こんなんで、あの吸血鬼大丈夫かな(笑)
追伸の事を暗黒孔の彼方へ追いやったピメントは、今を逃せば二度と着せられないからと、ギルドメンバーからペパロニ用に貰った様々な衣装を着せていた。
レア度こそ低いが、六階層の双子と同じデザインの衣装やロリ吸血鬼との色違い、執事や巫女服、魔女っ娘等もあり一着一枚のペースでスクショを撮る。
変わったところでは誰が用意したのか、ちびっこギルド長なりきりセットが有り、着せてみたら思った以上に可愛かったので心臓掌握ポーズや椅子に座り頬杖をつく魔王等、一番多くスクショを確保していた。
「起きた時に見せてやろう。身に覚えのない自分のコス写って恥ずかしそうだな」
そう笑ったピメントはまだ着せてない複数の衣装を見る。そこにはスク水やナース服等が並んでいたが「妹のを見て何が楽しい」と着せるのを却下しつつ。
「あの姉弟にはリアルで会った時に鍛えられた握力を思い知らせてやろう。もしかしたらフラットフットさんもか?」
と、本人はあまり認めたがらない妹煩悩を発揮させる。
一部を除き、一通り着せ終えて一息ついた頃にモモンガから伝言が入った。
「ピメントさん、ヘロヘロさんがインしましたよ。円卓で待ってます」
「マジですか! 分かりました。すぐに行きます」
嬉しそうな伝言の声に、声を弾ませ返すと最後にとペパロニに挨拶をする。
「あまり構えなくて悪かったな。もし続編とかあったら外装データはあるからまた創るよ。AIは……期待するなよ」
コンソールを操作し元の服に着せ直しながら、頭をぽんぽんと叩く。
「一応は会えるのはこれで最後だ。前は挨拶もせずに去っちまったからまだマシかな」
転移の為にギルドの指輪を見て、少しだけ後ろ髪を引かれる思いで指輪を起動した。
「さよならだ」
そう残すと同時にピメントの自室には、また一人だけが残された。
「ヘロヘロさん!ご無沙汰してます! ピメントです」
円卓の間へと転移したピメントは、間髪入れず挨拶をする。
「ピメントさん、落ち着いて。ヘロヘロさんはこっちです」
「おひさーです、ピメントさん。そっちは壁です」
転移直後に向き直る間も無く明後日の方向に挨拶をする仲間に、冷静なツッコミが入る。
「ベタな事をしてすみません。モモンガさん以外には会えないかもと思ってたので、はしゃいじゃいました」
そう言い頭を掻くピメントは、ヘロヘロの隣に腰掛けた。
「マジでお久しぶりです。さっきもペパロニを見ながらヘロヘロさんの事を思い出してたんですよ」
「いやー、ピメントさんが来たってモモンガさんからメールがあったので急いで帰宅してインしました。――ペパロニかぁ、懐かしいですね。あれはグラースさん達にも手伝ってもらったので自分だけの功績じゃありませんよ」
黒い粘体から触手が伸びひらひらと動く。
「それを言ったら、全メンバーが何かしら手伝ってくれたんですけどね」
「ペロロンチーノとるし☆ふぁーさんは余計な事もしようとして、茶釜さんやヘロヘロさんに怒られてましたけど」
モモンガの台詞に三人して笑う。
「にしても、私がヘロヘロさんと会うのも久々ですよね。リアルで転職されてから二年ぐらい会ってませんでしたね」
「それぐらいですねー。うわー、そんなに時間が経ってるんだ。……やばいなぁ。残業ばかりでこのごろ時間の感覚が変なんですよね」
「大丈夫なんですか? まぁ、俺は身体の感覚どころか一部まるっと無いんですが」
唐突のブラックジョークに場が凍った。それを察し慌てたピメントが謝る。
「ごめんなさい。でもモモンガさんには言ったんですが、慣れてこれが当たり前ですから、気にしないでください。弄られた方が気も楽です」
「あー……、身体の調子はどうですか? そう言えばアバが変わってますが、ゲーム中の手足の感覚ってどうなんです?」
気遣いつつも疑問に思った事を聞いたヘロヘロに、己の両足の裏を叩き合わせると、軽い調子で答える。
「昔より右手が器用になりましたよ。ゲーム中の感覚は昔と変わらず普通に有ります。寧ろゲームを終えた直後の方が変ですねー。左手を使おうとしちゃいます」
「義手や義足は付けてないんですか? 首のジャックに繋いで動くやつがあるじゃないですか」
人の手足に当たる部分から触手を出してプラプラさせるヘロヘロ。
「そう言えばヘロヘロさんは転職前にそれ系の開発に携わってましたね」
モモンガが思い出した、といった風に手を打つ。
「あれ高いんですよー。金持ちは衰えたからって自分の足とかを改造する人もいるみたいですが。外で歩いたら掃除も必要だし、定期的にメンテするからお金掛かるし」
「それを時間問わず呼び出してやらせる奴がいるから転職したんですよ。こっちは技師じゃないってのに。それは転職先もあまり変わりませんでしたが――だいたいSEを何だと……」
突然仕事の不満に火がついたヘロヘロは愚痴の濁流を垂れ流し始め、それに呑まれた他二人は相槌マシーンと化し流れに身を任せる。
――ここが居酒屋で発泡酒があったら、すっかり気が抜けてるなぁ――とピメントが現実逃避を始めた頃にようやく濁流は清流に変わる。
「……すみません。せっかくピメントさんも復帰したのに愚痴ばっかりこぼしちゃって。あんまり言えないんですよね、向こうじゃ」
頭部らしき箇所をブルブルとくねらせ、頭を下げたであろうヘロヘロに二人は声をかける。
「気にしないでください、ヘロヘロさん。そんなに疲れてるのに無理を言って来てもらったんですから。愚痴ぐらいだったらどんだけでも飲み干せますって」
「そうですよ。なんだったら俺は普段は暇してますから、爆発する前に連絡してくれたら愚痴聞くぐらいはしますよ。勿論モモンガさんもね」
二人のフォローに多少は明るくなった笑い声が漏れ出る。
「はははっ、ありがとうございます、お二人とも。ピメントさん、その時はお願いしますね。こうやって久しぶりに仲間に会えて嬉しかったですよ」
「そうおっしゃってくれると、こちらとしても嬉しいですね」
「です」
「……ですけど、そろそろ」
ヘロヘロがコンソールを操作する仕草を見せながら言う。それはログアウトする為の操作だった。
「ああ、確かにもう時間ですね……」
「ええっ!? せっかくだから終了まで一緒に居ませんか? ユグドラシル最終日ですよ」
ピメントの引き留める声に、心から申し訳ないといった声でヘロヘロは言う。
「本当すいません。最後までご一緒したいんですけど、仲間に会えて愚痴を吐いたら気が抜けたらしく、睡魔が半端なくて」
「ピメントさん、ヘロヘロさんは仕事でお疲れですし、無理に引き留めたら悪いですよ」
「――我が儘言ってすみません、ヘロヘロさん。ゆっくり休んでください」
モモンガの説得に、今は仕事をしていないピメントは強く出られず引き留めるのを諦めた。
「引き留めてくれて嬉しかったですよ。でも流石に限界で…… お二人はどうされるんですか?」
「私はサービス終了の強制ログアウトまで残っていようかと考えています。時間はまだありますし、もしかしたらまだどなたか戻ってくるかもしれませんから」
「俺もモモンガさんに付き合いますよ。元々最後までいるつもりでしたし」
「そうですか。……でも正直ここが残っているなんて思ってもいませんでしたよ」
その言葉に、いつ皆が戻っても良いよう、一人になっても必死にギルドを守ってきたモモンガの中に複雑な感情が沸き上がるが、ピメントとヘロヘロ会話でその感情が霧散する。
「そうですか? モモンガさんなら維持してると思ってましたよ。いつでも戻ってきてとメールくれたモモンガさんが裏切る訳無いですから(だから戻り難かったんだけど)」
「? そう、ですね。そんなモモンガさんがギルド長だからこそ俺たちはこのゲームをあれほど楽しめたんでしょうね。……次にお会いする時は、ユグドラシルⅡとかだと良いですね」
二人ともに信頼を寄せている、と真っ正面から言われてモモンガは照れてしまう。
「お二人とも止めてくださいよ。皆で作り上げたものを維持管理していくのはギルド長として当たり前ですから。Ⅱの噂は聞きませんが、あると良いですね」
「その時はまたぜひ! じゃ、そろそろアウトします。最後にお会いできて嬉しかったです。お疲れ様です」
その言葉にモモンガは、すぐに最後の言葉を贈った。
「こちらもお会いできて嬉しかったです。お疲れ様でした」
「過労死とかダメですよ。ヘロヘロさん、お元気で」
ピメントの台詞にだろう、苦笑いの顔文字を頭上に浮かべたヘロヘロに、見送る二人が笑顔と悪戯っ子の様な顔文字を浮かべる。
「気をつけます。またどこかでお会いしましょう」
別れの言葉と共に、ギルドに籍を残す最後のメンバーが掻き消える。
「……行っちゃいましたね。モモンガさん、ラストまでもう少しありますが、どうします?」
「その前に、ピメントさん。ありがとうございました。」
突然の感謝の言葉
「へ!? いや、今日は元々ラス予定だったので、こっちこそ一人で過ごさずに済んで良かったです」
「いえ、それじゃなくて、ヘロヘロさんを引き留めてくれようとした事です。……私も引き留めたかったのですが、遠慮して言えませんでした。引き留められなくても、言わないと後悔すると思ったのに」
「俺がガサツなだけですよ。こんな時じゃなきゃモモンガさんやたっちさんに怒られてましたね」
舌をぺろっと出した顔文字を出したピメント、それが本心か照れ隠しか判断は出来ないが、する必要もないモモンガは横に浮かべていたギルド武器を手に取り立ち上がる。
「それでも感謝ですよ。で、最後は玉座で迎えようと思うのですがお付き合い願えますか」
「我が神のお望みとあらば」
「ぐっ…… 置いて行きますよ」
「えー、ドイツ語じゃなかったじゃないですか」
玉座の間へは指輪での転移も出来ない為に、さっさと歩きだしたモモンガの後を付いていくピメントは、先を行くギルドマスターの手に握られたギルド武器を見る。
「それがここから出されるの初めて見ますね。まさか一人でギルド維持する為に持ち出してました?」
「まさか! 一人だったら尚更持ち出せませんよ。最後まで飾っておくだけで終わらせるのも勿体ないですから」
破壊されるとギルドが崩壊する故に、ワールドアイテムに匹敵する能力を持ちながら、活躍する場の無かったギルド武器を掲げる。
「うん、魔王らしさもアップしますし、良いと思います」
「なんですかその理由」
笑う二人はそんな会話をしながら、円卓の間を後にして広い廊下を歩く。
「で、そのロニンガが可愛かったのでスクショ撮ったんですが、要りますか」
「そんな衣装までありましたか? 誰が作ったんだろ……っと、あれは」
会話を弾ませ地下10階層に降りてきた二人の前に、背筋がシャンと伸びた老執事と、六人のそれぞれ特色のあるメイドたちが姿を見せる。
二人がそのNPCの前に立つと、見事な所作で七人が一斉に頭を下げた。
「久しぶりに見ましたけど、やっぱ凄いですね。外装もAIも。確か名前は……せっちゃん?」
「セバス・チャンですよ、確か。それとプレアデスの」
「あ、そっちは覚えてます。ユリにナーベラルにルプスレギナと、ソリュシャン、エントマにシズですね」
淀みなく言い当てる友人に、モモンガは少し引く。
「セバスは覚えて無かったのに……」
「プレアデスはペパロニが入るかもって話がありましたから。服のデザインの時にも、なるべく被らない様にって、細かく見せられました。ホワイトブリムさんに……」
「デザインを口実に語りたかったんでしょうね。あの人のメイド服に対する想いは尋常じゃなかったですから」
「メイド服は決戦兵器、ですね。うちのは本当に兵器って言うか武器になってますけど。そうだ、この子らも玉座に連れて行きませんか? 魔王の部下が俺だけって淋しいでしょ」
「誰が部下ですか。でも、そうですね。私もそう思ってました。――付き従え」
ギルドマスターの命令にNPCたちは再度頭を下げ、受諾した事を示す。
それから従者を引き連れた二人は、大広間――レメゲトンを抜け、女神と悪魔が緻密に彫られた両開きの大きな扉に、腐れゴーレムクラフターの細工がされていないか警戒しながら触れると、扉は自動でゆっくりと開いていく。
「おおぉ……」
「はー…… 一、二回しか入った事ないですが……相変わらず凄いわ」
作り込まれたナザリック地下大墳墓の中でも、特に拘って作られた玉座の間を目にした二人は驚嘆する。
「私は何回か来てますが、やっぱり圧倒されますよ。皆の努力の証ですね。さて、時間もありませんし行きますか」
歩き出すモモンガを追おうと玉座の方に向いたピメントの目に、玉座の横に立つ純白のドレスを纏う美しい女性型NPCが映る。
「あ、モモンガさんの嫁だ」
「はぁ!? あっ!?」
ピメントの言に驚いた骸骨は、振り返ろうとし脚をもつれさせ転ける。
「なに崩れてるんですか。嫁に浄化されたんですか?」
「崩れてません! 転けただけです! と言うか、その嫁ってなんですか!?」
立ち上がって詰め寄り抗議する髑髏を手で押さえたピメントは、何でもないといった風に言う。
「あれぇ? タブラさん、設定変えてなかったのかな? モモンガさんに伝え忘れたとか?」
「……だから何の話しですか」
少し落ち着いたモモンガが低い声で尋ねる。
「ほら、いつだか男性面子でY談的に女性の好みを暴露するって事があったじゃないですか」
「ありましたね。それがアルベドが私の嫁ってのと何の関係が」
「最後まで聞いてください。それ実はいつも頑張ってるモモンガさんの好みを聞き出して嫁を創ろう、って作戦だったんですが」
「なっ!?」
「聞いてたら、アルベドで良くね? って、なって。プレアデスの末妹でも良いかなって案もあったんですが、アレは殆ど会う機会が無いからと却下になりまして。良かったですね」
あっけらかんと言うピメントに、全身の力が抜け、床に手と膝をつくモモンガ。
「……良かったですね。じゃないですよ。何を勝手に決めてくれてんですか」
「別に困る事は無いでしょう。……はっ!? まさか……モモンガさん。リアルで、裏切りですか?」
今度はピメントが低い声で四つん這いの骸骨を責める。
「違います! 私はまだピュアです!!」
「いや、ピュアかどうかはしらんです。だったら困る事は無いでしょう。所詮は設定上の話しですし」
「それはそうなんですが…… 気の遣われ方が納得いかないというか……」
立ち上がり、リアルの癖で膝を払いながらボヤくモモンガの背をポンッと叩いたピメントは、そのままその背を押して玉座に歩を進める。
「まぁまぁ、とにかくアルベドの設定を見ましょう。それで変更されていたら良し。変わって無かったらギルドメンバーを代表して書きかえさせます」
「代表してって、私は賛成してませんよ?」
「往生際が悪いですよ。嫁の件は女性陣も賛成だったんですから、つか賛成41です」
多数決を重視したギルド、アインズ・ウール・ゴウンにて、その数はほぼ絶対であった。逆らう事はギルドマスターですら、いやギルドマスターだからこそ出来ず、観念する。
「はぁ…… 分かりました。多数決制は私が提案しましたし、逆らいません。でもタブラさんは本当に賛成だったのですか?」
少なくない課金までしてアルベドを含む三姉妹を創ったタブラが、あっさり嫁に出すのか疑問に思ったモモンガだが。
「NTRか、萌えるな。で終りました。タブラさんも子供じゃなくて嫁だか恋人設定だったんですかね?……4P?」
「BANされますよ…… あの人はそういう人でしたね」
ゲームで骨なのにこの短時間で若干老けた感じがするモモンガが、疲れた声で付き従えてきた執事とメイド達を待機させると、玉座に続く階段を上がる。
共に上がったピメントが、隣に立つ友人の握るギルド武器であるスタッフをコンコン、と指で叩く。
「分かってますよ、ってアルベドが持ってるのワールドアイテムじゃ」
「んな事より、はよ」
「だいぶ、口調が崩れてますよ。昔みたいで良いんですが」
催促されるままにアルベドの設定を閲覧しようと開いた途端、長文がコンソールを埋め尽くす。
「「ながっ!」」
設定魔であったタブラの本領を本人が居ないところで発揮され、たじろぐ二人だったが、意を決して読み進める。
一分ほど読んでいた二人が、設定に記された最後の文句で思考を止める。
『ちなみにビッチである』
「……良妻賢母のビッチ嫁ですよ。良かったですね」
「良かないでしょ!」
すかさず突っ込むモモンガであったが、一刀両断される。
「ピュアンガが、なに我が儘言ってんですか」
「ピュアンガは止めて…… 嫁って言うならこれ変えますよ」
言うが早いか、ギルドマスター権限を行使して『ちなみにビッチである』との文言を消す。
「あ、まぁいいか。ではどうします? 文字制限一杯だから10文字以内で」
少し悩んだ様子のモモンガは、開き直って新たに書き込んだ。
『モモンガを愛している』
それを覗きこんだピメントはニヤリッと顔文字を出す。
「やりますね、モモンガさん。俺は『モモンガの妻である』とかシンプルに考えてたんですが」
既に開き直ったモモンガは動揺する事なく答える。
「それだと愛されてるかは分からないから、これが良いかと思いまして」
「DTの独占欲ですね。分かりまブッ!?」
図星ではあったが、同じ“仲間”であるはずのピメントがドヤ顔で言ってくるのに腹が立ったモモンガは、手に持ったスタッフを仲間の鼻っ面に叩き込んだ。
ハロウィーンでモモンガ様いないかなぁ(´ω`)少女の