艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。   作:アレグレット

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第十話 派閥などにこだわっている場合ではない。

猛訓練を連日続け、基地航空隊の拡張に取り組むラバウル鎮守府には徐々に味方が集結し始めていた。だが、もっともそれは各基地の航空隊程度であり、それも十機、十五機などという軽微なものだったが、ラインハルトはこれらの妖精基地航空隊を歓迎して傘下に加えた。

「だが、肝心な卿ら艦娘の充実が遅れている。」

一日の日課・演習が終わり、夕闇迫る中、ラインハルトは金剛、赤城、そして新たに加わった夕張、そして天龍、夕立を交えて司令室で会議を行っていた。その会議上彼は地図を見ながら、そう言ったのである。

「召集だけでは駄目だってことだな。やっぱりこっちから向こうに行って説得でもするしかねえのか・・・。」

天龍の言葉に、ラインハルトはうなずいた。度重なるラバウル鎮守府からの召集指令にもかかわらず、各根拠地からの増援は夕張たちを除けば未だ誰一人としてこなかったのである。

「やはり、本土からの指令が行き届いていないのかもしれないな。全根拠地は速やかにラバウル鎮守府の麾下に加わるべし。そう本土はかく根拠地に暗号打電しているはずだが。」

ラインハルトの言葉に、赤城がうなずく。

「が、腰が重いという事は存外現地司令部で反対にでもあっているのやもしれぬ。これも派閥とやらの影響なのか。そのようなことにこだわっている場合では今はないのだが。やはり私が直接出向いた方がよさそうだな。」

この時期、赤城は巧妙に本土に打電し、ドイツ系の軍事顧問を迎え入れたのだと説明している。現在大西洋方面の諸国家とは連絡が取れていない状況だから、赤城はその辺りのことを巧妙に報告したのだった。ラインハルト・フォン・ローエングラム帝国軍上級大将という肩書をそのまま使うわけにはいかなかったが、少なくとも上級将官レベルでの顧問の到着は本土を湧きかえらせたらしい。

にもかかわらず、この仕打ちである。ラインハルトとしては本土の人間、そして周辺の根拠地の人間の神経を疑いたくもなる。

「はい。申し訳ありません。」

赤城がわがことのように顔を俯かせて謝った。

「謝る必要はない。奴らが事態の深刻さを把握していないだけだ。」

無能者め、とラインハルトが小声で吐きだすのを艦娘たちはじっと聞いていた。

「さて、再度確認するが、さしあたって、一番戦力糾合の期待ができるのは、ラバウルの西、マダン根拠地だということだな。」

「yes!!あそこには確かbattle shipとcarrierが一人ずついるって聞いたことがあるネ!」

金剛が言った。

「十分すぎるな。マダン根拠地とやらの奴らが何と言おうとも、マダン根拠地の艦娘は我々の傘下に入ってもらう。」

5人の艦娘はうなずいた。ラインハルトが直接マダン根拠地に行くと言い出したのは、数日前からである。その時は艦娘は一斉に色めき立ち、反対の意思を表明したのであるが、ラインハルトは鎮守府に置き捨ててあった高速武装クルーザーをもって仮の座乗艦とすることを決定し、自らが行くと言ってきかなかった。そのクルーザーはラインハルトの指令で妖精と夕張が全力を挙げて既に修復を完了していた。

「卿らに誓約したはずだ!私は常に陣頭にあって全軍を指揮すると!!卿らもそれを了承の上、私を提督として迎え入れたのではないか。」

そう言われては、艦娘たちも従わざるを得ない。その代り護衛は充分にすること、万が一の場合にはラインハルトだけでもすぐに退避してもらうこと、この二つを約束してもらったのである。こと、曙に言わせれば「クソ提督なんて戦場ではただのお荷物。」なのだそうだが、むろんそれをラインハルトに面と向かって言う勇者はいない。

確かにラインハルトには艦娘のような戦闘力はないが、今まで執務室に座ってばかりいる提督と違って常に自分たちのことを叱咤激励してくれる近しい存在であると誰もが認識するようになっていた。曙にしても、本気で「お荷物」などと言ったわけではなく、ラインハルトの思いを十分に承知している上でのことだった。

「私に同行する者として、フロイライン・アカギ、フロイライン・コンゴウ、フロイライン・テンリュウ、そしてフロイライン・ユウダチを指名する。ラバウル鎮守府の留守を、フロイライン・ユウバリ、卿に一任する。」

「はい!任せてください!」

夕張はしっかりとうなずいた。

「何か質問はあるか?」

誰も何も言わなかった。議論すべきことはすでに何度もしつくしていたからである。

「では、出立は明朝500とする。早い方がいいだろう。今日はもういい。各員明日に備えて休むように。」

5人の艦娘はラインハルトに敬礼し、ラインハルトはそれに答礼した。

 

翌日――。

 

払暁の中、高速武装クルーザーに座乗したラインハルトを守るように、輪形陣形を組んだ4人の艦娘は、白波を蹴立てて一路西方のマダン根拠地を目指していた。

「ここからマダン根拠地とやらにはどれくらいでつくのか?」

ラインハルトが無線機で赤城に尋ねる。

「距離にしておおよそ500キロ弱といったところです。現在の速度は28ノットですから、余裕を見込んで12時間程度でしょうか。」

「やはり海上航行では時間がかかるな・・・。」

ラインハルトは考え込んだ。宇宙をブリュンヒルトで駆けていた時などは、数千光年単位で考えていた移動距離が、キロという一気に縮んだ単位で考えなくてはならなくなった。しかも移動時間が格段にかかるようになってしまっているのである。だが、之も仕方がないこととラインハルトは自分に言い聞かせながら、航行するクルーザーに身を任せるほかなかった。

 この高速武装クルーザーはトン数4500トン、最高速度40ノット。ガスタービンエンジン20000馬力4基を備え、武装に62口径五インチ単装砲を艦首、艦尾に1門ずつ備えているほか、18ミリ機関砲を2門ずつ左右に備えている。最新鋭として本土に配備されている6000トン級護衛艦と比べるとやや小ぶりであるし、ミサイルによる迎撃システムもないのであるが、レーダーなどの索敵機能は遜色ない。近海を警備する艦としては上位能力を持っていると言えるだろう。ラインハルトは座乗前に一通り赤城や妖精からこの艦のシステムの説明を受け、自身もマニュアルを熟読してほぼ覚え込んでしまっていたのだった。

 もっとも、今のところはすべて操縦その他もろもろは妖精がやってくれているので、ラインハルトとしては艦橋にあって時折航路の指示をしているだけでよかった。

 

ラインハルトとしてはブリュンヒルトを思い出すよすがにと、白色塗装をしてみたいなどと冗談で言ったことがあったが、これは残念ながら実現できなかった。目立ちすぎるなどと赤城たちから止められたからである。本人もそれをよく理解していたからすぐに引き下がったのだったが。

 

「卿らはそうやって海上を走っていて疲れないのか?」

ラインハルトは時折天龍、金剛、夕立、赤城に尋ねていた。いかに艦娘と言えども人間である。麾下の将兵と同様、時には疲れもするし、休憩しなければ持たないのではないかと、ラインハルトは思っていた。

「心配ねえよ!こんな程度の長さの航海なら、ノンストップで行けちまうさ。なぁ?」

天龍が夕立に言った。

「提督さん、私たちのことを心配してくれているっぽい!でも、大丈夫っぽい!天龍先輩の言う通り慣れているっぽいもの。ぽ~い!!」

夕立が元気よく声を上げた。ラインハルトは頼もしいな、と思ったが、だからと言って油断はしなかった。まだ自分は艦娘のことをよくわかっていない。向こうも気を使っているのかもしれない。無理をさせてしまえば、いざ戦闘というときに万全の状態で迎え撃つことができなくなるではないか。

「ヘ~イ!提督ゥ!でもtea at 3 oclockは忘れないでくださいネ~~!!」

「金剛さん、今は任務中ですよ。それに洋上でどうやってお茶をたしなむのですか?」

赤城がたしなめたが、 金剛は指を振ってフフンと顔を得意げにしている。

「ノ~プロブレム、問題ありまセ~ン!提督のクルーザーに私のtea setを載せてきましたからネ~~!!」

「何!?フロイライン・コンゴウ、卿は断りもなく提督の座乗艦に私物を乗せてきたとそういうのか?」

ラインハルトの声が無線を通じて金剛を直撃する。叱責を受けたと思った金剛はしゅんとなった。

「て、提督、まずかったですカ。Oh・・・・。ごめんなさいデ~ス・・・。」

「いや、いい。むしろ将兵を・・・いや、仲間を思いやる卿の心遣いは私も見習わなくてはならないところだった。感謝するぞ、フロイライン・コンゴウ。」

「きゃあっ!!提督ゥ~~!!!」

金剛が両手を頬に充てて心底嬉しそうに「提督ラヴ」を全開にして叫んでいた。

「待て!!」

不意にラインハルトの切迫した声が全艦隊を凍らせた。彼の眼は目の前にある機器の変化を見逃さなかったのである。

「レーダーに反応有だ!奴らだぞ!方位2時方向、距離34000!データベースからの情報では・・・・。」

不意にラインハルトの声が途切れた。

「ヘ~イ、提督ゥ!どうしたネ!駆逐艦や巡洋艦ならばノープロブレム!私が全部やっつけて見せマ~ス!」

「・・・・どうやら、今日は大物を引き当ててしまったようだぞ。フロイライン・コンゴウ。」

ラインハルトの声が再び無線機から聞こえてきた。その声には不敵な闘志が全開に宿っている。あの強敵を前にした時の覇気と高揚感が無線越しにもはっきりと艦娘たちに伝わってきていたのだった。

「空母だ。それも3隻もな。空母を中心とした機動部隊がこちらのすぐ近くにいる。まだ向こうが気が付いたどうかは分らんがな。」

ラインハルトの言葉は全艦娘を凍り付かせるのに十分な内容だった。

 


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