怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

43 / 70
先日、お気に入り登録が3000件を超え、UAが30万を超えました。読者の皆様の変わらぬご愛顧に感謝です。

今回は二話連続投稿。今話のタイトルは『キバ』の「新世界・もう一人のキバ」が元ネタ。最近、平成ライダーのタイトルの方がしっくりくるお話ばかりになっている様な気がする。まあ、だからどうだって話なんですが。

7/4 誤字報告より誤字を修正。報告ありがとうございました。


第30話 超人世界・もう一人の象徴

職場体験が終わり、一週間ぶりとなるヒーロー基礎学は運動場γにおける野外実習。担当するのは、ゴールデンエイジのコスチュームに身を包んだオールマイトだ。

 

「ハイ。私が来た。……ってな感じでやっていく訳だけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね

! 久し振りだ少年少女! 元気か!?」

 

「ヌルッと入ったな。久々なのに」

 

「パターンが尽きたのかしら」

 

「ゴールデンエイジのコスだぁああ……!」

 

「……尽きてないっつーの、無尽蔵だっつーの」

 

言ってやるなよ、そんな野暮な事。そしてオールマイトもそんな事言わなくて良いですから。ついでに出久は相も変わらず平常運転……と。

一週間の職場体験で皆何かしら変わったかと思えば、何も変わっていない部分もある事に、何となく心が安らぐなぁ。

 

「今回は職場体験直後って事で、遊びの要素を含めた『救助訓練レース』だ!」

 

そして、オールマイトから説明された今回の訓練は、複雑に入り組んだ迷路のような細道の続く密集工業地帯を5~6人の組に分かれ、救助者に設定されたオールマイトの元へいち早く辿り着いた者が勝者となる……と言う、障害物競走の様なものだった。

 

「それでは、早速くじ引きを……」

 

「待てぇえええええええええええええええええええええええええええいッッ!!」

 

「むっ!? この声はッ!!」

 

「イナゴ怪人2号ッ!!」

 

「イナゴ怪人ブイスリャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「イナゴマンッ!!」

 

「イナゴ怪人エェーーーーーークスッ!!」

 

「小さな親切! 大きなお世話! それでも必ずやってくる! 愛と正義の名の下に! トォオオオオオオオオオオオオウッ!!」

 

「………」

 

ああ、これも何時も通りの光景だ。チーム分けで完全に数が割りきれない為か、頼んでもいないのに勝手に乱入するのは4人のイナゴ怪人達。傍迷惑が形を成して歩いている様なコイツ等の所行に安心感を得る日が来ようとは……。そう考えると案外、俺の精神は既に末期なのかも知れない。

結局、何時もの様にイナゴ怪人達を含めたくじ引きによる組分けが行われると、俺は第二組になった為、まずは第一組のレースの様子を第一組以外の皆と一緒に見学する事となった。第一組は出久、飯田、尾白、芦戸、瀬呂、そしてイナゴマンの6人だ。

 

「クラスでも機動力の高い奴が集まったな」

 

「うーん……強いて言うなら、緑谷さんが若干不利かしら?」

 

「確かにぶっちゃけ、アイツの評価ってまだ定まんないんだよね」

 

「何か成す度に大怪我してますからね……」

 

「トップ予想な。俺、瀬呂が1位!」

 

「あー……うーん、でも尾白もあるぜ?」

 

「オイラは芦戸! アイツ、運動神経スゲェぞ!」

 

「デクが最下位」

 

「怪我のハンデはあっても飯田君な気がするなぁ……」

 

「ケロ」

 

「……じゃあ、俺は大穴の出久で」

 

「そこでイナゴマンじゃないんだ……」

 

「競馬じゃないんですから……」

 

各人が第一組の誰が最初にオールマイトの元へ辿り着くかを予想して勝手に盛り上がる中、救助信号が上がり第一組のレースがスタートする。

各々が“個性”を用いてオールマイトの元へ向かう中、両肘から射出されるテープを用いて空中を移動する瀬呂が早くもトップに躍り出る。

 

「ホラ見ろ! こんなごちゃついたトコは、上行くのが定石ッ!」

 

「となると、滞空性能が高い瀬呂が有利か……」

 

「うん? でも、イナゴマンも空飛べるよね?」

 

「フッ。それでは勝負が面白くないのでな。今回我々イナゴ怪人は、純粋な身体能力のみでこの訓練に臨んでいる。見よ! 我らが第四のイナゴ怪人、イナゴマンの実力をッ!」

 

そう語るイナゴ怪人2号の指さす先には、無数のミュータントバッタに変化することなく、人型のまま工業地帯を疾走するイナゴマンの姿が。

ショートカットの為か、途中で壁をよじ登ったり、パイプの上を移動したりする姿は、完全にホラーゲームに登場するクリーチャーの類にしか見えないが、これで他の連中を抑えて2位だと言うだから、イナゴ怪人の持つ身体能力の高さが目に見えて分かると言うものである。

 

しかし、そんなイナゴマンどころか、トップの瀬呂さえも一瞬で追い抜く緑色の影があった。

 

「「おおおおおおおおおお!? 緑谷ぁああああああああああああああッ!?」」

 

「何だその動きィイイイイイイイイイイイイイッ!?」

 

そう、俺以外に誰も1位の予想を出さなかった出久だ。身体能力は元より、身体操作に関しても一週間前の出久とは明らかに別人だ。……いや、少し違うな。身体能力は兎も角、今の出久が行っている身体操作はまるで……。

 

「凄い……! ぴょんぴょん……何かまるで……」

 

「うむ。王の動き方を真似しているな」

 

そう、若干のアレンジが入っているので完全に同じと言う訳ではないが、イナゴ怪人2号の言う通り、今の出久の動き方は俺のそれとよく似ている。実際の所、俺の移動方法はバッタ由来の身体能力によるモノなので、それと同等の身体能力があれば動きを真似る事は不可能では無い。

ただ、この移動方法で問題となるのは、俺の場合は単眼と複眼の能力を併せ持つ「キャットアイ」や、高感度センサーの役割を持つ触角である「ハイパーセンサー」による周囲の確認も同時に行っていると言う事。つまり、それらの感覚器を持たない人間が俺と同じ事を安易にやるとどうなるかと言えば……。

 

『あ!?』

 

「「「「「「「「「「落ちたぁーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」」」」

 

「やはりな……」

 

そう。進行方向の安全確認が俺と比べて疎かになる為、転落等の事故を起こす危険性が爆発的に高まるのだ。結局、出久は足を滑らせて真っ逆さまに落下し、その所為で救助レースは最下位となってしまった。

 

「貴様の予想通り、デクが最下位であったな。どうだ? 予想が当たって嬉しかろう?」

 

「………」

 

そして、背後からしきりに聞こえる歯ぎしりの発生源である勝己に対し、イナゴ怪人2号がわざとらしく話しかけている。殺人でも犯しそうな顔でモニターに映る出久を睨んでいる事から、出久の成長を認めたくない気持ちが丸わかりであるが、出久に集中している為かイナゴ怪人2号に対して全くの無反応だ。

 

まあ、イナゴ怪人2号は勝己と同じ組なので、後で嫌と言うほど報復されるかも知れないが……。

 

 

●●●

 

 

さて、第一組が終わり、第二組である俺の番がやってきた。第二組のメンバーは俺、梅雨ちゃん、峰田、障子、耳郎、葉隠の6人だ。

 

第一組のレースの結果を参考にして考えると出久の様に建物を足場にして移動するのもアリだが、脚力で一気に空中へ上昇した所で羽根を生やして空を飛ぶと言う手もある。だが、最速を目指すと言うなら、やはりアクセルフォームを使うのがベストか。

 

『START!』

 

「キャストオフ」

 

救助信号が放たれ、オールマイトの位置を確認した瞬間。アクセルフォームの使用と同時にベルトのスイッチを操作してコスチュームと表皮を空気圧で吹き飛ばす。

そして、外れたヘルメットとコンバーターラングを抱えつつ、ソニックブームが発生する程の超高速を以て密集工業地帯を駆け抜けると、あっという間にオールマイトの元へ到着。最後に再びベルトのスイッチを操作して全身にスーツを纏い、ヘルメットとコンバーターラングを装着した。

 

ここまで時間にして8.9秒。文句なしにぶっちぎりで1位である。そして、この記録を塗り変えられる者はそうはおるまい。

 

「おお……予想はしていたが、流石に早いな呉島少年」

 

「ありがとうございま……」

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「「!?」」

 

さて、後はオールマイトと談笑しながら他の面子が来るのを待つか……と思った刹那、大地を揺るがすような咆哮が聞こえて、思わずそちらの方向に顔を向けると、何たることぞ。

そこには、変態仮面と全く同じデンジャラスコスチュームに身を包んだ峰田が、変態的な動きとポーズを決めながら宙を舞っていた。いや、むしろ空を飛んでいた。

 

そんな峰田の行っている移動方法自体はかなりシンプルなモノで、足場となる場所に『もぎもぎ』をくっつけ、トランポリンのように反動を利用してジャンプ。そして、着地地点に向かって『もぎもぎ』を投げつけ、それを足場にしてジャンプ……と言う動作を繰り返すだけだ。

問題はソレが並の増強系“個性”を遙かに上回る身体能力と、無駄に高い身体操作によって行われ、その為に移動速度が凄まじい事になっていると言う事。また、心なしか『もぎもぎ』の投擲技術や、『もぎもぎ』の生産速度も高まっている様に思える。

 

元々、峰田の身体能力は雄英のヒーロー科全体でもそれほど高いモノではなく、むしろ低い部類に入る。しかし、今の峰田の身体能力は少なく見積もっても出久と同格。下手をすれば勝己に匹敵するかも知れないと思わせる程のモノだった。

一体、峰田は変態仮面の元で何を得たと言うのか……。そんな驚きと共に峰田を観察していたのだが、峰田はあろう事か俺に次ぐ2位という記録を叩き出し、俺とオールマイトの前でスーパーヒーロー着地を決めていた。

 

「フゥウウウウウウ……。体の奥底から漲るこのパワー。やはり、採れたてのパンティは一味違うぜぇ……」

 

……うん? 採れたてのパンティだと?

 

変態ルックで何やら聞き捨てならない台詞を吐いた峰田を怪訝に思っていると、3位で到着した梅雨ちゃんが後ろから峰田に襲いかかり、そのブドウ頭を思いっきり踏みつけた。

 

「グハァアッ!! こ、これは、これで……ッ!!」

 

「……峰田ちゃん。貴方の被ってるソレ、透ちゃんのパンティじゃない?」

 

「えッ!?」

 

「ど、どう言う事だ!? 峰田少年!?」

 

梅雨ちゃんの驚くべき発言に、俺は恍惚の表情を見せる変態ブドウを見て一歩後ずさり、オールマイトは峰田が被っているパンティの真実を問い詰めるのだった。

 

 

●●●

 

 

その後、顔面からパンティを剥ぎ取り、本当に葉隠のパンティなのかどうかを、最後にやってきた葉隠に確認して貰うと、本当に葉隠のパンティだった事が判明し、峰田は即座に裁判にかけられる事と相成った。

迅速に峰田への制裁……と言うか処刑を渇望し、怒りの亡者と化した女子達を男子全員で抑えるのは一苦労だったと言っておく。

 

「聞いてくれ! オイラのヒーロー活動にはパンティが必要なんだ! どうしても必要なんだ! だからオイラはただのパンティ泥棒なんかじゃない! たまたまパンティが必要な正義の味方なだけなんだッ!!」

 

「盗っ人猛々しいとはよく言ったモノだな……」

 

「いや、確かにパンティが必要な正義の味方はいるケドよ……それとこれとは違うっつーか、何っつーか……」

 

「男にはやらなきゃいけねぇ時がある! それこそ、パンティを盗んで被らなきゃいけない時だってある! よく言うだろう! 男は度胸! 変態にはパンティってよぉ!」

 

「!! た、確かにその通りだ。男にはやらなきゃいけねぇ時があるっ!! なら、確かに盗んだパンティを被らなきゃいけねぇ時だって……」

 

「落ち着け切島。もっともらしい事を言っているが、結局の所はただの下着泥棒だ」

 

「もっともらしくも無いと私は思うケド」

 

「てゆーか、自分でパンティ泥棒だって認めてるし……」

 

まあ、正直な話、常日頃から峰田の事は変態だと思っていたのだが、どうも変態仮面の所へ職場体験に行った事で完全に明後日の方向に吹っ切れてしまったらしく、尋常では無い変態的思考と変態ぶりに更なる磨きをかける結果になってしまったようだ。

 

そんな得体の知れない底知れぬ変態性を獲得し、もはや後戻り出来ない位にハイレベルな変態に覚醒……と言うか、完全なる性犯罪者へと堕天した峰田に、我がA組が誇る“真面目の権化”であらせられる飯田の真面目理論が火を噴いた。

 

「君は一体何を考えているんだ峰田君ッ! 幾ら正義の為とは言え、クラスメイトの女性用下着を盗んだ挙げ句、それを白昼堂々と被って良いわけがないだろう! それになんだその格好は! 学校で堂々と乳首と臀部を曝け出している人間なんて見たことが無いぞ!!」

 

「!! な、何と言う正論……ッ!!」

 

うむ。確かにぐうの音も出ない正論だ。飯田の言う事があまりにも正しすぎて、峰田は何も言い返すことが出来ない。

 

「……どうやら、こんなどうしようもない変態に成り果てても、心の中には若干の後ろめたさがあったようだな。飯田、このまま一気に正論で畳みかけるんだ」

 

「うむ! 良いか峰田君ッ! 君の行いはもはや人として間違っているッ! 何故ならば下着泥棒で変態だからだ! 盗んだ女性用下着を被っている時点で、世間から迫害されてしかるべき人間だ! よく考えてみたまえ! そんな奴に正義を語り、ヒーローを名乗る資格があるのか!? いいや無いッ! そんな資格は無いッ!!」

 

「そ、そうなのかも知れない……」

 

いや、「かも知れない」じゃなくて、実際にそうなんだよ。そして、飯田の正に非の打ち所の無い正論のオンパレードによって、完全に飯田のペースになっている。

 

「分かったならば、そんな不謹慎な変態を止めて、真面目な人間になるんだ! 真面目になれば、正々堂々と世の中を渡り歩く事が出来るッ!!」

 

「くっ……! オイラは一体どうすれば良いんだ! 誰か教えてくれ……ッ!!」

 

「いや、真面目になって更正しろよ」

 

具体的にはブリーフをちゃんと穿いて網タイツを脱いでくれ。そして何時ものコスチュームに着替えて、今までの変態キャラを止めろ。そうすれば、少なくとも今よりも女子からモテる様になる。

しかし、峰田にとって変態になるか真面目になるかと言う事は、女子にモテるかどうかよりも重大な案件であるのか、普通ならどう考えても一択しかない問題に両膝をついて苦悩している。

 

そんな変態と真面目の瀬戸際に立つ峰田を、固唾を飲んで見守っていた俺達だったが、突如三人の男が迷える峰田に対して熱い声援を送り始めた事で、その思考の天秤が大きく傾く事になる。

 

「しっかりしろ! 峰田!」

 

「峰田! 誰が何と言おうとも、お前は変態で良いんだよ!」

 

「そうだぜ! 変態じゃない峰田なんて、峰田じゃないぜ!!」

 

「………」

 

いやいやいや、おかしいおかしいおかしい。せっかく、人知を超越した度し難い変態である峰田が真人間に更正するチャンスだと言うのに、何で上鳴、瀬呂、砂藤の三人は峰田を擁護しているんだ。まあ、確かにそんな感じはするけれど。

 

「……そうだ。そうだぜ。オイラは、変態で良いんだ……ッ!!」

 

「何を言っているんだ峰田君ッ! いい加減に正気に戻るんだ! 今の君は存在自体が違反そのものと言っても過言では無いんだぞッ!!」

 

「……飯田。お前は一つ勘違いをしている。そして覚えておけ……変態こそが、この世の正義であると言う事をッ!!」

 

「変態は変態以外の何者でも無いッ!! それ以上でもそれ以下でも無いッ!!」

 

「確かにお前の言う通り、変態は人々から嘲笑され、嫌悪され、畏怖される存在だ。だけどな……変態って奴はむしろそーゆー存在でなきゃならねえんだ!! 誇りをもって露出し、信念と共に自己責任ッ! それが『真の変態』のあるべき姿ッ!! そして、例え正義から嫌われようが、変態は正義でなきゃいけねぇんだッ!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

会話が成立しているようで成立していない、飯田と峰田の言葉のキャッチボールに、クラスの皆が絶句する。気のせいか、先程まで圧倒的に飯田が優勢だった筈の会話の流れが、どうにも怪しくなってきた様な気がする。

 

「考えてみれば、真面目と変態の違いなんて些細な事だぜ。眼鏡をかけるか、パンティを被るか。その程度の違いしかねぇんだからな。つまりッ! 真面目と変態は紙一重の存在なんだよぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「何ぃいいいいッ!? そ、そんな馬鹿なッ!! それじゃあ、君は俺が変態だと……いや、君は俺と同じ真面目だとでも言うのかッ!?」

 

「ああ、そうだぜ。オイラは只の変態じゃない。真面目に変態なんだッ!! その事にお前が気づかなかったのは、お前が仮面を被っていたからだ! そう! 『色眼鏡』と言う名の歪んだ仮面をなぁあああああああああああああッ!!」

 

「ば、馬鹿なッ! 峰田君は僕を同じ真面目だったのか!? いや、その理屈で言うなら僕は峰田君と同じ変態!? そんな馬鹿……そんな馬鹿なぁああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

本当に馬鹿みたいな話である。飯田の真面目理論を変態理論で打ち破り、飯田のアイデンティティーを根底から揺るがす悪夢の様な変態の所行を目の当たりにして、クラスメイトは元よりオールマイトさえも唖然としている。

 

そこで、俺はもう収拾をつけるにはこれしかないと判断し、この状況を好転させる一手を打つ事を決断した。

 

「……もしもし、ポリスメン?」

 

『確かに僕は警察官だけど、どうしたんだい呉島君?』

 

そう。110番通報である。

 

「ちょっ!? お前、何をしてんだ、呉島ぁあッ!?」

 

「見て分かんねーのか? 人間の屑を豚箱にぶち込もうとしてるに決まってるだろ?」

 

「いや、オイラの話聞いてなかったのか!? オイラは正義の変態であって……」

 

「いや、自分が悪だと気付いてない『この世で最もドス黒くて邪悪な変態』の間違いだろ?」

 

「何でッ!?」

 

「いや、だって……」

 

「グス……グスン……」

 

「女の子を泣かせる奴が『正義』の訳ないだろ」

 

「「「「………」」」」

 

俺の一言と葉隠のマジ泣きによって、峰田と峰田を応援していた三人は黙ってしまい、苦悩する飯田以外の残りの面子は無言で頭を縦に振った。

 

その後、雄英高校に塚内さんがやってきて、峰田は「また君か」と言う顔をした塚内さんによって警察へ連行された。

 

 

●●●

 

 

翌日。峰田が欠席している以外は何時も通りに授業が進み、何時もよりも平和に一日が過ぎていった。

 

噂では峰田は現在、変態仮面による再教育を受けているらしいが、「変態仮面の元へ職場体験に行った事で凶悪なヴィランよりも遙かに邪悪な正義を掲げる変態に昇華した峰田を、変態仮面が更正させる事は果たして可能なのか?」と言う疑問が残るのは俺だけではない筈だ。

 

「掛けたまえ」

 

「……はい」

 

そして、昼休みにオールマイトから「放課後に仮眠室で大事な話がある」とメールを貰い、いざ放課後になって仮眠室に足を運んでみると、何時もとは違う雰囲気のオールマイトがソファーに座って待っていた。

 

「職場体験は、色々大変だったね。近くにいてやれず……済まなかった」

 

「いえ、そんな事は全然……それで、大事な話とは?」

 

「……君、USJの時に『脳無』と呼ばれるヴィランと戦った時の事を覚えているかい?」

 

「ええ、前にも話しましたが、気絶した後の事は朧気ながらも……」

 

「では、気絶した時に私の血を飲んでいた事は?」

 

「いえ、それは知りませんでしたが……」

 

「……今回、君を呼んだのは他でもない。私の“個性”の話だ」

 

「……はい?」

 

「巷では私の“個性”は『怪力』だの『ブースト』だのと思われていて、実際にそれに近い超身体能力を発揮する事が出来る“個性”ではあるが、私の“個性”には他に類を見ない二つの特徴があるんだ」

 

「二つの特徴……ですか?」

 

「そう。それは『“個性”を他人に譲渡できる』事と『代を重ねる毎に強化される』と言う事。所有者が後継者に“個性”を受け継がせる事で、所有者達が磨き上げてきた身体能力が、代を重ねる毎にプラスされていくんだ」

 

「……そして、貴方の“個性”は出久に受け継がれている?」

 

「ブファアアッ!? な、何故ソレをッ!?」

 

驚きの余り、盛大に吐血するオールマイト。俺としてはカマを掛けた程度のつもりだったのだが、物の見事に核心を突いてしまったらしい。

 

「前に出久が俺に話してくれました。『自分の“個性”は人から貰ったものだ』って。まあ、誰から貰ったのかは言わなかったので、当時の状況から推測した半信半疑の予想だったんですケド……当たってたみたいですね」

 

「は、話していたのか、緑谷少年……」

 

「でも、そう考えるとスッと霧が晴れる部分があったんですよ。何で№1ヒーローのオールマイトが、俺や出久に10ヵ月もトレーニングを施したのか。その理由が『出久に自分の“個性”を引き継がせる為』だとすれば納得できます」

 

「……そうか。つまり、薄々感づいていたのね」

 

「しかし、何故今になって俺にそんな事を?」

 

「……私が先代から受け継ぎ、緑谷少年に託した“個性”の名は『ワン・フォー・オール』。そして、この『ワン・フォー・オール』はその性質は元より、その成り立ちからしても特別な“個性”なんだ。それと言うのも『ワン・フォー・オール』は、元々はある一つの“個性”から派生したモノなんだ」

 

「“個性”からの派生? 『突然変異【ミューテーション】』なんかではなく?」

 

「まあ、それに近いモノではあるな。その“個性”の名は『オール・フォー・ワン』。他者から“個性”を奪い、己が物とし……そしてソレを他者に与える事が出来る“個性”であり、あるヴィランの名前にもなっている」

 

「“個性”を奪い、与える“個性”……? 確か、ネットとかの都市伝説で、超常黎明期にそんな“個性”を持った人間が居たみたいな話があったような気がしますが……」

 

「そう。だが、それらは決して作り話なんかじゃない。『人間』という規格が崩れ去った混沌の時代で、いち早く人々をまとめ上げた一人の男が実在した。彼はその“個性”で超常に目覚めた人々から“個性”を奪い、圧倒的な力でその勢力を広げていった。悪魔的な頭脳で計画的に人を動かし、思うままに悪行を積んでいった彼は、瞬く間に悪の支配者として日本に君臨したんだ」

 

「しかし、“個性”はDNAと密接な関係にある、人間の身体能力の一つですよね? 当時はその事が分からなかったとしても、それこそ医療で言えば拒絶反応も禄に調べずに臓器移植を行う様なモノで、かなり無茶な行動だと思うのですが?」

 

「君は中々鋭いな……確かに“個性”の移動にはリスクがある。実際に彼は“個性”を与える事で人々を信頼、或いは屈服させていったんだが、中にはその負荷に耐えきれず、物言わぬ人形の様になってしまう者も多かったそうだ。ちょうど……『脳無』みたいにね」

 

「え……?」

 

その言葉を聞いた瞬間、バラバラだったパズルのピースが一気に組み上がる様な感覚に陥った。

複数の“個性”を持ち、ハンドマン死柄木の命令だけに従っていた脳無。他者に“個性”を与える事が出来る“個性”。そして、それらを語るオールマイトの心情を察するに――。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!? つまり、なんですか!? その『オール・フォー・ワン』が今も生きていて、ソイツが脳無を作ったって言うんですか!?」

 

「そうだ。何しろ“個性”を奪える人間だから、それこそ何でもアリさ。恐らくは『成長を止める』とか、そう言う類いの“個性”を奪い取ったのだろう。そして5年前、私は自分の体と引き替えに、遂に奴を討ち取った!! ハズだったのだが……驚くべき事に奴は生き延び、『敵連合』のブレーンとして再び動き出している!!」

 

「………」

 

「話を戻すが、確かに他人に“個性”を与えるのは危険な行為ではある。しかし、その一方で“個性”を与えられた事で変異を起こし、二つの“個性”が混ざり合うと言ったケースもあったんだ」

 

「“個性”の変異……ですか」

 

「そうだ。その一つこそが『ワン・フォー・オール』。“無個性”と思われていた自分の弟に、無理矢理『力をストックする“個性”』を与えた事で、弟が持っていた『“個性”を与えるだけの“個性”』と『力をストックする“個性”』が混ざりあったんだ」

 

「……つまり、悪の支配者である兄が弟に“個性”を与えなければ、こうして“平和の象徴”が生まれる事もなかったって事ですか?」

 

「皮肉な事にね。何時の時代も、何故か正義は悪より生まれ出ずる。そして、初代『ワン・フォー・オール』である弟は兄に敗北を喫した後に、後世へその思いを託したんだ。何時の日か、この力でオール・フォー・ワンを倒してくれる様にと……」

 

「……その事を出久には?」

 

「昨日話した。そして、君にもその事を教えておきたかったんだ。君に血を飲ませた時、私は緑谷少年に『ワン・フォー・オール』を譲渡した後だったが、この体にはまだ『ワン・フォー・オール』の残り火が燻っている。恐らくUSJで起こった君の進化は、私の血に流れる『ワン・フォー・オール』の残り火がトリガーとなって引き起こされたモノなのではないかと私は睨んでいる。

そこで問題となるのは、オール・フォー・ワンも『ワン・フォー・オール』の事を知っていると言う事だ。死柄木や黒霧を通じて、奴もUSJで起こった君の進化を知っている筈だ。そうなると、奴は君が私の次の『ワン・フォー・オール』の継承者だと思っている可能性は極めて高い」

 

「……つまり、俺は『敵連合』の最優先ターゲットになっていると?」

 

「恐らくね。そうでなくとも、超常黎明期から現代に至るまで続く、異形の力と姿を持って生まれた者なら誰もが抱えているだろう心の闇。それを奴はこの世界の誰よりも熟知している。君がこの超人社会の“希望の象徴”を目指す以上、君は想像を絶する力と知恵を持った巨悪との戦いを避ける事は出来ないだろう」

 

「………」

 

「本来ならば、これは私の代で終わる筈の、私の代で終わった筈の因縁だ。だが、奴はしぶとく生き延び、更には自分の後継者まで育てている! 結果として私は、古くから続く戦いを長引かせ、君達を戦いの輪廻に巻き込んでしまった。全ては、この私の弱き力故に……」

 

「……オールマイト。相手がどれだけ強大な存在だとしても、俺や出久がヴィランに背を向けると思いますか?」

 

「え……?」

 

「俺も出久も、絶対にそんな事はしない。勝てるか勝てないかなんて初めから問題じゃ無い。助けを求める人々の声に応え、自分の信じた正義とヒーロー像を貫く。命ある限り理不尽と戦い続ける。それが、俺達が選んだ『生き方』と『生き様』です」

 

「――! 『人を愛するが為に』……かい?」

 

「はい」

 

「………………ありがとう」

 

長い沈黙の後、オールマイトが告げた一言には、これまでに聞いた事が無いほどの重みを感じた。

 

今にして思えばこの時、俺はオールマイトからバトンを渡されたのだと思う。因縁。或いは宿命とでも言うべきバトンを……。

 

 

○○○

 

 

呉島少年との密談が終わった後も、私は仮眠室から動くことが出来ないでいた。

 

「………」

 

結局、緑谷少年にも呉島少年にも話すことは出来なかった。かつて、私のサイドキックだった男が告げた私の終着点。それはもう目前にまで迫っている。

 

きっと、君達がプロヒーローになる頃には、もう私は――。

 

『でーんーわーがーーーー来たッ!』

 

「――っと、もしもし?」

 

『オールマイト。大至急、君に伝えたい事があるんだが、今話せるか?』

 

「ああ……。何かあったのかい?」

 

『まず、保須市で呉島君が倒した2体のヴィランなんだが、見た目こそ脳無とは大きく違うが、複数の“個性”を持っているとの事で調べてみたら、脳無と同様に体内から薬物反応と複数のDNAが検出された。そして、そのDNAの中の一つが……』

 

「DNAの一つが、どうしたんだい?」

 

『……呉島君のDNAと一致した』

 

「!! そ、それじゃあ、つまり……」

 

『ああ、恐れていた事が現実になったと思って良い。しかも呉島君の話では、脳無と異なり高い知能を有していて、「騙す」なんて事もしたらしい。そこで更に詳しい検査を行おうと思っていたんだが、今日になって今まで無反応だった2体が苦しそうな表情を見せたと思ったら、泡を吹いて徐々に体が溶解していき、最終的には骨も残さず溶けてしまったそうだ』

 

「溶けた……? それじゃあ、脳無の方はどうなんだい?」

 

『そっちは3体とも溶けていない。USJの個体と同じく全くの無反応だけどね。そして、もう一つ気になるのは、今ネット上で投稿されている呉島君の動画だ。これらは今までは「ヴィランがヒーローに成敗されている現場」として投稿されていた訳だが、その真偽を知る者は当事者である呉島君とヒーロー達以外では、我々警察しかいない。

しかし、今回の場合「呉島君が冤罪で逮捕されている現場」としてこれらが投稿されている。まあ、本当の事ではあるが、彼の様な人間の場合、真偽を知らない第三者が「雄英生が昔ヴィランとして活動していた」として投稿するケースがあってもおかしくない。それなのに、何故今回に限ってその全てが「冤罪で逮捕されている」と断言されているんだ?」

 

「……つまり、それらの事件の内情を知る者が、この流れを作っている?」

 

『恐らくはね。ヒーロー側からの内部告発か、はたまた警察関係者の仕業かは定かでは無いが、個人的には後者の可能性が高いと思っている。もしかすると、呉島君の右腕を奪った犯人と同一人物なのかも知れない』

 

「………」

 

塚内君の話を聞きながらも、グラントリノの言葉が私の脳裏をよぎっていた。

 

先日の保須市の事件の流れがオール・フォー・ワンによるモノなのだとしたら、コレもまたオール・フォー・ワンの計画の一つである事は間違いない。

冤罪に関しては、世間のヒーローへの信頼を崩す為だとしても、呉島少年のDNAを使った改造人間に関しては、何かしらの意図があって呉島少年に差し向けた可能性が高い。

 

では一体、何の為に? 次の“平和の象徴”と思った呉島少年を亡き者にする為か? それとも雄英体育祭で更なる成長を遂げた呉島少年のDNAを採取し、更に強力な改造人間を作り出す為か? いやいや、或いは――。

 

「……とてつもなく悪い予感がするな」

 

『奇遇だね。僕もだよ』

 

脳無を超える性能と、高い知能を併せ持つ新しいタイプの改造人間。ヴィランとは一線を画する存在の登場に、オールマイトと塚内は言いしれぬ不安を抱いていた。

 

 

○○○

 

 

一方その頃、様々な器具によって命を繋ぎ止め、大昔から超人社会に影響を与え続けた男が、モニターを前に不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ヒーロー殺し。まさか捕まるとは思わなかったが……概ね予想通りだ。暴れたい奴、共感したい奴、様々な人間が衝動を開放する場所として『敵連合』を求める。死柄木弔は、そんな奴等を統括しなければならない立場となる!」

 

「出来るかね、あの“子供”に。ワシは先生が前に出た方が、事が進むと思うが……」

 

「ハハ……では早く体を治してくれよ。ドクター」

 

「『超再生』を手に入れるのが、あと5年早ければなぁ……! 傷が癒えてからでは意味のない、期待外れの“個性”だった」

 

「いいのさ! 彼には苦労して貰う! 次の“僕”となる為に。あの子はそうなり得る、歪みを生まれ持った男だよ」

 

全ては計算の内。多少の手違いこそあったが、それでも計画が自分の掌からこぼれ落ちてはいないと、男は余裕を含んだ声色で断言する。

 

「所で先生、先日保須市に投入した新型だが、どうやら移植した細胞に耐えきれず、体がドロドロに溶けてしまったらしいぞ?」

 

「そうか……彼の細胞を他人に移植する案は、あまり旗色が良くないな。成功したのもあの2体だけだったし……まあ、それはそれで貴重な情報だ。次に活かそうじゃ無いか」

 

「先生……アンタは一体何を狙っている? 完成した新型をあの怪人にけしかけ、警察に潜り込ませたスパイを使ってヒーロー達の不祥事を世間に暴いて、一体何をしようとしている? 後者はまだ分かるが、前者の目的がイマイチ分からん」

 

「……ねぇ、ドクター。君は『個性特異点』と言う言葉を知っているかい?」

 

「確か終末論の一つだったな。代を重ねる毎に“個性”は混ざり合って深化し、その力はいずれ何者にも制御できなくなると言う……」

 

「そう。しかし、確固たる事実として、中には代を重ねる事無く“個性”を深化させる事が出来る者も存在する。例えば、僕の弟の様にね」

 

「確かに。まあ、かなり稀なケースだがな」

 

「だから僕はこう思うんだ。『個性特異点』とは、『代を重ねる事無く“個性”を深化させ、進化する事が出来る存在』の事を指すのではないかと。そして、弟と同様……いや、ある意味では弟を超える『個性特異点』がこの時代に現われた」

 

「それがあの怪人だと?」

 

「そうだ。彼によって『ワン・フォー・オール』は彼の持つ“個性”と混ざり合い、更なる段階へと進んだ。初代『ワン・フォー・オール』所有者以降、歴代の誰もが出来なかった事を彼は成し遂げた!」

 

何処か懐かしむ様な雰囲気を醸し出しながら、先生は過去の戦いに思いを馳せていた。超常黎明期から続く、『ワン・フォー・オール』を継承した者達との死闘。その中には“個性”持ちの継承者も何人かいたが、『ワン・フォー・オール』を受け継いだことによる“個性”の変異を起こした者は皆無だった。

 

「ドクターも知っての通り、生物の成長には必ず上限というモノが設けられている。強力すぎる力は持ち主に大きな負担を与え、数多くの不具合を生じさせる。その最たる例が力を与えた事と引き替えに思考や自我を失った脳無だ。

しかし、常軌を逸した肉体と精神への負荷を乗り越え、強大な意思を持って限界を突破し、自己進化を遂げた者が獲得した常識破りの強さは、それこそ脳無の様な人工物とは次元が違う。雄英体育祭で彼を見た時、ドクターもこう思った筈だ。『我々は負けた』とね」

 

「………」

 

「保須市で新型を彼にぶつけたのは、その自己進化が促される加減を知りたかったからだ。勿論、彼を倒してくれればそれに越した事はなかったが……やはり、あの程度の修羅場で与えられる肉体と精神の負荷では、もはや彼の“個性”が進化する事は無いと見て良いだろう」

 

「予想通りの結果だったと? それにしたって、わざわざ金と時間と手間を掛けて強力なヒーローを育ててどうするのかね? しかも、結果的に大衆があの怪人の味方についてしまっている。弔の成長を促すにしても、少々刺激が強すぎる気がするのはワシの気のせいか?」

 

「ハハハハハ……ドクター。僕がそんな理由だけで、彼に色々と手を出していると思うのかね?」

 

「?」

 

「まあ、僕としては他にも並行して色々と考えているんだが……実は仮に新型が彼を倒した場合、弔が出す命令を無視して僕達の元へ彼を持ってくる様に別の命令を出してあったんだ。今まで彼が味わったモノとは比較にならない程の肉体や精神への負担。例えば……大量の“個性”を投与したら彼はどうなると思う?」

 

「!!」

 

「『ワン・フォー・オール』は僕の“個性”でも奪う事が出来ない。それ故に『オール・フォー・ワン』に対抗しうる唯一の“個性”とされ、歴代の継承者達は僕の前に立ちはだかってきた。だが……『ワン・フォー・オール』を奪う事が出来なくても、『ワン・フォー・オール』所有者の自我を奪う事なら出来る。そして、そのコツは僕だけが知っている」

 

「……確かに、奴の細胞を移植するだけで、改造人間の性能は大きく上がった。あの怪人を素体にしたのなら、確かに面白そうな事になりそうではある」

 

「そうだろう、そうだろう。何よりも僕は快く思っていないんだ。『仮面ライダー』を名乗る者が改造人間では無いと言う事に。そして、改造人間が悪の組織を裏切ると言う、絶対に有り得ないテーマに」

 

オールマイトが見いだした“次世代の平和の象徴”が、宿敵である自分の手によって“次世代の悪の象徴”に生まれ変わる。その光景を夢想し、悪の魔王は心底楽しそうに笑っていた。

 

――オールマイトの傍に居る筈だった存在が僕の傍に立っていたら、その時君はどんな顔をするのだろう?

 

――人目も憚る事無く無様に悲しみ、泣きながら彼を打倒するか?

 

――それとも怒りに震えながら拳を握りしめ、彼を無視して僕を殺そうとするか?

 

ああ、それにしても本当に――。

 

「楽しみだよ、オールマイト。僕が君の笑顔を奪い、君が僕を笑顔にするその時が」




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 今回はUSJ編以来となるアクセルフォームが再登場。圧倒的なスピードで他を圧倒するが、ある意味でそれ以上に圧倒的なモノに遭遇してしまう。取り敢えず、相手が何者であれ女の子をガチで泣かせる男は例外なく悪党だと思っている。

緑谷出久
 原作と異なり、かっちゃんではなくシンさんの動きを真似るが、実はかっちゃんの動きも少しは参考にしている。比率で言えば9:1位。まあ、シンさんとずっと一緒に居た訳だから無理も無い事だけど、お陰でかっちゃんの怒りのボルテージは原作よりも上。

飯田天哉
 真面目の権化。言っていることはどう考えても確実にコイツの方が正しいのに、常識の通用しない変態理論に翻弄された結果、自身のアイデンティティーさえも見失いつつある。まあ、「真面目なだけの人間」が「真面目な変態」に対抗できるかって言われたら……ねぇ?

峰田実
 ヴィランよりも邪悪な正義を持つに至った変態。しかし、そんな彼でも青い制服を着た国家権力には無力であった。ちなみに、彼の股間は変態仮面の様にモッコリしておらず、そのサイズは劇場版に登場したニセ変態仮面と同レベルかそれ以下。つまりはペッタンコ。

葉隠透
 変態ブドウの被害者。今回「A組女子の中で誰のパンティを盗むか?」と言う事を考えると、更衣室に確実にパンティがあるのは実習で全裸になるこの子だし、全寮制になった際のエピソードを見る限り、彼女が被害者になるのはある意味必然と言える。

オールマイト
 変態ブドウが見せるあまりの変態ぶりに、どうやって対処するべきか深く悩み、かなり戸惑っていた№1ヒーロー。そして、自分の秘密に関しては半ばバレていたが、今回思い切って暴露。シンさんのこれからの人生が茨の道である事を宣告する事に。
 ただ作者が個人的に疑問だったのは、「『ワン・フォー・オール』の継承方法をオール・フォー・ワンが知っているのか?」と言う点。少なくとも継承できる事は知っているので、この世界ではUSJの一件で図らずも継承方法がバレた様な感じはする。

オール・フォー・ワン/先生
 既にして『序章』のにおけるIFルートのドクターよろしく、シンさんを改造人間の素体としてロックオンしていた。ぶっちゃけ、ギガントマキアみたいに死柄木以外にも色々な人間を育てていたので、面白そうな人材がいたら目をつけてもおかしくはないと作者は思う。
 今作では既に「アナザーシンさん」と言う前例があるので、後の展開が丸わかりになってしまっているだろうが、その前に『あるモノ』を造るつもりでいる。まあ、それについても既に予想されているようだが……。

変態仮面
 どう考えても除籍処分しかない事をしでかした変態ブドウが除籍を免れたのはコイツが原因だと思われているから。もっとも、コイツも高校時代にパンティ泥棒をやっているので、ある意味で今回の件は自業自得。
 そして変態秘奥義100連発と言う、拷問に匹敵する過激な再教育を施した結果、それでも峰田を更正する事は叶わなかったが、思考回路を元に戻す事には成功した。



真面目理論VS変態理論
 元ネタは実写版『変態仮面』の変態仮面と真面目仮面のやりとり。実際問題、原作においても飯田は一度も峰田を論破することが出来ず、峰田の犯罪行為を止める事が一度も出来ていないので、真面目が変態に勝つことは事実上不可能なのかも知れない。

個性特異点
 原作においては「世代を経るにつれて混ざり合って深化し、より強力で複雑化した“個性”は誰にもコントロールできなくなってしまう」とされる終末論。しかし、(オール・フォー・ワンによるものではあるが)実際に「世代を経ること無く“個性”を深化させる者」も確かに存在する為、むしろこうした素質を持った人間こそが『個性特異点』と呼ぶに相応しいのでは無いかと、作者は思っている。
 この理論に該当する原作のキャラクターは、今の所オール・フォー・ワンの弟くらいしか明言されていないが、オールマイトの言葉が確かなら他にも存在していたと思われる。オール・フォー・ワンとしては「今代の継承者を改造人間にすればオールマイトは泣くだろうし、脳無を超えるメッチャ強い改造人間を作れるだろうから一石二鳥じゃね?」ってな感じに考えている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。