君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
悪の宇宙人が暗躍し、時には怪獣が暴れ、それを防衛組織やウルトラマンが止めると言う、それまでずっとテレビや映画の世界の出来事だとばかり感じていた宇宙に迷い込んだ、立花瀧と宮水三葉。しかしながら、そこで暮らす人々は日常に異質な存在がいる事に普通に馴染んでいると言うところ以外は、2人の記憶にある様子とほとんど違いが無かった。
そしてそれは――。
「四葉ー、おばあちゃーん、朝ご飯出来たよー」
――糸守の町を失い、遠く離れたこの大都会で暮らす三葉の家族――父親以外の2人、おばあちゃんと妹も同様だった。
「最近お姉ちゃん、料理のレパートリー増えたんやな」
「あれ、そうかな?」
味噌汁や焼き魚など、彼女が得意とする和食中心の朝ご飯を食べながら、四葉は最近の姉の料理はこういった和風のものばかりではなく、スクランブルエッグやベーコン巻きなど、洋風のものも交えるようになってきた、と褒めた。そう言えば、三葉自身の記憶の中でも、いまのように『大学生』だった頃は、何かを忘れていると言う思いばかりが募り、その寂しさから逃れたいという奇妙な行動の結果、洋風の朝食が作れなくなっていた。それに、そもそもこういった料理を作るとい事に自信を持てたのは、瀧くんの事を再び思い出した後だ。
大事な人がいれば、料理も更に上手くなる――。
「お姉ちゃ~ん、誰かに教えて貰ったんかな~?」
「え、いやいや……私だって秘密で特訓ぐらいするって!」
「秘密ね~、ふーん♪」
――ただ、その『大事な人』の存在はまだ明かすべきではない、と三葉は考えていた。この宇宙に元からいたかもしれない宮水三葉についてのある意味最悪な想定は勿論だが、そもそも三葉の記憶の中では、まだこの頃の自分は瀧くんの事を思い出せず、毎日塞ぎ込んでいたような状況なのだから。
それでもたまに勘が鋭くなる妹を宥めるかのように、おばあちゃんは優しげな笑みで告げた。それもまた『ムスビ』、宮水の心が様々な食と結びついた証だ、と。
「お姉ちゃん、どんな結びになったのやらね~」
「むー……四葉しつこい……」
ともかく、今なすべき事は疑惑の一件を語り合うだけではなく、早く互いの学校へ向かう事。幸い、この宇宙にいる四葉の通う中学校は三葉の記憶にある場所や名前と同じであったため、準備を済ませた後に一緒に登校する記憶通りの日常を過ごす事ができた。
「「いってきまーす!」」
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「宮水先輩、最近笑顔をよく見せますねー♪」
その日、大学での講義が終わった三葉は、後輩からそのような言葉を聞かされた。同郷のテッシーやサヤちんのような大親友とは違いこの大学で出会った同性の知り合いで、元の宇宙でもまだあまり瀧くんとは馴染みがない人物だ。
こうやってたまに自分自身に話しかけてくるところも含め、彼女もまた三葉に刻まれた過去の記憶とほとんど変わらなかったが――。
「えへへ……色々とね」
「良かった~!先輩やっぱり笑った方が可愛いですよ~♪」
――確かにあの頃の自分にも積極的に絡んでくれたとはいえ、こんなにテンションが高い後輩だとは気づかなかった。
それにしても、と三葉は心の中でこっそり考えた。目の前にいる後輩は、やはり笑顔の方が似合う、キープスマイルな先輩の方が可愛い、と何度も自分を褒めている。色々とテンションが昂りすぎている気もするが、それほどまでにここの世界の宮水三葉も笑顔を無くしていたのだろうか、と。
あの時、Xioの科学担当の大空大地さんは何もかもが未知数、元の世界の自分たちがどうなったのかも今の所不明だ、と告げていた。でももしその時の自分に会えたとしたら、この後輩の言葉をそのまま伝えてあげたい、と彼女は心の中で思った。
「……ですね……あれ、先輩?」
「あ、ごめんごめん……」
「もー先輩、本当にあの教授たち凄いイケメンなんですよー!しかもよく2人揃って食事するって言いますしー!」
そして、テンションを上げ過ぎるのも考えものだ、とこっそりと顔で訴えつつ心の中でもう一度突っ込んだ。
まだその時、三葉も後輩も、そして別の場所にいる瀧も全く意に介していなかったが、この大都会に奇妙な噂が流れていた。笑い声のような不思議な音が聞こえる、まるでブラックホールのようになんでも吸い込んでしまう不思議な穴が開いた、と。勿論当初は皆単なる噂だとしか考えていなかったのだが、次第に目撃者が続出、Xioもついに本格的な調査に乗り出さざるを得ない事態になっていたのである。
そしてここにも1人――。
「ふむふむ……ようし、こりゃ久々にオカルトの予感や!」
――穴に引き寄せられるかのようなやる気に満ちた男がいた……。