怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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二話同時投稿の二話目。今回より原作第6巻の時間軸に突入し、職場体験編が始まります。『すまっしゅ!!』ネタやオリジナル展開を含めつつ、主にシンさんとステインを上手く絡ませていきたいと思います。

今回のタイトルの元ネタは『ドライブ』の「友よ、君はだれに未来を託すのか」から。職場体験編の序章となりますが、今話は軽い気持ちでお楽しみ下さい。

2018/3/12 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/4/9 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第25話 ヒーローよ、君はだれに未来を託すのか

廃墟と見紛うばかりの古びた建物に、子供の様な体躯の老人が一人でひっそりと暮らしていた。それだけを聞けば、身寄りの無い孤独なお年寄りと言った印象を抱かせるが、その老人はそんなイメージとは異なる鋭い目をしており、その体はヒーローコスチュームに包まれていた。

 

「俊典が認めた少年。そして、“もう一つの『ワン・フォー・オール』”か……」

 

先日、弟子から送られた手紙を片手に鯛焼きをパクつきながら、歴戦の老兵は“次世代の象徴”となるだろう『正当な継承者』と『異端の継承者』の事を考えていた。

 

「体育祭での力の使い方を見る限り、怪人の方は俊典と同じタイプだと見える。それでも9人目の正当継承者があれじゃあ、あの正義馬鹿は『教育』に関して素人以下だぁな。仕方ねぇ。ここは一つ俺が見てやるか。

……だが、怪人の方も実際に“託された残り火”の力がどれだけのモンなのか、見ておいて損は無さそうだなぁ」

 

年老いたヒーローはそう呟きながら、ヒョコヒョコとパソコンの置いてあるデスクに向かった。

 

 

●●●

 

 

雄英体育祭から二日後の休み明けは、朝から何となく人の気分を憂鬱にさせる雨が降っていた。まあ、気分が憂鬱なのは空から降り注ぐ水滴よりも、昨日見たよく分からない夢の方が原因の大半を占めるだろう。

 

――そこは今から約30年後のオーストラリア大陸であり、俺は何故かアボリジニの長老の導きにより、この世界を統べる『魔王』を討伐する事になった。そして、俺がその魔王の本拠地に単身で乗り込むと、速攻で魔王の兵隊が飼っている番犬に見つかって「マジ、ヤベーイ!」な状況に追い込まれたのだが、俺の姿を見た魔王の兵隊共は、何故か全員が俺の事を「猊下」と呼んで頭を垂れたのだ。

訳が分からぬまま難無く魔王の城を進み、魔王の兵隊達と一切の戦闘を行うこと無く魔王の部屋と思しき場所に辿り着くと、そこに待っていたのは『強化服・拾式』を纏い、黄金のバッタと化した一人の男だった。

 

「待っていた。貴様にテレパシーを送り、存在を感知させて、ここまでおびき寄せたのだ……」

 

「………」

 

この目の前に居るのが『魔王』か。しかし、コイツは一体何者なのか。考え得る可能性として、最も高い可能性を持つ者は一人しかいないが……。

 

「どうした? 黙っていては何も始まらんぞ?」

 

「……RRROBAGVA? RRROBAGGAVOGA?」

 

「父さん? そんな奴は知らんな! 仮にワシがお前の父だったとして……お前はどうするつもりなのだ?」

 

「……RROBANVA、WOLUEGOWYYYYIRTBOVAXOZKBA。BADA、ROFAVEBARROGANNGARA……VVVOOOGARAXEEEBAGAGAJAYY!!」

 

「……倒す? そこは殺すと言って欲しい所だが、いずれにしてもそれは不可能だ。理由は色々あるが、第一に……『ワシはお前』で『お前はワシ』だからだ!! 仮にワシを殺せば、お前自身も死ぬことになる!!」

 

「!?」

 

「第二に……ワシとお前の間には30年の時間差が存在すると言う事!! だからお前の事は全て分かる! そして30年の歳月は、ワシに更なる強大な力と、お前が知らぬ偉大な能力を付加しておる。例えば……こんな風にッ!!」

 

そう言って魔王が右腕を静かに上げると、周囲に無数の岩が浮かび上がり、それが一斉に此方に向かって襲いかかってきた。その場からジャンプし、間一髪の所で攻撃を避けるが、そこに魔王の追撃が迫る

 

「それに、こんな能力ッ!!」

 

「!? GUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

空中に飛び出した俺に対して、魔王が掌を向けた瞬間。俺の体から猛烈な勢いで炎が噴き出した。それは勝己の体を乗っ取ったヘドロマンの爆裂パンチや、轟の左の炎とは異なり、まるで“体そのものが炎になった”かの様な攻撃であった。

 

そんな攻撃を為す術無く喰らった俺は地面に落下し、ゴロゴロと転がると炎はあっさりと消えた。

……いや、消えたと言うより、魔王が意図的に消したと言った方が正しいだろう。その証拠に、魔王は更なる攻撃を俺に繰り出そうとしていたのだから。

 

「そして、こんなパワーも……だッ!!」

 

魔王の体が光り輝くと、次の瞬間には金属質な肉体を持った様々な怪物に囲まれていた。真紅の龍、漆黒の蝙蝠、橙色のカニ、緑色の牛、赤紫のエイ、鋼色のサイ、紫のコブラ……ドイツもコイツも中々に強そうである。

そして、大きく口を開けて襲いかかる真紅の龍に対して、俺は触覚から緑色の電撃を出して攻撃するが、電撃は龍の体に当たること無く、するりと通り抜けて後ろの岩を破壊した。そう、この強そうな怪物達は幻に過ぎなかったのだ。

 

「フンッ!!」

 

「GUWAAAAA!!」

 

そして何時の間にか俺の後ろに移動し、容赦なく殴りかかる魔王。その一撃は速い上に重く、一撃で俺の体を吹き飛ばして城の岩壁に叩きつけた。

 

「GGGGUUU……」

 

強い! 流石は『魔王』を名乗るだけはある。しかし、コイツが俺なら、同じ理由でコイツも俺を殺せない。俺を殺せばコイツも死ぬ筈だ!

 

「ほう……流石は若き日の『魔王』。サエてる」

 

!! そうか、テレパシーで俺の考えている事が分かるのか。ならば……次は俺の番だと言う事も分かっているな!!

 

「待て! よく聞け新!! ワシ等は戦っても意味が無いのだ!! 世界は既に変わっている。新しい世界になっているのだ!! だから新よ。この新世界を二人で力を合わせて、我々の望む理想郷にしようではないか!!」

 

「………」

 

これは……所謂アレか。「世界の半分をくれてやるから、俺に協力しろ」と言う、実に魔王らしい台詞のアレンジか。

考えてみれば、魔王からそんな台詞を貰うのも、ある意味では途轍もない名誉で、実力を評価して貰った末の権利なのかも知れないが、こんな選択肢はNO一択と相場が決まっている。

 

「……BODOGAL!!」

 

「馬鹿めがッッ!!!」

 

――そして、落雷の様に凄まじい破壊のエネルギーが俺を襲ったのを最後に、俺の意識は現実世界に戻っていた。

 

「………」

 

まあ、恐らくはここ二日の間に得られた情報が、俺の頭の中でごちゃ混ぜになった結果、夢と言う一つの形になっただけだと思うが、それにしてもやけにリアルな夢だった。まさか予知夢の類いではなかろうな……と考えながら登校していた所為もあり、朝から妙に疲れてしまった。

しかし、今日は休み明けで体育祭の結果が「プロヒーローからの指名」という形で明らかになるのだ。休むわけには行かない。

 

そんな精神的に少し疲労した状態で教室に入ると、クラスの皆は各々が雄英体育祭で一気に注目の的になった事を、それぞれが体験談として嬉しそうに報告し合っていた。

 

「やっぱりテレビで中継されると違うね~~! 超声かけられたよ、来る途中!」

 

「私もジロジロ見られて、超恥ずかしかった!」

 

「ああ、俺も!」

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「俺も道行く女という女にキャーキャー言われたぜ! 『キャーッ!! ナンパ怪人リビドー・スパーキングよぉーーーーーッ!!』ってな!!」

 

「「「「「………」」」」」」

 

それはキャーキャーの意味が違う。だが、「悪名は無名に勝る」とリカバリーガールも言っていたから、何も無いよりはマシだろう。実際、メディアというのは「無関心よりも嫌われた方がマシだ」と言われているらしい。

 

そう考えてみれば、体育祭の間はずっと怪人の姿で通した為、観客や視聴者の頭に「怪人バッタ男=呉島新」と言う数式が入力され、人間の姿で俺が「呉島新」であると認識されていない現状は失敗と言う見方も出来るかも知れない。

逆に言えば、仮に今回「怪人バッタ男」の姿で登校していた場合、その道中でどれほどの騒ぎになっていたか計り知れないと言う事でもある。ちょっとやってみたい気もするが、無用な混乱は俺の望む事では無いし、相澤先生にも怒られそうなので止めておこう。

 

「おはよう、諸君」

 

「「「「「「「「「「おはようございます!!」」」」」」」」」」

 

「ケロ? 相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」

 

「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。それより、今日のヒーロー情報学……ちょっと特別だぞ」

 

ミイラ男から無精髭の小汚いおっさんに戻った相澤先生の「特別」という言葉で、クラスに緊張が走った。しかし、そんな不安は相澤先生の次の言葉で、良い意味で裏切られる事となる。

 

「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「「「「「「「胸膨らむヤツ、キタァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」」

 

一部を除き、歓喜の雄叫びを上げるクラスの面々。そんなお祭り騒ぎを、相澤先生は一睨みで黙らせると、更に説明を続けた。

 

「……と言うのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関わってくる。指名が本格化するのは、経験を積み、即戦力と判断される2~3年生から。

つまり、今回来た“指名”は、将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその“興味”が削がれたら、一方的にキャンセル……なんて事もよくある」

 

「大人は勝手だッ!!」

 

「頂いた指名が、そのまんま自身へのハードルになるんですね!」

 

「そうだ。……で、その指名の集計結果がこうだ。例年はもっとバラけるんだが……今年はこの二人に注目が集まった」

 

そう語る相澤先生の後ろで表示されるグラフに、クラス全員が注目する。特に本戦まで進んだ面子は大きな期待が表情から見て取れる。そして、肝心の指名の結果なのだが……。

 

爆豪  3675

轟   3672

飯田  301

上鳴  272

八百万 228

切島  188

麗日  140

瀬呂  14

呉島  13

峰田  1

 

「轟と爆豪3000!? だーーーーーーーッ、白黒ついたぁ~~~~~~~~~ッ!!」

 

「見る目ないよね、プロ」

 

「1位と2位、たった3票差じゃん」

 

「ホントだ。ギリギリ爆豪が勝ってる」

 

「へッ!」

 

「わ~~~~! 指名きてるぅ~~~~~!! わ~~~~~~ッ!!」

 

「いや、それよりも……」

 

「優勝した呉島が、たったの13!?」

 

「つーか、なんで峰田に1票入ってる訳!?」

 

「(この頭カラッポ豆電球が272で、ウチが0……!? しかも峰田にまで負けた……!?)」

 

自分への指名……つまりはプロの興味に対する結果を見て、一喜一憂するクラスの面々。かく言う俺も指名が13も入っていたことに内心驚いている。Mt.レディの他に、一体誰が俺に入れたというのか……。

 

「コレを踏まえ、指名の有無に関係無く……所謂『職場体験』ってのに行って貰う。お前等は一足先に経験してしまったが……プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

 

「それで『ヒーロー名』か!」

 

「俄然楽しみになってきたぁ!」

 

「まあ、そのヒーロー名はまだ仮ではあるが、適当なモンは……」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよッ!!」

 

物騒な事を言いながら現われたのは、先日の体育祭で主審を担当したミッドナイト先生。相も変わらず過激なコスチュームに身を包み、峰田や上鳴を筆頭とした健全な男子の目を喜ばせている。

 

「この時に付けたヒーロー名が!! 世に認知され、そのままプロになっている人も多いからねッ!!」

 

「まあ、そう言う事だ。ただお前達の場合、少々事情が異なる面子が居るのが問題だ」

 

「と……おっしゃいますと?」

 

「『雄英体育祭』でイナゴ怪人がお前達に付けた渾名があっただろう。『半分こ怪人W』とか、『爆発怪人ボンバー・ファッキュー』とか。アレが既にテレビやネットを通じて、ある程度世に広まってるんだ。

これからちゃんと正式なヒーロー名を考えていく訳だが、中には『雄英体育祭』での印象を上書きできる様な名前にする必要のある奴もいる。その辺のセンスの査定をミッドナイトさんにやって貰おうって訳だ」

 

「………」

 

マジか。まあ、確かにイナゴ怪人の付けた渾名は妙に高いインパクトと、無駄にベストマッチする雰囲気があったからな。

しかし、青山の「キラメキと下りのスペシャリスト」と、八百万の「発育の暴力」に関しては悪いと思っているが、それ以外は別に悪くないと思うのは何故だろう? 他の渾名に関しては、不思議なほど罪悪感が湧いてこない。

 

「将来自分がどうなるのか? 名を付ける事でイメージが固まり、ソコに近づいていく。それが『名は体を表す』って事だ。“オールマイト”とかな。それじゃあ、まずはこれから15分――」

 

「俺はコレです。“変身ヒーロー『仮面ライダー【MASKED RIDER】』”!!」

 

「「「「「「「「「「早ッ!!」」」」」」」」」」」

 

今更ヒーロー名を考えるまでも無い俺は、速攻で自分のヒーロー名を発表した。そもそも『敵連合』がUSJで起こした事件の際、俺はハンドマン達に自分の事を『仮面ライダー』と名乗ってしまっている為、ヒーロー名を変える訳にはいかない。元々変えるつもりは毛ほども無いけれど。

 

「センスは良いと思うけど、貴方って別に仮面でもライダーでも無いわよね?」

 

「良いんですよ。コスチューム着れば仮面つけますし、いずれはバイクの免許取ってライダーするんですから」

 

「うむ! そして王が頂点として君臨するヒーロー事務所の名は『暗黒組織ブラックサタン』ッ!! 正義の軍団よぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「どう聞いても悪の軍団にしか聞こえないよ!! 止めときな!!」

 

「………」

 

そして何処からか湧いてきたのか、何時の間にか教室に居たイナゴ怪人ストロンガーが、勝手に俺のヒーロー事務所の名前を発表していた。7体の内、今回コイツ一人だけなのは、恐らく俺が体育祭の後で怒りのままに起こした、イナゴ怪人虐殺によるミュータントバッタの激減が原因だろう。まあ、取り敢えず事務所の名前として『暗黒組織ブラックサタン』は確かに無いな。

 

「じゃあ次、私良いかしら? “梅雨入りヒーロー『フロッピー【FROPPY】』”。小学生の時から決めてたの」

 

「カワイイ!! 親しみやすくて良いわ!! 皆から愛されるお手本の様なネーミングね!」

 

「んじゃ、俺もッ!! “剛健ヒーロー『烈怒頼雄斗【レッドライオット】』”ッ!!」

 

「『赤の狂騒』!! コレはアレね。“漢気ヒーロー『紅頼雄斗』”のリスペクトね! でもコレって、体育祭でイナゴ怪人が言ってた渾名よね? いいの?」

 

「良いんす! 元々俺が考えてたのを、体育祭でイナゴ怪人が言ってただけっすから!」

 

「「「「「「……はあッ!?」」」」」

 

その言葉に反応したのは、峰田や瀬呂等、体育祭でイナゴ怪人によって奇妙な渾名を付けられた面々だった。

 

「ちょっと待て! それどう言う事だ!?」

 

「ん? ああ、入学初日に呉島達と一緒に帰ったんだけど、その時にヒーロー名の事が話題になってよ。その時に俺が言ったヒーロー名が『烈怒頼雄斗』なんだよ」

 

「チョット待て!! つまりお前が『○○怪人××』って言われなかったのって、ソレが原因か!?」

 

「うわ、ズッケェ!!」

 

「それを言ったら、俺だって『仮面ライダー』じゃなくて、『怪人バッタ男』だぞ。条件はお前等と変わらん」

 

「「「「「(た……確かにッ!!)」」」」」

 

そう、俺も世間的な渾名は『怪人バッタ男』であり、『仮面ライダー』では無い。つまり条件としては峰田や瀬呂達と全く同じだ。

……いや、優勝して知名度が桁外れになっている分、印象を上書きする難易度は此方の方が遙かに上かも知れない。

 

「……ちょっと待ちなさい。体育祭でイナゴ怪人の言った渾名がヒーロー名で良いって子。ちょっと手を上げて発表しなさい」

 

イナゴ怪人の付けた渾名の中に、自分で考えたヒーロー名がそのまま採用されていると言う事実を知ったミッドナイト先生の提案により、出久、麗日、そして轟が名乗りを上げて自分のヒーロー名を発表した。

 

「で、『デク』です」

 

「『ウラビティ』」

 

「……『W【ダブル】』」

 

「麗日さんと轟君は良いとして……緑谷君は本当にそれで良いの?」

 

「はい。今まで好きじゃ無かったケド、ある人に“意味”を変えられて、それが僕には結構な衝撃で、嬉しかった。だからコレが、僕のヒーロー名です」

 

「………」

 

成る程。“頑張れって感じのデク”……か。しかし、轟に関してはかなり意外だな。流石に「半分こ怪人」の部分は削っていたが、「W」と言うネーミング自体は割と気に入っていた……と言う事なのだろうか。

 

何はともあれ、21人中6人のヒーロー名が即座に決定し、残された面子が15分の時間を貰ってヒーロー名を考え、個別に発表する事になったのだが……芦戸が自分のヒーロー名を発表した時、例によって面倒な事態が発生した。

 

「リドリーヒーロー『エイリアンクイーン』!!」

 

「2!? 血が強酸性のアレを目指してるの!? 止めときな!!」

 

「ちぇ~~」

 

「……ふむ、ならばこのイナゴ怪人ストロンガーが、貴様の理想に相応しいヒーロー名を提案してやろう! その名も“ヒーロークイーン『ビッグ・マム』”!!」

 

「割とまともっぽい! でもなんで『ビッグ・マム』!?」

 

「知れたこと。先程イレイザー・ヘッドが言っていただろう? 名は体を表し、自分のなりたいモノに近づいていく……と。つまり貴様が目指す理想とは、『クイーンエイリアンの様に大量のウォーリアーたる子供を次々と出産し、血縁による一大勢力を築き上げたい!』と言う事なのだろう!?」

 

「いや、全然違うよ!?」

 

「まあ、4を基準に考えると、最終的には生まれたばかりの末っ子に、顎を吹っ飛ばされて絶命する末路を辿る事になるが……理想に生きると言うならばそれも仕方あるまい」

 

「ねぇ! あたしの話、聞いてる!?」

 

芦戸とイナゴ怪人ストロンガーのやり取りを聞いて、残された面々は割と本気になった。下手にNGを貰うと、そこからどんな深読みをされるか分かったモノではないからだ。

しかし、そんなある意味で危機的な状況であるにも関わらず、上鳴は更なる混沌を招くような一言をボソッと呟いた。

 

「うあ~~~、どうしよう。考えてねぇんだよな、まだ俺」

 

「え? “ナンパヒーロー『リビドー・スパーキング』”じゃないの?」

 

「耳郎、お前さぁ、ふざけんなよ!」

 

「よし! それならば、このイナゴ怪人ストロンガーがゴッドファーザーとなり、貴様等に子々孫々まで語り継がれるような、立派なヒーロー名を付けてやろうではないか!!」

 

「え!? いや、別に要らね……」

 

「遠慮は要らん!! そして人の善意は素直に受け取るが良い!!」

 

そう言ってイナゴ怪人ストロンガーは、上鳴の持っているボードとペンを強奪すると、サラサラと上鳴の為に考えたヒーロー名を書き記していく。そして――。

 

「これが貴様に最も相応しいヒーロー名だ! その名も『奇械人スパーク』ッ!!」

 

「機械と奇怪のもじりか!? 何かヴィランの名前みてーなんだけど!?」

 

「発想の方向性としてはアリね」

 

「ミッドナイト先生ッ!?」

 

上鳴とイナゴ怪人ストロンガーのやりとりを見た残りの面子は、自分のヒーロー名に対して、ますます本気になった。その甲斐があってかどうかは知らないが、割とすんなりと残された面々のヒーロー名が決定していった。

ちなみに芦戸と上鳴のヒーロー名は、それぞれが自力で考えた『Pinky【ピンキー】』と、“スタンガンヒーロー『チャージズマ』”に決定。発表した時の上鳴の「これでどうだ!」と言わんばかりのドヤ顔は実に印象的だった。

 

「思ったよりもずっとスムーズ! 残ってるのは、再考の爆豪君と……飯田君ね」

 

そして、問題となるのは勝己と飯田の二人。『爆殺王』の勝己は兎も角として、飯田の方は『怪人トリップギア・ターボ』を凌駕する名前を考えなければならないので、確かにコレはチョット難しいだろう。

 

そう思ってふと飯田のボードを盗み見ると、『インゲ』とまで書かれているのがチラリと見えた。インゲ……もしかして、『インゲニウム』と書こうとしているのか?

 

インゲニウムと言えば、体育祭の前に梅雨ちゃんと共に知り合った飯田のお兄さんだが、最近になって“ヒーロー殺し”と言う二つ名を持った悪名高きヴィラン『ステイン』の手によって再起不能となったと聞く。

ヒーローとしての人生を断たれたお兄さんの名を継ぐつもりなのだろうか……と俺は思ったのだが、飯田はボードに書いていた『インゲ』の文字を消すと『天哉』と書いて皆の前で発表した。

 

「名前!? いいの!?」

 

「はい……」

 

名前か……。まあ、本名がヒーロー名の人も少なからずいるし、案外悪い選択では無いかも知れないが、『怪人トリップギア・ターボ』を上回るかと言われれば、ちょっと難しいと言わざるを得ない。

……まあ、飯田の性格を考えると、「自分はまだ『インゲニウム』を名乗るような立派な人間じゃ無い」とか思っていそうだから、それがヒーロー名を名前にした理由の大手だと思うが……。

 

「『爆殺卿』ォオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「違う。そうじゃない」

 

「ふむ、どうしても“爆殺”の二文字を使いたいのならば……コレだッ!! 『南斗爆殺拳のカツキ』ッ!! これしかあるまいッッ!!!」

 

「何でだよ!!」

 

「嫌ならば『南斗人間砲弾』でも構わんが?」

 

「だから何でインチキ南斗聖拳になんだよ!!」

 

「……そうね。『爆殺王』や『爆殺卿』よりはマシね。爆豪君、貴方『南斗爆殺拳』か『人間砲弾』のどっちか一つ選びなさい」

 

「だから何でだぁあああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

「ならば民主主義に乗っ取り多数決だ! 『南斗爆殺拳のカツキ』が良いと思う者、手を挙げぃッ!!」

 

イナゴ怪人ストロンガーの言葉を受けて、俺を含めたクラスの大半が挙手したことで、勝己のヒーロー名は『南斗爆殺拳のカツキ(仮)』に決定。葉巻を吸いながら泡風呂に浸かる勝己の姿を幻視し、禄でもない死に方をしそうだと思ったのは気のせいだと思いたい。

 

 

●●●

 

 

かくして、クラス全員のヒーロー名が(取り敢えず)決定して一段落すると、さっきまで寝袋で寝ていた相澤先生の口から、職場体験の概要が説明された。

 

「職場体験の期間は一週間。そして肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名の無かった者は、予め此方からオファーした全国の受け入れ可の事務所40件の中から選んで貰う。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なるから気をつけろ」

 

「例えば『13号』なら、対ヴィランより事故・災害救助中心……とかね」

 

「よく考えて選べよ。提出期限は今週末だ」

 

「あと二日しかねーの!?」

 

「効率的に判断しろ。以上だ」

 

そうか……俺の場合、Mt.レディから指名が来ると分かっていたし、元からソコに行くつもりだったから迷う必要が無いが、他の皆は違う。

特に指名が3000件以上も来ている勝己や轟はその中から最大で第三志望まで選ばなければならないから、かなり大変な作業となるだろう。実際、渡されているリストが俺はたった1枚だが、轟や勝己はざっと見た感じ50枚以上はある。

 

「俺ァ、都市部の対凶悪犯罪ッ!!」

 

「私は水難に関わる所がいいわ。あるかしら……」

 

「意外と迷うなぁ。……なあ耳郎、俺何処に行きゃ良いと思う?」

 

「地獄」

 

「何でだよ!?」

 

耳郎の返答に憤る上鳴だが、これは上鳴が悪い。指名数0の人間にそんなことを聞くこと自体、間違っている。

 

「そう言えば、シンちゃんや峰田ちゃんを指名したヒーローって誰なの?」

 

「おお! 確かに気になるな! どんなヒーローなんだ?」

 

「………」

 

「? どうしたの、峰田ちゃん?」

 

「……変態仮面」

 

「はい?」

 

「変態……仮面……ッ!」

 

峰田は天狗の様に伸ばした鼻をへし折られた様な表情で、心底辛そうにしながらも言い切った。――自分を指名した唯一のヒーローは、“あの”『変態仮面』であると。

 

「へ、変態仮面!?」

 

「ある意味、凄く峰田らしいな」

 

「類は友を呼ぶ……」

 

クラスの皆は、峰田を指名したのが変態仮面と聞いて納得の表情を見せたが、俺としては変態で紳士な変態仮面と、変態で変態な峰田では、むしろ変態仮面に峰田が成敗(意味深)されそうな気がするのだが……。

しかも相澤先生曰く、「指名のあった者は“指名された中から一つを選ぶ”」事になっている為、指名が変態仮面からの1件しかない峰田は、どう足掻いても変態仮面の元へ職場体験に行かなくてはならない。これは峰田にとって、もはや選択の余地の無い「抜き差しならぬ状況」と見る事が出来るだろう。

 

「シンちゃんの方はどうなの?」

 

「ええっと……まずエンデヴァーだろ。それからエッジショット。ギャングオルカ。ファットガム。リューキュウ。Mt.レディ。あ、変態仮面もいた。それに……サー・ナイトアイ」

 

「サー・ナイトアイッッ!?!?!?」

 

そのヒーローの名前を聞いた瞬間、今まで空気椅子による鍛錬をしていた出久が、驚愕の顔芸……もとい、表情を見せつつ勢いよく立ち上がった。

 

「え? 何? コレってそんなに凄いヒーローなのか?」

 

「あっちゃん、ソレ本気で言ってるの!? サー・ナイトアイって言えば、オールマイトの元・『相棒【サイドキック】』だよ!? 5年位前にコンビを解消して、今は独立して事務所を構えている超ストイックな事で有名なヒーロー!! 知らないの!?」

 

……うん、ゴメン。ぶっちゃけ、1年前までオールマイトにあまり興味なかったから、全然知らなかった。そもそも、オールマイトが昔サイドキックを雇ってたってのも、今初めて知った。

 

「ってゆーか……コレって、指名してるヒーローかなりヤバくねぇか?」

 

「フッ、漸く理解したか、愚かな人間共よ。指名とは数では無い、問題は質だ」

 

うむ、確かにそう言われてみれば、数こそ少ないが確かにランキングでも上位に君臨するヒーローが多く、俺を指名したのはそうそうたる顔ぶれだと言えるだろう。

ちなみに残り4人の俺を指名したヒーローは、出久曰く「ヴィランっぽい見た目ヒーローランキング」の上位常連らしい。

 

「~~~~~~~ッッ!!!」

 

一方で、此方は指名数でクラス1位を取り、大差で新に勝利した事で内心ご満悦だった勝己。しかし、彼を指名したヒーローの内訳は、それこそ勝己風に言うなら「三下」ばかりであり、質に関しては新よりも数段劣っていると言わざるを得なかった。

 

渡されたリストの中には、新を指名していない№4ヒーローのベストジーニストの名前はあった。

 

しかし……リストの中に№2ヒーローのエンデヴァーの名前は無い!

 

№5ヒーローのエッジショットも無いッ!

 

ギャングオルカも無いッ!!

 

ファットガムも無いッッ!!

 

リューキュウも無いッッ!!!

 

当然……サー・ナイトアイも無いッッッ!!!!

 

「………」

 

そして、エンデヴァーからの指名があるだろうと踏んでいた轟もまた、自分に渡されたリストを見て、新を指名したヒーローが自分を指名していない事を確認していた。

自分がエンデヴァーの息子という事で敬遠した。或いはエンデヴァーが指名を入れるとみなして指名しなかった……と言う見方も出来るが、やはりオールマイトの元サイドキックとして有名なサー・ナイトアイの名前が無かったのは、「オールマイトの様なヒーローになりたい」と思っていた過去を自覚した今の轟には少々ショックな事であった。

 

かくして、数では文字通り桁外れで新より上だった二人は、新に対して完全敗北を喫した事を内心で認めていたのだが、ワザワザ口に出すような事では無かった為、その事が新に知られる事は無かった。

 

「それで、シンちゃんは何処に行くの?」

 

「え? Mt.レディ」

 

「……どうして?」

 

「体育祭が終わった後で、『指名するから、職場体験の時はウチに来て』って誘われていてな」

 

「え? 呉島ってMt.レディと知り合いなのか?」

 

「ああ、一年前の春からな」

 

「「………」」

 

そして、多くの名のあるヒーローからの指名を蹴り、新人の部類に入るヒーローの元へ行くことを選択する新に対し、二人揃って信じられないモノを見るような目で見ていた事も、新が知る事はなかった。

 

 

●●●

 

 

職場体験先にMt.レディを選んだ俺に対して、クラスの皆は「もう少し考えた方が良い」とか、「せっかくのチャンスを無駄にしちゃ駄目」とか、「頼むからオイラと代わってくれ」とか、兎に角考え直す事を促す様な事を言ってきた。

確かに正直、他の指名してくれたプロヒーロー達の事が気にならないと言えば嘘になるが、今の自分のオリジンと言えるモノを教えてくれたヒーローであるMt.レディの元に行きたいと言う気持ちに嘘はつけない。

 

ちなみに、希望する職場体験の事務所に関しては第三志望まで書くことが出来るので、第一志望がMt.レディなのは当然として、他の第二志望と第三志望はクラスの皆の意見を参考に、第二志望をサー・ナイトアイ。第三志望をエンデヴァーに決めると、俺は早速相澤先生にプリントを提出した。

 

……のだが、放課後になって予想外の事態が発生した。

 

「わわ、私が独特の姿勢で来たッッ!!!」

 

「おう!?」

 

「オールマイト!? ど、どうしたんですか? そんなに慌てて」

 

「二人とも、ちょっとおいで」

 

「「?」」

 

確かに独特の姿勢だな……と、思いつつも妙に汗だくで真剣な表情のオールマイトを見て怪訝に思ったが、その理由は俺と出久に対して、オールマイトとしても予想外の事態が発生した事が原因だった。

 

「単刀直入に言うと、実は君達にあるヒーローから指名が来ている!」

 

「え!? え!? 本当ですか!?」

 

「……俺、もう職場体験のプリントは相澤先生に提出しちゃったんですケド」

 

「そ、そうか。でも今は兎に角、私の話を聞いてくれ。重要な事なんだ」

 

「はい」

 

「ゴホンッ! その方の名は……『グラントリノ』。かつて雄英で1年間だけ教師をしていた……私の担任だった方だ」

 

「オールマイトの担任……ですか?」

 

「グラントリノは私の師匠の盟友でね。当の昔に隠居なさっていた筈なのだが……。手紙を送った時に君達の事を書いたからか? それとも私の教師としての指導不足を見かねての指名か? 敢えてかつての名前を出して指名してきたと言う事は……怖ぇ、怖ぇよぉ……。震えるな、この足めッ!! このッ!! このッ!!」

 

「(オールマイトがガチ震いしてるッ!!)」

 

「(グラントリノ……一体、どんな化物なんだ?)」

 

「と、兎に角、呉島少年に関しては仕方ないが、緑谷少年の場合は、もはや行くしか無い。呉島少年の分も、存分にしごかれてくる、くくく……ると、良いィいィィ……」

 

「(どんだけ恐ろしい人なんだーーーーーーーッ!?)」

 

「(恐らく、老いを言うモノを全く感じさせない筋骨隆々とした肉体と、『キング・オブ・トンガリ』と形容されそうな感じの髪形をしているに違いない……)」

 

「あ! それとそうだ。コスチューム! 緑谷少年は修繕されたのが、呉島少年は新しいのが届いているぞ!」

 

おお! 父さんの言う通り、職場体験に合せて来たか。俺の新しいコスチューム『強化服・弐式』が!!

 

「ただ、呉島少年のコスチュームは、何故かサポート科の開発工房の方に送られていてね。悪いが自分で取りに行ってくれないか?」

 

「え……?」

 

サポート科の開発工房? 何故だろう? 物凄く嫌な予感がする。

 

 

●●●

 

 

そんな訳でやって来たのは、サポート科の開発工房。しかし、相変わらず嫌な予感がプンプンするのでどうにも近づきたくない。そこで俺はイナゴ怪人を呼び出し、イナゴ怪人に取ってきて貰えばいいと言う事に思い至り、早速一体のイナゴ怪人をテレパシーで呼び出した。

 

「フッ。案ずるな王よ。この程度の仕事、何の問題も無くクリアしてくれよう」

 

自信満々な態度でそう語るのは、今日のヒーロー情報学で無駄に高いネーミングセンスを存分に発揮したイナゴ怪人ストロンガー。何故かワザワザ失敗する様なフラグを立てつつ、開発工房の扉に手を掛けた直後、ある意味で理解不能、ある意味で予想通りと言える事が起こった。

扉を開けた瞬間、開発工房から爆発が起こり、その際に発生した衝撃と爆風によって、イナゴ怪人ストロンガーが跡形も無く消し飛んでしまったのだ。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「………」

 

嫌な予感とはコレの事か……? いずれにせよイナゴ怪人ストロンガーの消滅に伴い、結局自分の手でコスチュームを回収する必要が生まれてしまった。

仕方なく、爆発のあった開発工房の中を恐る恐る覗くと、中ではパワーローダー先生があの発目に対して苦言を呈していた。

 

「お前なぁ……思いついたモノ何でもかんでも組み込むんじゃないよ!」

 

「フフフ……『失敗は発明の母』ですよ、パワーローダー先生。かのトーマス・エジソンも“作ったモノが計画通りに機能しないからと言ってそれが無駄とは限らない”と……」

 

SHIT!! よりにもよってあの女がいるのか!! 悪い予感の本当の正体が判明し、内心舌打ちをするが、考えてみれば発目は「怪人バッタ男の俺」しか知らない筈なので、もしかしたら気付かれずにコスチュームを回収する事も不可能ではないかも知れない。

そこで俺はこっそりとパワーローダー先生に近づき、小声で用件をボソボソと話しかけてみることにした。

 

「あの、すみません。自分のコスチュームが此処に届いてるって聞いてきたんですが……」

 

「ん? ああ、呉島君か。確かに今朝、君のお父さんの研究所から届いてるよ」

 

「!? 呉島さんの新しいコスチューム!? 興味ありますッ!!」

 

NON! やっぱり駄目だったぜ!!

 

意外と地獄耳の発目から逃れる事は出来ず、結局人間としての姿もバレてしまい、更には送られてきた『強化服・弐式』の事についても根掘り葉掘り聞かれる始末……。

 

「ふむふむ! 各種装備の機能は『一式』とそう大差はありませんが、『コンバーターラング』を筆頭として、それぞれの耐久性や伸縮性等が向上している様ですね。それに装着者である呉島さんの成長に合わせて、電撃や爆発と言った攻撃能力が大幅に強化されている訳ですか! む!? 『サイクロン誘導装置』!? サイクロンと言えば確か『S.M.R』の中核を担う二輪兵器の事じゃないですか!! 以前見たデータでは高性能バイクと言うよりはロボットに近い感じでしたが、それがコレに搭載されていると言う事は……ッ!!」

 

「………」

 

「……済まんね。彼女は病的に自分本位なんだ」

 

「知ってます。嫌と言うほど」

 

「ただまぁ、ヒーローを目指すならパートナー云々は別として、彼女との縁は大切にした方がいいと思うよ? これまで多くのサポート科を見てきたけど、発目はその中でも特異なタイプだ。

彼女は常に発想し、失敗を恐れずに試行し続ける事が出来る。それこそ君みたいなタイプには、彼女みたいな“既成概念に囚われない、イノベーションを起こすような人間“が将来的に必要になる。君のお父さんがわざわざ此処に新作のコスチュームを送ってきたのも、『彼女とは仲良くした方が良い』ってメッセージなんじゃないかな?」

 

「………」

 

地味に自分の周りの大人達の手によって、発目に対する外堀が埋まっている様な気がするが、兎に角『強化服・弐式』の回収と言う目的は達した。そして、渡した『強化服・弐式』のデータを見て発狂している発目に気取られることのない様、俺は静かに開発工房を後にした。

 

 

○○○

 

 

一方その頃、出久とオールマイトは、何時もの様に仮眠室で、二人の共有する秘密である『ワン・フォー・オール』の事についての密談をしていた。

 

「オールマイト。グラントリノがオールマイトの師匠の盟友と言う事は……」

 

「うむ。『ワン・フォー・オール』の事もご存じだ。君達に関しては、むしろその事で声を掛けたのだろう」

 

「僕だけじゃ無くて、あっちゃんも?」

 

「ああ。実はグラントリノには君だけじゃ無く、呉島少年の事も手紙で教えてあるんだ。“通常と異なる方法で『ワン・フォー・オール』を手にした少年がいる”……とね」

 

「……それは、サー・ナイトアイも知ってるんですか?」

 

「え!? どうして此処で彼の名前が!?」

 

「実は、あっちゃんに、サー・ナイトアイから指名が来てまして……」

 

「!! そ、そうか……。実は。この間そのナイトアイから電話を貰っていてね。呉島少年に対して根掘り葉掘り聞かれたよ。彼は一体何者なんだ……ってね」

 

それは休校日となっていた一昨日の夜。出久に『ワン・フォー・オール』を譲渡すると決めてから、全く連絡を取っていなかった人物からの突然の電話。その内容はオールマイトにとっても話しておきたかった事だっただけに、ある意味では助け舟と言えるものだった。

 

『オールマイト。正直に答えて欲しい。貴方が力を譲渡したのは“無個性”の中学生だったんじゃなかったのか?』

 

『……ああ、確かに私は“無個性”の中学生に、私の力を譲渡した。それは紛れも無い事実だ』

 

『それなら、あの怪人は一体何だ? ……いや、この際ハッキリと言おう。私の眼にはアレは明らかに貴方を模倣し、更には「ワン・フォー・オール」と同じモノを持っている様に見えたが、それは私の気のせいか?』

 

『……いや。君の観察眼は正しいよ。彼は私の中に残された僅かな残り火を糧に「ワン・フォー・オール」を手に入れた、イレギュラーな存在なんだ』

 

「そこで私は彼に呉島少年の経歴と、彼の“個性”の能力を知り得る限り教えた。けれどそこで彼とまた対立し……結果、私と彼の溝はますます深くなった」

 

『何度もヒーローにヴィランとして攻撃され、警察に誤認逮捕されているだと!? 何を考えている!? そんな事をされてヒーローを、ヒーロー社会を憎んでいない訳がない!! それに体育祭を見ただろう!? 下手をすれば、“新しい「オール・フォー・ワン」”にだって成り兼ねないぞ!!』

 

『……自分と同じキズを持つ人達の希望になろうとしている』

 

『人の心はふとした事で容易く変わる!! 最初はそうやってヒーローを目指しながらも、結局ヴィランに墜ちた人間なんて幾らでも見てきただろう!!』

 

『確かに……そんなヴィランを幾らでも見てきた。でも……彼は違うんだ。確かに心に深い闇を抱えているかも知れないけれど……だからこそ私には救えなくとも、彼になら救える人間がいるんだと、私は信じている』

 

「私なりに呉島少年がヴィランになることは無いと説得したが、彼は『信じられる根拠が無い』と一蹴し……それからまた喧嘩別れみたいな形で電話は切れた。しかし、呉島少年を指名したと言う事は、彼なりに呉島少年を見極めたかった……と言う事だろうね」

 

「見極めるって、確かサー・ナイトアイの“個性”は……」

 

「そう。恐らくは『予知』を使うつもりだったんだろう。遠い未来ほど時間に誤差が生じるらしいが……予知で見た未来の光景を変えられた事は無いそうだからね」

 

「………」

 

その話を聞いていたたまれない気分になる出久。それもそうだろう。共にヒーローを目指している幼馴染が、将来ヴィランになるのではないかと疑われているのだから。

 

「もっとも、確かに彼がヴィランになったら、ヒーローの大半が犠牲になってしまう事は避けられないと私も思うよ。もしもUSJの事件の時、『敵連合』の中に彼が居たのなら、私は彼に殺されていたかも知れない」

 

「そんな……」

 

「……ま! そんな事は絶対に有り得ないと、私は思うがね! HAHAHA!!」

 

「………」

 

オールマイトは豪快に笑い飛ばして空気を変えようとするものの、出久の表情からは不安の色が取れなかった。そんな出久を見つつ、オールマイトはかつてサー・ナイトアイが『予知』で見たと言う、自分の未来の事を思い出していた。

 

『このままいけば、貴方はヴィランと対峙し、言い表せようもない程……凄惨な死を迎える!!』

 

「(ナイトアイは、当時そのヴィランについては全く言及しなかった。言わなかったのは私の未来を確定させない為か、単純に『予知』した当時に該当するヴィランが存在しなかったからか……いずれにせよ、彼は私の未来を変える事を諦めていないと言う事なのかな?)」

 

仲違いこそしているものの、二人の繋がりが失われてしまった訳ではない。ナイトアイの態度と行動から、彼に合わせる顔が無いと思いつつも、仲直りする事は案外簡単に出来るのかも知れない。

 

そんな事を考えながら、オールマイトは静かにお茶を啜った。




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 ヒーロー名は『序章』で語った通り、“変身ヒーロー『仮面ライダー【MASKED RIDER】』”。プロからの指名数は少ないものの、その内容と質は群を抜いている。指名したヒーロー達には、ナイトアイを筆頭にそれぞれ思惑があって指名していたのだが、当のシンさんはMt.レディ一筋で眼中に無かったりする。
 番外編として他のヒーローの所に行った場合のシンさんの活躍を描くのも良いかも知れないが、取り敢えずは本編を進めていきたいと思います。

緑谷出久&麗日お茶子&切島鋭児郎
 体育祭での渾名とヒーロー名が同じで、全く困っていない面子。お茶子や切島の指名数が原作よりも多いのは、一回戦での『VS勝己戦』で見せた妖術……もとい特殊技や、二回戦での『VSシンさん』で見せたクソ根性のお陰。コレに関しては八百万も同様。

轟焦凍&爆豪勝己
 原作とヒーロー名及び、プロからの指名数が異なる面子。指名数に関しては勝己の原作におけるマイナス要素が無くなった事と、勝己の表彰式での再起を誓う言葉が大きく影響している。
 ヒーロー名に関しては、轟は「普通に名前よりは良いか」と思って『W』を採用。「ヒート」と「アイスエイジ」に限定されていてハーフチェンジは出来ないが、ベストマッチである事は確か。勝己の方は元ネタよりはずっと南斗聖拳しているので、少なくとも名前負けはしていない。でも“個性”頼りな面が多々あるので、継承するのは一子相伝になりそうな気がする。

サー・ナイトアイ
 かなり早めに登場したオールマイトの元サイドキック。体育祭でのシンさん活躍を見て、オールマイトの関与を確信。電話でオールマイトを問い詰めてシンさんの詳細を聞いた結果、最悪のケースを考えてしまい、今回敢えてシンさんを指名した。
 もっともシンさんを『予知』したとしても、シンさんが「仮面ライダー」の他に「魔王」や「創世王」や「大首領」や「救世主」と言った様々な未来への分岐を持っている為、予知した所為で今までにないパターンと遭遇し、余計に混乱する羽目になってしまうだろうが……。

エッジショット
 名前だけ登場のヒーローその1。シンさんの活躍を見て、良くも悪くもピザ屋の宣伝になると考えていた。仮にシンさんが此処を選んでいたら、「ローカスト・ホースに乗ってピザを配達する仮面ライダー」の姿が見られた事だろう。

ファットガム
 名前だけ登場のヒーローその2。現在インターンをしている「環のヘボメンタルを成長させよう」という考えから、メンタルお化けのシンさんを指名。もっとも、その環がバッタの佃煮と蜂の子の素揚げの一件により、シンさんに対して苦手意識を持っている事には気付いていない。

リューキュウ
 名前だけ登場のヒーローその3。インターンをしているねじれから、「昼休みに怪人バッタ男が見つからなかった」と言う話を聞いて、「普段は人間の姿をしているのではないか」と推測。そして、実際に雇ってコスパと実用性を図るつもりでいた。

発目明&パワーローダー
 開発工房組。発目は相変わらずで、呉島家の財産を虎視眈々と狙っている。一方でパワーローダーは、暴走しがちな発目の手綱を握れる人間が必要だと考えている為、自分の為にも発目が興味津々なシンさんに押しつけ……もとい、仲良くなって貰おうと考えていたりする。

魔王
 強い! 絶対に強い! そんな黄金バッタであり、世界を統べる異形の帝王。少なくとも現在のシンさんでは手も足も出ない存在。『強化服・拾式』を纏っており、シンさんとの対決で見せた数々の能力は、その全てが“バッタの怪人が持つ能力”に由来している。つまり彼の正体は……。元ネタは萬画版『仮面ライダーBlack』において、未来世界を統べていた「魔王」。



霊影【オーラ・ビジョン】
 魔王がオーラパワーを用いて行う幻覚攻撃。作中で見せた多数のミラーモンスターの幻覚はコレによるもの。元ネタは萬画版『仮面ライダーBlack』の「魔王」が見せた技だが、ミラーモンスターに関しては感想欄からのアイディアであり、これも一種のファンサービスと言える。

プロヒーローの指名
 内容としては原作の総数を元に、原作で常闇が獲得した票数を適当に振り分け、勝己と轟の票数を殆ど同じに調整した感じ。但し、変態仮面など原作に登場しないヒーローや、ナイトアイの様に一年生に指名を入れて無さそうなヒーローも入れているので、厳密に言うとその総数は原作のソレとは異なっている。

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