「……カレシの話、詳しく聞かせてや?」
なななな、なななななななな―
「にゃんのことかにゃ?」
私は思わず猫になった。
「ありゃ、てっきりカレシできたんかと思ったけど違うん?まだカレシちゃうん?」
「そう!まだ!まだカレシちゃうんよ!」
あっ、更に自爆もした。
「ほ~ん。それはそれは、ものすご~く詳しく聞きたいなぁ?」
サヤちんがニヤリと笑みを浮かべたのがありありと想像できてしまう。
と、サヤちんの後ろで、なんやなんや三葉かー?、とテッシーの声が聞こえた。
続いて、そうそうなんか三葉にカレシッぽいの出来たらしいで~、克彦。
とサヤちんのおっとりした声。
「んで、詳しくきかs「マジか三葉やったやん!詳しく聞かせてや!」
「てててて、テッシー!いきなりなんなんよ!」
多分サヤちんの電話が奪い取られたようだ。テッシーが興奮気味に私に問いかける。
一気に電話の向こう側が熱を帯びた。
「こら克彦電話奪わんといて!「ええやん早耶香めでたいやん!「女子トークや女子トーク!
「俺も気になるわ三葉のカレシやぞ!「うっさい男は空気y―
―プチ。プー……プー……
いきなり向こう側で痴話喧嘩が始まったので、私はそっと通話を終了した。
数秒置いてスマホがブルブルと震えると、画面に『名取早耶香』の文字。
少しだけ迷って通話ボタンをタップする。
旧友が変わらず元気そうで少しだけ熱も冷めてきた。
「ごめん三葉!克彦が電話奪った」
「ええんよええんよ。テッシーも変わらず元気そうやね」
苦笑しながら答える。
サヤちんとテッシーは婚約後、同棲中で6月には晴れて結婚するのだ。
夫婦(予定)仲は良好そうで何より何よりと噛みしめる。
おい早耶香ええやんか~、と電話の後ろではテッシーの残念そうな声が聞こえた。
「ちょっと待ってな。克彦追い払うから」
サヤちんはそう言うと、電話を顔から少し離したようで声が僅かに遠くなる。
―克彦、後で教えるから……ちゅっ。
ちょっ、音!音まで入ってる!リンゴスマホのマイク性能高すぎ!
「よっし、追い払ったから女子トーク始めよか」
サヤちんは得意気な声でスマホを口元に戻したようだ。
私は、スマホから漏れてくる熱気に当てられて聞かずにはいられない。
「サヤちん、あのさ?」
「うん?」
「今、テッシーと……キスした?」
瞬間、バフっと電話の向こう側でサヤちんが沸騰した音が聞こえる。
「きききき、聞こえとったんけ!」
「……そう、リンゴフォ~~ン、ならね。ふふふっ」
私はいつかのCMで聞いたフレーズで答えた。思わず笑いも漏れる。
ホッペやし!口ちゃうから!とサヤちんが答えて、ああ平和やな~と思えた。
*****
「ほ~ん。確かに、ま~だ~カレシちゃうな。形式上はな」
今朝からの瀧くんの出会い、夜のカフェでの邂逅、
お互い1日で名前を呼び合う仲になったこと、
更に私が女の武器で何度かアタックしたことを話すと、
いや~あっついあっついわ~と言いながらサヤちんは笑いながら答えてくれた。
「ほんまに。もう何か分からんけど、瀧くんが好きすぎるんよ。私」
今日の出来事を語りながら振り返ると、またじんわりと熱が蘇ってくる。
無二の親友に話せたことで、思わず『好きすぎる』なんて本音も出てしまう。
「でも三葉がそこまで想える男に出会えてよかったわ。
三葉が私と克彦をひっつけてくれたようなもんやから、さ」
実は心配しとったんよ、私は。なんてサヤちんは言葉を繋げてくれた。
確かに私はサヤちんがテッシーをずっと見ていて、テッシーは私を見てくれている時があって、
私は、誰かを―今なら分かる。瀧くんをずっと探していた―見ていた時期があった。
だから私はテッシーには応えられないから、
サヤちんとテッシーが上手くいくように立ち回ったのだ。
でも、
「それをガッチリ掴んだのは、サヤちんやよ」
「そう、それは私の頑張りよ。だから今凄く嬉しいんよ」
引け目を感じていたのかな、なんて今凄く悪い想像をした。
違う、サヤちんは今に絶対の自信を持っているから、私を祝福してくれているんだ。
目頭が熱くなり、嬉しくなる。
「でもさ、運命的やね。同じ女子として憧れるわ~」
「ほんま~、でもさやっぱり、なんや分からんやん?」
「あれあれ?三葉、もしかして自分の気持ちに自信ないん?」
「違うっ、あるよ!凄くある!それはある!」
「ならええやん。別に他人からどうこうとか気にすることはありゃせんよ」
サヤちんはケラケラと笑いながら答えてくれた。
なんか上手く心を曝け出されて、しかもしっかり自信を植え付けてくれるなぁ。
これが一歩先を行く女子の強さか。
「でさ、いつコクるん?ぶっちゃけ行けるやろ。もう確定やんそれ」
「金曜日にまた会うの。土曜日には彼―瀧くんの家にも行くから―」
「泊まりや!泊まりでええが!戦闘服はあるんか三葉!ないなら買いにいかんと!」
もう全部喋る前に言わんといて!めっちゃ恥ずかしくなるから!
と返して、バフっ、と今度は私が沸騰した。
既にしてしまった想像がまた蘇ってくる。
―でも、絶対に、そういうチャンスだよね。
この『好きすぎる』感情はもう絶対に止まりそうにないだろうと、私は自覚すらしていた。
同じぐらい瀧くんが『好きすぎる』ならいいのだけど、瀧くんの気持ちは私には分からない。
私が一人暴走しすぎてないかという不安は少しだけ、少しだけ残っている。
「一つアドバイスするなら、三葉アレよ、コクるのは男にさせんといかんよ」
「えっ?」
「というか男にコクらせるのにどう持っていくかが、女の矜持やしな」
まぁ私は、克彦が好きすぎて私がコクっちゃったけど。とサヤちんは続けた。
そうなのか、サヤちんとテッシーの詳しい馴れ初めは凄く興味がある。
それって、と私が言葉を続けようとすると、
「その後完全攻略して、今は克彦が私の虜やけどな!」
サヤちんに先手を打たれて纏められてしまった。
やはり一歩先を行く女子は手強い。
「アレよ。惚れた弱み的なのは先にコクったほうが感じると思わん?」
「それは……結構分かるわ。今日の私はまさにそんな感じやった」
「彼のほうが年下やから、三葉がプッシュしたい気持ちは分かるけど押し引きも戦術やんね?」
「確かに」
恋愛に関しては私は素人に等しい。
ここは教師サヤちんの教鞭に素直に耳を傾けなければ。
「別に誘って待てとか脱いで待てとかいうことやなくてな。
こう言葉を引き出すように上手く誘導して―」
「して」
「バンっ!よ」
「オゥ!」
電話越しにズキューンと胸に銃弾を打ち込まれ、思わず変な声が漏れてしまった。
今日一日の『好きすぎる』熱が、段々と女子トークによって冷やされていくのを感じる。
そうだ、振り返ると確かにちょっと暴走しすぎてた、かも。
瀧くんがアプローチをかける暇もなく、私は攻めすぎていたかもしれない。
彼のプライドも考えて、少し、受け身も必要かと思えてきた。
むぅ~、でも我慢できるかな……。
「はっは、三葉と話すのはええなぁ。面白い」
「私も、サヤちんと話すと本当に安心する。サヤちんやっぱり好きっ!」
「こらっ!その台詞は彼にとっておきなさい」
「はぁ~い。すいません名取先輩」
「分かればいいぞ、三葉君よ」
ふふふっ、と二人で笑いあって女子トークは更なる盛り上がりを見せていった。
私のことだけじゃなく、近況とか、サヤちんの結婚式談義とか話も脇道に逸れていく。
―気付けばもう0時前だ。
あまりテッシーを放っておくとサヤちんに悪いので、戦果報告を約束して女子トークを終えた。
*****
「んっ?三葉との電話、終わったんか?」
三葉との女子トークを終えると、リビングで克彦はTVを見ていた。
いつもは見ないような深夜バラエティにチャンネルが合っていたので、
TVに集中出来ていないのは明白だ。
「うん終わった。やっっと幸せを掴めそうやね。三葉も」
「そうか……そらええこっちゃ」
テーブルの水をグッと一飲し、克彦はなんだろう、少しだけ遠い目をしたように私には見えた。
チクリと、少しだけ何か感じた、かも。
「ねぇ、克彦」
呼びかけた私は、どんな顔をしていたんだろうか、多分分からない。
今日さ―と言葉を続けようと、
「早耶香、俺、今日めっちゃお前を抱きしめたい」
―えっ、えええええええええ!。
「いかん、か?」
確かな暖かみが、克彦の言葉から伝わってくる。
そして何よりうれしかったのは、
その言葉は私がまさに言わんとしていたものだったから。
私はコクリ、と頷くと、ほんならシャワーもう一度浴びてくるわと克彦は浴室に行ってしまう。
続いて服が床にこすれる音の後、ジャーとシャワーの音が響いた。
克彦の優しさに嬉しくなって想いがこみ上げてくる。
―そう、こういう風にやるんやよ。三葉。
あず。
です。こんばんわ。前回の引きからの連続的な何かです。
また今回も四葉が出るところまで行けませんでした。
すいません、四葉ファンの方早く出せたら良いのですが(タグに入ってるのに)
でもテッシーとサヤちんは良いですよね。
書いてると盛り上がってしまいました。
それでは、次もまた付き合っていただけると幸いです。