君たち。のその先は?   作:あず。

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7話

―ポチッ

 

―……―……

 

一寸待ってもコールバックがないということは、多分行っても大丈夫だろう。

しかし、

 

「カレシ、やんなぁ……」

 

お姉ちゃんは誤魔化していたけど、

第一声のから溢れる優しさというか、嬉しさで私はそう直感した。

もし万が一、億が一、男絡みではなくても、

人生をぐるっとひっくり返してしまうような何かがきっと起こったに違いない。

その喜びを私に話したかったから、だからわざわざ電話をしてくれたというのなら、

是非ともその口から何があったのか聞いてみたい。

だって、価値観が近い唯一の家族なんだし。

8つも年が離れてるけど、良かったやんねぇお姉ちゃんと笑ってあげたい。

 

「よっしゃ!いくかぁ!」

 

バシっと両頬を手で抑えて私は部屋着から外行きの服に着替え始める。

多分食事も1人分しかなかっただろうから、少し準備はゆっくりだ。

着替えるついでにダラけモードだった髪も整えなおして、ちょっとナチュラルに化粧直し。

戸締まりも火の元もじっくりと確認。

ケータイ、カギ、サイフ、よしっ、貴重品もしっかり持った。

パタン、と扉もゆっくりと閉めてエレベーターを降りる。

外はもうしっかり暗くなっていて、

真っ直ぐお姉ちゃんの所に行くなら徒歩5分ぐらいなのだけど、

わざわざ明るい大通り沿いを遠回りすることにした。

道沿いにゆっくり歩いていると、青と白に塗られた牛乳瓶のあのコンビニが目に入る。

 

『おにぎり100円セール!明日朝まで!』

 

デカデカとPOPが貼ってある。

おおっ、と釣られるように入るとセール用におにぎりの在庫は潤沢なようだ。

 

―お米は炊き足すってのは流石に難しいよね。

 

私はそう思い、セール対象ギリギリの高そうなやつをまずは物色。

いくらシャケおにぎり、牛めしおにぎり、熟成めんたいこおにぎり……

普段は買えないような高嶺の花ばかりだ。

うむ、餞別にしておこう。

更に女子といえばスイーツやし、上等ロールケーキに……プレミアチーズケーキに……

よしっ、これぐらいあればご機嫌を取りつつじっくり話は聞き出せそう。

手持ちの籠に丁寧に放り込んで、適当に立ち読みも少しだけして会計を終える。

店員さんの挨拶もなかなかキレがあって、私はすっかり上機嫌になってしまった。

この牛乳瓶コンビニは今後一番のいきつけにしよう。

 

「~~♪」

 

思わず鼻歌なんかもでちゃったりして、お姉ちゃんのマンションに到着。

時間を確認すると電話を終えてから30分ほどだった。

こんなもんやなぁと思いつつお姉ちゃんの部屋番号をポチポチと入力すると、

ピンポーンという音が鳴って、こら四葉はホンマにっ!とお姉ちゃんの声が聞こえた。

 

「きたよ~!」

 

餞別品をカメラに映るように掲げて、ニッコリと笑顔を送ると、

もうっ、とドアが空いて奥のエレベーターが自動的に動き出した。

エレベーターが来るのが何やら遅く感じる。

なんだか嬉しくて待ちきれないのが自分でも分かった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

四葉のニッコリとした笑顔を見ると、何やら毒気が抜けてしまった。

元々嫌だというものでも無かったけれど、あんな笑顔を送られると嬉しさが急上昇してくる。

解錠ボタンを押して、エレベーターに乗ってそろそろ上がってくるだろうと、

玄関前でソワソワしちゃってるとピンポーン、ともう一度鳴った。

ガチャッ、とカギを開けると先ほどと同じような四葉の笑顔。

 

「お姉ちゃんアデュ~」

 

パタンっ。閉め。

 

「えっ、なんでなんで?お姉ちゃんなんで?」

 

パタンっ。開け。

 

「あんたアデュ~って、そら『さよなら』や」

 

「えっ?マジ!マジなん!私結構使っとった!どうしよ!」

 

「次からは『オラ!』にしとき」

 

本当は日が落ちたら『ブエナス・ノーチェス』なのだけど、

使いにくいとか言われそうで止めておいた。

 

「じゃあお姉ちゃん、オラ!」

 

四葉はもう一回ニッコリと笑って、何やらドッサリと入ったコンビニ袋を掲げる。

その笑顔にからかう気持ちさえも抜けてしまった。

私は、入りやご飯ええ感じに出来とるよ、と四葉を中に誘い入れる。

四葉は遠慮はしない風に少し進んで、

でも靴はしゃんと丁寧に揃えて、トコトコと中に消える。

 

―ホンマに、なかなかにかわいいなぁ、あの子は。

 

四葉に続くと、手持ちのカバンを横に置いて四葉はテーブルの前に座っていた。

一人暮らしだし、折りたたみのミニテーブルしかないのだけど、

卓上にはやるだけの豪勢な食事を用意してあげて、なかなかに目を光らせている。

ホラッ、クッション使いな、と床に直座している四葉にクッションを手渡すと

ありがとっ、とそれを敷いてガサガサとコンビニ袋を漁り始めた。

 

「なんなん?なにこうてきたん?」

 

私は四葉に尋ねると、中から普段は高嶺の花のおにぎりがまず出てきて、

続いて給料日後ぐらいにしか買わないようなスイーツがいくつか。

 

「お姉ちゃん、いきなりで悪いかなと思って。お土産よお土産。」

 

「あんたこれどのおにぎりも高級品やん!ええのにそんなの」

 

「大丈夫。100円神セールやから」

 

ニシシッと笑い、スイーツ冷やしとくね、と四葉は冷蔵庫に向かっていった。

確かにお米だけは2人分用意出来なかったけど、そこもしっかり察しているとは。

しかも100円セールとはやりよる。

妹はかわいらしいだけではなくなかなか出来る子に育っているようだ。

四葉はトコトコと冷蔵庫から戻ってくると、しゅっとクッシュンに座り目を輝かせる。

 

「あらあら四葉ちゃんはお腹ペコペコ虫やんね」

 

「ホンマにっ、お腹空いたわ。食べよ食べよ。凄い美味しそう!」

 

「はいはい。私もペコペコやよ。取り敢えず食べよか」

 

よいしょっ、と私も四葉の向かいに座ると、二人でいただきますと挨拶して箸を進め始めた。

明日のためにとかなり気合が入った夕食は、

不健康JK四葉ちゃんにはかなりお気に召しているようだ。

ふんわりとした雰囲気で軽口も言い合いながら、私達姉妹の食事は進む。

しかしこのいくらシャケおにぎり、かなり美味しい。

私も100円神セールをチェックしよう。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「でさ、お姉ちゃん、カレシ、やんな?」

 

プラスチックスプーンを咥えつつ、ロールケーキを分け合いながら、

頃合いと見て私は切り出す。

お姉ちゃんの食事は本当に美味しかった。

隅から隅まで手が込んでいて、美容にも気を使ったようなサラダに、

身体に優しそうな煮物に、ほっこりとしたスープ。

一人暮らしが長くなる毎にコンビニ率が増える私にはまさしく宮廷料理のよう。

ただ、普段のメッセージからお姉ちゃんも程々にダラけている事は知っていた。

だから男、しかも近しく会うために身体に気を使ったのではないかと予想したのだ。

 

「いや……カレシ……ちゃうくてな。まだ」

 

「まだ!」

 

言葉尻を掴んで更にひと押しすると、うううっ、とお姉ちゃんはしどろもどろになる。

もうっ、と一息ついて、

 

「はいはい。四葉ちゃんには敵いません。

 お姉ちゃんは、好きな人、好きな人が、出来ました」

 

2回めの好きな人辺りから恥ずかしくなったのか、言葉が細切れになっていた。

そっか、お姉ちゃんに好きな人が、

 

―良かった。

 

まず私に走った感情は祝福と安堵だった。

8年前の彗星災害付近からちょっと様子がおかしそうだったお姉ちゃんは、

墜落後からまた違うようにおかしくなった、と私は感じていた。

常に何かを探してるような、誰かを求めているような……。

大学でも、社会人でも、ちょっとツツいてもそういう話が出てこなかったから、

もし求めているものが『人』で更に『男性』だったのなら、

その人がそうなら絶対に嬉しい。

 

「良かった、ね。お姉ちゃん」

 

「うんっ、って何ゆーとる」

 

多分私はまずからかうと思っていたのだろうか、予想外の返答にお姉ちゃんは驚いた。

私も、まずからかおうと思っていたのに、ポロリと漏れた本音に驚く。

誤魔化すように、ヘヘヘっと笑うと、

 

「別に何も。なぁなぁ、どんな人なん?名前は?出会いは?どこまで進んだん?」

 

顔を覗き込むように矢継ぎ早に質問を重ねると、

お姉ちゃんは、もうほらっ、えっとなぁと一つずつ出来事を紡いでくれる。

昨日出会って(しかも会社をサボりながら)、そこで運命だと直感して、

夜デートして、そこで運命だと確信して、金曜―明日―と土曜に会う!?

というか、

 

「お姉ちゃん、ちょっと攻めすぎやろ……」

 

駅前で彼の腕に抱きついて、更にコーヒー渡すついでに次は胸に飛び込むとか大人は凄いわ……。

私の知ってる宮水三葉は結構アホだけど、もうちょっとおしとやかだったはずだ。

 

「もう言わんといて!思い出したら恥ずかしくなるから!」

 

お姉ちゃんはプシュ~とまるで茹でダコのように赤くしながら、

ロールケーキをパクリと一口。

 

「まさか……結構焦っとるん?」

 

「ちゃうわ!アホ」

 

婚期とか、と続けるのは怖すぎて口には出せなかった。

 

「じゃあさ……金曜と土曜に、キメるん?」

 

「キメって10代がそんな言葉使わんの!でも、正直好きっていいたいよ。私は」

 

それなら勝負下着はどうなっているんだろう、と続けようとしたが、

なんというか、そういうからかいの次元を越えた惚れ方に感じて言えなかった。

大学・高校生どころか今時中学生でもなかなかないような、

ピュアさに私も当てられたのかもしれない。

そっか、と私は一息ついて、

 

「なら精一杯、気持ち伝えないかんね。お姉ちゃん」

 

「んっ?」

 

「上手く、いくとええね」

 

私は衝動的だとか、もうちょっと冷静にとかそういうことを言う気持ちは無くなっていた。

お姉ちゃんとその彼ー名前は立花瀧さんと聞いた―が上手くいくことをただ願う気持ち。

そしてもし事がうまく運ぶなら、その立花瀧さんにも是非会ってみたい。

お姉ちゃんをこんなに惚れさせてしまった罪人なのだから、

その存在そのものに強く興味を抱いてしまった。

 

「ありがとっ……四葉」

 

そんなことを考えていると、私の言葉への返答が飛んできた。

お姉ちゃんを見ると、優しく笑って、胸に手を当てている。

その姿が凄く可憐に見えて、私はお姉ちゃんがもっと大好きになった。

 

 

 




あず。

です。こんばんわ。
まず始めに書かせていただくとこれは7話なのですが、
本来7話として書きたかった主題に辿り着く前に、そこそこの字数となってしまいました。
なのでこれからその続きを書きます。
8話として朝までに投稿できればいいと思ってはいます。(私の意識が保てるのならば)
辿り着けなかった理由は四葉を書いてると存外盛り上がってしまったからです。
仕方ないやつだなと生暖かい目をしていただければ助かります。
次は、ちょびっとだけ真面目な話(にできればいいな)です。

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