艦娘と合流してからでも十分に敵機動部隊を叩けるチャンスはあります。大丈夫です。」

それに、と赤城が言葉をつぎ足して、

「今ここで交戦して、もしものことがあったら、提督をどうなさるのですか?それに私たちがやられてしまえば、残してきたラバウル鎮守府にいる夕張さんたちはどうなりますか?」

「わかったって言ってんだろ!!」

天龍が怒った。

「あ~あ!!・・・ったく、嫌になっちまうぜ!!戦うなってか、くそっ!!!」

一瞬全艦隊が気まずい思いを禁じ得なかった。が、ラインハルトは間髪入れずすぐに天龍に声をかけていた。

「慌てるな!!卿には存分に機会を与える。水雷戦隊の武闘派の最先鋒として卿には常に先陣をきってもらう。卿の前世とやらの武勲以上の功績を得る機会など、卿の腕前ならすぐにたてられるだろう。」

「・・・今度は、煽てかよ、お、俺がそんな手に乗ると思ったら大間違いだからな!!」

そう言いながらも、天龍の声にはにやけようとするものを必死になって抑え込んでいる様子がありありと伝わってきた。他の艦娘たちは笑いをこらえるのに必死だったが、ラインハルトの機をとらえる叱咤激励の巧妙さに内心舌を巻いていたのだった。

 

 

と、その時だ。艦橋にあったラインハルトがはっとレーダーに視線を固定し、赤城が上空を見上げ、夕立が叫び、金剛が手をかざして上空をにらみ、天龍が砲を構えるのがほぼ同時だった。

『敵艦載機!!』

一同の声が期せずして同じ言葉を発する。

「フロイライン・アカギ!!」

「艦載機隊、発艦します!!」

ラインハルトと赤城の呼吸は見事に合い、赤城が大空に放った矢は零戦21型と化して、敵艦載機隊を粉砕した。まさに間一髪のところである。

「敵は足止めを画策している。上空の援護はフロイライン・アカギの艦載機に任せ、このまま全速航行で突っ切るぞ!!」

ラインハルトの指示に艦娘たちはうなずいた。何度か襲来はあったが、いずれも赤城の艦載機隊が撃破し、ラインハルトのクルーザーも果敢に機銃で対空砲火の掩護射撃を行った。通常兵器であるから、艦娘たちの兵装に比べると威力はおちるが、それでも敵の動きを止まらせる程度の効果はある。ラインハルトとしては自分は「お荷物」になるのは耐えられなかった。無駄とはわかっていても少しでも掩護をしたいのだ。

 

幸いにして、それから機動部隊そのものの襲来はなかった。

 

何度か艦載機隊の襲来はあったものの、それを何とか凌ぎ切ったラインハルト一行は黄昏の中をマダン根拠地目前距離に到達していた。既に赤城が無線で根拠地に打電し続けているが、返答はない。

「おかしいネ。どうして返答がないのデ~ス?」

金剛が不思議そうな顔をするが、その表情の中にはあってほしくないことを願う真摯な気持ちも潜んでいた。黙り込んでいるが、他の者も同様である。

一行は無言で先を急いだ。白波を蹴立てて全速航行で進む。後に静かに白い航跡を引いていくが、それも次第に溶けて夜の闇の中に沈んでいく。

「あぁっ!!」

夕立が叫んだが、ラインハルトも今回はとがめだてしなかった。夕闇の中に沈んで、しかとはわからないが、その中にあったのはマダン根拠地・・・いや、マダン根拠地だった名残であった。

司令部と思しき建物は破壊され、軍港はいたるところに爆撃を食らって、大穴が開き、宿舎、工廠そのほかの施設も軒並み破壊されつくされている。ドッグなどの建物は損壊し、起重機クレーンが死刑囚のように首を折れまげて海面にその頭を突っ込んでいる。真っ二つに折れた輸送艦がその舳先だけを哀れにも海面に浮かばせていると思えば、大破したイージス艦がまだ炎を上げながら座礁している姿も見えた。その炎のせいでマダン根拠地の軍港の壊滅ぶりが一層ラインハルトと艦娘たちの目に映ることになった。

 

人の気配は何一つなかった。状況は明白すぎるほどであった。マダン根拠地は全滅していたのである。

「ウソだろ・・・・。」

天龍の漏らした言葉が全艦隊の心情を現していた。ここまではるばるとやってきたのにという思いが虚脱感をもたらしていたのだ。だが、ラインハルトだけは違った。彼は艦橋を降りて艦首に足を運んでこの状況を見ていた。ラインハルトはこの凄まじい惨状を見ても顔色を変えず、すぐに次の行動に移ったのである。

「フロイライン・アカギ。上陸して状況を確認したい。卿らが入れそうなドックは残っているか?」

「上陸ですか?しかし、まだ深海棲艦が潜んでいるかもしれません。危険ではありませんか?」

「危険は承知している。だが、ここまで来て空手で帰るというわけにもいくまい。それに、時間を空けずに引き返しては、先ほどの機動部隊が待ち構えている可能性もある。深海棲艦とやらの手がかりを得られるかもしれないし、物資を回収することもできるかもしれんぞ。それにだ。」

艦首にあるラインハルトは折から吹いてきた夜風に髪を乱しながら、皆を見まわした。

「まだ卿らの仲間がいるかもしれない。」

その言葉に艦娘たちの顔にわずかに明るさが戻った。切迫した状況では少しでも多くの物資が欲しい。弾薬燃料その他をここで回収できれば、今後の作戦にも余裕が出てくる。だが、それよりも何よりも一等良いのはこのマダン根拠地にまだ艦娘がいてくれていることだった。

「幸い無事だったドックが一棟だけあります。そこから上陸して状況を確認しましょう。」

赤城の提案に皆がうなずいた。

ラインハルトは短艇(自走式であり、手漕ぎボートではない。)で上陸し、艦娘たちはドックから上陸して、陸に上がった。とたんにまだ鼻につんとくる嫌な臭いと焦げ臭い匂いがいっしょくたに鼻を襲ってきた。かすかな夕闇の光をたよりに足元を見ると、足元の土はところどころまだ黒く焼けており、熱を含んでいるようにさえ思える。

「まだ生々しいな・・・。」

天龍が鼻をつまみながら言う。その隣で、夕立が両手を口に当てて、

「ぽ~~!!・・・・んんんんんっ!!!」

途端にラインハルトが口をふさいだ。手足をばたつかせる夕立をラインハルトが小声でしかりつける。

「フロイライン・ユウダチ!何をしている!?卿は深海棲艦を呼び寄せたいのか?!」

「ローエングラム提督、手を放してあげてください。」

赤城の取りなしでラインハルトが手を離した。

「で、でも、呼ばないといるかいないかわからないっぽいし・・・。」

「それは一回りここを捜索してからだ。それからでも遅くはあるまい。」

「ヘ~イ、でも提督ゥ。もしも怪我をしている子がいたらどうしますカ?早く見つけてあげた方がいいと思いマ~ス。」

金剛の言葉にラインハルトがはっとした顔をした。

「そうだったな。その可能性を考慮していなかった。すまなかったな。卿ら。」

「いや、いいぜ。そうと決まれば、すぐに探そう。」

天龍の言葉に皆がうなずいた時だ。

 

ガサガサッ!!と一行の左手にある茂みが不意に動いた。ラインハルトはとっさに腰のブラスターを引き抜き(なぜかブラスターもちゃんと腰にあったのだ。エネルギーパックの替えはそう多くはなかったが。)艦娘たちを庇うようにして構えた。

「誰だ!?動くな!!動くと撃つぞ!!」

ラインハルトの誰何に茂みの動きが一瞬止まった。が、次の瞬間情けない声が聞こえてきた。

「か、堪忍してぇな!!うちは深海棲艦ではないで~。ずっとここに隠れてお腹もすいてフラフラなただの艦娘なんや。」

赤城たちは顔を見合わせた。

「この声・・・。」

「聞き覚えがあるっぽい。」

「あぁ。このしゃべり方。」

「間違いないネ。」

4人の艦娘はうなずき合って、ラインハルトに武器を収めるように頼み、口々に出てくるように茂みに呼びかけた。ブラスターをラインハルトが腰に戻すと同時に、茂みが再び動いて、3人の艦娘、そして一人の人間が頭や体に葉っぱを付けてよろめきながら一行の前に倒れ込んで地面に手をついたのである。

 

その人間の顔を見たラインハルトの顔色が途端に変わった。

 


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