怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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遂にポケットモンスターの最新作「ブラックサン・シャドームーン」が発売されましたね。それに伴い、作者としては数年ぶりにポケモンを買おうかどうか検討中です。とは言っても、そもそもゲーム機本体を持ってないので、まず3DSか2DSのどちらのLLサイズを買うべきか考えています。

……ハイ。本当は「ウルトラサン・ウルトラムーン」だってワカッて言っています。

今回のタイトルの元ネタは『仮面ライダー(初代)』の「死神博士の恐怖の正体?」。まあ、発目に関しては今更って感じがしますが……。

11/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。

2020/4/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第17話 発目明の恐怖の本性?

上鳴が塩崎に完封された次の試合は、「ヒーロー科VSサポート科」と言う、正に“異色のカード”と呼ぶに相応しい一戦であった。

 

『Bブロック第二試合ッ!! 青龍の方角ッ! ヒーロー科、飯田天哉ッ!! 白虎の方角ッ!! サポート科、発目明ッ!!』

 

「相手はサポート科か……」

 

「どんな試合になるのかしら?」

 

「てゆーか……飯田もサポートアイテムフル装備じゃね!?」

 

『……妙だな。飯田の性格を考えると、試合のルールを無視する様な事はしない筈だが……』

 

『同感だ。となれば……十中八九、あの女の仕業だ』

 

イナゴ怪人V3の予想通り、飯田が装備しているサポートアイテムの数々は、飯田が自分で用意したモノではなく、発目が飯田に手渡したモノだった。

飯田曰く、発目が試合前に「ここまで来た以上、対等だと思うし、対等に戦いたい」と言って、飯田に自身が開発したサポートアイテムを提供し、提供された飯田も発目の気概を無碍にしてはならないと思い、使用に踏み切ったのだと言う。それを聞いた主審ミッドナイトは……。

 

「青くっさ!!! 飯田君のサポートアイテムの使用を許可しますッ!!」

 

『……まァ、双方合意の上なら許容範囲内……でいいのか?』

 

相澤としては少々すっきりしない展開だが、腐っても主審であるミッドナイトの采配は絶対である。かくして、飯田のサポートアイテムの使用が認められる中、発目の行動と言動に不信感を覚える者達がいた。

 

「発目さんって、そんな事言う人かな……? ひょっとして……」

 

「うむ、臭うな。ウソの臭いがプンプンする」

 

そう、騎馬戦で共にチームを組んだ事で、ある程度まで発目の性格を把握している出久とイナゴ怪人達である。

何せ発目は呉島家の財産……もとい、呉島真太郎の持つ研究施設を狙って、その息子である新との結婚を考えていた様な女だ。そんな女が、一見して極めてまともな事を言うとは、彼女の性格的にまず考えられない。

 

そして、その予感は見事に的中する。

 

『開始めいッ!!』

 

「いくぞッ!!」

 

「フフフ……! 『素晴らしい加速じゃないですか!? 飯田君ッ!!』」

 

「? マイク?」

 

『普段よりも足が軽く上がりませんか? それもその筈! そのレッグパーツが、装着者の動きをフォローしているのですッ!! そして私は、「油圧式アタッチメントバー」で、回避も楽々ッ!!』

 

「……ねぇ、これって……」

 

「うむ。やはり、ヤツの策略だったか」

 

発目の行動に観客の誰もが目が点になる中、出久とイナゴ怪人達は納得の表情で試合を観戦していた。

 

「どう言う積もりだ!? まともに戦えッ!!」

 

『そうですか。それでは、まともに戦ってみせましょう!』

 

そう言いながら発目が取り出したのは、反りが見られない一本の日本刀。それを右手に持った発目は、飯田の蹴りを刃が存在しない刀身で受け流し、攻撃の全てを見事に捌いていた。

 

「何ッ!?」

 

『フフフフフ! 不思議ですか? サポート科で戦闘訓練なんてしていない私が、ヒーロー科である貴方の攻撃を捌いている事に! 何故なら、この「ライトニングソード」は鍔の部分にセンサーを搭載し、周囲2m以内に入った攻撃に対して、常に60度以上の角度をつけて接触する事が出来るのです! つまり……相手の攻撃を自動で受け切り、かつ相手に攻撃を加える事さえ可能ッ!!

更に、相手の戦闘力によって攻撃力を自動で調整し、たんこぶから気絶まで、安全安心の非殺傷設定を実現!! 使用者の過剰攻撃を完全に防ぐ事が出来ますッ!!」

 

その後も試合は、発目によるサポートアイテムの解説をメインとした、お互いに有効打を与えられない状況が延々と続いた。次第に混沌としていく空気の中、発目が会場を更なる混乱に叩き込んだ、極めつきの台詞はコレ。

 

『これをご覧になっていらっしゃるであろう、呉島真太郎博士ッッ!!! この発目明ッ! この発目明をどうかッッ!! どうか呉島新さんのパートナーにッッ!!! どうかッ、どうか宜しくお願いしますッッッ!!!!!』

 

「「「「「『………』」」」」」

 

「「「「「「「「「「え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛っ゛っ゛!!!???」」」」」」」」」」

 

イナゴ怪人V3を含めたイナゴ怪人達は無言を貫き、観客達は発目の台詞に度肝を抜いた。

 

それはそうだろう。呉島新と言えば、この体育祭でありとあらゆる意味で大活躍し、日本全国の注目を集めまくっている、正直言ってビジュアル的にアレ過ぎる怪人である。

そんな怪人のパートナーになりたい等とほざく発目に、観客達は発目の正気を疑ったが、発目は至って真剣である。……もっとも、その言動の真意は、病的なまでに自分本位な欲望に起因するものであるのだが。

 

その後、更に10分ほど続いた飯田と発目の試合は、発目が自ら場外へと足を運んだことで幕を閉じた。

 

「ふー……。まあ、こんな所でしょう!」

 

「は、発目さん場外!! 飯田君、二回戦進出!!」

 

「騙したなぁあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

「……すみません。貴方、利用させて貰いました」

 

「嫌いだぁあああああ、君ぃーーーーーーーーッッ!!!」

 

発目が不敵な笑みを浮かべ、飯田の後悔による絶叫がスタジアムに木霊したその時、予期せぬ闖入者が発目の前に現われた。

 

「待てィ!! 発目明ッッッ!!!」

 

その者の名はイナゴ怪人2号。突如スタジアムに躍り出たイナゴ怪人2号は、全身から凄まじい怒気を発し、その複眼から放たれる眼光は、発目の体を貫かんばかりに鋭い。

 

「? 何か御用ですか? イナゴ怪人さん」

 

「私と闘えッッ!! 今すぐ、この場でッッ!!」

 

「? 何故ですか? 貴方と闘う理由が思い当たりませんが」

 

「あるッ! あり過ぎるッ! 貴様が王の嫁だとッ!? 小癪なぁあああああああああああッ!! 笑止千万、おかしいの一番とは正にこの事よッッ!!!

 

「ほう……つまり、私と呉島さんの結婚を貴方は……もとい、貴方達は認めないと?」

 

「そうだッ! 我々は断じて認めんッッ!!」

 

「一体何が不満なのですか? もしも私が呉島さんと結婚したなら、貴方達の待遇は最高級のモノを用意するつもりですよ?」

 

「具体的には?」

 

「そうですね。具体的には実験は一体につき一日五時間、もしくは最大で八回! 改造……もとい、実験も死ぬ様なモノは極力控えましょう! どうです? 実験台としては破格の待遇だと思いますが!」

 

「貴様……ッッ!!」

 

やはりこの女は自分達を幾らでも替えが利く人型のモルモットとしか思っていない。その事を理解したイナゴ怪人2号の怒りは頂点に達した。

 

「貴様の野望は……このイナゴ怪人2号が砕くッ!!」

 

「フフフフフ! 良いでしょう。でしたら私の輝かしい将来の為に、不死身の貴方には一度死んで貰います!!」

 

「ちょこざいな小娘めッ! 捻り潰してくれるわあ~~~~~~~~~~ッ!!」

 

ライトニングソードを構える発目に対し、自称“柔道六段、空手五段”の業前を持つイナゴ怪人2号は、あらゆる受け技の要素が含まれると言う、受け技の最高峰「廻し受け」を繰り出している。

 

かくして、「イナゴ怪人2号VS発目」と言う予想外の展開と、「飯田VS発目」以上に異色極まる対戦カードに、観客達は興味と興奮から大いに盛り上がり、会場のボルテージはみるみる上がっていった。

 

『……で、勝手に話が進んで盛り上がっているが、体育祭とは全く関係無い試合を始めていいのか?』

 

「くぅ~~~~~ッッ!!! 許可しますッッ!! イナゴ怪人2号ッ!! 発目明ッ!! この二人によるスペシャルマッチを認めますッッ!!」

 

『認めるのか……』

 

『許可が下りなかったとしても、勝手に闘わせて貰う。ヤツの蛮行を絶対に見逃すワケにはイカン』

 

『お前等が言って良い台詞じゃないな……』

 

『黙れ。それではイナゴ怪人2号VS発目明ッ!! 開始めいッ!!』

 

「トォオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!」

 

こうして、イナゴ怪人2号の“未来を守る為の戦い”の火蓋が切られた。

戦いを告げる銅鑼が鳴らされるのとほぼ同時に、イナゴ怪人2号は天高く跳躍し、先手必勝とばかりに発目に絶叫しながら勢いよく襲いかかった。

 

「死ねェ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~いッ!!」

 

『い……いかん、2号ッ!! その台詞と飛びはッッ!!!』

 

「「「「「「「「「「(超死にそォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!)」」」」」」」」」」

 

観客全員がイナゴ怪人2号の、結果がそれとなく予想できる行動と言動に、内心でツッコミを入れる中、襲い来るイナゴ怪人2号を前にしながらも、発目に全く怯む様子は無い。

 

「フフフフフ!! それではこの『ライトニングソード』の裏技をお見せしましょうッ!!」

 

そんな不敵な態度の発目の言葉を裏付けるかの様に、ライトニングソードの刀身が紫電に包まれ、バチバチと激しい音を立て始める。

 

「だおォッ!!」

 

「ハイッッ!!」

 

イナゴ怪人2号のローカストパンチと、発目の一太刀が空中で交錯し、僅かな静寂が訪れる。そしてその静寂は、イナゴ怪人2号の右腕がズルリと落ちた事で破られた。

 

「GUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

『フフフフフ!! これこそが「ライトニングソード」のもう一つの機能! 人間以外の“個性”で生まれた存在と相対した場合、対人仕様で掛けられていたリミッターが外れ、極めて高い攻撃力を発揮するのですッ!!』

 

右腕を再生させるイナゴ怪人2号を他所に、自身のサポートアイテムをアピールする発目。内容的には先程の飯田戦と似たり寄ったりだが、観客達の発目を見る目が明らかに変わった。

 

先程の飯田戦の場合、飯田はサポートアイテムを渡されたことで一見すると強化された様に見えるが、その実、飯田はサポートアイテムを装着したことで行動をある程度まで制限され、半ば発目の操り人形と化していた。

それに対して今回の場合、イナゴ怪人2号はサポートアイテムを装着しておらず、更に発目が呉島家に嫁入りするのを阻止するべく、3日ほど餌を食べていないライオンの如くやる気マンマンの状態であり、限りなく実戦に近い状況だと言えるだろう。

 

そんな状況において、発目は予選の『障害物競走』や『騎馬戦』で数多くの生徒を蹂躙したイナゴ怪人と一対一で戦い、明らかに優位に立ち回っているのだ。戦闘訓練等全くしていない、サポート科であるにも関わらずだ。

 

しかも、雄英体育祭では「サポート科は自身の発明したサポートアイテムに限り使用可能」と言う制限がある為、発目が手にしている武器は、発目の造ったモノであることは明らか。

つまり、発目は「イナゴ怪人を戦闘力で上回る事が出来る程の性能を持ったサポートアイテムを、入学してから一ヶ月足らずで開発した」と言う事であり、これには観戦していた生徒達は元より、雄英ヒーローを筆頭とした現役のヒーローはおろか、サポート会社の関係者でさえも驚きを隠しきれない。

 

「ぐぅうう……どうやらお前を甘く見ていた様だな! しかし、イナゴ怪人は不死身だッ!! 貴様が私に勝つことは絶対に出来んッ!!」

 

「ええ、存じております。しかし、“個性”によって生まれた存在は大抵、何らかの活動制限があるケースが殆どです。貴方達の場合、恐らく肉体を構成するバッタの数が、そのまま復活できる残機に相当するのではないですか?」

 

「………」

 

「フフフフフ! どうやら図星のようですねぇ……。そして、貴方達の様なタイプは基本的に『本体を攻められると弱い』と言う共通した特性……と言うより弱点がありますが、それは見方を変えれば、『本体を攻めさえしなければ、人間相手には使えないような武器を幾らでも使える』と言う事です。そう、例えばこんなのとか……」

 

そう言うと発目は頭にずらしていたゴーグルを付け、イナゴ怪人2号を見ながら何かのスイッチを押した。

 

「発射ッ!」

 

「……? 一体、何を……ッッ!?」

 

発目の行動と言動に不信感を持ったイナゴ怪人2号だが、その感情はすぐに焦りと驚愕に変わった。「発射」と言うからには“何かを飛ばしてくる”と予想はしていたのだが、流石にコレばかりは想定の範囲外だったのだ。

 

「(予測もしなかったぞ……!! こんな場所で……ミサイルとはッッッ!!!)」

 

そう。発目が押したのは、昼休みの間に屋外に設置した、小型ミサイルの発射スイッチ。その大きさはペッドボトルロケットと同じ位だが、もはや兵器にカテゴライズされる代物を造っていた事実と、それを容赦なくこの間で使用する思い切りの良さに戦慄するイナゴ怪人2号。

 

そして迫り来る無数のミサイルは、その全てがイナゴ怪人2号に着弾し、盛大な爆発を巻き起こした。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

『2号ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』

 

『どうですか、この威力! 「マイティミサイル」はターゲットスコープでロックした後にボタンを押すだけで、ミサイルが対象をレーダーで自動的に追い続け、確実に相手に着弾します! 更にミサイルの弾頭の中身はお好みで変更可能! 火薬の他に、コショウやトリモチでも代用可能です!』

 

ミサイルの直撃を喰らい、爆発四散するイナゴ怪人2号。すぐにミュータントバッタを用いた肉体再生が行われるが、再生した傍からミサイルを次々と打ち込まれる為、反撃はおろか復活さえままならない。

 

「UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「不味いぞ! あの女……このまま物量で押し切るつもりだ!!」

 

「何か手は無いのか!? このままでは、あの女の計画通りになってしまうぞ!」

 

「あれあれ~~? 捻り潰すんじゃなかったっけ~~~~? おっかしいなぁ~~~~? 手も足も出ずにやられちゃってるよぉ~~~~~~?」

 

まさかのミサイルを用いた物量作戦に、A組の応援席で戦いを見守っていたイナゴ怪人達が困惑する中、ここぞとばかりに物間がイナゴ怪人達を煽りに来るが、イナゴ怪人達はそれどころでは無い。

 

元々、この体育祭に備えて大量のミュータントバッタを用意してはいたが、予選で相当量のミュータントバッタを消耗しており、ミュータントバッタの数は激減している。

このままでは、正にやりたい砲台……もとい、やりたい放題な発目によって、少なくとも今日一日はイナゴ怪人2号が復活する事は叶わず、この戦いが発目の勝利で終わる事になるだろう。

 

――しかし、発目によってもたらされた脅威は、イナゴ怪人2号だけの話ではなかった。

 

何と、イナゴ怪人2号だけを襲っていた筈のミサイルが、戦いを観戦していた他のイナゴ怪人達にも向かって来ていたのだ!! それは実況席にいたイナゴ怪人V3も例外では無い。

 

『何ィイイイイイイイイイイイ!? 何故ミサイルがコッチに来るゥウウウウウウウ!?』

 

「おっと、どうやらセンサーが誤作動を起こしたみたいですね! この会場内に居るイナゴ怪人さん全員がターゲットになってしまったと思われます!」

 

『逃げろォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』

 

イナゴ怪人V3の絶叫を聞いて、イナゴ怪人達の近くに居たA組の面々は蜘蛛の子を散らしたようにその場から逃げ出し、イナゴ怪人達もまた、それぞれが別々の方向へ逃げ出した。

そして、イナゴ怪人が逃げた先々でミサイルによる爆発が起こり、ミュータントバッタの残骸が黒焦げになってその周辺に降り注ぐ。

 

「NUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「BULUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

『発目明ッ!! 貴様一体、何発のミサイルを用意したのだ!?』

 

『ざっと3000発です!! そしてコレはもはや、貴方達が消滅するか、ミサイルが打ち尽くされる以外、止まる事は無いと思われます!』

 

『何だってぇえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!』

 

雨霰と降り注ぐミサイルと、幾度となく爆発するイナゴ怪人。そしてソレを目の当たりにして逃げ惑う観客達が織りなす阿鼻と叫喚の混声合唱によって、一年生ステージはもはや戦場と見紛うばかりの修羅場と化した。

 

幸い、イナゴ怪人達は周辺への被害を考えてバトルフィールドの方向へ飛び出しており、それ以外でミサイルが向かっている場所は、A組の応援席と実況席の二つ。

この二地点は、ミサイルが正確にイナゴ怪人だけを狙っている事と、セメントスによって周囲に防御壁が張られたお陰で観客に流れ弾等の被害は無いが、発目の言葉を信じるなら「イナゴ怪人の残機が無くなる」か、「ミサイルが打ち尽くされる」かのどちらかが起こるまで、この大惨事は終わらない。

 

そんな悲鳴と怒号と絶叫と爆発音の協奏曲が始まってから数分後。イナゴ怪人に向けられたミサイル攻撃がようやく収まり、煙が充満するスタジアムの中央に立つ発目の前には、木っ端微塵になった巨大なバッタの死骸だけが残り、イナゴ怪人2号は姿を消していた。

 

『敗れたぁああああああああああ! 落としてはいけない一戦に、イナゴ怪人2号が敗れてしまったぁあああああああああああ!! 何と言うサポート科ッッ!! 何という発目明ッッ!! あまりにもショッキングな過程と結末に、場内は声を失うばかりッッ!! 何かが違うッ!! この女ッ、私達が知るサポート科とはッ、何かが違うッッ!!!』

 

『……そうだな』

 

イナゴ怪人V3の実況に誰もが無言の肯定を示す中、誰も居ない筈のA組の応援席に、煙の中からぼんやりと人影が浮かび上がった。

 

実は、頑丈に造られていた実況席に守られたイナゴ怪人V3と、そもそも会場に居ないイナゴ怪人1号以外のイナゴ怪人達は、ミサイルによって全滅した訳では無かった。ミサイルの雨が降り注ぐA組の応援席で、一人だけ生き残っていたイナゴ怪人がいたのだ。それは……。

 

「FUUUUUUUUUUU……」

 

「う……あぁぁ……」

 

第7のイナゴ怪人こと、イナゴ怪人ストロンガー。彼はA組の方へ身を乗り出しながら、散々イナゴ怪人2号を虚仮にしていた物間を、B組の観客席から無理矢理A組の側に引きずり下ろし、物間を盾代わりとして使う事でミサイルから完全に身を守っていたのだ。

 

「お……お前……、僕、が……何を……」

 

「近くに居た……お前が悪い」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

嘘だ。これまでに見たことも聞いたことも無い位、巨大で真っ赤っかな嘘だ。

 

明らかにコレは物間に対する報復であると、A組とB組の面々は思った。しかし、それを口にして指摘するとなると、流石に後が怖いので誰も何も言えなかった。

 

一方、物間を盾にしたことを全く悪びれる様子も無く、堂々と見下ろしながら「お前が悪い」と言い切ったイナゴ怪人ストロンガーは、ズタボロかつ黒焦げの物間をB組の応援席に返したが、事の発端が明らかに物間自身のアレな性格が招いた事である為、物間を心配する者はB組には誰一人として居なかったと言う……。

 

 

●●●

 

 

深い眠りについた俺は、テレパシーによって試合を観戦するイナゴマンの視界を通し、第二試合から第五試合を寝ながらにして観戦する事が出来ていた。

しかし、第五試合でイナゴマンに向かってきたミサイルが着弾した事で視界が一気に暗転。恐らくイナゴマンがやられた所為だろうと思いつつも、俺の意識はミサイルを実際に受けた様な衝撃によって急激に浮上し、目を開けると何とも見慣れない光景が広がっていた。

 

「……あ。お目覚めになられましたか?」

 

「……ああ」

 

目を覚ました俺の視界に映ったのは、控え室の天井と、二つの大きな半円状の物体。そしてその谷間から覗くのは、額に汗をかく八百万の顔。更に後頭部に感じる暖かくも柔らかい感触から、導き出された結論は……。

 

「……どうしてこうなった?」

 

「その……イナゴ怪人1号さんに『何か私に出来る事は無いか』と申し上げましたら、『膝を貸して貰えないか』と言われまして……」

 

「………」

 

うん。常日頃から思っている事だが、チョロ過ぎるぞ八百万。流石は上鳴をして「将来は絶対ダメ男と結婚する」と言わしめただけはある。

地味に八百万の将来が真剣に心配になったが、この状況をどうしたモノかと考えていたら、その葛藤をテレパシーで察したらしい、イナゴ怪人1号が話に入ってきた。

 

「王よ、気分は?」

 

「……悪くはない。だが、何でこんな事を?」

 

「冷たい床に直に寝ては辛かろうと思ってな」

 

「それなら、枕を作って貰えば事足りたんじゃないのか?」

 

「………」

 

「何だ、その『うっかりしてました』みたいなリアクションは」

 

「……王よ。我々にだってミスはある。そう、例えるなら『ついうっかり、継母の連れ子である姉の財布から4万8千円を抜き取る』様な……」

 

うっかり財布から4万8千円抜き取るってどう言う事だよ。ワケが分からん。

 

そんなイナゴ怪人1号に対し、言いたい事は山ほどある……が、多分本当に悪気は無い。そして、1号から渡された手鏡に映しだされたのは、風が吹いたら倒れそうなひ弱な男では無い。どこからどう見ても健康体そのものと言える、甘いマスク(笑)の、メロンの様に高貴なイケメン(爆)だった。

 

復ッ活ッ!! 呉島新ッ、復ッ活ッ!!

 

「……王よ。知っての通り、2号が発目明に敗北した。結果的に我々は、ヤツの野望を阻止するつもりで、逆にヤツの野望を前進させる形になってしまった……」

 

「……気にするな。何も悪いことばかりではない」

 

そう。ヤツが俺との結婚を考える理由は、明らかに呉島家の財産目当てであるが、傍から見れば発目は才能に溢れた美少女だ。そんな美少女に公衆の面前で『未成年の主張』の如く告白されたと言う事実は、世に無数と存在するであろう異形であるが故に非モテの道を歩かざるを得ないイケてねぇ男子達の希望となったに違いない。……そうでも思わないとやっていけない。

 

それと、恐らくだが発目は本選で俺と当たる可能性を考えており、イナゴ怪人対策でアレ等を事前に用意していたに違いない。

イナゴ怪人2号の敗因は、発目に十分な対策とそれをするだけの時間が与えられていた事に他ならず、今回は相手が悪かったとしか言い様がない為、敗北した2号を責める気にはなれない。

 

「……あの、呉島さん」

 

「ん?」

 

「先程はその……本当に申し訳ありませんでした……」

 

取り敢えず、今後の発目対策を考えるかと思った矢先、八百万が申し訳なさそうに俺に深々と頭を下げた。

 

「? どうした、いきなり」

 

「……私の見通しが甘かったばかりに、呉島さんには酷い怪我をさせてしまいました。それなのに呉島さんは、気絶して服が溶けた私の体を隠した上で、リカバリーガールの所へ……本当に何と言えばいいか……」

 

「……八百万。さっきの試合の事なら、“気にするな”。闘いで相手にとって効果のある方法を模索し、実践した結果、思いもよらずにやり過ぎてしまった……なんてのは『よくある事』だ」

 

「……そうでしょうか?」

 

「ああ、何度もヴィランに間違われて、常人なら致命傷レベルの攻撃を食らい続けたこの俺が言うんだ。間違いない」

 

それにしても、ここまで申し訳なさそうに謝られたのは、1年前のMt.レディの時以来だな。

 

ぶっちゃけ、10回ヒーローからヴィランに間違われて攻撃されたとしたら、1回でも謝りに来れば幸運な方で、どいつもこいつも「俺は悪くない」の一点張りか、そもそも面会すら来ずに謝らないケースが殆どだ。最悪の場合、『“個性”の不正使用』を盾にして、叱りつけるヒーローがいる位だ。

それ故、俺にとってはオールマイトやMt.レディ、そしてインゲニウムの様に「謝るヒーロー」の方が希有な例外と言える。個人的にはもっとあんなヒーローが増えて欲しいモノである。

 

……まあ、今この場で最優先すべきは、今にも泣き出しそうな表情をした八百万か。

 

「自信を持て八百万。お前はその気になれば、誰よりも凄いヒーローになれる奴だ」

 

「……そう、でしょうか?」

 

「そうさ。過程や結果がどうであれ、これまでで“個性”の相性や、俺を上回る身体能力以外の方法で……俺を『作戦』で追い詰めたヤツは、お前しかいない」

 

「――……ッ!」

 

頭を下げている所為で表情は読み取れないが、俺の“個性”が持つ能力故か、八百万の感情の変化を明確に感じとる事が出来た。少なくとも、先程よりは大分マシになっただろう。

 

「……戻るか」

 

「は、はい!」

 

目尻を拭った八百万と共に、A組の皆が居るだろう場所へ歩いて向かう。そして、通路の向こう側から歓声が聞こえる距離になった時、俺達の耳にイナゴ怪人V3のアナウンスが聞こえてきた。

 

『Bブロック第三試合ッ!! 青龍の方角ッ!! ヒーロー科、青山優雅ッ!! 白虎の方角ッ!! ヒーロー科、芦戸三奈ッ!!』

 

「ちょうどか」

 

「ええ、そのようですわね」

 

良いタイミングで戻る事が出来た……と思ったが、今の人間体のままではちょっと不味いかと思い、先に八百万を行かせて怪人バッタ男の姿になってから空いている席に着いた時、端っこの方で瀬呂が峰田と上鳴の三人で何事か喋っていたのが見えた。

 

……何だろう。凄く嫌な予感がするぞ。

 

「……なァなァ、さっき実はちょっとスゲーの見ちゃってさァ。聞いてくれよ」

 

「Rは?」

 

「多分18」

 

「一応、聞こう」

 

「呉島と八百万、試合終わっても、しばらくコッチに戻ってこなかったじゃん?」

 

「ああ」

 

「いや、あの怪我ですぐ戻ってくるのは流石に無理だろ」

 

「俺もそう思ったんだけどさぁ、俺が試合前に控え室に行ったら、何か妙に中が蒸し暑くって、何でだろうって思って見たらさぁ……中で汗だくになってジャージの上を全開にした八百万が、呉島を膝枕してたんだよ」

 

瀬呂の言葉を聞いた瞬間、時間が一瞬だけ止まり、峰田と上鳴の怒りが爆発した!

 

「「呉島ぁああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」」

 

怒りと言う一時の感情に身を任せたが故か、二人は俺の名前を叫びながら物凄い形相で掴みかかってきた。この怪人バッタ男の姿を見ると、無意識に萎縮してしまう何時もの二人からは想像すら出来ない行動だ。

 

「俺達が真剣に試合を観戦してるって時に、何してんだテメェはぁッ!? 説明しろッ! コト細カニッッ!!」

 

「いや、アンタは女子の試合以外、寝てたじゃん」

 

「将来がかかった雄英体育祭だぞ!! 舐めてんのか、人生をッ!!」

 

「試合前に対戦相手をナンパした、上鳴ちゃんの言う事じゃないわね」

 

うん、どっちも知ってる。寝ている間もテレパシーによってイナゴマンと感覚を共有し、皆と一緒に試合を観戦していたからな。

そして、上鳴はともかくとして、鼻血と血涙を流しながら前屈みになっている峰田の姿はとってもアレだな。恐らく、瀬呂の話を聞いて興奮し、リトル峰田が硬質化しているのだろう。

 

「とにかく見損なったぜ! ドスケベバッタヤロー!!」

 

「貴様ッッッ!!! それ以上の侮辱は許さんッッ!!!」

 

「また体を乗っ取るぞ、ごるぁああああああああああああああああああッッ!!!」

 

そんな峰田と上鳴に対し、激怒するイナゴ怪人1号と、激昂しながら脅しにかかるイナゴ怪人ストロンガー。もはや事態は悪化の一途を辿り、収集がつけられなくなってきている。

 

「どーすりゃ、八百万とそんな事ができんだよ! ……はっ!! そうか!! さてはテメー、大怪我をしたのを良い事に、大げさに痛がって八百万をハメやがったんだな!! 二つの意味で!!」

 

「黙れエロ怪人! そして上手い事を言ったつもりだろうが、断じて違うッ!! ついうっかり、そうなってしまっただけだッ!! お前等だって、『ついうっかり父親の車のガソリンタンクに砂糖を混入してしまう』なんて事があるだろう!!」

 

「ねぇよ! 余程の悪意と憎悪がなきゃ出来ねぇよ!」

 

うむ、こればっかりは上鳴に同意だ。つーか、今のガソリンタンクに云々の所で、轟が妙な反応をしていたんだが……もしかして、やった事があるのか? エンデヴァーの車のガソリンタンクに砂糖を……?

 

「八百万! 正直に言え!! お前はこの悪魔の様な性欲怪人に騙されたんだよなぁ!? そうだよなぁ!?」

 

「性欲怪人はむしろ峰田でしょ」

 

「……助けになりたい」

 

「「は?」」

 

「呉島さんの助けになりたい。私が思ったことはそれだけですわ。私との戦いで負った傷を、次の戦いの足枷にならないようにして差し上げたい。その為に私に出来る事があるのなら、例えそれが常軌を逸した、常識外れな方法だとしても、私はきっと実行していましたわ……」

 

「い、いや、だからって膝枕はオカシイだろ」

 

「……確かにそうかも知れません。しかし、そこには決して悪意や下心など無かったと、私は断言する事ができます。そう――」

 

次の瞬間、八百万は強い決意を秘めたような目で、二人を一気に追い詰める言葉を力強く言い放った。

 

「貴方達が考えた変態的虚偽などと言う、浅ましいやり方とは到底比べる事などできませんわッ!!」

 

「ぐわぁあああああああああああああああああああ!!! ぐうの音も出ない正論キタァアーーーーーーーーーッ!!!」

 

「何でだよぉおおおおおおおッ!! さっきのサポート科といい、八百万といい、何でキュートなヴィジュアルのオイラがモテないのに、怪人の呉島の方が女子に人気あるんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

「心がイケメンだからじゃない? あと強さ」

 

「身も蓋も無いにも程があるぜ!! な、何かッ!! 何か無いのかッ!? オイラに勝機はッ!? ぐ、ぐあああああああああああああああああああッ!!」

 

断末魔の一瞬ッ! 峰田の精神内で爆発していた妬みと性欲が、更なる冒険を産んだッ!! 

 

普通、人は大多数の人間から非難され、弾劾されたら、その人は自分を正当化・弁護しつつも、心の奥底では反省し自重するだろう。――しかし、峰田は違ったッ!! 峰田はなんとッ、更にッ!! 知性の欠片も存在しない領域へと踏み込んだッッ!!! 

 

「じゃあ、八百万ッ! お前は呉島が『おっぱい揉ませてくれたら、傷の治りが早くなる』って言ったら、そのヤオヨロッパイを揉ませたって言うのかァーーーーーーーーッ!?」

 

ゴミを見るような目で峰田を見る女子一同。しかし、この一言は峰田にとって正に起死回生の一撃だったのだろう。自分の発言の見事さに酔いしれ、ふんぞり返っている。しかし……。

 

「呉島さんはそんな事は言いませんわ」

 

「うん。それを言ったら、とっくにウチとヤオモモの事、好き放題にしてただろうし」

 

「……は? どう言う事だよ」

 

「……それじゃあ、峰田。アンタ、ヴィランの一人に仲間だと間違えられて、身動きの取れないウチとヤオモモの体を二人で楽しもうって言われたら……アンタどうする?」

 

「そりゃあ勿論、ヴィランをもっと油断させる為に、仕方ねぇから一緒に女体を貪るに決まってるじゃねぇか!!」

 

「クソ過ぎだろ」

 

「サイテーよ、峰田ちゃん」

 

うん。流石は訓練でドロケーをやった時に、訓練にかこつけて芦戸にセクハラを働き、リアルポリスを呼ばれた男だ。予想を全く裏切らない。

そんな峰田を女性陣はハイライトの代わりに“漆黒の意志”が宿った瞳で見つめ、流石に生命の危機を敏感に察知した峰田は、ここでよりにもよって俺に話を振った。

 

「……お、おい、呉島! お前ならどうするんだよ!」

 

「呉島は速攻でヴィランをぶん殴って助けてくれたよ。つーか、今言ったヴィランに仲間だと思われたって話、USJの時の呉島の事だし」

 

「にゃにィイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」

 

もはや峰田は泥沼にドップリと肩まで浸かっていた。欲望を抑えて大人しくしてれば良いものを、足掻けば足掻くほど、底なしのドツボへとドンドン嵌っている姿はもはや憐れですらある。

 

「所で呉島さん。何か私にお願いとかありませんか? 先の対戦の罪滅ぼしという訳ではありませんが、何でも言って下さいまし」

 

「R? GUU……」

 

う~む。俺としては別にそんなのは要らないのだが、そう提案する八百万の表情は、命令を待つ忠犬の様な雰囲気の期待感に満ちあふれていた。これでは何も言わないのは逆に失礼かと思い、何か言わなければならんと俺は頭を悩ませた。その結果……。

 

「GOVQEZA、RODBEEZINBQI、DAROM」

 

「えっと……なんでしょうか?」

 

「『今回、新たに得た力をコントロールし、発展させる為のトレーニングに付き合って欲しい』……と王は言っている」

 

「! いいデストモ!」

 

「……はぁあああああああああああああああッ!?」

 

ここで床に両手をつき、うなだれていた峰田が復活。再び俺に向かって噛みついてきたが、懲りない奴を見る周囲の視線に、峰田は全く気づいていない。

 

「カマトトぶってんじゃねーぞ、呉島ッ!! てめー、ちゃんと股についてんのか!? お粗末な竿と、きったねー玉二つッ!!」

 

「ついているに決まっておろうッッ!! 貴様なんぞ足下に及ばぬ程にグレートな竿と、常軌を逸した繁殖力を秘めた玉二つッッ!!」

 

おい、馬鹿止めろ、イナゴ怪人1号。なんか自慢しているみたいになってるぞ。

 

「それにしたってお前ッ! 男なら『何でも言う事聞く』なんて言われて、あのヤオヨロッパイの事を考えねぇ訳ねぇーだろ!? 男は誰だって常日頃から“見たい”、“揉みたい”、“吸い付きたい”の三原則を我慢して生きてる存在なんだからよぉ!!」

 

「止めろエロ怪人。学校はそう言う話をする場所では無い。自重しろ」

 

「そんなこと言ったって、オイラ達人間のオスは、股間にブラ下がってるモノの呪縛から、絶対に逃れられねぇ生物なんだよッ!! 皆もそう思うよなぁ!?」

 

「え……、ん……まあ……」

 

「そ、そうだな……」

 

「まあ、一理あるな……」

 

峰田の下世話な発言に、瀬呂、砂藤、上鳴が控えめに賛同する。この状況で峰田の味方をするとは、本当に人が良いと言うか、友情に篤いと言うか……。

 

「それではエロ怪人に訊く。お前は何故エロに走るのだ?」

 

「そ、それはいたたまれないから……必要だからに決まってるじゃねぇか」

 

「生きていく上で必要だから……貴様はそう言うのだな?」

 

「お、おぉ……。オイラのリトル峰田がオイラをそそのかして、エロに走らせんだよ」

 

「しかし、どれだけエロに走っても、貴様の心は休まらない筈だ。ただ、リトル峰田をいじり終えた瞬間だけは、心休まる時もあろう……しかし、すぐに性欲が2倍になって貴様を襲うハズだ」

 

「……で、またエロに走って、リトル峰田をいじります」

 

「すると今度は性欲が4倍になって貴様を襲うハズだ」

 

「……で、またエロに走って、リトル峰田をいじります」

 

「ならば今度は16倍だ」

 

「で、またいじります……」

 

「256倍」

 

「で、またいじります……!!」

 

「65536倍」

 

「で、またいじります……ッッ!!!」

 

「42億9496万7296倍」

 

「無間地獄。浮かぶ瀬も無し……」

 

どこか尊大な態度で峰田に語りかけるイナゴ怪人1号に、次第に言葉が改まっていく峰田は、1号の紡ぎ出す言葉によって徐々に追い詰められていく。そこへボソっと呟いた常闇の言葉が止めとなり、峰田は思わず1号の足にしがみついた。

 

「じ、地獄じゃ地獄じゃ、性欲地獄ッ!! ムラムラ地獄じゃあ~~~~~~ッ!! お助け下されッ、お助け下されぇえ~~~~~~~~ッ!!」

 

「ならば……懺悔だッッ!!!」

 

「ざ、懺悔!?」

 

「そう! ZA・N・GE!! 悔い改める事でコレまでの肥溜め人生にピリオドを打ち、エロの無い健全スクールライフを目指すのだッ!! これこそがこのイナゴ怪人1号が、超人社会を見て悟った、スクールカースト最底辺からの唯一と言える脱却法ッッ!!!」

 

「意外とまともな方法ね」

 

「つーか、それって悟る必要がある様な事か?」

 

「てゆーか、峰田って存在自体が下ネタっぽい気がするんだけど……」

 

うむ。話が脱線して変な方向に進んだ気がするが、取り敢えず事態は無事に収束へ向かっている。これで峰田が解脱でもしてくれれば万々歳だろう。

 

『勝負ありッ!! 芦戸三奈、二回戦進出ゥウ~~~~~~~~!!』

 

……って、そうこうしている内に青山と芦戸の試合が終わってしまった。ヤバい。試合内容を全然見てないぞ。……まあ、良いか。後で幾らでもネットで見る事が出来るだろうし。

 

ちなみに、青山はブリーフ一丁の醜態を晒している状態だったが、その事について誰も騒ぐ様子がない。恐らく、午前の予選で『にせ怪人バッタ男』事、B組の物間がやらかした全裸公開に比べれば、「ああ、青山ってブリーフ派なんだ」程度の感想で、別に騒ぐに値する程でもない……と言った感じなんだろう。ある意味、不憫な奴である。

 

『いよいよ次が、一回戦最後の試合となりますッ!! 白虎の方角ッ! ヒーロー科、爆豪勝己ッ!! 青龍の方角ッ! ヒーロー科、麗日お茶子ッ!!』

 

「ある意味、最も不穏な組ね」

 

「ウチなんか見たくないなー」

 

ふむ。「最も不穏で見たくない試合」……か。

 

梅雨ちゃんと耳郎には悪いが、俺としてはこの試合、ある意味ではどの試合よりも注目すべき一戦だ。




キャラクタァ~紹介&解説

発目明
 自重しないキャラその1。目的の為なら一切手段は選ばない、げに恐るべき女。今回の一件でまた一歩、野望に近づいた。対イナゴ怪人用アイテム……と言うより兵器を用いたことでイナゴ怪人2号・イナゴマン・イナゴ怪人X・イナゴ怪人アマゾンを撃破する事に成功。一回戦敗退ながらも、そのインパクトは絶大。
 今回元ネタに『BLEACH』のマユリ様を使用したが、イナゴ怪人の改造云々については、オフィシャルキャラクターブックの『Ultra Archive』において、発目が常闇の『黒影【ダーク・シャドウ】』について「更に可愛く強くしたいなら、是非私に声を掛けて下さい!」と発言している事を考え、「発目は『黒影』を改造しようとしているのではないか?」と言う、半ば言いがかり的な邪推……もとい、非常に的確な推理に基づくものである。

発目「駄目じゃ無いですか。放り投げた爆弾が戻ってきちゃ……」
イナゴ怪人「貴様ァアアアアアアアアアアアアッ!!」
発目「………(カチッ)」
イナゴ怪人「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

飯田天哉
 イナゴ怪人2号によって、一回戦における印象が皆無となってしまった悲劇の男。まあ、この世界では準決勝の相手が原作とは違ってかっちゃんになる予定なので、それまでは何とか我慢して貰いたい所。

物間寧人
 よりにもよってイナゴ怪人達を煽った結果、イナゴ怪人ストロンガーのガードベント(使い捨て)になってしまった悲劇の男。流石に仮面ライダーガイ程のタフさは持ち合わせていなかった為、反撃する事は出来なかった。
 ぶっちゃけると「『龍騎』の仮面ライダー王蛇のネタをやりたい」という作者の欲望の犠牲者。物間は犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。

八百万百
 チョロいエロイン。今回の絡みは『序章』で貰った感想で、八百万のヒロイン希望があったので、物は試しと思ってそれっぽく絡ませて書いてみたのが事の発端。つまりは一種の読者サービス。
 ちなみに膝枕は『バキ』の梢様が元ネタで、峰田と上鳴に切った啖呵は『グラップラー刃牙』のジャック・ハンマーが元ネタと言う、割と滅茶苦茶な感じになっていたりする。

イナゴ怪人(2号・ストロンガー)
 今回の話で最も困難だったのは、イナゴ怪人2号が発目に襲いかかる時の台詞を「死ね~~!」にするか、「ちね~~!」にするかと言う事だったりする。
 ストロンガーに関しては、元々は1号とV3以外はミサイルで殲滅される予定だったのだが、話の展開上「1号とV3以外で誰か一人は生き残らせた方が良さそう」と考えた結果、「ストロンガーの理不尽さを表現=王蛇のガードベント(使い捨て)」の図式が頭に浮かび、やってみようと思い至ったと言う経緯がある。

峰田実
 自重しないキャラその2。性欲の権化である為、下ネタを使う際に重宝する。故に非常に便利なキャラであるが、動かす時はやり過ぎない様に細心の注意が必要となり、こいつが活発に動く話を投稿する時はチキンレースをやってる気分になる。

上鳴電気&瀬呂範太
 今回、峰田と一緒に動かした二人。元々はこの二人の試合も「芦戸VS 青山」戦と同様に割愛される予定だったが、今回の話の伏線と、「自分達はこんな目に遭ってるのにお前はソレか」と言った感じを出すため、前話で二人の試合も書く事にしたと言う経緯がある。



ライトニングソード
 元々は「対人に使用するには殺傷能力が高い、もしくは低い“個性”を持った人でも、ヴィランを無事に倒せるようになる」と言うコンセプトの元で造られたアイテム。基本的には非殺傷武器だが、相手がイナゴ怪人やダーク・シャドウの様な、「“個性”から生まれた存在」に対してのみ、問答無用で真っ二つにする無慈悲の必殺モードが発動する。
 元ネタは『ドラえもん』に登場するひみつ道具である「名刀・電光丸」。もっとも、今回の発目の台詞が『BLEACH』のマユリ様を元ネタにしている所為で『千年血戦編』の「疋殺地蔵」にも見える。

マイティミサイル
 元々は「危険な相手から身を守る為の護身用」として開発したモノを、発目が対イナゴ怪人用に強化改造したもの。作中の通り、レーダーが誤作動を起こして大惨事を巻き起こす結果となるが、当の発目は反省こそしているが、後悔は全くしていない。
 元ネタは『ドラえもん』に登場するひみつ道具である「ホームミサイル製造法」。もっとも、「ペンシルミサイルと自動仕返しレーダー」を筆頭に、ミサイル系のひみつ道具は名前が違うだけで効能が全部同じ様な気がするのは気のせいか。

物間シールド
 イナゴ怪人ストロンガー専用ガードベント。『龍騎』の仮面ライダーゾルダが放つ「エンド・オブ・ワールド」の如く迫り来る無数のミサイルから、完全に身を守る事が出来る無敵の盾。但し、使い捨てなので使い所を考えなければならないのが難点。



後書き

これにて、予約投稿の2話目が終了です。3話目は11月23日(木)の正午12時に投稿される予定です。

活動報告で投稿方法について、以前のような「出来た話を一気に投稿するパターン」と、今回の様な「出来た話を予約投稿で時間をおいて投稿するパターン」のどちらが良いのかで、アンケートを取っていますので、興味のある方はアンケートの方も宜しくお願いします。

それでは次回「ウラビティ麗日お茶子のG作戦」をご期待下さい。

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