君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜   作:ドンフライ

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33.セーブ・ザ・スマイル

 自分の姉の中に未だに宇宙人が宿っている――そんな四葉の言葉を軸に話を盛り上げるはずであったテッシー、サヤちんら4人の会話の焦点は、突然テレビで放送が始まった緊急中継へと移った。以前から噂になっていた『穴』から聞こえていた声と同じような人々を苛つかせるようなけたたましい笑い声を上げながら、巨大な怪獣が大暴れを始めたのである。

 すぐさま怪獣の迎撃へと向かったXioの様子が映されるのと同時に、この怪獣が姿を現したちょうど同じ場所にあの『穴』があったとニュースキャスターが語るのを聞き、テッシーは冷や汗を流していた。つい先程まで彼はこの場所にオカルトの予感を感じ、恋人を連れて向かうという無謀な計画を立てようとしていたからである。

 

「よ、良かったわ……四葉ちゃんの報告受け取らんかったら今頃……」

「すまん、俺とした事がこんな事態に巻き込む寸前になるとは……」

 

 気にせんで大丈夫、結果としてこうやって安全な地域で待機する事ができたのだから、とサヤちんは土手座までして謝る恋人を励ました。あの煩い笑い声はテレビだけではなくこのマンションの外からも聞こえてくるが、幸いXioの地上と空中からの猛攻撃により侵攻は抑えられている状況になっていたのである。気づけば皆、その画面に目が釘付けとなっていた。

 

「それにしても酷い体の怪獣やな……」

「ダイエットせえ、ダイエット……」

 

 テッシーやサヤちんがそんな能天気な感想を呟いてしまうのも仕方ないだろう。画面に映るXioの猛攻撃にもずっと笑いながら抵抗している二足歩行の怪獣の姿は、デベソが目立つ大きく突き出た腹にアヒルのような口、そして恐らく『穴』の正体であろう巨大な鼻と、笑い声に勝るとも劣らない醜さを露わにしているのだから。そして、画面には臨時ニュースとして、Xio側からこの怪獣は『ライブキング』と言う種類の可能性が極めて高い、と言う結果が示された。

 

「ライブキング……なんつー名前や……」

「あんな生命の王は嫌すぎるわ……」

 

 そして、一際大きくなった笑い声がいい加減耳障りになりかけた、まさにその時だった。突然ライブキングの声が途中で止まり、画面の中で驚きの表情を見せたのである。何故ならば――。

 

「ウルトラマンエックスや……!」

「エックス……!」

 

 ――瀧と三葉だけがこの面々の中で正体を知っている光の巨人、ウルトラマンエックスが嘲り笑いを止めるかの如く現れたからである。

 

 怪獣の体力を消耗させ被害を抑えるべく動き出したエックスであったが、ライブキングはその名前が示す通りのしぶどさを見せつけ始めた。様々な強敵を跳ね除けてきたはずのエックスのチョップや蹴りをあの怪獣はものともせず、傷を受けてもすぐさまそれを塞いでしまうと言う再生能力を見せつけたのである。おまけにどう見てもメタボ体型にもかかわらず、外敵から身を守るための本能故か、ウルトラ戦士相手に予想以上の素早さを見せつけてきたのである。

 

「だ、大丈夫かよ……いや大丈夫かなエックス……」

 

 その苦戦ぶりについ元の口調が出かけてしまった瀧であったが、その直後にエックスの体に起きた変化を見たテッシーは、これならもう心配はいらない、と明るい表情を見せた。こんな怪獣被害の中で何を言っているのか、とつい疑問に思ってしまった彼であったが、その瞳に映されたのは、先程とは打って変わって、ライブキングに対して優勢に立ち始めるウルトラ戦士の姿であった。一体どうなっているのか、と言う疑問は、先にサヤちんたちから出た。

 

「確かこれ……なんて服やったっけ……」

「服やなくて鎧。『ゴモラアーマー』っつー、ジョンスン島の怪獣の力を使っているサイバーの鎧やな」

「流石テッシーさん……情報に抜かりがないですね……」

 

 オカルト趣味を続ける上でそういった情報収集は当然の義務だ、と嬉しそうに語るテッシーの一方、三葉の体を使っている瀧の意識は、初めて見る形のウルトラ戦士の戦いに夢中になっていた。

 

 あのライブキングのように、ほとんどの怪獣は人間たちに害をなしてしまう事が多い。この世界でも、街並みや人々の生活がその巨体によって押し潰されてしまう例が何度もある。この場にいる立花瀧以外全員の故郷もまた、怪獣によって奪われてしまったと聞いた。にも関わらず、エックスはそんな脅威の力をそのまま自分たちの技に変え、さらなる敵に立ち向かっているのである。怪獣と共に戦うウルトラマンと言うのは、瀧にとって非常に新鮮であった。

 

「お姉ちゃーん、テレビ近づきすぎよー」

「あ、ごめん四葉……」

「おお!とどめ技の構え!『ゴモラ振動波』や!」

 

 彼らは知らなかったが、今回Xioやエックスが『ゴモラアーマー』を使用すると言う判断に出たのは、より多くの危害を加える相手に対してライブキングが本能的に最も敵意を示す傾向が見られたからであった。敢えてエックス1人に相手を絞り、さらに格闘戦に適したこのアーマーを身につける事で、最小限の被害に抑えると考えたのである。

 そしてその策は見事に正解し、長い爪で動きを何度も妨害され、口から放った火炎放射も退けられたライブキングは、見るからに疲労困憊していた。笑い声のような鳴き声も心なしか音量が小さくなり、やがて生命の王はその力が限界になったからのように目を回すような仕草を取った。そして、それを見計らうかのように、画面に映ったエックスはテッシーが言う『とどめ技』を放ったのである。

 

 まるで空気そのものが振動を起こしているかのような強烈な波動が長い爪から走り、ライブキングの体を直撃した直後、その巨体はまるで圧縮されるように縮んでいき、やがて光の玉となり姿を消した。その時のエネルギー量のせいか僅かばかりの爆発は起きたものの、結果的にボロボロになった地域に炎の追い打ちをかける事なく、エックスとXioは怪獣との戦いに勝利を収めたのである。

 

「良かったー……今回もエックスが勝ったわー」

「サヤちん、Xioも忘れちゃいかんよ……」

「あー緊張した……」

 

 そう呟きながら胸を撫で下ろす3人に、瀧は三葉の体を借りながら呟いた。ああ言う怪獣の対処法もありなんだな、と。返ってきたのは、緊張から解きほぐれたような言葉に秘められた――。

 

「ま、ほんとエックスが来てから一気に状況が変わったよなー」

「『糸守みたいな』事態にならずに済むんやしな……」

 

 ――まだ真相を聞く覚悟が出来ておらず、聞くべきではないと瀧が考えていた言葉であった。その後、すぐさま変なことを口から出してしまった事を謝ったのは、言うまでもないだろう……。

 

 

 

「……で、お姉ちゃんの件ですけど……」

「……!」


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