そして今回は本編が3話と、外伝を1話の、合計4話を投稿します。本編は騎馬戦終了まで。外伝ではやっちまった感のある新キャラとMt.レディ達が登場し、それに伴ってタグや章管理等も変更します。
今話のタイトルは『仮面ライダー(初代)』のショッカーライダーが登場した話が元ネタ。そして、『怪人バッタ男』シリーズの実質的な通算13話目にして、遂にシンさんが“あの”必殺技を使います。ええ、まず出来ないだろうと思っていた“アレ”です。
別に意図していた訳では無いのですが、これも得体の知れないナニカの力が働いたのかも……と思ってみたり。
6/19 誤字報告より誤字を修正しました。ありがとうございます。
2018/10/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
2020/4/22 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。
それは、騎馬戦と言う名の合戦が開始される、ほんの数分前まで遡る。
「お前等を選んだのは、これが最も安定した布陣だと思うからだ」
轟焦凍は第一種目の結果に、自身が思っている以上に苛立ち、そして焦っていた。
オールマイトをも超えるヒーロー。
それは彼が物心ついた時から、父親であるエンデヴァーによって嫌と言うほど聞かされてきた自分のルーツであり、父親と自分が唯一共通している到達点であった。
もっとも、共通しているのは「№1ヒーロー」と言う結果だけであり、その内容に関して言えば、一方は「自身の果たせなかった野望を果たして貰う為」であり、もう一方は「憎悪する父親の全てを否定する為」と言った具合で、その行動原理は全くと言って良いほど異なっている。
「上鳴は左翼で発電し敵を近づけさせるな。八百万は右翼、絶縁体やら防御・移動の補助。飯田は機動力源。もとい、フィジカルを生かした防御」
「轟君は氷と熱で攻撃・牽制と言う事か」
「………」
エンデヴァーを超え、オールマイトを超える。それにはまず、緑谷出久と呉島新の二人を超えなければならない。
ある日、ひょんな事から二人が「オールマイトの後継者」と言える様な存在である事を知ってしまい、轟はそう強く思うようになった。特に新に関しては、元々随所で自分の琴線に触れるような事を言っていた事もあり、その日から余計に気になってしまった。
自分と何処か似ているようで似ていない。
似ていないようで何処かが確かに似ている。
そんな奇妙な感覚を覚える人物達への宣戦布告は、第一種目であっさりと破られてしまったが、この第二種目ではそうはいかない。更に呉島が緑谷と組んでいるこの状況は、自分にとって何かと都合が良いと言えた。
「いや……戦闘に於いて、左は絶対に使わねぇ……」
それは幼い頃から育まれた、否定を原動力とした戦闘スタイル。憎悪から生まれた歪な信念。
しかし、それだけでは無いのだと言う事を、轟焦凍は“まだ”知らない。
●●●
俺達の目の前で行われるのは、騎馬戦という名の合戦……と思いきや、数の暴力による一方的な蹂躙であり略奪だった。
「ネットアーーームッ!!」
「な、何だ、コレ!?」
「ヤベッ、絡まって身動きが……」
「BURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」」
おお、惨い惨い。イナゴマンが発目から借りた「対ヴィラン用捕縛銃」で敵チームを拘束し、そこを無数のミュータントバッタに変化した他のイナゴ怪人が襲いかかる。襲われたチームは全身にミュータントバッタが纏わり付き、為す術無く鉢巻きを奪われていく。絵面的にかなりヤバい光景だが、何と頼りになる奴等よ。
「はっはっ! どうだ、驚いたか腰抜け共! さあ行けぃ! 我が僕達よ!」
「「「「「「ローカスト・ホース・クラッシャーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」」」
「ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!」
……うん。何をやっているのか分からん豚が一匹、ローカスト・ライダーに面白いように跳ね飛ばされているが、アレは多分無視しても問題ない。
しかし、何故かあの豚のボケに対して本気の殺意を感じてしまっている事を考えると、もしかしたら、誰かの“個性”の術中に嵌っている可能性も否定できない。念の為に周囲を警戒しておいた方が良いかも知れないな。ちなみに豚の方は既にボロ雑巾と化している。
「まずはコイツ等を何とかしないとな……」
「チィイイッ!! 邪魔だッ! どけぇえええええええええええええええええっ!!」
やはり轟や勝己はイナゴ怪人に対して自分の“個性”で対応しているな。周囲に氷漬けのイナゴ怪人や、爆発でバラバラになったミュータントバッタの破片が散乱している。
よく見れば他にも対応しているチームは結構いるのだが、いずれにしても何度でも復活するイナゴ怪人相手に苦戦を強いられている。
しかし、幾らイナゴ怪人による数の暴力が可能だと言っても、全てのチームを押さえられる訳じゃ無い。絶対に何組かはイナゴ怪人の攻撃を抜けて――。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「おっと、どうやら可動域のプログラミングをミスったみたいです! ごめんなさい!」
「「「「………」」」」
そんな事を考えていたら、発目作のパワードスーツを身に纏ったイナゴ怪人2号が、パワードスーツの隙間から血を吹き出し、絶叫と共に血反吐を吐いて消滅した。主を失ったローカスト・ホースから緑色の血に塗れたパワードスーツが落下し、その所為でローカスト・ライダーの布陣に穴が開く。
するとそれを好機とみたのか、早速B組のみで構成された鉄哲チームが此方にやってきた。
「おっし! 運も実力の内ってな!」
「ふむ……終盤で逆転を狙うのが定石だが、B組である自分達の“個性”を分析されない序盤の方が、1000万を奪取できる確率が高いと踏んだようだな」
「VOODUDDDB!?」
「どうするって? 勿論、逃げの一手!」
「(何で分かるんだろ……)」
なるほど。確かにイナゴ怪人1号の言う通りだろう。しかし、接近している鉄哲チームのメンバーについてだが、実は四人全員の“個性”は、既に把握済みだったりする。
そして前騎馬が、第一種目の地雷原で地面をドロドロにして俺の邪魔をしようとしていたヤツである事を考えれば、前騎馬の奴が“個性”を使う前にこの場を離脱するのがベストだ。
「GOVUVOVVIG!」
「うん! 麗日さん、発目さん、跳ぶよ!!」
前騎馬の“個性”によって足が地面に沈む前に、麗日の『無重力』による総重量の軽減と、俺のバッタ特有の強靱な脚力の合わせ技によって、接近する鉄哲チームの頭上を飛び越え、空中を軽やかに移動する。ちなみにサポートアイテムのバックパックはまだ使用していない。
「かわした!? やっぱ、読まれてやがる!」
「逃がしません!!」
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
「!? こ、これも防いだ!?」
そんな俺達を追撃する茨状のツタを、無数のミュータントバッタに変化して追従するイナゴ怪人1号が、頭と両腕を部分的に生成して全て叩き落とす。その光景に眼下の鉄哲チームは驚いているが、これは全て必然の結果だ。
実はイナゴ怪人達は第一種目で、それぞれが様々な手段を用いて妨害活動に勤しんでいたらしいのだが、それによってB組の面々に“個性”を使わせており、ある程度までならB組の連中の“個性”も把握しているのだ。更に此方には、“個性”の分析では他の追随を許さない、重度のヒーローオタクである出久がついている。
つまり、事前に相手の“個性”の情報を一つでも与えれば、出久はその優れた分析力によって、いとも容易く行動パターンを予測する事が出来る。司令塔としてこれほど頼りになる存在はそうそういない。むしろそうそういてたまるか。
「……やっぱり凄い。攻撃はイナゴ怪人達に任せて、僕達は防御と回避に専念。しかも攻撃の手数そのものが何倍にも増えているお陰で、相手チームに攻撃させる隙を極力与えない! 正に『攻撃は最大の防御』って感じだね!」
フハハハハハ、そんなに言われると照れるじゃ無いか。でも良いぞ、もっと褒めてくれ。
内心で歓喜の笑いを上げつつ、麗日が装着する「ホバーソール」によって緩やかに着地する。初めて使うサポートアイテムをちゃんと使いこなしているあたり、麗日も地味に凄い奴である。
「RUBIGA、BBRUUBA!」
「うん。確かにそうだね」
「……ねぇ、シン君は何て言っとるん?」
「『この短時間で“個性”を制御しつつ、初めて使うサポートアイテムを使いこなすとは……。麗日、やはり天才か……』と王は言っている」
……うん。大分脚色されているけど、大体は合ってる。そうか、テレパシーで思念波を受信する事が出来るなら、こうしてイナゴ怪人に通訳をさせるのもアリか。
「え!? そ、そうかな?」
「それを言うなら、私のベイビー達はどうなんですか、呉島さん!? 可愛いでしょう!? 可愛いは作れるんですよ!! ねえ、どうなんですか!?」
「……AA、CIIMMJAN?」
「えっと……『発目さんのベイビー、すっごく可愛いよ!』って言ってるよ!」
「でしょーー!?」
「VUVA!?」
おいいいいいいいいいいいいッ!! 何でソイツの好感度上げる様な事言うんだ出久ぅうううううぅ! つーか、そんな事俺は全然言ってないだろうがぁああああああああああッ!!
いや、まあ確かに仲間割れするよりは良いよ? 良いケド、お前もコイツの本性は知ってるだろ!? コイツは目的の為なら手段を全く選ばない様な女なんだぞ!
「MUUU……UAA!?」
発目を何とかしなければと混乱する中、何かが此方に接近するのを「ハイパーセンサー」で感じ取った俺は、その何かを遮るように「超強力念力」を発動させる。すると、幾つもの紫色の球体が不可視の壁にぶつかり、空中で停止していた。
「やべぇ! バレてたぞ!?」
「黒影【ダーク・シャドウ】ッ!」
声のする方向を見ると、そこにいたのは『複製腕』で背中を装甲の様に覆った障子。そして『複製腕』の隙間から峰田と常闇の声が聞こえる所から、恐らくあの中に二人が潜んでいるのだろう。
三人の体格差を利用した作戦に俺が感心する中、今度は『複製腕』の隙間から影で出来た鳥形モンスター『黒影』が飛び出して、俺達に襲いかかってきた。
「オラァッ!!」
「フンッ!!」
「オラオラオラオラオラッ!!」
「フン! フン! フン!」
次から次へと『黒影』が繰り出す攻撃を、イナゴ怪人1号もまた次から次へと捌いていく。しかし完全に防御する事は出来なかったのか、1号の体に僅かだが切り傷が刻まれていく。
しかし、想定していたよりも『黒影』が強い。明らかに先週の授業で見た時よりも、『黒影』の持つパワーが、そして凶暴性が上がっている。どう言った原理で『黒影』が強化されているのかは分からないが、これはちと厄介だ。
「ラッシュの早さ比べか……」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
目にも止まらぬ早さで繰り出される『黒影』とイナゴ怪人の連続攻撃が、空中で激しくぶつかり合う。二体のモンスターが奏でる打撃音の協奏曲は、時間と共にボリュームが増し、リズムがますます加速していく。
「むう、やはり一筋縄ではいかんな……」
「ええ。良い策だと思ったから組んだけど……やっぱりシンちゃんは厳しいわ」
「やっぱりって何だよ! やっぱりって! いや、オイラもそうは思ったけどよぉ!」
「無駄ァッ!!」
「ギャンッ!!」
ここで衝撃の真実。あの『複製腕』の装甲の中には、梅雨ちゃんも入っていたらしい。あんな狭い中によく三人も入っているものだと驚く中、『黒影』とイナゴ怪人1号の戦いに終止符が打たれた。1号の鋭い拳が『黒影』の左頬に命中し、1号が「ラッシュの早さ比べ」を制したのだ。
「フフフ……やはり、『黒影』よりも我々『イナゴ怪人』の方がパワー、スピード、精密さ共に上だ。もう分かった。ここらで遊びのサービス時間は終わりだ……一気に止めを刺してくれる!!」
「怯むな、『黒影【ダーク・シャドウ】』ッ!!」
「オオラアァッ!!」
「ケロッ!!」
「DUMM!!」
「フン、甘いわッ! 今だ、2号ッ!!」
「応ッ!! トォオオオオオオオオウッ!!」
イナゴ怪人1号が『黒影』を羽交い締めにし、梅雨ちゃんの舌は俺の「超強力念力」で、峰田の『もぎもぎ』と共に難無く止める。そして、イナゴ怪人1号の合図に合わせ、復活して身軽になったイナゴ怪人2号が、人間戦車と化した障子に背後から襲いかかった。
しかし、肝心の鉢巻きは障子では無く、『複製腕』の装甲の中に入っている峰田が持っている事を考えると、奪取するには無数のミュータントバッタに変化するしかない。
……そう思ってきた時期が、俺にもありました。
『ああああ、アレはッ!! あああ、あんな隙間にッ! 背中を覆う「複製腕」の背後に出来た細い隙間に……無理矢理体を捻り込んで、入っていったーーーーーーーッ!』
「AGOGAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!」
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「ケロォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
そう。イナゴ怪人2号は無数のミュータントバッタに変化する事無く、無理矢理『複製腕』の装甲の中に侵入したのだ。もっとも、侵入したのは上半身だけで、下半身は外に丸出しの状態で不気味にワシャワシャと動いており、それは上半身の関節を外す所か、骨格をバラバラにでもしているのかと思わずにはいられない、凄まじい光景だ。
しかも、『複製腕』の装甲が共鳴箱の役割を果たしてしまったらしく、峰田の悲鳴を筆頭に、梅雨ちゃんと常闇の絶叫、そしてイナゴ怪人2号の雄叫びが圧倒的な音量でフィールド内に木霊し、周囲の注目を集めてしまっている。
「FUSSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
障子の背中が惨劇の館と化している事が容易に想像できる悲鳴が聞こえる中、イナゴ怪人2号が、突っ込んでいた上半身を『複製腕』の隙間から引っこ抜くと、2号の口には鉢巻きが咥えられていた。
恐らく峰田の頭を丸呑みにし、鉢巻きだけを奪い取ったのだろうが……そんな、人喰い怪人が密室に侵入して凶行に及ぶ場面を目の当たりにした梅雨ちゃんと常闇の二人は、まるでホラー映画の世界に入り込んだような気持ちになった事だろう。スマヌ。
「……MUUN!」
……まあ、「それはそれ、これはこれ」だ。とりあえずキープしておいた峰田の『もぎもぎ』は半分を障子に向かって跳ね返し、残り半分は周囲にばらまいて、他のチームへの牽制として再利用する。
「おっと! 危ねぇ!」
「へっ! 食らうかよ!」
しかし、流石に引っかからない。そこで、『もぎもぎ』を回避して接近する複数のチームから距離を取るべく、再び上空への脱出を試みる。今度は出久にバックパックも使用して貰い、先程よりも滞空する高度と距離を伸ばす。
「VIBBL! DAGGUGAVU!」
「うん! 二人とも、頭避けて!」
バッタの跳躍力と『無重力』に、バックパックの推進力が加算され、他のチームの手がまず届かないだろう上空という領域へ、すなわち安全地帯へと一時避難する。
だが何たることぞ、そこへ「待っていました」と言わんばかりの表情をした勝己が、俺達に単身で襲いかかってきたのだ。
「調子乗ってんじゃねえぞ、クソが!」
「!! あっちゃん!!」
「GVAU!!」
「! ……って、こんの……!!」
「させるかぁあああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
俺の「超強力念力」による不可視の壁を、『爆破』で無理矢理突破しようとする勝己に、発目から与えられたサポートアイテムである「スーパークーラー電動ブースター」を両腕に装着したイナゴ怪人V3が、竹トンボのようにT字の体勢できりもみ回転をしながら勝己に向かって突撃する。
しかし、イナゴ怪人V3の攻撃は、勝己のチームメンバーである瀬呂が勝己の背中にテープを貼り付けて引き寄せた事で、残念ながら空振りに終わった。
「ぬ!?」
「跳ぶなら跳ぶって言えよ! 危ねぇだろ!」
「……チッ!」
『おおおおおお!? 騎馬から離れたぞ!? 良いのかアレ!?』
「テクニカルなのでOK! 地面に足ついてたら駄目だったケド!」
そうか、アレもOKなのか。だとすればもう空中は安全とは言えないな。そう思って俺が他の移動手段を考えていると、信じられない光景が目に入ってきた。
それはイナゴ怪人X、アマゾン、ストロンガーの三人が、何故か他のチームから奪ったと思しき鉢巻きを、俺達にではなく葉隠チームへと届けていたのだ。更に、他のチームの妨害をしていたイナゴマンが突然妨害を止め、三人に加わって此方に向かって襲いかかってきたではないか。
「「「「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」」」」
「な、何で!? どうしてぇええええええッ!?」
「妙だ。まるで壁に遮られているかの様に、テレパシーが通じない。恐らく何者かの手によってテレパシーが妨害されている」
なるほどな。だがこの状況は「妨害」と言うより、むしろ「乗っ取り」と言った方が正しいだろう。そしてあのチームの中でそれが可能な“個性”を持っている奴は一人しかいない。しかし、アイツは虫が大の苦手だった筈だ。そんなアイツがミュータントバッタを操るなんて事は……。
「お行きなさい、破滅の使いなる者どもよ。私の声に従い、主の元を離れる時は今です。いいですか……」
……やってた。口田の奴、脂汗をかきながら涙を滝のように垂れ流し、ガタガタ震えながらも、普段の無口振りが嘘の様に超喋ってやがった。そして精神的に相当に追い詰められている所為か、顔には非常に濃い影が差していて、口田の表情はかなり怖い。
だが、コレは非常に不味い。乗っ取られているイナゴ怪人に共通しているのは、今年になって新しく生まれたイナゴ怪人であると言う事。
恐らく、その所為で本体である俺とのテレパシーによるラインが1号達に比べて弱い事が、口田の“個性”によって操られた原因だと推測できるが、既に4体のイナゴ怪人が乗っ取られた以上、このまま放置すれば1号達もどうなるか分からない。
つまり、イナゴ怪人達を解放するには、どうにかして口田を無力化させる必要がある訳だが……。
「VVU……DABAJJBAMMUYUODANA」
「? やるしか無いってどういう事?」
「『正直、勝己と轟にさえ注意していれば、我々の勝利は揺るぎないと思っていた。だが甘く見ていた。このバトルフィールドの中で本当に厄介なのは、物理的な攻撃力の高い“個性”ではなかった。真に恐ろしいのは……この生き物を操る“個性”を持つ口田だったのだ!!』と王は思っている」
「いや、だからそれでどうしたのって聞いて……」
「『だから、見せつけるしか無いんだ! 口田の“個性”を攻略するにはッ! ヤツ以上の『覚悟』がある事を、見せつけるしかねぇッ!! 覚悟はいいか!? 俺は出来てるッ!!』と、王は決意している」
うむ。やはりかなり脚色されているが、大体合っている。これで意思の疎通は完璧だな。
「……よく分からないけど、とにかく攻略方法があるなら、此処はあっちゃんに任せるよ! 麗日さんと発目さんもそれで良い?」
「う、うん!」
「私としましては、大事なベイビーが傷物にならないなら何でも良いです!」
よし。チームの了承は得た。気をつけなくてはならないのは、発目のベイビーを傷つける事だけ。その程度の制限ならばクリアするのは容易い。
「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
イナゴマンが発射する「対ヴィラン用捕縛銃」のネット弾を「超強力念力」で跳ね返し、逆にイナゴマンを拘束してローカスト・ホースから引きずり下ろすと、イナゴマンの体を両手の「ハイバイブ・ネイル」で、ネット弾ごとズタズタに切り裂いた。
「BUSSSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「WRYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ローカスト・ホースからジャンプし、襲い掛かるイナゴ怪人Xを、すれ違いざまに「スパイン・カッター」で首を掻っ捌いて両断する。Xの首から噴水のように血が噴き出し、Xの体は力なく倒れた。
「GEGEGEGEGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」
「DUURYJAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
殴りかかるイナゴ怪人アマゾンの右手をひねり上げて押さえ込み、右腕を根元から引っこ抜く。そして引っこ抜いた右腕を放り投げ、アマゾンをサッカーボールのように蹴り飛ばす。
「QUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
後ろから襲ってきたイナゴ怪人ストロンガーに対し、大きく旋回して振り向きざまに腹を手刀で貫くと、そのまま腕を振り上げて、正中線を抜く様に真っ二つにした。綺麗に半分になったストロンガーの体は、モーゼの十戒の如く二つに割れた。
「GINYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
『おいいいいいい!? 何だよ、ありゃあ!! 並みのヴィランが可愛く思える様な展開になってんぞぉおおおおお!? もはやヒーローかヴィランかってゆーか、もう人間かどうかってレベルになってんじゃねえかーーーーッ!?』
『……極端な奴だな。本当に』
プレゼント・マイクの実況が心に深々と突き刺さる中、何度倒しても何度でも復活し、我武者羅に此方に向かってくる4体のイナゴ怪人を、「スパイン・カッター」によるチョップや、「ハイバイブ・ネイル」による腹パンや目潰しと言う、まず人間相手には使えない技を駆使してなぎ倒し、葉隠チームがイナゴ怪人達から奪取したポイントを奪還する為、全身が血塗れになりながらも、葉隠チームへ向かって真っ直ぐに近づいていく。
ちなみに、出久達には「超強力念力」による薄いバリアが張られている為、イナゴ怪人達の返り血を浴びて服や体が汚れる事は無い。返り血をまともに浴びているのは俺だけだ。
「RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「ビャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
一方の口田だが、俺の姿を見た恐怖によって錯乱状態に陥ってはいるものの、自分の“個性”を解除する事は止めない。
俺としては口田が操るイナゴ怪人達を片っ端から撃破する事によってビビらせ、口田に「イナゴ怪人を操ることは無駄だ」と思わせて、“個性”を解除させると言う策を考えていたので、これは少々厄介な展開である。最悪、口田は気絶するまで“個性”を解除する事を止めないかも知れない。
しかし、だからと言って攻撃の手を止める訳にはいかない。この『雄英体育祭』が全国に放送されている以上、口田によって「イナゴ怪人は“個性”によって支配権を奪う事が可能な存在である」と、電波を通して不特定多数に知られてしまっている。その中には勿論、『敵連合』のハンドマンやミストマンも含まれている。
だからこそ、「操っても無駄だ」と言う事を、口田だけではなく、全国で視聴しているだろう、ハンドマンを筆頭としたヴィラン共にも知らしめる必要がある。だから絶対に止める訳はいかない。
「BUGYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「だ、駄目だ! やっぱり、呉島は強過ぎるッ! こ、こうなったらッ!!」
イナゴ怪人アマゾンの首に「ハイバイブ・ネイル」を突き立て掻き切り、アマゾンが鮮血と共に無数のミュータントバッタの死骸となって崩れ落ちた瞬間、耳郎の『イヤホンジャック』が胸に突き刺さった。さては、爆音による攻撃で足を止める気だな?
そう思った俺が胸に突き刺さった『イヤホンジャック』を引き抜こうとしたその時、不思議な事が起こった。
「あんぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
「!?」
何故か耳郎が絶叫してその場に膝をつくと、胸に突き刺さった『イヤホンジャック』が勝手に抜けたのだ。誓って言うが、俺はまだ何もしていない。
『一体、どうしたーー!? 何故か攻撃を仕掛けた葉隠チームの耳郎がいきなり倒れたぞぉーーー!? 緑谷チームの呉島、一体何をやりやがったーー!?』
そんな事、俺が知るか! むしろ、俺の方が何でこうなったのか知りたいわ!
『呉島は何もしてねぇよ。この現象に原因があるとすれば、それは耳郎の方だ』
『あん? どゆこと?』
『耳郎の「イヤホンジャック」は、心臓の音を増幅する事で爆音にして、突き刺した相手に送り出す事が出来るが、突き刺したモノから音を聞き取る事が出来る“個性”でもある。つまり耳郎は突き刺した物に音を送り込む時、逆に突き刺した物が発する音を聞くリスクがある』
『えっと……つまり、どーゆーことだ?』
『分かれよ……。つまり、爆音レベルまで増幅させた耳郎の心臓の鼓動より、素の状態の呉島の心臓の鼓動の方が強い。その所為で、耳郎が送り込んだ爆音が掻き消されて、逆に呉島の心臓の鼓動が耳郎に送り込まれたんだ。つまりは自爆だ』
『解説サンクス! ……って、ちょっと待て、オイ! ただの心臓の鼓動で撃破って、冗談だろぉーーー!? 「キングエンジン」でも持ってんのか、アイツはぁーーー!?』
俺からも解説サンクス、相澤先生。しかし、プレゼント・マイクの言う『キングエンジン』って一体何だろう? よく分からないが、中距離攻撃が出来る耳郎が倒れた今が絶好のチャンス。
そう思った俺の前に、再び立ちはだかるイナゴ怪人ストロンガーの頭を俺は左手で鷲掴みにし、右腕の「スパイン・カッター」で首を切り裂き、胴体を蹴り倒す。
ただこの時、俺は完全に首を切断していなかったようで、蹴り倒したイナゴ怪人ストロンガーの胴体から、まるで魚の骨を引っこ抜くように、ズルズルと脊髄が引っこ抜かれてしまった。お陰で左手に持っているストロンガーの頭の下には、緑色の血にまみれた脊髄がブラブラと揺れている。
「WUUSYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」」」」
左手に握ったイナゴ怪人ストロンガーの首を放り投げ、絶叫する葉隠チームの真横を通り過ぎる瞬間、騎手の出久が鉢巻きの奪還に成功。その手には2本の鉢巻きが握られている。
「よし! 取ったよ、あっちゃん!!」
『緑谷チーム、葉隠チームから鉢巻きを奪取! これで怪人同士の残虐バトルもようやく見納めかーー!?』
「……む? これは、一体……」
「確か私は、葉隠チームの鉢巻きを奪おうとして……」
「ウウ、頭ガ……」
……ああ、イナゴ怪人が元に戻ったから、これで終わりだよ。多分な。
一方の葉隠チームだが、鉢巻きを奪われたにも関わらず、ムンクの「叫び」の様な恐怖の表情をしたまま、4人全員が微動だにしていない。……もしかしてアイツら、立ったまま気絶してる!?
『って、よく見たら葉隠チーム、全員白目向いて気絶してるじゃねーか!? いや、そもそもさっきの展開って大丈夫なのか!? 色んな意味で!』
「GUUUUUUU、FURURUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU……」
「……ま、まあ、騎馬を崩そうとした訳じゃないし、今回は不可抗力って事でOK!」
とりあえず、ミッドナイトの判定はOKらしい。足が生まれたての子鹿の如く小刻みに震えているが、それは決して体中に緑色の血がべっとりと付着している俺が怖過ぎる事が原因ではない……と信じたい。
こうして奪還作戦は見事に成功し、イナゴ怪人達はこちらに戻ってきた訳だが、この後で回避不可能な致命的デメリットが発生する事に、内心で深く絶望する。
それはズバリ、大会が終わった後でのクラス内の人間関係の悪化は免れないと言う事。
耳郎とはお互いにお気に入りのアーティストの音楽CDを貸し借りしあうなんて事は二度と無いだろう。
砂藤とはお菓子の美味い店の情報をやりとりし、一緒に買い食いに行くのは今後不可能となるだろう。
葉隠とは食堂で俺と同じ席に座って、お喋りしながら楽しく昼休みを過ごすなんて機会は、もはや絶対に訪れないだろう。
口田に至っては、金輪際口を利かないどころか、最悪の場合、卒業するまで何のやりとりもなく高校生活が終わるかも知れない。
いずれにせよ、この作戦で俺が今まで小石を積み上げるように少しずつ築き上げてきた「人間関係における好感度の山」が、平地になるどころか、もはやマリアナ海溝よりも広く深い溝と化す事は必然。
そんな苦労の結晶を、自らの手で一気に切り崩すような作業によって、俺はまるで全身の細胞が死滅していく様な喪失感と気持ち悪さを覚えるが、それでも周囲に気を配りつつ、奪うべき次の『鉢巻き【獲物】』に狙いを定める
ただ只管に、頂点を目指してッッ!!
『さ、さーて! やはり狙われまくる1位と、猛追を仕掛けるA組の面々共に実力者揃い! 7分が経過した現在のランクを見てみよう!』
ほう。途中経過を教えてくれるとは、中々親切だな。これでどのチームの鉢巻きを奪えば良いのかが一目で分かる訳だ。そこで早速、モニターを確認してみると……。
1 緑谷チーム 10002775P
2 鉄哲チーム 990P
3 轟チーム 625P
4 拳藤チーム 275P
5 峰田チーム 0P
6 物間チーム 0P
7 爆豪チーム 0P
8 鱗チーム 0P
9 小大チーム 0P
10 角取チーム 0P
11 心操チーム 0P
12 葉隠チーム 0P
おお! 1位であることは分かり切っていたが、それを差し引いたとしても、獲得したポイントは合計2390! そう考えるとこの試合、既にして我が軍は圧倒的ではないか! 凄いぞ、イナゴ怪人!!
……む? アレ? よく見たら、これって……。
『上位4チームは今のところ、A組とB組が半々! でもまだまだ勝負はこれから……って、んん!? これ良く見たら……てか、爆豪、アレ!?』
プレゼント・マイクが動揺するのも無理は無い。爆豪チームが0Pだと!? とても信じられない事だが、勝己の奴は一体誰にやられたんだ!?
「!! BGARUUVU!!」
「へぇ、周りが見えてなかった様に見えたんだけど、意外に見えてるんだねぇ」
……と、俺が思うのも束の間、何時の間にか接近していたB組の物間チームの攻撃を、間一髪の所で避ける。騎手の物間の手が俺の「ハイパーーセンサー」を掠めた瞬間、爆発が起こったのが気になるが、騎馬の足を「超強力念力」で止めて、一端距離を取る。
「アレアレ? 1位なのに0Pの僕達から逃げるのかい? おかしいなぁ、1位になる位の実力なら、逃げること無く立ち回る事なんて、出来て当然なんじゃないのかなぁ?」
「………?」
何だ、コイツ? 何か人を小馬鹿にしたような態度と、鼻につく笑顔で此方を挑発しているのだが、どう言う訳か目が全然笑っていない。
それに加えてコイツからは俺に対して、何故か並々ならぬ恨みや怒りと言った感情が感じ取れるのだが、ぶっちゃけコイツとは一切の面識が無く、俺はコイツを全然知らない。にも関わらず、この殺気……一体、何者なんだ?
「何だ。誰かと思えば、先程『ボンバー・ファッキュー』から鉢巻きを奪って、得意面で親切かつ懇切丁寧にベラベラと策を説明した挙げ句、V3が放り投げた目先の鉢巻きに目を奪われて、持ち点を2号にゴーカイに奪取された、おマヌケヤローではないか」
……ああ、なるほど。それでイナゴ怪人を操る、本体である俺の方に来たのか。
とりあえず納得はしたが、コイツの立場で考えると、確かにそれはキツイ。策士面で大上段から勝ち誇りを誇示した矢先、敵の策にまんまと嵌まって手柄を全部横取りされた訳だ。そんな事をやられたら、コイツはもう立つ瀬無い。
……ん? と言う事は、つまり勝己の鉢巻きは、俺達が持ってるって事なんじゃ……。
ま、まあいい。それよりも重要なのは目の前のコイツだ。束の間とは言え、あの勝己から鉢巻きを奪取したとなれば只者ではあるまい。
「まあ、君の“個性”は確かに強い。この中だとダントツだろうさ。それは認めるよ。だけどね、その自分の強さが、自分の首を絞める事になるんだ……」
「気ぃつけろ、呉島ぁ!! そいつ、触った相手の“個性”が使える“個性”を持ってんだ!! 絶対に触られるなよ!!」
「切島ぁ!! てめぇ何、アイツ等に塩、送ってんだ!!」
「良いだろ別に! B組だってクラスぐるみでやってんだからよ!」
声がした方に目を向けると、そこにはローカスト・ホースに跨がり、縦横無尽にフィールドを駆け抜けるイナゴ怪人2号と、それを追いかける爆豪チームの姿が。
この合戦場に於いて、敵である俺達に貴重な情報を送るとは……。切島、何とも男気に溢れる男よのう。
……え? ちょっと待って? 今コイツの“個性”が「触れた相手の“個性”が使える“個性”」だって言った? それにさっきのコイツの発言から察するに……ま、まさかコイツ!?
「はぁあああああああ……UWYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
俺の嫌な予感は見事に的中し、物間の肉体はみるみる内に、俺と同じ怪人バッタ男へと変化し始めた。その光景は正に「グロテスク」と言う表現がピッタリと嵌り、自分が言うのも何だが、何とも形容しがたい非常にオゾマシイ光景だ。
「ど、どうしよう! シン君と同じ“個性”だなんて、ヤバすぎるよ!」
「……いや、待つのだウラビティ。何か様子が……」
「GRYUUUUIIIIIIIIIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!! DRYUUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」」
「「「「!?」」」」
怪人バッタ男への完全変態を遂げた物間が、全身を掻きむしる様に両手を動かしてジャージを引き裂き全裸になると、自分を中心にして衝撃波の様なモノ……すなわち「超強力念力」を放ち、支えていた三人の騎馬を吹き飛ばしてしまったのだ!
「KKKKK,COROROROOOOOOOOOOOOOOOO……」
「な、何!? 何なの!? どうなってんの!?」
「……やはりな。身の程知らずが、軽々しく王の“個性”を使うからだ」
「えっと……、つまりどういう事!?」
「お前達は知らないだろうが。王が“個性”を使い、その肉体が人間からバッタ男へ変化する際、凄まじい激痛が全身を走る。王は当然それに耐えられるが、奴はそれに耐えきれずに意識を失い、所謂『暴走状態』を引き起こしてしまったのだ」
「ぼ、暴走状態!?」
「そうだ。アレはもはや人間では無い! 只ひたすらに、目についたモノを手当たり次第に破壊し、叩きつぶし、引き千切り、切り刻む! 性欲と闘争本能と殺戮反応がない交ぜになった衝動に支配された魔物だ!」
なるほど、そう言われてみれば、俺が何時も赤い目をしているのに対して、目の前のコイツは白い目をしているな。イナゴ怪人1号の言う通り、恐らく白目を剥いて意識を失っているのだろう。
ナイスな解説をありがとう、イナゴ怪人1号。しかし、頼むからもう止めてくれ、その発言は俺にも効く。つーか、効果は抜群だ。
「物間チーム失格! 直ちにフィールドから退出して……」
「KYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
「え!? ちょ、何ッ!?」
「イカンッ! ローカスト・ホォーーーーーーーーースッ!!」
「GYUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ミッドナイトの言葉を無視し、B組の女子だけで構成された拳藤チームに襲いかかろうとしていた物間を、イナゴ怪人1号がローカスト・ホースをぶつける事で妨害する。
「あ、ありがとう……」
「気をつけろ! 奴は今、衝動の赴くままに、うら若き乙女の肉体を求めて暴走しているのだ!」
「ま、マジ!?」
「……じゃあ、何で一番アブナイ格好のミッドナイトに襲いかからなかったんだ?」
「“うら若き乙女”だからな……」
「………」
何時の間にか復活していた、一匹の豚の不躾な発言を受けて、無言でツカツカと歩み寄ったミッドナイトが豚に鉄拳による制裁を下す。
しかし、そんな事は些細なことだ。今は、この暴走状態の物間を何とかしなければならない。
ちなみに、吹き飛ばされて負傷した物間チームの三人は、イナゴ怪人X、アマゾン、ストロンガーの手によってフィールドから連れ出され、リカバリーガールの元へ搬送されている。
「安心しろ王よ! この王の“個性”を汚した不届き者は、このイナゴ怪人1号が倒す!」
「!? GOBI、WAZRE、TAAERDFYPA!?」
「ふっ、心配せずとも、見ておればよい! さあ、来るが良い! 緑色で気持ち悪い、醜悪なバッタの化物めッ!!」
だから、俺も傷つくような煽りはヤメロォオッ!! つーか、バッタの化物って、お前等が正にそれじゃねーか! 鏡を見てから物を言えや!
「QUUUUURUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAA……」
「第二のイナゴ怪人が生まれた時、私は『イナゴ怪人1号』となった! 最古を示すその意味と理由を、その心と体で思い知るがよいッ!!」
……そうだよ。初めからそう言えば良いんだよ。ようやく分かってくれたか、イナゴ怪人1号!
「……XIVVU、LARIVANAWWAXEROU」
「う、うん、あっちは1号に任せよう! 僕達は……」
『さあ! 残り時間は半分を切ったぞ!』
「……こっちだ」
「そろそろ、奪るぞ……」
『ヒーローの卵達を差し置いて、怪人共が大暴れする中、果たして――1000万Pは、誰に頭を垂れるのかーーーーー!?』
残り時間が半分を切り、後半戦に突入した刹那、今大会で最も警戒すべき轟チームが、遂に俺達の前に立ちはだかった。
「まずは……」
「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「……お前だ」
そんな轟チームの背後から、イナゴマンが奇襲を仕掛ける。しかし、轟は慌てず騒がずイナゴマンを氷結によって氷漬けにした。しかし、イナゴ怪人はミュータントバッタが補充できる限り、何度でも蘇る不死身の兵隊。凍らされてもすぐに復活して……
「……?」
「え……?」
……復活しない? どう言う事だ?
「殺してもすぐに復活する特性を持つ怪人。逆に言えば、“生きている限りは復活しない”って事だ。まあ、生きてるんだから、そりゃ当然なんだがな。
だから、生かさず殺さずの微妙なラインで凍らせた。所謂『仮死状態』ってやつだ。変温動物のバッタを相手にソレをやるのは調整が難しかったが……ようやく上手くいったな」
「WUUUUUUUUUUUUUUU……」
なるほど、確かに「必ず勝つ」と豪語するだけはあるな。
イナゴ怪人を攻略し、1000万Pと言う名の「首級」を上げんと、轟は氷の様に冷ややかで、炎のように熱い視線を俺達に送っていた。
キャラクタァ~紹介&解説
緑谷チーム
圧倒的フィジカルとスタンド……もとい、イナゴ怪人によって、原作以上の驚異的な戦闘力を発揮。もっとも、シンさんに関して言えば、作中で披露した『アマゾンズ』や『真・仮面ライダー 序章(プロローグ)』的な残虐バトルによって着実に、そして知らない間に「18禁Gヒーロー」の座を確固たるものにしつつある。
峰田チーム
原作の三人に常闇が加入。定期的に闇を補充できるスペースを確保出来た事もあって、攻撃力と防御力は原作より高いが、それでもシンさんとイナゴ怪人の相手は少々分が悪かった。作者としては、この「雄英体育祭編」の中で、常闇の『黒影』と、シンさんのイナゴ怪人によるスタンド対決は、どうしてもやっておきたかった。
葉隠チーム
数少ないイナゴ怪人を「攻略」できる“個性”を持った口田がいる事もあって、原作よりは活躍したが、全員が超弩級のトラウマ映像を脳裏に焼き付けられてしまう羽目に陥り、最終的には戦線離脱。まあ、シンさんのダメージもかなりデカいのだが。
ちなみに耳郎の「心臓の鼓動で撃破」は、『新仮面ライダーSPIRITS』の、ライダーマンVS大首領JUDOが元ネタで、“個性”のリスクに関しては作者の独自解釈である。いずれにしても、シンさんがラスボスポジなのは変わらない
物間チーム
物間がシンさんの“個性”を使おうとした結果、肉体の変化に伴う激痛の余り、鬼塚変身体的な『改造兵士レベル3(プロトタイプ)』的な存在に変貌し暴走。騎手が地面に足をついて失格となり、作戦は大・大・大・大・大失敗。尚、物間チームとイナゴ怪人達とのやりとりについては、次話で詳しくお伝えします。
鱗チーム
原作の鱗飛竜と宍田獣郎太の二人組に、ぶりぶりざえもんこと神谷が加入。しかし、ローカスト・ライダーを目にした瞬間、速攻で彼等を裏切った。とりあえず神谷に関してはまだ出番があるので、ぶりぶりざえもんファンの方は安心されたし。
各チームの持ち点
一応、エクセルを使ってそれぞれのPを算出し、ちゃんと計算してやっているのだが、それを逐一書いてみたら、読んでいてしつこい印象を与えている様な気がしたので、各チームの持ち点の公開は、今回の途中経過のみに抑える事に。要望があれば、第一種目の結果も合わせて、後日活動報告にでも記載しようかと思いますが……。
ローカスト・ホース・クラッシャー
ローカスト・ホースに跨ったイナゴ怪人による轢き逃げアタック。元ネタは『仮面ライダー』でサイクロン号を用いた突撃技「サイクロンクラッシャー」。イメージ的には、旧1号がゲバコンドル使った方ではなく、旧2号がヒトデンジャーに使った方。まあ、バイクじゃなくて馬なんだけど。
イナゴ怪人1号VS黒影【ダークシャドウ】
元ネタとしては『ジョジョ』第三部の承太郎とDIO様の最終決戦。でも、その後の展開については、ジョジョ『第二部』のサンタナ。いずれにしてもジョジョネタばっかだが、作者の趣味で騎馬戦はジョジョネタばっかになる。
シンさんVSイナゴ怪人(イナゴマン~ストロンガー)
元ネタは『アマゾンズ』のアマゾンオメガVSアリアマゾン。開会式に続いて、アリアマゾンの惨劇が再びお茶の間に流れる事になったが、アマゾンオメガもやらなかった下記のキメワザが一番ヤバいのは言うまでも無い。
脊髄ぶっこ抜き
シンさんの代名詞と言える必殺技であり、『仮面ライダーシリーズ』の長い歴史の中でも最強レベルのトラウマ技として名高い、文字通りの“必ず殺す技”。その説得力はある意味『BLACK RX』の「リボルクラッシュ」を上回る。つまり、相手は死ぬ。
以前に作者は「流石に『ヒロアカ』でコレを出すのは無理だろう」と言っていたが、作者の悪い癖が発動した所為で、よりにもよって「雄英体育祭」と言う大舞台で使用される。この光景は当然、全国のお茶の間に流されてしまっており、もはやシンさんの知名度は色んな意味で鰻登り。それが良いか悪いかは別として。