モモンガさんとファーマー忍者(仮)   作:茶色い黒猫

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 初書き物が楽しくて、ついつい夜更かししてしまいます(・ω・;)


第5話

 暫し想い出に浸っていた男だが、それはユグドラシルが終了した後で好きなだけ出来る、と心地好さを振り払い前を向く。

 ツヴェークの根城を最短距離で突っ切る為に、男が自身に掛けたバフも短くないとは言え制限時間がある。効果時間を少々消費してしまったが、今からでも効果が切れる前には目的地へは到達出来るはず。そう男は気合いを入れ直し、忍者LvMAXで手に入れた疾さを活かして駆け出した。

 

 

 ツヴェークとの戦闘を避ける為に慎重かつ迅速に走っていた男は、一度もツヴェークを鳴かせる事は無く道程の半分を十分も経たずに駆けた。この分だと予想より早く目的地へ到着てきるであろう事と、敵に発見されず戦闘を避けられた自身のリアルスキルに「期間さえ有れば参考にした先輩忍者にも並べたかも」と大分調子に乗っていた。

 

 実際の所は、ユグドラシル終了日という事で全ての敵NPCがノンアクティブ化されており、攻撃を受けない限りは敵対行動を取らないだけなのだが、ログイン前の運営からの説明文が表示されているタイミングでメールを打っていた男はそれを見過ごしており、更に自身の勘違いな成果に少なからず酔いしれていたため、その事実に全く気付けていなかった。

 おかげで端から見ると、攻撃してこないと分かっている敵の近くで警戒し、息を潜めつつ無駄に洗練された隠密行動をとる男の姿は、全力で忍者ごっこをする猫耳男(成人)であり、恐姉家バードマン達がそれを見ていたら腹を捩らせ呼吸困難に陥っていたかも知れない。

 

 男にとって幸いなのは、姿を隠すのに現時点で取れるあらゆる手段を講じており、探知に特化した者か高価な探知系消費アイテムを使用する、又は男が攻撃行動を取ると解除される一部の不可知スキルが生きている限りはその姿を視認出来ず、他人に見られる可能性は限り無く低い、という事だろう。

 後に男が敵NPCのノンアクティブ化を知り、己の取っていた行動に身悶える事があれば、その事が少しは慰めになるはずだ。

 

 

 ともあれ、“今”は無事に駆け抜けている事に違いない男が、調子付いた勢いそのままに残りを踏破すべく更に速度を上げ駆け出した――直後、力を込めながらも静かに地面を蹴り飛ばし大きくバク転すると、近くに立つ枯れ木に素早く身を寄せ己の姿を隠した。

 

 一般的に思い描くであろう忍者らしいその洗練された動きは、忍者ごっこの真骨頂……ではなく、男の探知スキルに他プレイヤーの反応が有ったからである。

 身を隠した男は遠視スキルを発動し、慎重に枯れ木の影から顔を出して辺りを探ると、三人の人間種の姿を確認する。

 

 発見した三人は男の存在に気付いた様子は見られ無い。それどころか周囲を警戒する様子すら無く、まるで街中を散歩するかの様に会話を弾ませて歩いている。

 これなら男の存在を気取られない様にして先を進めるだろうが、問題はその者達の進行方向が男と同じだった事。男はその方向から三人の目的が推察出来てしまった。

 

「あの拠点に挑むつもりか……」

 

 そう呟くと、たった三人ではそれが如何に無謀な事かをよく知る男は『三人を密かに追い抜き先回りして拠点で迎え討とう』と考えたが、先を歩く人間種を改めて確認し――、その考えを破棄し呟く。

 

「復讐するは我にあり」

 

 本来は、罪には神(我)が罰を与えるから貴方は復讐なんてせずに慈悲を与えなさい。といった意味なのだが、響きが格好よく誤解されやすい言葉を誤用し呟いた男は、晴らせないと思っていた昨夜の怨みを晴らすべく、地面に飲み込まれる様に影に潜ると、ゆっくり三人の人間種達へ近付いて行った。

 

 不意打ちを成功させて一人を倒したとして、一対二では男のLvが下がる前であっても戦って勝つには厳しいだろう事は、復讐に燃え頭に血が上っている男でも分かっていた。

 だが、これから彼の拠点に挑むのだろうに、明らかに警戒心も緊張感も感じられない三人の姿は、友人達の努力の証を貶された感じがして不快さを男に与え、そこに個人的怨みが重ねられた結果、感情の暴走を止める役割である理性という鎖は千切れてしまう。

 

 実は三人が無警戒なのは、敵NPCがノンアクティブ化されているのを知っているのと、最終日に“非公式ラストダンジョン”とユグドラシルプレイヤーの間では有名な場所に挑むという自殺に等しい行為をする酔狂なプレイヤーは自分達位だろうと思った上、他に同類が居たとしても協力出来るだろうと想定している事からくる気軽さであり、目的の拠点の難易度は重々理解していた。

 つまり男の彼等の態度に対する怒りは誤解と勘違いなのだが、その様な事情を知る由も無い男は、自身の復讐を果たすのに合わせ、標的にされた拠点をホームにしているギルドのメンバーだった者としての制裁を加える為に、行動を開始したのであった。

 敵である三人のプレイヤー目指し、地面を滑る様に近付いて行く影の中に潜った状態のまま男は〈獣化〉を使うと、刃渡り60cm程の小太刀を鞘から抜き放つ。

 これはリアルマネーを使う方のオークションで見付け、その性能とシンプルだが細部まで作り込まれた鞘や柄と、黒い靄を淡く垂れ放つ茜色の刀身に一目惚れし、即決額で落札したゴッズ級の逸品であり、その銘を『宵闇トワイライト』

 そのサハラ砂漠やチゲ鍋みたいな銘を見て、製作者に冗談か本気か尋ねたいと思ったが、ネーミングセンスが壊滅している元ギルドマスターで慣れもあったので宵闇だけを心の中で採用し気にしない事にした、そんな男の主武器の一つである。

 

 その“宵闇”を手に、三人に気付かれる事無くその背後に付けた男は、騎士、魔法詠唱者、狩人の人間種の中で、魔法に弱くなる獣化の天敵とも言える魔法詠唱者の背中目掛けて影から飛び出し、斬り上げる。

 獣化と様々なバフで倍以上になった男の物理攻撃力と、不意打ちによる大幅なダメージ増加で魔法詠唱者は一撃で体力を0にする。

 

「な、なんだ!?」「敵ぃ!?」

 

 唐突に、仲間が一瞬で倒された事に二人は動揺するが、流石はここに来る上級者だと思える反応で武器を構え。

 

「沼の後ろに!」「分かってる!」

 

 即座に騎士の男が狩人に距離を取るように促し、狩人も騎士の声と同時に駆け出す。

 

「行かせない!」

 

 獣化し獣の姿になった男はそう叫ぶと、ゲーム全盛期には高価で使うのを躊躇った赤い宝石の様なアイテムを取り出し、それを狩人の足許に投げ付ける。すると、そこに高さ3mに届きそうな大きな火柱が噴き上がり、狩人の視界と姿を包み隠す。

 騎士が思わず自分の背後を走っていた狩人の方へ顔を向けると、視線の先で獣が弾丸の様に火柱の中へ飛び込むのを確認した。

 

「そっちに敵が!」「はいよ!」

 

 騎士の男は狩人が炎耐性を有していたか思い出せなかったが、姿の見えない狩人から余裕のある返事が返ってきた事に落ち着きを取り戻し、今の内にバフを掛けるべくスキルを選ぼうとコンソールを開いた直後、首に強烈なダメージを受け、更に朦朧状態になる。

 

「な、なんで……」

「あっちは分身だよ」

 

 分身は術者の四分の一程度の能力しかないが、回避力だけは術者の割いた魔力の量に比例して上下するので、男は騎士の目が狩人を飲み込んだ火柱に向いたのを確認した瞬間に大量の魔力を割き分身を呼び出し、炎目掛けて“回避”行動をさせて囮とした。

 こうして炎と囮に目と気を奪われた騎士の背後から忍び寄った獣は、戦闘中に自身の姿が敵の視界から外れている時だけ使える〈伐ち首〉を使用し、急所判定のクリティカルダメージと追加効果の〈朦朧〉を与え、朦朧状態の騎士に大振りだが高威力の攻撃スキルを使いトドメを刺す。

 

 

 相手がフィールドを安全に進む為のセオリーを蔑ろにし、何の対策もしていなかったとは言え思った以上に上手くいった。その事が気の緩みを生み、使用後に硬直が設定された大技を男に使わせてしまった結果、隙を見せた背中に痛烈な一撃を許してしまう。

 

 物理攻撃ならば、獣化しバフを重ね掛けした男には余り効かない、残りは狩人で魔法攻撃力は低いはずだったのだが……

 

「くそっ!! ゲイ・ボウと同じかよっ!」

 

 かつてのギルドメンバーであるバードマンも使っていた弓は、物理的な矢では無く魔力を射ち出す。それは獣化で魔法防御が半減した男には天敵である。

 更に厄介な事に、狩人は男が見ていない内に男の分身をあっさり倒し距離を取っていた。

 分身自体は元が弱い事もあり、強めの魔法攻撃を食らえば一撃で殺られるのは当たり前なのだが、男は狩人の攻撃手段を物理攻撃と思い込んでいたので少しは分身体で時間稼ぎ出来ると思っていた。

 その思い込みが男を苦境に追いやる。

 

 男は距離を取る狩人と戦う手段が無かったのだ。厳密には手裏剣を投げたり、最悪主武器を投げるといった手段はあるが、手裏剣は威力が弱く牽制にしかならない。主武器である宵闇を投げるのは――買うのに使った金額が男の頭を過り――無理だと判断。

 そもそも一撃では倒せない攻撃に主武器を使い失う訳にはいかない、と言い訳じみた理由もあって男は頭を振る。

 

 後は屈服させた敵を呼び出し使役する忍者のスキル〈口寄せ〉もあるが、ソロでプレイをしていた男が呼び出せるのは最高でもLv70程度の雑魚であり、役には立たない。

 

 

 勝つには手詰まり状態の男は、残った手段を取る。それは当然……

 

「後はお前一人だ! 覚悟しろ!!」

 

 そう叫ぶと、敵プレイヤー目掛け手裏剣を投げた男は踵を返し全力で走り出す。

 そう、逃げるのである。

 

 飛んでくる手裏剣と男の台詞に身構えた狩人は、猛スピードで自身から離れていく男を見て、一瞬呆気にとられるが、飛んできた手裏剣を打ち払い。

 

「逃げんのかよ!?」

 

 そう叫びながら、先を走る獣目掛けて魔力の矢を射ち出し、追い始めた。

 

 

 

 男は走りながら回復剤を使いボヤく。

 

「はぁ〜……クッソ!……厄介だな……」

 

 走る男の後ろからは未だに魔力で出来た矢が飛んで来ている。

 それをたまに避け、たまに敵NPCを盾にし、たまに直撃したが、使い捨てに買っていた鎧を犠牲に変わり身をしたり、高価な回復剤を消費して生き延びていた。獣化された素早さで何とかなってはいるが、二回連続で当たりでもしたら御陀仏である。

 獣化を解けば魔法防御半減は無くなるのだが、同時に矢を何とか回避出来ている素早さも減少し、攻撃が当たる可能性が高まる上に追い付かれ逃げ切れなくなる。

 

 敵を倒すだけなら最後の手段として、回復剤をがぶ飲みしながら敵に近付きスキルの〈自爆〉を使う、といった方法も有るには有るが、本当に自爆なので確実に男自身も死んでしまう。

 敵がギルドかクランに所属しており、復活地点が男と違うなら良いのだが、調べた結果は無所属であり復活地点は男と同じになってしまうため、同時に復活すれば敵に仲間を呼ばれ、延々と狩られる可能性が高い。ここにきてそんな時間の無駄は絶対に避けたかった。

 

 

 手を出さなければといった後悔と、八方塞がりな状況にため息が漏れるのを止められない男は「何とか拠点まで逃げられないかなぁ」と願うが、間もなく掛けられたバフも切れる。そうなればLvダウンと死に戻りは避けられないだろう。運が悪ければ宵闇をドロップし失くすすかもしれない。

 

「はぁ〜……」

 

 それでも目的の拠点に早々に向かう為には仕方無いので、Lvや装備を引き換えに時間を得る為、わざと攻撃を貰い死に戻ろうと男が考え、再び大きなため息をついた時だった。

 

 目の前に黒い靄が涌き、その靄から白く、そして黒い姿が現れ男に――いや、男の後方に手を伸ばし魔法を発動させる。

 

「心臓掌握!」

 

 それを見た男は咄嗟に踵を返すと、朦朧状態になっているであろう狩人へ目掛け疾風の如く迫り飛び上がり、狩人の上で逆立ちするように手を掛け大量の爆弾アイテムを溢す。そして、素早くその上から飛び退く。

 

「封じ手・毒龍!……擬き」

 

 男が飛び退いた直後に爆弾アイテムが連鎖的に爆発を起こし、狩人に大ダメージを与える。

 すると、その男の動きを予測していたかの様なタイミングで、爆発により舞い上がった狩人に対し魔法が浴びせられた。

 

「魔法三重最強化・現断!」

 

 立て続けに攻撃を食らい地面に叩きつけられた狩人は、起き上がりながら突如現れた敵を確認するべく魔法が放たれた方を向くと――背後から抱きすくめられ、声を掛けられる。

 

「最後にラスボスと戦えて良かったな。モズ落とし!!」

 

 狩人を抱えたまま高く跳んだ男は、空中で身体を捻り頭を地面の方に向けると、錐揉み回転をしながら落下し狩人の頭を地面に打ち込み、狩人を屍にした。

 

 

 

 

 

 生存を諦めかけていた状況から一気に逆転し、緊張が解けた男は狩人を倒したその場に尻餅をつきながら、助けてくれた者に目を向ける。

 その懐かしい姿に込み上げてくるものがあるがグッと堪え、傍まで歩いてきたその姿を見上げた。

 座り込む男に見上げられた助っ人は、手を差しながらやや芝居がかった口調で言う。

 

「間に合いましたね。大丈夫でしたか」

 

 その台詞と姿に更に胸が熱くなった男は、差し出された皮と肉の無い手を取り、問う。

 

「ええ助かりました。ありがとうございます。どうして助けてくれたんですか?」

 

 男のその台詞に少し動きが止まる骸骨姿の助っ人だったが、軽く笑うとすぐに男が望む答えを返してきた。

 

「「誰かが困っていたら助けるのは当たり前」」

 

 ハモった台詞に二人同時に笑いだす。一笑いすると男と一緒に笑っていた骸骨が嬉しそうに言った。

 

「おかえりなさい、ピメントさん」

 

「ただいま戻りました、モモンガさん」




 少し自制するためにペースを少しだけ落とす、かもです(-ω-;)自信ないw

 体調が戻れば喉元過ぎて……になる自信はあります(`・ω・´)

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