艦これの世界にラインハルト・フォン・ローエングラム上級大将が着任したようです。 作:アレグレット
アスターテ星域――。
くそっ、と豪奢な金髪を揺らし、アイスブルーの瞳をきらめかせて、その若者は毒づいた。彼の名前は、ラインハルト・フォン・ローエングラム銀河帝国軍上級大将。艦艇2万隻を率いて自由惑星同盟と名乗る反乱軍の討伐にこのアスターテ星域までやってきた。対するその自由惑星同盟軍は4万隻。2倍の兵力差ではあったが、敵は3方向に艦隊を分散していたため、2万隻でも十分に勝てると踏んで出てきたのだった。
ところが、敵は分散していたのではなかった。少数の囮艦隊を分派していただけで、3万隻以上の本隊が彼を待ち構えていたのである。
「おのれ、ヤン・ウェンリーめ!!」
ラインハルトは自由惑星同盟の将官の名前を苦々しげに口走った。この若き自由惑星同盟の将官はこれまでの会戦でもラインハルトに煮え湯を飲ませてきた好敵手なのである。だが、彼がわめこうと怒ろうともいったん推移した戦局は急速に敗北への道をたどっていたのだった。
「戦艦ヘルチェン撃沈!エルラッハ少将戦死!」
「戦艦ルントシュテット被弾!メルカッツ提督、重傷を負いました!」
「戦艦アースグリム爆発四散!!ファーレンハイト提督、生死不明!」
という刻々とした状況悪化の報告が彼の座乗する白亜の旗艦ブリュンヒルトに届けられる。そのブリュンヒルト周辺にも容赦なく敵の攻撃が降り注ぎ、護衛艦隊はその数を減らしていった。
「キルヒアイス!」
彼は切り裂くように赤毛の相棒を振り返った。この赤毛の相棒の名前はジークフリード・キルヒアイス。幼年学校からここまでずっと一緒に昇進の階段を駆けあがり、苦楽を共にしてきた親友である。
「ラインハルト様、我々は敵の手に乗せられたのです。ここは撤退なさった方がよろしいかと思います。既に、勝機をうしなっておりますから・・・・。」
キルヒアイスに言われなくてもラインハルトにはわかっていた。だが、そうするには彼のプライドが許さなかった。
「しかし――!」
「直撃、来ます!!」
「なにっ!?」
再び前方を振り向いたラインハルトの眼に、凄まじい威力のビーム砲の光がきらめいた。艦が震動し、異常を知らせるアラートが鳴り響く。
「キルヒアイス、無事か!?」
赤色の非常灯が明滅する中ラインハルトが叫んだ。
「ラインハルト様、旗艦を離脱なさってお近くの戦艦に――。」
「お前を見捨てるわけにはいかない!!キルヒアイス――!!」
「またです!直撃、来ます!!!」
その言葉と共に前に倍する震動が来た。ラインハルトは吹き飛ばされ、体が宙を舞うのを感じた。
(ここまでか・・・・!!姉上、キルヒアイス!!すまない・・・!!)
帝都オーディンの後宮に捕らわれの身となっている姉に対して、そして、ここまでずっと自分を支えてきた赤毛の相棒に謝りながら、ラインハルトの意識は飛んでいった。
* * * * *
「う、うう・・・・・。」
全身がひどく重い。体がバラバラになっているような感覚がする。骨と骨のつなぎ目が外れてしまったようだ。ラインハルトは身をよじりながらなんとか動こうと努力を重ねた。
「まだ動いてはいけません。」
「う・・・・?」
ラインハルトが必死に目を開ける。とたんに眩しいほどの光が目に飛び込んできた。思わず目がくらみ、また眼を閉じる。
「大丈夫ですよ。そっと目を開けてください。」
かすかに呻きながらラインハルトは眼を開けた。白いシーツやカーテンが風に揺らめいているのが見えた。そして爽やかな風が鼻孔に流れ込んでくる。かすかに塩っぽい香りがする。これは噂に聞く海とやらの香りなのか。
「・・・・・・・・。」
眼を開けたラインハルトはしばらく自分がどこにいるのかわからなかった。
「気が付かれましたか。心配したんですよ。」
声の主をラインハルトは金髪の頭を動かして見た。黒い長い髪を伸ばし、見慣れない服を着た女性だ。黒い胸当てのような物に赤いスカートのような物をはいている。いや、まて。これはどこかの書物で読んだことがある。古代の地球の「日本」とかいう国の着物に似ている気がする。
「ここは、どこだ?」
「ラバウル鎮守府です。あなたは砂浜に倒れていたんですよ。ここに運び込まれてもう3日にもなります。」
「ラバウル・・・?」
聞きなれない単語にラインハルトは顔をしかめた。思考しようとしたとたん、頭痛が襲ってきて目がくらくらしてきたのだ。
「まだ無理をなさってはいけません。休んでいてください。」
「一つだけ・・・・教えてくれ。」
ラインハルトは必死に声を出し、一番気にかかる質問をどうにか絞り出した。
「キルヒアイスは・・・・俺と一緒に赤毛の男はいなかったか?」
「いいえ、あなただけです。」
そうか、とつぶやいたラインハルトの眼に再び暗黒が襲ってきたのだった。