モモンガさんとファーマー忍者(仮)   作:茶色い黒猫

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サブタイ付けられる方は凄いなぁ、と感心しきりです(´・ω・`)


第3話

 ユグドラシルを再開した男は順調にLvを上げて無事に忍者も取得していたが、調子に乗りやらかしていた。

 Lv60で忍者を取得した後は、必要なスキルだけを修めたら他の様々な戦闘職のLvを上げつつ、戦闘に特化した最上位種族にランクアップするつもりだったのだが……

 忍者を取得する前から軽快なファイターやシーカー等の動きに魅了されていた男は、忍者を取得し現実では事故前の身体でも不可能な縦横無尽に飛び回るプレイが楽しく、無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きを研鑽したりしながらLvを上げ忍者職LvMAXに到達してしまっていた。

 異形種は基本ステータスが高いが様々な制約があるので、ステータスを伸ばすより多様な職を経てスキルを充実させた方が、器用貧乏になる可能性もあるのだが、強くなれる種族なのだ。

 しかし、男の構成だと最上級種族にはなれず不器用貧乏まっしぐらである。

 

 

 男は一頻りへこんだ後に「皆に会う為だけに作ったアバターで、ギルド戦をしたりワールドエネミーと戦う訳じゃなし」と自分に言い訳をし、進化先の選択肢として表示されている中からワージャガーを選ぶ。

 ワーチーターやワーパンサーも選択肢には有ったが、とうに自然界では全滅した、選択肢に挙がった動物達をネットで調べていたら、ジャガーは猫科らしく木登りが得意で、また猫科では珍しく水を嫌がらず泳ぎも得意との記述を見つけ、潜入工作をする忍者らしいと男が感じたからだ。

 決してジャガーが雨の神だったり闇の世界の神との云われがある事が男の何かをくすぐったからでは無い、と男は誰に対してかは謎だが弁明していた。

 

 因みに、男の中で忍者のイメージは現地でスパイ活動もする情報分析官で、間違えてはないが上忍や下忍等の区別は無くごちゃ混ぜである。アサシンはユグドラシルの職業にもあるので、そちらと混同はしていない様ではあるが。

 

 多少問題も有ったが、それからも順調にLv上げに邁進し終了日まで30日を切った時点でLvは90に達していた。

 とは言え、ユグドラシルはLv90までは比較的簡単に上がるのでここからが本番となる。

 経験値もその辺の雑魚では稼ぎ難くなったため、やむなく他のプレイヤーと遭遇する率は今までよりも高いが、確実に経験値の稼げるフィールドで戦う事にする。

 PvPを挑まれて負ける事になったらLv5ダウンというペナルティがあるなか、効率が悪い所の話ではないが多少のリスクを冒さなければ最終日までにLv100に到達するのは無理だと判断した結果だ。いざとなれば、オークションで安く買い漁った様々な課金アイテムを駆使し逃げればいい。

 怪我の功名か、隠匿隠密スキルも当初の予定より高まっているので逃げ足には自信がある男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから瞬く間に日数は経ってユグドラシル最終日前日となり、男はこの三ヶ月で日課になったゲームを起動しようと端末を操作する。

 すると一通のメールが着ている事に気付き、何気なく開いたソレの差出人を確認した瞬間に、心臓が跳ねた。

 男は僅かに震える指でプラグを自身の首の後ろにあるジャックに挿し込み、端末と自身を接続しメール受信BOXを選択しメールを開く。

 そこには男が待ち望んでいた内容が書かれていた。

 

 

『お久しぶりです。唐突ですが明日はユグドラシルの最終日です。状況は聞き及んでおりお誘いするのも気が咎めましたが、最後ですし折角なのでまた皆でもう一度集まりお話しませんか』

 

 

 男を忘れる事なく。

 そしておそらくかつてのギルドメンバー全員へ対し、短いながらも気遣いのある文面で個々人へとメールを送ったと思われるギルドマスターに、男はじわりと心と視界に込み上げるものを感じながら、苦労性で和を重んじるギルドマスターへの返事を送る。

 

『お誘いのメールありがとうございます。こちらこそご無沙汰して申し訳ありません。明日は必ずお伺いします』

 

 と、男も短いながらも万感の想いを込めてメールを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドマスターからのメールを受けて数通のやり取りをした男は、意気揚々とユグドラシルにログインした。

 期限ギリギリで課金アイテムの取得経験値倍加等を使いLvは上限である100に達しておりLv上げ等の用は無かったが、明日でユグドラシルは終了するので少しでも触れておきたいという男の行動が思わぬ事態を生む。

 

「お前、異形種だろ」

 

 かつてのギルドメンバーと攻略したダンジョンやフィールドを巡り、過去に独占してワールドアイテムを使われ奪われた鉱山を遠目に見ながら感慨に耽り警戒が疎かになっていた男は、声を掛けられるのと同時に背に強烈な衝撃を受ける。

 

「あの鉱山の近くで、異形種が独りでうろつくとか馬鹿じゃねーの」

 

 先程と違う声が罵声を浴びせながら、男に攻撃魔法をぶつける。

 不意打ちと掛けられた声の内容に男は一瞬頭に血が上る。

 たが、男のアバターが異形種だからだけで攻撃してきた訳ではなく、魔法をぶつけてきた相手の台詞から、かつて所属していたギルドの悪行と言う名声にも原因にあると気付き少し誇らしい気分になった。

 少なからず落ち着きを取り戻した男は、無駄だとは分かりながら攻撃してきた者達に静かに話し掛ける。

 

「群れなきゃ異形種一匹狩れない人間種が吠えるなよ」

 

 喋りながら自分の台詞に驚く男。

 

 不意打ちと攻撃魔法を受けてあっという間に死に体になっており、明日が最終日なので取り戻す事は出来ない、死ぬ事によるLvダウンを避ける為に僅かな可能性に賭けて交渉という名の命乞いするつもりの男であったが、口から出たのはこれ以上ない挑発だった。

 

 当然のように激昂した敵プレイヤー達は攻撃を仕掛けてきて、呆気なく体力を0にしてギルドやクランに所属していないプレイヤー共通のリスポーン地点に戻った男の心は意外にも晴れやかだった。

 狩られた事は確かに悔しいが、たとえ今は所属しておらず相手プレイヤーに関係者とは分からずとも、かつて所属していたギルドの名を辱しめる様な真似をせずに済んだ事が男の心に得も言われぬ達成感、それと悪の名に人一倍拘りを持つ者の言葉が浮かんでいた。

 

「「人が俺達を悪と言うなら、悪は悪らしく堂々としていようじゃないか」ですよね」

 

 そう呟き、ログアウト作業をした男は意識を現実の世界に戻すと、電動車椅子を操作して静かにベッドに側付けた。

 そして身体をマットの上に投げ出し、枕に顔を押し付け、叫ぶ。

 

「くっそーーっ!!俺の馬鹿ッ!人間種のアホッ!アーーッ!!」

 

 やり場のない怒りを発散する為に『叫ぶ』という手段を取った男だが、深夜の近所迷惑になり悪い意味での壁ドンを恐れての、枕という自己サイレンサー付属で喚く姿は“悪”とも“堂々”とも、ほど遠いものであった。




ようやく某ホネンガさんの片鱗を出せた( ̄ω ̄;)

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