君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
怪獣がいて、宇宙人がいて、ウルトラマンがいる。
そんな当たり前の世界の中に、当たり前ではない異質な存在が2つも迷い込んだ一方、その両者とも知らない場所で、この事態と関連する別の出来事が動き出していた。
「うーん……やっぱり気になるっす……」
地球防衛の要、『Xio』の日本支部にある、様々な最新科学を研究・開発するラボの中で、1人の男がパソコンの画面に映るグラフのようなものを見ながら悩んでいた。彼の名は「三日月マモル」、地球防衛、共存共栄の最先端を行くラボチームの優秀な研究員の一員である。
「マモル、まだこの現象は継続している?」
「そうっすよ大地、本っ当に僅かなんすが、時空の歪みが……うーん……」
彼のパソコンにあったのは、赤いグラフが覆い尽くす都心の様子だった。一見するとどの場所もまったく同じ高さの赤いグラフが立ち並ぶように見えるのだが、よく見れば5箇所だけ、ほんの僅かだが飛び出た場所があると言うのだ。この奇妙な結果が示すのは、この地球を流れる時間の流れとは少し異なる流れ、つまり『別の宇宙』から来た何かがこの世界に紛れ込んでいる、と言う事である。
だが、いくら気にしていても始まらない、これまで通りじっくり状況を見守るのが一番ではないか、と彼のそばにやってきた若きラボチームのメンバー、大空大地は告げた。現にXioの内部でも、今の所異常は見当たらず、凶悪な存在が紛れ込んでいる形跡もないと言う事で、このように日夜観測しておくことで決まっているのだ。
「まあ……そうっすよね、今後も眺めるしかないか」
「それがいいよ……そう言えば、前に玉城博士が発表した論文、マモルも見た?」
「あぁあれ、勿論見たっす」
玉城ツカサ博士。以前Xioの面々と共に、これまで経験した事がなかった大変な事態に立ち向かってくれた、少し天然気味だが知識豊富で活動的な女性考古学者である。あの時、『結びの光』と呼ばれる子文書に残されていた伝説の力を読み解くきっかけを作り、とんでもない奇跡を呼ぶ事となったのは彼女のお陰なのだ。
あの戦い以降、彼女はこの『結び』と言う言葉に纏わる様々な言い伝えや伝説の調査を始めた。あの戦いの中で、Xio、そしてウルトラマンたちが勝利をつかむきっかけになった、空と大地を繋ぐ大いなる力を示したであろう、ごく一般的な言葉である。
そして、これについてつい先日、これまで先人たちが研究していた古文書の中に重要な内容がある事が明らかになった、という。それまでどの有名な文書にも記されておらず、ごく一部の地域にのみ伝わっていたと言う、不思議な経緯を持つものだ。
「あの遺跡以外にも、日本のあちこちに『ムスビ』って言う言葉が残されてた事が分かってきたんだよね」
「その中で、時間や人との絆など重要な要素を併せ持つのが……」
そう呟いた瞬間、大地とマモルの間に少しの沈黙が流れた。その要素を持つ場所は、今もまだ復興すら出来ない危険な状態が続いている地域と化しているのだから。あの時――ウルトラマンエックスと言う強い絆で結ばれた頼もしい相棒が来る前、Xioが苦い勝利を収めてしまった場所である。
あの時はそれしか選択肢しか無かったから仕方ない、とは言いたくなかったが、どうしようもなかったのだ。
「……でも、町は少しづつ戻ってるし、思い出す気持ちも分かるけど塞ぎ込みすぎちゃダメっす」
「ごめん、マモル……でも、あの被害は俺の油断が招いた事態……絶対忘れちゃいけない事だから……」
平和を守るために犠牲はつきものだ、何より君たちは掛け替えのない命を守ったじゃないか――あの時、あの町の偉い人々や長官が自分たちに送った慰めの言葉を、大地は今も心の中で否定し、そしてあの時の自分自身を責め続けていた。
確かに住民の命は全て守りきったが、それと引き替えにXioは、大空大地は、思い出を守り通す事が出来なかったのだから。人間にとって、ともすれば命よりも大事かもしれない、『替える』事が出来ないであろうものを……。