怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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読者の皆様のお陰で、3月13日の日刊ランキングで37位を記録する事が出来ました。ご愛読、誠にありがとうございます。

今回からスピンオフ作品である『ヴィジランテ』の要素を入れた為、作品に『ヴィジランテ』タグを追加します。そして、職場体験編が本格始動……なんですが、作者の趣味を加えた結果、初日から何かとぶっ飛ばしてしまった感があります。まあ、何時もの事と言えば何時もの事なのですが……。

それからヒロアカの第三期アニメがとうとう放送開始。果たして今期は何処までアニメでやるのかが気になりますが、個人的には仮免試験編までやって欲しい所です。

2018/4/11 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第26話 伝説を呼ぶ嵐の男

いよいよ、職場体験の日がやって来た。職場体験先は第三志望まで書いたものの、結局は第一志望のMt.レディに決定した為、俺としては願ったり叶ったりと言える結果だ。

 

「コスチュームは持ったな? 本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

 

「は~い!」

 

「伸ばすな。『はい』だ、芦戸」

 

「……はい」

 

「くれぐれも失礼の無いように! じゃあ行け」

 

かくして、各々が職場体験先へと向かう路線に足を進める中、出久と麗日が隠しきれない不安を顔に出しながら飯田に話しかけていた。

 

「……本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ?」

 

「うんうん」

 

「……ああ」

 

その時の飯田の表情を見た瞬間、俺は「あ、コレは駄目だ」と思った。飯田の目に宿る光から、「何かを覚悟した人間」特有のモノを感じ取ったのだ。

 

体育祭が終わってからニュースで見た『インゲニウム襲撃事件』。その犯人はこれまでに17名のヒーローを殺害し、23名のヒーローを再起不能に陥れたと言う、神出鬼没のヴィラン“ステイン”。通称『ヒーロー殺し』。

今回、ステインに襲われたインゲニウムは死んでこそいないが、この時の戦闘で脊髄を損傷し、ヒーロー活動への復帰が困難な状態……つまりは、二度とヒーロー活動が出来ない体になってしまったらしい。

 

……仕方ない。ぬか喜びさせるのも悪いと思ったから、出来る様になるまで言わないつもりだったが、今の飯田に必要なのは“希望”だ。飯田にとって救いとなるモノを此処で与えておかなければ、飯田は確実に取り返しのつかない事をやらかすだろう。

 

「……飯田。少しいいか?」

 

「? 何だい?」

 

「俺が体育祭で八百万と戦った時に、“触れたモノを分子・原子レベルで分解・再構成する能力”を得た事は知っているな?」

 

「あ、ああ……」

 

「父さんにこの能力について調べて貰ったんだが、この能力は道具の他に生物に対しても有効で、今は道具を作り変える事位しか出来ないが、いずれは人体のパーツを作る事も出来るようになるらしい。

例えば、リカバリーガールの“個性”でも治せない様な四肢欠損の治療や、損傷した重要な器官を再構成する……なんて事も可能になると言っていた」

 

「………」

 

「まあ、それが出来たとしても、元に戻るまで長いリハビリが必要になるだろうが……インゲニウムは“生きている”。生きているなら、まだチャンスはある。諦める事を諦めるなら。少なくとも、俺はそう思っている」

 

「……そうか」

 

この会話を最後に、飯田は保須市の職場体験先へと向かった。これで少しでも飯田が希望を持ってくれれば……と思っていたが、後の事を考えるとこの時の俺はまだ甘かったと言わざるを得ない。

 

自分の愛する者から大切なモノを奪った悪魔に対する憎しみ。その思いの深さは、俺の想像を遙かに超えていたのだ。

 

 

●●●

 

 

登下校に利用する路線を使い、電車に揺られつつMt.レディの事務所を目指していたが、俺の他にも耳郎が同じ電車に乗っていた。話を聞くと耳郎はデステゴロの事務所に行くらしく、大分気合いが入っている様子だった。

俺としてはMt.レディの事務所は家から近いので、何となく地元に里帰りして働く様な気分である。

 

そして、いよいよMt.レディの事務所に到着した訳だが、ヒーロー活動をする度に何かしらの物を破壊しているので、一年前は「一年後には潰れるのではないか?」と思っていたのだが、予想が外れて何よりだ。

 

「来たわね! 待ってたわよ、呉島君!」

 

「フッ、手土産は持ってきただろうな?」

 

「………」

 

そして、何故かMt.レディの事務所には、Mt.レディとそのサイドキックの他に、B組の妖怪ブタ男こと神谷がいた。

 

「どうも。しかし、俺以外にも指名入れたみたいですけど、どうして神谷を?」

 

「馬鹿め! 何を隠そう、この私はヒーローからの指名など、一つたりとも貰っていないのだ!」

 

「……えっとね。指名は呉島君だけに入れたんだけど、指名されてない子も受け入れられる様に、受け入れ可の事務所の方にも名前をいれておいたのよ。この子はそれで此処に来たって訳。それじゃあ、二人ともコスチュームに着替えてらっしゃい。更衣室はアッチよ」

 

なるほど。それで本戦に出ていないコイツが此処に居る訳か。神谷がこの場に居る理由を聞いて納得した俺は、神谷と一緒に更衣室でコスチュームに着替える事にした。

 

「言っておくが、こう見えても私の家系はブルボン王朝より続く由緒正しいフランス貴族なのだ。くれぐれも私の足を引っ張り、顔に泥を塗る様な真似は……」

 

「GUUU、CRUUUUU……!」

 

「する……な……?」

 

何時ものように“個性”を発動させ、人間から怪人バッタ男へと変身した俺は、今回が初陣となる『強化服・弐式』を手際よく装着していく。

 

この『強化服・弐式』は全体的な造形こそ『一式』や『一式・改』と大差ないが、肩のプロテクターが生地の内側に付けられており、スーツがツナギ状になっていて裾がベルトの下から出ていないと言った差異もある。

 

そして、見た目における最大の相違点はカラーリングで、下のスーツは同じく黒色だが、コンバーターラング・ブーツ・グローブがダークグリーンで、肩から腕と脚の側面にはダークグリーンのラインが入っている。

また、ヘルメットはメタリックグリーンで、鼻から後頭部に掛けて白く塗り分けられたラインが入っており、クラッシャーはシルバー。更にベルトと複眼が赤くなっていて、全体的に『一式』や『一式・改』と比べて明るい配色になって、よりヒーローらしくなっている印象だ。

 

……まあ、俺としては見た目の変化よりも、「マッスルフォームやバーニングマッスルフォームにも対応している」と言う、新機能が追加されている事の方が有り難かったが。

 

「………」

 

「? どうした神谷。手が止まっているぞ」

 

「い、いや……、な、何でも、無い……」

 

いやいや、ガタガタ震えていて何でも無いはないだろう。まあ、この反応から察するに、俺が怪人バッタ男だと思わなかったのだろうと予想できるが。

 

「先に行くぞ」

 

「う、うむ……」

 

震えながらコスチュームに着替える神谷を置いて、俺は一足先にMt.レディの所へ向かった。しかし、神谷よ。流石にノーパンでタイツを穿くのはどうかと思うぞ。

 

「さて、二人とも準備が出来たところで、職場体験について説明するわね。知ってると思うけど、ヒーローは国からお給金を貰う職業だから、一応は国家公務員よ。

基本的に実務は『犯罪の取り締まり』で、事件発生時には警察から応援要請が来るんだけど、コレはそれぞれの地区ごとで担当するヒーローに一括で来る事になってるわ。そして逮捕協力や人命救助等の貢献度を申告して、専門機関の調査を経て給料が振り込まれる仕組みよ。つまりは歩合制ね」

 

「ふむ……と言う事は、大物を捕らえれば、それだけ報酬もデカいと言う事だな?」

 

「そうね。でも、大抵の場合はそれだけじゃ食べていけないから、基本的にヒーローは皆『副業』を持っているわ。主にグッズ販売やイベントね」

 

「なるほど」

 

「取り敢えず、今日の所はパトロールが入ってるケド、何か質問はあるかしら?」

 

「それなら、ヒーローとして活動する上での注意点を教えてくれませんか?」

 

「そうね……注意する事は色々有るケド、一番マズイのは“ヴィランと間違えて一般人を攻撃する事”ね。ただ、コレについてはケース・バイ・ケースな面が多々あるわ。例えば、数年前に起こった『鳴羽田区突発性ヴィラン大量出現事件』って知ってる?」

 

「確か、ヴィランが不特定多数の一般人に“個性”をブーストする薬を投与して、“個性”を強制的に暴走させたって事件ですよね?」

 

「そう。あの時も多くのヒーローが活躍したけど、調べてみたら捕縛したヴィランが実は被害者だったって事件ね。あの時は負傷者には各自の事務所からお見舞いと補償が行われたケド、ヒーロー達に特にペナルティが課せられる事はなかったわ。

そもそも、原則として『法的な正当性無く“個性”を用いる者は、これをヴィランと認識し、相応に対処する』ってあるから、現実的にはグレーゾーンの相手と対峙した場合、『ヴィランと想定して無力化し、その後身元を検分する』以外の方法が無いとも言えるわ」

 

「……それは見方を変えれば、『ヒーローは一般人へ“個性”を用いた攻撃が半ば容認されている』と言うことなのでは?」

 

「そうね……でも、ヒーローが罪の無い一般人を傷つける事はあってはならないわ。もっと言えば相手がヴィランでも、過剰行為は一発で免停になるわね。

ついでに言うと、さっき言った事件の場合、少なからず一般市民に被害が出ていた訳だし……兎に角、コレに関してはヒーローをやっていく上で避ける事の出来ない難しい問題ね」

 

「………」

 

なるほど。考えてみれば大半の人間が“個性”と言う強大な力を持っている以上、今の社会は『一般人』と『ヴィラン』が混在していると言っても過言では無い。そう考えると、対ヴィラン戦においては、何よりも「慎重」を肝に銘じなければなるまい。

 

「ちなみにペナルティについてだけど、これは良くて減俸、悪くすれば失業ね。そうでなくとも、ヒーローにそうした間違いは許されないって風潮があるから、一度付いたマイナスイメージを払拭するのは難しいわ」

 

「……ちなみに、俺の時はどうなったんですか?」

 

「あの時は私がデビューしたてで初犯だった事に加えて、被害者の貴方が被害届を出さなかったから、最終的には情状酌量もあって減俸と罰金で済んだわ」

 

「当時はそれに加えて、被害総額の2000万が痛かったね……」

 

「……そうね。器物損壊なんかも気をつけないといけないわ。敵災保険やヒーロー控除を使えば大分抑える事が出来るんだけど、それでも赤字になる事が多々あるわ」 

 

「なるほど」

 

「所で、貴方達のヒーロー名は? ヒーローなら本名じゃ無くて、ヒーロー名で呼び合うのがマナーよ」

 

「……『仮面ライダー』」

 

「救いのヒーロー『ぶりぶりざえもん』!!」

 

「『仮面ライダー』に『ぶりぶりざえもん』ね。それじゃあ、パトロールに行きましょうか?」

 

「はい!」

 

「うむ!」

 

かくして、昔から見慣れた町をパトロールすると言う、俺としてはちょっとした感動を覚える事をしている訳なのだが、町はちょっとした小競り合いさえも無く、平和そのものだった。

 

「パトロールはヴィランの犯罪抑制の効果がある重要な仕事よ。他にもヒーローの存在を周囲に知らせる事で、市民に安心感を与える効果があるわ」

 

「ふむ。イタリアンギャングが自分のシマの住人と仲良くするのと同じだな」

 

「……何でイタリアンギャングなんだ?」

 

「フッ、私はコレでも誇り高きイタリア人だからな。本名はアレッサンドロ・フランチェスカ・デ・ニコラだ」

 

はて? コイツさっき自分の事を「誇り高きフランス貴族」とか言ってなかったっけ? まあ、それもかなり胡散臭いが。

 

「……イタリアの首都は何処か言ってみ?」

 

「…………スペイン」

 

う~む。コイツの言っている事が嘘だと思う以上に、コイツが本当に雄英生なのかどうかを疑う様な回答だ。この知能レベルでどうやって入試をクリアしたのだろうか。

そんな他愛もない(?)話をしながら町を巡回していたのだが、突然ぶりぶりざえもんが足を止めた。その視線の先にはフォルクローレ奏でるペルー人がいる。

 

「オーゥ、ナイスサウンド」

 

「あの人、一体何者かしら?」

 

「ふん! そんな事も分からんのか貴様等は! 私のインターポールのイタリア代表刑事としての勘が言っている! アレは類い稀なる演奏で日本人を洗脳しようとしているに違いないと!」

 

「いや、それは……」

 

幾ら何でも有り得ないだろう……と、ぶりぶりざえもんの奇天烈な推理を否定しようとした時、ペルー人がその本性を現した。

 

「ガハハハハハハ!! バレては仕方が無い!! 我々はペルー人のフリをして、民族音楽で人々を洗脳する『デスインカ帝国』の刺客よッ!!」

 

「「デ、デスインカ帝国!?」」

 

「そして俺は、『日本ズタズタ作戦』の実行を皇帝陛下より一任された、デスインカ帝国の幹部ポイズン・スコーピオンだッ!!」

 

「「ポ、ポイズン・スコーピオン!?」」

 

何たることぞ。ぶりぶりざえもんの言った事は本当だった。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったモノである。

 

「こうなってしまっては、もはや仕方ない! 『デスインカ帝国』の恐ろしさを、存分に味あわせてやるッ!」

 

「いけないわ! 二人とも、避難誘導をお願い!」

 

「はい!」

 

「うむ!」

 

俺とぶりぶりざえもんはMt.レディの指示の元、周囲の一般市民をデスインカ帝国の魔の手から守る為、避難誘導を開始した。そして俺は人手を増やす目的で、テレパシーを使ってイナゴ怪人達を呼び出す。その数は合計で6体。

 

「行けッ! イナゴ怪人達よ!」

 

「「「「「「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」」」」」」

 

「「「「「「「「「「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」」」」」」」」

 

……うん。傍目から見るとイナゴ怪人から逃げてる様に見えるケド、避難誘導にはなってるな。結果オーライって事で納得しよう。

 

「……ちょっと待って、6人? あと一人はどうしたの?」

 

「……イナゴ怪人1号は旅に出ました。ヨーロッパにッ!!」

 

「ヨ、ヨーロッパ!? 何でヨーロッパなの!?」

 

「『ヨーロッパに行けば、なんやかんやでパワーアップできる様な気がする』……とか何とか言って、勝手に一人でヨーロッパに……」

 

「勘!? 勘でヨーロッパに行ったの!?」

 

イナゴ怪人1号の予想外すぎる行動に驚くMt.レディだが、それと相対するポイズン・スコーピオンの方は、イナゴ怪人達を射殺さんばかりに見つめていた。

 

「その姿に、イナゴ怪人……やはり間違いないッ!! 貴様、呉島新だなッッ!!」

 

「? 確かに俺は呉島新だが、それが何か?」

 

「俺だ! 園田剣だッ!!」

 

園田剣? はて、誰だったかな? 全然覚えがないんだが。

 

「えっと……どちら様で?」

 

「貴様……ッ!! 忘れたとは言わせんぞッ!! アレは忘れもしない5年前のサマーキャンプッ! あの時、俺は肝試しで密かに恋心を寄せていた大杉祐月と運良く二人組になる事が出来たッ! しかし、あの時暗闇の森の中から現われたイナゴ怪人に俺は度肝を抜かし、恐怖の余り失禁の醜態を晒す羽目になったのだッ!! その後、俺が大杉祐月にどんな目で見られていたのかは言うまでもあるまいッ!!」

 

「………」

 

ああ、あの時の惨劇の被害者の一人か。つまりコイツは、俺の所為で失恋する羽目になったと……。

 

「しかし、貴様がここに居るのは好都合よ! 積年の恨みをここで晴らしてくれるわッ!!」

 

「ふん。典型的な逆恨みだな」

 

「……そうね。同情の余地はあるけど、それでヴィランになっていいと言う理由にはならないわ。悪いけど貴方の悪事は此処で止めさせてもらうわ」

 

「フハハハハハ!! Mt.レディよ! この俺が、何時『日本ズタズタ作戦』を実行する者が俺だけだと言った!?」

 

何? そう言えば、さっきコイツ“我々”って言っていた様な……。

 

ポイズン・スコーピオンの台詞に悪い予感を覚えたその時、こことは別の場所から破壊音と悲鳴が聞こえてきた。その発生源に目を向けると、20mほどの大きさの怪獣が、我が物顔で街を蹂躙していた。

 

「!? 超大型ヴィランッ!?」

 

「フハハハハハ!! その通り!! この『日本ズタズタ作戦』は、このポイズン・スコーピオンと、『巨大化』の“個性”を持つ怪獣人ガドラスによる、二正面作戦だったのだッ!!」

 

解説サンクス。本当に何でヴィランて奴は、こうも手の内を簡単に暴露するのだろう。自分の作戦にそれだけ絶対的な自信があるからだろうか?

いずれにせよ、コイツもそうだがアッチの方も無視する事は出来ない。そして、あの超大型ヴィランに対抗できるのは、この場ではMt.レディしかいないだろう。

 

「……Mt.レディ、“個性”の使用許可を下さい。コイツは俺が相手をします」

 

「……無理だと思ったなら、迷わず引いて応援を呼びなさい。いいわね?」

 

「はい!」

 

「それじゃ……頼んだわよ!」

 

そう言うとMt.レディは巨大化し、超大型ヴィランに向かっていった。そして開始直後に必殺技のキャニオンカノンが炸裂。超大型ヴィランと激戦を繰り広げている。

 

「さて……それじゃあ、始めようか?」

 

「良いだろう。元はと言えば、俺はこの時の為に進んでデスインカ帝国の一員になったのだ。呉島……お前に勝つ為になッ!! 出でよッ!! ミュータントサソリよッ!!」

 

ポイズン・スコーピオンが叫ぶと、周囲から無数のサソリがわらわらと出現した。そしてサソリ達の尻尾から赤い液体が飛び出すと、ソレを浴びたイナゴ怪人の体が、見る見る内に溶けていった。

 

「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「!? こ、これは!!」

 

「どうだ、驚いたか!! 貴様がミュータントバッタを操れるように、俺もこの恐るべきミュータントサソリを操る事が出来るのだッ!! そして……行けぃ、ミュータントサソリよ!! 忌々しいイナゴ怪人共を殺し尽くすのだッ!! そして私の相手は……呉島ッ!! 貴様だぁあああああああああああああああああッッ!!!」

 

左手の鋏を振りかざし、猛然と襲いかかるポイズン・スコーピオン。それに対して俺は、相手の攻撃を徒手空拳で受け流す様に対応する。

 

「シュシュシュ!! 死ねぇ、呉島ぁああああああああッ!!」

 

「待て! ポイズン・スコーピオン! いや、園田! 今ならまだ間に合う! 大人しく引き下がってくれ!」

 

「黙れぇええィッ!!」

 

左手の鋏に首を挟まれ、身動きを封じられた瞬間、ポイズン・スコーピオンの口から霧状の毒液が噴射され、ヘルメットが音を立てて溶け出した。

ミュータントサソリも強力だったが、本体の方も何と言う強力な毒液を吐くのだろう。明らかに通常の生物型の“個性”が生成する毒物とは一線を画している。

 

「グウウッ!!」

 

「どうだ!! 『デスインカ帝国』の秘術によって、俺の肉体は更に“個性”と同調する様になったッ!! 今や、この毒と鋏こそが……俺の総てだッ!!」

 

「!!」

 

――それぞれの地域で独自の発展と発達を遂げ、継承されてきた何千年来の秘術は……“ただ一つの野心”を満たす為に使う時を、今も人知れず待っているのです――

 

その言葉に、先日梅雨ちゃんと羽生子ちゃんと一緒に入ったファミレスでの事を思い出した。闇から闇へと受け継がれてきたと言う「超常の力を操る技術」。それが今、俺の前に復讐という形で立ちはだかっているのだ。

 

「「「GUGYUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」

 

「フハハハハ!! やはり今の俺には、イナゴ怪人など敵ではないッ!! そして、ミュータントサソリよ! イナゴ怪人を斃した次は、この付近一帯の人間どもを襲えいッ!!」

 

「!! 待て!! 何故無関係な人間の命を狙う!? お前の狙いは俺一人の筈だろう!!」

 

「何故? 愚問だ! 力ある者が力なき者を贄とし、次なる理想を望む!! それが真理だッ!! 俺は悟ったのだ! 脆弱な怒りと肉体など、この世界では何の役にも立たんと言う事を!! 故に弱者に出来る事はただ一つ! 己の血をもって、強き者の強さを示す足跡となるだけだッ!!」

 

「クッ……オラァアアッ!!」

 

「グフッ!!」

 

腹に重い一撃を入れ、ひとまず首を掴んでいる左手の鋏から逃れた後、周囲に蠢いているミュータントサソリに視線を向ける。夥しい数のミュータントサソリは、復活するイナゴ怪人を次々に溶かし、次第にその数を増やしていく。

 

「ぬぅ……おのれぇ……ッ!!」

 

「……戦うしかないのか。人を守る為には、戦うしか……ッ!!」

 

ミュータントサソリの侵攻をイナゴ怪人達が止められない以上、ミュータントサソリを操るポイズン・スコーピオンを倒す以外に、ミュータントサソリの殺戮を止める方法はあるまい。

コイツの復讐は正しい。憎しみも正しい。しかし、だからと言って倒される訳にはいかない。そして、その為に無関係な人間さえも巻き込むと言うのなら、決してそれを許す訳にはいかない。

 

「ならば……なってやる。お前に、お前達ヴィランに逆らう“風”に……戦う“嵐”になってやるッ!!」

 

「ぬかせ、呉島ぁあああああああああああああああああッ!!」

 

攻撃は既に見切っている。防御に徹していた先程と違い、攻撃の合間を縫って繰り出すカウンターを的確にポイズン・スコーピオンに叩き込んでいく。

 

「グゥウウッ!! お、おのれぇえええええッ!!」

 

「喰らえ!! ライダー放電ッ!!」

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

反撃でよろめいた所で、『弐式』に追加された「触覚から放つ緑色の電撃を、手足から放出する機能」を使い、両手から緑色の電撃を放って感電させる。電撃を諸に浴びたポイズン・スコーピオンは悲鳴を上げ、地面に正面からバタンと倒れ込んだ。

 

「……やったか」

 

「うらぁあああああああああああああああッ!!」

 

「ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「……向こうも、もうすぐ片が付きそうだな」

 

「正に私の作戦通りだ」

 

「お前は戦ってねーだろーがッ!!」

 

Mt.レディも怪獣ヴィランを撃破寸前。これで事件は一件落着……と思いきや、倒れたポイズン・スコーピオンが突然むくりと起き上がると、ビリビリと空気が震える程の凄まじい咆哮を上げた。

 

「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛ッ゛!!」

 

「「!?」」

 

何だ!? 一体、何をやろうとしている!?

 

只ならぬ様子に俺達が警戒していると、ポイズン・スコーピオンの叫びに呼応する様に、大量のミュータントサソリがポイズン・スコーピオンと怪獣ヴィランに向かって、津波の様に押し寄せた。

そして、ミュータントサソリ達は二人のヴィランをすっぽりと飲み込むと、徐々にその形を変えていき、最後には一体の超巨大な怪獣へと変化した。

その体は怪獣ヴィランをベースに、鼻先の小さな角が大型化し、両手がポイズン・スコーピオンの左手の様に鋏状になっている。何よりも大きな変化は体の大きさで、その大きさは実に先程の倍以上。身長が20mを超えるMt.レディがまるで子供のようだった。

 

「デカい……」

 

これも『デスインカ帝国』の秘術によるものなのか!? それとも単に“個性”が暴走しただけなのか!? あるいはその両方か!? いずれにせよ、空前絶後のピンチがこの町に訪れたことは間違いない。

 

「こ、こんのぉおおおおおおおッ!!」

 

「GUUUUUUU……GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「きゃああああああああああああああああああああああッ!!」

 

更なる強化・巨大化を果たしたヴィランに対し、Mt.レディは果敢にも戦いを挑むが、ポイズン・スコーピオンと怪獣ヴィランが合体した超巨大怪獣にMt.レディの攻撃はまるで効いている様子がなく、それどころか超巨大怪獣の体当たりで大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「この……ッ!! やった、わね……ッ!!」

 

「GYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「ああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「GYUUUUGYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

倒れこんだMt.レディは不屈の闘志で立ち向かおうとするが、そこに超巨大怪獣が角から電撃を放ち、再び吹っ飛んだMt.レディに容赦なく攻撃を繰り出している。

 

「電撃まで……! ヤバイ。Mt.レディがやられる……!」

 

「うむ。ここは他のヒーローに応援を要請するとして……この辺にアレを倒せるヒーローはいるのか?」

 

「……無理だ。大きさもそうだが、何よりもミュータントサソリの毒液が厄介だ」

 

この辺にいるヒーローと言えば、デステゴロ、シンリンカムイ、バックドラフト……と言った所だが、どう考えても彼らにこのデカブツを何とか出来るとは思えない。それに、イナゴ怪人を数秒で溶かすあの毒液は、人間が生身で浴びるには危険過ぎる代物だ。

 

「……俺が思うに、アレは体育祭でイナゴ怪人がやった『巨大ローカスト・ホース』と同じだ。相違点は“個性”が暴走状態にあるらしい事と、本体が中にいる事。そして中に居る人間が二人だって事と、アレよりも遙かにデカいって事の4つ。

そして“個性”が暴走状態にあるなら、本体を攻撃してもミュータントサソリは多分死なない。本体を殺さない限りは。だから、あのデカブツの中から二人のヴィランを引きずり出し、それからミュータントサソリを全て殺し尽くさないと、この事件は解決しないだろう」

 

「ふむ……して、具体的な作戦は?」

 

「俺が奴の体の中に突っ込んでヴィランを救出した後に、紫の炎で燃やす。下手に吹っ飛ばせば、吹っ飛んだミュータントサソリの残骸で二次被害が起こりかねん」

 

そう。ぶっちゃけ、あの毒液さえ無ければ、マッスルフォームで殴り飛ばして本体をあぶり出す事が出来た。だが、下手にそんな事をすれば、あの毒液にまみれた無数のミュータントサソリの残骸が街に降り注ぎ、罪の無い一般市民に甚大な被害が出る事は簡単に予想できる。

また、バーニングマッスルフォームによって、体を構成しているミュータントサソリを燃やし尽くすにしても、このデカブツ相手では手加減抜きの全力でやるしかなく、今ソレをやった場合、十中八九中にいる二人のヴィランの命は無い。

 

そのため、あの超巨大怪獣を倒すには、全身に強化服を着こんでいる俺が体内に侵入し、強化服が毒液に耐えられる時間内に、二人のヴィランを救出するしかない。

 

かくして、覚悟を決めて超巨大怪獣の元へ走り出そうとした刹那、俺を呼び止める声が背中からかけられた。

 

「待てぃ、王よ! 此処はコレを使えぃッ!!」

 

「? コレは……?」

 

「自動二輪兵器『サイクロン』……の、外装だけが本物と同じバイシコーだ」

 

「つまり、自転車!?」

 

「然り。ローカスト・ホースでは、ミュータントサソリの毒液で跡形も無く溶かされてしまうだろう。しかし、この『サイクロン・バイシコー』ならば、少なくともヤツの毒液にある程度は耐えられる筈だ!」

 

そうか。ローカスト・ホースがイナゴ怪人達と同様に、無数のミュータントバッタによって構成されている以上、あの毒液に対抗する事は出来ない。

だが、この強化服と同じく、父さんの類まれなる頭脳をもってして生まれた科学の結晶であるこの『サイクロン・バイシコー』なら、あの毒液にも耐えられると言う訳だ。

 

「……正面からそのまま突っ込むよりはマシか」

 

「うむ。移動手段と言うよりは、『走る盾』のつもりで使えば良いだろう。ヤツが他にどんな攻撃を隠し持っているか、予測不可能だからな」

 

「よしッ!」

 

イナゴ怪人2号のナイスな提案により、サイクロン・バイシコーに跨った俺は、超巨大怪獣の元へ急行した。超巨大怪獣の強烈な攻撃に追い詰められ、倒れこんでいるMt.レディの横を通過した際、後ろでパシャパシャと音が鳴ったので振り返ってみると、何時の間にかぶりぶりざえもんが後部座席に座っており、超巨大怪獣との戦いでコスチュームが所々破れているMt.レディを、一眼レフのカメラで撮影していた。

 

「よし。この写真を出版社に持って行けば高く売れる……」

 

「………」

 

「!! GUUUUUUU……GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

接近する俺達に気づいた超巨大怪獣は、狙いをMt.レディから俺達に変え、俺達に向かって電撃を放つ体勢をとっており、それを見た俺はぶりぶりざえもんの首根っこをむんずと掴んだ。

 

「!! ま、待て、貴様ッ! 私の身にもしもの事があれば、フランス政府が黙っていないぞぉーーーーーーッ!!」

 

さっきは「インターポールのイタリア代表」って言ってなかったか、コイツ? まあ、どっちでも良い。

 

「そんな事……俺が知るかあああああああッ!!」

 

そして、超巨大怪獣の角から放たれた電撃が目前に迫った瞬間、俺はぶりぶりざえもんを勢いよく斜め上に放り投げた。

 

「ぶりざえバリアァーーーーッ!!」

 

「私の名を略すなぁああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

かくして、電撃はぶりぶりざえもんによって防がれ、俺は電撃を上手くやり過ごす事が出来た。更に……。

 

「アチィーーーーッ!! アチアチアチアチアチアチアチアチアチアチアチアチアチ!!」

 

ぶりぶりざえもんは電撃を浴びた所為か、『かちかち山』の狸の様に背中に火が付くと、どう言う訳か空中を縦横無尽に駆け抜けており、結果的に超巨大怪獣の注意を引きつけつつ、周囲への被害を抑えていた。ナイスアシストである。

そして、十分に接近した所で超強力念力を使って空中に不可視の足場を作ると、燃え盛る闘争本能の赴くままに、サイクロン・バイシコーのペダルを踏んで超巨大怪獣に突撃し、その体内に侵入した。

 

「ウガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

そして予想通り、体内に侵入した異物……つまりは俺を排除しようと、無数のミュータントサソリが俺に襲いかかり、『弐式』の至る処が溶ける音と、薬品が焦げるような嫌な匂いが充満する。

しかし、それでも俺は怯む訳にはいかない。無数のミュータントサソリを掻き分けて進んでいくが、二人のヴィランは中々見つからない。まさか、ミュータントサソリに食われてしまったのでは……と不安に思いながらミュータントサソリを掻き分けた時、ふとキラリと光るものが見えた。それを見て必死に前に進んでいくと、それはポイズン・スコーピオンが身に着けていた、大きなベルトだった。

 

「園田! 手を掴め!」

 

「………」

 

ポイズン・スコーピオン……もとい、園田からは返事がなかった。しかも、自身にとって核となる者を奪われる事を良しとしなかったのか、超巨大怪獣の体内が突然大きく蠢き、俺を体内から排除せんと動き始めた。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?」

 

「ブヒィイイッ!?」

 

器用にも俺と一緒に入ったサイクロン・バイシコーを体内でぶつけられ、そのまま痰でも吐き出すかの様に口から外へ排出された俺は、空中を疾走しているぶりぶりざえもんと激突した。

頼みの綱の『弐式』は全身が強力な化学薬品をぶっかけられたように焼け焦げており、首に巻いていたマフラーに至っては完全に消失している。

 

……しかし、それでもまだ耐えられる。まだ戦える。

 

相手がどんなに強大なヴィランでも、ヒーローは助けるべき人間を見捨てたりはしない。例えそれが、俺の命を狙うヴィランだったとしても……ッ!!

 

不屈の覚悟と弛まぬ信念を持って、俺が超巨大怪獣への戦意を滾らせたその時、不思議な事が起こった。

ベルトのタイフーンが突如高速で回転し、激しい閃光と極彩色の波動が発生した次の瞬間、俺の肉体は瞬く間に巨大化していた!!

 

「!? これは……!!」

 

目の前の超巨大怪獣と周囲の建物を見渡し、今の自分の大きさを確認すると、目の前の超巨大怪獣よりは小さいが、それでも巨大化したMt.レディの倍はある。

そして、何故かは知らないが、疲労困憊だった体に力が漲っている。まるで、“命のガソリン”とでも言うべきモノを、直接身体にぶち込まれたみたいだ。

 

「【オイッ! 気づけよッ! オイッ! 気づけって!】」

 

「!?」

 

訂正、不思議な事が起こったのは俺だけではなかった。俺の隣には、俺と同等の大きさを誇る、ぶりぶりざえもんが描かれた一枚の絵が存在していたッ!!

 

「……言いたい事は色々あるが、もしかしてお前、喋れなくなってる?」

 

「【紙に書いてあるから、喋れないんだ】」

 

いや、そもそも何でお前は絵になってるんだ? まるでパラパラ漫画の様に紙の中で動き、吹き出しで会話をするぶりぶりざえもんは謎そのものだが、同じように巨大化したと言う事は、少なくとも戦う意思はある……と思う。多分。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「……それじゃあ、いっちょやりますか」

 

「【よし。私に良い考えがある】」

 

「ほう。ならここは、お前に任せるぞ!」

 

「【うむッ!! おいッ! このお漏らし野郎ッ! お前なんか、おしりぺんぺんだッ!!】」

 

「………」

 

「GYAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「【わあああ、何てことを! あああぁぁぁぁ……】」

 

「……え? 終わり?」

 

ぶりぶりざえもんの恐ろしく幼稚な挑発は、どうやら超巨大怪獣の逆鱗にジャストミートしたらしく、超巨大怪獣は物凄い怒りの咆哮を上げたと思えば、強靱な尻尾でぶりぶりざえもんを空の彼方に吹っ飛ばした。

……まあ、気持ちは分かる。俺だってあんな風に目の前で尻を丸出しにして挑発されたら間違いなくキレる。

 

「GYUUUUOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「……選手交代か」

 

恐らく、ぶりぶりざえもんは大丈夫だろう。何故か知らんがそんな確証が持てる。故に今俺がやるべきは、目の前のコイツを仕留める事に他ならない。

 

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

角から強烈な電撃を放つ超巨大得怪獣に対し、超強力念力の不可視の盾で電撃を防ぎ、反撃のチャンスを待つ。その最中、超巨大怪獣の胸……正確には鳩尾当たりに何かがいると言う確信が俺の中に生まれた。まるで、何かが俺に教えてくれたように……。

 

「GYAOOOOO! ……GUURUUURAAA」

 

「!! 今だッ!!」

 

そして、電撃の放出が終わった刹那、俺は超巨大怪獣の鳩尾目がけて手刀を繰り出し、その胸を貫くと、感覚的に感じ取っていた胸の中にある何か握り、一気に引き抜いた。そして掌を確認すると、そこには意識を失っているポイズン・スコーピオンと、『巨大化』の“個性”が解けた怪獣ヴィランと思われる人間二人がいた。

 

「よしッ!!」

 

「GYAGUYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

コレでもう手加減する必要は無い。俺は二人を近くのビルの屋上に置くと、コスチュームの下の肉体をマッスルフォームに変化させる。

そして、二人を取り返そうとする超巨大怪獣の角と腹の肉を鷲掴みにすると、身体から湧き上がる力を頼りに超巨大怪獣を頭上に持ち上げ、回転を加えつつ50mを超える巨体を真上に放り投げた。

 

「ウオオオオオオオオオォォォリヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「GYUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

回転しながらドンドン上昇していく超巨大怪獣。その巨体に狙いを定めつつ、今度はバーニングマッスルフォームに強化変身する。

すると、『弐式』の側面を走るダークグリーンのラインが紫に染まり、まるでエンデヴァーのコスチュームの様に、ラインから紫の炎が噴出した。……なるほど、「バーニングマッスルフォームにも対応している」と言っていたが、こう言うことか。

 

「ハァアアアアアアア……ッ!!」

 

深く腰を落とし、地面に巨大な六本角の紋章が展開されると、徐々に両足に破壊のエネルギーが収束していく。そして、六本角の紋章が消えた瞬間、俺はその場から大きく跳躍した。

 

「トォオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!!」

 

凄まじいスピードで雲を突き抜け、ベルトのタイフーンが風を受けて高速回転し、この身体に更なるエネルギーが蓄積されていく中、回転しながら上昇する超巨大怪獣に猛スピードで迫ると、俺はその大きな腹目がけて右足を真っ直ぐに突き出した。

 

「ライダァァアアーーーーキィイイーーーーーーックッッ!!」

 

「GYUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

間違いなく最大最強の破壊力を秘めた跳び蹴りが超巨大怪獣に炸裂すると、蹴り飛ばされた超巨大怪獣の姿がみるみる小さくなっていき、それが小さな点となって一瞬青く輝いた直後、盛大な大爆発が発生。超巨大怪獣を構成していたミュータントサソリは全て燃え尽き、その恐るべき毒液は全て紫の炎によって蒸発した。

それを確認すると、巨大化していた俺の身体はみるみる小さくなり、元の身長に戻りながら地面に向かって落下する途中、イナゴ怪人2号とイナゴ怪人V3が俺の身体を掴んで落下のスピードを大きく落としてくれた。

 

「勝った! 勝ったぞ、我らが王よ!」

 

「うむ! 大袈裟かも知れぬが、日本は……世界は救われたのだ!!」

 

こうして――戦いは終わった。

 

イナゴ怪人2号とイナゴ怪人V3の手を借りて地上に戻ると、ビルの屋上に置いたポイズン・スコーピオンこと園田と怪獣ヴィランの二人は、応援に駆け付けたシンリンカムイと、職場体験に来ていたらしいB組の塩崎によって拘束され、警察に連行されていった。

超巨大怪獣による町の被害は相当なモノだったが、そのスケールの大きさから比すれば町への被害は思いの外少なく、人的被害も軽微だった。

 

但し、Mt.レディは超巨大怪獣との戦いで負った怪我によって入院。俺もミュータントサソリの毒液の影響がないか入念な検査を受ける事となった。

一方で何時の間にか元に戻っていた神谷は軽傷で済んでおり、正直その人並み外れたタフネスには驚きを禁じ得ない。

 

「ごめんなさい。プロの筈の私が何も出来なくて、むしろ学生の貴方達に助けられちゃったわ……」

 

「いや、アレを相手にちゃんと対処出来るのは中々いないかと……」

 

「……元気ないわね。もしかして、ポイズン・スコーピオンの事を考えてるのかしら?」

 

「……まあ、実際にあの男……園田の憎しみは正しいと、俺は思います。仮にアイツと立場が逆だったなら……俺もああなっていたかも知れません」

 

「いいえ、それは有り得ないわ」

 

「……え?」

 

いやにハッキリと断言するMt.レディに、俺は思わずうつむいていた顔を上げた。そんな俺を見つめるMt.レディの瞳は、強い確信の様なモノが宿っている様に感じられた。

 

「確かに、ポイズン・スコーピオンは貴方の“個性”の被害者と言えるケド、“個性”社会の被害者と言う点では、何度もヴィランとしてヒーローに逮捕されている貴方も同じよ。それでも貴方は、自分をヴィランとして逮捕したヒーロー達への復讐に走らなかった。私も含めて。それだけ強大な力があれば、私達に復讐するなんて容易い事でしょう?」

 

「……俺は諦めただけです。こんな見た目の“個性”じゃ、そうなっても仕方ないって……」

 

「それでも、貴方はヴィランではなく、ヒーローとして生きる事を決めた。それが貴方の本質であり、ポイズン・スコーピオンとの決定的な違いよ。仮に貴方と彼の立場が逆だったなら、今頃はきっと最悪のヴィランが誕生していた筈よ」

 

「………」

 

「人は多かれ少なかれ、必ず誰かを傷つけ、そして誰かに傷つけられて生きているわ。その中で、貴方の様に復讐を捨てて善に生きる人間がいれば、ポイズン・スコーピオンの様に復讐の為に悪に走る人間だっている。少なくとも、貴方が善に生きている事は、私にとって救いになっていたわ」

 

「え……?」

 

「『自分の“個性”で生き辛い思いをしている人達の希望』。それを目指してヒーローになったのに、私はその『自分の“個性”で生き辛い思いをしている人』をヴィランとして攻撃した。その事実に、罪悪感で押し潰されそうになっていた私に、貴方は『自分の“個性”で苦しむ人達の“希望の象徴”』を目指すと言ってくれた」

 

「………」

 

「だから、良いのよ。例えこれから先、ポイズン・スコーピオンの様な復讐者が現われたとしても。貴方は……貴方がなりたいヒーローになって良いのよ」

 

「……ッ」

 

「では、話が済んだ所で、救い料10億万円ね。ローンも可」

 

「「……ふんッ!」」

 

「ブヒッ!!」

 

その場に流れるシリアスな雰囲気をぶち壊す様に、空気を読まずに法外な報酬をぬけぬけと言ってのけた神谷に対し、俺とMt.レディは神谷の脳天にゲンコツをお見舞いした。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新/仮面ライダー
 職場体験初日から色々とぶっ飛ばしている「悪を蹴散らす嵐の男」。今回は自身にとっても黒歴史となる過去から生まれた復讐者と対峙する。割と何でもありな感じになってきているが、精神的にはまだまだ未熟。
 今回から着用している『強化服・弐式』は、マッスルフォームやバーニングマッスルフォームに対応しており、それに併せて設定が元ネタと異なる点も出ていて、作中で「バーニングマッスルフォームになると側面を走るラインから紫の炎が出る」のがソレにあたる。

神谷兼人/ぶりぶりざえもん
 職場体験でシンさんとコンビを組む「救いのヒーロー」。フランス貴族やイタリア人を自称するが、本人は生粋の日本人。基本的には“個性”と元ネタの関係もあって、戦闘には殆ど参加しない。そして安定のシリアスブレイカー。
 後半で披露した巨大化は、劇場版『伝説を呼ぶ ブリブリ3分ポッキリ大進撃』が元ネタ。一応、巨大化する前もそれなりに活躍しているので、元ネタよりはマシかも知れない。

Mt.レディ
 前作の『序章』から引き続き、シンさんにとってキーパーソンと言えるプロヒーロー。アニメ第二期の職場体験編では、峰田に雑用をやらせて怠けていたけど、本作では自分と同じ理想を持ち、更に雄英体育祭で優勝したシンさんが来た事で、かなり真面目モードで仕事をしている。
 今後の展開と言う作者の都合で、職場体験初日からイキナリ入院する羽目になったが、その分シンさんの未熟な精神面の担当をして貰った。ちなみに、シンさんが職場体験に来る事に併せて、職場体験の一週間はニッチなファンへのニッチな仕事を一切入れていなかったりする。

園田剣/ポイズン・スコーピオン
 デスインカ帝国の刺客にして、第1話の伏線回収要員。元ネタは『ウルトラマンVS仮面ライダー』に登場する「毒サソリ男」だが、人物像に関しては『新・仮面ライダーSPIRITS』に登場する「さそり男」がベースになっている。名前の元ネタは『フォーゼ』の「園田紗理奈」と『カブト』の「神代剣」であり、彼の恋のお相手である「大杉祐月」は、『フォーゼ』の「大杉忠太」と『カブト』の「岬祐月」から取っている。
 “個性”は異形系の『サソリ』。デスインカ帝国が伝承してきた秘術を授けられた事によって“個性”そのものが強化されただけでなく、下記のミュータントサソリを生み出すと言った、以前では不可能だった芸当が可能となる。しかし、それでもシンさんとの戦力差は埋まらず、敗北を喫したが……。

怪獣人ガドラス
 怪獣の姿をした異形系の見た目に、『巨大化』と言う複合系の“個性”を持つヴィラン。元ネタは『ウルトラマンVS仮面ライダー』に登場する「古代怪獣ガドラス」だが、怪獣の姿をしたヴィラン自体はスピンオフ作品の『ヴィジランテ』にも度々登場している。
 上記のポイズン・スコーピオンと同様、デスインカ帝国の刺客として『日本ズタズタ作戦』に加わっているが、デスインカ帝国の秘術は与えられていない。Mt.レディと対戦し、戦闘描写もないまま敗北寸前に追い込まれたが……。

超巨大怪獣ガドラスコーピオン
 デスインカ帝国の秘術によって強化されたポイズン・スコーピオンの“個性”の暴走から、大量のミュータントサソリがポイズン・スコーピオンと怪獣人ガドラスを取り込んで誕生した超々大型ヴィラン。原理は『体育祭編』でイナゴ怪人2号が見せた「巨大ローカスト・ホース」と同じく、無数の虫の集合体。これによって身長が20mから52mまで大きくなった他、角から電撃を放つと言う特殊能力を獲得し、それらを使ってMt.レディを圧倒する。
 しかし、仮面ライダーとぶりぶりざえもんのコンビによる、「その時、不思議な事が起こった」によって形勢逆転。取り込んでいたポイズン・スコーピオンと怪獣人ガドラスを体内から取り出された後、きりもみシュート(弱)とライダーキックのコンボによって完全に消滅する。
 元ネタは『ウルトラマンVS仮面ライダー』に登場する「合体獣サソリガドラス」。此方はライダーキックとスペシウム光線と言う、豪華過ぎる必殺技のコラボによって撃破された。



デスインカ帝国
 第24話で触れていた「“個性”を操る秘術」を闇から闇へと伝承してきた組織の一つ。仮面ライダーでインカと言えば「ガガの腕輪」と「ギギの腕輪」が真っ先に思いつくだろうが、このデスインカ帝国は『ハニカムチャッカ』と言う4コマ漫画が元ネタなので、そんなモノは存在しない。
 尚、この組織は「誇り高きフォルクローレを悪用する」と言う理由から、『ナスカマン』と言うヒーローに目を付けられているらしい。

ミュータントサソリ
 ポイズン・スコーピオンが繰り出す特殊なサソリ。尻尾から強力な毒液を噴射し、その威力はイナゴ怪人を瞬く間に溶かし尽くす程で、人間を溶かす事も容易い。ポイズン・スコーピオンが一度倒された後、“個性”の暴走に伴い制御不能に。最後はシンさんの手によって一匹残らず焼却された。
 元ネタは『仮面ライダー(初代)』に登場する「さそり男」が操る「人食いサソリ」。実は元ネタと同じく、脅威となるのは尻尾から噴射される毒液だけで、何故か踏み潰してもその体液で人が溶ける事はない。何でって言われても、そうなんだから仕方ない。

サイクロン・バイシコー
 呉島真太郎が製作した、二輪兵器『サイクロン』を模した自転車。一見すると自転車に『サイクロン』のボディをくっつけただけのように見えるが、自転車自体もシンさんの身体能力に合わせた素材を使い、更に特殊な加工が施されている。
 元ネタは、かつて『仮面ライダー(初代)』が放送されていた時に販売されていた、サイクロン号の子供用自転車。当時の子供達の間でこの自転車を持っていた子供は、ちょっとした英雄だったと言う。

シンさん「サイクロン!」
瀬呂「シャカリキスポーツ!」
シンさん「アブアブアブアブアブアブアブアブアブアブアブアブアブァッ!!」
瀬呂「キモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモキモォオオオオッ!!」
デクくん「ヒーメヒメヒメヒーメヒメ~♪(弦太朗のママチャリ)」
シンさん&瀬呂「!?」

巨大化
 今回の戦いでシンさんが新たに獲得した能力。巨大化した際の身長は40mあり、これは巨大化したMt.レディの約2倍。但し、Mt.レディと同様に大きさを自在に調整出来るわけではないので、市街地では使い勝手が悪すぎる能力でもある。
 元ネタは『ウルトラマンVS仮面ライダー』における、仮面ライダー1号の「巨大化」で、二人のヴィランを体内から取り出したのは、『仮面ライダーJ』の加那ちゃん救出を参考にしている。
 ちなみに、作者は巨大化したJがフォッグ・マザーの中にいる加那ちゃんの居場所を正確に特定したのは、決してご都合主義ではなく、Jが取り込んだ大地の精霊の力である「Jパワー」……すなわち、吸収した自然界のエネルギーが高まった副次効果であると考えている。つまり、今回のシンさんは……。

J「フヒヒwサーセンww」
ZO「………」



後書き

今回はコレにて終了。最初はステインと死柄木の所まで書くつもりでしたが、思ったよりも文字数が多くなったので、分割してこちらを先に完成させて投稿した次第です。今月中には仕上げる予定ですので、どうかもう少しお待ち下さい。

尚、この後で感想を見て書いてみた番外編を一話投稿します。本編との温度差が凄い事になっていますが、どうかゆるりとお楽しみ下さい。

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