俺こんなの書く予定じゃなかったのに……
「赤ずきんちゃんや」
「なんだうそこぎ犬っころ。唆そうとしても無駄だぜ?」
無駄に高い声で挑発する赤ずきん被った俺。犬っころと言われても動じてない流石の器。内心ちょっとチビりそうである。
赤ずきん。人を丸のみするという、すっごくでかい食道と胃をお持ちの化け物を、猟師という化け物が退治する。グリム童話が有名である。
そんな世界に転生した俺。実は運命の書があるのかと思ったが全くない。ただ愛でられただけだ。
まあ、なんやかんやあって、ぶどう酒とパン持ってけおらぁ! と言われたので、発散した後行くことした……結果がこれだよ畜生!
「まあ、なんだ。おばあちゃんと家へ逝くんだろ? 近くに花があるから摘んでいくといいさ」
「嘘をつくな嘘を。あそこ彼岸花だけじゃねえか」
「ヒ、ヒガンバナ? そんなのがあるのか?」
「騙すならもう少し調べてから……ってなんで彼岸花あるんだよ!?」
「だ、大丈夫か?」
ちょっと待て。何故喰われる相手に引かれてるんだ俺。
「取り敢えずてめぇ、表でろや」
「ここ表ですぜ」
そうだった、ここバリバリ外じゃん。
「ふむ、そうだな。お花もお土産として持ってくのも定番だよな」
「だろ? じゃあ、そういうことで」
……。
「おいちょっと待て」
「なんだよ?」
「犬っころについては何か反応はしないのか?」
「……犬っころってなんだ? 旨いのか?」
「……わかれや」
「何をだ?」
「つまりは、お前の正体くらいわかってるってことだ」
「……くっくっくっくっく」
「何がおかしい?」
「俺の正体がわかった所で一体何になるというのだ?」
「お前、それ肯定してるからな。いや、何に対してかはわからんが」
「そう、俺はお前が察してる通り、狼だ」
そう、知ってた。
「騙して食べてやろうかとも思ったがバレてるんじゃあしょうがない。わかってるよな? 人間と狼では戦闘力が違う」
「そうだな」
「つまり、お前より俺の方が強い。よって、俺の気分次第でお前の人生が変わる訳だ。お前も死にたくないだろ?」
「……お前、どうせ食べるんだろ?」
「まあな。そういうことでだ、命乞いでもしてみろよ。無様な姿を晒したまま俺に喰われろ」
…………確かに人間という種は、速さも劣れば、筋力も劣る。だが。
「俺がお前より弱い? それはどうかな?」
「……何?」
「人間には知能がある。『力』が無い俺達は『技術』を磨いてきた」
「それがどうした?」
「お前に、俺の『技』を魅せてやるよ」
「…………はっ、面白え! ここまで生意気な口を聞いた人間は初めてだ。いいだろう、こい。俺も油断せず本気で行こうか」
俺は無言でそっとマッチを出す。相手の一瞬の動きさえ見逃さない様に見る……のだが、別に俺は実戦経験を積んだ訳ではない。というか俺に魅せられる技は無い。現状を打破できる方法と言えば一つ。
「どうした? 来ないのか? 技とやらを見せてくれるんじゃなかったのか?」
俺はそっとマッチに火をつけ、狼に投げつけると同時に、
「……【燃えろ】」