モモンガさんとファーマー忍者(仮)   作:茶色い黒猫

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 話が進みませんw(・ω・;)


第6話

 久々の再会に喜びを噛み締めた男――ピメントとモモンガは目的地である拠点まで近い事もあり、転移門を使わず歩いて向かっていた。

 

 向かうに当たり、不可知化を再使用しようとしたピメントにモモンガからなされた「何をしているのですか?」との問いを切っ掛けに、敵NPCがノンアクティブ化されているのを知り、頭を抱えくずおれたのを見たモモンガが驚き気分が優れないのかと心配してきたのを、

「高価なアイテムが無駄になったのがショックだったけど、最終日ですし大丈夫」

 と、嘘ではないがショックを受けた大部分を隠して答える一幕もあったりした。

 

 ショックから立ち直り歩き始めたピメントは、横を機嫌良く歩く骸骨姿のモモンガに疑問に思った事を問いかける。

 

「しかし、よく俺が分かりましたね。姿が前と全然違いますし、そもそもどうして此所に? 助かりましたけど」

 

 ピメントの問いを聞いたモモンガは、若干ばつが悪い感じで言い淀みながら答える。

 

「あ〜……っとですね、此所に来たのはピメントさんからのメールが来てから結構時間が経ったのに到着連絡が無かったので、何かあったのかと遠隔視の鏡で拠点周辺を確認してたんですよ」

 

 その気まずそうに話し出した台詞に、もしかして“アレ”を見られていたのか? と、ピメントはゲームでは再現されていないはずの大量の汗が吹き出るのを全身に感じながら、壊れかけの扇風機の様にガクガクと顔をモモンガに向け続きを促す。

 

「それでですね……その、人間種の狩人と追われている異形種の姿を発見して見ていたんですけど……」

 

 そこまで聞いたピメントは、動かない敵NPCに警戒していた滑稽な姿は見られていなかったと確信し全身から力が抜けた。ならば何故モモンガが言いづらそうにしているのかが気になった。

 

「その逃げていた異形種の動きが、初めてピメントさんを見た時の動きと重なって。――あの後、ピメントさんのギルド加入について話し合う場で、ペロロンチーノが録画していたピメントさんの動画を流して盛り上がった事を知って、ピメントさん、恥ずかしがっていたので……」

 

 そんな事もあったかと思い出したピメントだったが、昔の事でありかつ現在進行形で絶賛気にしていたアレと比べれば些細な事件、寧ろそんな事を覚えていたモモンガに改めて感謝を述べる。

 

「いえ、結果的にギルドに加入出来ましたし気にしてませんよ。そのお陰でまたモモンガさんに助けられましたし、必死に逃げた甲斐があったってもんです。ありがとうございました」

 

 苦笑しながら感謝を述べるピメントに、モモンガも御礼で返す。

 

「こちらこそ呼び掛けに応じてくれてありがとうございます。それで……お身体と妹さん、恵実さん、でしたか? 大事ありませんか」

 

 モモンガの控え目だが心底心配している声音に、ギルドを離れて長い間連絡をしなかった事での罪悪感を募らせたピメントだったが、努めて明るい声を出す。

 

「身体はすっかり慣れましたし、久々のユグドラシルで走り回って楽しんでますよ。恵実もいつ目覚めても不思議じゃないって医者は言ってました。目を覚ましたら快気祝いしますんで、モモンガさんも呼ばれて下さい。新鮮な野菜を使った料理を振る舞いますよ」

 

 少し早口になってしまい不自然だったかと心配したが、モモンガは気付かなかったのか気を遣ったのか話に乗ってきてくれる。

 

「それは良かったです。恵実さん、早く目覚めると良いですね。新鮮な野菜も楽しみです。以前にオフ会でピメントさんに頂いて食べた時以来ですよ。――あ、見えてきましたね」

 

 モモンガがそう言って指差す方には、懐かしい元ホームが昔と変わらず佇んでいた。

 立ち止まったその場で眺めていたピメントに先行しホームの門まで行ったモモンガの、振り返りゆっくり両手を開くその姿は正に魔王の様相で、しかし見た目にそぐわない程の喜色を滲ませ、魔王は帰ってきた仲間に告げた。

 

「改めておかえりなさい、ピメントさん」

 

 魔王姿とのギャップに、年上なのに相変わらず可愛い人だと思いながら、ピメントも返す。

 

「ご無沙汰してすみませんでした。ピメント、今帰りました」

 

 そう言ってかつてのホームであるナザリック地下大墳墓に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 久々にナザリックへ戻ったピメントに、モモンガはアイテムボックスから一つの指輪、ギルドメンバーの証である『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を取り出すと、ピメントへ差し出す。

 

「これ預かっていたピメントさんの指輪です。受け取ってください」

 

 差し出された指輪を見ながらピメントは、長期間ギルドを離れた自分が受け取って良いものか、と躊躇する。それを見て取ったモモンガは指輪を持つ手を更に前に出した。

 

「ピメントさんが戻ったら指輪を返す事は、全員一致で賛成してましたから大丈夫ですよ。円卓に戻ったら再加入手続きもしちゃいましょう」

 

 その言葉に、嘗てのギルドメンバーの思い遣りに、車椅子に座っている本体は涙を流しているだろうと感じ、手が震えそうになるのを抑えながら指輪を受け取り指へ填めた。

 

 

 

 ピメントが指輪を装備したのを確認し、モモンガが「円卓へ移動しましょう」と言ったところでピメントは聞く。

 

「そういや、モモンガさん。他のメンバーは来てますか?」

 

 それに対してモモンガは、僅かだが明らかに気落ちした様子で頭を振る。

 

「皆さんリアルが忙しい様で……、詳しくは円卓で話しましょう」

 

 あまり触れられたくない話題だった様だが、まだユグドラシル終了までは数時間あるし円卓で話しながら皆を待とうと、ピメントも頷きモモンガと同時に円卓へとワープした。

 

 

 

 

 

「ここも久々ですね」

 

 円卓へと移動したピメントは、想い出に浸りながら大きな円卓に指を滑らせつつ一周し、モモンガの隣に腰掛ける。

 

「こうやってちゃんと“座る”ってのは加入したての頃以来かも」

 

「そう言われるとそうですね。ビルドし直したピメントさんは球体だったので、座ると言うより鎮座と言った感じでしたから」

 

 そう言って笑うモモンガは、壁に飾ってあったギルド、アインズ・ウール・ゴウンの証であり、モモンガだけが扱えるギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を手に取りコンソールを呼び出すと、ギルドマスターのみが発行できるギルド招待状を作り、ピメントへ発信する。

 

 受け取ったピメントの前に上質そうな巻物が現れ、それを開き必要事項にチェックを入れ最後に加入承諾を選択すると、ベルが鳴りギルドへの加入完了を知らせた。

 

「これでピメントさんは名実共にギルドメンバーに返り咲きですね」

 

「態々ギルド武器まで使って演出しなくても…… ですが、そう嬉しそうに言われると気恥ずかしいやら申し訳ないやら…… とりあえず殴りますか」

 

「誰が!? 誰を!?」

 

「冗談です。久々にモモンガさんと落ち着いて話せると思ったら、つい」

 

「つい!?」

 

「そんな事よりお聞きしたいのですが」

 

「えー…… ゴホンッ、どうぞ」

 

 本当はモモンガに殴られてすっきりしたい気持ちもあったが、自分の罪悪感を軽くする為に気の良い友人で居てくれたモモンガをゲーム内とは言え利用する訳にはいかず、本音を曖昧な冗談として吐露するだけにしたピメントは、外で途中となった話題を申し訳なさを感じながら改めて問う。

 

「それで……今は見当たりませんが、他のメンバーは来られましたか」

 

 それに対しモモンガは先程までの雰囲気を潜めさせ、仕方無いと言った風に静かに告げた。

 

「やはり皆さん忙しい様でして、メールでも来られない事を謝られてしまって誘った此方も申し訳なかったかな、と…… それでもまだ自分の他に引退してない三人の内二人が来てくれたんですが、家庭があってピメントさんを探す少し前に帰られました」

 

 残った人数がたった四人だけな事にショックを受けたのと合わせ、自身も長い間ギルドを離れていたピメントには、落ち込んだ様子のモモンガを慰める言葉が咄嗟には出てこなかったが、それでも何とか絞り出す。

 

「皆さんに御礼と謝罪をしたかったのですが、ユグドラシルが終了しても縁が完全に切れる訳じゃないですし、リアルでメールでもしますか。それに終了までには時間がありますから、残業や嫁さんから逃げた人が来るかもですよ」

 

 ピメントのフォローと冗談に、モモンガも明るさを取り戻し話題に乗る。

 

「そうですね。ヘロヘロさんが定時で上がってログインして来たらビックリしてしまうかもしれません」

 

 汗を垂らして笑う顔文字を出しながら喋るモモンガに、ピメントも目が×になった顔文字を出す。

 

「あー、ヘロヘロさんは相変わらずブラック勤めなんですか? まぁブラックじゃない職場が少ないでしょうけど……」

 

「ピメントさんが抜けた後に転職したらしいんですけど、そこもブラックらしくて」

 

「うへぁ…… 事故って手足を失いましたが、なんか自分の今の身分が申し訳なくなりますね」

 

 肩をすぼめながら頭を掻くピメントを見て、モモンガは心配していた事を詳しく尋ねる機会だと思った。

 

「ピメントさんは、事故に遭われた後はどうされて居たんですか? 入院された事はたっちさんに聞いてましたし、身体の事もギルドを辞める時に聞いてましたが……」

 

 モモンガは恐縮した様に尋ねるが、ピメントはおどけた感じで答える。

 

「左手と両足を失ったのは聞いてると思いますが、さっき言ったように慣れましたから何て事ないです。歩きたければゲームも有りますし」

 そう言って、リアルでは失った手で足を叩く。

「一時は仕事がどうなるかと思いましたが、懲役代わりに働いてる“奴”がいるので何もしてないんですよね。名ばかりの代表になってますからお金も入ってきてますし、駄目人間になりそうです」

 

 歯を剥き出して笑う顔文字を出して肩を竦めるピメントは、反応が無い事に気付き隣を見ると、モモンガは力を込めて握っていたらしい手をゆっくりと開き息を吐き出す。

 

「すみません、自分が腹を立てるのは筋違いですね。ピメントさんが割り切れているのに」

 

 その台詞にピメントは未だ眠り続ける妹を思い浮かばせ「割り切ってなんかいない!」と反論したくなったが、そう思わせる様に話したのは自分で、ピメントを思って腹を立てたくれたモモンガに対し感謝こそすれ怒鳴るのはお門違いだ。

 

「――いえ、モモンガさんの気持ちは嬉しいです。完全に割り切れてはいないのも確かですが、相手が相手なので取れないと思った慰謝料が入って妹の入院も何とかなってますし、最悪は避けられた感じですね」

 

 「そもそも事故がなければ最良でしたが」と苦笑いした様子のピメントに感じた物があったモモンガは、場の空気を入れ替えようとし、話を逸らそうとして逸れてない話題を振る。

 

「そう言えばピメントさんの創ったNPCは恵実さんをモデルにしてましたよね」

 

 モモンガの不器用ながらの気遣いを無駄にしたくは無かったが、ピメントは自分の声が低くなるのを抑えられなかった。

 

「――実はそれがユグドラシルに戻らなかった一因なんですよ。モモンガさんにはここで全部話しちゃいますけど…… 俺のLvがひゃ……95なのは気付いてますよね」

 

「ええ。念の為、助けに行った時に確認させて頂きました。ピメントさんの名前を見て、やっぱり助けに来て正解だったと思いました」

 

 そう話すモモンガの姿に、自慢気に尻尾を振る犬の動画――あれはやまいこさんの飼い犬だったか?――と考えが逸れるが、即座に意識を戻す。

 

「Lvが高いのを不思議に思われたでしょう? いや、もしかしたらログインしていたならと、責める気持ちも浮かばれたかもしれません」

「そんな事!……」

 

 モモンガが声を上げたのを、ピメントは掌を向け遮る。

 

「モモンガさんがそう思われなくても、俺の中には、戻れる状況になっても戻らなかった事をみんなに責められるかも知れない、って恐怖があったんです。そんな人達じゃ無いと知っているのに」

 

 モモンガは何か言いたそうな気配を出すが、まだピメントの話が続くのを察して押し黙っている。

 

「本当は退院して妹の見舞いとリハビリ位しかする事が無かったから、復帰しようと思ってたのですが……思った以上に精神的に参っていたみたいで」

 

 そこで区切ると、ピメントは大きく息を吐き続ける。

 

「ログインしようとした時に、妹の元気だった頃の姿が――NPCでも見られるな、と思って想い浮かべた瞬間に頭が沸騰した気がして目眩がした途端、吐いてしまったんです」

 

「それは……」

 

「実際に眠る妹と会っている時は兄として気を張ってたんでしょうね。今でこそ大丈夫ですが、その頃はまだ気持ちの整理が出来てなくて……」

 

 この先を告げるのにピメントは一瞬躊躇うが、誤魔化しは無しだと決める。

 

「ユグドラシル――アインズ・ウール・ゴウンって気を抜ける場所が、油断になって怒りや不安に飲まれてしまったんですね」

 

 少し他人事の様な話し方をするピメントに、モモンガは堪らず声を荒げ言う。

 

「だったら! 尚更戻ってきて頂けたら…… 気持ちを吐き出す場所位にはなれませんでしたか!?」

 

 あくまでも思い遣りからくる憤りをぶつけてくるモモンガに、残酷かと思いながらもピメントは言葉を偽らない。

 

「そんなだから、ですよ。モモンガさんをはじめ、たっちさんやタブラさん、ペロチに茶釜さんに、る…… 皆が皆、良い人だから甘えられなかったんです」

 

 その台詞にモモンガの動きが止まり「モモンガさんを傷付けてしまっている」そう感じるが、一度全て告げると決めた口は止まらない。

 

「それからは全て自分で、自分自身の事も妹の事も面倒みる。誰にも甘えない、気も抜かないって決めて、ギルドを抜けてアカウントも消しました」

「……でもそれは切っ掛けになっただけで、戻らなかったのは俺のせいです。時間が経ち気持ちの整理がつき始めて落ち着くと、またギルドに、皆に会いたくなって……勝手ですよね」

 

 仮想空間では有り得ないが、喉がカラカラになっている気がするピメントは気分だけでも潤そうと、ドリンクアイテムを取り出し飲む。

 

「ふぅ…… で、いざ戻ろうかと考えたら、皆に会うのが怖くなったんです。皆の心配するメールや復帰を誘うメールに適当に応えてた自分が悪いのに、少なくなっていくメールに忘れられてしまったのかも、責めている人も居るかもしれない、と」

「皆を知っていたのに、信じられなかった自分を守る為に復帰しませんでした。でもユグドラシルが終わる事を知って、皆に会いたい、会って謝りたいと思って、終了告知が出たその日で復帰したんですが……」

 

 持っていたドリンクを飲み干し、空き瓶が消えるのを眺めてそのオブジェクトが消えきると、ピメントはモモンガに向き直る。

 

「それでも直ぐに会いに行く勇気が無くて…… Lv100になるか、また誘ってくれる連絡が有ったら戻ろうと決めて、Lv上げしてました」

 

 そう言うとピメントは立ち上がり、モモンガに頭を下げる。

 

「本当に申し訳ありませんでした。俺は皆の気持ちを裏切りました。その上で、モモンガさんのメールに乗っかってのこのことやって来たのも、自己満足の為に一方的に謝りたいって我が儘です」

 

 更に頭を深く下げたピメントは、視線の先の足の動きでモモンガが立ち上がるのを見るが、頭を下げるのをやめなかった。

 この場には居たくないと思われても当然だ、ログアウトすらされるかもしれない。許してくれと言うつもりも無い。言った通り謝ったのは自分の我が儘なのだから、その我が儘に付き合う義理も無いのだ。

 そうピメントは思っていたが、モモンガは立ち上がり此方を向いたまま移動する様子が無い。不思議に思い顔を僅かに上げ、モモンガを見ると――ピメントに頭を下げいた。

 

 予想外の事態に驚き、完全に頭を上げたピメントへ、今度はモモンガが頭を下げたまま言葉を紡ぐ。

 

「此方こそすみませんでした。ピメントさんがそんなに苦しんでいたのに気が付いてあげられませんでした」

「モモンガさん!止めてください!悪いのはっ……」

 

 モモンガが頭を上げ、先程とは逆に掌をピメントに向け言葉を遮る。

 

「たっちさんから事故に遭ったのを聞いて、その後も――ピメントさんがギルドを抜けた後も、たっちさんからはピメントさんの元気が無いのは聞いてました」

 

 ピメントは定期的に連絡を寄越し、事故から暫くは月一程で妹のお見舞いにも来てくれていた、たっち・みーの姿を思い出す。

 

「手足を失って、恵実さんも被害に遭ったのだからそれも当然だろう。皆そう思ってました。でも、事故がピメントさんにどれだけの苦しみを与えているのかまでは…… 考えた事も有ったかもしれませんが、所詮は想像で本人の苦しみとはかけ離れてました」

 

 当たり前だ。そんな事が分かるのは同じもしくは似た経験をした人か、テレパシーでも使える超能力者だろう。モモンガや他のメンバーに非がある訳がない。

 

「だから、皆で元気づけようとお誘いのメールを出していたのですが、それがピメントさんを苦しめる結果になってしまい。知らなかったとはいえ、追い詰めてしまったのは事実です。だから……」

 

 モモンガが再び頭を下げる。

 

「本当にすみませんでした」

 

「止めてください。モモンガさん達が悪くないのは俺が一番知ってます。全て自業自得なんです」

 

 そう言ってピメントは頭を下げるモモンガの肩に手を掛け起こそうとした。すると、肩に置かれた手をモモンガが掴みゆっくり頭を上げる。

 

「でも、これだけは言わせてもらいます。皆はピメントさんを一切責めていませんでした。ユグドラシルから離れたから復帰を誘う連絡は無くなってしまったかもしれませんが…… これを見てください」

 

 モモンガは個人用のコンソールを開き、動画フォルダを選択してその中の一つを再生させ、ピメントに見える様にする。

 

「ピメントさんが戻らなかったらメールで、戻ってきた場合は終了間近に見せる予定でしたが」

 

 モモンガが告げるのと同時に、宙に浮く画面にペロロンチーノが映る。

 

 

『あー、ピメントさん? 戻ってきた、んだよね? 俺は事情があってユグドラシル辞めちゃう――ちゃったけど、ピメントさんが復帰したなら安心だわ。モモンガさん達の事よろしく! あと復帰おめでとー!』

 

『ピメントお兄ちゃん!復帰おめでと〜。私は引退しちゃったけど、ピメントお兄ちゃんはギンギンでファイトだよ!』

 

『ピメントさん、お帰りなさい。お久し振りです。妹さんは元気になりましたか? 悪ノリして衣装に凝って徹夜したのも今となっては良い思い出です。モデルの妹さんも衣装を気に入ってくれて創ったNPCを消さずに済みましたしね。私は引退してしまいますが、メイド服はアインズ・ウール・ゴウンと共にあり、です。それでは』

 

『――――――――』

 

『――――――――――――――』

 

『――――――――――』

 

 多種多様な姿をした仲間がピメントに向けメッセージを贈る動画を観ながら、ピメントは泣いていた。

 涙で視界が滲む事はないが、皆のピメントへ向けられた想いが嬉しくて切なくて堪らなかった。

 

 全てを見終わるとモモンガがコンソールを操作し、ピメントにメールを送る。

 

「今の動画と、動画が無い人はメッセージを預かってましたので一緒に送りました。後ででも読まれてください」

 

「ありがとう、モモンガさん。皆もありがとう……」

 

「で、ピメントさん。とりあえず殴りますね」

「え?」

 

 ピメントが何を言われたか理解する間も無く、モモンガが手に持つ豪奢なスタッフが振るわれ、どす黒く赤いオーラが尾を引きピメントの頬にヒットする。

 

「へぶっ!?!?」

 

 ワールドアイテムにも匹敵しうるスタッフで殴られたピメントは、スピンしながら吹き飛び壁に激突し、壁から『0』という数字が浮き出るのと同時、瞬間的に斬新なオブジェと化していた身体がズルズルと床に落ちる。

 何が起きたのか理解出来ないまま、上半身を起こし頬を押さえたままモモンガに向き直ったピメントに、モモンガが言う。

 

「今のはギルドの皆を信じられなかった罰を、ギルド長として皆の代わりに殴りました。これでピメントさんのギルドメンバーとしての罪は無くなりました」

 

 モモンガは座ったままのピメントに手を出して笑顔の顔文字を出す。

 そして、その手を取ったピメントを引っ張り起こすと重ねて言う。

 

「次はピメントさんの番ですよ。思いっきり殴ってください」

 

「いや、俺は……」

 

「さっきも言ったように、知らずにでも追い詰めたのは事実なんですから。これでチャラにしましょう」

 

 骨が剥き出しの頬を指差して言うモモンガに、ピメントも頷く。

 

「……分かりました。では、獣化! そして筋力強化の術に疾風の術! 更に腕力の丸薬!」

 

「え?」

 

 更にピメントは魔法スクロールを取り出し、魔法を発動させる。

 

「上位全能力強化! 竜の力! 抵抗突破力上昇!」

 

 魔法を発動させながらピメントはモモンガから距離を取る。

 

「え?え?」

 

「じゃあ、行きますよ。 雷切!!」

 

 ピメントの左手が蒼白い光を纏った瞬間、それが一筋の光の帯になり一瞬でモモンガの頬まで繋がるのと同時に、骸骨の姿が消えた。いや、消えたと錯覚する程の速さで殴り飛ばされた。

 

「え゛え゛ぇ゛――ぶほっ!?」

 

 広い円卓の間の端から端へ一瞬で飛んだモモンガは、ピメントとは反対側の壁に叩き付けられ、また壁から『0』の数字が浮き出る。

 

「良かった。頭だけ飛んでったらどうしようかと」

 

 歩み寄りながら明るく言うピメントに、よろよろと立ち上がったモモンガは怒鳴る。

 

「良かった。じゃありませんよ! あんなにバフって、死んだらどうすんですか!?」

 

「いや、モモンガさんギルド武器でステアップしてるから、あれ位やらなきゃ通りませんて」

 

「体力ごっそり持ってかれましたよ!?」

 

「一発は一発って事で。ともかくこれで手打ちですね」

 

 ピメントは右手をモモンガに差し出す。

 

「はぁ〜…… はい、チャラです」

 

 差し出さした手を握られたピメントは、その上に左手を置き改めて言った。

 

「ありがとうございます、モモンガさん」

 

「此方こそ、ピメントさん」

 

 この人がギルドマスターで良かった。心の底から感謝と敬意が込み上げていたピメントに、モモンガが思い出したように聞いた。

 

「そう言えば、なんでLv95なんですか」

 

「……聞かないで」

 

 モモンガの手を握ったまま膝から崩れたピメント。その有り様は、端から見れば邪神に信仰を捧げるそれだった。

 




 長生きしてユグドラシルをプレイしてみたいけど、首の手術は怖い(´・ω・`)

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