君たち。のその先は?   作:あず。

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14話

「おじゃま、しま~す」

 

そろりと、でもドキドキしながら瀧くんに続いて家に上がる。

すると、最初に感じるのは女性からは発しようがない男の人の匂い。

ぎゅっと心が引き締まるけど、それに続いて身体が熱くなってくるのも感じた。

だって、大好きな人の匂いなんだもん。当然だよね。

 

「え~っと、まぁ上がってよ。って親父の部屋もあるから案内しないとマズいか」

 

瀧くんも冷静を装ってるけど声から緊張が伝わってくる。

昨日の私はまず招き入れる前に大急ぎで服もお皿も、コンビニ弁当の残骸も全て隠して、

しかもテーブルも拭いてベッドも整えて大変だった。

そんな記憶が蘇ってきて瀧くんの気持ちも分かる。

ここは素直に着いていこうと、うんわかったよ、とゆっくりと返事。

ソロソロと着いていくとやっぱり1K住まいの私とは違って、

間取りは2DK?3DK程もあって、テーブルも家族で食事が出来そうな大きなもの。

生活品も粗暴に置かれてて、まさしく男2人の生活空間って感じが凄い。

 

「三葉、えっとここが俺の部屋で、向こうが親父の部屋だから親父の部屋だけはナシで。

 他はある程度OKだから。色々汚いけど気にしないで欲しい」

 

瀧くんが背中越しに説明。

目の前を扉が瀧くんの部屋で、通路の向こう側がお父様の部屋。

流石にお父様の部屋を覗いて、何かあって後から印象を悪くするのはよくない。

ここは素直に瀧くんに従うことにする。

って……もう目の前に瀧くんの部屋が。

 

「う、うん……わかった。大丈夫」

 

ゴクリ、とツバを飲み込む。緊張と胸の高鳴りを一層感じる。

ガチャッ、とドアノブを回す音の後、キィと扉が開く音が物凄く大きく聞こえる。

 

「ど、ど、どうぞ」

 

瀧くんの緊張した声。それに釣られて私もまた緊張。

一歩、また一歩と進めて、遂に入室。

 

「わぁ……」

 

中を見渡すと、思わず声が出てしまった。

机はほどよく綺麗だけど仕事関連かな?建築の本や音楽CDが積み重なっていて、

ノートパソコンとスマホの充電台がある。

ハンガーラックにスーツや私服が雑多にかかってて、カラーボックスには多分下着かな?

 

「瀧くんの部屋やぁ……」

 

大好きな人の生活に溢れていて、それに触れて嬉しさが飛び込んでくる。

 

「おいおい、なんでもない部屋だろ。そんな感動しなくてもさ」

 

「嬉しいよ。だって瀧くんで溢れてるんだもん」

 

心に溢れる感情そのままを言葉にしてしまう。

あっ、あそこにかかってるのって……

 

「糸守やぁ……凄い、凄い!」

 

本当に、綺麗な、あの時の糸守がある!

 

「河に掛かる橋も!学校の校舎も!神社の鳥居も!糸守湖もおんなじやよ!」

 

こんなことってあるのだろうか。

糸守の綺麗さを東京でこんなに表現してくれる人がいる。

もし、万が一、億が一瀧くんが知らない人でも、これじゃあ絶対に絶対に好きになる。

でも瀧くんは既に私の大好きな人だから、

 

「これじゃあ、どうなっちゃうかわからないよ!」

 

「ん?どうした三葉」

 

「あっ、いや、ゴメン、違う違う。いや違わないけど。何でもないの!」

 

「?」

 

瀧くんの頭に露骨に?マーク。

確かに私が一人で暴走して、これじゃあ何が何だか分からない。

とりあえず荷物置こうぜ、と瀧くんは話してくれるのでそれで一旦落ち着いた。

スイーツも冷やしてくるからといって、

瀧くんがさっきくれた紅茶だけ残してコンビニ袋を渡す。

私が一人部屋に残されて、それでもスケッチから目が離せない。

 

―あの橋、何度も往復した。2人乗りするサヤちんとテッシーを笑ったっけ。

―学校は校庭も広くて、端っこの樹の下で話したりもしたなぁ。

―宮水神社、家の慣習で苦い思い出もあるけど、私の家みたいなもの。

―糸守湖、陽に光がキラキラと反射して、丸い湖は私達に無くてはならないシンボルだった。

 

「(あっ……)」

 

そこにあるのは、

―御神体。宮水家しか知らない神さまの御わす場所。神秘的で、それでも美しくて。

 

「みつ……は……」

 

「うん?」

 

振り返ると、瀧くんは驚いた顔をして、次に悲しそうな顔。

誰だ、私の大好きな人にこんな顔をさせる酷いやつは。

 

「泣いてる」

 

「えっ?」

 

それは私だ。でも何でか分からない。

あまりにも自然に、気づかないうちに泣いている。

 

「ごごご、ゴメンね。多分思い出に当てられたんだと思う」

 

その事実に気づいて、申し訳ない気持ち以上に私自身が許せなくて、必死に言い訳を探した。

でも誤魔化しきれない。

瀧くんの、私を心配する感情が溢れる。

 

「いや俺が無思慮だった。三葉には大切な思い出だったはずなのに」

 

瀧くんが少し苦い顔をした。

資料と想像で書いたスケッチが私の心を踏み荒らしたんじゃないかと後悔してるんだ。

 

「違うよ、瀧くん。思い出を踏み荒らされて泣いたんじゃないの。

 思い出がそのままで、しかもこんなにも目の間にある感動に泣いたんだよ。

 君と私は想像以上に遥かに、遥かに繋がってたの」

 

ぎゅっ、と私は瀧くんの胸に飛び込む。

手をゆっくりと背中に回して、深く、ふかく抱きしめる。

言葉だけじゃなく行動で感情を示す。

 

「三葉」

 

瀧くんも私と同様に抱きしめてくれた。

暖かい温度と気持ちが私の中を支配する。思い出と現実の温度が交差する。

そのまま無言で私たちは、ちゅっ、と一つキス。

顔を離して、目を見つめ合って、

 

「ねぇ瀧くん。あのスケッチを書いた話、たくさん聞かせて欲しいな。

 なんで書いたのとか、どんな気持ちで書いたのとか、たくさん、たくさん知りたいよ」

 

「ああ、三葉が飽きるまで聞かせるよ。何でも聞いて」

 

ありがとう、と私はもう一度キスをして、瀧くんにゆっくりと抱きしめられた。

昨日までちょっと頼りなさそうだった大好きな人は段々とかっこよくなっていって、

私はどこまでも蕩けてしまいそうになる。

そこからたくさん壁に並ぶスケッチを見れるようにと、ベッドに二人で腰をかける。

左から順々に、一つ一つ瀧くんに確認していく。

 

―ねぇ瀧くん、橋のスケッチさ。私がいつも通ってた橋と全く同じなの―

―あの橋はさ、資料集だと橋しかないんだけど、周りはこうなんじゃないかって気がしてさ―

 

―ねぇ瀧くん、あの学校、私3年間通ったんだよ―

―時計塔が本当に印象的だよな。あの角度は少し資料と違うんだけど―

 

―ねぇ瀧くん、神社はウチみたいなものなんだ。私は実は巫女でね―

―凄いな三葉、鳥居だけじゃなく神社はどうだったのか凄く知りたいよ―

 

―ねぇ瀧くん、丸い湖はさもう見れないけど、でも凄いんだよ―

―あんな綺麗な湖、俺もこの目で見たかったよ。でさ―

 

―ねぇ、瀧くん。瀧くん―

―三葉、なぁ三葉―

 

――

 

 

「たきくん、たきくん……」

 

「ああ、みつは」

 

私たちは、いつの間にか二人でベッドで肩をあてて並び合っていた。

陽はすっかり傾いて、周りは暗い。

ただ蛍光灯の明かりと、息遣いだけが支配する空間。

スケッチの感想がいつしか私の思い出と瀧くんの思い出話に。

そして想いの確認にも変わって、時々キスもする。

瀧くんの肩にコツン、と頭を当てると、瀧くんは私の頭を撫でてくれる。

それが本当に気持ちよくて、嬉しくて幸せになる。

心が瀧くんにいっぱいになったところで、不意に眠気が襲ってきた。

 

「たきくぅん……」

 

「みつは」

 

私の声にも、瀧くんは絶対に応えてくれる。

心はますますいっぱいで、勿体無いけど想いが溢れそう。

 

「すこし、眠いかも……」

 

「ああ、今日は色んなことをしたから疲れたのかもな」

 

「たきくぅん……」

 

「みつは、少しやすもう?」

 

こんな素敵な時間で寝てなんかいられないなぁと思うけれど、

下半身からどんどんと眠気に侵されていくようで、抵抗できない。

その深度はすぐに頭にまで到達する。

 

「たきくぅん……たきく……」

 

「みつは、おやすみ」

 

大好きな人の一声と、頭をゆっくりと撫でられて私の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

ふわり、とした身体に突如重力を感じる。

暗転した視界が少しずつ光を獲得し始め、情景を捉えだした。

―ここは、

 

「ごしん……たい……」

 

ここは、糸守町の山奥―あの御神体の縁だ。

そして左手の糸守町側を見ると私は目を見開いた。

 

「えっ、糸守湖が、丸い……ウソっ、なんで!」

 

湖があの彗星が落ちてからの瓢箪型ではなく、落ちる前の円形。

陽はいまにも傾こうとしていて、夕焼けでキラキラと光っている。

これは夢だ。絶対に夢でしかない。

こんな、泣けてくる夢を見てしまうなんて、私はあのスケッチにどれだけ当てられたのだろう。

懐かしむように、それでも足元はおぼつかなくてソロソロと縁に沿って歩く。

この空気も、日差しもとても懐かしい。

そうして段々と陽も沈んできて、辺りは暗く。

ああ、これは―

 

「『カタワレ時や』」

 

…………

……

 

「えっ?」

 

同時に、私と同じトーンの声。

声の主を探すように後ろを振り向く。

顔は視認できないが、女子高生が立っていた。

 

『やっ』

 

声の相手は気軽に挨拶。

聞き慣れたトーンと制服と背格好に、私は大体の状況を察する。

これは夢だから、こういうこともあるのか、と。

黙っていると、声の主は続けた。

 

『久しぶり、かな?』

 

「どうやろ、私は記憶がないんやけど。ねぇ……私?」

 

早々と正体を確認したところで、相手の顔の暗闇は晴れた。

そこにいるのは、ショートカットだった女子高生の私。

 

『あ~……見破るのはやすぎん?』

 

目の前の私は、右手でポリポリと頬を掻く。

 

「だって声も背格好も全く同じなんだもん。

 それに、これは夢なんやから、こういうこともあるんじゃないかと思ったわ」

 

『大人の私は、理解力が高いねぇ』

 

「ねぇ?」

 

『ん~?』

 

「なんで、こんな夢を<見せた>の?」

 

<見せた>と私は自分の直感を信じて聞いた。

そうなんだと思ったから、それは多分間違ってない。

目の前の私は、少し悩んでから、苦笑いを浮かべて応える。

 

『ん~……あえて言うなら、嫉妬?』

 

「えっ?」

 

予想の中にない答えに私は驚きの声を上げた。

<見せた>という問いに答えずに、その理由を話したので多分正解なのだろう。

けど、私が何に嫉妬したのか、何故嫉妬したのかよく分からない。

例えば瀧くんとイチャつく私に嫉妬したとしても、それは女子高生の私には無関係のはずだ。

 

『向こうは一つになったみたいなのに、こっちはまだ二つ。それに嫉妬したんよ。

 それに、このままじゃあ違う意味でカタワレのままになっちゃう。

 それじゃあ私も悔しいし、アイツも多分そうだと思うから』

 

「言ってる意味が、まるっきりわからんよ」

 

一つと、二つ。私と、アイツ。違うカタワレ。

キーワードを紐解くヒントに私は心当たりがほとんど無い。

 

『どうやろ、でも私は分かってほしいんよ。だから―』

 

目の前の私は、スルスルと髪の毛にリボンとしている組紐を解く。

その組紐を私に受け取るように、手を出した。

 

『受け取ってくれれば、今はそれだけでいいの』

 

「……」

 

真剣な眼差し。

理由はわからないけど、とにかく受け取って欲しいという懇願。

私はその意に応えて、手を出す。

目の前の私は、手のひらにそっと組紐を乗せた。

 

「あっ……」

 

組紐は突如粒子となって消え、残粒子は私の中に消える。

体の中の何かが崩れた感覚がした気がするけど、嫉妬の理由は相変わらず浮かんでこない。

 

『ありがとう』

 

目の前の私は、そこで胸に両手を当て儚げに笑った。

その笑顔に、何故か私は泣きそうになる。

 

「ねぇ?」

 

『ねぇ、私さ―』

 

私の質問を遮るように、目の前の私は言葉を続けた。

 

『本当に、ありがとう。未来の私』

 

ただ泣いて私に感謝を述べて、意識は一気に暗転した。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「たきくぅぅ……ん」

 

「三葉」

 

三葉が急に眠気を感じて、そのまま眠ってしまって一時間ほど。

そのままベッドで並び合って寝顔を眺めていると、薄っすらと目が開いて起きたようだった。

この一時間はちょっと寂しかったけど、本当に幸せな時間で、寝顔がとても可愛くて。

写メも撮ってしまったのはナイショだ。

 

「わたしぃ……」

 

まだ頭が起ききっていないのか、虚ろな声で三葉は言葉を続けた。

俺にそれは笑顔で、うん、と返事をする。

 

「ゆめで……ちょっとくやしかったけど……見れてよかった」

 

「そっか。良かったか」

 

要領はまるでわからなかったけど、三葉が良かったならそれでいいと思えた。

そのまま手を伸ばして頬を数度擦ると、気持ちよさそうに目を瞑ってなすがままにしてくれる。

本当に可愛くて、抱きしめたくなる。

 

「ねぇ、瀧くん―」

 

頭も段々と冴えてきたのか、俺の名前を呼ぶ声もはっきりとしている。

すこし覚悟を決めた声色で三葉で続けた。

 

「……しよ?」

 

「えっ?」

 

全く予想しない呼びかけ。頭が一気に混乱してくる。

 

「―したいな。寝ている私とずっと一緒に居てくれて。優しく語りかけてくれる。

 本当に、本当に大好きな瀧くんと―」

 

そこで一息、続いてもう一度確かな意志で。

 

「―今、したいな。私を、奪ってください。」

 

「三葉……」

 

三葉の確かな意志は覚悟も孕んでいた。ここはもう裏切れない。

ただひとつだけ確認は入れておく。

 

「わかった。ただ、シャワーは浴びなくてもいいか?」

 

「うん、今の気持ちを大事にしたいから。少し汚いかもしれないけど」

 

「いや、それは俺も同じだし。そこまで三葉が求めてくれるなら、

 もう遠慮は出来ないぞ?」

 

「うん。分かってる」

 

俺の三葉の間では、これは衝動ではないと思えた。

ただ気持ちの高ぶりに任せる愛情行動で、流されてなんてない。

じゃあちょっと取ってくるから、と俺はバスルームに早足で行きバスタオルを持ってくる。

戻ってくる折に鞄の中のコンビニ袋に手を入れた。

そこにあるのは四角い小箱―コンドームだ。

ベッドで寝ている格好から座るようにした三葉はそれを認識したのか、

少し恥ずかしげに俯いている。

俺はそんな三葉を横目に見ながら、

ベッドに腰を掛け箱を開封し避妊具を1つ取り出して枕元に置いた。

 

「実際に見ると、少し恥ずかしいね」

 

「ああ、俺も実は結構恥ずかしい」

 

そんな受け答えをして、ちょっとこれ敷くからな、とバスタオルを敷いてベッドで正対する。

少しの間があって、ちゅ―と唇を重ねた。

一度顔を離して、恥ずかしさを誤魔化すように微笑んで、また数度キス。

キスを重ねると、今日はすぐその先が欲しくなる。

舌を差し出すと三葉の舌とすぐ重なった。

そうして深いキスになる。

 

「たきくぅん」

 

三葉の甘い声。

よしよしと頭を撫でながらキスをするが、すぐ唇が離された。

 

「私が呼んだら、たきくんも呼んでよぉ」

 

どうやら返答が無かったことがお気に召さなかったらしい。

みつは、と静かに呼ぶとすぐ唇が重なった。

そのまま互いを甘く貪って、ダラリと唾液も顎を伝い始める。

暑くて熱くて、服なんか着てられない。

 

「みつは、脱がすよ」

 

「うん。私もたきくんを脱がす」

 

そうして二人で脱がしっこ。お互いで上着が取れてTシャツとトップスになる。

それすらも最早邪魔に思えてくる。

俺は両手を三葉の膨らみに当てて、撫でて、揉んで、動かして、キスをする。

んんっ、とくぐもった声を上がってその声は唇で消えた。

いくらかその感触を楽しんで、両手を下げて、トップスに潜り込ませる。

あっ、と三葉の声が上がるが意に介さない。

手のひらが素肌を伝い、下着越しにふくらみに。

 

「みつは」

 

その声に返答はない。ただ手を動かしてふくらみで遊ぶと、艶めかしい声。

感情と熱が下半身を刺激するのが分かる。

 

「両手、あげて?」

 

そのまま指示すると三葉の両手が上がって、トップスをゆっくりと剥いだ。

白くて、甘い下着が顕になって、その美しさに思わず見惚れてしまう。

 

「……恥ずかしいよ」

 

「綺麗だから」

 

素直な感想を口にすると、

三葉はもうっ、と一言拗ねて、両手を交差して胸を抑えた。

形の良い胸が腕に押し上げられて、美しさも艶めかしさも一層強調される。

そんな俺の見惚れる目線に、三葉少し余裕を取り戻したのか、

 

「邪魔だから、ちょっと取るね」

 

三葉は両手を髪の毛に回して組紐をスルっと解放する。

胸を反る形となってツンとふくらみが主張する。それがいちいち俺の目線を奪う。

組紐を枕元に置いて、三葉はニヤリ。

 

「瀧くん実はおっぱい魔人なん?お姉さんのおっぱいそんなに好きなん?」

 

「いや……そりゃ……すき、だよ」

 

もう頭は完全に蕩けていて、考える前に言葉がスルリと外に。

 

「仕方ないなぁ。でも私もお返しはするよ?」

 

と三葉はよいしょと俺のTシャツに手をかけ、肌着と一緒にスルスルと腰から上げ始めた。

それに抵抗する必要はなく、子供のように両手を掲げて抜き取られる。

ペタペタと三葉の手が素肌を使って、顔が近づいて、チロっと刺激。

 

「あっ」

 

思わず声が漏れる。舌で胸が刺激された、のか。

眼下の三葉の表情は伺いようがないが、多分俺の声に主導権を得たりと思ったのだろう。

チロチロチロと刺激が続く。

静電気に当てられたかのような快感を得て、三葉の髪を撫でるが集中できない。

 

「みつはぁ」

 

「―チロ。たきくぅぅうん。かわいい。―チロ。―チロ」

 

そこから舌で遊ぶには飽きたのか、胸に唇を当ててキスで俺を弄び始める。

ちゅっ。ちゅっ。ちゅ。と唇が当たる音に、舌を転がす音が混じった。

 

「んんっ、みつはぁ、んっ」

 

「すきなの。たきくんのぜんぶすきなの―ちゅ。―ちゅ。おいしい―ちゅ。」

 

飽きること無く俺を味わう三葉。

快感がどんどんと襲ってくるが同時に俺は寂しさも感じてくる。

 

「みつはぁ―」

 

「はぁ。―ちゅ。たきくぅぅん―ちゅ」

 

「さびっ……しい」

 

その声に三葉は胸から顔を離して、再び視線が合う。

キスのしすぎでダラリと唾液が伝っていて、本当に艶めかしくて美しい。

 

「そっか。子犬ちゃんは寂しいかぁ―」

 

そして、一言、

 

「おいで?」

 

ニコっと笑って、両手が広がる。俺にはもう一切の躊躇がない。

その胸に飛び込んで、スンスンと鼻を胸に近づけて刺激を与える。

唇は下着と胸の間を往復、んんっと俺の顔を両手で抑えて今度は三葉が快感に呻く。

 

「みつはぁ、みつはぁ」

 

感情をそのまま声に出して母に甘える赤子のように、そのふくらみを愛する。

そうして幾度か甘えていると、今度は目の前の衣が妙に邪魔に思えた。

頭を胸に埋めながら、背中に何かを探すように両手が宙をさまよう。

やがてその接点を見つけたが、どうにもうまくいかない。

 

「んんっ。こらこら、子犬ちゃんは焦らないの?」

 

優しくて甘い声が頭上からした後、パチっと音がして、ズルっと衣が支えを失って傾いた。

埋めた顔を本能のまま器用に動かし、やがて衣がスルっと落ちる。

その全てを見えに焼き付けたくて顔を離すと、ふくらみの全てが露わになっている。

 

「綺麗だ……」

 

本当に、本当に感情がそのまま声にでる。

 

「ありがとう、嬉しいよ」

 

恥ずかしみを越えた営みに、三葉の感情もそのまま流れ込んでくる。

おずおずと、まず右手でそれを支えるように遊び、続けて左手も。

三葉の呻く声が響いて、そこに顔を近づけずにはいられない。

頂点に、周辺に、唇で、舌で、手で、とにかく考えられる甘えを行う。

 

「たっきくん……んんっ、たきくん」

 

「みちゅはぁ。すきだ―ちゅ。すき―チロ。すきなんだ―ちゅ」

 

「んんっ、わたしもっ」

 

言葉と身体の単純なやりとりで二人の全てが通じ合い、もっともっとと身体が要求する。

そうした営みを繰り返すと、もう下半身は我慢できないほど熱くてどうにもならない。

胸に顔を埋めたまま、腰に力を入れてゆっくりと押し倒す。

昨日と同じように三葉の髪はふわりと舞い、じっとりと潤んだ目が俺と捉えた。

 

「みつは」

 

「はい」

 

状況を察したのだろう。目に覚悟の色が浮かんだ。

左右の手を三葉の下の衣に動かし、端を持って更に下に力を。

三葉も下半身を浮かして、抜きやすい体制をとってくれたので、スルリと衣が抜けた。

続いて俺は自分で衣を脱ぎ、お互いが生まれたままの姿に。

 

「きれいだ」

 

「きみもだよ」

 

一言、そのままの言葉が紡がれる。

続いて俺は枕元のそれに手をやり、封と切る。

中からは初めて見る避妊具が顔を出し、現実感が湧き上がってきた。

三葉の視線もそれに集中している。

 

―たし、か

 

昔雑誌か何かでみたような記憶を辿って、なんとかスルスルとそれを装着する。

恐らく間違ってはないことを願うが、こればっかりは今は確認しようがない。

 

「みつは」

 

「はい」

 

「みつはの全て、俺が貰うよ」

 

「たきくん、私の全て。奪ってください」

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「たーきくん」

 

「みつは」

 

二人で呼び合って、二人で笑って、二人で抱き合ってまた最初に戻る。

この繰り返しは幾度目か。

最初の一歩は本当に不器用同士で、理想とは程遠いものだったけど、

それでも一歩進んだことへの喜びは例えようがない。

 

「あ~でも少し―」

 

下半身が痛いかも、と三葉は苦笑いを浮かべた。

俺はよしよしと頭を撫でることしかできない。

こんな時男は自分勝手に気持ちよくなれるが、女性はそう出来てはいない。

これからは次の段階として、俺は勉強もしていかなければならない。

 

「瀧くんに撫でて貰えると、痛みも和らぐなぁ」

 

「それは良かったよ。幾らでも撫でるさ」

 

三葉はそれでニコニコと笑ってくれて、ギュッ抱き合って、

目があって―ちゅっ。とキスをする。

 

「でもさ、思ったより汚れたね」

 

それはバスタオルのことだろうか。あの時は上手く頭が回ったものだと今更ながらに思う。

 

「まぁそこは俺の責任だからどうにでもするよ。

 どうせ親父にはちゃんと説明しなきゃダメだからな」

 

気にするなよ、と言いたげに頭を撫でると、

三葉は気持ちよさそうに目を瞑って身を任せてくれる。

 

「私も早くお父様にちゃんと会いたいかなぁ」

 

「それはおいおい、な」

 

「期待してるよ」

 

えいっ、とまた抱きしめられて、キスを重ねる。

落ち着いてくると、そんな三葉にまた感情が動かされて、俺の下半身に熱を帯びる。

おい、ちょっとこれはマズい。

 

「あっ―」

 

って三葉さん気づかないで。

 

「……」「……」

 

微妙な間。これは完全に俺が作った空気だ。

 

「あの……さ」

 

「はい」

 

「だだだ、第2、ラウンド?」

 

「えええええ!」

 

いや流石に悪いよと、言おうとしたが三葉はスリスリと下半身を押し付けてくる。

その柔らかみに大いに刺激を受けて、熱は意志とは無関係に高まる。

 

「苦しそう」

 

ポツっと三葉は恥ずかしげに呟くが、俺はやっぱりここは誘いに乗ることは出来ない。

 

「いやそうだけど、これは収まるから。収めるから大丈夫」

 

スリスリスリ。刺激が続いて全然収まらない。

んんっ、と三葉にも艶めかしい空気がまた帯びる。

 

「みみみ、みつは?」

 

「たきくぅぅん」

 

スイッチが入ってる。これはマズい。男の矜持としてここは我慢したい。

そこで俺は強引な手段として身体を動かし、三葉には悪いがそっぽを向く形とする。

あっ、と露骨に残念そうな声。

 

「みつは」

 

「たきくん」

 

「大丈夫。大丈夫。俺は大丈夫」

 

念仏のように大丈夫、大丈夫、大丈夫と唱える。

大丈夫、大丈夫。俺は男だ。我慢だ。大丈夫。大丈夫。

 

「たきくぅぅん」

 

途端に背後から寂しさに震える子犬の声がする。

それでも今は耐えなければならない。三葉ごめん。

 

「さびしいょお……」

 

声の後、急に背中に2つのふくらみと熱を感じる。

下半身では脚を絡められて、脚と脚の間からゆっくりと刺激。

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

もうこれを繰り返すしか無い。

そこでフッと耳元に暖かい吐息。

 

「たきくぅぅん。さびしいよぉ」

 

「大丈夫だから。私は大丈夫だからぁ」

 

「たきくぅぅん。たきくぅぅん」

 

クーンクーンと雨の中で捨て犬が主を探すように呼び続ける。

 

 

大丈夫。大丈夫。だいじょ---ブチッ。

 

 

何かが俺の中で弾ける。

みつはっ、とそこからクルリと反転し、一回転して再び正対。

 

「みつは!みつは!みつは!」

 

「たきくぅぅん。くぅぅうん」

 

そこでやっと子犬が主人を見つけたが如くキスの嵐。

同時に下半身は一層刺激を強めてきて、俺のそれはもう破裂せんとばかりだ。

 

「みつは、まってろ」

 

そうして俺は再びバスルームに走り、2枚目のタオルを手に戻った。

 

再び空気が熱く、艶めかしいものに変わり始める。

 

 




あずです。

こんばんわ。

※一応二人は猫でもなければ犬でもなく、決して猿でもありません。

レーティング的にセーフであったことを切に願います。
よければまたお付き合いください。

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