怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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作者には悪い癖があります。それは自分が面白いと思った作品の二次創作が少ないと、思わず書いてしまうと言うものです。その結果、今回はこんなトンデモないヒーローがプロとして活躍する事に……。無作法、お許しあれ!

そして、これで今回の投稿は終了です。作者としてはこの作品を見て、思いっきり笑ったり、思いっきり楽しんだりして戴けたなら幸いです。


第8.5話 究極ヒーロー:オリジン

一年生の第一種目を、最初にクリアした生徒がスクリーンに映し出された時、デステゴロはシンリンカムイにある事を話しかけていた。

 

「……なあ、アイツは一年前のアレだよな?」

 

「ああ、あの時の怪人だ。まさか雄英にいたとはな……」

 

二人の脳裏によぎるのは、火の海と化した商店街に飛び込んだ涙目の少年と、突如として奇声を上げながら出現した異形の怪人。

当時にしても、今改めて振り返ってみても、あの時の構図はどう見ても「ヴィランに襲われている被害者と、それを追いかける恐ろしい風貌のヴィラン」と言う結論に到達するのだが、後に「二人とも人質になった中学生の幼なじみで、本当の所はピンチに陥った幼なじみを助けに入っただけ」と言う真相を聞かされた時は、心底耳を疑ったものである。

 

「しかし、アレではプロになったとしても、ヒーローとしてやっていけるのか?」

 

「だよなぁ。ヒーローの見た目じゃねぇっつーか、怖すぎるよなぁ……」

 

「大丈夫よ。あの子は名声やお金が欲しくて、ヒーローになる訳じゃないんだから」

 

そんな二人とは裏腹に、つい先程までニッチなファンの期待に応えていたMt.レディは、柔らかい笑顔でスクリーンを見つめていた。

 

自分の“個性”で生き辛い思いをしている人々の希望。

 

そんな自分と同じヒーロー像を目指す少年の勇姿を、彼女はしっかりとその目に焼き付けていた。

 

そんな三人の耳に突然、野太い成人男性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「食い逃げだーー! 誰かーーー! 助けてくれーーッ!」

 

「食い逃げ?」

 

「この雄英体育祭で白昼堂々と……馬鹿なのかしら?」

 

彼等がそう言うのも無理は無い。今年の雄英体育祭は全国からプロヒーローを招集しており、警備はなんと例年の5倍。そんな中で罪を犯すなど、よほどの大物か馬鹿のどちらかであろう。

 

「まあ、何にせよ仕事だ」

 

「うむ! ここは私に任せてくれ。『先制必縛……」

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「「「!?」」」

 

シンリンカムイが必殺技を使おうとしたその時、食い逃げ犯とシンリンカムイの間に、一人のヒーローが空から降ってきた。突然現れたヒーローに食い逃げ犯は驚き、その隙を突いてヒーローは食い逃げ犯を目にも止まらぬ早さで触り、全身を調べ上げる。

 

そして、ヒーローが食い逃げ犯の持ち物を一通り調べ終わり、食い逃げ犯を後ろから掴み上げて身動きを封じると、その指には一万円札が挟まっていた。

 

「持っているじゃないか……どうぞ」

 

食い逃げ犯はヒーローの手によって見事捕らえられ、コレで食い逃げされたタコ焼き屋の店主も損害を出さずに済むだろう。

しかし、差し出されたお金をどうするべきか、店主は相手がヒーローであるにも関わらず、非常に困惑し、混乱していた。

 

それと言うのも、目の前に現れたヒーローの格好に問題があった。

 

そのヒーローを足下から見ていくと、まず目に止まるのはスニーカーと女性用の網タイツ。しかもすね毛の処理は完璧であり、ハリとツヤ共に完璧である。

 

既にしてかなりアレだが、それよりも注目すべきはその上。上半身には何も着ておらず、所謂パンツ一丁と言って良い姿なのだが、そのパンツの履き方が明らかにおかしい。普通パンツは腰に装着するものだが、彼は何とパンツの両端を限界以上に伸ばし、交差させた上で両肩に通して履いており、その姿はまるでレスラーの様だ。

もっとも、そのお陰で彼を後ろから見れば尻は完全に丸出しであり、股間の部分はまるでちまきか稲荷寿司の如く強調されている。少しでも激しいアクションをすれば中身がこぼれ落ちてしまいそうな危険な姿であると同時に、ソッチの方の毛の処理も完璧である事を見る者に邪推させる。

 

これだけでも既に通報モノだが、それに止めを刺すのが、顔面に装着している仮面。だがコレがよく見たら、仮面でも無ければマスクでも無い。そんな風に見える様に、女性用のパンツを……すなわち、パンティ(しかも、未使用品ではなく使用済み)を顔面に被っているのである。

 

その姿は完全に変態そのものだが、驚くなかれ。彼はこれでもれっきとした国家資格を持つプロヒーローであり、プロとして活動は今年でなんと10年目の突入している。

 

「……あ、ありがとう」

 

タコ焼き屋の店主はどうにかしてお礼の言葉を絞り出し、震える手で食い逃げ犯から回収されたお金を受け取った。そして食い逃げ犯は即座に警察に引き渡され、事件は一人のヒーローの手によって無事に解決した。

 

そのヒーローの名は、“究極ヒーロー「変態仮面」”。

 

デビューしてから『子供に見せたくないヒーローランキング』や『PTAから苦情が来るヒーローランキング』を筆頭とした、様々なヒーローランキングで不名誉と言える1位を獲得しつつも、老若男女を問わず異様な人気を博しており、実力ならば№2ヒーローのエンデヴァーをも上回るとされ、『ある意味では最もオールマイトに近い』と称されるヒーローである。

 

また、彼が検挙した犯罪者の再犯率はヒーローの中でも抜群に低く、検挙した犯罪者の再犯率に限定するならば、現時点でオールマイトさえも超えており、彼もオールマイトと同様に“平和の抑止力”となっていると言う、ある意味で心強く、ある意味で嫌な実績を持っている。

 

その上、彼の見た目と必殺技の数々は確かに変態的ではあるものの、逆に「変態である」と言う一点を除けば、彼はとても紳士的な性格であり、実に模範的な勧善懲悪のヒーローである。更にこんな見た目に反して、彼自身が決して生々しいエロを好まない事も、人気の一つであったりする。……まあ、だからこそ余計に性質が悪いとも言えるのだが。

 

「『変態仮面』……噂には聞いていたが、お目に掛かるのは初めてだ」

 

「む? 君達は確か、この付近で活躍しているヒーローではないか?」

 

「……はい、そうですが……」

 

普通、自分達の遙かに格上の実力を持つヒーローに顔を覚えられ、更に声をかけられたとなれば光栄に思うモノなのだが、このヒーローが相手だと「厄介なのに絡まれた」と思ってしまうのは気のせいだろうか。

 

「……何時もメディアを拝見して思うんですけど、凄い格好ですよね」

 

「変態だからな」

 

即答である。まるで変態であることに誇りを持っているかの如く、堂々と自分を変態だと公言するヒーローの姿に、三人の若手は無意識の内に気圧される。

 

「……本当、よくそのコスチュームで資格を取れましたね。かなりアブナイと思うんですけど……」

 

雄英高校には「18禁ヒーロー『ミッドナイト』」と言う、青少年の育成に悪影響をもたらしそうなヒーローが在籍しているが、正直目の前にいる変態仮面のコスチュームに比べれば、彼女のコスチュームはむしろ健全の部類に入ると言えるだろう。

 

かつてミッドナイトはデビュー当時あまりにも過激なコスチュームで話題を呼び、遂には「コスチュームの露出における規定法案」が提出されたが、これはあくまで「“女性の”コスチュームの露出」に関するものであり、男性には基本的に適用されない。

しかし、それを抜きにしたって変態仮面のコスチュームはかなりデンジャラスであり、セーフかアウトかで言えばセウトと言った所だ。こんなコスチュームでは資格取得の段階で、絶対に不合格になるだろう。彼等の疑問は尤もである。

 

「うむ。実は私はその昔、“無個性”でヒーローの資格を取ってな。その時はこんなコスチュームでは無かったのだよ」

 

「「「……は!?」」」

 

「そう。私に“個性”がある事が判明し、このコスチュームを着始めたのは、私が仮免を取った後の話だ……」

 

かくして変態仮面は語り始めた。今の自分の『原点【オリジン】』と言える物語を……。

 

 

〇〇〇

 

 

それは今から11年前の春。紅優高校ヒーロー科3年に所属し、後に変態仮面となる運命を背負った男子高校生。鈴木狂介は感無量の涙を流しながら一枚のカードを眺めていた。それは、「ヒーローのひよっこ」として認められた者にのみ与えられる特別なライセンス。その名も『ヒーロー活動許可仮免許証』である。

 

「やっと……やっと、練習の成果出たぁ……」

 

この時の鈴木狂介は母親から「たまには女でも誑かして、一緒に飯でも食べてみたらどうだい?」と言われる位に真面目で、弱い者いじめを見れば首を突っ込まずにはいられない位に正義感がとても強い少年で、父は警察官で母親はSM嬢と言う、一般的に見てもかなり特殊な家庭環境で育っていた。

そんな彼は現在、母親と二人暮らしであり、父親は彼が三歳の頃に拳銃で撃たれて殉職した。何発もの銃弾を体に受ける壮絶な最期を迎え、その今際のきわに父親が残した一言は「これはこれで……」だったそうだ。ちなみに母親は今も現役バリバリのSM嬢である。

 

そしてもう一つ、鈴木家に特殊な部分があるとすれば、両親ともに“無個性”であり、その息子である狂介もまた“無個性”であったと言う事。そんな狂介は警察官だった父に憧れていたが、狂介は警察官ではなくヒーローを目指していた。

 

幼い頃から、彼は“無個性”でありながら誰よりも強かった父親に近づきたかった一心で拳法を習い、誰よりも体を鍛え続ける生活をしていた。そんな狂介は何時しか、父に対する憧れが「父を超えたい」と言う願いに変わり、更に“無個性”であるが故にヒーローでは無く警察官に成らざるを得なかったと言う、父が味わった世知辛い現実を知った事で、狂介のヒーローへの思いはより一層強くなった。

 

「へへへ……早く母さんに見せたいな。あ、でも、愛子ちゃんにも見せてあげたいな」

 

そしてこの時、狂介は拳法部のマネージャーである清水愛子に恋をしていた。所謂片思いと言うヤツで、恋愛に奥手な狂介は中々一歩を踏み出せないでいたのだが、仮免を取得して自信がついたのか、ちょっと勇気を出して誘ってみようと考えていたりする。

 

「でも、流石に今日は無理かな。そう言えば、今日は母さんも仕事があるし、あーあ、結局今日も一人飯か……」

 

そうぼやきつつも一人家路につく狂介だったが、目の前に人だかりが出来ているのを不思議に思い、何か事件でも起こったのだろうかと思い、一人の男性に話しかけた。

 

「すいません。何かあったんですか?」

 

「ああ、立てこもりだよ。立てこもり! 金目当ての強盗だってさ!」

 

「え!? 立てこもり!?」

 

現在では事件の発生間もなくヒーローが事件を解決するのが常であるが、11年前のヒーロー社会は今よりもヒーローへの対応が遅く、警察の方が先に現場に到着し、ヒーローが中々到着しないと言った場合も少なく無かった。

また、“個性”を持てあました者が犯罪に走るのでは無く、“弱個性”故に行き場を無くした者が犯罪に走るケースもあり、そうした場合は銃などの武器を用いて犯行に及ぶ。そして今回の事件は後者であり、強盗団は全員が銃で武装していた。

 

そしてサラ金に金目当てで押し入った強盗団は、一人の女子高生と数人の社員を人質にとって立てこもっていたのだが、その人質になった女子高生というのが、よりによって愛しの愛子ちゃんだった。更に強盗犯達は逃走にヘリを要求していたが、周辺にとてもヘリを着陸させるような場所は無い。

 

つまり強盗犯達は致命的に馬鹿だった。そして、馬鹿と言う事はつまり「何をしでかすか分からない」と言う事でもある。

事実、警察がヒーローの到着を待っている間に、建物の中から一発の銃声が聞こえてきた。もはや事は一刻を争う事態である事は明らかである。

 

「! 愛子ちゃん……ッ!」

 

警察と一般人が銃声に困惑する中、狂介は瞳に決意を宿して建物の裏手へと向かった。

 

 

○○○

 

 

表通りと違い、人気の無い裏路地から建物を観察していた狂介。窓を一つ一つ調べ、鍵の開いている窓を見つけると、そこからまんまと建物の中に侵入する事に成功した。ちなみに侵入したのは女子更衣室である。

 

「さてと……ここからどうやって、現場まで忍び込むかな? ……そうだ、武器があった方がいいな」

 

更衣室のロッカーを手当たり次第に物色する狂介。しかし、物音を建ててしまったお陰で、強盗団の一人が不審に思い、女子更衣室の中の様子を見にやってきてしまった。

 

「! な、何だおま……」

 

「フンッ!!」

 

「ヴェッ!?」

 

狂介は有無を言わさず鳩尾に一撃を加え、犯人の一人をあっさりと気絶させた。「相手が“個性”を使う前に一撃で倒す」。これは“無個性”である狂介がたどり着いた必勝の戦法であり、狂介が磨いてきた拳法の集大成でもある。

 

かくして難無く強盗犯の一人を無力化する事に成功した狂介。幸先の良いスタートに気をよくして、そのまま人質がいる場所まで乗り込もうとしたその時、ふとある作戦を閃いた。

 

「そうだ! コイツに化けて忍び込めば良いんだ!」

 

我ながらナイスなアイディアだと思いながら、狂介は気絶させた強盗犯の服を奪い、テキパキと着込んでいく。念の為に気絶した強盗犯(パンツ一丁)は、自分が持っていた胴着の帯で縛り上げておく。

 

こうして強盗犯の仲間の一人に変装し、いざ敵陣に乗り込もうと思った時、彼はある違和感に気づいた。

 

「よし! 待ってろよ、愛子ちゃん! ……って、アレ? これ、マスクじゃ無い? これ、パンティじゃないかよ!?」

 

そう。彼は女子更衣室の中を片っ端からひっくり返した所為で、強盗犯のマスクではなく、偶然その近くに落ちていたパンティを被っていたのだ。

 

「イカンッ! こんなのを被って出て行ったら、変態だと思われちゃう! 被り直さないと……しかしッ! しかし、なんだこの肌に吸い付くような、このフィット感はッ! ……ッ!! 駄目だッ!! こんな物を被っては……ッ!! しかし、それとは裏腹に高まっていく俺の鼓動おおおおっっ!! ……ッッ!!! 駄目だッ!! 愛子ちゃんにこんな姿見せられないッ!!」

 

狂介の中で、何かが溢れそうで、何かがはち切れそうな想いが、嵐の様に激しく渦を巻いていた。そんな得体のしれない感情に抗うべく、狂介は顔からパンティを引きはがそうとするが……。

 

「何……!? もはやパンティが俺の顔と一体化している!? なんだ、何なんだ、この体内から湧き上がるマグマはッ! この……罪悪感を打ち消すように、押し寄せるマグマはッッ!! だ、駄目だ……俺は、もう。……俺は……もう……」

 

遂に自分の中の大きな力に耐え切れず、狂介が床に倒れたその時、不思議な事が起こった。倒れ伏した狂介の体が、青い光を発して輝き始めたのだ。そして――。

 

「……気分はエクスタシィイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

それは悪魔の仕業か、それとも神の悪戯か。

 

この超人社会には千差万別の“個性”が存在するが、中には特定の条件を満たさない限り発動しない、言うなれば「限定条件を持つ“個性”」が存在する。

それ故に、“無個性”とされている者達の中には、限定条件を満たした事で大人になってから“個性”の有無が判明した者がいれば、自他共に“無個性”であると認識して一生を過ごす者もいる。

 

……そう。ずっと“無個性”と思われていた狂介にも、実はちゃんと“個性”が宿っていたのだ。

 

それは「肉親以外が使用した女性のパンティを仮面の様に被る」と言う、普通に生活している限り絶対に気づきようがない、いや気づく筈も無い。途轍もなくアレなスイッチを持つ“個性”が!!

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

狂介は内なる衝動の赴くままに、野生の狼の如く吠えた。それは18年の歳月を経て、彼の肉体に流れる、父親から譲り受けた正義の血と、母親から譲り受けた変態の血が混ざり合い、眠っていた“個性”が覚醒した事を示す咆哮であり、ニューヒーローの誕生を知らしめる産声であった。

 

「クロス・アウトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

脱衣を意味するその言葉と共に、狂介の体から発せられた青い光は金色に変化し、女子更衣室に一陣の風が巻き起こり、複数の衣服が落ちる音が聞こえた。

 

「私に、服など無用だ……」

 

そう言いながらも、狂介は何故か落ちている女性用網タイツに手を掛けた。

 

ちなみに狂介によって気絶させられた強盗犯は、狂介の“個性”が覚醒する途中で目覚めており、狂介の身に起こった一部始終をバッチリと目にし、その光景に恐怖を覚え、怪奇に震えながら再び気絶した。

 

 

○○○

 

 

一方その頃、強盗犯は愛子に銃口を向けており、今にも愛子の命は強盗犯によって、無慈悲に奪われようとしていた。

 

「それじゃあ、お嬢ちゃんから死んで貰おうかなぁ~~~~?」

 

「助けて……、誰か助けて……ッ!!」

 

絶体絶命の愛子が心の底から助けを求めたその時、彼等がいる部屋の外から物音が聞こえた。

 

「誰だ!?」

 

「オイ! ヒーローが来たんじゃねぇだろうなぁ!?」

 

「(狂介君……、きっと狂介君が助けに来てくれたんだわ!)」

 

強盗団の混乱を余所に、ゆっくりと扉が開かれる。すると、一人の男が顔だけを出して此方を見ていた。

 

「……誰だ?」

 

「マスク被ってますよ? ……あ! 見回りにやって……って、違ぁあーーーーーーーうッ!!」

 

ドアから現れた顔を見て、強盗団の一人は自分達の仲間だと思ったが、その男の全体像を見て即座にノリツッコミの如く自分の意見を否定する。

何故なら、マスクの他に身に着けている物はブリーフと網タイツだけであり、ミケランジェロの彫刻のような肉体美を曝け出すその姿は、自分の知る仲間の恰好からは余りにもかけ離れていたからだ。ドアから差し込む夕日の所為か、被っている白いマスクとブリーフが嫌に眩しい。

 

「誰だ貴様ぁ……」

 

「貴様等の様な悪党を打ち砕くべく参上した……『変態仮面』だッ!!」

 

不審に思った主犯格の男に対し、直立不動の姿勢で腕組をし、胸部や臀部の筋肉を小刻みに痙攣させながら、異形の男は自らのヒーローネームを堂々と名乗った。そして強盗団の一人は、変態仮面を見てある事に気づいた。

 

「変態……? ……ほ、本当だ。パンティを、被ってやがる……」

 

「ハハハハハッ! コイツ、パンティを被ってやがるぜ! ハハハハハッ!!」

 

パンティを被って現われた変態仮面に、主犯格の男は一人爆笑する。しかし、変態仮面は動じない。

 

「さあ、その子を渡しなさい」

 

「やだ、あの人はあの人で……怖いッ!!」

 

「それ以上近づくな。この変態さんよぉ!」

 

今回、変態仮面の目的は「愛子の救出」であるが、肝心の愛子は変態仮面に怯えていた。無理もない。友達が格好良く助けに来てくれたと思ったら、やってきたのは想像を絶する格好をした変態だったのだから。

 

しかし、変態仮面には愛子の拒絶も、主犯格の男の威嚇も聞こえていないのか、ゆっくりと近づきながら、再び愛子に声をかける。

 

「さあ、こっちに来るんだ」

 

「やだッ! 怖いッ!」

 

「テメェ……舐めるなよぉ!」

 

自分の言う事を悉く無視された事に腹を立てたのか、主犯格の男が変態仮面へピストルを乱射する。しかし、ピストルから放たれた弾丸は、変態仮面のやたらと大きい動き且つ、無駄にセクシーなポーズで全てかわされた。

 

「なんだと……」

 

主犯格の男が驚くのも無理はない。音のスピードが秒速0.3kmなのに対し、拳銃から放たれる弾丸のスピードは、初速で秒速0.4km。音よりも早く移動する弾丸を“個性”で「受け止める」、或いは「弾く」と言うならまだ分かるが、「かわす」と言うのは中々出来る事ではない。

 

「………」

 

「わ、わかったよ! ほら! 行けよ!」

 

強盗団が困惑する中、変態仮面はセクシーなポーズを取りながら、無言でジリジリと、そして確実に間合いを詰めていく。それに主犯格の男は恐れをなしたのか、変態仮面の目的である愛子を解放した。

 

「………ッッ!!」

 

愛子は逃げた。強盗団と変態仮面と言う、二つの脅威から逃げるべく、変態仮面から出来るだけ離れたルートを選んでドアへと向かった。自分の所に来ると思った変態仮面としては、これは予想外である。

 

「ちょ、ちょっと君! こっちに来るんだ!」

 

「! 隙有りぃッ!」

 

「ムゥ!!」

 

逃げる女子高生と、それを追いかける変態。そして変態に発砲する主犯格の男。その光景は何も知らない者が見れば、変態に襲われている少女を助けたようにも見える。しかし、現実はそんなモノでは無かった。

 

「へっへっへ! 手こずらせてくれたなぁ。これで動けねぇだろ! そこのお嬢ちゃんと一緒に仲良く死ねや!」

 

そう、主犯格の男は初めから愛子を逃がすつもり等なかった。愛子を逃がしたのは、変態仮面の隙を作る為の芝居だったのだ。

 

愛子に再び訪れる、絶体絶命のピンチ。しかし、狂介は覚醒したばかりの“個性”を、どうすれば最大限に発揮する事が出来るのかを、本能で理解していた。

 

そう、局部に強烈な刺激を受ける事で、更に強力な力を……「変態パワー」を発揮する事が出来ると言う事をッ!!

 

「ハァアアアアア……変態、パワーアップゥウウウウウウッッ!!」

 

「!? ファアアッ!?」

 

変態仮面は履いていたブリーフに手を掛けると、その両端をまるで重量挙げでもするかのように、上に向かって無理矢理引き延ばした。すると如何なる物理法則が働いたのか、ブリーフのゴムは切れること無く異常なまでに伸縮し、その光景に主犯格の男は得体の知れない戦慄を覚えた。

 

「ほぉぉおおおおう……アチャァアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

そして、変態仮面がブリーフのゴムを頭上で交差させ、ブリーフの両端が両肩に叩きつけられると、小気味いい音が室内に鳴り響き、変態仮面の見た目の危険度が爆発的に跳ね上がる。

 

これこそが、変態仮面の基本形態。「スタンダードVフォーム」が誕生した瞬間である。

 

「な、何ぃ!?」

 

「……行くぞッ!!」

 

更なる「変態パワー」をその身に宿し、常識を遙かに上回るパワーアップを遂げた変態仮面の戦闘力は、先程とは比べ物にならない程に急上昇していた。瞬く間に強盗犯の一人をなぎ倒し、身動き一つとれない状態に追い込んだ上で、変態仮面は非常なる正義の裁きを執行する。

 

「そんなに金が欲しいなら……私の金をくれてやるッ!!」

 

「や、やめ……」

 

「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

強盗犯の顔面に股間を押し付け、絶大な精神的ダメージを与える事で鎮圧すると、最後の一人となった主犯格の男に鋭い眼光を向けた。

 

「残るは貴様一人だッ!!」

 

「く、来るなぁあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

変態仮面に恐れ慄き、主犯格の男は銃を再び乱射する。変態仮面にかかれば銃弾の回避は容易いが、回避すれば変態仮面の後ろにいる人質に銃弾が当たってしまう。そう思った変態仮面は――。

 

「フンフンフンフンフンッ!!」

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

何と、発射された全ての銃弾を素手で、しかも右手だけで掴み取ったのだ。しかも銃弾を掴んだ右手は無傷。かすり傷一つ負ってはいない。

もはや主犯格の男からは余裕が完全に消え失せ、勝利を確信した薄笑いは、今やパニックと罪悪と敗北の表情に変化している。しかし、それでも変態仮面は決して容赦しない。

 

「変態奥義……ゴールド・パワーボムゥウウウッ!!」

 

助走をつけて勢いよく跳躍し、両手で両足首を掴むと、嫌と言うほど強調された股間を突き出し、勢いのままに主犯格の男の顔面へ股間を押しつける。変態仮面の背中からは何故か鮮やかな花火が噴出し、主犯格の男に接触した股間からも火花が散った。

 

「ホゥワリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

爆発的な加速から繰り出された変態奥義は、主犯格の男を押し倒してそのまま床を数メートル引きずるほどの威力を発揮し、床を滑る彼等の周囲には摩擦熱で煙が発生していた。

そして、床を滑る二人の動きが完全に停止した時、主犯格の男は再起不能レベルの精神的ダメージと、若干の肉体的ダメージによって力尽き、完全に意識を手放した。

 

「変態仮面……。変態だけど、変態だけど……カッコイイ!!」

 

「成敗ッ!! さあ、みんな! 逃げてッ!」

 

「は、はぃいいいいっ!!」

 

こうして、強盗団は変態仮面によって全員倒され、人質は無事に解放された。しかし、人質達は床に倒れている強盗団から逃げているのか? それとも目の前の変態仮面から逃げているのか? 何も知らない第三者の視点からすれば、実に判断に困る光景である。

 

「大丈夫ですか? お嬢さん」

 

そして変態仮面の目的であった愛子だが、此方は目の前に突き出された変態仮面の股間を凝視し、緊張の糸が切れた所為もあって、白目を剥いて気絶してしまった。

 

「さあ! おとなしくしろ!」

 

そして間の悪いことに、そんな絶妙なタイミングでヒーローと警官隊が建物内に突入。

 

その時彼等が見たのは、気絶して床に倒れる少女と、変態としか言いようのない格好で仁王立ちしている全裸に近い男の姿。誰がどう見ても犯罪の現場である。

 

「お前ぇ……!!」

 

「イカンッ! さらばだッ!!」

 

その後、強盗団は無事に全員逮捕され、変態仮面はヒーローと警察からの追跡からまんまと逃げおおせた。

 

そしてこの日から、変態パワーでヴィランを退治する変態スーパーヒーローこと、「究極ヒーロー『変態仮面』」の伝説が始まったのである。

 

 

〇〇〇

 

 

「……と言う訳だ。それから私は人知れず『変態仮面』として悪と戦い続け、正体がバレた時は、既にプロヒーローの資格を取った後の事だった」

 

「「「………」」」

 

想像以上の内容に二の句が継げず、何も言えない三人のプロヒーロー。

 

つまり、正体がバレた時には、既にコイツは『変態仮面』としての地位を確固たるモノにしていて、下手に資格を剥奪できない状況になっていたと言う事か?

或いは、資格を剥奪したとしてもヴィジランテ化する可能性が高い事を考え、むしろ資格を剥奪して野放しにした方が危険だと判断されたのかも知れない。

 

「ちなみにこの『スタンダードVフォーム』の他には、捻りを強化した『スクリューVフォーム』や、パンティの代わりにバレエのチュチュを用いた『フリルリザードフォーム』。そして『アルティメットフォーム』と言った特殊なフォームも存在する」

 

「「「………」」」

 

聞きたくもない情報だった。つーか、現時点でもある意味究極なのに、それを更にライジングする様なアルティメットが存在するなど、ヴィランにとっても、ヒーローにとっても、善良な一般市民にとっても悪夢でしかない。

 

そんな微妙な空気が流れる中、Mt.レディはどうしても気になる事があり、思い切ってそれを聞いてみる事にした。

 

「あの……自分の“個性”をどう思いますか?」

 

「む? それはどう言う意味だ?」

 

「いや、だから、嫌じゃ無いのかって……」

 

「? パンティを被るだけで蔓延る悪を倒せる力を、どうして嫌わなければならないんだ?」

 

「………」

 

変態仮面は自分の“個性”に、全く苦しんでいなかった。Mt.レディは、ほんの少しでも「変態仮面が自分と同じく、自分の“個性”で生き辛い思いをしているのに、無理をしているのではないか?」と思った、数秒前の自分を殴り飛ばしたい気分になった。

 

「まあ、それとは別に悩んでいる事があるにはあるが……」

 

「……と、仰いますと?」

 

「俺は正義の味方だが、どうやら正義は俺の味方ではないらしい……と言う事だ」

 

「「「………」」」

 

名言とも迷言ともつかない、変態仮面の奇妙なセリフに、またもや何も言えなくなる三人のプロヒーロー。

 

そんな変態仮面の視線の先にあるモニターには、ブドウの様な頭をした一人の男子生徒が映し出されていた。




キャラクタァ~紹介&解説

変態仮面/鈴木狂介
 ミッドナイトよりもデンジャラスなコスチュームに身を包んだ、アブノーマルな男性版18禁ヒーロー。ベクトルこそ違うものの、悪人は元より助けた人々をも阿鼻叫喚の渦に叩き込む点は、シンさんと共通している。ちなみにこの世界では現在も独身。
 名前は元ネタである『究極!! 変態仮面』の主人公である色丞狂介と、実写版の中の人である鈴木亮平さんから。鈴木は鈴木でもトイトイとは何の関係もない。

清水愛子
 今にも「宇宙キター!」と叫んだり、「がんばれハヤブサ君」を歌いそうな見た目をしているが、多分気のせい。作中では語られなかったが、彼女も「自分が“無個性”だと思っている“個性”持ち」である。星に願いを……。
 名前の元ネタは『究極!! 変態仮面』のヒロインである姫野愛子と、実写版の中の人である清水富美加さんから。

Mt.レディ&シンリンカムイ&デステゴロ
 雄英高校の警備に来たプロヒーロー達。変態仮面のオリジンを聞かされた挙げ句、この後も変態仮面に絡まれるのだが、変態仮面の口から「自分の後継者となり得る人物を探している」と聞いてギョッとする。



変態仮面を採用した理由
 今後の展開として『職場体験編』で、峰田はMt.レディの所へ行けない事が決定しており、そんな峰田に対して作者が考えた救済案こそが、この変態仮面である。変態で紳士な変態仮面と、変態で変態な峰田の化学反応をご期待下さい。

変態仮面の“個性”
 作中で設定されている彼の“個性”は『変態正義』。発動系の“個性”であり、発動中は変態仮面の全ての能力が爆上げされるが、未使用品のパンティでは“個性”を発動させる事が出来ない。その他のメリット及び、デメリットは原作基準。
 ちなみに本人は「100%の潜在能力を発揮できる」と、世間に説明しているのだが、明らかにそれ以上の身体能力は発揮している為、ある意味では最も『ワン・フォー・オール』に近い能力を発揮できる“個性”であると言える。あまり考えたくはないが。

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