怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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大変長らくお待たせしました。第8.5話からずっと予定していた、新旧少年ジャンプの変態二人による物語が遂に完成です。
本編がシリアス路線に入っている分、その恐るべき破壊力が更に増している気がしますが、どうか存分にお楽しみください。

これが、貴方の見たかった『HENTAI SAGA』。


第26.5話 変態ブドウ ~最初ノ変身~

皆さんは変態と変態が対峙した時、何が起こるのかご存じだろうか?

 

それは同じ性質を持った人種との出会いによる感動からの「融和」でなければ、変態性の違いによる嫌悪から来る「拒絶」でも、見て見ぬ振りによって互いの趣味を干渉しない「不可侵」でもない。

 

――答えは「淘汰」である。

 

そもそも変態とは、その人間がそれまでの人生経験によって構築してきた一種のオリジナリティであり、言うなれば変態とは「孤高の存在」なのである。そして、絶えず高みを目指して邁進し、後ろを振り返ること無く突き進む者こそ、「真の変態」であると言えるだろう。

 

それ故に、変態は自分以外の変態を基本的には認めない。出会ったが最後、「どちらがより優れた変態であるか」と言う、お互いのアイデンティティを賭けて、変態同士が競い合いながらも潰し合うと言う、傍目から見て地獄としか表現のしようがない絵面が展開される事となる。

従って、変態と変態が並び立つ事は無い。変態二人が向かい合えば即座に戦いが勃発し、その戦いの勝利者は「より優れた凄い変態」となるが、敗者は「変態とは名ばかりの情けない半端者」となってしまうからである。

 

しかし、物事には必ず例外というモノが存在する。

 

例えば、片方が圧倒的に変態として格上の「正義の変態」で、もう片方が自分の事を変態ではなく健全だと本気で思っている「極めて邪悪な変態」だったとしたら……?

 

 

●●●

 

 

この日、とある町のとある銀行で、現金輸送車が覆面をした二人組のヴィランに襲われ、荷台に積み込まれていた大量の現金が奪われる事件が発生した。

 

「誰か~~~~~! 捕まえてくれ~~~~~~!!」

 

ヴィランによってボコボコにされた警備員があらん限りの叫びを上げるが、ヴィラン達は警察やヒーロー達が到着する前に車で逃走を図り、その場から風の様に立ち去っていた。

 

「へへへ……上手く撒いたな」

 

「ああ……って、うわあああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

「どうした!! あ゛あ゛ッ゛!?」

 

彼等が驚くのも無理も無い。なぜならば彼等の行く手を遮っていたのは、全裸に等しい格好で仮面の様にパンティを被った上に網タイツを装着し、その筋骨隆々とした肉体を惜しげも無く晒している、無駄にハイレベルな変態だったのだ。

 

「お、お、お、お前はぁあああああああッ!!」

 

「変態、仮面……ッ!!」

 

そう、彼こそは「絶対彼氏にはしたくないけど好きなヒーロー」として女性人気を集め、公園で子供が彼の真似をしてパンツを被ろうものなら、保護者が容赦なく鉄拳制裁と共にパンツをはぎ取り、強制的にごっこ遊びを止めさせると噂される、ありとあらゆる意味で究極のヒーロー。変態仮面その人である。

 

「さあ……金を返して貰うかッ!!」

 

「うるせぇええええええ!! おい、轢き殺せぇえええええええッ!!」

 

「おおッ!! 死ねや、変態ぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!」

 

運転していたヴィランはアクセルをべた踏みにして変態仮面に突撃するが、その表情は変態仮面に対する恐怖に染まっている。

 

それもその筈、ヴィランにとって「ありとあらゆる意味で最も恐ろしいヒーロー」と言えば、犯罪の抑止力としてヒーローの頂点に君臨し、“平和の象徴”と謳われるオールマイトでも、史上最多の事件解決数を誇り、時折行き過ぎる行動が問題視されるエンデヴァーでも無い。

ヴィランに対して様々な変態技を駆使し、必ず情け容赦の無いお仕置きを執行する、地上最強の悪夢の様な正義の変態……すなわち、この変態仮面なのだから、この反応も仕方の無い事だろう。

 

「フゥウウウウウウウウウッ!! トォオオウッ!!」

 

自分を車で轢きつつ、更なる逃走を図ろうとするヴィラン達に対し、変態仮面はパンティ越しに行う変態特有の呼吸法によって態勢を整えると、異様にアクロバティックな跳躍によって車に飛び乗った。太陽を背にしている所為か、その姿は変態的であると同時に嫌に神々しい。

 

「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」

 

「ぬぅううううううううんッ!! ハァアアッ!!」

 

変態仮面に恐れ慄くヴィラン達を尻目に、変態仮面が大きく腰を引いたかと思うと、股間から蒼い波動を放ちながら、勢いよく車のフロントガラスに股間を叩きつける。

変態パワーによって極限まで増大した身体能力(意味深)によってフロントガラスが粉微塵に粉砕されると、変体仮面はそこから手を伸ばして運転席に座るヴィランの首根っこを捕まえ、顔面にその強靱過ぎる股間を思いっきり押しつけた。

 

「フォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

「ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

この超人社会に於いて言うまでも無い常識であるが、“個性”とは身体能力の一部であり、その力は使えば使うほどに強力なモノとなっていく。

変態仮面として戦ってから既に10年以上の月日が流れ、その時間の中で変態仮面は数多の修羅場をくぐり抜けており、その恐るべき“個性”が強化された結果、彼は股間から蒼い電流を発する能力を獲得し、今では股間を顔面に押しつける精神的ダメージに、物理的ダメージが加わった事で、確実にヴィランをスタンする事が出来るようになっていた。実に意味不明な変態的能力である。

 

「ウヒィイイイイイイイイイイイイイイッッ!!」

 

変態仮面の常識破りな戦闘力を目の当たりにし、仲間がやられた恐怖によって助手席のヴィランは車から降りて逃走を図ろうとするが、腰が抜けてしまった様で思うように逃げる事が出来ないでいた。

そして、ふと車の方に視線を向けてみると、どう言う訳か変態仮面がいない。不思議に思いつつもチャンスとばかりに再び前を向くと、巨大な白いちまきの様なモノが目の前にあった。

 

「……え? 何?」

 

「それは、私のお稲荷さんだ」

 

「!? うわあああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「ドゥワッ!!」

 

瞬間移動としか思えない芸当をやってのけた変態仮面にヴィランがその場でひっくり返ると、変態仮面はヴィランの両足を掴む事で完全に逃走を封じ、正義の変態として犯罪者に無慈悲な裁きを執行する。

 

「や、止めろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

例え、どれだけみっともなく命乞いをしようと、変態仮面が悪党に情けを掛けることは無い。絶対に無い。変態仮面はヴィランの頭部を両手で固定すると、その顔面に容赦なく股間を押しつけ、股間から蒼い電流を流し込む。

 

「グハァアアアアアアアア……ッ」

 

「成敗ッッ!!!」

 

「………」

 

かくして、見事にヴィランを退治し、変態的でありながらも、実にスタイリッシュなポーズを決める変態仮面。そんな彼の近くでは、ブドウの様な頭をした少年がその一部始終を“見学”していた。

 

 

○○○

 

 

その後も変態仮面はあらゆる悪と戦い、その全てを退治していった。痴漢、連続放火魔、暴走族。果ては爽やかなサーファー風の女を誑かすチャラ男や、男気とは名ばかりのノンケも容赦なく喰ってしまうガチホモ。そしてロケットで空を飛び、宇宙を目指す何か白い仮面のヤツなんかも、変態奥義を駆使して容赦なく退治してしまった。

 

その光景は、変態ルックである事さえ除けば、よい子の為に平和を守り、悪を懲らしめ成敗する。正にヒーローそのものと言えるのだが……。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! はかどるッ!! はかどるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「………」

 

そして、アブノーマルスーパーヒーローである変態仮面にとって、事後処理の書類仕事などお茶の子さいさいである。それ故に、彼にサイドキックは必要ないのだが、流石の変態仮面も眠気には勝てない為、彼は扇風機を改造した鞭マシーンを使い、背中を鞭で叩く事でモチベーションを維持していた。

しかし、その光景は到底よい子には見せる事が出来る様なモノでは無い。屋外から屋内という、ある意味で様々なモノから解放された空間に移ったことで、変態仮面は完全に明後日の方向にトップギアを入れていた。

 

そんな変態仮面の熱烈的で熱狂的な仕事ぶりを間近で見ていた峰田は「オイラが望んでいた職場体験はこんなものじゃない」と深く思い、回転する鞭が断続的に変態仮面の背中を叩く音を聞きながら「どうしてこんな事になったんだろう」と涙を流した。

 

そして、変態仮面が一通りのヒーロー活動を峰田に見せると、次は峰田に対して特別なトレーニングを開始した。

 

「真っ直ぐな正義だけでは、決して悪には届かん。悪はその名の通り、どんな汚い手段でも平気で使ってくる連中だからだ。しかし! そこに変態のパワーが加わったならば、それは只の正義ではない! 正義の味方でもない! 正義の変態だ! ならば……どんな悪にでも勝つ事が出来るッ!!」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

「君は、エクスタシーを感じたことがあるか?」

 

「いや、そんな『コスモを感じたことがあるか?』みたいに言われても……」

 

「いいか。君には才能がある。君は只の変態で終わる様な男では無い。正義の変態になるべき男なのだッ!! そして次の私に……『変態ブドウ』に生まれ変わるのだッ!!」

 

「いや、だからオイラには『グレープ・チェリー』……じゃなかった。『グレープジュース』ってヒーロー名があるし、別に変態って訳じゃ……」

 

変態仮面の言葉に対して、何一つ肯定すること無く否定し続ける峰田だが、変態仮面は止まらない。何故なら彼の中で峰田は、自分の後継者となるべき『変態ブドウ』以外の何者でもなかったからだ。

 

「ウオオオオオオ! 痛ぇええよぉおおおおおおおおおッ!!」

 

「どうだ!? 何か心の底から湧き上がるモノを……エクスタシーを感じるか!? 変態ブドウッ!!」

 

「痛ぇだけで何も感じねーよ! 湧き上がるモノなんて何もねーよ!」

 

「そうか! ならばこのまま放置プレイに移行しようッ!!」

 

そして、変態仮面は今も尚その美貌と若さを保ち、現役バリバリでSM嬢の仕事をしている母親譲りの技術を駆使して、パンティ、ブラ、鞭、蝋燭、三角木馬、……と、具体的に言うなら「こんなの少年誌でやったら、確実にPTAから苦情が殺到してヤバイ事になるよね?」と思われるギリギリのラインで、考えられるだけのありとあらゆる方法を使い、峰田を『変態ブドウ』に覚醒させようとしたが、どうにも上手くいかなかった。

現に今も、峰田を荒縄で亀甲縛りにしてみたが良い反応が帰ってこない為、そこから放置プレイを施しているのだが、ハッキリ言って状況は芳しくない。

 

「ううむ、オカシイ。一体何が足りないのか……」

 

「いや、だからオイラは変態じゃねーんだって! てゆーか、普通に考えて相手が若い巨乳のねーちゃんじゃなくて、ムキムキマッチョなおっさんじゃあ、どう考えたってコーフンする訳ねーだろーが!!」

 

「!! た、確かにッ!!」

 

言われてみればその通りである。かく言う変態仮面は、幼少期からSM嬢の母親によって文字通り「鞭による教育」を施されていた為、どんな相手に殴られても気持ちよくなってしまうと言う、もはや手の施しようのないレベルに到達した超絶的な変態だが、確かに美人のお姉さんに鞭で叩かれた方が気持ちいい事は確かである。

考えてみれば、幾ら変態としての優れた才能や、周囲がドン引きするレベルの素質が峰田にあるとは言え、特殊すぎる環境で育った変態仮面と同レベルの変態性を峰田に求めたのは流石にハードルが高過ぎたかも知れない。

 

「ならば変態ブドウよ……君は今から飛彈の山奥に住む、変態仙人の元へ行かなければならないッ!!」

 

「へ、変態仙人ッ!?」

 

「変態界の頂点に君臨するお方だ。お前が正義の変態に目覚めるには……変態仙人の元で修行するより他に道は無いッ!! お前の変態はまだまだだ! 変態仙人の元で修行して、より偉大な変態になるのだッ!!」

 

「偉大な変態って……だから俺は変態なんかじゃ……」

 

「……嫌と言うほど、女にモテてモテてモテまくりたいかぁーーーーーーッ!!」

 

「!! オオォォーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「女体を思う存分に触りまくり、欲望のままに貪りたいかーーーーーーーーッ!!」

 

「ウオオオオオオォォーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「ニューヨークに行きたいかぁーーーーーーッ!!」

 

「ブリトニィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

 

変態仮面の凄まじい剣幕と欲望を刺激される台詞に乗せられる形で、邪悪な本性を曝け出しつつ完全にイッちゃった目をしている峰田は、性欲を持て余した一匹狼の様な咆哮を上げた。

 

 

○○○

 

 

そんなこんなで、変態仮面から変態仙人の元での修行を申しつけられた峰田は、翌日になると一人で飛彈の山奥の中を彷徨っていた。

 

「つーか、冷静に考えたら、変態界の頂点とか何だよ一体。つーか、変態仙人なんて聞いたこともねーよ……」

 

ぶつくさと文句を言う峰田であるが、実はこれから訪れる相手が、変態仮面の師匠に当たる人物であると言う事に、ある種の希望を見いだしていた。

 

世間では変態である事にばかり目が行きがちだが、変態仮面がトップクラスの実力を誇るプロヒーローとして名を馳せている以上、その変態仮面を育てた人物となれば、変態仙人とやらのヒーロー育成スキルは、ある意味で保証されている。

ぶっちゃけ、『変態界の頂点』という肩書きは、怪しさと胡散臭さが百点満点であるが、少なくとも変態仮面が峰田を変態ブドウとして育成しようとしている事を考えると、変態仮面の元で職場体験を続けるよりは、その変態仙人を説得して自分の望む理想のヒーローになる為の修行をつけて貰う事に賭けた方が可能性はあるだろうと、峰田は無駄に小賢しく回る知恵によってそう結論づけていた。

 

「こ、ここか……?」

 

険しい山道を登り、額に汗する峰田の前に、何十段と続く石の階段が見えてきた。明らかに人工的な建造物を目にして、峰田はようやく目的地に辿り着いたと喜び、最後の力を振り絞って石の階段を上っていったのが、階段を上りきった時、峰田は二の句も告げずに絶句した。

 

「………………え? 何コレ?」

 

そこには一軒の数寄屋住宅が建っていたのだが、その壁にはご立派過ぎる鼻で此方を威嚇している様にも見える、途轍もなく巨大な天狗の面が掛けられており、その双眸は門番の如く峰田を真っ直ぐに睨み付けている。

そして、屋根瓦の上には夥しい数のパンティが敷きつめられており、しかもそれぞれのパンティの色が違う為に妙にカラフルで、古き良き日本家屋の雰囲気を物の見事にぶち壊している。その光景はハッキリ言うと異常。控えめに言っても異様としか言いようがない。

 

「………」

 

あの変態仮面が「変態界の頂点に君臨する」と豪語する、変態仙人の恐るべき片鱗を早速目の当たりにした峰田だったが、此処まで来て今更帰る訳にはいかない。帰ったところで自分を変態ブドウとして育成しようと企む変態仮面が、SM用の鞭と蝋燭を持って待っているだけだからだ。

 

覚悟を決めた峰田は、取り敢えず変態仙人の住居としか思えないこの家の扉を叩いてみたのだが、全く反応が無い。留守かと思って取っ手に手を掛けると鍵が開いている。そこで家に入ってみると、家の内部は外部に更に輪を掛けて異様だった。

 

カーテン、テーブルクロス、座布団カバー、枕カバー、暖簾……と言った、ありとあらゆる布製品の家具が全てパンティで構成されており、更には照明器具にまでパンティがくっつけられていて、まるでステンドグラスを見ているかの様だ。

極めつけに、花瓶には荒縄によって亀甲縛りのデコレーションが施され、部屋の片隅には変態仮面が使っていたモノとは違うが、扇風機を改造したと思われる鞭マシーン。そして江戸時代の拷問である石抱に使われる、十露盤板と伊豆石まで揃っていた。

 

「………」

 

来るところを間違えたかも知れない。そう思った峰田が、何となく鞭マシーンのボタンを入れた時、彼は最悪と言える形で一つの運命と出会う事となる。

 

「え゛え゛え゛え゛う゛う゛ッ゛!! イ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛!!」

 

「!?!?!?」

 

一体何時から其処でそうしていたのか、四つん這いの老人が鞭マシーンによって尻を叩かれ、くっそ汚い悲鳴を上げた。誰も居ないと思っていた為に心底ビビった峰田だったが、即座に鞭マシーンの電源を切り、老人に向かって当然の疑問をぶつけた。

 

「だ、誰だアンタッ!?」

 

「ハッハッハッ……も、もう一回。もう一回……もう一回……」

 

「………」

 

股の間から手を伸ばし、鞭マシーンの再起動を願う正体不明の老人。そんな老人の願いを峰田は聞き届け、再び鞭マシーンの電源を入れた。

 

「あ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛うう゛う゛う゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛! ウ゛ッ゛! ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ッ゛!!」

 

もう、これ以上見てられないし、聞いていられないし、やってられない。何が悲しくて、こんな山奥まで足を運び、鞭でケツをしばかれるジジイを見なければならないのだ。

そう思った峰田が鞭マシーンの電源を切ると、もう一度老人に向かって当然の疑問をぶつけた。

 

「いや、だから誰なんだアンタ一体ッ!!」

 

「ハッハッハッハッ……。お前こそ……何者だ?」

 

「お、オイラは峰田実。雄英高校1年のヒーロー科……です」

 

「……勝手に人の家に上がり込んで、主に向かって何者だ……とは、これ如何に?」

 

「そ、それじゃアンタが、変態仙人ッ!? でも、そんなトコで何してんだよぉ!!」

 

「……この鞭マシーンの鞭が当たる位置にいるのに、叩いては貰えない。焦らされておっただけだ。勿論、此処には私しかおらん。故に丸一日叩いては貰えない。そうして一日が終わる。焦らされたまま寝る。これを『エクスタシー』と言わずして、何と言う?」

 

「……え? それじゃあ、オイラ余計な事を……?」

 

「いや、叩かれたら叩かれたで、それはそれで……」

 

「………」

 

変態仙人が展開した独自の変態理論によって峰田は困惑するが、そんな峰田を余所に変態仙人が老人車を使ってゆっくりと移動すると、今度は何故かセルフで石抱を行い始めた。

老人車を使わなければ移動する事もままならない程に足腰が弱っているにも関わらず、片手で何10㎏もありそうな伊豆石を持ち上げるあたり、凄まじい怪力であると言うべきか、実にアンバランスな身体能力と言うべきか、非常に悩む所である。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!! それで、その……峰田君は、なんの用だ?」

 

「いや、その職場体験で変態仮面の所にいるんですけど、それで変態仮面に此処で修行する様に言われて……」

 

「い゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……ッ!! そうか……変態仮面に……」

 

「それで、オイラには『グレープジュース』ってヒーロー名があるのに、ずっと『変態ブドウ』とか言われて……。これじゃオイラがなりてぇ、カッケェヒーローには……」

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!」

 

「~~~ッ!! ちょっと静かにしてくんねぇかな、爺さんッ!!」

 

奇声とも喚声とも喘ぎ声ともとれる変態仙人の叫びに思わず峰田が怒鳴ると、変態仙人は膝に乗せていた伊豆石を横に置いた。どうやら峰田の話を真面目に聞くつもりらしい事を察した峰田は、ここぞとばかりに変態仙人に訴えた。

 

「オイラ……スッゲェカッケェヒーローになってッ!! それで女にモテモテになってッ! 女体に思う存分触れてみてぇんだッ!! 何でもするッ!! どうかオイラを、今よりももっと強く、カッコよくして欲しいッ!! どうか! どうか、オイラを……ッ!!」

 

「いぃ~~~~~よぉ~~~~~~~~~ッ!!」

 

「……え?」

 

「いや……だから、良いよって。……え? 何?」

 

「………」

 

正直、変態仙人の説得は難航すると思っていた峰田としては、変態仙人が案外呆気なく了承して貰えた事は良い意味で予想外であったが、予想外故に少しだけ思考が停止してしまった。

しかし、これはまたとないチャンスである。峰田は変態仙人の気が変わらない内に、早速「強くてカッコイイヒーロー」になる為の修行をつけて貰おうと、再び変態仙人に話しかけた。

 

「と、時に仙人ッ! オイラはどれ位修行すれば強くなれるんだ!?」

 

「そうだな……まあ、5日から一週間ってトコかな?」

 

「早ッ!! ヒーローの修行って5日位で出来るの!?」

 

「まあ……君の素質次第だがな。それじゃあ、早速……薪割りでもやって貰おうかな?」

 

「は……はいッ!!」

 

こうして、峰田の変態仙人の元での過酷な修行が始まった。風呂を沸かしたり、飯を炊いたりする為の薪割り。そこそこ広い敷地内の草むしり。変態仙人の愛車である軽トラの洗車……と、変態仙人が峰田に課す修行は、良い意味で峰田の予想を遙かに超えていた。

 

「(何か、案外まともに修行つけてくれてんな……でも、どうして必殺技とか、そーゆーカッコイイ感じの修行とか、全然教えてくれねーんだ? ……! そうか! 『ベストキッド』と同じパターンか! この作業の一つ一つが、強くてカッケェヒーローになる為の……例えば、必殺技の為の体力作りとか、そーゆー感じのヤツなんだなッ!!)」

 

「よっ!」

 

「あっと! おりゃッ!!」

 

「はい、セーフ。透明ランナー、一塁三塁……」

 

「(……何だよな?)」

 

ほんの少しだけ変態仙人の修行に疑問を抱きつつも、変態仮面の修行よりはマシだと思い、峰田は変態仙人と二人で草野球(透明ランナー法有り)を行い、夜になると二人で花火をして遊ぶと言う、常軌を逸した修行をこなしていくのであった……。

 

 

○○○

 

 

熾烈を極めた変態仙人の元での修行も今日で5日が経過し、職場体験も遂に最終日を迎えた。

 

「仙人……もう、職場体験の最終日なんですけど……」

 

「そうだな……僅か5日の間だったが、良い体になったな」

 

「!! ありがとうございます!!」

 

やはり、変態仙人の所に来たのは正解だったと峰田は思った。

 

そもそも変態というモノは本来、割と律儀な所がある生物である。言った事は必ず実行するが故に変態なのであり、有言実行をしない口先だけの変態など存在しない。仮にそんなヤツが存在するとしたら、ソレは変態という名を笠に着た只のクズである。

 

「それで仙人。最後に何か必殺技の一つでも……」

 

「いや……お前は既に、新しい力を手に入れている」

 

「え!?」

 

「……多分」

 

「多分ッ!?」

 

そう語る変態仙人は、おもむろに一枚のパンティを取り出すと、それを峰田に手渡した。

 

「ソレを、被ってみろ」

 

「これは……?」

 

「かつて、変態仮面が変身に使用したパンティ。つまりは、使用済みのパンティだ。勿論、『実はどっかの知らないおっさんが穿いたパンティだった』と言った産地偽装や、『実は妙齢とは名ばかりのBBAが穿いていたパンティだった』と言った詐欺紛いの事実は無い」

 

「……いや、オイラは別にこんなの被った所で……」

 

「良いから。兎に角、被ってみろ……」

 

変態仙人の真意を図りかねる峰田であったが、この5日間の修行を通して変態仙人には全幅の信頼を置いている。怪訝に思いながらも、峰田は大人しくパンティを仮面の様に被ってみた。

 

「……ほら、仙人。何も起こらないぜ。やっぱりオイラは……ッ!?」

 

そう言いながら、被っていたパンティを外そうとした峰田だったが、その体はこれまでに経験したことが無い、煮えたぎるマグマの様な熱く激しい衝動が沸き上がっていた。

 

「な、何だッ!! この脳天をぶち抜き、天に昇りつめる様な快感はッ!! それもじわじわと体に絡みつくようなこの恍惚感はッ!! そう! 例えるならコレはッ! 気分が……、気分が……ッ! 気分がエクスタシィイイイイイイイイイイイイッ!! フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

そして、ブドウを思わせる紫色の波動と、この世の者とは思えぬ凄まじい叫び声と共に、変態パワーを解放した次世代のアブノーマルヒーローが爆誕する。

 

「クロス・アウトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

頭ではなく、心が叫びたがっているだろう言葉を発した瞬間、峰田は一瞬にして服を脱ぎ捨てた。

そして、峰田がふと近くにあった姿見を見ると、そこにはパンティという名の仮面を被り、ブリーフを千巻のように捻り上げ、更には何故か網タイツを穿いていると言う、どこからどうみても恥ずかしい変態スタイルの怪しい男が……『変態ブドウ』としての覚醒を果たした自分自身が写っていた。

 

「これが……オイラなのか……。だが、何故だ……、何故なんだ……ッ!!」

 

「答えは……簡単……。んんんんんんんんんんんんんんんんんん……ッ!! ぬああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

想像すらしなかった変化に狼狽する峰田。そんな峰田を見た変態仙人は、ブラをゴーグルの様に装着すると、やたらと野太い声を発しながら、二本の足でしっかりとその場で立ち上がった。

 

「せ、仙人!?」

 

「フゥウウウウウウウウ……ハアッ!!」

 

そして、気合いと共に青い炎のようなエネルギー波を右手から発射すると、家の壁をエネルギー波で容易く破壊した。

 

「何ッ!!」

 

「スゥウウウウウウウウ……。良いか、変態ブドウ。私はお前や変態仮面と違い、ブラで変身する事が出来る。ただ、一点だけパンティとブラでは決定的な欠陥がある。ソレは『前が見えない』事だ。視界はほぼ0パーセントに近いッ!

しかしッ! 私は『ブラを被っていたい』と言う欲望の為に、目が見えなくとも周りの全てが確認できる『超音波』と言う新しい能力を手に入れた! そう、真っ暗な暗闇の中でも全ての状況を把握し、飛翔する事が出来るコウモリの様にッ!!」

 

「何……だと……ッ!!」

 

「お見せしよう……掛かってくるが良いッ!!」

 

「っしゃあッ!!」

 

この時、峰田は異常興奮によって変態の血が覚醒し、自分の体のリミッターを外す事に成功していた。その為、峰田の身体能力は爆発的に上昇していたのだが、そんな峰田の攻撃が変態仙人に通用する事は無かった。

変態仮面が岩をも砕く剛の技を持つ変態ならば、変態仙人は流水の様にしなやかな柔の技を持つ変態であった。その動きは見方を変えれば舞踊の様でもあり、繰り出した峰田の攻撃の全てを難無くかわし、受け流し、無力化してしまったのだ。

 

「す、すげぇ……」

 

「そう。『ブラを被りたい』という欲望の為に、本来人間が持てるべくもない能力を新しく獲得する事が出来る……それがッ! それこそが……変態の極意ッ!!」

 

「な……ッ!!」

 

「いいか、変態ブドウ。この5日間、お前のやって来た事は、実は何一つとしてお前が強くなる事に役立ってはいない」

 

「な、なんだと……ッ!!」

 

「しかぁあしッ! お前はこの5日間、女人を見る事すら出来ない環境で過ごしてきた。お前ほどの変態ならば、知らず知らずの内に女人を求めていたであろうッ! その思いは今ッ! 最高潮に達しつつありッ! 使用済みのパンティを被った事で、お前の内に眠る変態の血を……お前の中で眠っていた真なる力を呼び覚ます事に成功したのだッ!」

 

「ば、馬鹿なッ!! オイラの欲望が……オイラの眠っていた力を覚醒させたって言うのかッ!!」

 

「普段では周りを見ればふんだんに女人がおるし、インターネットで検索すれば簡単にエロ画像やエロ動画が手に入る。しかし、そんな甘っちょろい環境下では、変態の血がその真価を発揮する事はない。するはずが無いッ! そう……お前は今までずっと、『甘い変態』だったのだ……ッ!!」

 

「甘い変態……甘い変態だったのか、オイラは……ッ!!」

 

「そうッ! しかし、お前はここでの修行を経て、たった今『甘い変態』から……『ストイックな変態』に生まれ変わったのだッ!!」

 

「ス、ストイックな変態……ッ!」

 

峰田は自身の体に起こった変化の詳細を聞き、自らが習得した能力に戦慄すると言う、未知なる体験に心と体が震えた。そんな峰田を見て満足したのか、変態仙人はブラを外して変身を解除すると、元のよぼよぼの老人に戻った。

 

「コレにて、修行は終了。今やお前はパンティを被る事で、自在に肉体のリミッターを解除する事が出来る。そして、被るパンティの持ち主によって、その時に得られる力は異なり、その力の上げ幅も大きく左右される。後は、自分に流れる変態の血とベストマッチする……君にとっての『究極のパンティ』を見つけなさい」

 

「は……はいッ!! ありがとうございましたッ!!」

 

今の自分ならば増強系の“個性”を持っている緑谷に……いや、もしかしたらあの呉島にだって届くかも知れない。そんな事を考えて興奮していた峰田だったが、ふと鏡に映る自分の姿を見てある事に気が付いた。

 

自分は元々「強くてカッコイイヒーロー」になる為に、変態仙人に修行をつけて貰っていた筈なのに、今の自分の姿は果たして「強くてカッコイイヒーロー」なのだろうか……と。

 

普通、「強くてカッコイイヒーロー」と言うものは、何かしらの鎧やパワードスーツなんかを身に纏うものであるし、或いは特殊な素材で出来たスーツにマントを翻すものであるが、今の自分は着込むどころか、むしろ脱いでいる。

着ているモノと言えば、ブリーフに網タイツにパンティと、もはや防御力など無いに等しい。その分身軽にはなっているものの、全身を鎧でガチガチに身を固めた動きの遅い変態と、ほぼ全裸でアクティブに素早く動き回る変態では、果たしてどちらの方がカッコイイだろうか? 少なくとも後者では恐怖こそ感じるが、カッコイイと思う人間は限りなくゼロに近いだろう。

 

「あ……、それと麓のコンビニで、電気料金払ってくれる?」

 

「え? あ、はい……」

 

いやいや、まさか変態仙人に限ってそんな事は……と、思い直した峰田だったが、変態仙人から渡された電気料金の振込用紙に記載された名前を見た瞬間、背中を嫌な汗が流れた。

 

スズキ キョウザエモン

 

確か、変態仮面の本名は、「スズキ キョウスケ」だった筈。そして、この変態仙人の本名が「スズキ キョウザエモン」。つまり……

 

「……え? もしかして……」

 

「そう……変態仮面は、私の孫だ」

 

「……え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッ゛!?」

 

ニヤリと笑った変態仙人の顔を見た瞬間、家族ぐるみでまんまと騙されていた事を悟ると、飛彈の山奥に変態ブドウの雄叫びが木霊した。




キャラクタァ~紹介&解説

峰田実/変態ブドウ
 今回の番外編の主人公。以前に投稿した外伝で、麗日の使用済みパンティを装着する事で劇的にパワーアップする変態独自の強化法を披露(?)していたが、今回はそれの習得経緯を書いてみた次第。
 変態仮面の想像を絶するヴィラン退治に同行したと思ったら、変態仮面の手によってSMプレイを体験させられる羽目に陥ったりする等、ある意味では『すまっしゅ!!』の尾白並かそれ以上に不幸な目に遭っている気がするが、多分それは気のせいだ。

変態仮面/鈴木狂介
 自分の後継者として峰田を指名し、「正義の変態」として覚醒させようと企む究極のヒーロー。一応、ヴィラン退治やデスクワークなどのヒーロー活動を峰田にちゃんと体験させているので、最低限ではあるがヒーローとしての指導もしっかりとやっている。
 ちなみに彼がサイドキックを雇わない理由の一つとして、「自分のサイドキックになると、確実に周りの奴等に馬鹿にされてしまう。ヒーローとは人を笑顔にする職業であって、決して人を悲しませる職業では無い」からとの事。しかし、それでも彼のサイドキックになりたいと言うファンは後を絶たない。

変態仙人/鈴木狂左衛門
 変態界の頂点に君臨するとされるお方。普段は寄る年波に弱っているが、ブラをゴーグルの様に被る事で身体能力が爆上げされ、更にはエネルギー波まで繰り出す事が出来るデンジャラスじーさん。そして変態仮面の師匠であると同時に、変態仮面の実の祖父でもある。
 なお、『変態界の頂点』という肩書きは伊達では無く、変身している間は目が見えないと言うハンディを抱えているものの、それでも現役ヒーローである変態仮面と渡り合うだけの戦闘能力を持っている。原作で言うところの、出久にとってのグラントリノに該当する存在だが、ある意味ではオール・フォー・ワンに匹敵する存在……なのかも知れない。



飛彈の山奥
 変態仙人が一人で住んでいる場所であるが、実はシンさんが中学時代に凄ェデケェ猿を倒した場所でもある。もっとも、当時のシンさんは変態仙人の存在など知らないし、会ってもいないので、まさかその数年後に同じ場所でクラスメイトが変態的なパワーアップを果たす等、想像する事すら出来ていない。

変態ブドウ「変態! パンティ! ベストマッチ! YEAAAAAAAAAAAAAAAAH!」
シンさん「………」

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