君たち。のその先は?   作:あず。

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番外編 ショート&ショート

「三葉、そういえばさ~」

 

「ん~?」

 

二人でベッドに並んで、さわさわと頭を撫でっこしていると、

不意に瀧くんが疑問を浮かべた声を上げた。

今はあの一夜で二回も求めあってしまって、組紐を繋ぎあったままそのまま寝て、

朝のひとときも楽しんで、そろそろ別れないといけない時間で。

それでも別れをお互いなかなか切り出せなくて、

ベッドで並んでお互いを楽しんでいる。そんな時間だ。

 

「昨日二人で買い物をした、あのさ―」

 

買い物とはなんのことだろうか?

歯ブラシ?コップ?お箸?

うーんと私が頭を回転させていると瀧くんの声が続いた。

 

「あのランジェリーショップの……」

 

そこで瀧くんの声が小さくなって恥ずかしそうに。

私も、ああ彼は私があの時下着をどうしたかが気になっているんだと察した。

 

「何買ったかって、ことかな?」

 

「そ……そう」

 

先程よりももっと声は小さくなって消えてしまいそう。

そんな瀧くんが可愛らしく思えてきて少し苛めたくもなってしまった。

ニヤニヤと私は笑みを浮かべながら、撫でる手を止める。

 

「うーん、どうしよっかなぁ?教えようかどうか迷うな―?」

 

「いいいい、いや、それはそれで、まぁいいんだけどさ」

 

ははははと彼は首筋に手を当てながら誤魔化し笑いをする。

このクセを出す時は、ちょっと恥ずかしくなった時か、

思ったことと口に出したことが反対の時だと、五日の付き合いだが段々と分かってきた。

 

「教えちゃうと折角の武器がなー。でもいいよ。教えたげる」

 

「ええっ!」

 

となんだか露骨に嬉しそうに驚きの声を上げる。

本当に子犬ちゃんみたいに反応が素直でこの彼は可愛い。

 

「あー。すっごく嬉しそう。瀧くんエッチやなー」

 

そこで一言勿体ぶると、また、ううっ……、と縮こまってしまう。

可愛いけど、でもあまり苛めると可哀想なのでやっぱり教えて上げることにする。

ただ普通に教えても面白くないと思ってしまう。

折角いま付けていることだし―

 

「ウソウソ。教えてあげるから。ホラ、ちゃんとよく見るんやよ」

 

と私は瀧くんとの身体を両手で抑えて正対するように仕向けた。

そして胸が見えるようにどんどんと身体を近づけていく。

瀧くんの熱い息遣いが聞こえてくるみたいで、私の温度も上がっていく。

十分近づいた所でトップスの胸部分を右手で引っ張って大きな空間を作った。

その空間に視界を向ければ、中の下着が見えるはずだ。

 

「!?!?」

 

瀧くんは驚きの表情をするけれど、バッチシ視線はトップスの中に注がれている。

 

「はい、分かった?」

 

ニヤニヤと笑いながらもう一度瀧くんを見る。

コクコクコクと赤い顔で頭が縦に振られた。

そこでもうひと押し、

 

「感想は?」

 

「三葉の胸が……上から見ても綺麗だった」

 

ポツリと赤い顔で一言。

 

「アホッ!!胸じゃなくて下着の感想に決まっとるが!」

 

それは女性としては凄く自信が持てる感想だったけど、

今求めてるのはそっちじゃないのに、なんなんだこの男は~~~。

嬉しいじゃないか!

 

「いや……あの俺が手に取った下着、買ったんだ」

 

「ふふふ、そうだよ。だって初めて瀧くんが選んでくれたんだもん」

 

そう、結局私はあの時瀧くんが選んでくれたピンクの下着を買った。

多分瀧くんはあの時相当混乱していて、何気なく手に取ったものだったんだろうけど、

やっぱりそれでも選んでくれたことが嬉しくて大切に感じて買ってしまった。

 

「いや、でもあの時の俺結構混乱しててさ、あんまり―」

 

それ以上の言葉を言わさないように、私はピタっと瀧くんの唇に人差し指を当てる。

そこで言葉も止まる。

 

「それ以上言わんの、男が廃るよ?私はそれを大切に思ったんやからね?」

 

当てていた人差し指を、今度は自分の唇に当てて間接キスにしてニコっと笑う。

そうすると瀧くんも微笑んでくれた。

 

「ああ、俺が選んだのを付けてくれるなら一層最高だ。次が楽しみになった」

 

「えっ?じゃあ今からその次、する?」

 

と言って私も恥ずかしくなった。

自分から二回戦を求めておいてまた盛り上がりそうになってしまうなんて、

本当にどうにかしてる。

 

「いや、はははっはははは、それは止めとこう」

 

「そうやね。はははははは」

 

二人で恥ずかしさを誤魔化すように笑いあって、その後また一つ自然にキスをする。

いい加減そろそろ今日の別れを切り出さないといけないのだろうけど、

やっぱり私は彼が好きすぎて切り出せない。

カレシ君にリードを取って欲しいなぁと思うけどどうだろうか?

もういっそお父様が帰ってくるまでこのままでもいいやと、

私はほんのちょこっとだけ思った。

 

 

番外編ショート&ショート

『はじめて選んでくれたもの』END

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「よっし―」

 

まぁこんなものかなと荷物を纏めて立ち上がる。

流石にこれ以上はというところで瀧くんが声をかけてくれて、やっと帰宅する覚悟が出来た。

瀧くんの家からお別れするのは寂しいけどこればっかりは仕方ない。

忘れ物がないように、と一つずつ荷物を確認する。

そこで瀧くんは何してるのかな~、と見てみると、

椅子に座って何故かスマホを見ながらニヤけていた。

何でスマホを見てニヤケるんだろう、と頭を巡らせると、一つの可能性にたどり着く。

 

「ねぇ、瀧くん?」

 

声をかけるとスマホを隠すようにしてこちらを見て、んっ?と返事。

これは絶対に、間違いない。

 

「私の寝顔見て、今楽しんでたでしょ?」

 

「えっ―」

 

「写メ、撮ってあるんだよね?」

 

ニッコリと笑いながらも冷たい空気を発しながら瀧くんを追い込む。

恐らく私だけ寝てしまった時に撮ったのだ。

 

「見せなさい?」

 

「いや、みみみ三葉さん?」

 

ジリジリと距離を詰め、瀧くんも立ち上がって逃げようとするが後ろに壁。

逃げ場を失い段々と顔に焦りの色が浮かび始める。

私は更に追い込みを続ける。

 

「大丈夫、確認するだけだから。消せとは言わないから」

 

「ほほ、ホントに?」

 

「勿論、中身によるけど」

 

既にスマホは手に届くところにあって、あとはスキを伺うだけ。

しかし奪い取るというのはなんとも居心地が悪い。

私もできれば瀧くんから渡して欲しいとは思う。

 

「分かった。隠し撮りってのはやっぱりよくないからさ」

 

と私が思ってるのを見透かしたのだろうか、

瀧くんがスマホのロックを解いて私に見せるようにしてくれる。

時々、こういう求めたことをちゃんとしてくれるのが嬉しくなってくる。

そこで写真フォルダにある私は一枚で―

 

「なななななな、なにこれぇ!」

 

もう満面の幸せ顔でスヤスヤとベッドで寝ている私だ。

これを保存されるのは流石に恥ずかしい。

いや瀧くんだけ見るならまだ許せるが、例えば私の写メを瀧くんが友達にせがまれて、

これを利用されるのは流石に無理だ。

 

「瀧くん……これ一枚しかないん?」

 

「そりゃ何枚も撮ったら悪いからさ、これしかないよ」

 

「アホ!こんなん他人に見せてって言われたらどうするつもりなん!」

 

あっ、と瀧くんはポカーンとした顔を浮かべた。

完全に失念してたという顔と、ヤバイとなった顔の両方が見て取れる。

 

「よし、いますぐ撮るよ!」

 

えっ、と声をあげる瀧くんの手をズンズンと引っ張って、

ついでに机の上にある私のスマホも手にとってベッドに腰を掛けて二人で座る。

 

「んじゃ、まず私の分から撮るからね」

 

そこで私はスマホを掲げてカメラモードにして自撮りの構え。

二人で顔をくっつけると画面内に私と瀧くんが映っている。

 

「ホラ、他人に見せる用なんやから。シャキッとしい!」

 

バシっと背中を叩くと、瀧くんの背中がピンと張り顔も引き締まる。

 

「顔引き締めすぎ!もうちょっとニコやかに!」

 

「お、おう!」

 

そこで少し瀧くんもニコやかに笑ってくれて、

見惚れるぐらいのいい表情になったところでシャッターを押した。

うん、これはスマホの壁紙にしておけるぐらいのいい写真だ。

 

「ホラ、ええ写真になったよ」

 

「いや~どうだろ。なんだか恥ずかしいよ」

 

そんなことないよ、かっこいいよとか軽口を言いながら写真を二人で見る。

そうして距離が近いとまた熱が上がってきて、キスもしたくなるけどまだ我慢だ。

まだ瀧くんの分も撮っていない。

 

「じゃあ俺の分も撮るから、同じように―」

 

ギュッと瀧くんが私の腰に手を回して、また一段と距離が近づく。

さっきの熱さも残っていて恥ずかしさも一際だけど、笑顔を作ってピース。

 

「三葉、どう?」

 

瀧くんが撮った写真を見せてくれると、

少し恥ずかしそうで無理して笑う瀧くんと、同じく恥ずかしいのに必死にピースしてる私で、

なんとも不器用なカップルに仕上がっている。

 

「いや~、この私可愛すぎるやろ~。友達が惚れてもしらんよ~?」

 

ニヤニヤと冗談で瀧くんを小突くと、えっ?と深刻そうな顔をして考え込んだ。

いや流石に本気に取られたらマズいと、フォローする。

 

「いやいや~、ここまでベッタリやと取ろうとする男はおらんとおもうけどねぇ。

 それとも、瀧くんは私を守り通す自信ないん?」

 

フォローするつもりで軽口で言ったつもりだったけど、

 

「そんなことあるわけないだろ!」

 

いきなりギュッと抱きしめられた。

いきなり感じる多大な熱に私は一気に混乱する。

そしてちょっとした軽口でも彼を惑わしてしまったことに大きな痛みを感じた。

 

「ごめん、瀧くん。私が軽口すぎたわ。本気で考えてくれてありがとう。

 大丈夫。私は瀧くん以外目に入らんよ」

 

ゆっくりと。大丈夫、大丈夫だよと頭を撫でる。

 

「いや、俺もさ。なんかいきなりゴメン」

 

「ええんよ。瀧くんの本気さが本当に嬉しいから」

 

そこでゆっくりと離れあってまた笑う。

また近づいてキス、もう一度離れて、終わるのは勿体なくてもう一つキス。

大好きを確かめあってもう一つ笑うと、やっと二人で安心できた。

そこでじゃあちょっと纏めるかな、と瀧くんは立ち上がって部屋の整理を始める。

私はそんな瀧くんを見てようやく『危機』が去ったことを確信する。

なんとか私のスマホは確認されずに終われそうだ。

 

 

―だって昨夜の瀧くんの寝顔を10枚以上、

 しかも色んな角度から撮ってあるとは、とてもとても言えやしない。

 

 

番外編ショート&ショート

『三葉さんの秘密<写メ編>』END

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

―パチン。

 

室内灯を消して家の中は暗がりとなる。

三葉は一歩前を進んでいて荷物も既に持っている。

俺はサイフとケータイと鍵だけの状態、あとは三葉を駅まで送れば終わりだ。

恐らく人生で最も濃密だった週末が終わり平日がやってくる。

勿論明日からの日々の彩りは、先週とは全く違うものであるとは確信しているが、

やっぱり終わって欲しくない寂しさがあった。

そんな想いに駆られていると、不意に昨日の記憶がよみがえる。

ああ、今なら三葉の気持ちが理解できる。

 

「―したい」

 

「えっ?瀧くん?」

 

俺は全く同じように呟いて、

三葉は後ろを振り返って、あの時の俺と全く同じ返しをした。

 

「三葉、したい」

 

今度はしっかりとした言葉で続けた。

三葉の顔はどんどん赤くなっていって、あわわわわと口が震えている。

ってこれは勘違いしてる!

 

「いや、あのそういう意味じゃなくてだな―」

 

「なななななんなん!私も我慢してるのに!瀧くんのアホ!エッチ!ヘンタイ!」

 

「いや、まって、三葉さん待って!違うから!」

 

「なななな、なにが違うんよ!」

 

お互いしどろもどろになって言い合いが始まるが、

これは俺の言葉足らずが原因なので今度はしっかりと言葉を付け加えて続ける。

 

「いってらっしゃごっこ、したい……」

 

「!!!!」

 

三葉はもう一度口を震わせて、それから笑顔で、

 

「たきくうううううううううんん!!」

 

三葉は俺にガバッと抱きついて、胸にスリスリと頬を寄せた。

甘い匂いと確かな柔らかさに、一瞬で頭がクラクラと持って行かれそうになる。

 

「うん!うん!そうかぁ、瀧くんも分かってくれたかぁ!

 いいよ、しよう!何回でもしよう!」

 

「いや、一回でいいから。そこは一回でも大丈夫だから」

 

え~一回だけぇ、と三葉はプクリと膨れた顔でこちらを見上げる。

その顔も全てが最高に可愛い。

一回、と一言呟きながら頬を撫でると気持ちよさそうにしてくれる。

 

「分かった。最高の一回にするからね。じゃあ瀧くんが前行って」

 

「えっ?配役昨日と一緒?」

 

「当たり前やよ。おおっ奥さんがまず、おおおおっ夫を見送りもんやし」

 

奥さん、夫という所に妙なむず痒さを感じて嬉しくなるが、

三葉の中で配役はテコでも動きそうにないので従うことにする。

ちょっと見送る側もやりたかったのに。

仕方なく三葉を追い越して俺は玄関先に。

屈んで靴を履いて、振り返って、

 

「行ってきます、三葉」

 

「瀧くん、いってらっしゃいの……」

 

「みみみみ、みつはっ」

 

ちゅーと、唇を突き出して目を瞑っている。

これは……俗に言う『いってらっしゃいのちゅー』と言うやつだ。

俺はゴクリとツバを飲み込んでしまうが、目の前の現実は変わらず存在している。

 

「瀧くん、行ってらっしゃいの……」

 

三葉は同じ言葉をまた繰り返した。

これは絶対に譲らない構えだ。もうやるしかない。

 

「三葉」

 

俺は近づいて、同じように唇を突き出して、ちゅ―。と軽くキス。

 

「いってらっしゃい。瀧くん」

 

えへへ~、と三葉は満面の笑みで見送ってくれる。

その笑顔に無限のパワーが湧いてきて扉を開き、パタりと閉じた所でもうニヤケが止まらない。

こんな最高の朝を毎日迎えられるなら、

そりゃあ仕事がいくら溜まっていても終わらせられるに違いない。

と、あまりニヤついても居られない。後半戦があるのを忘れてはならない。

俺は元気一杯なのに、なんとか疲れた空気を漂わせるように、ふっと一息して扉を開ける。

 

「三葉~~、ただいま~」

 

って中を見るが三葉が居ない。

と思うと奥からパタパタと足音が聞こえて、

 

「おかえり~。瀧くん」

 

どうやら料理か何かを作っていた所に俺が帰ってきた設定が出来上がっていたようだ。

ノリノリ具合が半端なくて少し笑えてくる。

 

「おう、三葉。ただいま」

 

三葉の顔を見てパワーを頂いたの如く笑顔でもう一度。

 

「おかえりっ!瀧くん。ねぇご飯にする?お風呂にする?それとも―」

 

モジモジと恥ずかしそうに定番の台詞を三葉が紡いだ。

その反則級の可愛さと衝撃に俺の意識は一気に持っていかれる。

もう、我慢出来るわけがない。

 

「みつ……は」

 

「えっ?」

 

「みつはがいい!」

 

「ええー!」

 

もう意識が止まれなくて、思ったことがポロリと出てしまって三葉に飛び込む。

柔らかくて甘い匂いがしてきて、とても気持ちがよくて天にも昇ってしまいそうだ。

 

「こら、こら瀧くん!入り込みすぎ!」

 

三葉の言葉も聞かずにスンスンと胸に鼻を当てて三葉を味わう。

 

「もう、瀧くんは―」

 

そこで三葉がいい子いい子と、頭を撫でながら優しく話しかけてくれる。

 

「ホンマに……瀧くんはアホでエッチでヘンタイで二回戦なんやから」

 

仕方のない子やねぇと、頭を撫でてくれながらの罵倒の言葉はとても優しい。

でも三葉さん、二回戦はどちらかというとそちら主導じゃありませんでしたか?

 

 

番外編ショート&ショート

『いってらっしゃいごっこ、リターンズ』END

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「――」「――」

 

後ろでなにやら声が聞こえるが、俺はもう振り返らない。

さっきは少しだけ余所見をしてしまったがそれは気の迷いだ。

一発気合を入れてもらって目が覚めた。

今はまた会えるだろう大好きな人のことしか考えられない。

息を切らしながらも必死に走って、なんとか彼女を待たせること無くその場にたどり着く。

光はいよいよ形をなしはじめ、忘れられない形となった。

形は細部にまで色を持ち始め、やがてはっきりと誰かが分かる。

俺はあの時のように、ゆっくりと名前を呟いた。

 

「……みつは」

 

また会えた、大好きな人がゆっくりと目を開ける。

そして一言、

 

「はい……たきくん」

 

俺の名前を呼んでくれた。感情が爆発する。

このために存在を許されていたのだと、心の底からそう思う。

 

「みつは」

 

「たきくん」

 

もう一度名前を呼び合って、じっと見つめ合って、我慢できたのはそこまでだった。

ゆっくりと、痛くないように、壊さないように抱きしめる。

三葉もまた、俺の想いに応えるようにゆっくりと背中に手を回してくれた。

 

「会いたかった」

 

「私も」

 

俺も泣いていて、三葉も泣いている。

話したいこと、この何年も会えなくて伝えたかったことはたくさんあったはずなのに、

言葉として出せるのは少しだけ。

想いが溢れすぎて、気持ちが先回りしすぎて言葉が喉から先に進まない。

それでも、三葉の顔がみたいとゆっくりと身体を離して見つめ合った。

 

「みつは」

 

「たきくん……」

 

それでもまた、言葉として出るのは名前だけ。

誤魔化すように三葉の頭に手を伸ばして、さわさわと短くなった髪の毛を撫でる。

そう言えばあの時は微妙な反応をしてしまったなと思い出して、

今度は褒めてみようと思った。

 

「その髪型もさ、かわいいよ」

 

「ホンマにぃ?」

 

三葉はニヤっと泣きながら笑う。

 

「三葉だったら何だって似合うってさ、あの時ちゃんと言えれば良かったんだ」

 

「ありがとう。一人で失恋なんか感じて髪を切って、私馬鹿みたいだったね。

 8年ぶりに君に会えたら、もう君ならなんだって嬉しいって思っちゃう」

 

「俺も5年。暗闇の中をただ彷徨うだけだったけど、

 それが今この時に繋がってると思えば、もう過去のことなんてなんでもないさ」

 

「うん、うん」

 

三葉も俺涙が止まって、今度は嬉しさだけに包まれて、またゆっくりと彼女を抱きしめる。

夢の世界のせいなのか三葉の感情が何でも分かる気がして、

それが嬉しくてとにかく熱を感じていたかった。

 

「あのさ」

 

「ああ」

 

「私、なんとか上手くやったよ」

 

「知ってる」

 

「私だけじゃ絶対に無理だった。テッシーにサヤちんにそれにお父さんにも理解してもらった。

 それと、あの手の文字。アレがないと私は絶対に諦めてた」

 

抱き合ったまま、そうやって二人で言葉を交わす。

そして、手の文字。

とっさに想いを伝えたくて、名前を書くんじゃなくて、『すきだ』と書いた。

名前を書いたらもしかしたら神さまに消されていたかもしれない。

あの時はそんなことも考えなかったけど、結果的には消えなくて三葉に勇気も与えられた。

 

「想いをさ、とにかく伝えたかった」

 

「私はさ、なんてか書こうと思ったのか……

 ううん……もうそれはどうでも良くなっちゃった。今は『すき』としか書けないよ」

 

その言葉を聞いて俺はまたゆっくりと身体を離す。

三葉の目を見つめたくなって、彼女の潤んだ目をしっかりと目に捉えた。

 

「もう、知ってる」

 

想いは十分に伝わってると言葉に示して、ゆっくりと笑う。

 

「たきくん……」

 

「みつは」

 

また名前を呼び合って、自然とゆっくりと顔を近づけあって―

 

ちゅ。

 

と唇を合わせる。

想いが唇越しに伝わることを確信するように、少しだけ長く優しく唇を合わせた。

名残を惜しむかのようにそれも離れる。

 

「キス、しちゃったね」

 

三葉は恥ずかしそうに、それでも笑いながらはにかんでくれる。

 

「好き同士の二人なら、しても不思議なことじゃないさ」

 

すこしキザかなと思ったが、当たり前のことをしたんだと伝えたくてそう返した。

その言葉を聞いて恥ずかしかったのか、

三葉は俺の胸にコツンと頭を当てて背中にゆっくりと手を回してくれる。

そんな彼女がとても愛おしくてゆっくり頭を撫でる

話したいことは沢山あったはずなのに、その半分も言葉が出てこないけど、

想いは言葉以上にお互いを行き来している。

そうしてゆっくりとお互いに暖かみを楽しんでいると、三葉が不意に言葉を紡いだ。

 

「瀧くん……あのさ、向こうの二人」

 

ああ、と俺は答えるが、そういえば三葉はまだ向こうの二人に会っていないことを思い出した。

今がどういう時間か、何故このような状況とは分かっているとは思うけど。

 

「私さ、お礼がいいたいよ」

 

「……」

 

そこで俺は少し黙った。

その気持ちは痛いほど分かるし俺も同じ気持ちだ。

でも向こうの二人はそんな行動をする俺たちを、きっと怒るだろうということも分かる。

 

「私達も頑張ったけど、向こうの二人も頑張ったと思うんだ。

 だから、四人でみんな頑張ったねって、笑顔でお別れしたいんよ」

 

胸から顔を離して、俺の目をじっと見つめて笑いながら続ける。

こうやって周りに気を配りながらも幸せを追求する。

こんな三葉を知ったのも今が初めてだった。

時間はもう殆どないのに、俺はまた新しい三葉を知ってしまって嬉しくなる。

 

「わかった。行こうか」

 

「うん!」

 

二人でゆっくりと、固く手を繋いで、向こうの二人に向かって歩く。

敢えて俺達の方を見てくれてないのか、向こうの二人は互いに支え合ってこちらに気づかない。

もし気づいたらなんて言うだろう?

多分驚いて、怒って、それから笑ってくれるだろうか。

 

「笑って、くれるよ」

 

ギュッと手に三葉の熱を感じて横からそんな優しい声が聞こえた。

俺も多分、そうなんだろうなという確信があるから、ゆっくりと二人に近づいていく。

もう足音も聞こえるぐらい近づいてきていて、二人がこっちに気づいて、

なんだか驚いている。

さぁなんて声をかけようか―

 

 

番外編ショート&ショート

『あの時の続き』END

 




あず。

です。こんばんわ。
このショート&ショートは主に思いついて入れたかったけど、
流れの中で泣く泣く切ってしまったエピソードとなっています。
というよりも二章以降に活躍してくれる設定だと思い、
どうしても入れておきたかったというのが本音でしょうか。
そしてこれにて第一章は幕となります。
第二章以降、どのようなストーリーになるのか、
それは私にもまだ分かりませんが、よろしければこれからもお付き合いください。

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