モモンガさんとファーマー忍者(仮)   作:茶色い黒猫

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第一章
第1話


 男は一人、沼地を走っていた。

ゲームなので表情に変化はないが、必死さが滲み出ている様にも見えた。

 

「はぁ~……クッソ!……厄介だな……」

 

 

 

 

 

 男がプレイしているのはDMMOーRPGユグドラシル。数多開発されたDMMOーRPGの中で燦然と煌くタイトルのひとつ。

いや“煌いていた”と言った方が正しいだろう。

 

 12年前に発売されたゲームで、他のDMMO-RPGの追随を許さなかった圧倒的な自由度。

プレーヤーの姿や職業、装備にプレイスタイル、広すぎる上に数も多いフィールドと、そのあまりの自由度の高さに何をしたらいいのか逆に分からなくなり茫然とするプレイヤーも大勢いた。当初は男もその大勢の中の一人だった。

 

 だが、そんな一大タイトルも12年の歳月には抗えず時代遅れとなり、他のタイトル達に圧される形で遂に数ヶ月前にサービス終了が運営から告知される運びとなる。

 

 

 

 

 

 

 既にゲームを引退しアカウントも消していた男だったが、偶然にも告知が出た初日にユグドラシルの終了を知った男は在りし日々を思い出し強く想った。

 

『またギルドメンバーの皆に会いたい』

 

 知る限りでは自分が最後にギルドに加入し、やむを得ない理由があったとはいえ加入から四年目を迎える前に辞めてしまった。

 そしてなんとか復帰出来る状況になり、ギルドマスターやメンバーからの復帰の誘いがあったにもかかわらず適当な理由を述べてそのうちそのうちと曖昧な返事をし、やがて稀にくる一人からの生存確認の様なメールを除けば連絡も無くなり今に至る。

 

 もしかしたら忘れられてるかも知れない。忘れられてなくても歓迎されないかも知れない。

 そんな思いも浮かんではきたが男はすぐに、新規受付が停止される前に、新規アカウント登録に取りかかる。

 アカウントを消して一年以内なら以前のアカウントで復帰出来たのだが、そんな期限はとっくに過ぎている。だが男はそれに対し、ほっとしている自分がいる事に気付いていた。

 

 以前のアカウントで復帰した場合、所属していたギルドのメンバーやフレンド登録していたゲーム仲間(勿論ギルメンの殆どが登録されている)に知られるからだ。

 

 皆に会いたい、との思いで復帰しながら実際にはすぐに会う度胸が無かった男は登録手続きをしながら思う。

『あのギルマスなら辞めてないだろうし、もしかしたら向こうから連絡があるかも。そしたら会いに行こう。もし連絡が無かったら……最終日ギリギリになるだろうけどLv100になったら此方から連絡して行こう。時間はたっぷりあるしな。』

と、受動的で後ろ向きな決意をする。

 

 自由度が高過ぎるゲームに茫然としたり、受動的な考えで行動指針を決めたりと……男は、典型的ダメ日本人だった。

 

 

 

 登録も無事完了し、新しいアバターを作る段になって男の手は止まっていた。

 種族に関しては以前が異形種で、所属していたギルドも異形種のみが加入出来る(NPCはその限りではないが)ギルドだったので当然異形種なのは決定済なのだが問題は異形種の中でもどの種族にするかだ。

 

 以前はとあるギルメンの天敵になりそうな見た目の「このロ○コンどもめ!」と怒鳴りそうな(実際にネタでやった)種族だったがアレはバフデバフ特化であって、初心者の頃に流れのままLv上げをし色々と中途半端だったのを、ギルド加入後に助言を貰いながら修整して作り直したモノで、そして他のメンバーが居てこその種族だった。単独プレイは想定されていない。

 

 しかし今回は一人で敵を倒し、かつ最終日までという期日内に(自分縛りにより)Lvを100まで上げなくてはならず、戦闘継続力も必須になる。

 更に異形種は他のプレイヤーに狙われやすいという状況も鑑みて、隠蔽性か隠密性が必要になってくると考えると……種族や職業が数多あるとはいえ、選べる範囲はかなり狭まってくる。

 

 

 

 限られた時間の中で、無限に近い選択肢が事前に絞られるのは有り難いとも言えるが、ダメな日本人の典型な男はなかなか決められずにいた。

 必要なスキルなどを考えると忍者だが、忍者が取得出来るのはLv60な上に一人で戦闘を行い更に継続力も、と考えるとMPやスキルに頼る忍者は厳しい。傭兵NPCを雇ってもいいが搭載AIが単純で巧く扱える自信もない。リアルスキルが有ればギルメンに居たハーフ・ゴーレム忍者のように敵に発見されないまま接敵し、そのまま首をかっ斬り一撃の元に敵を葬る。といったギルドの軍師も驚く変態……もとい超人プレイも可能だろうが、そんなリアルスキルを持っているのは男の知る限りではあの忍者だけだ。

 

 ならば忍者は戦闘時や人間種の街に入る時に使われる高位階の魔法やスキルへの対処を考えず、平常時に種族を欺ける程度のLvにし、後は戦士や侍や格闘家等のMPやスキルを使わなくてもある程度戦える種族職業を取るべきだ。との結論を出す。

 

 どうせ昔の様に連係やサポート能力を考慮する必要はないのだし、Wikiでも見ながら目的のプレイスタイルに最適な種族職業を選ぼう。そう思い男はWikiを見ていたのだが……

 

 

『猫耳かぁ……』

 

 

 男は悩んでいた。

Wikiで色々と調べた結果、隠密性と近接系に必要な筋力値を維持し、なんとなくかつてのギルメンと被らない様に、後はとある目的の為にと消去法で選んだ結果がワーキャット。

 

 普段は猫耳に猫尻尾が付いただけのパッと見は亜人種で、忍者を取得するまでの誤魔化し程度だが、ステータスが確認出来るまで近付かれなければ異種族という事がバレずに済む。ただステータスは他の異形種の近接系特化型と比べると一割程低くなってしまう。

だが固有スキル〈獣化〉を使うと獣寄りの体型(筋肉盛り盛り)になり近接戦闘に必要な物理攻撃と素早さとHPの最大値がクラスLvに因るが1.3~1.5倍になる。

 ただし多くの種族が獲得出来るパッシブスキルの体力回復が止まり回復魔法も使えなくなる。

 更に魔法攻撃と魔法防御が半減し、総合耐性も下がる博打的な種族だ。

 ついでに〈獣化〉を解除した時に上がった最大HPから元のHP差し引いたHP以下、例えばHP100からHP最大値が130に上がり、解除時に100以上のダメージを受けていてHPが30以下しか残っていなかった場合には解除と同時に即死亡、といった罠もあったりする。

 獣状態だと回復魔法が使えない上に単独プレイ。

 ポーション等の回復アイテムは必須で、金欠になりやすい初心者には敬遠され、上級者も未知の敵や突発的な戦闘、PVPを考えるとメリットよりデメリットが大きく、通常時の見た目という浪漫的なメリットも亜人種の猫人を選べば異形種というデメリットを受けずに済むので、選択される事が少ない不人気職だ。

 

 しかし今の男は未知の冒険が目的ではないし、PVPは寧ろ避けたい。

 プレイしていた頃より豊富なWiki等の情報を駆使し相性の悪い敵が出るフィールドを避け、プレイヤーに見つからずにこっそり移動し、経験値は稼げるがレアアイテムをドロップせず資金も稼げないような、Lv100がデフォな上級者に見向きもされないフィールドでLv上げをすればデメリットは抑えられる。

 消費回復アイテムについても……ゲームに使うのは少し気が引けるが、一般庶民からすると莫大とも言える金がリアルでまとまって手に入ったという背景があったりする。

 選ぶ事に躊躇する理由は無いはずなのだが、男は悩んでいた。

 

 

 

『男の猫耳は俺の中で許されるのか……?』

 

 

 知らんがな。

 

 果てしない脳内会議を繰り広げる男の内で薄く響いた声は、確かに男の声でありながらどこまでも他人事に呟き、消えた。




gkbrしながらの初投稿(((;゚Д゜)))きばりんしょれ自分!

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