怪人バッタ男 THE FIRST   作:トライアルドーパント

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今話で劇場版の話が終了。これにて『怪人バッタ男 THE FIRST』に完結のタグをつけさせていただきます。連載開始から4年に渡るご愛読、本当にありがとうございました。

今回のタイトルはPS用ソフト『アジト3』から。採用の理由はCMで死神博士の中の人である天本英世氏が出演していたからではありません。決して。

2022/1/13 誤字報告より誤字を修正しました。報告ありがとうございます。


第36.5話⑥ アジト3

戦いは終わった。俺自身はハッキリ言って無事とは言い難い状態であるが、結果的には誰一人欠ける事無く、事件は終息した。個人的に不可解な点も多々あるが、其方は警察の仕事であって我々のやるべき事ではない。

 

ただ、昨夜の事件の影響によって予定されていた『I・エキスポ』の一般公開は延期され、本日のI・アイランドではイベントの類いが一切無く、我々はこの何もない時間を此処で過ごした後、明日になれば日本に帰国しなければならない。

また、我々の奮戦は世間に公表する事によって起こるだろう将来への悪影響を考えたI・アイランドの責任者によって闇に葬られる運びとなり、個人的に最近コレとよく似た展開と対処があった気がするのは気のせいではあるまい。

 

「さぁ、食べなさい! 今日は私の奢りだ!」

 

「「「「「「「「「「いっただっきまーす!!」」」」」」」」」」

 

そして、死闘から一夜明けた現在。燦々と輝く太陽の下、I・アイランドの中にある人造湖の傍に設けられたテラスの一角で、オールマイトによるバーベキューパーティーが開催されていた。尚、参加メンバーはこの島に来ていたA組全員である。

開催の理由は昨夜の戦闘の疲れを癒やす為と、イベントが延期した代わりとの事だが、昨夜の戦闘に参加した面々の中には、デヴィット・シールド博士の犯行動機が「オールマイトの“個性”が消失の危機にある」と言う事を知っている為、それに関する口止めを兼ねているのではないかと邪推してしまうのは、俺の心が薄汚れているからだろうか。

 

「バーベキューなんて初めてですけれど、中々良いモノですわね。お肉もお野菜もとっても美味しいですわ! 今度、家の庭でもやってみようかしら?」

 

「無限……」

 

「そんなに腹減ってたのか?」

 

「ええ、昨日随分と脂質を使い果たしてしまいましたので、補給しないと……あら、このラムもいけますわ! あっ、ソーセージも頂かないと!」

 

「使い果たした……か。それで言えば……」

 

「言うな。言いたい事は分かっている」

 

「極限……」

 

「見るからにね……」

 

戦闘終了後、何時もの様にズタボロになった俺は、ヴィランによって操り人形にされていた麗日と共に病院に搬送されたのだが、担当した医師から半ば貴重なサンプルでも見つけた様な目を向けられつつ安静を言い渡されるも、自身の第六感を信じて病院を脱走。

現在の俺は骨に直接皮をくっつけた様な有様であり、正直に言うとトゥルーフォームのオールマイトよりも弱そうな姿でバーベキューパーティーに参加しているのである。

 

「ケロ……ねぇ、やっぱり大人しく病院に居た方が良かったんじゃ……」

 

「問題ない。兎にも角にも、食いもんだ。何でも良い。じゃんじゃん持ってきてくれ」

 

「う、うん」

 

ただ、現時点では一挙手一投足に多大な労力を強いる為、極力安静にした状態で誰かに食べ物を食わせて貰う以外にエネルギーを補給する方法はない。幸いな事に病院からの脱出に協力してくれた麗日がそれを手伝ってくれるらしいのだが……。

 

「はいシン君。持ってきたよ」

 

「……それは何だ?」

 

「お餅。さあ、食べて食べて」

 

「………」

 

麗日が持ってきたのは、バーベキューの串に刺して焼いた切り餅だった。餅とバーベキューソースの組み合わせは結構旨いと言うのは、固定概念を覆すなかなか新鮮な発見ではあるのだが、何故日本から遠く離れたこの地で、しかもこのタイミングで餅を選んだのか? まさか、麗日家ではバーベキューに餅を使うとでも言うのか?

 

「ゴマだれと磯辺焼きも出来たわ。さあ、食べて食べて」

 

「フフフフ! 呉島さん! クルミとずんだときな粉もありますよ!」

 

「む……どんどん、食べて食べて」

 

「餅の他にも何か持ってこいや」

 

「じゃあ、次は麗日家特製のお汁粉を……」

 

「では私は餡子の代わりにチョコを使った代わり種を……」

 

「タンパク質を持ってこい」

 

そして、あろう事か梅雨ちゃんと発目も餅焼きに参戦。俺が飽きないように工夫してくれているのは分かるが、バーベキューパーティーなのだから流石に肉を食わせて欲しい。炭水化物はもう要らん。あと、せめて飲み物を寄こせ。餅オンリーはキツイ。

 

「ヒャッハー! 肉祭りじゃー!」

 

「峰田君! 一人でそんなに沢山何本も一人で取ってしまっては、他の人が食べられなくなるだろう! それに一度に全部食べられないから、せっかくの肉が冷めてしまうぞ! それでは君も残念ではないか!」

 

「うるへーーーッ! 両手一杯の肉祭り位やらせろよ! オイラの美女でハーレムっつう偉大な夢の第一歩が崩れ去った上に、あろう事かソレを見せつけられてんだからよーーーッ!!」

 

「いや、どっちかって言うと、『死ぬ前に好きなモノをたらふく食べたい患者と、それを手伝う看護師』って感じじゃね?」

 

「実際は『食わされてる』だけどな……」

 

「? いや、私には初めから貴方にその気はありませんでしたけど?」

 

「じゃあ、なんであの時、オイラに脱ぎたてのパンティを被せたんだよ! そんな事されたら、普通そーゆー展開を期待するだろ!? その気があるって思うだろ!?」

 

「いやですね、人間と言う生き物は一度手に入ったと思ったモノが手元から離れていくと、どうにもそれが惜しいと感じる心理が働くモノなんですよ。

つまりですね、私が貴方に脱ぎたてホカホカのパンティを渡したのは、あの場に居た呉島さんに私の事を惜しいと思って貰う為の策略だったのですよ」

 

「何だってぇ-ーーーーーーーーーーッ!?」

 

「ええ、それで貴方はソレを実行する上で、他の方よりもかなり都合が良かったと言うか……要するに、貴方の立場を利用させて貰いました」

 

「だから君はいい加減に他人を自分の利益の為に利用しようとするのは止めたまえ! 何時かきっと天罰が下るぞ!」

 

峰田と発目の言い合いによって、あの時の発目の行動の真意を理解した飯田が発目に正論を叩きつけるが、しかし相手はあの発目である。このI・アイランドに来てからも、何だかんだで飯田を良い様に利用している発目である。この女を論破する戦力として考えると、ハッキリ言って飯田では発目に勝てる見込みはないだろう。

 

「そうですねぇ……では、今夜いよいよ呉島さんのお部屋にお邪魔するとしましょう!」

 

「いや、ちょっと待て! 君は一体、何をする気だ!?」

 

「何って、ホテルの一室で若い男と女が同席したら、やる事は一つしかないでしょう!? 貴方が言うように、他人を利用せずにやる事をヤルだけです! ちゃんと準備もしますから、問題は全くありませんねッ!!」

 

「いや、問題だらけだろ!?」

 

「てかさ……そーゆー風にオープンに言うのもアレだけど、そう軽々しくその……女子がそう言う事するのも、ちょっとどうかと思うんだケド……」

 

「? 随分とヒーロー科らしからぬ発言ですね。ちょっと想像力が足りないんじゃないですか?」

 

「……は? 何? 喧嘩売ってんの?」

 

「ぶっちゃけた話、今の“個性”ありきの超人社会でトラブルに巻き込まれずに人生を終えるなんて事はまず有り得ません。しかも、我々はそのトラブルに率先して首を突っ込んでいく職業に就く訳でしょう? そんな職業を選択して、自分が何時も五体満足でいられると思いますか? 取り返しのつかない事にならないと言い切れますか? それは怨み辛みを買わない生き方なのですか?」

 

「うっ……それは……」

 

「それは相手にしたってそうです! それが同業者であれば尚更です! そんな風に相手を思って後生大事に純潔を守ったとしても、気付いたら相手がこの世から居なくなっていたなんて、この業界じゃザラですよ! だったら、良いなと思う相手にとっととぶち抜いて貰うのが、結果的に言えば万が一の時に一番ダメージが少ないと思うんですが、その辺どう思いますかオールマイト!」

 

「え゛え゛ッ゛!?」

 

あながち間違いとも言えない発目の暴論に、始めはカチンと来ていた耳朗はUSJの事もあってか言葉に詰まり、ヒーローとして偉大な人物であるオールマイトに、発目のキラーパスが突き刺さる。

 

しかし、オールマイトに対して物凄く失礼だが、オールマイトはまともな恋愛とか経験した事があるのだろうか? 何となくだが、オールマイトはヒーローとして突っ走り続けた結果、そう言ったモノを全て未経験のまま此処まで来てしまっている様な気がする。

 

「ま、ま、まあ、そうだねぇ……確かに、ヒーローをやっていると、その……そう言う部分もあるにはある……とは思わないでもない……かな……?」

 

「ほらご覧なさい! 私は何も間違った事は言ってないでしょう?」

 

「………」

 

そして、俺は発目の野獣の様な輝きを放つ瞳を見て確信した。コイツ、オールマイトを利用して、自分の行動を正当化しようとしてやがる。

厄介な事にオールマイトの方は言葉を濁しつつ、あくまでヒーローとしての立場でモノを言っているのが非常に不味い。此処は教師の立場で発目を倫理的に諫めて欲しい所なのだが、教師としては新米の部類に入るオールマイトにそれを求めるのは少々酷な話か。

 

「グハハハハハハ! お困りの様だな、我が王! この場はこのイナゴ怪人スーパー1にお任せあれ!」

 

「え? スーパー1?」

 

「1号じゃなくて?」

 

「うむ! 我こそは、イナゴ怪人1号を構成するミュータントバッタが、死に際に植物プラントに産み付けた卵から生まれた第9のイナゴ怪人よ!」

 

「………」

 

そして、新たに現われるは更なる混沌。いや、むしろこの場の空気の流れを滅茶苦茶にするには、このイナゴ怪人こそが最適解かも知れん。

 

「さて、発目明よ。貴様は畏れ多くも我が王の情けを頂戴しようと目論んでいる様だが、それはこのフルーツパフェよりも甘い考えだと言わざるを得ない。我が王の生命力と繁殖力は正に底なし。その圧倒的な生と性のパワーの前にしたが最後、貴様は自らの愚かさを噛み締めながら、悔恨と絶望と快楽の涙に塗れて絶命するであろう!」

 

「………」

 

結果、発目に死の運命を宣告したイナゴ怪人スーパー1によって、場の空気は予想の斜め上の方向に滅茶苦茶になった。収拾がつかなくなった。取り敢えずイナゴ怪人スーパー1は、その「どうだ」と言わんばかりの笑顔を止めてくれ。腹が立つ。

 

「……アレ? 出久は何処に行った?」

 

「イナゴ怪人が現われたあたりで、そっと出て行ったぞ。オールマイトと一緒に」

 

ギルティ。俺を置いて逃げるとは良い度胸だ。お前の分の肉は俺が貰う。……いや、待てよ。そう言えば、去年の夏にオールマイトが訓練中の出久を放っておいて、水着ギャルとのパーティーに出かけていった事があったな……。

 

「それよりも一つ聞きてぇ事があるんだが、予測と言うか推理と言うか、そう言う事をサー・ナイトアイからどんな風に教わってるんだ?」

 

「うん? ああ、学校帰りに喫茶店で茶をしばきながらだが……それがどうした?」

 

「今回の事件は呉島が言った通り、I・アイランド側にヴィランの内通者がいた。ヴィランの目的の物も、予測した通りセントラルタワーの中にあった。お前はヴィランの行動に違和感を覚えてそう判断したが、俺はお前に言われるまで何一つそう思わなかった。そう言う“気付き”ってのも、ヒーローには必要なモノなんじゃねぇかと思ってな」

 

「……今回みたいに気付かない方が良かったなんて事もあるぞ」

 

「そうかも知れねぇが、『何かおかしい』と違和感を持たなかった事はヤバいと思う。最悪、これからヒーローとして活動した時、助けたと思った相手に後ろから刺されるなんて事もあるかも知れねぇからな」

 

「うむ! 確かに状況から物事を推理し、隠された真実を当てるとまではいかずとも、せめて状況を考慮して違和感を覚える位の判断力や思考力を身に付けたいとは俺も思ったな! 正直、今回の事は『おかしい』と思っただけでも大したモノだと俺は思う!」

 

俺の心に出久とオールマイトに対して何だかやりきれない気持ちが沸き上がる中、今回の事件に際してヴィランの行動に違和感を覚えなかった事を、轟と飯田は反省点として色々と思う部分があるらしく、「違和感を覚えるコツ」みたいな事を俺に聞いてきた。

 

「……『相手の気持ちになって考える』。結局の所、違和感を覚える方法と言うなら、コレが一番だと思う。ナイトアイにオールマイトの最初の授業の内容を伝えた時、屋内戦闘訓練でヴィランの思考を学ばせたのは、そう言った『ヴィランの自然な行動』を理解させる為だろうって言っていたしな」

 

「……そうか。つまり、俺は授業で習った事を活かしきれてなかったって事か……」

 

「轟の場合、大抵の事は力技で何とかなるって部分もデカいかもな。実際、相手が何かする前に動きを止めてしまえば何とでもなる。その点は飯田も同じだ。単純に相手よりも速く動ければ、相手は何も出来ないまま無力化される」

 

「む……そうか、確かにそう言う部分はあるかも知れないな。そして、今まではそれで何とかなっていたと言う訳か……」

 

「まあ、シンプルな力は純粋に強いって事だ。色々と考える必要がなくなる位にな。計画通りに物事が上手く運ばなかった時なんかは、そう言うシンプルな力は突破口に成り得る」

 

「つまりは力技か……」

 

「しかし馬鹿には出来んぞ。オールマイトなんてその典型だし」

 

「「確かに……」」

 

尚、この話は轟や飯田だけでなく出久にも言える事である。昔は“無個性”だったからその分頭を使う感じだったのだが、どうにも最近は『ワン・フォー・オール』を使いこなせるようになってきた所為か、割と「力でねじ伏せる」的な思考が出久に根付いてきている様な気がする。

 

……まあ、これに関して言えば、オールマイトが『ワン・フォー・オール』をそう言ったゴリ押し的使い方をしている人間だからと言う部分もあるだろう。救助訓練で「最後に我々プロの連携をご覧に入れよう!」と言いながら、「何か大丈夫そうだったから、全員救けたぞ!!」とか言って救助用の人形を全部背負って終わらせちゃったし。

しかもあの時は、相澤先生が「安全確認は俺がやるんで、確認が取れた所から救助をお願いします」ってちゃんと役割分担して連携を見せようとしていたのに、オールマイトはそれをガン無視してそんな事をする(しかも「OK!! ヨロ!!」と了承の返事をしていた)もんだから、皆は歓声を上げていたが相澤先生は滅茶苦茶にキレていた。

 

「むむむむ……! 確かにヒーロー科の体力を侮ってはいけませんね! ならば今から何か精力が付きそうなモノを食べてドーピングを……」

 

「グハハハハハハ! 笑止! その程度の小細工で我が王を止める事など出来ん! それこそ妊活中の夫婦も裸足で逃げ出す狂乱のサバトでもなければ、我が魔王を満足させる事なぞ到底不可能よ!」

 

「……で、あのサポート科の事はどうするつもりだ?」

 

「放っておく。俺は病院に戻って大人しくする」

 

何を考えているのかしぶとく食らいつこうとする発目と、何故か俺の称号が魔王にグレードアップしているイナゴ怪人スーパー1の不穏な会話を無視しつつ、病院は病院で危険な臭いがするがホテルに戻るよりは幾分かマシだろうと判断する。

 

「……そうか。まあ、あれだ。何かあったら俺の部屋に来い。匿ってやる」

 

「そうだな。いざと言う時は、遠慮なく訪ねてくれ」

 

「……有り難い。ありがとう……」

 

そして、万が一の場合は俺を匿ってくれるらしい、轟と飯田の心遣いに俺は深く感動した。

 

 

●●●

 

 

翌日。大量の餅と肉と野菜を摂取した後、病室でグースカとひと眠りしたら、体はすっかり元通りになった。本来の予定から大幅な変更を余儀なくされた初の海外旅行であったが、そこそこ満足のいく結果になったのではないだろうか。

 

「出来たぞ、死神博士! 貴様が逮捕される事で一人残される貴様の娘をおはようからおやすみまで見守る守護者たる怪人! その名も『死神カメレオン』だッ!!」

 

「「「………」」」

 

そう、そこそこ満足のいく結果になった筈……いや、現実逃避はよそう。どれだけ必死に目を反らそうと頑張っても、目の前の光景は紛れも無い真実だ。

 

警察に両脇を固められながら、何か話があるらしいデヴィット・シールド博士と、その娘であるメリッサさん。この後、数多くの受難に晒されるであろう父娘の前でふんぞり返っているのはイナゴ怪人スーパー1と、そのイナゴ怪人スーパー1の仕業で生まれたと思われるカメレオンの怪人。

止めとばかりに、シールド親子の背後には、多種多様な植物をモチーフとした無数の怪人達が堂々と仁王立ち。その光景は正に、げに恐るべき非日常である。

 

そして、シールド親子の背後に集結した植物怪人達だが、これはイナゴ怪人スーパー1曰く、昨夜の戦闘で人数的な不利を嘆いた俺の心境をテレパシーで感じ取ったイナゴ怪人1号は、俺が受けたダメージのキックバックで消滅しようとする最中、植物ブラントで肉体を構成するミュータントバッタの死骸をばら撒いていたのだと言う。

これは、先日雄英高校で行われた勇学園ヒーロー科との合同実習において、“個性”由来の生物はミュータントバッタの影響による変異が早いと言う特性を生かし、“個性”の影響を受けた植物ならば同様の事態が起こるのではないかと期待した行動らしい。

 

その結果、セントラルタワーの植物プラントはミュータントバッタによって物の見事に汚染され、“個性”の影響を受けた植物達は軒並み二足歩行の怪生物と化してしまうと言う、バイオハザードな異空間へと変貌を遂げた。

尤も、植物怪人達が誕生した時には既にヴィランとの戦闘は終了していた為、植物怪人達は後から来た警察にヴィランとして軒並み逮捕されたのだが、その後も植物プラントから延々と発生し続ける植物怪人達をヴィランの仕業と判断して処理したい警察と、彼等を研究したい科学者達が対立。そこへイナゴ怪人スーパー1が現われて原因を説明し、今に至る……と言う事らしい。

 

尚、我々の所業が闇に葬られる事もあって俺に関しては特にお咎めも無く、それらの研究に就いている科学者の皆さんからすれば、元々“個性”の影響を受けた植物を調べていた事から「コレはコレでアリ」だとの事。ちなみに元凶であるイナゴ怪人1号は、日本の我が家で既に復活している。

 

「……で、この怪人共はこの後どうなるので?」

 

「彼等は此処で研究を目的として飼育されていた植物が変異を起こしたものだが、原因はミュータントバッタ……つまりは君の“個性”によるものだ。そして、“個性”と言うモノは総じて『使う事でより強くなる』。その事を考えれば、彼等をI・アイランドに閉じ込めておくのは、彼等の成長にとって大きなマイナスになるだろうと言うのが研究者達の総意だ」

 

「……つまり?」

 

「つまり、怪人達は君の元に居た方が、彼等自身の為になるだろうと言う事だ。幸いな事に彼等は一種類につき複数体が存在するから、個体毎に検査や調査を行った後、選別された各種一体ずつが君の所に送られる手筈になっている。これにはI・アイランドとそれ以外の環境化での成長の違いを調べると言う意味もある」

 

全く嬉しくない情報だった。何気にデヴィット・シールド博士との初めての会話であるのだが、その内容が内容だけに素直に喜ぶ事が出来ない。喜んでいるのは実に満足そうな顔をしているイナゴ怪人スーパー1だけだ。

 

「ね、ねえ、『死神カメレオン』って呼びにくいから、貴方のこと略して『レオン』って呼んでも良い? ね? カッコイイでしょう?」

 

「……まあ、ワイはメリッサはんが宜しければ、呼び方なんて何でもかまいやしまへんケド……」

 

「喋れるのか……てか、なんで関西弁?」

 

「知らん。使ったカメレオンが関西出身だったのではないか?」

 

一方、メリッサさんは割と物怖じしない性格なのか、死神カメレオンと普通にコミュニケーションをとっており、死神カメレオンは死神カメレオンで、メリッサさんと妙な関西弁で会話する事が出来ている。

つーか、イナゴ怪人にしろ死神カメレオンにしろ、俺は怪人になると人間の言葉が話せないのに、どうして怪人のコイツ等は人間の言葉を流暢に話せるのだろうか? ウツボカズラ怪人や人食いサラセニアンと言った植物怪人達は話せないっぽいので、その辺に何か違いがあるのかも知れないが……。

 

「しかし、何でイナゴ怪人スーパー1は、メリッサさんにあのカメレオンの怪人を?」

 

「……実は彼と取引をしたんだ」

 

「……えっと……内容について聞いても?」

 

「ああ、と言うか本題はむしろソレなんだけどね」

 

そして、博士の口から語られたのは、ウォルフラムが撃破された後、駆けつけた警察に全てを自供し、取り調べを受けた後の顛末であり、ヘロヘロでボドボドな俺が病院で処置を受けている時の出来事。ヴィランをI・アイランドに招き入れ、島中に恐怖と混乱をもたらした博士の元に、植物怪人を引き連れたイナゴ怪人スーパー1が博士に面会に来たのだと言う。

 

「デヴィッド・シールドよ。地に堕ちた貴様に、我々が再起の機会を与えてやろう」

 

「「………」」

 

お前は一体、何様のつもりだと言いたくなる態度と発言だが、同席している警官達は二人の会話を黙って聞く事に徹していた。どうせまともな返答は帰ってこないと言う事は、博士と面会させる前の問答で分かりきっていたからだ。

 

「……再起の機会とは?」

 

「ククク……良いぞ。話の早い男は嫌いではない。何、貴様が罪を償った後、貴様をヒーロー事務所『秘密結社ショッカー(仮)』が誇る偉大な科学者『死神博士』として迎え入れる事を約束しようと言うだけの話だ」

 

「……しょ、ショッカー(仮)の死神博士?」

 

「左様。そして貴様には、ショッカー(仮)の元で我が王の忠実な僕たる、より強力な怪人を研究・開発・改良をして貰おうと言う訳だ。具体的にはコイツ等のな」

 

どう聞いても「悪の組織へのヘッドハンティング」に聞こえる発言をするイナゴ怪人スーパー1が指差すのは、ウツボカズラが突然変異を起こしたウツボカズラ怪人を筆頭に、人食いサラセニアンやドクダリアンと言った、今現在も植物プラントから大量に発生し続けている植物怪人達。

どうやら、イナゴ怪人スーパー1は“個性”研究の第一人者である博士の協力を得て、更なる怪人を作り出そうとしているらしいが、「それは警察の前で馬鹿正直に堂々と言って良い事なのか?」と博士は思った。口には出さなかったが。

 

「そして、貴様の大事な一人娘であるメリッサ・シールドの護衛としてコイツ等を宛がう事で、我々に対して人生を賭けても返しきれぬ程の多大な恩を感じて欲しいッ!!」

 

「……いや、別に必要ないだろう」

 

「貴様ぁ! 自分の大事な娘がどうなっても良いと言うのかぁ!!」

 

誰が聞いても「世界征服を企むステレオタイプの悪党の脅し文句」であるが、イナゴ怪人スーパー1はあくまでも守護者側であり、加害者側になるつもりは一切無い。

ただ、メリッサに危害を加えようとする輩が居たならば、情け容赦無い制裁を実行しようとしているだけである。それも博士に恩を売る目的で。

 

「この際だから、ハッキリと言わせて貰う。弱みを見せた善良な人間など、人を食い物にする悪党にしてみれば只の餌でしかない。そして、“悪”とは即ち“この世の常”だ。それこそ世を捨てでもしない限り、人は生きる上で悪を避けては通れん。貴様と言う弱味を持ってしまった娘が悪に食い荒らされないよう、娘を悪から守る力が必要だと貴様は思わないのか?」

 

「………」

 

「何より、他者を騙し弄ぶ……それが優秀な存在であればあるほど、穢し難い存在であればあるほど、その行為そのものに快楽を見いだし、愉悦を覚える。それが、貴様等人間が持つ『悪意』と言う感情だろう?」

 

耳が痛い話だった。実際に弱味を見せたが為に悪党の食い物にされた博士にとって、イナゴ怪人スーパー1の言葉は決して無視する事の出来ない事実であり、博士が生きる人間社会の一側面だった。

 

「……君の言いたいことは分かった。だが、彼らの様な存在に四六時中付きまとわれていたら、それはそれでメリッサに悪影響があるんじゃないか?」

 

「安心しろ。私に良い考えがある」

 

そう言うとイナゴ怪人スーパー1はさっさと立ち去ったが、その翌日には『死神カメレオン』と言う、透明になれる怪人を用意する形で懸念を解決するモノだから、博士としてはもう何も言えない。いや、何か言う気力もなくなったと言うべきか。

 

「そんな訳で罪を償ったら、彼等のサポートに回ると言う約束をしたんだ」

 

「……え? 貴方はそれで良いんですか?」

 

「実際、ヴィランを招き入れた僕はもうI・アイランドには居られない。メリッサは大丈夫だが、余り良い顔はされないだろう。それこそ、彼の言う通り悪意に晒される事も充分に考えられる。そうした事を考えれば、彼の提案はある意味とても助かるものだった。それに彼等の様な怪人達を研究するのも、再就職先としてはそんなに悪くないんじゃないかと私は思う」

 

「………」

 

マジか。マジで言ってるのかこの人。

 

いや、確かに博士がI・アイランドで研究を続ける事は叶わないだろうし、元々I・アイランドとは別の場所で“個性”を増幅させる装置の研究を続ける予定だったらしいので、博士としてはI・アイランドに未練や執着は無いのだろう。

そして、博士は“個性”研究の第一人者である。そう言う立場の人間からすれば、“個性”によって全く違う新生物に進化した怪人の研究は、科学者としての興味関心を惹かれる存在なのかも知れない。

 

……あれ? 何か考えれば考える程、そんなに不自然な事じゃないような気がしてきたぞ? 『秘密結社ショッカー(仮)』の死神博士と言う肩書とコードネーム以外は。

 

「では、我々は一足先に日本で貴様等を待つ! 待っているぞ! ヒーロー事務所『秘密結社ショッカー(仮)』I・アイランド支部の怪人達よ!」

 

「「「「「「「「「「EEーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」

 

「………」

 

かくして、傷を癒やしている間に割と大規模な組織が知らぬ間に結成され、何かナチスっぽい一糸乱れぬ敬礼と共に奇声を上げる怪人達を尻目に、俺は日本へと帰った。

 

尚、デヴィット・シールド博士は怪人について、後にこう語っている。

 

「怪人と楽しそうに遊ぶ娘を見て、私はこう思いました。『怪人とはこの上無い“守護者”なのではないか』と。娘の傍を離れる事も、傷つける事も、忙しくて相手になれないと言う事もなく、常にその安全を見守り、有事には自分を犠牲にしても命を守る。それは下手な人間よりも、この人ならざる怪物の方が、遥かに“守護者”に相応しいのかも知れません。大きな危険が迫っている時なら、尚更に……」




キャラクタァ~紹介&解説

呉島新
 大抵の問題はタンパク質を取れば解決する怪人。本来の世界線では下記のデヴィット・シールドが入院しているが、この世界ではシンさんが代わりに入院している。本人の知らぬ間に割とヤバイ規模の怪人軍団が誕生しているが、元はと言えばシンさんがウォルフラムとの初戦で数の不利を何とかしたいと考えたのが原因である。まあ、勝手に最も手っ取り早い方法でソレを実行したイナゴ怪人1号が一番悪いのだが……。

発目明
 人間の心理と超人社会の真理を駆使し、他人を翻弄し続けるサポート科のヤバイ女。作中ではイナゴ怪人スーパー1によって戦力不足を指摘されるも、それならそれで戦力を増やせば良いと考え、口八丁手八丁で戦力確保の為の行動を裏で起こしたとか起こさないとか。事実、何も間違った事は言っていないのが彼女の厄介な所である。

轟焦凍&飯田天哉
 今回の事件において、自分達には考察力や推理力と言ったモノが必要だと感じた二人。本編の第47話における轟君の言動はI・アイランドの事件を踏まえてのモノであるが、飯田君の場合は善くも悪くも糞真面目なマニュアル人間なので、それを考慮しても原作と変わらないだろうと言うのが作者の所感だったりする。

イナゴ怪人スーパー1
 I・アイランドで誕生した第9のイナゴ怪人。誕生の経緯と字面からするとイナゴ怪人1号の強化体の様にも思えるが、完全なる別個体である。怪人の視点から人間の悪意を語り、下記のデヴィッド・シールド博士との交渉を成功させる。
 尚、博士との交渉ではヒーロー事務所『秘密結社ショッカー(仮)』の死神博士として勧誘しているが、コイツとしては日用品がモチーフになっているジンドグマな怪人を作って欲しいと思っている。

デヴィット・シールド
 この世界線では銃で撃たれなかったので、入院すること無くそのまま警察の取り調べを受ける事になった天才科学者。そしてイナゴ怪人スーパー1の行動力と交渉術により、『仮面ライダー』の活動を支える秘密結社(?)の科学陣になる事が半ば確定してしまう。まあ、本人は「それはそれで……」と満更では無い様子だが。
 それと話は変わるが、劇場版『BLACK』でゴルゴムがブラックサンをも倒せるロボットを科学者に造らせようとしていたが、「それってシャドームーンだって倒せるロボって事なんじゃねぇの? 世紀王要らなくない?」とツッコミを入れたのは、果たして俺だけなのだろうか?

植物怪人軍団
 イナゴ怪人1号が植物プラントでミュータントバッタの死骸をばら撒いた結果、飼育していた植物達が突然変異を起こし、ここぞとばかりに量産された怪人達。人食いサラセニアンやドクダリアンなど、様々な植物モチーフの怪人が誕生しており、植物プラントは今や元の植物園的な面影が皆無の怪人プラントと化している。まあ、科学者連中は「これはこれで……」と面白がっているが。
 元ネタは、昭和ライダーシリーズに登場する植物モチーフの怪人達だが、ウツボカズラ怪人を筆頭に平成ライダーシリーズに登場した植物怪人も存在する。尚、下記の『死神カメレオン』製造に際し、何体かがミュータントバッタの餌になっている。

死神カメレオン
 イナゴ怪人スーパー1がデヴィット・シールドに恩を売る目的で、普通のカメレオンを元に製作した怪人……と言うか、上記の植物怪人を食ったミュータントバッタを食わされて突然変異を起こしたカメレオン。メリッサに付けられた愛称は「レオン」で、何故か妙な関西弁で話す。
 事件後のメリッサをセコムする者であり、体色の変化による透明化と、擬態により化ける能力を有し、壁に張り付く事も出来る。攻撃手段は長い舌で、弱点はナチスの宝。明らかにガセネタだと思われる様な情報でも、ナチスの宝だと言われればあっさり引っかかる。

メリッサ「この箱の中にはナチスの宝物を記した地図が入ってるわ」
レオン「ほんまでっか!?」

 元ネタは『仮面ライダー(初代)』に登場する「死神カメレオン」と、小説『仮面ライダーEVE』に登場する「カメレオン怪人」。「イナゴ怪人スーパー1が作ったのにカメレキングじゃねーのか」と言うツッコミは無しの方向で。あと、似たような能力を持ったチンビラが原作のUSJでかっちゃんにボコボコにされているが、それは他人……もとい怪人の空似と言うヤツである。



ヒーロー事務所『秘密結社ショッカー(仮)』I・アイランド支部
 支部も何も本部がまだ出来ていないのだが、昭和ライダーにおいて怪人側の勢力には海外の支部の存在は必要不可欠なので、当然イナゴ怪人を従える主人公にも海外の支部は必要不可欠の存在である。最終的にシンさんは納谷悟朗ボイスの端末を用い、世界各地の怪人を日本に招集する羽目になるだろう。

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