怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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前に募集した『2人の英雄』のアンケートで寄せられた意見の中に「昭和ライダーなコスチューム」があったのですが、それは主人公のコスチュームである『強化服』の設定的に既にあるものだったので採用出来ない。
しかしながら、時系列的に『THE FIRST』ではそれらはまず登場しない(『強化服・拾式』の様な例外はありましたが)。でも、折角寄せられた意見に対して何もやらないのは、読者さんに対して申し訳ない。

……ならば、以前に募集した『シンさん小説のアンケート』で寄せられた、「シンさんに行って欲しい世界」で、それを登場させよう。
そう思い至った作者は、アンケートで寄せられた「行って欲しい世界」のリストから、ガチャを回す気分で検索ボタンを押して、一番上の小説の元ネタで決めようと思い至った。結果は……。

原作:アカメが斬る!

……うん。リストにあった。

そんな訳で、本編や劇場版とは別に、『アカメが斬る!』の世界で「そんな事、俺が知るか!」な主人公が「強化服・七式」を使ってストロンガーな活躍をする『天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ!』を投稿しました。

そして、感想欄でも需要があった『ゴールデンカムイ』の世界でバッタ怪人が姉畑支遁をフルボッコにする『シンサンカムイ』も投稿。興味があれば其方の方もよろしくお願いします。


第43話 スーパー怪人大戦:イナゴ怪人3号

街頭の光に群がる羽虫の様に、彼等はしつこく、何度でも光の下へとやってくる。

 

「さぁ、始まりだ。地に堕とせ。我ら『敵連合』“開闢行動隊”」

 

ヒーロー殺し『ステイン』。現代の超人社会において、ヴィランから見ても異端と判断される行動と思想は、皮肉な事に彼が活動していた時期よりも、むしろ彼が逮捕された後の方が、より大きな社会的影響を与えたと言えるだろう。

 

オールマイトがヒーローの頂点に立ち、ヒーローと言う人種が飽和状態にある現代と、そもそもヒーローとヴィランの境界線さえ曖昧だった超常黎明期では、ヴィランが生まれる理由も、ヴィランの性質も違う。

ヒーロー殺し『ステイン』がそうであった様に、ヒーローが作り出す光によって生まれた超人社会の暗闇の中で育まれ、憎悪や絶望や欲望を糧にして成長する悪意は、時として突然変異を起こした怪生物の様に、常人には想像もつかない様な性質をその身に宿している。

 

――そして、世の常として『突然変異の怪物』と言うものは、善くも悪くも人の興味を引きつける。

 

「マグ姉。本当にコッチに居るのか?」

 

「ええ、間違いないわ。乙女の勘は当たるのよ」

 

「……確か、マグ姉も『仮面ライダー』を狙ってるんだったな」

 

「ええ、そう言う貴方もそうでしょう? スピナー」

 

「ああ。悪いが、アンタにも取らせるつもりは無い」

 

「人気者よね。まあ、ちょっとした時の人だものね。……でも、私も譲る気は無いわ」

 

「ハハハ。俺の方が、根が深ぇ……!」

 

「……まぁ、いずれにしても、飼い猫ちゃんはジャマね」

 

作戦の始まりを告げる狼煙を見た二人は、明確な意志と成し遂げなければならない目的を胸に秘め、暗闇の中からその恐るべき不可視の魔手を伸ばし、ヒーローの首をそっと握りしめた。

 

 

●●●

 

 

肝試しが開始してからおよそ12分。麗日と梅雨ちゃんの二人が出発してから間もなく、それは起こった。

 

「何? この焦げ臭いの――」

 

「アレは……」

 

「黒煙……?」

 

「何か燃えているのか?」

 

「まさか、山火事!?」

 

明らかにボヤ騒ぎの域を超えている量の黒煙が森から上がっているのを見て、何らかの非常事態が発生したと判断した俺は、即座に“個性”を発動。人間から怪人バッタ男への変化が終わるのと、ピクシーボブが宙に浮いたのは、ほとんど同時だった。

 

「な、何!?」

 

「ピクシーボブ!」

 

「MUUUUUUUUUU!!」

 

何らかの強力な力によって、森の中へと引きずり込まれようとするピクシーボブに抱きつき、持ち前の怪力でソレを阻止すると、ピクシーボブの体に何らかのエネルギーが加わっている事が、目視と感覚で理解できる。

そして、そのエネルギーの発生源を探して森に目を向けると、明らかに樹木とは異なる「人型のオーラ」が二つ存在する事を、俺は目で確認した。

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

「ぶっ飛びぃいいいいいいいいいいいいい!!」

 

そして、目視によって確認できたと言う事は、俺の『超強力念力』の発動条件を満たしたという事でもある。

早速、“個性”伸ばしの訓練の成果が現われた事に感動を覚えるも、『超強力念力』によって森の中から引きずり出されたのは、ステインのコスプレをしたB組の取蔭以上にトカゲみたいな見た目の男と、棒状の武器らしき物を持った妙にキャラの濃そうなグラサンの男だった。

 

「今だ! 捕らえよ、イナゴマン! そして、アマゾン!」

 

「「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」」

 

イナゴ怪人1号の指示によって、間髪入れずに二人の不審者を拘束するのは、イナゴマンとイナゴ怪人アマゾンの二人。流れ作業の如く不審者が無力化される様をみて、クラスの皆は呆気にとられている。

 

「そのまま拘束を続けて! 絶対に離しちゃ駄目よ! ラグドールとピクシーボブは他の生徒の安否確認! 二人とも森の方に!」

 

「了解!」

 

「分かった!」

 

しかし、プロヒーローたる『プッシーキャッツ』の四人は、それ相応の場数を踏んでいるだけあって、冷静かつ迅速に「第三者による悪意あるトラブル」が起こった事を理解し、マンダレイの指示を受けたピクシーボブとラグドールが、すぐさま森の中へと走って行った。

 

「皆、急いで施設に向かって行って! 委員長、引率!」

 

「承知いたしました! 行こう!」

 

「! 待ってくれ!! ソッチは駄目だ!!」

 

「待って!! ソッチに行っちゃ駄目よ!」

 

マンダレイからの指示を受け、飯田を中心として俺、出久、口田、尾白の5人が一塊になって、相澤先生やブラドキング先生の居る施設の方へ向かおうとした時、不審者二人が同時に俺達を止めた。

初めは罠かと思ったが、不審者二人の鬼気迫る表情と声色から、どうにも罠とは思えない。そして、お互いに相方が予想外の事を言っていたのか、二人とも驚いた様子でお互いの顔を見合わせている。

 

「どう言う事だ? いや、そもそも貴様等は何者だ? 目的は何だ?」

 

「俺達は『敵連合』“開闢行動隊”!! そして、俺の名はスピナー! その目的は、いずれこの時代を背負って立つ未来の『№1ヒーロー』!! 呉島新先輩をお守りする事だ!!」

 

「「「「「「「………はぁ!?」」」」」」」

 

ちょっと待て。コイツは今、何と言った? 『敵連合』“開闢行動隊”? 『敵連合』がこの場に現われた事も謎であるが、それ以上に何でそんなヤツが俺を守ろうとする?

 

「……詳しく説明しろ。何故、貴様が我が王を守ろうとする」

 

「今を遡ること数ヶ月前、俺は見たんだ。前時代的な価値観の残る田舎で、『トカゲ野郎』と蔑まれて育った俺は、その日までソレが当然なんだと思って生きてきた!! 今年の『雄英体育際』を見るまでは!!

幾度と迫る絶体絶命のピンチを撥ね除け、俺を含めた田舎の連中の予想と常識を覆し続けた姿に、俺はマジでシビれた!! 空っぽだった俺の心にどでけぇ穴が空いて、爽やかな風が吹いた!! あの日、俺は運命に出会ったんだ!!」

 

「「「「「「「………」」」」」」

 

此方の困惑を無視し、此処に来るまでのいきさつを語り始めたスピナーの目は、まるで神の奇跡を目撃した宗教家の様にキラキラと輝いていた。

それを聞いた俺は「なら、なんで悪い奴等に荷担するんだ?」と思ったが、折角相手が話す気になっているのに、下手に会話を途切れさせて気分を損ねる訳にはいかない。ここは黙って、スピナーの語りを最後まで聞いた方が得策だろう。

 

「何とか呉島新先輩の御力になりてぇ一心で、単身田舎を飛び出したんは良かったんだけど、金も無ければ学も無ぇチンピラの俺に出来る事なんざ何も無かった。そんな失意のどん底の中で、俺はステインの動画を見たんだ!!」

 

「ステイン……! その格好から察してはいたが、やはり、あてられた連中か……!」

 

「そうだ! 俺が呉島新先輩の御力になるには、コレしかねぇと思った! 丁度、呉島新先輩の打倒を掲げ、人員増強で新規募集をかけていた『敵連合』にこれ幸いとばかりに潜入して、俺諸共『敵連合』を“正しき社会の為の供物”として、呉島新先輩に捧げる!! そうすれば俺は呉島新先輩をお守りしつつ、その偉業の助けになれると思ったんだ!! グレイトフル・ヒーローは、学生時代から逸話を残すからなっ!!」

 

「え……?」

 

「………」

 

ステインとは確執と因縁がある飯田としては、ステインのコスプレをするスピナーに対して、やはり色々と思っていた事があったようだが、予想外の方向に振り切れてしまっているスピナーの言動には、流石に困惑を隠せない様だ。

 

ステインについて世間で主に関心が寄せられているのは、ステインの主張であり行動理由でもあった『英雄回帰』……即ち、「『ヒーロー』とは自己犠牲の果てに得うる『称号』であり、現代のヒーローは偽物である」と言う思想である。

しかし、それと同時にステインは自分を「滅びるべき悪」だと定義しており、最後は「正しき社会の為の供物」となる事を望み、俺に倒される事で身を以てソレを示した。

 

前者の方はメディアでも多く取り上げられていた事だが、後者の方は動画サイトでしか見る事は出来ず、その動画も現在アップと削除を繰り返している。ここら辺は警察による印象操作の影響が大きいと思われるが、それでも決して完全に防ぐ事は出来ていない。

 

――つまり、あろう事かスピナーはステインの思想よりも、その散り際(死んではいないが)の方に強く感化されてしまったのである。

 

そこへ、丁度良く(いや、運悪くか?)ステインが所属していた『敵連合』が、俺を倒そうと人を集めている事を知ったスピナーは、俺の役に立ちたいが為に『敵連合』に入団し、最終的にステインと同様の最後を迎える事で「正しき社会の為の供物」になろうとした……と言う事だろう。それも『敵連合』を根こそぎ巻き込む形で。

 

まあ、先程「空っぽだった」と言っていた事を考えると、このスピナーとやらは元々「自分の存在価値が欲しかった」タイプの人間だったのだろう。「自分に出来る事が無い」と言っていた事から、初めは真っ当な方法で俺の役に立とうと思い、田舎を飛び出したのだろう。

 

だが、現実は彼が思ったほど簡単ではなかったのだ。しかし、それでも俺の助けになろうと考えた結果『敵連合』に入団し、その上ヴィランとして逮捕される事を望むとか、正直言ってマジで止めて欲しい。

大した罪を犯していない人間が、俺の所為で犯罪者に身を堕としたなど、ハッキリ言って後味が悪過ぎる。

 

「大体分かった。しかし、スピナーよ。貴様は大きな勘違いをしている」

 

「ハッ! 何でありましょう!」

 

「貴様はステインではない。尊敬する存在を真似るのは良いとしよう。しかし、だからといって貴様がステインになれる訳ではない。自分自身の値打ちを他者に結びつけ、自分に価値を見出そうとも、貴様がスピナーである事に変わりは無い。貴様は貴様なのだ」

 

「……??? 言っている意味がよく分からないのですが?」

 

「……つまりだな。貴様が真に『正しき社会の為の供物』になろうと思っているのなら、そんな格好をして此処でヴィランとして逮捕された所で何の意味も無いし、他にもやれる事は沢山ある筈だと言っているのだ」

 

「えと……つまり?」

 

「……だから『正しき社会の供物』とは、ステインだけが唯一絶対の正解だと言う訳ではなくてだな……」

 

「なるほど。確かに嘘偽りは無いようだな」

 

確かに「学がない」と言ったスピナーの言葉に嘘は無いな。しかし、流石の『敵連合』も、初めから裏切るつもりで入団するヤツが居るとは、露程も思わなかっただろう。

そして、相方のグラサン男だが、スピナーの裏切りを知って烈火の如く怒り狂うかと思えば、意外な事に彼は非常に穏やかな表情でスピナーを見ていた。

 

「……そう。スピナー、貴方もあの子を守るつもりだったのね」

 

「え……? ま、まさか、マグ姉も……!?」

 

「ええ、でもコレは私の望みじゃなくて、私の友達の為。内気で恥ずかしがり屋だけど、私の素性を知っても友達でいてくれた子がいてね。彼女、何時もこう言ってたわ。『常識に繋がれた人が、繋がれてない人を笑ってる』って。

何時もそこから飛び出す勇気を持てない事に悩んでいた彼女が、最近になってどう言う訳か前よりも明るく活発になってたの。どうしたんだろうって思って聞いたら、『「雄英体育祭」を見て勇気を貰った』って言ってたわ」

 

「……それって、もしかして……」

 

「そう、あの子の事よ。『怪人バッタ男』呉島新君。あの世の中の常識を破り続ける雄姿に、私も心からの感動を覚えたものだけど、流石にあんな嬉しい誤算が生まれるとは思わなかったわ。

だから、『敵連合』が呉島新君を打倒する事を目的に仲間を集めてるって聞いた時は、一も二も無く飛びついたわ。だって、もしも呉島新君が殺されちゃったら、きっと彼女は元の彼女に戻ってしまうわ」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

素性さえ知らなければ、このオネェの言う事は至極真っ当な、義理難くも友情に篤い言葉であると見る事も出来るだろう。しかし、『プッシーキャッツ』の虎曰く、このオネェの正体は『マグネ』と呼ばれる強盗や殺人と行った凶悪犯罪を何十件も重ねている、何処に出しても恥ずかしくない、歴とした犯罪者である。

話を聞く限り、スピナーは特に大した罪を犯していない様だが、マグネは情状酌量の余地の無いマジモンであり、そんなヤツが友情のためとは言えヒーローの卵である俺を守ろうとするなど、流石に想定の範囲外過ぎる。

 

「えっと……それじゃあ、『敵連合』の他のメンバーとか配置とか目的とか教えてくれたりする?」

 

「いや、確かに呉島新君は何かしらの理由を付けて倒せなかったって誤魔化すつもりだったけど、お仕事はちゃんとするつもりよ? 仲間を売るなんてトンデモないわ」

 

「……マグネと言ったか。少し耳を貸せ」

 

やはりと言うか何と言うか、友情に篤い性格ならば義理堅くもあるだろう。予想通り、それはそれ、これはこれと言うスタンスで、俺は見逃すが“それだけ”である事をハッキリと言ってのけるマグネに、イナゴ怪人1号がそっと耳打ちをする。

 

「!? う、嘘よ! そんな事、出来る訳ないわ!!」

 

「嘘では無い。我が王の手に掛かれば、不可能など存在しない。貴様とて愛する者の子供が欲しいと思った事があるだろう。さあ、吐け。さすれば見返りとして、我が王が貴様に祝福を与えてくれる。さあ、決断せよ。貴様の意志で、貴様の望む運命を掴み取るのだ」

 

「ウヌヌヌヌ……ッ!!」

 

……もしかして、「悪魔の囁き」とはこう言うことを言うのだろうか?

 

マグネがイナゴ怪人1号に何を言われたのかは定かではないが、仲間の情報を売らない姿勢を見せていたオネェが唸るほどの代価を提案された事だけは分かる。……まあ、何となく予想は出来るが、敢えて聞かないことにしよう。怖いし。

 

「……貴様はどうだ、スピナー。情報によっては、貴様を我らイナゴ怪人の手下として、ヒーロー事務所『秘密結社ショッカー(仮)』でコキ使う事も吝かでは無い」

 

「施設の方には、荼毘って炎を出す“個性”の男のコピーが向かってる! トゥワイスって言う、何でも増やせる“個性”の奴が居て、ソイツで作ったコピーをプロの足止めに使ってる!」

 

一方で、初めから裏切るつもりで『敵連合』に入団したスピナーの口は非常に軽い。即座にヴィラン側の作戦内容と言う重要情報が、マンダレイの“個性”『テレパス』によって施設にいる面々に伝えられ、その荼毘とか言う男のコピーの攻略に有効活用されるだろう。

 

「なるほど。それで貴様等は『施設に行くな』と止めたのか。他に情報は?」

 

「殆どが呉島新先輩を狙ってるが、特に注意するのはムーンフィッシュって死刑囚と、女子高生のトガヒミコって奴。後は血狂いマスキュラーってヤツだ!!」

 

「「マスキュラー(ですって/だと)!?」」

 

スピナーの口からマスキュラーなるヴィランの名前が出た時、マンダレイと虎の表情と態度が一変した。何やら二人と因縁のあるヴィランの様だが、ソイツも含めて何故俺を狙っているのだろうか?

 

「ふむ。何故ソイツ等は、我が王を狙っている?」

 

「理由は『何度でも楽しめそうだから』って言ってたな。他にもガスを操るマスタードってクソガキと、面を被ったコンプレスって物を圧縮するヤツ。後は……そうだ、脳無ってのが一人いた筈だ」

 

「それで全部!? 人員の配置は!?」

 

「俺達以外は皆、森の中だ。でも、呉島新先輩が此処さ居て良かった。腐れマスキュラーがそこの見晴らしの良い岩山に行った時は、先に呉島新先輩を見つけられたらどうしようと思って――」

 

瞬間、出久がその場から弾ける様に飛び出し、暗い森の中へ消えていった。恐らく、気に掛けている洸汰君がマスキュラーと遭遇してしまった最悪の事態を想定したのだろう。

 

しかし、スピナーの話によれば、岩山に向かう途中で通過する森の中には、数多くのヴィランが潜伏している。そんな中を単独で駆け抜ける等、無謀にも程がある。

幸いな事に、数人のヴィランは俺を狙っているらしいので、俺が一緒にいれば会敵しても俺が囮として機能するだろう。そう考えて出久を追いかけようとした時、俺に向かってスピナーが叫んだ。

 

「待ってくれ! アンタ等は行っちゃ駄目だ!! ニート死柄木は呉島新先輩の他に、緑谷と轟の二人を率先して殺せって言ってたんだ!」

 

「WYUGAA!?」

 

それを先に言え!! ハンドマンから「率先して殺せ」と言われているならば、俺を狙っていないヴィランと会敵した場合、優先的に出久が狙われると言う事ではないか!!

いずれにせよ、出久を単独で行動させる訳にはいかない。即座にアクセルフォームに強化変身すると、音を超えた速度で森の中を駆け抜け、出久を追って岩山までの最短距離を突っ走る……筈だった。

 

「邪魔をするな」

 

「!?」

 

これまで、アクセルフォームによってのみ入門する事が出来る『超高速の世界』で、俺以外に自由に活動出来る者は誰一人として居なかった。

故に、今までアクセルフォームによる超高速移動の最中において、攻撃された事など一度として無いし、そもそも攻撃されるなど考えた事さえも無い。

 

しかし、そんな俺だけの世界に介入する存在が、突如として現われたのだ。

 

アクセルフォームは他の形態と比べて、非常に脆い。目にも止まらぬ超スピードを手に入れる事と引き替えに、パワーや防御力は基本形態にさえ大きく劣る。今まではその弱点を、手数を増やす事と、相手の攻撃を一度も貰わない事で補ってきた。

だが、それは逆に言えば「自分と同レベルの超スピードを持つ相手」が現われた場合、それらの長所が打ち消され、弱点が顕著に表れると言う事でもある。

 

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

結果、俺は不意に現われた闖入者によって、精神的に全く無防備な状態で攻撃を貰ってしまい、『超高速の世界』から強制的に弾き出されてしまった。肉体はアクセルフォームから通常形態に戻っており、もう一度使うには少し休まなければならないだろう。

 

――いや、それ以上に今考えなければならないのは……。

 

「野暮な真似はするな」

 

「NNUUU……」

 

コイツだ。アクセルフォームの超高速移動に平然と割り込んだ怪人。そしてその姿は、紛れも無くイナゴ怪人だ。

だが、明らかにおかしい。声色や黄色い複眼。所々に走る黄色い模様と言った差異もそうだが、それ以上にオーラを通して見たコイツは、明らかにイナゴ怪人のソレを遙かに超えている。

 

「DAVIGGDA、GIZXAVA……」

 

「俺か? 俺はイナゴ怪人1号を、2号を……全てのイナゴ怪人を斃す為に生まれた『イナゴ怪人3号』だ」

 

周囲に黒い羽根が舞い落ちる中、イナゴ怪人3号と言う未知のイナゴ怪人が俺の邪魔をした事に驚いた俺を余所に、イナゴ怪人3号は俺の前から一瞬で姿を消し、上空から無数の針が弾丸の如きスピードで俺に殺到した。

 

 

○○○

 

 

生徒二人が独断で戦場へ飛び込み、マンダレイと虎のプロヒーローは元より、ヴィランであるスピナーとマグネさえも彼等を止めようとしていたが、イナゴ怪人1号から与えられた情報を聞いて、マンダレイと虎は二人の行動に納得すると同時に、その顔色はもはや青から白に変わっていた。

何せ、彼等が面倒を見ている洸汰の両親を殺害したヴィランが、よりにもよってピンポイントで洸汰が居るであろう場所にいると言うのだ。運命と言うか因果と言うか、悪魔の仕業か神の悪戯かと思わず疑いたくなるような巡り合わせだ。

 

スピナーから聞いた限り、ヴィランの総数はプロよりも多く、此方には守るべき人間が余りにも多過ぎる。現状でマンダレイに出来る最善は、可能な限り捕らえた二人から多くの情報を聞きだし、『テレパス』でそれを出来るだけ多くの人間に伝える事。

既に、生徒達には会敵しても逃げる様に伝えてあるし、今回襲撃してきた『敵連合』のメンバーの“個性”や目的に関しても、逐一『テレパス』で伝えて情報を共有している。

 

「それで全部!? 他には何も無いの!?」

 

「他には何も知らねぇ!! 強いて言うなら、ニート死柄木がハマってるソシャゲのアカウント位だ!!」

 

中でも危険なのは、轟と爆豪のペア。スピナーの話によれば、轟は「優先的に殺害する」様に言われている生徒の一人であり、爆豪は何故か「生かして攫ってくる」様に言われているらしい。

尤も、あくまで「優先的に殺害する生徒がいる」と言うだけであり、他の生徒は対象外かと言われればそうでも無いらしく、『敵連合』“開闢行動隊”のメンバーほぼ全員が、腹に一物も二物も抱えている様な危険人物である事も相俟って、生徒達が非常に危険な状況にある事は変わらない。

 

「それじゃあ、アンタ達はそのままソイツ等を拘束してて! 虎! 私達も行くわよ!」

 

「うむッ!」

 

「我々も行くぞ! 今こそ我ら怪人軍団の――」

 

イマゴマンとイナゴ怪人アマゾン以外のイナゴ怪人達がマンダレイと虎に続こうとした瞬間、一陣の風が吹いてイナゴ怪人全員の頭が一斉に爆ぜた。

イナゴ怪人達は瞬く間に大量の巨大バッタの死骸の山と化し、同時に拘束されていたスピナーとマグネも解放される。

 

「え!?」

 

「あら!?」

 

「どうして……」

 

「悪いが、もう少し此処に留まっていて貰おう」

 

「「「「!?」」」」

 

鳥が飛んでいる様子も無いのに、無数の黒い羽根が四人の頭上にゆっくりと降り注ぐ中、彼等の前に現われたのは、見た事のないパターンのイナゴ怪人だった。

 

しかし、イナゴ怪人達と僅か3日と言う短い期間しか接していないマンダレイと虎でさえ、「奴等とは違う」と断言できる機械的な冷たさを含んだ雰囲気は、プロヒーロー二人が警戒態勢を取るには充分過ぎる要因だった。そんな異質としか言いようのないイナゴ怪人は、解放されたスピナーとマグネを見つめている。

 

「ぬぅう……貴様、一体何者だ!」

 

「……俺はイナゴ怪人3号。全てのイナゴ怪人を滅ぼす者だ」

 

「!? 馬鹿な! 我々は貴様の様なイナゴ怪人など知らんぞ!!」

 

「だろうな。俺は貴様等とは違う。何せ仕える主が違うのだからな」

 

仕える主が違う!? その言葉に衝撃を受けたのは、復活したイナゴ怪人達だけではない。

 

一般的に“個性”とはその名が示す様に、「生まれつきの身体的特徴」であると同時に、「自己を確立するモノ」だと定義されている。

故に、「同じ様な“個性”」はあっても、「全く同じ“個性”」と言うモノは存在しない。全く同じ“個性”である様に見えても、親子でさえほんの少し違うのである。それは呉島新の“個性”から生まれたイナゴ怪人も同様だ。

 

「……そうか。つまりは、我々の偽者かッ!!」

 

「愚かな! イナゴ怪人とは即ち、我が王『呉島新の忠実なる僕』にのみに許される称号ッ!! 貴様の様なヤツを、イナゴ怪人とは断じて認めんッ!!」

 

「然りッ!! その上、全てのイナゴ怪人を滅ぼすだと!? 小癪なぁあああああああああああああああッ!!」

 

「待て! 迂闊に近づいては――」

 

「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」

 

イナゴ怪人3号に襲いかかる三体のイナゴ怪人。しかし、全員が一瞬の内に胴体をぶち抜かれ、その肉体は大量のミュータントバッタの死骸に変化した。

 

「……弱い。やはり、俺の敵ではない。……ふむ、被害者達の救出を優先したか。すぐ向かわなければならないが……その前に貴様だ、スピナー」

 

「ヘッ!?」

 

「まさか、本当に初めから裏切るつもりで入団していたとはな。まあ、それでも全く問題ない。むしろ――」

 

「が……ッ!!」

 

「その呉島新に対する忠誠心は、ある意味とても都合が良い……ッ!」

 

「か、は……GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

イナゴ怪人3号は目にも止まらぬスピードでスピナーの背後に回ると、素早くスピナーの首に何かを突き立てる。イナゴ怪人3号に何かされたスピナーは途端に苦しみだし、悲鳴の様な尋常ならざる雄叫びを上げた。

 

「ちょ、ちょっと何!? アンタ一体、何をしたの!?」

 

「噂で聞いた事は無いか? “個性”をブーストする危険薬物。それを少しバージョンアップしたものを投与した。尤も、活性化した“個性”に合せて、肉体も劇的に変化していく所為か、『怪人薬』なんて名前が付いているがな」

 

「GYAWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

怪人薬なる謎の薬物によって、スピナーの体はより強靭に、より凶悪に、より頑強に、より堅牢に、より強力なモノに変化していった。そこにはスピナーの面影など何一つとして残っていない。少なくとも、姿形は完全な別人と化している。

 

「さて、マグネよ。君はどうする? 君も裏切ると言うのなら……」

 

「そそそ、そんな訳ないじゃない! 私は初めからちゃんとお仕事するつもりだし、今でもヤル気ビンビンよぉッ!!」

 

「……そうか。まあ、安心すると良い。君の願いは必ず叶う」

 

「? それって、どう言う事?」

 

「間も無く、この世界は新しい王を迎える。――王、即ち『新世界の統治者』だ。呉島新が死ねば、我が主が世界の王となる。我が主が死ねば、呉島新が世界の王となる。そして、どちらが勝ったとしても、全く同じ結末を迎える。だからこそ、君の願いは必ず叶う」

 

「貴様、一体何を言って……」

 

「GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

凶暴な魔獣と化したスピナーがマンダレイに飛びかかると同時に、イナゴ怪人3号は彼らの前から姿を消した。そして、次にイナゴ怪人3号が姿を現したのは、出久とマスキュラーが交戦している岩場だった。

 

「「BVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」

 

「無駄だ。お前達の動きは俺に筒抜けだ」

 

イナゴ怪人1号と2号の肉体が四散し、イナゴ怪人1号の「ローカスト・エスケープ」によって、せめて洸汰だけでもこの場から逃がそうとしていた出久は、洸汰を逃がせなかった事にショックを受けつつ、それを成した予想外の闖入者の姿に我が目を疑った。

 

「イナゴ、怪人……!? ど、どうして……」

 

「それが我が主から受けた命令だからだ。呉島新を逃がさない為にな」

 

「!? それってどう言う……いや、一体誰が……!?」

 

「……ソイツに勝てたら、俺と勝負してやる。何か教えるとすれば、その時だ。おっと、出来ないとは言わせないぞ? 子供達の夢を守り、希望の光を照らし続ける……それが、貴様が目指す“最高のヒーロー”だろう?」

 

絶対に戦いから逃げられないような言葉で出久を焚き付けると、イナゴ怪人3号はまたもや目にも止まらぬ超高速移動を用いて、戦場となった夜の森を縦横無尽に駆け巡る。

 

「シィッ!!」

 

「GUUUWHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

正確にイナゴ怪人達の居場所を突き止め、彼等を超スピードから繰り出される攻撃によって破壊し、彼らの救助活動を妨害していくが、これはバッタが持つテレパシー能力を逆に利用し、新やイナゴ怪人達の行動を探知する事で可能にしている。

 

「「「フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォ……」」」

 

そのテレパシー能力に頼っていたが故に、催眠ガスが満ちる森の中を3体のキノコ怪人がゆっくりと移動し、密かに催眠ガスの発生源へ向かっている事は、イナゴ怪人3号も気付いていなかった。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 自分の行動が原因で犯罪者になるヤツが出た事を知って、何か泣きたくなってしまった怪人。しかも、同じ『敵連合』“開闢行動隊”のマスタード何かと違い、悪意ではなく好意で犯罪者の仲間になっている為、ある意味余計に質が悪い。
 まあ、雄英体育祭でチンピラなかっちゃんを見て「ふざけんな」と思っていた勇学園の藤見や、士傑高校の肉倉先輩の事を考えれば、ありとあらゆる意味で圧倒的なシンさんだって、善くも悪くも他人の人生に影響を与えてしまうと思うの。

スピナー/アギト
 この世界において最大のキャラ崩壊を起こしてしまったコスプレ男。当初は『ジオウ』の軽い白ウォズネタで終わらせるつもりが、原作で彼の過去(田舎者設定)が明かされた事で、作者の「『ONE PIECE』のバルトロメオのネタを使いたい」と言う欲望の犠牲になった。
 シンさんに対する忠誠心はもはや狂信の域に達し、理由こそ違うが原作と同様にステインをリスペクトしている。一方で死柄木達に対しては「正しき社会の供物」としか見ていないので、普通に「ニート死柄木」とか言っちゃう。
 しかし、オール・フォー・ワンには本心を見抜かれており、イナゴ怪人3号が投与した「怪人薬」によって『J』に登場する「トカゲ男アギト」の如き異形に変貌。暴走した闘争本能の赴くままに、マンダレイに襲いかかってしまう。おめでとう! スピナーはアギトに進化した!
 ちなみに作者的にトカゲの怪人と言えば『仮面ライダー(初代)』のトカゲロン。シンさんの小説アンケートで募集されたお題の一つに『ONE PIECE』があるので、「バーリア破壊ボールを蹴り込み、バルトロメオのバーリアを破ろうとするスピナー」とか書いても、結構面白そうではある。

スピナー「必殺シュートだ~~~~~~~~~~ッ!!」

マグネ
 スピナーと違ってキャラ崩壊こそしていないが、友情に篤い部分がピックアップされているオカマ。仲間の情報は絶対に売らないし、「親友の為にシンさんの命だけは守らねばなるまい」とは思っていたが、仕事はキチンとこなすつもりだった為、スピナーと異なり「シンさん以外は殺すつもり」だったりする。
 シンさんに意表を突かれて拘束されたが、結局は原作通りに虎と対戦する。仮に「戦わない」を選択していた場合、イナゴ怪人3号によってスピナーと同様に怪人薬を投与され、『デルザー軍団』の「磁石団長」の如き魔人に変貌していただろう。

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ
 原作よりマシな部分もあれば、原作よりもヤベー事になっている部分もある面々。スピナーが裏切った事で情報こそヒーロー側に筒抜けだが、イナゴ怪人3号によってスピナーがアギトに進化してしまった為、原作の様に『テレパス』による心理的な揺さぶりがスピナーに全く効かない上、元々の戦闘力も爆上げされてしまっているので、マンダレイと虎は物凄く不味い展開になっている。

イナゴ怪人3号
 イナゴ怪人3号と名乗っているが、これまでに登場したイナゴ怪人達とは根本的に異なる存在。シンさんやイナゴ怪人と同様に、テレパシー能力と言ったバッタ由来の能力をデフォルトで備えている上に、イナゴ怪人では有り得ない超高速戦闘を得意とする。ちなみに声は黒井響一郎こと及川光博さんのソレ。
 シンさんを孤立させた後、超高速移動を駆使して戦場を縦横無尽に移動しながら、イナゴ怪人達を虱潰しに殲滅。特に「ローカスト・エスケープ」と言う空間系の離脱手段を持つイナゴ怪人1号が厄介なので、テレパシー能力で彼等の出現地点を即座に特定し、残機が無くなるまで執拗かつ徹底的に追いかけて攻撃し続けている。完全な勝利以外は要らない。

イナゴ怪人1号~ZX
 上記のイナゴ怪人3号によって活動を妨害されまくり、目立った活躍はスピナーとマグネの拘束と説得だけと言う怪人軍団。色々と工夫しているが、何をどうしようとも必ずイナゴ怪人3号がやってくる為、もはや動くサンドバッグと化している。
 しかし、彼等の方が圧倒的に数は多い上に、「怪人が現われるのを察して現場に急行し、たった一人で怪人達と戦う」とか、見方によっては救出活動を行う彼等より、イナゴ怪人3号の方がヒーローらしく見える。何故だ。



怪人薬
 イメージとしては『ヴィジランテ』で使用されている“個性”をブーストさせる薬「トリガー」なのだが、内容はそれよりも遙かに厄介かつ危険な代物で、性能と危険度に関しては『ワンパンマン』に登場する「怪人細胞」に近いモノがある。つまり、薬に適応できなければ、使用者は間違いなく死ぬ。
 更に、薬の効果は恒常的なモノなので、一度打ち込まれたら二度と元には戻れなくなる。唯一の例外は、『敵連合』の大首領と死神博士が確保している幼女の“個性”。かなりリスキーな方法だが、コレ以外で薬を打たれる前の姿に戻る方法は“今の所”無い。

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