君たち。のその先は?   作:あず。

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13話

「あっ、これかわいい。どうかなぁ?瀧くん」

 

ニコニコと三葉が小さいハリネズミのマークが入ったコップを持ち上げ、

俺に聞いてきた。

それもかわいいけど三葉のほうがもっとかわいいよ、

なんて言いたくもなるけれど流石に公衆の面前。自重する。

俺達は『いってらっしゃいごっこ』をした後、少し電車で移動して、

新宿にある手と手のマークに挟まれた大型雑貨店にいた。

今まで何度も来たことがある店だけど、いつもは雑貨を買うには高いなぁと思っていた店。

今日はまるっきり風景が違う。

少し凝ってる雑貨を二人が見て廻るのが本当に楽しくて、

目の前の彼女の顔が面白いものを見るたびにキラキラするのが本当に嬉しくて楽しい。

ねぇ、とボーっとしていた俺に三葉がひと押し、

 

「瀧くん?ちゃんと見てる?」

 

少し膨れた顔も本当にかわいい。

 

「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと三葉に見惚れてた」

 

「あっあっ、アホ!今日の主役は瀧くんなんやからね!」

 

ぎゅっと組んでる腕に少し強めの圧力。やわらかな膨らみが当たってドギマギしてしまう。

そういうアピールも心地よく感じる。

俺が三葉の家に置く雑貨を選ぼうという名目でこの大型店に来たというのに、

肝心の主役は三葉に見惚れてばっかりだから、どんどんリードされる形に。

でも好きなもの、気に入ったものを見た時の三葉の顔は本当に素敵だから、

それだけで満たされていてこんなやり取りばっかりしている。

 

「まぁ三葉が良い物だったら俺にだって絶対に良いものだからさ、

 俺はそれで満足だよ」

 

「嬉しいけどそういうことちゃうよ?私は瀧くんの好きなものが家にあることがいいの!」

 

こういう返しにすらジ~ンとする。

初々しい二人だなぁと周りから生暖かい目をされているのだろうか。

まさにバカップルここに極まれり。

 

「そう言えば三葉って、メッセージのスタンプもそうだけど、ハリネズミ好きだよな」

 

俺が、私が、の応酬になりそうだってので、少し話題を変えてみる。

 

「そうそう、子供の頃からね。ハリネズミが好きなの。

 あまりグッズはないんだけど、だから見つけた時は嬉しいかな。

 ってそういう瀧くんもクマのスタンプ多いよね」

 

「ん~。実は使いやすいから使ってるだけで、あまりこだわりはなかったり?」

 

「ええ~、そうなん?じゃあキャラクターでも動物でもなんでもいいから教えてほしいなぁ」

 

「そうだなぁ……あっ、これは格好いいかもな」

 

と少し目線の端にあった馬のイラストが入ったコップに目がいく。

流石都内の大型店なので品揃えは大量だ。

馬自体に興味があるわけじゃないが、男っぽいぐらいの理由で指名をしてみる。

少し移動してそのコップの前に。

 

「男の子ってお馬さん好きやなぁ。でも競馬するわけじゃないんでしょ?」

 

「そりゃ、ギャンブルはしないけどな。雄大さ?みたいなのは格好いいなとは思うよ」

 

「良かった。瀧くんがギャンブラーだったら嫌だなぁと思ってたよ」

 

確かにお馬さん格好いいね、と三葉の声を聞きながら一語一語をしっかりと噛みしめる。

元々ギャンブルには興味がないが、三葉を悲しませたくないし、悲しませるつもりもない。

こんな会話をしながらもきっと俺たちは少しずつ互いを知るのだろうな、

と思いながらも買い物を続けていく。

コップに、お箸に、歯ブラシに、スプーンに……

購入物が増える毎にこれからの生活へのキラキラが増していくのを俺は実感していた。

何よりも三葉が隣で笑っていてくれるのが本当に幸せで楽しい。

 

っと、ここまでの難易度は多分『低』だ。

そして移動してきたここの難易度は『高』なのだろう。

 

「瀧くん……どう、かな?」

 

上目遣いで聞いてくる三葉。

 

「あっ、うううううん、かわいい」

 

もう状況に頭がついていかないので、褒めるしかない。

 

「あ~、もうそればっかりやんかぁ……」

 

先程の雑貨屋とあまり変わらないやり取りだが、お互い恥ずかしみが大きくプラスされている。

だってさぁ、これは仕方ないだろ?

 

「いやそりゃ、うん。慣れないからさ……女性の下着を選ぶなんて」

 

三葉さん最初の買い物デートでこれは難易度上げすぎっしょ!

入店前に外で待っとくよ、と言ったものの三葉の押しに負けて結局入店してしまった。

周りを見ると、女性一人や女性同士の中に、俺達のように恋人で来店しているカップルもいる。

男でも俺みたいにドギマギしている奴、冗談も交えつつ余裕のある奴。

経験値の差が……これはモロだ。

 

「じゃあさ……とにかく瀧くんの好きなの、選んでみてよ……」

 

そこで三葉からの声。試される男、立花瀧。

さっきより少しだけ状況を理解しようとランジェリーを見ると、ヤバイ、完全に異世界。

どうする、どうするよ俺!

取り敢えず……ここは目の前の無難そうなピンクのやつ。

 

「こういうのは、うん、まぁ、三葉にいいんじゃないかな」

 

「あっ、無難なやつ行ったね」

 

一瞬でバレる。経験値が低すぎる俺。

もう、いやはははははは、と誤魔化し笑いを浮かべるしかない。

 

「う~~ん…じゃあこういうのは?」

 

そこで三葉が手に取ったのは、白のレースを基調としたものだった。

ほわぁぁん、とそれを身に着けた三葉を浮かべる。

薄暗い光、少しの衣擦れの音の後晒される白い肢体、それを一層強調させるそれ……。

 

「……いい」

 

まさに無心で、ボソッ、と呟いてしまう。

 

「こらっ!ここで想像するんやないよ!」

 

バシっと背中を叩かれて現実に戻される。

確かにここで想像するのは破壊力が何倍にも増して危険な領域だ。

でもまぁ、と三葉続けて、

 

「瀧くんはどっちかというと清純派なんやなぁ。お姉さん少しわかったよ?」

 

ニヤニヤと三葉の笑い。

 

「いや―」

 

三葉ならなんでもいいんだけどな、と続けようとするが

この場ではお互いあまりにも攻撃力が増幅されすぎているので止めておいた。

そしてそこで何故かその後店内から追い出されてしまう。

三葉曰く、楽しみは後にとっておくほうがいいでしょ?カレシ君、とのことだ。

多分三葉も段々雰囲気にほだされて恥ずかしくなってきたのだと思う。

しかしさ、俺一人でランジェリー群を抜けて店外に出るほど恥ずかしいことは無かったぞ三葉。

そこから15分程待つと、待たせてゴメンねぇ、と三葉はショップから出てきた。

三葉の荷物は入店前と変わっていない。

手持ちの鞄に購入物をしまったのだろうか。

何を買ったのかどころか、果たして購入すらしたのか分からない。

聞くのは流石にヤボだからしなかったけど、これは本当に夜期待しててねということか。

 

時間はそろそろ15時前ということで、

店も空いてきてるだろうからと更に少し移動してカフェに。

オープンな雰囲気だがかと言って小洒落すぎでもなくて席数も広さ相応。

メインもスイーツもしっかりとしていて、ドリンクも美味しい。

お気に入りのカフェの一つだ。

雰囲気に溶け込むように、俺たちはお互いあまり遠慮することなく空腹に従って、

俺はサンドウィッチセットを頼んで、三葉はパンケーキセットを頼む。

なんというか、こういう自然に付き合える感じが凄く理想に近づきつつあって嬉しくなった。

お喋りもしながら三葉のペースを見つつ食事を進めて、食後のドリンクタイムに。

そこで、ねぇ瀧くんさ、と三葉はカフェを見回しつつ話す。

 

「瀧くんってカフェのチョイス、凄くいいよね」

 

「ああ、俺さ、学生時代からカフェ巡り好きだったから」

 

「へぇ、流石東京男子って感じ。田舎モンの私には無理やなぁ」

 

「でも三葉も東京に出てきて7年だろ?パンケーキの食べ方とか凄く綺麗だった」

 

素直な感想を俺は口にする。

時々三葉からこういった東京への羨望が出てくることに少し戸惑いを感じることはある。

ただ地方から東京に出てきた人と付き合えばそれなりに有ることだから、

自然なことと言えば自然なことだけど。

 

「女の子はパンケーキ好きやからねぇ。

 あっ、もう彼女だからええけど、食べ方見てたとかあまり口にせんといてよ?」

 

ああ確かにそれは不覚だった。

その類は自然と感じて心にしまっておかないといけないことだ。反省。

 

「ゴメン、本当に綺麗だったからつい言ってしまった」

 

「これに関しては褒めても誤魔化せません」

 

プイッと顔をそらして、でも笑っているから怒ってはないんだろう。かわいい。

そこで話題を少し戻す。

 

「でも東京モノだからって思わないでほしいけど、

 空の綺麗さとか、空気の美味しさとか、その土地そのもののよさとか。

 東京が長いからこそ、都市部じゃない町のよさを感じるよ」

 

田舎、地方、といった言葉を選ばない表現はかなり難しい。

語彙力のなさに泣きたくなる。

でもそういった言葉が卑下と感じること自体、やはり『東京モノ』の奢りなのだろうか。

 

「でもさやっぱり東京は何でもあるよ。

 便利さ、毎日の刺激の強さ、いくら暮らしても暮らしても、新しい発見があるよね」

 

隣の芝生は青く見える、とはよく言ったもの。

現代社会の中では、どう言葉を重ねても着地点を見つけようがない違いだと思う。

どちらも多分事実で、どちらもそれぞれを尊重している。

都市部―特に東京へのヒト・モノ・カネの集中と、それに吸われて衰退の危機にある地方。

特に三葉の故郷の糸守町は、あの一件からそれが加速しているに違いない。

故郷への思いを強く持ちながらも、羨望や選択から都市部に向かう人。

感情と現実はどうしても切り離せないから、そこに問題が生じる。

 

「難しいな……でもこのあと家に行ってさ、俺のスケッチを見てくれたら、

 少なくとも気持ちは理解してもらえるんじゃないかなと思ってる。

 何かに遠慮してるとかじゃなくて、ただ惹かれる気持ちを感じて欲しい」

 

「うん、それはすっごく楽しみ」

 

言葉では伝えきれないものを伝えられる手段。

それで少しでも三葉に理解して貰えるなら、そんなに嬉しいことはないから。

 

そうして時間もほどほどで、ついに俺の家に移動することとなった。

最寄り駅で降りて、二人で手を繋いで家路を進む。

胸の高鳴りはどうしても抑えきれない。

ここから―って、そういえば問題のアレを買ってない。

 

「三葉」

 

「ん~、何なに?」

 

「ちょっと食料調達したいからさ、寄っていいか?」

 

そう言って少し先の牛乳瓶マークのコンビニに目を向ける。

 

「食料って、スーパーとかのがよくない?野菜とか売ってないよね」

 

「いや、デザートとか」

 

「それは要るわ。行こう」

 

ここはなんとか誤魔化しに成功。

二人で入店して、三葉にデザート選んでてよ、と上手く誘導して離れる。

さて問題のやつは―

 

「(なんだこれ、全くわからん)」

 

日用品の棚にひっそりと置かれているそれ―コンドーム。

知識として匂いがあるやつとか、ブツブツがあるやつとか聞いたことがあるが、

今回はもう普通のやつでいい。しかしどれが普通かが全くわからん。

ただ2~3商品しか置いておらず、選択肢は狭い。

三葉に見られてないかと、周りを警戒するがまだバレてはいない。

 

「(あっ、でもこれは聞いたことがあるわ。これでいいか)」

 

そこでまたしてもネットでよく聞くシェアNo.1の『薄いオリジナル』のやつを発見。

迷っていると三葉にバレそうなのでソレにすることにした。

サッと手にとって、掌の中で隠すようにドリンクコーナーを物色しながらも三葉を捜索。

あれ、店内に居ない?、と外を見ると三葉が外で手を振ってくれた。

二人でレジに並ぶとワリカンの問題も出てくるし、気を使ってくれたのだろうか、

普段ならやってしまったと思う所ではあるが、今だけはありがたい。

俺も適当にドリンクを手にとって手早くレジを済ませることにした。

初めて買う避妊具、レジは1つしか空いておらず、店員は女性。

 

「(うう……くそ!)」

 

店員からしたら慣れたものだろうが、未経験だし少し恥ずかしい。

いやでも堂々といこう。

覚悟を決めてレジに並んだが、まぁ当然普通に金を払って終わりだった。

そりゃまぁそうだ。今後はこの類も勉強と経験が必要となってくる。

そこから店の外で三葉に合流し、購入したドリンクから無糖紅茶を手渡しする。

 

「ああ、ええのにもう、瀧くんは」

 

「三葉がデザート買ってくれたんだから、そのお礼だよ。

 それにウチは男しか居ないからコーヒーとお茶しかないんだ」

 

特別な関係だから、三葉の想いには俺の想いで応える。

お金の算段は今更あまりにも無粋だ。

 

「ほんなら二人でスイーツ食べよぉねぇ」

 

ニコニコと笑って、じゃあ案内して、と目線をくれるので手をゆっくりと握る。

三葉は少し恥ずかしそうだけど、えへへと笑って握り返してくれた。

その笑顔が嬉しくなって、俺もまた笑顔。

まだお互い違和感もあるけれど、段々と自然に、

これが当たり前になるんだろうなぁ、と幸せを噛みしめながら家路に向かった。




あず。

です。おはようございます(只今朝6時40分です)
時間がかかったワリにはちょっと内容が薄くてすいません。
その分自然な感じでニヤニヤしてただければと思います。
ちょっと今後の展開を話すと……いや、やっぱり止めておきます。
お楽しみはあくまでその場でということで。

それでは、よければまたお付き合いください。

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