怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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三話連続投稿の一話目。大変長らくお待たせしました。『怪人バッタ男 THE FIRST』も、遂にクライマックスです。

作者は毎年この時期は色々と忙しいので、どうしても更新が遅れ気味になるのですが、今年はそれ以外にも色んな事が有り過ぎてこの有様です。

……まあ、投稿が遅れた最大の理由は、一度失敗した事に性懲りも無くもう一度挑戦した事なんですけどね。何に挑戦したかと言えば……まあ、前例があるので分かるかと思いますです。はい。

2020/3/20 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第52話 怪人大戦アルティメイタム

オールマイトを筆頭とした日本のトップヒーロー達を背に、完全復活と究極進化を同時に果たしたオール・フォー・ワンらしきヴィランの攻撃を一太刀で払いのけた俺は、全身の細胞が生まれ変わったかの様な高揚感と全能感に満たされていた。

 

それは、例えるなら「俺が願う事ならば、その全てが現実になるだろう」と言う様な。或いは「自分だけがこの時代を変えていけるのだ」と言った、現実を知らない幼い子供が語る様な万能感。

普通に考えるなら、それは幼稚な勘違いだと一笑に付されるだろう。だが、それは確かな実感として、体の奥底から際限なく湧き上がってくるのだ。

 

「……随分と思い切ったイメチェンだな。まあ、俺から見ても悪くないヴィジュアルだ。お前の内面を顕著に現している。特に顔が」

 

「そうだね。確かにのっぺらぼうよりは大分マシになった。こうしてオールマイトの醜い姿を目にする事が出来て、僕はとても満足しているよ」

 

「? 何を言っている? まさか貴様、目が視えてなかったとでも言うのか?」

 

「君がソレを言うかぁ? 考えてもみてくれよ、6年前に君が僕に与えた傷の事を。勝利者である君が大きな後遺症を抱える羽目になったのに、敗者である僕が何の後遺症も無く、のうのうと生きていられるなんて有り得ないだろう?

君に敗れて以降、目が見えなくなった僕は、衣擦れの音や空気の振動に加え、『赤外線』と言う“個性”で僅かながらに感知し、相手の動作や感情の動き、それに空間把握を補助して過ごしてきた。つまり、僕が君を視るのは6年振りの事なんだよ」

 

それは、緑谷出久が一撃でオール・フォー・ワンを倒してしまったが為に、誰にも分からなかった真実だった。

 

オールマイトとの戦いに敗北し、完全に視力を失った上に機械による補助が無ければ生命を維持することすら出来ないオール・フォー・ワンにとって、その姿形が悪魔の如き異形と成り果てたとしても、失われた五感を取り戻し、健康かつ強靱な体を手に入れた事は、それを補って余り有る感動だ。

 

「しかし、イメチェンと言うなら君も大概だろう。何だいその武器は? 宇宙の平和を守るジェダイの騎士にでもなったつもりかい?」

 

「どっちかと言えば、ジューダイの宇宙刑事だ」

 

「……ふむ、確かに笑いと言うのは、分かる範囲が狭ければ狭いほどソレが分かる人には面白いモノだが、分からない人にとっては意味不明な妄言にしか聞こえない。注意したまえ」

 

ユーモアと皮肉の応酬の中、能力を総動員してオール・フォー・ワンの戦闘力を分析しつつ、周囲の生体反応をオーラエネルギーによって感知し、正確に生存者の居場所を特定する。

そして、どう言う訳か大量に増えたイナゴ怪人達に、生存者をこの危険地帯から脱出させるようにテレパシーで指示を出した。

 

「了解だ、我が王! 行けい! 平成イナゴ怪人軍団!!」

 

「「「「「「「「「「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」」」」」」」」」」

 

最古のイナゴ怪人であるイナゴ怪人1号の号令に合わせ、無数のイナゴ怪人が雄叫びを上げて要救助者の元へ殺到する。人型では通れない狭い場所には、無数のミュータントバッタとなって現場へ向かうだろうから、虫が苦手な人間にとってある意味でオール・フォー・ワンがもたらした被害以上のトラウマ展開が予想されるが、感じられる生命エネルギーが極端に小さい者も居る事を考えれば、人命には替えられない。

いや、正直に言えば俺としても、オール・フォー・ワンに攫われる前は10体しか居なかったイナゴ怪人が、今や100体を超える軍勢と化している現実は得体の知れない恐怖を覚えるのだが、それは後で考えることにする。

 

「させないよ」

 

しかし、そう簡単に上手く事は運ばない。オール・フォー・ワンが両手から不思議なエネルギーを放出すると、平成イナゴ怪人軍団の前に無数の脳無が出現した。

 

「むッ! これは……!」

 

「驚いたかい? 『巻き戻し』の力を用いれば、それこそ細胞が一欠片でもあれば幾らでも何度でも脳無を再生する事が可能だ。本当はもっと上位の個体を使いたい所だが、高性能な個体は数が少ないし、その分動作が不安定な上に、運用に難があるのが玉に疵でね」

 

「確かに型落ちの方が安定した運用が出来るし、コストも削減出来るとは聞くな」

 

「まあね。どれも春のUSJ襲撃の際の個体ほどの強さは無いが、それでも脅威である事に変わりはない」

 

確かにな。だが、仮にコイツ等が全部USJの脳無と同格だったとしても、イナゴ怪人達が怯むことは無い。俺の「生きたいと願う命を救え」と言う指示を忠実に守る為、イナゴ怪人達が立ち塞がる脳無の軍勢へと突撃する。

 

「例え、我々が滅んだとしても、人命が助かるならそれで良い! 全員、マタンゴは持ったな!? かかれぇーーーッ!!」

 

「君達を倒せば、僕は英雄になれるんだぁあああああああああああああああああ!!」

 

「ニゴリエースハ、オレノモノダー! パンツハワタサンッ!!」

 

「ボタン! 俺のボタン! よこしなさい! そのボタンをよこしなさぁ~~~~い!!」

 

「これで世界の平和が守れる。これで世界の平和が守れる。これで世界の平和が守れる。これで世界の平和が守れる。これで世界の平和が守れる。これで……(エンドレス)」

 

「今こそ、中高年希望の星が輝く時ッ!! 何せ今日の占いは超弩級の大吉ですからねぇ~~~~!」

 

「ここは拙僧にお任せですぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「ゲームオーバーを超越し、コンテニューしてでもクリアする! やはり、私こそが神だぁああああああああああああああああ!!」

 

……うむ。俺が言うのも何だが、どいつもこいつも意味不明な妄言を垂れ流し、これ以上なく絶好調で狂ってやがる。だが、それで良い。むしろ、イナゴ怪人らしくて安心する。

自分もいよいよ手遅れになったと思いつつ、イナゴ怪人軍団のおよそ半数が脳無との戦闘を、残りが要救助者の救助や、戦闘不能になったヒーローの回収に向かう様子は、見た目こそアレだが実に頼もしい。

 

かくして、世紀末を連想させる戦場は、今や人ならざる人外達によって黙示録の如き様相を呈していた。もはやどちらの陣営が正義の味方なのか、第三者が見た目で判断する事は困難を極めるだろう。

 

「しかし、君は失われた記憶を……いや、魂を取り戻したのか。“個性”の過剰投与による負荷に加え、脳改造を施した事を考えれば、とても信じられない現象だ。尤も、僕としては自我の無い人形のままでいた方が、君にとっては幸せだったのではないかと邪推するがね」

 

「……かもな」

 

オール・フォー・ワンの言いたい事は理解できる。この体を突き破らんばかりに溢れ出るエネルギーは、俺がこれから何処までも進化して、まだ知らない自分がこれから次々と目覚めていく事を確信させる。

もう俺に限界は無い。強いて言うなら“限界は無限”だ。生まれ変わる自分を止められないこの感覚は、これまでに俺が感じてきた進化の感覚を忘れさせる程に力強く、ソレに伴う戸惑いを焼き払うかの如く激しい。

 

仮に俺が此処でオール・フォー・ワンに勝利したとしても、俺と言うたった一人きりの存在が、何時かこの世界の全てを変えて、きっとこの世界の全てになってしまうだろう。

かつてのオール・フォー・ワンがそうだった様に。或いは、何時か見た夢の中で出会った、30年後の未来世界を支配する『魔王』の様に。

 

「理解していたか。そうだ。今や君は超人と言う枠組みを超え、この世界の法則から逸脱した存在になっている。全てを覆し、唯一人の支配者として君臨するに足る力を持つに至っている。そして、今の世界を破壊する事でしか、君にはもう自分の居場所を作る方法は無い」

 

「……そうだな。新たな世界に生きる者は、古い世界を生きる者から見れば“世界の破壊者”でしかない。その力で人を救う為に戦った所で、人々から情け深いと感謝されるよりも、強過ぎる力を恐れられ、忌み嫌われるのは当然の帰結だろう。超常黎明期に活躍したヒーロー達の様に」

 

「その通りだ! 現にこの世界の歴史が、超常黎明期の人類が、そして君の周りに居た人間達がそれを証明している! 『人は理解するよりも、憎む方が遙かに容易い』と! そして、『人はより安易な道を歩もうとする生き物なのだ』言う事をね!」

 

「……どう言う意味だ?」

 

「便利な機能や、強大な力。或いは新しい発見や発明。それ等を見た人間が真っ先に思いつくモノは何かと言えば、ズバリ『悪用』だ。それは“個性”も例外では無い。『爆破』なんて言う破壊しかもたらさない“個性”をヒーロー向きだとチヤホヤしていたのも、一重にその力が自分に向けられる事を恐れた為だ。強い力を持つ者は、総じてその力を振いたいと思うものだからね」

 

「………」

 

「一方で、彼等は君の“個性”を見てヴィラン向きだと言っていたが、それだって自分達が被害者にならない為だ。最も恐れる力の矛先を特定の対象に向け、他にはその力を向けない様に思考を誘導する。それこそ相手が自分は特別選ばれた人間なのだと自覚してくれれば、それは実に容易い事だろう。何せ『ヒーローはヴィランを倒す存在』なのだから」

 

「………」

 

「つまり、君は他人の『自分達の安全を簡単に確保したい』と言う、身勝手な欲望の犠牲となり、彼等のスケープゴートにされていたんだよ。勿論、そんな事を指摘しても彼等は絶対にそれを認めやしないだろうがね。

ハッキリと言おう。この世界は腐っている。だからこそ、君が取れる選択肢は二つに一つだ。『この腐った世界を破壊し、自分の為の新しい世界を創る』のか。或いは、『この腐った世界を維持する為に、自分自身を滅ぼしてしまう』のかだ」

 

「………」

 

「さあ、君の答えを聞こう。君はこの世界をどうしたいと思っているんだい?」

 

人は時として、知らない事を「罪」だと言う。ならば、逆に知り過ぎると言う事は、きっと「罠」に成り得るのだろう。

俺は自分自身の中にある力を、誰よりも知り過ぎている。だからこそ、俺にはオール・フォー・ワンの言葉が、俺の行く末を予言している様にしか聞こえなかった。

 

もはや、兵器と呼んでも差し支えない体に改造され、人類と言う種としては進み過ぎた進化を遂げ、全ての世界を救うも滅ぼすも自由にする事が出来る力を得た。それは、此処でオール・フォー・ワンを倒したとしても変わらない。

それどころか、今のオール・フォー・ワンはこの世界で唯一、俺の同族と言える存在となっている。即ち、この広い世界でただ一人、俺と未来を共有する事が出来る存在だ。だが……。

 

『助けて……助けて……』

 

「………」

 

誰の耳にも聞こえない声なき声が俺を呼んでいる。俺の目はずっとオール・フォー・ワンの奥底にある暗闇の中を見つめている。

 

――『破壊者』として生きるのか。『守護者』として生きるのか。

 

その問いの答えは、今も変わらない願いは、全てずっとこの胸の中に在る。世界が暗黒の歴史を繰り返す事を疑うよりも、今は自分の可能性を信じてみる。誰よりも今、俺は自分の未来を信じ、自分の願いを口にする。

 

「……悪いが、俺はお前の期待に応える事は出来ない。『生まれ持った“個性”に苦しむ人々の“希望の象徴”』。例え俺が変わり果てたとしても、俺の目指すモノは何も変わらない」

 

「……そうか。では、始めよう。そして、始まった瞬間、この戦いは終わる」

 

オール・フォー・ワンが光の速度で空中を駆け抜け、その手に邪悪なオーラを纏って肉薄する。

 

悪魔は『他者から“個性”を奪って自分の“個性”とし、他者に“個性”を与える事が出来る“個性”』を生まれ持ち、『超人を人間に退化させる能力』まで手に入れた。

それは、もはや人間が使う“個性”の範疇を超え、神が持つ“権能”と呼ぶに相応しい力だろう。そして、人の範疇を超えた力に対抗出来るのは、同じく人の範疇を超えた力だけだ。

 

「(……いける)」

 

俺の意識と認識能力は改造と進化によって拡大され、複眼に映る世界は時間が遅延していた。超高速で動いている筈のオール・フォー・ワンの動きをしっかりと目で追い。オール・フォー・ワンの動きに合わせて身体を動かす事が出来た。

半身になって攻撃をかわし、カウンターの要領で拳を振う。白銀の鎧に包まれた拳はオール・フォー・ワンの頬を叩き、その身体は宙を舞った。

 

「始まった瞬間が……何だって?」

 

オール・フォー・ワンはビルが崩れて出来た瓦礫の山に頭から突っ込むも、すぐに瓦礫を蹴散らして此方に真っ直ぐ突っ込んで来る。その顔には傷一つついておらず、その両手は複数の鋭利な刃物で構成され、先程よりも濃厚なオーラを纏っている。

 

「ヌゥン!」

 

「シィッ!」

 

手にした光剣と、凶器と化した狂気の腕が交わる度に火花が散り、現実には一秒にも満たない時間の中で何十回と剣劇が繰り返される。戦う度にまた一つ、今まで眠っていた感覚が叩き起こされていく。

そうして目覚めた感覚は、ギリギリの命の奪い合いによって、より鋭く研磨されていく。俺はより強いモノへと生まれ変わり、より高い次元へと引き上げられていく。

 

――戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

○○○

 

 

「……なぁ、ナイトアイ。本当に見たのか? 『オールマイトが呉島新に殺される』って未来を……」

 

「……ええ、それが私の見た、変え様のない“未来”――。だが……コレは……」

 

ナイトアイの『予知』では、呉島新はこの夜に“平和の象徴”を殺害し、その場に居合わせたヒーローと同級生を鏖殺した後、ドラスとの戦いに勝利し、その力を吸収する事で全身に血を浴びた様な真紅の装甲を纏う『創世王』に覚醒する筈だった。

 

だが、今の呉島新の姿は、ナイトアイが未来視で見た呉島新の姿とは明らかに異なるモノ。強大な権能を振るう悪魔に単身で立ち向かい、光輝く聖剣を振うその姿は、『旧世界を破壊し、新世界を統べる魔王』と言うよりは、むしろ――。

 

「何をボーっとしている! 早く此処から脱出するぞ!」

 

「……いや、私はヤツの『巻き戻し』による無個性化を受けていない。何か、役に立てるかも知れない……」

 

ナイトアイは確信していた。目の前で繰り広げられているのは、間違いなく“平和の象徴”となったオールマイトのデビューと同じく、後に『最強のレジェンド』として語り継がれるだろう“全ての始まり”となる一戦。

予知した未来は変えられる事を知った今、もはやナイトアイが“個性”による未来視を使う事を迷う理由は無い。ナイトアイが心から求め続けた「明るい未来」へと続く道は、今この瞬間にこそある。

 

「ええい、虫の息で何を言うか! 気持ちは有難いが、貴様に死なれては困るのでな!!」

 

「待て……せめて、オールマイトに……未来は、変えられると……」

 

「止めろ! 率先して死亡フラグをビンビンにおっ立てるんじゃあないッ!! 運べ!! マタンゴ達よ!!」

 

「「ウェッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘッヘ……」」

 

ナイトアイの提案を全て却下し、イナゴ怪人はマタンゴにナイトアイを問答無用で病院に向かって搬送する様に指示を出す。一応、ナイトアイにギリギリまで戦場が見えるようにして運んでいる辺り、多少なりともナイトアイに対して考慮はしている。

 

「……見えた」

 

「ええいッ!! だから無理をするなと言うにッ!!」

 

――そして、ナイトアイは確かに見た。大きな6枚の羽根を広げた、白い『悪魔(ヴィラン)』の様な『天使(ヒーロー)』が、少女を胸に抱いて空から堕ちてくる光景を。

 

 

●●●

 

 

俺とオール・フォー・ワンの二人以外、誰も存在しない時空の中で、俺の拳は再びオール・フォー・ワンの頬を叩いた。

しかし、今度は先程の様に大きく吹っ飛ぶ事無く、オール・フォー・ワンは地面に電車道を作りながら後退し、口元を拭いながら此方を睨んでいる。

 

「グゥ……! ここに来て、まだ成長すると言うのか……ッ! だが、どうしても守るモノが多いんだよなぁ……ヒーローには!」

 

「うぅ……」

 

「!!」

 

オール・フォー・ワンの胸から突然少女の顔が露出し、苦しそうな表情を見せた事で俺が動揺した一瞬を、オール・フォー・ワンは見逃さなかった。

 

「隙ありだ」

 

オール・フォー・ワンはすぐさま少女の顔を引っ込め、瞬く間に懐に入り込むと、腰のベルト状の器官にオーラを纏った一撃を叩き込む。突き上げるように捻り込まれた拳をまともに受けた俺は、空へ向かって大きく吹き飛ばされていく。

 

「グオオオオオオオオオオオッ!?」

 

それと同時に、体の内側から強い力で引っ張られるような感覚と共に、体がみるみる内に変化していく。

……いや、これは「変化」と言うより「退化」と言うべきものだ。即ち、こうなる前の姿に。意識を取り戻した時の体に戻っていた。

 

「こんのぉッ!!」

 

「むッ!?」

 

しかし、巨大な掌が俺を受け止め、吹っ飛ばされた先で待ち構えていたオール・フォー・ワンの追撃が防がれる。代償として、壁の役割を果たした巨大な掌に大きな穴が開いていた。

 

「Mt.レディ!!」

 

「くぅううう! 頑張れ! 負けるな! ヒーロー! うあああああああああああああああッ!!」

 

激痛に耐えるMt.レディの眼差しには決意と覚悟が溢れており、その巨体を維持したまま下にいる脳無と平成イナゴ怪人達を巻き込んで倒れこもうとしていた。そんなMt.レディの意思を察し、平成イナゴ怪人達が数人がかりで脳無を抑えつけている。

 

「我が魂はァアアアア!! ZECTと共に在りィイイイイイイイーーーーーーッ!!」

 

「我望様、見ていただけましたか? 私の存在の重さを……」

 

「全てはぁあああああああ!! 難波重工の為にィイイイイイイイイイイイッ!!」

 

そして、平成イナゴ怪人達の中には、何やらよく分からない対象を信仰している様な事を抜かしている個体もいるが、イナゴ怪人が明後日の方向に狂っているのは何時もの事なので、特に問題は無いだろう。

 

「思ったよりもやる。だが――」

 

Mt.レディの巨体に脳無達が押し潰され、多数の平成イナゴ怪人達がミンチになる。元のサイズに戻ったMt.レディを他のイナゴ怪人達が大急ぎで運び出し、脳無には容赦なくマタンゴを突っ込んでいる様子を見ながら、オール・フォー・ワンはあらぬ方向にレーザーを発射した。

一体、何を狙ったのかと怪訝に思って視線を辿れば、レーザーは全国のお茶の間にこの光景を伝えるべく向かう途中であろう、遠くに見える報道のヘリのプロペラを貫いていた。

 

「テメェ……!」

 

「心置きなく戦わせないよ。決着は此処で着けさせてもらう」

 

「チィッ!!」

 

プロペラを失った上に火を噴き、操縦不能となったヘリの搭乗者達の命を助けるべく、テレパシーで『ローカスト・エスケープ』によるワープを可能とする、イナゴ怪人1号を向かわせる。

 

想像以上に面倒な展開だ。イナゴ怪人の数は脳無との戦闘で大分減ったが、脳無はあらかたマタンゴによって無力化されたようだから良いとして、町中と言う地の利を最大限に利用されている。

 

そんな半ば人質を取られている状態を打破する策を練る間も無く、オール・フォー・ワンは背中から綺麗な緑色に輝く6枚の羽を生やし、胸に大きな窪みを作ると中心に膨大なエネルギーが集約されていく。

不味い。あの窪みの正体は砲口だ。しかも、感じとれるエネルギーの量と質から察するに、ここら一帯が消し飛ぶ絶大な破壊力を秘めている事が手に取るように分かる。

 

「サタンサーベルッ!!」

 

何処からともなく真紅の刀身を持つ剣が右手に向かって飛来し、左手にソレと同じ形状と能力を持った剣が生成される。そして、今にも発射されそうなエネルギー砲を正面に見据え、俺は両手の剣を×字に組んで構えた。

 

「避けなくて良いのかい?」

 

「避ける必要は無い」

 

嘘である。しかし、避ければ確実にこの都市の被害は拡大する。下手に砲撃の発射を阻止すれば、チャージされたエネルギーが行き場を無くして暴発する恐れがある。残された手段は、発射されたエネルギー砲を“受け流す”か“受け止める”か、或いは“相殺する”しかない。

 

「マリキュレイザー」

 

「サタンクロスッ!!」

 

邪悪な笑みを浮かべながら放たれた極大の破壊光線を、二振りの魔剣が放つエネルギーで正面から受け止める。そして、放出されるエネルギーの減り具合を正確に感知し、機を見て一息に×字状に切り裂いた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「互角か。だが、そろそろ……」

 

やはり、戦闘の余波による周囲への被害を考慮するなら、飛び道具の打ち合いによる遠距離戦は此方が圧倒的に不利だ。

ここは徒手空拳による接近戦で片をつけるのが最上と判断し、両手に握っていた獲物を捨て、オール・フォー・ワンに肉薄する。

 

「ライダーパンチッ!!」

 

両肘と両足の踵に追加された強化装具によって、増強されたジャンプ力とパンチ力から繰り出される一撃をオール・フォー・ワンの顔面に叩き込もうとした時、何の前触れも無く目の前が真っ白になり、体から五感が一切失われていた。

そして、体に五感が戻った時、オール・フォー・ワンの顔面に叩き込んだ筈の拳が、俺の意識とは裏腹に、空中に固定されたかの様に制止していた。

 

「(何だ? 何が……)」

 

「フンッ!!」

 

「グァアアアアアアアアアアアッ!?」

 

体の動きが止まった瞬間を狙い澄ました様に繰り出したオール・フォー・ワンの拳は、ベルト状の器官に罅が入るほどのダメージを与えると、俺は再び体が強い力で内側から引っ張られる感覚を味わい、見る見る内に体から堅牢な銀色の装甲が消失し、白い外骨格に覆われた姿になった。

 

「何だ……? 何が起こっている……?」

 

「計算通りの事が起こっている。訓練を繰り返す事による『強化』。世代を経る事による『深化』。或いは、何らかの人為的な要因による『変化』……この超人社会で強大な“個性”を手にする方法は様々だが、いずれの場合も“個性”をコントロールするのは頭脳だ。それは改造人間でも変わらない」

 

「………」

 

「改造人間の能力の真価は、複数の“個性”に耐えられるように改造された肉体にあるのではない。改造された肉体を超高速でドライブし、収集した大量の情報を瞬時に処理する脳にこそある。

超人を超えて進化した無限の力を持つ肉体と、それに適応した処理能力を備えた脳を併せ持つ。それこそが、我々が求めた改造人間の完成形だ。これまでに造られた脳無やガイボーグは、そこに至る過程で生み出されたプロトタイプに過ぎない」

 

「………」

 

「今の君の身に起こっているのは、肉体の進化に適応した脳が、退化した肉体とのギャップを上手く吸収する事が出来ず、“目眩”を起こしているんだよ。比喩だがね。尤も、それは過渡的なモノで、しばらくすれば脳がソレに適応する事で収まるだろう。

それに、君に一度『個性破壊弾』を撃ち込んだ所為か、どうにも『巻き戻し』の効果が弱い。その退化も君にとっては一時的なモノに過ぎないだろう。尤も、この勝負に勝つ事に限定すれば、それで十分だ」

 

「……なるほど。要は『体が強くなれば良い』って訳だ」

 

白くなった体を紫の炎が包み込み、爆発によって体を纏う紫炎が弾き飛ばされると、間髪入れずにオール・フォー・ワンを強襲する。

白から紫に変色した外骨格の隙間からは炎が噴き出し、発達した筋肉から繰り出される豪腕の破壊力が底上げされている。

 

「業腹だが、改造される前より調子が良いな」

 

「それにその姿で喋れる様になっているね。感謝してくれたまえ」

 

「ああ、感謝するぜ。この恩は仇で1000倍にして返してやる」

 

「とてもヒーローとは思えない言動だ。今からでも遅くは無い。爆豪君と共に弔の仲間になる事をオススメするよ」

 

第三者から見ればお互いに軽口をたたき合い、結構余裕があるように見えているかも知れないが、オール・フォー・ワンは兎も角として、俺の方は内心焦りを覚えていた。

 

確かに改造される前よりも、肉体も能力も強化されている。新しくベルト状の器官が出来ている所為か、持続力も上がっている。しかし、それでも体の動きが、意識しているソレよりも遅い。さっきよりも大分マシにはなっているが、それでも最適とは言い難い。

オール・フォー・ワンは最低限の動きで此方の攻撃をかわしながら、ヴィラン流のジョークを振る余裕が本当にあるのだろうが、俺は余裕のあるフリをしているだけで、実際はかなりギリギリだ。

 

「(! また……)」

 

「ハァッ!!」

 

そして、再び俺の身に起こる、オール・フォー・ワンが言う所の“脳の目眩”。それを見逃すこと無く、腹部のベルト状の器官を狙って執拗に繰り返される攻撃。

ベルト状の器官に大きな亀裂が入り、バーニングマッスルフォームからマッスルフォームに弱体化してしまう。いよいよ本格的に追い詰められてきた。

 

「グヌゥウウ……! 真空……きりもみシュートッ!!」

 

「無駄だ。フンッ!!」

 

これまでの自分の戦績を支えていた必殺技が、オール・フォー・ワンの羽ばたき一つに競り負けた。そのたった一度の羽ばたきは俺の体をその場から吹き飛ばし、地面をゴロゴロと転がした。

何とか体勢を立て直そうとするも、オール・フォー・ワンは此方に飛びかかり、オーラを纏った拳を振り下ろそうとしていた。

 

「終わりだ」

 

「冗談……ッ!」

 

拳が触れる刹那、アクセルフォームを発動すると、オール・フォー・ワンの拳が空を切り、地面に突き刺さる。俺はそのままオール・フォー・ワンに攻撃を仕掛けるが、改造された今でもアクセルフォームの攻撃力は低く、オール・フォー・ワンが猛攻に堪える様子は全く無い。

 

「ぬるい」

 

「!?」

 

オール・フォー・ワンが音速を超えた速度で繰り出した右足を無造作に掴むと、雑巾でも振り回すかの様に俺を地面に叩きつけ、オール・フォー・ワンが先程突っ込んだ瓦礫の山に向かって投げ飛ばされた。

 

「グオオオオオオオオ……!!」

 

凄まじいスピードで瓦礫の山に頭から突っ込み、瓦礫の山の中から這い出て何とか脱出した時、俺の体は何時も通りの、見慣れた怪人バッタ男の姿になっていた。

 

「カハッ……アァ……」

 

「遂に初期の状態に戻ったな。君が雄英に来る前の状態に……勝負はついたな」

 

「それは……どう、かな……」

 

体が重い。意識する動作と現実のソレが一致しない。地べたを這いずるのがやっとで、立つことさえままならない。

 

『助けて……助けて……』

 

ああ、コレはキツイ。脳裏に勝己が人質になったヘドロヴィランの事件がよぎる。助けを求めている人がすぐソコに居るのに、助ける事が出来ない事の何とキツイ事か。

 

――だが、諦めない。投げ出さない。

 

まだ手は残っている。オール・フォー・ワンとの戦闘中に、俺はこの世で最も信じる存在にテレパシーを送り、ある頼み事をしていた。その準備の為に、出来る限り時間を稼いだ。

 

そして、反撃の準備は整った。そんな俺の意志に呼応し、ミュータントバッタの大群が羽音と共に、俺とオール・フォー・ワンの元に向かって飛んでくる。

 

「小賢しい」

 

オール・フォー・ワンが全身から放つ熱波によって、ミュータントバッタの群れはオール・フォー・ワンに触れる事無く焼失し、瞬く間に灰燼と化していく。

しかし、俺の狙いはオール・フォー・ワンを何処かに転送する事ではない。ミュータントバッタ達が燃え尽きるその前に、その中から白い影が飛び出した。

 

――自動二輪兵器『サイクロン』。

 

俺の、『仮面ライダー』の分身たる一台のバイクの座席部分から、バッタを模したヘルメットが、風車が付いたベルトが、『強化服・弐式』が俺に向かって飛び出し、サイクロンは猛烈な勢いでオール・フォー・ワンに突撃する。

 

「なるほど、そう来るか」

 

オール・フォー・ワンはサイクロンを真っ正面から受け止め、サイクロンの後部車輪からは白煙が上がった。駆けつけたサイクロンの馬力を嘲笑うかの様に、オール・フォー・ワンはサイクロンを投げ飛ばすと、横転したサイクロンに破壊光弾を放ち爆発炎上させた。

 

「流石はオールマイトの後継だ。最後まで諦めず、実に醜く足掻く。しかし、結局は君の寿命がほんの少し延びただけの――」

 

「フォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

その時、一度聞いたら忘れられない特徴的な絶叫と共に、俺にとってもオール・フォー・ワンにとっても予想外の援軍が到着した。

 

「変態仮面……見参ッ!!」




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 全ての超人をぶっちぎりで超越してしまった怪人。最初はそこそこ優勢だったが、進化し進歩した肉体が退化してしまい、脳と肉体のバランスが崩れた状況に追い込まれてしまう。それは例えるなら、「ニンテンドーSwitchでポケモンの最新作を遊んでいたら、最後にはゲームボーイを掴んでいた」と言う様なモノ……って何だ、その謎の現象。

サー・ナイトアイ
 今回の戦いで左腕をもがれたが、死亡フラグも一緒に折れたリーマンヒーロー。ついでに『予知』に関するトラウマも克服出来たが、“個性”が使えるとは言え四肢欠損の重傷を負った彼を戦場に置いておく選択肢は平成イナゴ怪人達にはなかった。

Mt.レディ
 原作と同様に、一応の活躍を見せたプロヒーロー。原作と違って掌に穴が空いたが、何体かの脳無を始末する事に成功。ついでに平成イナゴ怪人達も潰れて、コスチュームが緑色に染まってしまった。

オール・フォー・ワン/アルティメットD
 最強無敵のアナザーRXと化したシンさんの独壇場と思いきや、蓄積された経験値と改造人間の知識を元に、シンさんを弱体化に追い込む試合巧者。地味に「必殺技の名前を言って放つ」と言う、原作でお目にかかれない事をやっている。まあ、必殺技名を言うヴィラン自体、この頃の『ヒロアカ』には余りいないんだケド。

イナゴ怪人(1号~ZX)
 何だかんだで復活し、生きようとする命を救わんとする怪人達。ワープ系能力を持っているイナゴ怪人1号を警戒され、「無視したら死ぬぞ」とばかりに報道のヘリが撃ち落とされたが、ヘリの搭乗員は全員無事。サイクロンをお届けした後、イナゴ怪人1号はリボーンして人命救助に向かった。

マタンゴ
 脳無を苗床として増殖し、人命を救わんとする怪人達。脳無は元々自我を持たず、特定の人物の指示を聞くので、マタンゴ達は感染・増殖によるエネルギーリムーブで脳無を無力化している。最終的にその数は平成イナゴ怪人よりも多くなった。

平成イナゴ怪人軍団
 イナゴ怪人クウガ等の平成ライダーの名を冠するイナゴ怪人の登場を望む読者の声に応える形で登場した読者サービスの化身。イナゴ怪人753やイナゴ怪人5103と言った具合で、実際には平成ライダーの名前の数より個体数が多い。『ゴースト』の御成は変身してねーだろって? オナタロスと化してタコ焼き王子の体を乗っ取り、ネクロムに変身したことがあるから問題ない。



バッタ人間SHADOW
 見た目はシャドームーンの本来の姿とされる「仮面ライダーBLACK」の色違いと言った感じで、体色は白く複眼は青い。要は白いBLACK。戦闘力はアナザーRXやシャドームーンに比べればかなり低く、すぐにバーニングマッスルフォームにチェンジしたが、この形態でも様々な特殊能力を使う事が出来る。

マリキュレイザー
 名前こそドラスが使う分子破壊光線だが、中身はもはやハイパーカブトのマキシムハイパーサイクロン。元のイメージは『HERO SAGA』に登場するドラス究極形態だが、何処となく『人造人間ハカイダー』に登場するハカイダーの最終兵器「破壊砲」を連想してしまうのは作者の気のせいだろうか。

サタンクロス
 元ネタは『BLACK』に登場する、剣聖ビルゲニアが使う必殺技。魔剣ビルセイバーとサタンサーベルを用いる攻撃技だが、本作のシンさんは二振りのサタンサーベルによる防御を目的として使用する。無論、やろうと思えば攻撃技としても使用可能。

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