怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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ヒロアカの第2期アニメを見たテンションと、GWで上手い事休みがとれた結果、上手い具合に一気に書き上げる事が出来ました。気分としては『ジョジョ』第四部の岸辺露伴です。もっとも、「仕事で月単位の長期出張が入ったので、その反動なのか……?」とも思っていますが。

更に今後の予定を考えると、次回の投稿はかなり時間が空くと思います。悪しからず。

そして今回も二話連続投稿。この後でもう一話投稿します。今回は二万字超えになった話を分割した為、一話当たりが11000字程度に収まっています。だから何時もより短いと感じるかも知れませんが悪しからず。

2017/11/21 誤字報告より誤字を修正しました。ありがとうございました。

2018/5/21 誤字報告より誤字を修正しました。毎度報告ありがとうございます。


第8話 勝利に飢えた怪人達

突然ですが、皆さんは『テロ』と言う行為をご存じだろうか?

 

テロとは“恐怖”を与える事で、最終的に自分達の要求を相手に呑ませる行為であり、此方が相手に与える“恐怖”が大きければ大きいほど要求は通りやすくなるが、“悪印象”が大きいと反対に要求は通りにくくなる。

しかし、多くの場合“恐怖”の大きい手段とは、“悪印象”の大きい手段でもあり、言うなればテロとはジレンマを抱えている行為なのである。

 

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

『普段は静かなる男ッ! 身長199.9cm、呉島新ッ! 雄叫びをあげてゴールへ突進するゥウウッ!! 予選となる第一種目「障害物競走」ッ! このまま一位通過と言う栄光で飾れるかぁああーーーーーーーーーッ!!』

 

……いや、別に他意は無い。俺も知らない未知の能力で、プレゼント・マイクの肉体を乗っ取り、俺だけを実況するイナゴ怪人V3の放送を聞いて、ふとそんな事を思っただけだ。それ以上でも、それ以下でも無い。

 

しかし、プレゼント・マイクがイナゴ怪人V3に乗っ取られた理由は、先ほどV3が言ったこともさる事ながら、さっきプレゼント・マイクが実況でこの障害物競走の事を「何でもありの残虐チキンレース」と表現した事に対して、「“残虐”って言葉を使うんじゃねぇ! カリカリしてんだッ!!」と思ったことも一因だろうか?

 

そんな事を考えながらコースを爆走していると、第二関門らしき場所が見えてきた。

 

『あ、穴だらけだぁーーーーーーーーッ! 掘削ヒーロー「パワーローダー」の手によって、地面がまるで「トムとジェリー」に登場するチーズの様だぁーーーーーーーーッ! 落ちればコースアウトと見なされ、一発退場は免れない第二関門「ザ・フォール」ッ!! その深淵は地獄の一丁目へと続いているゥウーーーーーーーッ!!』

 

ふむ、確かにフィールドは穴だらけで、一応どんな“個性”持ちでも渡れる様にロープが張ってある。安全に進むならロープを使うべきだろうが……問題ないッ!! 232mまでならッッ!!

 

「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

『おぉ~~~~~っとぉッ!! 義経よろしくフィールドを縦横無尽に跳び回り、第二関門を難なく突破していくゥウウウウ! 何という素晴らしい身体能力ッ! 生物型“個性”の面目躍如だぁーーーーーーッ!!』

 

よし! この勢いを維持したまま何とか逃げ切りたいところだが……、そろそろ勝己が調子を上げてくる頃だろう。勝己の“個性”はその性質上、動けば動くほど強力なモノになるスロースターター。つまりは時間経過に伴って出力が徐々に上がってくると言う、戦闘においては非常に厄介なタイプだ。

 

『そして早くも最終関門ッ! 威力・閃光・爆発音を調整した特別製の対人地雷が行く手を阻む「一面地雷原」ッッ!! 他を圧倒する先駆者にこそ受難と言う壁を与える、雄英の在り方を体現する地獄のステージだぁーーーーーーーーーーーッ!!』

 

『おい、それじゃ雄英が地獄みたいじゃねーか』

 

一面地雷原? なるほど、よく見れば至る所に円形にへこんだ部分がうっすらと見えており、地雷が埋まっている場所が分かるようになっている。理想としては地雷を踏まずに突破する事だが、一足飛びに行くには少々遠い。足場としてイナゴ怪人を利用したい所だが、テレパシーで感知できる限り、連中を今いる場所から呼び戻すには時間がかかる。

 

……ならばッ!!

 

「GUUUUUUUUUUUUUU……!!」

 

両手の指を地面にめり込ませ、両足をバッタの後ろ足のように変化し、全身がバネになったイメージで両足に力を貯める。

入学初日の「“個性”把握テスト」で使った、バッタ人間だからこそ可能な、特別なクラウチングスタートによって、俺は人間……もとい怪人砲弾と化し、地面すれすれの低空飛行でここを突破するッ!!

 

「GUUUU……E―――――――――――――――――――――――――――――!!」

 

限界まで貯めこんだパワーを、絶叫と共に一気に解放する。こうして俺は「気を付け」の姿勢で、空中を地雷原の向こう側へと真っすぐに突き進む……筈だった。

 

両足の先端が僅かに凍らされ、その直後に後頭部を蹴られなければ。

 

「UWII!?」

 

「悪ぃな」

 

「どけぇええええええっ!! シンンンンンンンンッ!!」

 

「UVOAA!?」

 

考えるまでも無い。轟と勝己の仕業だ。

 

そして地雷原を一気に突破する事だけに集中していた俺は、「気を付け」の体勢を維持したまま、地面に顔面を強かに打ち付けた。これが普通の地面に打ち付けたのなら、鼻血が出る位の負傷で済んだが、俺が顔面を打ち付けた場所には円形の窪みが出来ていた。

 

つまり、俺の顔の地下約15cmの場所には地雷が埋まっており、俺は地雷を顔面からモロに受けてしまったのだ。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

『何ぃいいいいいいいいいいいいッ!!』

 

『呉島の“アレ”は「“個性”把握テスト」の時に見せてるからな。一度見たなら奴等も対処する事は可能だろう』

 

『おのれぇええ、舐めた真似をぉおおおおッ!! 「半分こ怪人W」に、「爆発怪人ボンバー・ファッキュー」がぁあああああああああッ!!』

 

『何だよ。「半分こ怪人」に「爆発怪人」って』

 

『……ハッ!? しまった!! サプライズ目的で考えていたヒーローネームをうっかり喋ってしまった!!』

 

『お前らそんな事してたのか』

 

ちなみにこの放送を聞いたA組は、イナゴ怪人の妙に高いネーミングセンスがツボに入って一斉に吹き出し、半分こ怪人Wは華麗にスルーし、爆発怪人ボンバー・ファッキューは苛立ちを隠すこと無く吠えた。

 

『おい、そろそろ他の奴の実況もしてやれ』

 

『……良いだろう。王の回復には時間が掛かりそうだ。その間に他の連中を実況してやろう』

 

しかし……クソッ、不味いぞ。今の爆発で目をやられた上に、二本の触角も捥げた様だ。お陰で今までと違い、周りの状況は聴覚や雰囲気で判断するしかない。

轟と勝己に先を越されて一位から転落し、地面に叩きつけられてうずくまる俺の元に誰かが近づいてくる。

 

イナゴ怪人だ。テレパシーで分かる。来たのは1号、2号、X、それにイナゴマンと、ストロンガーか? アマゾンだけがいないのは何か理由がありそうだが……。

 

「王よ! 大丈夫か!?」

 

「GAAA……UUUUUU……」

 

意識ははっきりしている、それにダメージは間もなく回復する筈だ。だが、目がチカチカする上に気持ち悪い。恐らく地雷の強い閃光を直視した影響だろう。

こうして俺が残虐チキンレースへの復帰に四苦八苦する中、俺とイナゴ怪人達の横を何人もの同級生が通り過ぎ、瞬く間に順位が下がっていく。

 

その事に俺が焦りを覚えた時、イナゴ怪人V3でも、相澤先生でも、ましてやプレゼント・マイクでもない男の声が流れた。

 

『誰かぁああああああ! 助けてくれぇええええ!! やましい気持ちなんてほんの90%位しか無かったんだぁああああああああああああああああああああああああああッ!!』

 

…………は?

 

流れたのは峰田の声だった。そして、そのセリフの内容に、俺は思わず呆気にとられた。「ほんの90%位しか無いやましい気持ち」って、一体どう言う事なんだ。まるで意味が分からない。

 

『俺はただ、どさくさに紛れてFカップのヤオヨロッパイを揉みたかっただけなんだーーーーー!! 麗日のうららかでむちむちなプリンをペロペロしたかっただけなんだーーーーーーーー! 蛙吹の意外おっぱいにまた顔を埋めたり、揉みしだきたかっただけなんだーーーーー!! 芦戸の……』

 

「………」

 

峰田は「心の叫びを聞け!」と言わんばかりに、自身の薄汚い下世話な欲望の数々を暴露し、絶叫していた。傍から聞けば発狂している様にしか思えない。

いや、ある意味では普段通りの峰田なんだが、この雄英体育祭は生放送で日本全国のお茶の間に流れている事を理解しているのだろうか?

 

……ん? ちょっと待て、アイツさっきなんて言った?

 

蛙吹の意外おっぱいに“また”顔を埋めてたり、揉みしだきたかった? あの梅雨ちゃんの、身長の割に結構大きめな、あの二つの浮袋を?

 

……………おのれ、峰田ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!

 

「GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

あの野郎……! こっちが地道に手探りで少しずつ、それこそ小石を積み上げるように女子と友好関係を築いている陰で、そんな事をやらかしていたのかッッ!! 今、何処で何をしてやがるぅうううううううううううううッ!!

 

「お、落ち着くのだ王よ。あのブドウ球菌なら今はアマゾンの手中、もとい腹の中だ」

 

「VAASAAARUGURUUUAA!?」

 

「うむ。八百万の尻に引っ付いて興奮し、腰を動かしていた所をアマゾンによって引き剥がされ、今は拘束用の弾丸を製造するマシーンと化している!」

 

俺の思考をテレパシーによって感知したイナゴ怪人1号が、現在の峰田の状況を説明してくれた。そして、怒りの炎に思考を投げ込む寸前で、「もしかしたら只のラッキースケベかも知れん」と我慢という名の水をかけ、峰田に無実の可能性を見いだした俺に、イナゴマンから峰田が八百万を毒牙にかけていたと、新たな情報と言う名の火種が投下された。

 

つまり峰田は……有罪ッッ!!

 

「UGVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

峰田が起こした数々の悪行によって、心の中に発生した狂気の荒波に意識を預けようとした一瞬。理性の防波堤が寸での所でそれを堰き止めた。

落ち着け。冷静になれ。よく考えろ。イナゴ怪人達は基本的に口が悪い。もしかしたら、単に悪い表現を使っているだけで、実はそんな卑猥な状況にはなっていないと言うオチかも知れない……ッ!!

 

「これがその時の様子を録音した物だ」

 

『離して……離して下さいまし……ッ!』

 

『うひょひょひょひょ! 便乗させてもらうぜ八百万ぅ! オイラって天才ぃいいいいいっ!』

 

『最低……ッ、最低ですわ……ッ!』

 

物凄く興奮している様子の峰田の声と、悲しげな声色で峰田に許しを請い、それが受け入れられなかった事で、せめてもの抵抗として峰田を涙ながらに批難する八百万。

 

それを聞いた瞬間。俺が峰田に対して抱いていた最後の希望は粉微塵に粉砕され、俺の怒りは頂点に達したッ!!

 

「RUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

ガッデェエーーーーーーーーーーーーーーーム・ユゥウウウウウウウウウウウウウッ!!

 

よくも梅雨ちゃんを! その上、よりによって八百万をッ!? こっちは入学初日にやらかした全裸公開から、未だに何か気まずくて、会話が中々続かねぇってのに、あのド腐れスカタン野郎がぁああああああああああああああああッ!!

 

俺が腹の底からマグマの如く湧き上がる怒りを込めて力強く叫び、「いいぞ(許可)! もっとやれ(命令)!!」と言う思念波を、イナゴ怪人アマゾンに送ったその時! 不思議な事が起こったッ!!

 

「GUUUU……!! UAVAZBONNN!!」

 

「「「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?」」」」」

 

俺の全身から強烈な衝撃波が発生し、肉体が一瞬でマッスルフォームへと変化する。通常とは明らかに異なるマッスルフォームへの変化だが、今回の差異はそれだけではない。

 

俺の肉体は、もはや骨格が変わるレベルのパンプアップを果たした所為で、見上げるような巨体となり、それに伴って着ていたジャージの大部分が弾け飛んだ! 上半身は完全に裸となり、下は長ズボンだったジャージが短パンになっている。

ついでに衝撃波によってイナゴ怪人達は全員吹き飛ばされ、周囲に大量のミュータントバッタの死骸が降り注いでいる。

 

「FUUUUUUUSYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」

 

「ハ、ハルクだぁああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「勝身煙だぁ………ッ!」

 

むぅううう。際限なく力が漲ってくるこの感覚! 何と言うクリアな頭の冴え! 視力も気分も完全に復活し、通常のマッスルフォームを遥かに凌駕している事が、実感として理解できる! これなら幾らでもイケそうだ!

イナゴ怪人達がいたであろう場所に、上鳴と瀬呂が倒れているのが少々気になるが、今はそれどころでは無い。この怒りは何かで解消しない限り、決して収まる事は無いだろう。

 

しかし……だ。峰田がアマゾンによって拘束されている以上、少なくとも麗日のうららかボディが峰田にペロペロされる事を筆頭として、これ以上の犠牲者が出る事はない。

 

ならば、俺がやるべき事は一つしかない! 

 

幸い、先頭の轟と勝己はお互いに足を引っ張り合い、未だこの地雷原の中にいる。俺は先頭の二人に狙いを定め、一位の座に返り咲くべく、地雷原を全力で駆け抜けた!!

 

「WUVOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

「うわああああああああああああああああああ!! こっちに来たぁああああああああああああああ!!」

 

「BUGOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「「うごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」」

 

「き、切島ぁあああああああああああああああッ!?」

 

「鉄哲ぅうううううううううううううううううッ!?」

 

「皆逃げろぉおおおおおおおおおおおッ!! 巻き込まれるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「BURYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「うわああああああああ!! 妨害が全然効いて……うがあああああああああああああああッ!!」

 

「骨抜ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」

 

「フッ! ここはやはり私の出ば……ブヒィイイイイイイイイイイイイイイイッッ!?」

 

「神谷ぁああああああああああああああああああッ!?」

 

「チャッ、チャーシューか!?」

 

『すっごぉおお~~~~~~~~~いッ!! 正に不屈の精神!! 正に不死身の肉体を持つ男、呉島新ッッ!! 地雷も妨害もものともせずに、進路上の邪魔者を跳ね飛ばしながら、最短距離を突き進むゥウウウウウ!! 何という爆発力ッ!! 何という根性ッ!! まるで暴走する重機関車だぁああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!』

 

『重機関車は地雷食らったら終わるだろ』

 

俺が一歩踏み出すたびに大地が揺れ、閃光と爆音と土煙が巻き起こる。普通ならこの後の本選を考え、ダメージや体力の問題から、速度を殺してでも地雷を避けて通るだろう。

しかし、今の俺はイナゴ怪人V3の言うように、地雷の爆発や露骨な妨害を、身体能力に物を言わせて完全に無視し、先頭の二人へと真っ直ぐに突き進んでいる。

 

その結果、俺は数多くのライバルを走るだけで蹴散らし、地雷に顔面ダイブをかます切っ掛けを作った二人に肉薄した。

 

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

 

「ッ! 来たかッ!」

 

「ちぃいいいいいいっ!!」

 

轟と勝己の二人は俺の姿を確認すると、お互いの妨害を止めて、それぞれが走る事に専念し始めた。

この時、俺達三人でトップを争うデッドヒートが展開されると、俺を含めて観客も選手も、誰もがそう思った事だろう。……だが、ここで全く予想外の人物が、大爆発と共に先頭争いに乱入した。

 

『此処で貴様が来るか、緑谷出久ぅううううううううッ!! 大量の地雷を利用し、一陣の風となって猛追するゥウウウウウッ!!』

 

「フッ!」

 

「GUA!?」

 

「おらぁっ!!」

 

「GUGOO!?」

 

「ごめん、あっちゃんッ!!」

 

「VUAAAAA!?」

 

この時、俺は轟の氷で足を滑らせ、勝己の爆破で多少後ろに頭がのけぞり、後頭部に割と強烈な衝撃が襲うと言う三連コンボを、タイミング悪く(ある意味ではタイミング良く)食らってしまった。

 

その結果、体勢を崩した俺の身に起こったのは、本日二度目の……地雷への顔面ダイブッッ!!

 

「GUBOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

しかも今度は単発ではなく、連鎖的に複数個が同時に爆発。再び俺の体は吹き飛び、空中に投げ出された。

だが、今度はとっさに顔の左側だけで爆発を受けたお陰で、右側は被弾しておらず、右目はしっかりとゴールを見据えている。しかし、集中が少し途切れた所為か、体からパワーが急速に抜けてきている。クソ……ッ、どうすれば……。

 

『にゃにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッ!!!』

 

『おい、いい加減にもっと他の奴も実況してやれ』

 

『……良いだろう。では……』

 

『女子高生サイコーーーーーーーー!! 巨乳大好きィイイーーーーーーーーーーッ!! レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロォーーーーーッ!!』

 

『何でまた峰田なんだ』

 

『心の地雷だ』

 

『訳分かんねぇよ』

 

確かに相澤先生には訳が分かるまい。眼下に見える同級生達も、訳が分からないのかポカンとしている。だがッ、俺だけは違ったッ!

 

……怨怒霊ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!

 

「QUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」

 

怒りが溜まったッ!! 力が湧いたあああああああああああああああああああッッ!!!

 

俺の心の中で、半端ねぇ地獄の炎の様な怒りが再燃し、戦う為の力が次々と生み出され、それが肉体の隅々にまで送り込まれていくゥウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!

 

「う、おおおお、うる、せぇええええええええええ!!」

 

「こ、今度は、何だぁあああああああああああああ!?」

 

「SYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU……!!」

 

怒りの咆哮によって生まれた轟音と音圧が地上にいるライバル達を襲い、地雷原の中で耳を押さえて足を止める者が続出する中、俺は腕を大きく動かして空中で体勢を整え、オールマイトが俺に見せた必殺技の一つを模倣する準備に入る。使うのは――。

 

「GYUVAMBUJYAA……ZOVAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAJUU!!」

 

自分が進みたい方向の反対側に渾身のパンチを放ち、その時に発生する拳圧を推進力として使用する事で、空中を高速移動する『New Hampshire SMASH』。

俺の時は模擬戦でオールマイトを空中へ投げ飛ばした瞬間にこの技を使われ、オールマイトの強烈なヒップアタックが俺の顔面に炸裂し、首の骨がエラい事になったものだ。

 

「! あれは……ッ!」

 

「チッ!?」

 

「クッソがぁああああああああああああああああああッ!!」

 

それは端から見れば「筋肉ムキムキマッチョマンなバッタ怪人が、長座体前屈の様な体勢で空中を後ろ向きに高速移動する」と言う、実にシュールな光景だろう。

しかし! 俺を出し抜いた轟や勝己、そして出久の驚く顔をしっかりと見納めながら、俺が三人の頭上を通過し、再びトップに返り咲いた事は紛れもない事実! 後はこのまま全力で逃げ切るのみッ!! 後ろ向きでッ!!

 

「WUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUTUSHYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

『取ったぁあああああああああッ!! 呉島新、見事一位奪還ッ!! 後続を妨害しつつ、ラストスパートをかけていくゥウウウウウウウウウウウウッ!! 追い越された三人は諦めていないものの、もはや挽回は絶望的かぁあーーーーーーーーーーッ!?』

 

空振りのパンチの連打。すなわち、「New Hampshire SMASH」と「TEXAS SMASH」を両腕で放ち続け、高速空中移動と軌道修正、そして三人の妨害を同時に行う。三人は砲弾の様に襲いかかる拳圧を“個性”で防ぐか、軌道を予測してかわすと言った手段でやり過ごす。

 

その直後、地雷原の方で大量の土砂が盛大に舞い上がり、続いてピンク色の煙が巻き上がる大爆発が起こったのが見えた。それも、さっき出久が故意に起こしただろう大爆発を、遙かに上回る超大爆発だ。

……もしかしなくても、アレって俺の所為か? 大勢の人間が宙を舞い、ピンクの煙を背景にイナゴ怪人アマゾンが上鳴と瀬呂を両手に抱えて飛行しているのが見えるんだが……まあ、今は気にしない事にしよう。

 

『しかし……こうして見るとアレだな。作戦もクソもなく、デカい奴は強い。現実は無情なモンなんだって事を改めて思い知らされるよ』

 

『そうだな。「極限まで発達したフィジカルは、マジカルと区別がつかない」と言う、有名な法則がある位だからな』

 

『それ「十分に発達した科学」だろ。それにしても拳の反動で空中飛行って、そりゃもうオールマイト並の身体能力じゃねぇか』

 

『その通り! つまり、オールマイトの持つ“個性”の正体は「怪力」でも「ブースト」でも無く「魔法(物理)」ッ!! オールマイトの正体は……魔法使いだったのだよッ!!』

 

『嘘をつくな、嘘を』

 

……まあ、喧々囂々と議論されてきた世界七不思議の一つを解いた(笑)イナゴ怪人V3はさておき、相澤先生に関しては『敵連合』の脳無と呼ばれたマッチョメンとの戦闘が堪えていると思われる発言であり、渋い声色にどこか哀愁が漂っている気がする。

 

さて、そろそろこの二転三転した『障害物競走』の終わりが近づいてきたようだ。

 

「FUUUUUU……JAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

ゴールであるスタジアムの中へ続く通路に差し掛かった瞬間、俺はフィニッシュとして渾身の空振りを繰り出し、スタジアムの中へ高速で突入する。ちなみに地雷原からここまで、俺は一度も足を地面につけていない。

こうして俺は後ろ向きでスタジアムに突入し、スタジアムの中の壁に激突する。その瞬間、俺の体は通常の状態に戻った。

 

「……SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

『決ッ着ゥウウ~~~~~~~~~~~~~~~ッ!! 数多の敵を退け、予選一位の栄冠を手にしたのは、我らイナゴ怪人の王、呉島新ッ! 若干15歳、呉島新ッッ!! アリガトォオオオオオオオッ!! アリガトォオオオオオオオッ!! 会場は今、万雷の拍手に包まれております!!』

 

土埃の中から現れ、勝利の雄叫びを上げる。しかし、イナゴ怪人V3は「万雷の拍手」と言うが、ぶっちゃけ拍手してる人はまばらだ。全体的に見て会場は「ざわ……ざわ……」している。

そんな空気の中で、俺が観客席の中を探してみると、オールマイトは満足げな笑みを浮かべながら俺を見つめて拍手していた。

 

「RUUUUUGGUUUU……」

 

オールマイトの拍手に応える様に、俺はオールマイトに向けて拳を突き出した。

 

 

○○○

 

 

呉島少年とイナゴ怪人の行動の数々に会場内が騒然とする中、私はスタジアムに帰還した呉島少年に、惜しみない拍手を送っていた。

 

君は拍手や喝采の為に戦っている訳でも、誰かの賞賛が無ければ戦えない訳でも無い。自分と同じように“個性”に苦しむ人の為に、多くの者が恐れ、忌み嫌っただろう自分の“個性”を世間に見せる。そんな君だからこそ、送りたい拍手と賞賛が、少なくとも私にはあった。

 

そして今回、呉島少年が使った技は、紛れもなく私の技を模倣したもの。正直、今思い返しても、「ちょっとやり過ぎたかな?」という感じが否めない、途轍もなく過酷なトレーニングを課してしまったが、呉島少年はその全てを耐えた。耐えきった。

私としては呉島少年の肉体を、より強靱なものにする事が目的のトレーニングだった訳だが、「門前の小僧習わぬ経を読む」とはよく言ったものだ。

 

そして、意図せずに君に渡してしまった“『ワン・フォー・オール』の残り火”。それが君にどんな影響を与えるのか。それが漠然とした不安として私の心の中に燻っていた訳だが……

 

超杞憂だったな!! ぶっちゃけ、もう君のソレは『ワン・フォー・オール』とは違うナニカだよ!!

 

「……どう思う?」

 

「どう思うって……怖くてグロいよ。“個性”は信じられない位に多彩だとは思うけど、どう考えてもあれじゃ凶悪なヴィランだよ」

 

「事務所経営を請け負ったと仮定して、彼をどう売り出していくか意見を交えたいんだけど、どう思う?」

 

「……『受けない』って言う選択肢は無いのかい?」

 

「それじゃあ、意味が無いだろう」

 

「そうだね……見た目ではまず絶対に無理だね。いや、ヴィランっぽい見た目だけならまだしも、グロテスクな要素満載の残酷極まりないバトルスタイルは絶対に不味い。彼の活躍をメディアで放送したら、それはヴィランのスナップフィルムにしかならないよ」

 

「確かに子供達の人気は壊滅的だろうね。それを逆手にとって、『18禁Gヒーロー』と言う形で売り出すのはどうかな?」

 

「どうかな……ヒーローを売り出す上で“エロい”は魅力になるけど、“グロい”が魅力になる事はまず有り得ない。そもそもヴィランの体を真っ二つに切り裂いたり、串団子にする様なヒーローなんて一度でも見た事があるかい?」

 

「……無いな。実際に開会式でやらかした事は、怪人同士の殺し合い……いや、一方的な虐殺以外の何物でも無かったし」

 

「ああ、アレは確かにキツい。もう、『ヒーローとかヴィランとか、そう言うレベルじゃない』って感じだった」

 

「………」

 

相変わらず、雄英体育祭では暇を持てあまし、経営戦略等のシミュレーション等で勘を養う場として活用している経営科の、呉島少年に対してあんまりと言えばあんまりな発言の数々に、私は思わず下にいた彼等をジロリと睨んでしまった。

……まあ、彼らの言いたいことも分かる。あんな光景、誰が見たって放送事故だと断言するし、子供が見たらトラウマになる事は必至だ。地上波で流すとしても、確実に深夜25:00以降だ。

 

そう考えると呉島少年は、今の内から「事務所経営」なんかの知識も学んで貰って、雄英を卒業したら直ぐにでも独立した方が良いのかもしれない。

そうなると、私としては「事務所経営」に関して一人心当たりのある者がいるのだが……ぶっちゃけ、物凄く気まずいんだよなぁ……。

 

「? どうかしましたか?」

 

「いや……意見や価値観の相違から仲違いした相手と、どうしたら仲直りする事が出来るかなって思って……」

 

コレが終わったらダメ元で、呉島少年の事を彼に電話で話してみようか? 多分、彼も今頃この体育祭をテレビで見ているだろうし……いや、その前にグラントリノの方に連絡して、彼と私の仲介をして貰えば或いは……いや、でも……。

 

思った以上にままならない、自分の存外にギクシャクしている人間関係に、私は深くため息をついた。




キャラクタ~紹介&解説

呉島新
 予選から色んな意味で圧倒的な戦果を叩き出す怪人主人公。今回はオールマイトの鬼畜訓練で受けた必殺技オンパレードによって得られた経験と、圧倒的な身体能力。そして同族と思った男のルラギリによって、「オルァ、クサマヲ、ムッコロス!」な状態になったお陰で、原作主人公を上回った。
 怒れば怒るほど真価と進化を発揮する“個性”故に、今回の予選通過一位はある意味、原作主人公と同様にラッキーパンチの結果と言えるかも知れない。

オールマイト
 この後、自分が目をかけている二人の少年が決めたワンツー・フィニッシュに思わずガッツポーズ。でも、マッスルフォームでエキサイトしまくったシンさんを見た時は、「私の知っている『ワン・フォー・オール』はこんなのじゃない」と素直に思った。
 今回の件で自分の元『相棒【サイドキック】』の事が頭に浮かんだが、恐らく関係の修復は困難を極める。この辺は単行本派の人には悪いと思っている。

峰田実
 ある意味では、シンさんの予選一位通過に最も貢献したと言える男。暴露した下世話な欲望の数々に関しては、『すまっしゅ!!』の心の地雷が元ネタ。しかし、最近の『すまっしゅ!!』を見ると変態度が段々と増しており、もはや何時「法の裁き」を受けても可笑しくないような気がする。

切島鋭児郎&鉄哲徹鐵
 復活してエキサイトしたシンさんによって、直接跳ね飛ばされた二人。シンさんに跳ね飛ばされた後で更に地雷を食らい、本日二度目の「俺じゃ無かったら、死んでたぞ!」を、二人仲良く絶叫した。

骨抜柔造&神谷兼人
 復活してエキサイトしたシンさんを妨害しようとした結果失敗して、地雷の巻き添えを食らった二人。上記の二人同様、彼ら以外にもシンさんの所為でエラい目にあった生徒は多いが、A組の面々はシンさんのヤバさを知っている所為で、大半の面子が危機を回避している。

経営科の三人組
 第二期アニメを参考にしているので、彼らは教師陣の後ろに陣取ってはいない。この後も「シンさんの事務所経営」をテーマに議論を展開し、彼らの暇はそれだけで完全に潰される事になる。



第二関門「ザ・フォール」&最終関門「一面地雷原」
 どちらも前話の第一関門「ロボ・インフェルノ」と異なり変更点は無い。作中で語られていないが、第二関門ではイナゴ怪人達がロープを揺らす等の妨害を行い、最終関門「一面地雷原」では、シンさんの放った「New Hampshire SMASH」と「TEXAS SMASH」の流れ弾によって全ての地雷が掘りおこされて起爆。『仮面ライダーV3』のオープニングがイメージとしては近いだろう。

アナザーシンさん・エキサイトフォーム
 別名「超マッスルフォーム」。アナザーシンさんの只でさえマッシブな体が、更に大きくビルドアップした上に、体温の上昇に伴って、全身から蒸気が上がっている特殊形態……ではなく、シンさんの怒りに呼応する形で、“『ワン・フォー・オール』の残り火”が過剰に反応しただけの筋肉技。短パンでムキムキマッチョな姿は、どこか『HUNTER✕HUNTER』のゴンさんを彷彿とさせるかも。
 元ネタは『ウィザード』でも屈指のネタ魔法である、「エキサイト」の魔法(物理)。台詞に関しては、『金色のガッシュ!!』のパティが元ネタ。更に発動時には『アマゾンズ』の要素が取り入れられている。『アマゾンズ』風の変身コールがあるとすれば、「マ・マ・マ・マーッスル! マ・マ・マ・マーッスル!」って感じだろう。多分。
 ちなみに「勝身煙」とは、『忍空』に登場する干支忍が本気になったときに体から発する蒸気の事。現実世界でも「勝身煙」を上げている人がたまにいるが、相手が元ネタを知っていない場合、痛い目を見ることになるだろう。

アナザーシンさんのエキサイト空中移動
 原作第8巻の「期末試験編」でオールマイトが見せた技が元ネタ……と思いきや、実は作者のイメージとしてはゴジラシリーズでも怪作と名高い、『ゴジラ対ヘドラ』でゴジラが見せた「放射熱線を推進力にして空を飛ぶゴジラ」の方が近い。最近『シン・ゴジラ』を見た影響かも知れないが、いずれにしてもかなりシュール。
 メタ的な事を言えば今回の「超マッスルフォーム」に関しては、作者が「アナザーシンさんは『ワン・フォー・オール』のイレギュラー的な存在なのだから、もっと『ワン・フォー・オール』よりの能力があっても良いのではないか?」と思った事が原因で生まれた。

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