モモンガさんとファーマー忍者(仮)   作:茶色い黒猫

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 イブですね〜、本日も明日も仕事ですぞ〜(´゚ω。`)執筆時間が取れません
 本年最後の更新になると思います。


第14話

 

 ギルドの指輪を使い九階層に転移したモモンガ達は、ピメントの自室へ急ぐ。プライバシーを尊重してギルドメンバーの自室へは直接転移出来ない事が、この時ばかりは苛立たしかった。

 

(ピメントさんは何故倒れた? 異世界に来た影響か? だが俺は何んともない。アンデットには効かない効果か? だがNPC達は……プレイヤーだけ?)

 

 自分のせいとは微塵も思いつかないモモンガは思考を巡らせていた。

 そうする内に一行はピメントの自室前に到着して、アルベドが扉をノックする。

 

「緊急事態です。ペパロニさん、すぐに開けてください」

 

「――あ」

 

 この世界に唯一の友人が倒れた事と、倒れた原因の究明で頭が一杯だったモモンガだが、アルベドがペパロニの名前を呼んだ事で、その存在を思い出した。

 

(まずいぞ。ピメントさんが倒れた原因も分かっていないのに、そんな状況でペパロニにピメントさんと対面させたら……)

 

 玉座の間で、ペパロニがピメントを強く慕っているのは確認済みで、ピメントが原因不明の理由で意識を失い倒れたとなれば、どのような反応を示すか分かったものではない。

 

(マズイマズイマズイ! 何かそれっぽい理由を考えなきゃ!)

 

 今度はペパロニを心配させない為に、必死に考えを巡らすモモンガ。いい加減な理由ではアルベドやデミウルゴスにバレる可能性がある。

 後でピメントに話して辻褄合わせもしなくてはならない為に、適当な理由では……いや楽しんで乗りそうではあるが、真っ当な理由が好ましいだろう。しかしそう考えてみてもすぐに閃くものでもなく、まだ答えが出ない内に室内から返事が聞こえ、扉が開く。

 

「そのお声はアルベド様ですか? ピメント様はまだお戻りでは……モ、モモンガ様!? それに守護者の方々まで!?」

 

 対応したのは一般メイドであった。ピメントの着替えを手伝った後も部屋に残り、ピメントが着れる服を整理したり部屋を掃除する為に、ペパロニと共に居たのである。

 

 慌てて頭を下げようとする一般メイドの肩を押し止めたのは、骨の手、モモンガだった。

 

「今はアルベドも言った通り緊急事態だ。ペパロニは中に居るな? すまないが勝手に入らせてもらう」

 

 至高の御方のプライベートルームへ、清掃等の理由を除き勝手に入るのは許されない事だが、それをするのが至高の御方の頂点であるモモンガであった為に、一般メイドはどうしたら良いか分からず、オロオロとして道を開けるしかなかった。

 

 モモンガ一行が部屋に入ると、様々な衣装が広がるテーブルの横にペパロニが立っており、来訪者へ厳しい顔を向けながらも頭を下げる。

 

「モモンガ様、守護者の皆さま、ようこそいらっしゃいました。ですが、モモンガ様と言えどお姉様の私室に無断で――」

 

「ペパロニ、落ち着いて聞け。ピメントさんが倒れた。ベッドに寝かせ――」

 

「お姉様が!?」

 

 至高の頂点に立つ御方と言えども、マナー違反は許されないと来訪者を咎めようとしたペパロニだったが、その理由を聞き叫ぶ。

 見れば守護者に囲まれ持ち上げられた黒い布の上には、確かに姉が横たわっていた。

 

「お、お姉様!」

 

 一瞬で恐慌状態になったペパロニがピメントに駆け寄ろうとするが、その前にアルベドが立ち塞がりペパロニの肩を押さえる。

 

「邪魔を!」

 

「落ち着きなさい! ピメント様をベッドにお寝かせするのが先です。貴女にはピメント様のお召し替えをお願いするので用意してちょうだい」

 

 ペパロニを叱り、随分とある瞳の高低差を腰を落とすことで縮めて、宥めるように指示を出すアルベドの様は母親のような厳しさと優しさを感じさせ、モモンガはこんな時にも拘わらず見惚れてしまう。

 

(母親とはこんな感じだったか。俺の母親も……)

 

 モモンガ――鈴木悟の母親は、モモンガが子供の頃に過労で倒れ亡くなっており、長らく天涯孤独の身で、家族の温かみに憧れのような想いを抱いていた。

 そんなモモンガの視線に気が付いたアルベドが、母親の微笑みのまま顔を上げる。

 

「いかがなさいました? モモンガ様」

 

「い、いや。アルベドは良い母親になりそうだな、と」

 

 それを聞いた瞬間、屈んでいたアルベドが跳ねるように立ち上がり、腰から生える羽根がバサリと音を立てて広がる。

 その動きに驚いたモモンガが思わず一歩後退ると、それを追うようにアルベドが迫る。

 

「もちろんです! 子供服は私が手ずから縫い上げますし、モモンガ様と私の子には乳母など使わずに私自ら――」

 

「誰とモモンガ様の子供ですって? この大口ゴリラ」

 

「あら、子供が産めないアンデッドが何か言ったかしら?」

 

 “モモンガを愛している”と設定されたアルベドが、愛を注ぐモモンガに「母親」と言われ暴走しかけたところに噛み付いたのは、吸血鬼であるシャルティアだった。

 

「アンデッドが子供を作れないなら、モモンガ様だって作れないでありんしょう?」

 

「真実の愛があれば、そんな事は些細な問題よ。それにモモンガ様程の方が女を孕ませられないとでも?」

 

(うぐっ!?)

 

 噛み付かれたアルベドも負けじと言い返すが、シャルティアに向けた言葉の刃が返す刀でピュアなモモンガにダメージを与える。

 

「真実の愛は置いておいて、それもそうでありんすね。モモンガ様なら女性経験の十や二十ぐらいは当たり前でありんしょうし」

 

(がはっ!?)

 

 心に深い傷を負わされた至高の骸骨に、シャルティアから更なる追撃が加えられる。

 これ以上、言い争いを放って置くと致命傷になると、モモンガが二人を止めようとした所で助け船が出された。

 

「アルベド、シャルティア、ピメント様ノオ部屋デ争ウノハ不敬デアロウ。イイ加減ニシロ」

 

「そうですよ、お二人とも。モモンガ様のお世継ぎの話は改めて行えばよいでしょう。丁度ペストーニャも来たようですし、ピメント様のお召し替えもあります。我々は退室した方がよろしいかと」

 

 アルベドとシャルティアの言い争いの合間に、ピメントをベッドに移し終えたコキュートスが二人を叱責し、デミウルゴスが退室を促す。

 モモンガは言葉の暴力に曝され気付かなかったが、デミウルゴスの言う通り一般メイドが開けた扉から、女性の体に犬の頭を乗せたかのようなメイドが入室するところであった。

 

「ペストーニャ・S・ワンコ。お呼びに預かり、ただ今参りました…………わん」

 

 取って付けた語尾が特徴的な喋り方をする犬頭のメイドはペストーニャ・S・ワンコ。

 ナザリックでは希少なカルマ値がプラスな上に高位神官であり、その姿も合わせて「ナザリックの癒しNo.1」と言われたメイド長だ。

 そんなペストーニャに癒されたのかは謎だが、立ち直ったモモンガが守護者達に告げる。

 

「来たか。では守護者達よ、ピメントさんの体調が気になるであろうから、ペストーニャの診断を聞いたら部屋を出るぞ」

(ペパロニはアルベドのおかげで落ち着いたが、今後の為にも症状から原因を探らなきゃな)

 

 モモンガの言に守護者達が頭を下げて了承の意を示し、ペストーニャがピメントが横たわるベッドの脇へ移動すると魔法を使い診断する。

 その様子をペパロニはピメントの手を握りしめながら見つめ、モモンガやNPC達も不安な表情で見守る。

 

「……特に異常は見られません。強いて言えば疲労かと。少し休めば回復されると思われます……わん」

 

「お姉様……良かった」

 

 その診察結果を聞いた者達は、ほっと胸を撫で下ろし、ペパロニの頬には涙が一筋流れた。

 モモンガも安心したが、ピメントは肉体疲労無効の指輪を装備していたはずであり、そうなると精神的疲労を受けた事になる。

 闘技場で〈伝言〉を使い会話していた時には異常は無かったので、〈伝言〉を止めた後に何かが有ったとしたら? と、無自覚な真犯人は推測した。

 

「ふむ……なるほど」

(忠誠の儀を見ててプレッシャーになったのかな。ピメントさんは帰る予定だから申し訳なさとかが重なったとか? 俺も緊張しまくったしなぁ)

 

「……流石はモモンガ様。既にピメント様が倒れられた疲労の原因がお分かりになられたのですね」

 

 ピメントが倒れた疲労の原因を考えながら、深い意味もなく呟いた一言にデミウルゴスが反応する。

 そして、デミウルゴスの発言に他のNPC達も、至高の頂点に立つ者へ尊敬の眼差しを注ぐ。

 

「モモンガ様! 是非、私達にもお姉様が倒れられた原因を教えてください!」

 

 これに動揺するモモンガ。まさか「忠義を誓うNPC達のせいだ」とは言えず、空っぽの髑髏の中で必死に理由を考える。

 何か良い理由が無いかと横たわるピメントを横目で見たモモンガは――その横たわる姿を見て天啓の如くひらめいた。

 

「う、うむ。後ほど話そうと思ったが、ペパロニも聞きたいだろうから、今話すとしよう。ピメントさんが倒れた原因は……その姿だ」

 

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 え、もう分かったの?

 デミウルゴスの言葉に、モモンガは思わずそう問い返しそうになるが押さえ込む。

 

「流石は我が愛しのモモンガ様。 ペストーニャの診断だけで……いえ、きっとピメント様が倒れられた時には推測出来ていたのね」

 アルベド、おまえもか。

 恍惚とした顔でモモンガを讃えるアルベドに、無いはずの胃がキリキリと痛みだす骸骨。

 

「デミウルゴスもアルベドも、もう分かったの? あたしはさっぱりなんだけど」

 

「ぼ、ぼくもさっぱり……」

 

「サッパリダナ」

 

「さっぱりでありんすね」

 

 まだ分からないと言う守護者は、頭の上にハテナマークが浮かびそうな表情でモモンガに視線を集中させた。

 ここでデミウルゴスの答えと違っていた場合、自分の評価が落ちて幻滅されてしまうと思ったモモンガは丸投げする事にする。

 知恵者と設定されたデミウルゴスならば、小卒の自分より良い理由に思い当たった可能性が高いし、自分も納得が出来たなら追認すれば良いのだ。

 

「……ふむ、では答え合わせといこうか。デミウルゴスよ、皆にお前の考えを聞かせてやれ」

 

「畏まりました。それでは――皆も久々にピメント様のお姿を拝見した時には驚いたのではないですか?」

 

 デミウルゴスの言葉にアルベドを除くNPCが頷く。

 

「以前とまったく違うお姿をされているピメント様。こうして気を失われているので、幻術でも変身でもなく、このお姿が今の本来のお姿なのでしょう」

 

「それは分かってるから、それとピメント様が倒れられた関係が聞きたいんだけど?」

 回りくどい説明をするデミウルゴスに対し、焦れてきたアウラが急かす。

 

「つまり、何らかの原因でナザリックを離れたピメント様は、離れている間に何らかの事情でそのお身体を作り替える、又は……可能かは不明ですが、魂――と言っておきましょうか、魂を別の身体に入れ替える必要があったのでしょう」

 

 ここまで説明したデミウルゴスは他の守護者を見渡すが、守護者達の表情はまだ晴れていなかった。

 

「まったく、貴方達は少しは自分で考えるという事をしたらどうなの? そんな事でモモンガ様やピメント様の御命令を無事に遂行出来るのかしら」

 

 アルベドの挑発じみた発言に、まだ理解出来ていない守護者達の表情が僅かに歪む。

 一方モモンガは、己が思い付いた理解がデミウルゴスとずれていなさそうな気配に少し得意気になっていた。

 

「まぁまぁ、アルベド。人には向き不向きがありますから。――皆はピメント様が倒れられた時に仰った一言をお聞きになったでしょう?」

 

「確か……『慣れなきゃなぁ』と、仰っておられたかと」

 

 ペストーニャと共に入室したが、発言を控えていたセバスが言う。

 

(セバス居たんだ。てかピメントさん、そんな事言ってたか?)

 

 何気に酷い事を思いながら、ピメントが倒れた時の事を思い出すモモンガであるが、動揺していた為に聞き逃したのかもしれない、と思い、守護者達を見ると皆が頷いていた。

 

「そう言えば……」

 

「ぼ、ぼくも聞きました」

 

「そうでありんすね」

 

 双子の闇妖精とシャルティアが肯定し、コキュートスは深く頷いている。守護者達の能力の高さは数値として知っていたモモンガだが、実際の能力に舌を巻く。

 

「そのお言葉から察するに、ピメント様はまだ新しいお身体に慣れておらずなんらかの不調が出た。そう考えるのが妥当だと思わないかね?」

 

「「おー」」

 

 ようやく答えを聞けたNPC達から納得の声が上がる。モモンガも己の考えた答えと一致していた為に胸を撫で下ろすが、マーレの疑問に二度目の精神的窮地に立たされる。

 

「そ、そういえば、ピメント様はどうして、その、お姿を消しておられたのかな?」

 

「それはどちらの意味でかな? マーレ」

 

「え、えっと、あの、り、両方って言えばいいのかな。ナザリックからお離れになった理由と、闘技場で不可知をお使いになられていたのはどうしてかな、って、そ、そう思ったんです」

 

 不味い。

 モモンガはピメントが倒れ階層守護者が集まる部屋の状況を危ぶむ。

 ユグドラシルを引退していた事は、NPC達がリアル世界を理解出来るか不明な事は置いておき、話すかはピメント次第ではある為に今は問題ない。

 しかし、闘技場で姿を隠していたのは守護者へのサプライズも確かにあるが、殆どの理由は守護者達の忠誠心を疑っていた為の警戒だ。

 それがバレた時にNPC達の忠誠が離れ敵対した場合、今の状況はモモンガ達にあまりにも不利だ。

 

「ふむ、マーレの疑問はもっともだね。ナザリックをお離れになっていた事はお尋ねしない事には分からないが――闘技場での事は私の推察で良ければ聞くかね?」

 

「なんでありんすか? モモンガ様がサプライズと仰ってたでありんしょう?」

 

「くふふ…… 至高の御方々がそれだけの理由で行動されていたと本当に思っているの?」

 

 アルベドがシャルティアを小馬鹿にしながら会話に加わる。シャルティアは顔をしかめるが先程注意された手前、突っかかる事はなかった。

 

「アルベドの言う通りだね。ピメント様が不可知を使っていた理由、それは我々を試されていたのだよ」

 

 デミウルゴスの発言に、モモンガはギルド武器を握る手に力が入る。まだ守護者達が険悪な空気になっていないので実際に動く事はしないが、警戒心は否が応でも高まる。

 

「ソレハ、我々ノ忠義ヲオ疑イニナッテイタ、トイウコトカ?」

 

「それは違うとも、コキュートス。我々の忠義をお疑いになっていたのではなく、我々の判断力、能力をお疑いになっていたのだよ」

 

「それって……どういうこと?」

 

 アウラが難しい顔をしてデミウルゴスに尋ねる。闘技場でモモンガに褒めてもらったばかりで、能力を疑われているとは思ってもいなかったからだ。

 

「アウラは、いやアウラに限らずナザリックに属する者がピメント様が戻られた知ったらどう思うかね?」

 

「そりゃあ、嬉しいし大喜びするに決まってんじゃん」

 

「その通りだね。だが、そんな状態でナザリックが原因不明な異常事態になっている、と知らされて我々が十全な判断が出来るか不安に思われたのだよ」

 

「デミウルゴスの言う通りね。本来ならモモンガ様に言われる前に守護者である私達が気付くべき事だったのに、モモンガ様に言われるまで異常に気付かなかったのは失態だわ」

 

 アルベドが忸怩たる思いを全身に滲ませ、険しい顔で身を固くする。

 

「私やセバスは異常が起こる前からお会いしていたけど、至高の御方々が異常に気付かれていたと思われるタイミングで私もセバスも気が付かなかったの」

 

「故に、アルベドにはピメント様の事を口止めをされた上で我々に集まる様に御命令なされたのでしょう。我々の純粋な判断力を見定める為にね」

 

「え、えっと、それじゃあ……い、異常に気付かなかった、ぼ、ぼくたちは、その、ふ、不合格ってことですか?」

 

 捨てられた子犬の様な表情でマーレが言う。その手は姉のアウラの手と繋がっており闇妖精の双子は不安からか、その繋がり合う手には力が込められていた。

 

「それは――」

 

「それは違うぞ、マーレ」

 

 デミウルゴスの言葉を遮ってマーレに優しげな声をかけたのはモモンガだった。

 

「確かに判断力を見極める為にピメントさんの事を隠していたが、それは異常を知った後の反応だ。異常発生の瞬間自体はプレイヤー……にしか分からないことであろうからな」

(よかったー! 守護者達の忠誠心に救われたー! 疑うのはもう止そう)

 

 守護者達の会話を聞いていて、NPCに裏切られるという可能性が皆無と思われた事がモモンガに安心をもたらし、声音にも表れる。

 

「お前達は私の満足のいく判断力と対応力、そして忠誠心を示してくれた。流石はギルドメンバーの創った者達だと感心したくらいだぞ」

 

「「「モモンガ様……」」」

 

 ナザリックを常に導き、一人になろうとも離れなかった至高の御方に労われた守護者達は、言葉に詰まる程の感動を身に受け涙を流す。泣けない者も身を震わせ感動を表していた。

 

「そうだぞー。なんか知らんがお前達はナザリックの宝だ」

 

「ピメントさんの言う通り……だ?」

 

 不意に聞こえてきた友人の声に賛同したモモンガだったが、その声の主に気付いて驚いた。

 

「ピメントさん!?」「お姉様!」「ピメント様!」

 

 部屋の主以外の面々が驚きの声を上げ視線を慌てて動かすと、気を失っていたはずのピメントはベッドの上で気だるそうに上半身を起こし、上着を脱いでいた。

 

「身体中べとべとで気持ち悪い。風呂入りたい――みんなどうした?」

 

「お姉様、お身体のお加減はもう大丈夫なのですか? どこかに違和感などはありませんか?」

 

「ん? 違和感と言えばあちこち違和感だらけだが、問題はないぞ」

 

「ですが、デミウルゴス様が――」

 

「ペ、ペパロニよ、少しピメントさんと二人で話がしたい。席を外してくれるか? 他の者達もピメントさんの事は気にはなるだろうが、今は非常時だ。己の為すべき事を成せ」

 

「「「畏まりました」」」

 

 ピメントが意識を取り戻し安堵したNPC達は、嬉々としながらも表情を崩さずモモンガの命令に従う。

 ペパロニのみが躊躇う様子を見せたが、アルベドに促され部屋を出ていった。後に残った一般メイドも、極秘の会話だとモモンガ言われ、部屋を出された。

 

「ふぅ……疲れた……」

 

「なんかお疲れですね、モモンガさん。一緒に風呂に入ります?」

 

「……入りません。ですが本当に疲れました。ピメントさんが急に倒れるから」

 

 結果的には杞憂だったが、NPC達と精神的に一人相撲をしていたモモンガは疲労困憊であった。アンデッドでも精神疲労は免れないのだな、と思いながら椅子をベッドの横に移動させ腰掛ける。

 

「それでピメントさん。色々と説明しなきゃならない事があるんですが、まずは何があったんですか?」

 

「何がって、テンパったモモンガさんが絶望のオーラを発動させて、それにやられました」

 

「え?」

 

 ピメントは闘技場でのあれやこれやをモモンガに説明する。説明が進んでいく内に、ローブで隠れた骸骨の姿勢は折れたり伸ばされたりし、最後は髑髏が項垂れた。

 

「申し訳ありませんでした」

 

「いえ、俺も伝えなかったですし、精神耐性の指輪を装備してなかったのもありますから」

 

 ピメントは脱いだコートのポケットから指輪を取り出し手の上で遊ばせる。

 

「そういえば、どうしてすぐに装備しなかったんですか?」

 

「男同士、プレゼントされた指輪を目の前で填めるのどう思います?」

 

「……それで、倒れた言い訳についてなんですが――」

 

 二人しか居ない部屋での会話だが、何かに配慮したのかモモンガが言及を避け話を逸らした。

 モモンガがNPC達に話した訳ではないが、NPC達の中では真実となってしまったピメントが倒れた原因と不可知を使っていた理由、それをピメントに説明する。

 

 

「――と、まぁこんな感じです。齟齬があったらマズイので話を合わせてもらえますか?」

 

「まぁ、もう倒れる事もないでしょうから問題は無いです。でも、これからナザリックで活動するならギルドを離れていた理由を話さないとですかね」

 

「それは……」

 

 確かにその事をNPCは気にしていたが、忠誠心の高さから話さなくても問題は無さそうでもあった。しかし、話した方が余計な心配が取り除けるのも事実であった。

 

「それに、一番大事な事も話さなくてはならないですしね」

 

「……分かりました。防衛体制の構築が一段落したらNPCを集めましょう」

 

「よろしくです。んじゃまぁ、ひとっ風呂浴びて来ますわ。折角なんでスパリゾートに行くかな」

 

 ベッドの上で伸びをするするピメントの節々からパキパキと軽い音がする。

 

「分かりました。では、お風呂から上がったら私の自室に来てくれますか?」

 

「……台詞だけならイケホネですね。次はアルベドに言ってあげてください」

 

「そんな意味じゃないです。……けど、アルベドの事はどうしましょう」

 

 普段ならもう少し強めのツッコミを入れるところだが、アルベドの名前を出されたモモンガは今にも頭を抱えそうな声しか出なかった。

 

「ギルドメンバー公認なんだから、後はモモンガさんの気持ち次第ですよ。じっくり考えてください。んじゃ、行ってきます」

 

 浴場に向かうためにベッドから降り部屋を後にするピメントの後ろでは、微動だにせず“考える骨”の像と化したモモンガが出来上がっていた。




 本年は皆様方に後愛読頂きありがとうございました。
 初執筆で拙い物ですが、来年も頑張りますので引き続き見放さずに頂けたら嬉しいです。

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