君と俺と私の名前 ~YOUR NAME is ULTRA〜 作:ドンフライ
突然現れた宇宙人に、家宝である大事な皿を奪われた――そのような通報を瀧の体を借りた三葉が送ってからXioの車が到着したのはほんの僅かな後であった。偶然にもパトロールを兼ねて通りがかった際に、この通信が入ったのである。
「どんな姿の宇宙人でしたか?」
「い、いきなり現れたもんじゃから……ただ、頭から変な角が生えとって……」
「頭に角……それで?」
被害者である老人に加え、彼を介抱していた司や高木、そしてXioの面々と様々な繋がりを持つ瀧(の体を借りた三葉)もいざという時に備えて一旦身柄をXioの車の中に保護される事となった。近くの駐車場に止めながら後ろを向いたのは、まだ三葉が会った事がなく名前も分からない男性隊員であった。クールそうな外見に似合わず、その言葉はこの老人を追い詰めた悪を絶対に許さない、と言う熱い怒りに満ちているようだった。
そして、その宇宙人はどこへ消えたのか、という話になった時、突然司が大変なことに気づいた、と言わんばかりの声を上げた。相手が何かしらの悪意を持つ別の星からの侵入者だとすれば、それを追いかけていった先生が危険な事態に巻き込まれている、と考えたのである。
「それはまずい……分かった、今すぐそちらへ……」
援護を要請し、先生を無事助け出すと約束した隊員が、他のメンバーにその旨を告げた直後だった。突然、この車を含めた一帯を地響きが何度も襲い、そして車の窓に人間の背丈をはるかに超える巨体が映し出されたのである。あれだ、あの怪物だ、と慌てふためく老人を瀧=三葉たちが何とか抑える中、その巨体は地球人でも非常に分かりやすい声で、自らがこの場所にやって来た理由を豪語した。
『おのれおのれ、こうなればこの姿で、地球の骨董品を根こそぎ奪ってやる!』
あまりにも地球人臭い内容であったが、それでも巨大な姿になった以上、この街に危害を及ぼす存在になったのは間違いない。この状況を見た隊員は、急いでこの場所を離れて安全な所へと避難する事を告げた。
「で、でも先生が……!」
「大丈夫だ、俺たちの仲間が向かっている。信じてくれ!」
「でもあんなデカブツに……うわっ!」
先生を心配してしまう気持ちも確かに分かるかもしれないが、その心を宿す体に危害が及んでしまっては元もこうとない。足音がこちらに迫ってくる以上、為すべき事はこの場所から逃げる事だ、と何とか隊員が司や高木、そして瀧=三葉の説得を続けながらいつでも発進できる準備を整えていたその時だった。突然老人が窓の外を指さしながら、誰かがこちらへ向かっている事を知らせたのである。その姿を見た途端、3人の高校生はすぐにあの人を乗せて車を発進するように要請した。
「言われなくても大丈夫だ!先生、急いで乗ってください!」
「分かった!」
あの巨大な宇宙人に追いかけられるような形になりながらも無事な姿を見せた日比野先生を乗せた直後、車は一気にスピードを上げてこの危険地帯を後にした。命が懸かっていた事態を切り抜けるべく、瀧と司は自分たちの間にいる老人の様子を常に気にかけ、日比野先生や高木も運転の邪魔をしないよう無言でシートベルトを握りしめ続けていた。
そして、そのまま車が現状での危険地帯を脱出できた時、内部にエクサ、イクサ、どちらにも取れる掛け声が響いた。別の宇宙――ウルトラマンが架空の存在であり続け、興味を惹く者でも無かった三葉も、今やその存在の出現に心踊らされるようになっていた。
「あれは……!」
「「ウルトラマンエックスだ!」」
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三葉も含め、その場にいる誰もが全く気付いていなかったのだが、実はこの宇宙人――遥か彼方の『スチール星』より地球人の大事な宝物を奪おうと来襲した強盗が巨大化するまでに追い詰められた要因は、他ならぬ日比野未来先生ことウルトラマンメビウスの働きあってのものだった。犯人の正体をすぐに見抜いた彼は生徒たちに老人を託した彼は、ウルトラ戦士としての力を駆使した走りでスチール星人にすぐに追いつき、ビルの物陰の中で乱戦を繰り広げたのである。新人戦士だった頃から幾たびもの過酷な試練を乗り越え、歴戦の勇者の称号を得る事となったメビウスの前にスチール星人が敵うわけもなく、破れかぶれで巨大化した、と言う訳だ。
だが、その巨大を活かして大暴れできるほどこの地球は甘くなかった。メビウスに代わってスチール星人の相手をする事になったのは、この宇宙の安定を守るヒーロー・ウルトラマンエックスと、彼と共に戦う勇者・大空大地だった。あの通報を受け、彼らもまたXioの一員として宇宙人に対してすぐ立ち向かえるよう準備を整えていたのである。
当然ながらスチール星人は往生際の悪さを見せつけるかのように、派手な装飾を備えた顔から炎を噴出させてエックスを焼きつくそうと狙い、それに怯んだ隙を見て格闘戦に突入しようとした。だがエックスと大地はすぐに態勢を有利な方向へと変え、逆にスチール星人の巨体を地に着かせてダメージを負わせた。それが効いたのか、じわじわと侵略者の動きは鈍り始め、エックスは勿論援護に駆けつけたXioの地上からの攻撃ももろに受けてしまった。そして、光線を食らうまでもなく、スチール星人はパンチ一発を受けた後巨大な体を維持できなくなり、そのまま姿を消してしまった。
あわよくば、このまま大都会の闇に紛れ込み、再起を図る事も出来たかもしれない。だが、既にこの侵略者の運は尽きていた。
Xioのエキスパートであるアスナ隊員たちが、この宇宙人を窃盗や傷害、器物破損などの現行犯で逮捕するべく待ち構えていたのだから。
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それから少し経ち、立花瀧やその友人たちは元の日常生活を取り戻していた。いつも通りに授業を受け、いつも通りに語り合い、そしていつも通りに日比野先生との楽しい時間を過ごす、と言う日々である。
ただ、1つだけ今までと大きく変わった事があった。それまで瀧に向けられていた好奇の視線が――。
『三葉……本当にすまん、凄い事に巻き込まれていたんだな……』
「いいって、瀧くん」
――立花瀧本人の預かり知らぬ期間の間に、尊敬の眼差しに変化していたのである。それも当然だろう、あの事件の後、『宮水三葉』の意識のまま友人と共に老人を助け、宇宙人によるひったくり事件の早期解決に貢献したと言う功績をいつの間にか達成していた瀧は、司、高木、そして日比野先生と共に表彰を受けたのだから。
「日比野先生、瀧くんの言っていた通りのヒーローやったな」
『そ、そうだったのか……?』
「うん、ちょっと天然さん過ぎるし、食い意地張りまくりやけど、でも困っている人を絶対に忘れず、悪い奴を思いっきりやっつける……」
なんだか正義感溢れる勇気ある男性、立花瀧くんみたいだ、と元の自分自身の体から感想を述べる三葉に対して、意外な返事が戻ってきた。今後2人の予定が空いている一番近い日に、もう一度デートをしよう、と。瀧と三葉と言う『カタワレ』同士が揃う事は、三葉自身にとっても掛け替えのない幸せな事、だからこそそれを事件解決の真の功労者である宮水三葉に表彰状代わりに捧げたい、と彼は考えたのである。
「瀧くん……」
『それにちょっとだけ、俺もウルトラマンさんたちに負けたくないなって……』
実害はなく、むしろ自分自身を良い方向へと導いてくれそうな嫉妬の心が瀧に芽生えた事を悟った三葉は、喜んでその言葉を受け取る事にした。大スペクタクルに巻き込まれるデートも良かったが、やはり2人で気ままにあちこちを巡るデートも楽しい、とワクワクしながら。
「……『表彰式』、楽しみに待ってるやよ」
『こっちも頑張るぜ』
そして彼女は、いつでも傍にいるヒーローの声を何度も頭の中で反芻しつつ、心地よい眠りに誘われていくのだった……。